凄まじい言葉の暴力=モラハラへの法的措置とは? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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凄まじい言葉の暴力=モラハラへの法的措置とは?

2014年11月28日

性的な嫌がらせは、セクシャル・ハラスメント(セクハラ)、職場の権力を利用した上司などからの嫌がらせやいじめは、パワー・ハラスメント(パワハラ)と呼ばれます。

現在、「ハラスメント」と定義されるものにはセクハラ、パワハラの他にも、モラル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、ドクター・ハラスメント、マタニティ・ハラスメントなど20種類以上もあるといわれています。

その中の「モラハラ」に関する損害賠償請求訴訟の判決に関する報道が先日あったので、法律的に解説したいと思います。

「“死に損ないのブタ”“盗っ人”…凄まじき職場のモラハラの実態」(2014年11月24日 産経新聞)

大阪市内の衣料関係会社に勤務する50代の女性が、職場で2年間にわたり、「ほんまに臭いわ!何食べて毎日くさいねん」、「死に損ないのブタ」などの暴言や暴力を受けたとして、60代の同僚女性に損害賠償を求めた訴訟の判決が11月に大阪地裁でありました。

原告の女性は、被告の女性の口添えで平成19年に会社に入社。
2人は別の会社でも一緒に勤務したことがあったようで、誕生日を祝い合う仲だったといいます。

しかし、その後、急激に関係が悪化。
原告女性は、被告女性から凄まじい罵詈雑言を浴びせられ、椅子を蹴り飛ばされたり、出勤台帳で背中を叩く、ボールペンを持って頭を叩くなどの暴力を受け、防戦すると被告女性自らが警察呼び、病院の診断を受けるなどした挙句、代理人弁護士を通じ、原告に慰謝料150万円を要求してきたということです。

そこで、原告女性はICレコーダーで録音したり、机の下にビデオカメラを設置するなどして証拠を確保。
平成25年初頭に、約220万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こすと、被告女性もほぼ同額の損害賠償を求める反訴に打って出たようです。

大阪地裁は、原告側のICレコーダーやビデオカメラによる録音・録画のほか、「原告が押し倒されたり、殴られるのを見た」とする同僚男性の証言を重視。
判決で被告女性に165万円の支払いを命じ、被告女性の反訴については全面的に退けたということです。
以前、パワハラについて解説しました。

詳しい解説はこちら⇒「職場のいじめは、法律問題です。」
https://taniharamakoto.com/archives/1303

近年、セクハラ、パワハラについては社会問題化し、報道されることも増えたので多くの人が知っていると思いますが、モラハラにつては馴染みが薄いかもしれません。

実際、厚生労働省や法務省などのサイトやパンフレットにはパワハラについて扱ってはいても、モラハラの表記はほとんどないのが実情でしょう。

というのも、モラハラの大半は職場や家庭内での言葉による嫌がらせ、いじめのため表面化しにくく、企業もあまり問題視してこなかったという背景があるように思います。
そのため、身体的暴力に関しては「DV防止法」など、これまで法整備が進められてきましたが、精神的暴力に関しては法整備が遅れているといえます。

モラハラの特徴としては、以下のようなものが挙げられるようです。
・最初はやさしいが豹変する
・通常、肉体的暴力は使わず言葉で人を侮辱、冒涜する
・相手の同情を誘ったり、自分を正当化する
・平気で嘘をついたり、言うことがコロコロ変わる
・職場や家庭内でのみ嫌がらせをする

時として、モラハラは肉体的な暴力以上に人を傷つけるものです。

今回の報道にもあるように、モラハラ被害にあっているという認識がある人は、「民法」で定める「不法行為」によって被った被害に対して損害賠償請求の訴訟を起こすことができるというのは覚えておいた方がいいでしょう。

ところで、モラハラの特徴である言葉の暴力について、犯罪に問うことはできるでしょうか?

じつは、「刑法」の「侮辱罪」が適用される可能性があります。

「刑法」
231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
法律上、「公然」とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態にあることをいいます。

また、通説では事実を摘示しなくても成立するのが「侮辱罪」で、事実の摘示がある場合は「名誉棄損罪」が成立するとされています。

侮辱罪について過去の判例では、2006年、山梨県大月市のスナックで20代の女性客に対して「デブ」と数回言った市議会議員の男が、「29日間の拘留」を言い渡されています。

他の客のいる店舗や不特定または多数人のいる場所で相手を侮辱すると犯罪になる可能性があります。

相手を見下して貶める、はずかしめるような言動をする人は、それによって自分の自尊心を満足させているのでしょう。

しかし、同じ自尊心を満足させるなら、褒められて嬉しくなり、自尊心が満足した方がよいのではないでしょうか。

そのためには、むしろ他人を褒めた方が良いはずです。

褒められた人は、逆に褒め返してくれます。

そうやって双方が良い気分になれば、世の中から侮辱罪がなくなるかもしれませんね。

「自分の名誉を傷つけられるのは、自分だけだ」
(アンドリュー・カーネギー/アメリカの実業家)