子供が起こした事故は誰の責任? 最高裁判決 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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子供が起こした事故は誰の責任? 最高裁判決

2015年04月12日

子供が起こしてしまった問題については、当然、親が責任を取るべきという認識が一般的でしょう。

同級生をいじめた、お店の商品を万引きした、他の子供にケガをさせてしまった…そんな場合では、親が相手方や関係者に謝罪をするということが行われます。

では、子供が故意ではなく行った行為によって死者が出てしまった場合はどうでしょうか。
その責任は誰が取るべきなのか? どこまで親が負うべきなのか? 被害者や遺族の補償は誰がするべきなのか? という問題が出てきます。

そうした裁判で、最高裁が初めてとなる判断をしました。

「小6蹴ったボールよけ死亡、両親の監督責任なし」(2015年4月9日 読売新聞)

子供が起こした事故が原因で男性が死亡したとして、その遺族が子供の両親に損害賠償を求めた訴訟の上告審が2015年4月9日、最高裁でありました。

最高裁は、「通常は危険がない行為で偶然損害を生じさせた場合、具体的に予見可能だったなどの特別な事情が認められない限り、原則として親の監督責任は問われない」との初判断を示しました。

そのうえで、1、2審の賠償命令を破棄し、遺族側の請求を棄却する判決を言い渡したことで両親側の逆転勝訴が確定しました。

事故が起きたのは2004年2月。
場所は、愛媛県今治市の市立小学校の校庭と隣接する道路。

放課後に子供たちがサッカーで遊んでいた際、小6男児(当時11歳)がフリーキックの練習で蹴ったボールが、ゴールを越え、さらに高さ1・3メートルの門扉を越えて道路に転がり出たところ、これを避けようとしたオートバイの男性(当時85歳)が転倒し、足の骨折などで入院。
その直後から痴呆の症状を発症し、約1年4ヵ月後に肺炎で死亡したというものです。

1審・大阪地裁、2審・大阪高裁はともに、男児に過失があったと認める一方、11歳だったことから責任能力はないと判断。

2審判決では、親の監督責任について、「校庭ならどう遊んでもいいわけではなく、それを男児に理解させなかった点で両親は義務を尽くしていない」として、両親に約1180万円の賠償を命じていました。

今回の裁判では、これを前提に、親の監督責任の有無が争点となっていました。

判決での指摘、内容は次のとおりです。

「男児の行為について」
・開放された校庭で、設置されたゴールに向けてボールを蹴ったのは、校庭の日常的な使用方法だ。
・門とフェンス、側溝があり、ボールが道路に出るのが常態だったとも言えない。

「親の責任について」
・人身に危険が及ばないように注意して行動するよう、親は子供に日頃
ら指導監督する義務がある。
・しかし、今回の男児の行為については、「通常は人身に危険を及ぼす行為ではなかった」としたうえで、「両親は日頃から通常のしつけをしており、今回のような事故を具体的に予想できるような特別な事情もなかった」と監督責任を否定。

なお、男性の遺族側は、今治市には賠償を請求していないため、訴訟では学校側の安全管理の当否は争点にならなかったようです。

子供の両親は、「親として、少なくとも世間様と同じ程度に厳しくしつけ、教育をしてきたつもりでした…(中略)…(1、2審で)違法行為だと断じられたことは、我々親子にとって大変ショックで、自暴自棄になりかけたこともありました」と、これまでの裁判を振り返ったものの、一方、「被害者の方のことを考えると、我々の苦悩が終わることはありません」とコメントを発表したということです。
今回の判決では、子供の行為と男性の死亡の因果関係に争いはなく、両親が監督義務を尽くしていたかが争点となっていたわけです。

親の監督責任については以前、解説しました。
詳しい解説はこちら
⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
https://taniharamakoto.com/archives/1217

未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

関連する条文を見ていきましょう。

「民法」
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第712条(責任能力)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
今までの司法判断では、多くの事故で親の監督責任を認めてきたわけですが、今回の判決で今後の流れが変わるかもしれません。

判決に対する意見も、さまざまあります。
各紙報道からコメントを抜粋してみましょう。

「放課後の学校の校庭でゴールに向かってボールを蹴ることが、法的に責められるくらい悪いことなのか、疑問がずっとぬぐえなかった。主張が認められ、ひとまず安堵しています」(少年の両親)

「これまでの判決は、子どもの行為に対して親に過大な責任を負わせてきた。子どもの加害行為にも、いろいろな性質のものがある。それに応じて親の責任を限定する考え方を最高裁が示してくれた」(両親側の代理人弁護士)

「予測もできない形で子供が相手にケガをさせてしまう場合がある。そこも親の責任といわれたら、子供を閉じ込めておくしかない」(東京都・主婦)

「子供の行動はやっぱり親の責任。でも彼らは親の想像も及ばないことをする」(東京都・2児の母)

「しばしば、サッカーボールが飛んできて壁にあたる。公園の柵には“駐車中の車が破損する被害がありました。ボールをぶつけた人は連絡を”という区の呼びかけがあった。被害にあったら誰かに責任を取ってほしいと思いますよね」(東京都・71歳男性)

「子供は自由な発想の遊びを通じて育つ。大人の知恵と工夫で、子供の育ちをどう保障するか考えていくべきだ」(「こども学」の大学教授)
今回の判決を受けて、子供が起こした事故については、これまでより少し判断がしやすくなったといえるでしょう。
しかし、依然として難しい問題です。

たとえば、けんかで相手にケガをさせた、危険な行為で自転車運転をして人に衝突したという行為と、今回のような校庭でサッカーをしていたということは同列に扱う問題ではないとも言えます

さらに、子供の行為で両親が全責任を問われるのは酷ではあるが、その責任を否定すると、死亡した被害者と遺族は何の補償も得られない、という問題も出てきます。

この部分のバランスをどうとっていくかは、今後の動向を見守っていく必要があるでしょう。

また、子供を持つ親御さんは、個人賠償責任保険や自転車保険、傷害保険や自動車保険の特約などの加入も検討した方がよいでしょう。

予防は治療に勝る、ということわざもあります。
不測の事態に備えて、できることをしておくことは何においても重要なことだといえますね。