ブログ | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 従業員の違約金契約は違法です。

    2017年08月04日

    今回は、労働トラブルについて解説します。
    退職しようとする従業員に対して会社が行なった、あることについての相談です。

    Q)会社に退職したい旨を伝えたところ、「研修費」を請求されました。思えば、入社時の社員研修で、「2年以上勤めなければ受講料を支払う」との書類にサインさせられていたことを思い出しました。当時、「嫌だな」、「何かおかしいのでは?」と思いながらサインしていたのですが、これは違法ではないのでしょうか? これから、どう対処すればいいのでしょうか?

    A)労働基準法では、使用者である会社は、労働者である従業員に対して違約金や罰金を支払わせる契約を結ぶことはできないことになっています。仮に、従業員に違約金を課している会社があれば、労働基準法違反に問われる可能性があります。

     

    近年、労使間における労働トラブルが増えています。

    厚生労働省が公表している統計データ「平成28年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、各都道府県にある労働局や労働基準監督署、総合労働相談コーナーに寄せられた労働相談件数は、113万0741件で、9年連続100万件を突破しています。

    相談の主な内容は、次の通りです。
    ・いじめや嫌がらせ/70917件
    ・自己都合退職/40364件
    ・解雇/36760件
    ・労働条件の引き下げ/27723件
    ・退職勧奨/21901件
    ・雇止め/12472件
    ・出向や配置転換/9244件
    ・その他の労働条件/39096件 など

    こうした労働問題で適用される法律のひとつに「労働基準法」があります。

    労働基準法が施行されたのは、1947(昭和22)年。
    これは、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図ることを目的として制定された法律です。
    条文では、会社が守らなければいけない最低限の労働条件などについて定めています。

    今回のケースでは、次の条文が該当します。

    「労働基準法」
    第16条(賠償予定の禁止)
    使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

     

    これに違反した場合、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。

    今回の相談者のように、入社時に受ける研修の受講費に関する違約金などの他にも、過去には、従業員の無断欠勤や急な欠勤、仕事上のミスに対する罰金、営業目的未達成に対する罰金などの事例があります。

    ただし、注意すべきことがあります。
    それは、条文では賠償額を予定する契約は禁止していますが、従業員に対して会社が損害賠償請求することを禁止しているわけではないという点です。

    つまり、たとえば従業員のミスによって会社に損害が生じた場合は、会社はその賠償を従業員に求めることができるということになります。

    また、「ノーワーク・ノーペイ」の原則というものがあります。
    これは、労働者による労務の提供がない日や時間については、会社は賃金を支払う義務はないというものです。
    (ただし、労働者が労務を提供できなかった理由について、労働者の責任もしくは、労働者と使用者どちらの責任でもない、という条件が必要になります)

    この場合、会社は就業規則に、「遅刻や無断欠勤、仕事のミスなどの場合は減給する」と記載することが必要です。

    また、違約金や罰金を給料から天引きするケースがありますが、この場合は、労働基準法第24条の「賃金の支払」に問われる可能性があります。

    第24条では、賃金の支払いについて次の「5つの原則」を定めています。

    ・通貨払いの原則
    ・直接払いの原則
    ・全額払いの原則
    ・毎月1回以上払いの原則
    ・一定期日払いの原則

    このことからも、会社は給料やアルバイト代は天引きせずに、労働者に対し、直接、全額を支払わなければいけないのです。

    今回のようなケースでは、労働基準法違反であることを会社側に訴えることはできると思いますが、具体的な状況がわからないため、まずは一度、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

  • 公道を駐車場の代わりに使うと逮捕されます

    2017年07月03日

    公道を駐車場代わりに使っていた男が逮捕されるという、まったくけしからん事件が起きたので解説します。

    「駐車違反17回でも懲りず…市道を車庫代わりに使った疑い 堺市の21歳男逮捕 大阪府警」(2017年6月28日 産経新聞)

    大阪府警南堺署などは、自宅近くの市道を車庫代わりにして繰り返し駐車をしていた堺市の建設作業員の男(21)を逮捕しました。
    容疑は、車庫法違反です。

    同署によると、男は6月12日から24日にかけて、堺市南区の市道で十数回、自身が所有する軽乗用車を駐車し、車庫代わりに使用。
    現場の市道は男が住む府営住宅の南東約100メートルにあり、男は過去に現場付近で駐車違反を17回も繰り返していたようです。

    男は他の違反分も含め、総額約50万円の反則金を滞納しており、「駐車場を借りる金がなかった」と容疑を認めているということです。

     

    駐車違反に関する法律には「車庫法」と「道路交通法」があります。
    ここでは、それぞれについて見ていきます。

    【車庫法とは?】
    「車庫法」は、正式名称を「自動車の保管場所の確保等に関する法律」といい、1962(昭和37)年に施行されています。

    その目的は、次のように規定されています。

    ・自動車の保有者などに自動車の保管場所を確保し、道路を自動車の保管場所として使用しないよう義務づける。(第1条)
    ・自動車の駐車に関する規制を強化することにより、道路使用の適正化、道路における危険の防止及び道路交通の円滑化を図る。(第1条)

    車庫法では、車庫の届出(車庫証明)が義務づけられており、車庫の変更にも届出が必要となります。
    また、車両保管場所標章を貼るなどの規定がなされています。

    道路での駐車禁止に関する条文は次のものです。

    第11条(保管場所としての道路の使用の禁止等)
    1.何人も、道路上の場所を自動車の保管場所として使用してはならない。
    2.何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。
    一 自動車が道路上の同一の場所に引き続き12時間以上駐車することとなるような行為
    二 自動車が夜間(日没時から日出時までの時間をいう。)に道路上の同一の場所に引き続き8時間以上駐車することとなるような行為

     

    第1項に違反した場合は、3ヵ月以下の懲役又は20万円以下の罰金、第2項に違反した場合は、20万円以下の罰金に処されます。
    違反点数は、それぞれ3点と2点になっています。

    車庫法では、道路を駐車場の代わりに使ったり、駐車禁止の場所でなくても昼間は同じ場所に12時間以上、夜間は8時間以上駐車していると逮捕される可能性があるわけです。

     

    【道路交通法の駐車禁止規定】
    次に、「道路交通法」について見てみます。
    道路交通法の目的は次のように規定されています。

    第1条(目的)
    この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。

     

    駐車禁止の場所については次のようなものが規定されています。(第45条)

    ・道路標識や標示により駐車が禁止されている道路の部分
    ・人の乗降、貨物の積卸し、駐車又は自動車の格納若しくは修理のため道路外に設けられた施設又は場所の道路に接する自動車用の出入口から3メートル以内の部分
    ・道路工事が行なわれている場合における当該工事区域の側端から5メートル以内の部分
    ・消防用機械器具の置場若しくは消防用防火水槽の側端又はこれらの道路に接する出入口から5メートル以内の部分
    ・消火栓、指定消防水利の標識が設けられている位置又は消防用防火水槽の吸水口若しくは吸管投入孔から5メートル以内の部分
    ・火災報知機から1メートル以内の部分

    違反点数などは次のようになっています。

    ・駐車禁止場所に駐停車した場合/違反1点・反則金10000円(※大型と中型の場合は12000円、バイク・原付などは6000円)
    ・駐停車禁止場所に駐停車した場合/違反2点・反則金12000円(※大型と中型の場合は15000円、バイク・原付などは7000円)
    ・駐車禁止場所に放置駐車した場合/違反2点・反則金15000円(※大型と中型の場合は21000円、バイク・原付などは9000円)
    ・駐停車禁止場所に放置駐車した場合/違反3点・反則金18000円(※大型と中型の場合は25000円、バイク・原付などは10000円)

     

    【車庫法違反と駐車違反の違いとは?】
    交通違反(違反点数3点以下)をすると、その場で警察官から「交通反則告知書」と「反則金仮納付書」を交付されます。
    この交通反則告知書が、いわゆる「青キップ」と呼ばれるものです。

    青キップを切られると、行政罰として反則金を支払わなければいけません。

    それに対して、車庫法違反の場合は「赤キップ」を切られます。
    その場合、刑事手続きにより処分が決定します。

    赤キップを切られれば「略式起訴」されて「前科」がついてしまうことになります。
    当然、罰金も支払わなければいけません。

    また、今回の事件の容疑者のように駐車違反など交通違反を繰り返し、警察からの通告を無視し続け、出頭も罰金の支払いもしない場合は逮捕される可能性があります。

    詳しい解説はこちら⇒
    「軽い交通違反でも逮捕されることがあります。」
    https://taniharamakoto.com/archives/2235/

    「駐車違反をすると、クルマが消えます。」
    https://taniharamakoto.com/archives/1338/

    とにかく、警察から被疑者として出頭要請された場合は素直に出頭しなければいけないこと、公道を駐車場の代わりに使ってはいけないこと、そして駐車違反では道路交通法違反よりも車庫法違反のほうが罪は重くなることは覚えておいてほしいと思います。

  • 幼稚園児のプール事故死で幼稚園側に損害賠償命令

    2017年04月17日

    今回は、幼稚園で起きた幼児の事故死における損害賠償訴訟について解説します。
    「園児水死、幼稚園側に6300万円支払い命令 横浜地裁」(2017年4月13日 朝日新聞デジタル)

    神奈川県大和市の私立大和幼稚園のプールで園児が水死した事故を巡って争われた損害賠償訴訟の判決が横浜地裁でありました。

    これまでの経緯と判決内容を以下にまとめます。

    ・事故があったのは2011年7月、幼稚園でのプールの時間。

    ・死亡した男児(当時3歳)は、他の園児約30人と一緒に水深約20センチのプールで遊んでいたところ、担任教諭がビート板などの遊具の片づけ作業で目を離していた間にプール内でうつぶせになっているのが発見された。

    ・2014年3月、元担任教諭には業務上過失致死傷罪で罰金50万円の有罪判決。2015年3月、元園長には無罪判決が言い渡された。

    ・両親が、幼稚園を運営する学校法人西山学園と元園長(69)、さらに元担任(26)らに計約7400万円の損害賠償を求めて提訴。

    ・判決では、「事故は担任教諭の不注意に起因するところが大きい」として、元担任が園児を監視する義務(安全配慮義務)を怠ったと判断。
    また、学校法人の使用者責任と元園長の代理監督者責任も認め、計約6300万円の賠償を命じた。

    ・両親側は、「担任以外にも、園児を常時監視する職員を配置する義務があった」などと元園長の過失も主張していたが、判決では「担任だけでも監視可能だった」として、元園長については元担任の監督者としての連帯責任を認めるにとどめ、個人としての不法行為責任は認めなかった。
    通常、学校および保育所の管理下における子供の事故、災害では、学校などが加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    「学校や保育所の管理下」とは、授業中や保育中、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中などです。

    しかし、この災害共済給付金だけでは損害賠償金額をすべて賄えないことが多いため、さらに被害者や親は学校に損害賠償請求することができます。

    和解に至らず裁判になった場合、民事事件としては、担任教諭に「注意義務違反」や「安全配慮義務違反」があったかどうかが争点になってきます。

    担任教諭には、次のことなどに配慮して、適切に、かつ未然に事故を防ぐ注意義務が課されます。

    ・授業中(保育中)や部活動自体に内在する危険の程度
    ・生徒(幼児)の年齢・体格・健康状態
    ・生徒(幼児)の技能レベル
    ・環境(特に屋外でのスポーツ)

    担任教諭が、これらの注意義務に違反した場合、民間の学校・保育所であれば不法行為に基づく損害賠償責任が教諭個人に発生します。

    「民法」
    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
    学校や保育所には、使用者として使用者責任に基づく損害賠償責任が発生します。

    「民法」
    第715条(使用者等の責任)
    1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

    2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

    今回は、元園長の独自の不法行為責任は否定したように読めますので、この第2項の規定によって、責任を認めたものである可能性があります。

    判決文を読んでいないので、このあたりは正確ではありません。

    なお、前述したように生徒の死亡や重傷事故では、学校長や担任教諭は刑事事件に問われる可能性があります。

    「刑法」
    第211条(業務上過失致死傷等)
    1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
    不幸な事故が繰り返されないように、学校関係者にはしっかりと法律を認識して、学校運営をしてほしいと思います。

    また、示談交渉や訴訟での法的手続きは非常に難しいものですから、ケガをした本人や両親などで損害賠償請求を検討しているのであれば、まずは一度、弁護士に相談することをお勧めします。

    ご相談はこちらから⇒「弁護士による学校事故SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • 詐害行為で訴えられた時の救済策(弁護士解説)

    2016年08月12日

    突然、詐害行為取消訴訟の訴状が届く時があります。

    「詐害行為」とは、「さがいこうい」と読みます。

    典型的には、自分の財産より借金の方が多くなってしまった状態(債務超過)で、唯一の財産である自宅を妻に贈与してしまうような場合です。

    このような行為は、「詐害行為」として、贈与を取り消されてしまうのです。取り消される、ということは、自宅を元に戻さなければならない、ということです。

    この詐害行為取消権は、民法に規定されています。

    【民法】
    第424条  債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
    2  前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

    第425条  前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。

    第426条  第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

    以上です。

    要件としては、
    ・債権者を害する客観的要件
    ・債務者が債権者を害することを知っていたこと(主観的要件)
    ・受益者または転得者が債権者を害することを知っていたこと
    ・財産権を目的とする法律行為であること
    ・詐害行為取消権行使が、債権者が取消しの原因を知った時から2年あるいは行為の時から20年を経過していないこと

    「債権者を害する」というのは、自分の資産を減少する行為をして債権者が十分の弁済を受けることができなくすることです。

    詐害行為で訴えられた時は、上記の要件を欠いている点を見つけ、主張立証してゆくことが必要となります。

    つまり、

    ・「本件は、債権者を害していない」
    ・「行為の当時、債務者は債権者を害する認識がなかった」
    ・「受益者または転得者は利益または転得した時点で債権者を害する認識がなかった」
    ・「本件は、財産を目的とする行為ではない」
    ・「債権者は、本件行為を知ってから2年以上経過してから取消権を行使した」

    などです。

    詐害行為取消権を法的に理解しようとすると、結構難しいです。

    なお、民法改正があり、この詐害行為取消権についても改正されています。

    経過措置により、次のとおりとなっています。

    「施行日前に旧法第四百二十四条第一項に規定する債務者が債権者を害することを知ってした法律行為がされた場合におけるその行為に係る詐害行為取消権については、なお従前の例による。」

    つまり、2020年4月1日より前の詐害行為については旧民法が適用され、2020年4月1日以降の詐害行為については、改正民法が適用される、ということです。

    改正民法を列挙します。

    (詐害行為取消請求)
    第424条  
    1 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
    2  前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
    3  債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
    4  債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

    (相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
    第424条の2
      債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
    一  その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
    二  債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
    三  受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

    (特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
    第424条の3  債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
    一  その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
    二  その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
    2 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
    一  その行為が、債務者が支払不能になる前三十日以内に行われたものであること。
    二  その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

    (過大な代物弁済等の特則)
    第424条の4  債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第四百二十四条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。

    (転得者に対する詐害行為取消請求)
    第424条の5  債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
    一  その転得者が受益者から転得した者である場合その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
    二  その転得者が他の転得者から転得した者である場合その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

    (財産の返還又は価額の償還の請求)
    第424条の6 
    1 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
    2 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。

    (被告及び訴訟告知)
    第424条の7
    1  詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
    一  受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え受益者
    二  転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴えその詐害行為取消請求の相手方である転得者
    2  債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

    (詐害行為の取消しの範囲)
    第424条の8
    1  債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
    2 債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

    (債権者への支払又は引渡し)
    第424条の9
    1  債権者は、第四百二十四条の六第一項前段又は第二項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
    2  債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

    (認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
    第425条  詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

    (債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)
    第425条の2  債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。

    (受益者の債権の回復)
    第425条の3  債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。

    (詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
    第425条の4  債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
    一  第四百二十五条の二に規定する行為が取り消された場合その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
    二  前条に規定する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。) その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

    第426  詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは、提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。

    旧民法時代のものですが、以下に、詐害行為を理解するのに必須の最高裁判例を紹介します。

    (大審院明治39年2月5日判決)「相当の価格による売却であっても債務者の財産が消費しやすい金銭に変わるから詐害行為となる」

    (大審院大正13年4月25日判決)「債務者がある債権者に対する債務を弁済するため相当の価格で不動産を売却したときは、特に他の債権者を害する意思がない限り、これをもって詐害行為ということはできない」

    (東京高裁昭和31年5月31日判決)(要旨)Yは未成年であるから、詐害行為についての善意悪意は親権者であるAによって検討すべきであるが、Aは別居後Sの資産状態を知らないので、善意というべきである。

    (最高裁昭和32年11月1日判決)
    「債務者が或債権者のために根抵当権を設定するときは、当該債権者は、担保の目的物につき他の債権者に優先して、被担保債権の弁済を受け得られることになるので、それだけ他の債権者の共同担保は減少する。その結果債務者の残余の財産では、他の債権者に対し十分な弁済を為し得ないことになるときは、他の債権者は従前より不利益な地位に立つこととなり即ちその利益を害せられることになるので、債務者がこれを知りながら敢えて根抵当権を設定した場合は、他の債権者は民法四二四条の取消権を有するものと解するを相当とする。」

    (最高裁昭和33年9月26日判決)「債務超過の状態にある債務者が一債権者に対してなした弁済は、それが債権者から強く要求せられた結果、当然弁済すべき債務をやむなく弁済したものであるだけでは、これを詐害行為と解することはできない」
    (最高裁昭和33年9月26日判決)「債権者が、弁済金の到来した債務の弁済を求めることは、債権者の当然の権利行使であって、他に債権者あるの故でその権利行使を阻害されるいわれはない。また債務者も債務の本旨に従い履行を為すべき義務を負うものであるから、他に債権者あるの故で、弁済を拒絶することのできないのも、いうをまたないところである。そして、債権者平等分配の原則は、破産宣告をまって初めて生ずるものであるから、債務超過の状況にあって一債権者に弁済することが他の債権者の共同担保を減少する場合においても、右弁済は、原則として詐害行為とならず、唯、債務者が一債権者と通謀し、他の債権者を害する意思をもって弁済したような場合のみ詐害行為となるにすぎない」

    (最高裁昭和39年11月17日判決)「債務超過の債務者が、特にある債権者と通謀して右債権者のみに優先的に債権の満足を得させる意図で自己の有する重要な財産を右債権者に売却して、右売買代金債権と右債権者の債権とを相殺する旨の約定をした場合には、たとえ右売買価格が適正価格であるとしても、右売却行為は詐害行為になる」

    (最高裁昭和41年5月27日判決)
    「債務者が既存の抵当権付債務の弁済をするために、右被担保債権額以下の実価を有する抵当物件たる所有不動産を相当な価格で売却し、その代金を右債務の支払に充てて当該抵当権の消滅をはかる場合にあつては、その結果右債務者の無資力を招いたとしても、右不動産売却行為は、一般債権者の共同担保を減少することにはならないから、民法四二四条所定の詐害行為にあたらないと解するのを相当とする。」

    (最高裁昭和42年6月29日判決)
    「本件債権譲渡が相当な対価をもつてなされたものではないのみならず、むしろ、訴外Dにおいて子供の養育費や他の借財の支払に必要とするとの理由のもとに、右譲渡債権については、上告人から右訴外人に一〇〇万円を交付し、右同額は右訴外人の上告人に対して負担する原判示債務の一部に充当しない約であつた趣旨の認定判断をしているのであり、したがつて、本件債権譲渡を債務の本旨に従つてなされた弁済と同視しえないことはいうをまたないところである。そして、原判決によれば、訴外Dは、上告人および被上告人らその他の債権者に対して多額の債務を負担しながら、資産としては本件債権のほかに見るべきものがなく、右債権が総債権者のための唯一の共同担保になつていたところ、右訴外人は他の債権者を害することを知りながら右債権を上告人に譲渡したものであり、しかも、上告人において本件債権譲渡が債権者を害することを知らなかつたことを認めえないというのである。しからば、本件債権譲渡は詐害行為として取消を免れないものというべく、これと同趣旨に出た原判決は相当」

    (最高裁昭和42年11月9日判決)
    「事実関係に徴すれば、前記各譲渡担保による所有権移転行為は、当時A夫妻は他に資産を有していなかつたから、債権者の一般担保を減少せしめる行為であるけれども、前記のような原審の確定した事実の限度では、他に資力のない債務者が、生計費及び子女の教育費にあてるため、その所有の家財衣料等を売却処分し或は新たに金借のためにれを担保に供する等生活を営むためになした財産処分行為は、たとい共同担保が減少したとしても、その売買価格が不当に廉価であつたり、供与した担保物の価格が借入額を超過したり、または担保供与による借財が生活を営む以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のない限り、詐害行為は成立しないと解するのが相当であり、右と同旨の見解に立つて本件詐害行為の成立を否定した原判決の判断は、正当として是認できる。」

    (最高裁昭和44年12月19日判決)
    「右事実関係に徴すれば、本件建物その他の資産を被上告会社に対して譲渡担保に供した行為は、被上告会社に対する牛乳類の買掛代金二四四万円の支払遅滞を生じた訴外有限会社上田乳業食品およびその代表取締役Aが、被上告会社からの取引の打切りや、本件建物の上の根抵当権の実行ないし代物弁済予約の完結を免れて、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続して更生の道を見出すために、示談の結果、支払の猶予を得た既存の債務および将来の取引によつて生ずべき債務の担保手段として、やむなくしたところであり、当時の諸般の事情のもとにおいては、前記の目的のための担保提供行為として合理的な限度を超えたものでもなく、かつ、かかる担保提供行為をしてでも被上告会社との間の取引の打切りを避け営業の継続をはかること以外には、右訴外会社の更生策として適切な方策は存しなかつたものであるとするに難くない。債務者の右のような行為は、それによつて債権者の一般担保を減少せしめる結果を生ずるにしても、詐害行為にはあたらないとして、これに対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当であり、これと同旨の見解に立つて本件につき詐害行為の成立を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の認定しない事実関係および叙上と異なる見解を前提として原判決の違法をいうものであり、採用することができない。」

    (最高裁昭和45年11月19日判決)
    「右代物弁済は、被上告会社の代表者らが訴外会社に倒産の気配があることを察知し、他に債権者のあることを知つていたが、自己の債権の回収を図るべく、訴外会社の代表者らに対し、債務の支払かこれに代わる商品の交付を要求し、訴外会社の代表者らは、これを拒絶していたものの、被上告会社から引き続いて強硬な要求を受け午前三時頃に及んだため、ついに疲れあきらめて、本件物件を収納してある倉庫の錠を開け、被上告会社において右物件を運び出し持ち去るに任せたというのである。原審の右認定は、原判決挙示の証拠関係(ただし、原判決の理由中に第九号証の二、第一〇、一一号証とあるのは、それぞれ甲第一号証の九の二、同号証の一〇、一一の誤記と認める。)に照らして首肯するに足りる。そうとすれば、被上告会社がその債権回収のためとつた方法は、常軌を逸したものというべきであるが、原審が、右認定事実に基づいて、訴外会社としては、右のとおり被上告会社に本件物件を譲渡すれば他の債権者を害するであろうことを認識していたといえるが、これを害することの積極的な意思のもとになしたものとは認めがたい旨説示し、右代物弁済行為とならないとした判断は、正当として是認することができる。」

    (最高裁昭和46年1月26日)
    「本件建物を譲渡した当時右建物にはその価額をこえる金額の債権を現実の被担保債権とする根抵当権が設定されていたから、その当時、右建物には日原治子の一般債権者の共同担保となるべき余地がなかつたものであり、したがつて、日原治子の右建物の譲渡行為は詐害行為にはならない、とした原審の判断は、正当として是認することができる。」

    (最高裁昭和47年10月26日判決)
    「訴外沢正久は、被上告人から新たに営業資金を借り受けるに際し、被上告人の経営する田中酒造株式会社から引き続き商品の供給を受けて営業を継続することを目的として、被上告人に対する全債務を担保するため、被上告人との間に本件各不動産につき売買予約を締結し、借受金の一部をもつて第三者に対する抵当債務を弁済して抵当権設定登記の抹消を受けたのち、右売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、沢正久は、その後約四年間営業を継続したのち、被上告人との間で、右担保の目的である本件不動産の所有権を債務全額の弁済に代え被上告人に譲渡する旨の合意をし、売買名義による右仮登記に基づく所有権移転登記を経由したことなど原審の確定した事実関係のもとにおいては、右売買予約および代物弁済契約はいずれも債権者を害する行為にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

    (最高裁昭和49年9月20日判決)
    「相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。」

    (最高裁昭和49年12月12日判決)
    「民法四二四条所定の詐害行為の受益者又は転得者の善意、悪意は、その者の認識したところによって決すべきであって、その前者の善意、悪意を承継するものではないと解すべきであり、また、受益者又は転得者から転得した者が悪意であるときは、たとえその前者が悪意であっても同条に基づく債権者の追及を免れることができないというべきである。」

    (最高裁昭和52年7月12日判決)(要旨)倒産会社の支店長が、暴行を受けるなど債権者から強く要求された結果やむなく弁済したと認められる判事の事情のもとにおいては、弁済が債務者において債権者と通謀し他の債権者を害する意思でされた詐害行為にあたるとはいえない。

    (最高裁昭和55年1月24日判決)
    「債務者の行為が詐害行為として債権者による取消の対象となるためには、その行為が右債権者の債権の発生後にされたものであることを必要とするから、詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされたものである場合には、たといその登記が右債権成立後にされたときであつても、債権者において取消権を行使するに由はない(大審院大正六年(オ)第五三八号同年一〇月三〇日判決・民録二三輯一六二四頁参照)。」

    (最高裁昭和58年12月19日判決)「離婚に伴い財産分与をした者が、すでに債務超過の状態にあったとしても、その分与が民法768条3項(財産分与)の趣旨に反して過大でない限り、詐害行為として取消しの対象とはならない」

    (最高裁昭和63年7月19日)
    「抵当権の設定されている不動産について、当該抵当権者以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであって、当該詐害行為の後に弁済等によって右抵当権設定登記等が抹消されたようなときは、その取消は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格による賠償を請求する方法によるべきである。」

    (最高裁平成4年2月27日判決)
    「共同抵当の目的とされた数個の不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行為に該当する場合において、当該詐害行為の後に弁済によつて右抵当権が消滅したときは、売買の目的とされた不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価格による賠償を命ずるべきであり、一部の不動産自体の回復を認めるべきものではない(最高裁昭和三〇年(オ)第二六〇号同三六年七月一九日大法廷判決・民集一五巻七号一八七五頁、同六一年(オ)第四九五号同六三年七月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五四号三六三頁参照)。
    そして、この場合において、詐害行為の目的不動産の価額から控除すべき右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額は、民法三九二条の趣旨に照らし、共同抵当の目的とされた各不動産の価額に応じて抵当権の被担保債権額を案分した額(以下「割り付け額」という。)によると解するのが相当である。」

    (最高裁平成元年4月13日判決)(要旨)株式会社甲は取引先の倒産等により経営状態が悪化し、商品の仕入先である乙株式会社から資金援助を受け、同時に乙は、その従業員を甲に派遣して債権管理をし、甲に対し債権を有する者が多数存することおよび甲には後記在庫商品と売掛代金債権のほかにみるべき資産がないことを知りながら、甲をして甲の乙に対する債務の弁済に代えて、在庫商品を仕入価格で乙に譲渡させ、かつ201口の売掛代金債権を乙に譲渡させ、預かっていた代表者印を使用して債権譲渡通知をする等、判示の事情のあるときは、右債権譲渡は、甲・乙が通謀してした詐害行為に当たる。

    (最高裁平成10年6月12日判決)
    「債務者が自己の第三者に対する債権を譲渡した場合において、債務者がこれについてした確定日付のある債権譲渡の通知は、詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。けだし、詐害行為取消権の対象となるのは、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものであるところ、債権の譲渡行為とこれについての譲渡通知とはもとより別個の行為であって、後者は単にその時から初めて債権の移転を債務者その他の第三者に対抗し得る効果を生じさせるにすぎず、譲渡通知の時に右債権移転行為がされたこととなったり、債権移転の効果が生じたりするわけではなく、債権譲渡行為自体が詐害行為を構成しない場合には、これについてされた譲渡通知のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることは相当とはいい難いからである」

    (最高裁平成11年6月11日)共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。
    (最高裁平成12年3月9日)「離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は詐害行為とならないが、当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分は慰謝料支払いの名を借りた金銭の贈与ないし対価を欠いた新たな債務負担行為であるから、詐害行為の対象となりうる」

    (最高裁平成24年10月12日)「株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」
    以上です。

    よく判例を読み込んで、自分に該当する部分がないかどうか、検討してみましょう。

    といっても、実際には、弁護士に相談しないと対応は難しいでしょう。

    さらに、詐害行為は、犯罪(強制執行妨害罪)にも該当する可能性があります。

    強制執行妨害目的財産損壊罪(刑法96条の2)
    「強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第3号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。

    1 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為
    2 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為
    3 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為

    ご相談は、こちらから。
    http://www.sai-sei.biz/consult/

  • 債務整理における司法書士の業務範囲についての最高裁判決

    2016年06月29日

    借金をした人の債務整理の際に、司法書士が弁護士に代わって取扱いができる金額の上限を争点とした訴訟について、最高裁判決が出たので解説します。

    「債務整理、司法書士の業務可能範囲は個別債権額140万円以下 最高裁が初判断」(2016年6月27日 産経新聞)

    弁護士と司法書士の債務整理業務に関する境界について争われた訴訟で、最高裁第1小法廷は、司法書士が弁護士の代わりに担当できる金額の範囲を「個別の債権額が140万円以下」とする初判断を示しました。

    まずは、事の経緯を整理してみます。

    ・和歌山県の多重債務者らが、依頼した司法書士が業務可能な範囲を超えて違法な非弁行為を行ったとして報酬の返還や損害賠償を請求。
    司法書士法が定める上限「140万円を超えない額」の解釈が争点となった。

    ・1審の和歌山地裁では、司法書士の業務範囲を広く見て、司法書士側の主張を採用。
    司法書士側の主張は、債務の圧縮や弁済計画の変更などで、個々の業者ごとに依頼者が実際に受ける利益が140万円以下なら、債権額や請求額の総額が140万円超でも司法書士が担当可能である、というもの。

    ・これに対し多重債務者側は、債務整理の対象とされた全ての債権の総額又は債務者ごとにみた債権の総額が140万円を超える場合には、司法書士は担当できないと主張。
    2審は司法書士側敗訴。
    そこで、今回の最高裁判決では次のように指摘しています。

    ・司法書士法は、裁判外の紛争代理権を司法書士に認めているが、その範囲は、簡易裁判所の民事訴訟代理権に付随するものとして認められたものである。

    ・そうだとすると、裁判外で代理できる紛争は、簡易裁判所の民事訴訟代理権の範囲内と考えるべきである。

    ・複数の債権の債務整理は、最終的には個別の債権の裁判が起きる可能性があるから、代理できる範囲は債権総額ではなく、個別の債権額で判断すべきである。

    ・簡易裁判所の民事訴訟代理権は、個別の債権額が140万を超えるかどうかで判断される。

    ・司法書士が代理できる範囲は、客観的かつ明確な基準で判断されるべきである。

    以上より、司法書士が裁判外で代理できる範囲は、個別の債権額が140万円を超えない場合である。

    この「上限140万円」というのは、そもそもは2002(平成14)年の司法書士法の改正により規定されました。
    司法書士も簡易裁判所での民事訴訟や裁判外の債務整理などについては140万円以下であれば代理人として担当することが可能になったわけです。

    その後、2006(平成18)年に最高裁が「グレーゾーン金利」を違法と判断します。
    すると、借金をした人がこのグレーゾーン金利で多く支払ったお金、いわゆる「過払い金」を取り戻すための請求訴訟を起こし、訴訟件数が急増しました。
    そのため、弁護士と司法書士はそれぞれの解釈によって、ここまで業務を担当してきたわけです。

    これまで、今回の最高裁判決とは異なる解釈で業務を行ってきた司法書士にとっては厳しい判決ですね。

    現在、受任している案件も、個別の債権額が140万円を超える債務については、司法書士は業務を行うことができなくなるわけですから、解約しなければならないので、その処理も大変です。

    なお、債務整理を専門家に依頼しようと考えている人は、それぞれの貸金業者からの請求額が140万円を超えるような場合には、司法書士には依頼できないので、ご注意ください。

    弁護士へのご相談はこちらからどうぞ⇒
    http://www.bengoshi-sos.com/soudan

  • 認知症ドライバーの交通事故の責任は誰に?高齢者自動車運転問題を考える

    2016年06月28日

    近年、高齢者ドライバーによる交通事故や危険運転が急増しています。
    家族としては当然、心配になります。

    そこで今回は、高齢の父親の自動車運転を止めさせたいという男性からの質問にお答えします。

    Q)今年、父が82歳になりました。もともと頑固オヤジな人でしたが、年を取るにつれ、さらに拍車がかかったような気がします。ところで最近、ニュースなどで高速道路の逆走や、高齢者の起こした交通事故を見ると心配です。先日も、父の隣に乗ったのですが、ヒヤっとすることがありました。父に運転を止めさせるようにできないでしょうか? 法律の話をすれば納得するかもしれないので、高齢者に関する法律や規制などあれば教えてください。

    A)2014年6月、改正道路交通法が施行されています。これは、運転に支障を及ぼす可能性のある病気の人に病状の申告を義務化したもので、てんかんや認知症、アルコール中毒などの場合、運転免許の停止や取り消しができるようになりました。しかし、あくまでも病気に関する申告であり、年齢の制限などはありません。また、高齢者の自動車免許を禁止・制限する法律もありません。

    高速道路での逆走の70%が高齢者ドライバー!?

    東日本・中日本・西日本など高速道路6社の調査によると、2011(平成23)年~2014(平成26)年の高速道路会社管内における交通事故または車両を確保した件数は739件もあったということです。

    実際には、確認されなかったケースも含めれば、さらに件数は多いということでしょう。

    また、特徴としては以下のことが確認されています。

    ・内訳は、平成23年が203件、平成24年が202件、平成25年が136件、平成26年が198件
    ・約半数がインターチェンジやジャンクションで逆走を開始
    ・65歳以上の高齢者によるものが約70%
    ・認知症の疑いのある人は約10%
    ・精神障害や飲酒などの状態を含めた割合は15%
    ・突出して発生件数が多い地域、箇所は認められない

    高速道路各社では、警察や学識経験者とも連携を取りながら逆走原因の分析や対策強化を行っているようですが、数字からは、まだそれほど大きな効果は出ていないようです。

    高齢者の交通事故による死者数は増えている!?

    次に、高齢者の交通事故に関する統計データを見てみます。

    警察庁が公表している「平成26年度年中の交通事故死者数について」の統計によると、平成26年度中の65歳以上の高齢者の死者数は2193人で、全体に占めるは53.3%。
    統計がある昭和42(1967)年以降で最も高くなっています。

    最新のデータとしては、2015年11月に公表された「交通事故統計(平成27年10月末)」(警察庁)によると、高齢者の死者数は1752人で、全体に占めるは割合53.2%になっています。

    全体に占める割合には変化が見られず、相変わらず死者数の半数以上が高齢者となっています

    内訳を見ていくと、自動車乗車中が516人で約30%、歩行中が796人で約45%、自転車乗車中が306人で約18%となっています。

    また、警視庁がまとめた「高齢運転者が関与した交通事故発生状況(平成26年中)」によると、東京都内における交通事故発生件数は3万7184件で、そのうち65歳以上の高齢者の割合は20.4%というデータが出ています。

    なお、高齢者の事故では高速道路での逆走のほか、ブレーキとアクセルの踏み間違い、自動車での鉄道の線路走行なども起きています。

    法律では危険運転をどう処罰しているのか?

    では、法律では危険運転をどのように処罰しているのでしょうか?

    前述したように、2014年6月に道路交通法が改正されています。
    これは、運転に支障を及ぼす可能性のある病気の人に病状の申告を義務化したもので、法改正から1年で運転免許の取り消し・停止などの行政処分を受けたケースは7711件にものぼっています。

    その内訳は、「てんかん」が最多で2313件、次いで「認知症」の1165件、「統合失調症」の1006件、「再発性の失神」の926件の順となっています。

    改正道路交通法では、具体的な病気として、てんかん、統合失調症、睡眠障害、認知症、アルコール・薬物中毒などを規定しています。

    虚偽申告した場合は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
    ここまで見てきたように、確かに高齢者ドライバーの運転には高いリスクがともないます。
    しかし、日本の場合、ご存知のように自動車免許は18歳から取得可能ですが、年齢の上限はありません。

    ただし、70歳以上のドライバーは高齢者講習と教習を受ける必要があります。
    これに通過しないと、免許を返納しなければいけません。

    また通常、自動車免許は5年ごとの更新が義務付けられていますが、70歳以上の場合は3年ごとの更新になっていることにも注意が必要です。

    なお、運転免許を自主返納した場合には「運転経歴証明書」を申請することができます。
    この、運転経歴証明書を高齢者運転免許自主返納サポート協議会の加盟店や美術館などで提示すると、さまざまな特典を受けることができようになっています。

    年による衰えは、認めたくないところかもしれません。

    また、生活に車が必要、ということもあるかもしれません。

    しかし、いい年齢になって、他人に迷惑をかけることは避けなければなりません。

    認知症の高齢者が運転をして交通事故を起こした場合、場合によっては、同居の家族が「監督義務違反だ」として訴えられかねません。

    高齢者は、どうしても運動能力が低下します。家族や他人に迷惑をかけないよう、今一度自分の運転能力を見直した方がよいと思います。

  • 賃貸人が勝手に貸室の鍵を取り替え得るのは違法です

    2016年04月16日

    街に出てみると、今年の新入社員らしき若者たちが、まだ着慣れないスーツに身を包んで歩いている姿を見かけます。

    4月は新しい生活の始まり、不安と期待を抱えてのスタートでしょう。

    ところで、年度の初めには住まいを変えて引っ越しをする人も多いと思いますが、部屋を借りる際に求められるものに「連帯保証人」があります。

    たとえば、部屋の賃借人が家賃滞納などで賃料を払わない場合、貸主である大家さんは賃貸借契約における連帯保証人に対して請求することができます。
    連帯保証人は、原則として賃借人の債務についての責任を負うことになるからです。

    今回は、家賃滞納と連帯保証に関するトラブルについて解説します。

    「追い出し行為に賠償命令 家賃滞納で家財処分は“窃盗罪” 東京地裁」(2016年4月13日 産経新聞)

    東京都の40代男性が、家賃滞納を理由に玄関ドアに錠を取り付けて入れなくするなどしたのは不当な「追い出し行為」だとして、山口県岩国市の家賃保証会社に330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決があり、東京地裁は同社に55万円の支払いを命じました。

    男性は平成21年1月、同社を連帯保証人として神奈川県海老名市のアパートに入居。
    仕事を辞め、昨年3、4月の家賃計8万円を滞納したところ、同社は錠を取り付けたうえ、家財を無断で処分。
    男性は9日間、公園やファストフード店で過ごすことになったようです。

    裁判では、同社のこれらの行為は窃盗罪や器物損壊罪にあたると指摘。
    処分された家財の損害を30万円と算定し、ホームレス状態を強いられた慰謝料20万円など計55万円の賠償を命じたということです。
    家賃保証会社とは、賃貸契約時に連帯保証人を用意できない人でも部屋を借りられるように賃借人の連帯保証人を代行するもので、家賃滞納などの債務不履行をした場合に賃借人の代わりに支払いの代行(代位弁済)もするという仕組みになっています。

    賃借人だけでなく、貸主にとっても家賃不払いリスクを軽減できるというメリットがあります。

    しかし、一方で家賃滞納や夜逃げなども後を絶たないことから、保証人がいる場合でも保証会社との契約を二重に要求する賃貸人があったり、中には保証契約時に家賃の3~10割を支払わなければいけないケースもあるようで賃借人側のデメリットも指摘されているようです。

    また近年では、いわゆる「ゼロゼロ物件」と呼ばれる敷金と礼金を支払わなくていい物件の入居者などに対して、今回のケースのように追い出し行為をする「追い出し屋」と呼ばれる業者の存在が問題ともなっているようです。

    以前から、家賃の滞納、不払いは多くの貸主が抱える頭の痛い問題のひとつでした。

    賃貸物件の明け渡しを求めるために、内容証明による契約解除通知や裁判の申立てをしている間にも滞納賃料は積み重なり、結局、貸主が滞納賃料の回収ができないというケースも多くあります。

    しかし、だからといって今回のケースのように法律に定められた手続きをせずに追い出し行為のような実力行使をしてしまうと、民事で損害賠償請求されたり、刑事告訴をされたりという可能性があります。

    たとえば、賃借人の留守中に合鍵で部屋の中に入り家具などの家財を持ち出して処分すれば「住居侵入罪」や「窃盗罪」(第235条)、「器物損壊罪」(第261条)、家賃の強引な取り立てや退去するよう脅しをかければ「脅迫罪」(第222条)や「強要罪」(第223条)、「恐喝罪」(第249条)になる可能性があります。

    また、このような追い出し行為は「自力救済」といい、民法では例外を除き禁止されています。

    もちろん、家賃を滞納している借主が悪いのは当然なのですが、同時に民法では賃借人には借り家や部屋を占有して使用収益をする権利を認めています。

    その占有を妨害されたり、奪われたりした場合、占有者である賃借人は妨害を阻止する、占有を回復する、損害賠償請求することが認められているのです。
    これを、「占有訴権」といいます。

    仮に貸主Aが建物の管理を管理会社Bに委託していて、この会社が家賃を滞納している賃借人Cに対して追い出し行為をした場合、CはBだけでなくAも訴えることができます。

    判例では、貸主が管理会社とともに不法行為責任を負うとされ、賃借人の損害賠償請求を認めたものもあります。

    権利を有する者が、その権利を侵害された場合、司法手続きによらず自ら実力行使によって権利の回復を行うことは法律上できないのです。

    では、法的にはどのような手続きをとる必要があるのでしょうか。

    時間と費用がかかってしまいますが、法律上、貸主としては次のような段取りをとらなければいけません。

    1.家賃滞納者に対して滞納分の賃料の支払いを催告
    2.契約解除して明け渡しを通告
    3.賃借人が応じない場合は訴訟の申立て
    4.明け渡し訴訟で勝訴判決を得たり、和解をしたりする
    5.判決や和解内容に従わない場合は強制執行で強制的に追い出す

    なお、賃借人が居留守を使うケースもあります。

    この場合、賃借人が部屋にいても、いなくても、貸主が合鍵で室内に入る際に、契約書に特約として「賃借人が1ヵ月以上留守にする場合は大家に連絡をしなければいけない。連絡がない場合、または連絡がつかない場合、貸主は賃借人の承諾なしに合鍵で入室できる」という条項を入れている大家さんもいると思います。

    この場合、法律的に認められるかといえば、限定的であると言わざるを得ません。

    仮に、行方不明になってしまい、貸室内での事故が疑われるため、賃借人の部屋に入る必要がある場合は、一人では入らず、賃借人の保証人か緊急連絡先に記入されている親族、警察官などに連絡をして、立ち会ってもらうのがいいでしょう。

    いずれにせよ、不動産賃貸のトラブルは貸す側も借りる側も双方にとって損なことばかりで、得なことはありません。
    日常生活を気持ちよく過ごすためには、双方ともルールと法律を守って対処してほしいと思います。

    それでも、万が一トラブルが発生した場合は、弁護士などの専門家に相談して早急な手当てをすることをお勧めします。

    ご相談はこちらから⇒ http://www.bengoshi-sos.com/real-estate/

  • ツイッターの写真投稿で侮辱罪!?

    2015年12月14日

    無断で他人の写真を撮影し、その画像をツイッターに投稿した女子高生が書類送検されました。

    どんな写真を投稿したことが罪になったのでしょうか?

    「“笑いネタにしたい”障害女性の居眠り姿投稿 侮辱容疑で17歳女子高生を書類送検」(2015年12月10日 産経新聞)

    札幌・手稲署は、列車内で眠っていた障害のある女性(16)の画像をツイッターに投稿したとして、札幌市の高校2年の女子生徒(17)を侮辱容疑で書類送検しました。

    事件が起きたのは、今年の8月1日午後。
    女子生徒が、札幌市内を走行中のJR函館線の普通列車内で寝ていた女性をスマートフォンで無断撮影。
    「わらいとまんないしぬ」との言葉とともにツイッターに投稿していました。

    同日、被害者の伯母が投稿を発見し、翌2日に被害者の母親が北海道警に相談。
    また、被害者の母親から削除を求められた女子生徒は、投稿から約2時間後に削除していたようです。

    女子生徒は女性と面識はなく、「笑いのネタにしたかった」と容疑を認めているということです。
    侮辱罪は刑法に規定されています。
    条文から見てみましょう。

    「刑法」
    第231条(侮辱)
    事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

    ※拘留(1日以上30日未満で刑事施設に収容)
    科料(1000円以上1万円未満を徴収)

    侮辱罪とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態で人を侮辱することです。
    ただし、事実を摘示(示す、あばく)することは必要ないとされます。

    侮辱罪の詳しい解説はこちら⇒
    「凄まじい言葉の暴力=モラハラへの法的措置とは?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1728

    ところで、刑法上「名誉に対する罪」として、この侮辱罪の他に、ひとつ前の第230条「名誉棄損罪」も規定されています。

    第230条(名誉棄損)
    1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
    毀損とは、法律上では人の社会的評価が害される危険を生じさせることとされます。
    ただし、名誉棄損罪が適用されるには、実際に社会的評価が害されることは要しないとされています。
    また、事実の有無、真偽を問いません。

    名誉棄損罪の詳しい解説はこちら⇒
    「ネットに書き込むことは名誉を毀損することだ」
    https://taniharamakoto.com/archives/1904

    さて、この2つの罪、似ているようですが違いがあります。
    何が違うのでしょうか?

    条文をもう一度、読み比べてください。

    そうです、それは「事実を摘示」したかどうかの違いです。

    今回のケースでは、女子高生は写真を投稿してコメントを入れたわけですが、被害者女性に関する事実を摘示していないので侮辱罪が適用されたということでしょう。

    では、こんなケースではどうでしょうか。
    ある男性を撮影して、その画像をツイッターに投稿し、「彼は不倫をしている最低男」のコメントをつけた……。

    この場合は、事の真偽に関係なく、男性を「不倫をしている最低男」と摘示しているので、名誉棄損罪になるということです。

    いずれにせよ、人を侮辱し名誉を傷つける行為は、ほんの冗談や遊びのつもりでも、犯罪になる可能性があることは肝に銘じておいてください。

  • 全国で初めて“ごみ屋敷”を強制撤去の行政代執行!

    2015年11月17日

    問題になっていた「ごみ屋敷」が、ついに強制撤去になったというニュースがありました。

    今後、全国で「ごみ屋敷」への対応が進んでいくかもしれません。

    「“ごみ屋敷”に行政代執行 京都市、条例に基づき初の強制撤去」(2015年11月13日 京都新聞)
    京都市右京区の民家で50代の男性が物を溜め込んでいる「ごみ屋敷」問題に対し、京都市は11月13日午前、私道など屋外に置かれた物を行政代執行で強制撤去しました。

    近隣住民の通行に支障が出ており、災害時の住民避難に影響が出るとして強制撤去に踏み切ったもので、京都市の「ごみ屋敷対策条例」に基づき執行。
    私有地の強制撤去は全国初ということです。

    問題の経緯は以下の通りです。
    ・2009年12月に近隣住民からの相談で市が問題を把握。
    ・男性は、6年以上前から自宅前に古新聞・雑誌を積み上げ、もともと狭い私道がさらに狭くなり、車いすの使用者が通れなくなる事態に。
    ・男性には再三にわたり撤去を要請し、2014年11月の対策条例施行後は文書指導や命令も行ってきたが、男性は「これは財産だ」、「資料だ」と主張。
    ・市は約1年間に男性宅を124回訪問し、59回面会を実施。健康相談も行ってきた。
    ・この男性宅以外に、市は121世帯の「ごみ屋敷」を確認。うち52世帯では住居人から同意を得て、市職員とともに清掃を行い、「ごみ屋敷」状態を解消した。
    ・しかし、この男性宅では自主的な撤去が進まず、また今年8月に愛知県豊田市の「ごみ屋敷」が火元となって隣家に延焼する火災が起きたことからも、今回の強制撤去となった。

    当日は午前10時頃、市保健福祉局の幹部が行政代執行の開始を宣言。男性が立ち会う中、市職員5人が私道に積まれた古新聞や雑誌、衣類などを持ち出し、崩落の恐れがあった2階のベランダにあった物も撤去。
    約2時間で作業は終了したようです。

    強制撤去した「ごみ」は、7.5立方メートルで45リットルごみ袋に換算して167袋、軽トラック5、6台分にもおよんだということです。
    ごみ屋敷問題については、以前解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒
    「困った隣人トラブル─ごみ屋敷問題はどう解決する?」
    https://taniharamakoto.com/archives/2016

    この時点(2015年7月)では、文書による指導と勧告がなされていたのですが、今回、行政代執行が行われたわけです。
    簡単に復習しましょう。
    【ごみ屋敷を取り締まる法律はない!?】
    じつは、ごみ屋敷を直接的に取り締まる法律はありません。
    そのため、これまでは「廃棄物処理法」や「道路交通法」で対応してきました。

    しかし、廃棄物処理法は個人宅のごみは対象外であること、道路交通法の第76条では個人の敷地内から周囲の公道にごみがあふれ出ている場合に適用されることから、行政の対応は後手に回ってきました。

    そして、さらに「財産権」の問題があります。

    「日本国憲法」
    第29条
    1.財産権は、これを侵してはならない。
    個人の財産権は憲法に規定され、保障されています。
    そのため、第三者が見て明らかに「ごみ」であっても、本人が「財産」と主張すれば私有地である個人宅や敷地から第三者が持ち出すことは「私有財産権の侵害」につながるおそれがあるわけです。
    【各自治体が”ごみ屋敷“対策に乗り出した】
    しかし近年、急増する「ごみ屋敷」に対応するために各自治体が独自に条例を制定して対策に乗り出すケースが増えてきました。

    2013年、東京都足立区は「足立区生活環境の保全に関する条例」(通称・ごみ屋敷条例)を全国に先駆けて施行。
    その後、大阪市や京都市、新宿区などでも条例が制定され、現在では全国の8市区で制定されています。

    例えば、京都市の条例では次のようなことが定められています。
    ・ゴミを放置した人の氏名を書いた標識を現地に設置することができる
    ・私有地のごみは行政代執行で強制撤去することができる
    ・命令に従わなかった場合、5万円以下の過料

    ちなみに、「行政代執行」とは、行政上の強制執行の一種で、義務者が行政上の義務を履行しない場合に、行政庁が自ら義務者のなすべき行為をすることです。(「行政代執行法」第1条・2条)
    【ごみ屋敷条例の今後の課題とは?】
    今回の強制撤去で、全国的に「ごみ屋敷」への対策が進んでいくことが考えられます。

    たとえば、2015年5月に完全施行された「空家対策特別措置法」では、増え続ける「空き家」の中でも特に倒壊の危険のあるものや衛生上有害なもの、周囲の景観を損なうものなどを「特定空き家」として、最終的には各自治体が行政代執行による撤去もできると定めています。

    詳しい解説はこちら⇒
    「特定空き家の基準が決定!空家対策特別措置法が施行」
    https://taniharamakoto.com/archives/1952

    こうした流れからも、周囲の環境悪化や地域住民の安全対策に問題がある「ごみ屋敷」について、今回の強制撤去がきっかけとなり全国的に対策が進んでいくと思われます。

    ただし、住人への心身のケアは今後の課題となりそうです。
    たとえば、精神疾患の人や、ごみの分別をする能力のない高齢者など、ごみを溜めてしまう人への生活支援や周辺の住人との関係改善などです。

    実際、京都市では、ごみ屋敷の対策条例に基づき有識者会議を設置し、条例の適用には福祉の観点からも議論を重ねたうえで執行を決定しているとしています。

    とはいっても、「ごみ屋敷」の周辺住人の方にとっては日常生活に支障をきたすケースがあるわけで、これは切実な問題です。
    また近年、さまざまな隣人トラブルも増え、殺人事件にまで発展するケースもあります。

    隣人トラブルにおいて、個人間での話し合いなどで解決できないようであれば、法的な対応を考える必要もありますので、一度、弁護士などの専門家に相談してみるのもいいでしょう。

  • いじめ問題が急増!?法的な対応策はあるのか?

    2015年10月29日

    いじめの実態について、小中高校での調査結果が文部科学省から発表されました。

    今回は、いじめと法律の関係について解説します。

    「小学校のいじめ、過去最多12万件 再調査で大幅増」(2015年10月27日 朝日新聞デジタル)

    文部科学省の発表によると、2014年度のいじめについて小中高校全体で把握されたのは、前年度より2254件増えて18万8057件。
    そのうち、小学校では過去最多の12万2721件だったということです。

    これは、6月までにいったん取りまとめられていたものを、7月に岩手県矢巾町で起きた中学2年生の男子生徒のいじめを苦にした自殺を受けて、やり直し再調査をしたもの。
    最初の提出時より全体で約3万件増えたということです。

    おもな概要をまとめます。

    ・2010年度と比べると、小5で2・7倍、小6で2・4倍に増加したのに対し、小1が5・8倍、小2は4・3倍となり、小学校低学年の増加が目立った。

    ・再調査前に比べ、認知件数が大きく増えたのは、福島県(4・3倍)、福岡県(2・7倍)、岩手県(2・1倍)。

    ・中学校では5万2969件で、前年度より2279件減少。

    ・心身に重大な被害が生じる「重大事態」は、小中高校全体で前年度の179件から156件に減少。

    ・スマホやインターネットによるいじめの件数は7898件で前年度に比べ890件減少。
    しかし、LINE(ライン)など特定のメンバー以外はやりとりが公開されないアプリもあり、実態が把握しにくい。

    ・全学校の42・4%が、いじめは0件としているが、調査が不十分な可能性がある。
    【過去に起きた“いじめ”問題の裁判例を解説】
    いじめに関連した事件が後を絶ちません。

    2011年に滋賀県大津市で起きた事件を憶えている人も多いでしょう。
    当時、中学2年生だった男子生徒が、いじめを苦にして自宅で自殺。
    事件後の学校と教育委員会の隠蔽体質が発覚し、大きく報道されたものでした。

    直後の2012年度調査では、いじめの認知件数は前年度比で3倍近くに増え、約19万8000件と過去最多だったようです。

    2014年度の調査結果と比較すると、認知件数は約1万件減少してはいます。
    しかし、ここ数年、いじめの件数は大きくは減少していないというのが実情です。

    件数は増減しても、けっしてなくならない、いじめ問題。

    いじめは、親や教師が見ていない水面下で行われることが多いことを考えれば、公表された件数は、まだまだ氷山の一角と言わざるを得ないでしょう。

    では、こうしたいじめ問題に対して被害者側は、どのように対応したらいいのでしょうか?

    過去にあった、いじめ事件の判例を見てみます。

    「三室小学校放課後いじめ事件」
    (浦和地判昭和60年4月22日 判例時報1159号68頁 判例タイムズ552号126頁)

    「概要」
    昭和54年1月に転校してきた女子児童A(当時3年生)が、直後から同じ組の男子児童から殴る、蹴る、つねるなどの暴行を受け始めた。
    4年生に進級すると、いじめの頻度が増したため、Aの母は、担任の女性教諭に相談し、連絡帳にいじめの事実を記載し提出。いじめの事実を認識した担当教諭は、ときに暴力を振るった男子児童らを教壇の前に呼び出し注意をしたり、反省会を開いて軽く戒めたり、児童らに話し合いをさせるなどしたが、暴力はおさまらなかった。
    事件が起きたのは同年11月。廊下で立ち話をしていた女子児童が、教室から出てきた男子児童Bから足元に滑り込みをかけられ転倒。その後、男子児童Cからも足元に滑り込みをかけられ転倒。その際、廊下面で顔面を強打して前歯2本を折る傷害を負った。
    そこで、被害者側は浦和市に対して、担任教諭が事態を放置し、何らの教育的措置もとらなかったとして、国家賠償法第1条に基づき提訴。
    男子児童BとCの両親に対しては、子供の監督義務を怠ったとして、責任無能力者の監督義務者の責任を民法第714条1項に基づき提訴。
    治療費、慰謝料等約644万円の損害賠償を請求した。

    「判決」
    ・浦和市の責任については、「小学校の校長ないし教諭が、学校教育の場において児童の生命、身体等の安全について万全を期す義務を負うのは、学校教育法等に照らして明らか」、「児童間の事故により、その生命、身体等が害されるという事態の発生を未然に防止するために、万全の措置を講ずべき義務を負うべき」として、小学校の校長と担任教諭の義務について判示。

    ・本件事案については、「担任教諭は事故が発生するかなり以前から、いじめの実態を認識し、被害者の母から善処を求められていたにもかかわらず、抜本的、かつ徹底した対策を講じなかった」として、担任教諭の過失と学校側が監督義務を怠ったことを認め、国家賠償法第1条に基づく賠償責任として、約273万円の支払いを命じた。

    ・加害者Cの両親については、「他人の生命、身体に対し不法な侵害を加えることのないよう教育を行い、人格の成熟を図る義務を負う」、「事故により生じた損害を賠償すべき責任を負担するべきで、保護監督義務を尽くしたとは到底いえない」として、民法第714条1項に基づく責任を認めた。

    ・一方、加害者Bの両親については、BがCに先行して滑り込みをかけたことを認めたものの、Bの行為と被害者が負った傷害との間に因果関係を認めることはできないとして、共同不法行為責任を否定した。
    【いじめに対する法的な対処法とは?】
    前述のように、いじめの被害にあい、子供が傷害を負った場合は、民事において損害賠償請求することができます。

    法的には、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、「代理監督者責任の義務」があります。
    教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

    その場合、公立校であれば「国家賠償法」、私立校ならば「民法715条」が適用されます。
    また、損害賠償請求に関しては第709条が適用されます。

    詳しい解説はこちら⇒「学校での柔道事故で8150万賠償命令」
    https://taniharamakoto.com/archives/2031

    次に、加害者が未成年者の場合、物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
    1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

    詳しい解説はこちら⇒「子供が起こした事故は誰の責任? 最高裁判決」
    https://taniharamakoto.com/archives/1929
    保護者としては、すべての学校で、いじめがあると考えたほうがいいかもしれません。

    いじめ問題は初期段階で組織的に対応することが重要です。
    子供をいじめから救うために、学校と教師、親などがどう対処するかが問われています。

    なお、学校へ相談したり、訴えても、なかなか解決に至らないような場合は、弁護士などの専門家に相談し、法的な対応を検討することも大切になってきます。

    ご相談はこちらから⇒http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/