全国で初めて“ごみ屋敷”を強制撤去の行政代執行! | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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全国で初めて“ごみ屋敷”を強制撤去の行政代執行!

2015年11月17日

問題になっていた「ごみ屋敷」が、ついに強制撤去になったというニュースがありました。

今後、全国で「ごみ屋敷」への対応が進んでいくかもしれません。

「“ごみ屋敷”に行政代執行 京都市、条例に基づき初の強制撤去」(2015年11月13日 京都新聞)
京都市右京区の民家で50代の男性が物を溜め込んでいる「ごみ屋敷」問題に対し、京都市は11月13日午前、私道など屋外に置かれた物を行政代執行で強制撤去しました。

近隣住民の通行に支障が出ており、災害時の住民避難に影響が出るとして強制撤去に踏み切ったもので、京都市の「ごみ屋敷対策条例」に基づき執行。
私有地の強制撤去は全国初ということです。

問題の経緯は以下の通りです。
・2009年12月に近隣住民からの相談で市が問題を把握。
・男性は、6年以上前から自宅前に古新聞・雑誌を積み上げ、もともと狭い私道がさらに狭くなり、車いすの使用者が通れなくなる事態に。
・男性には再三にわたり撤去を要請し、2014年11月の対策条例施行後は文書指導や命令も行ってきたが、男性は「これは財産だ」、「資料だ」と主張。
・市は約1年間に男性宅を124回訪問し、59回面会を実施。健康相談も行ってきた。
・この男性宅以外に、市は121世帯の「ごみ屋敷」を確認。うち52世帯では住居人から同意を得て、市職員とともに清掃を行い、「ごみ屋敷」状態を解消した。
・しかし、この男性宅では自主的な撤去が進まず、また今年8月に愛知県豊田市の「ごみ屋敷」が火元となって隣家に延焼する火災が起きたことからも、今回の強制撤去となった。

当日は午前10時頃、市保健福祉局の幹部が行政代執行の開始を宣言。男性が立ち会う中、市職員5人が私道に積まれた古新聞や雑誌、衣類などを持ち出し、崩落の恐れがあった2階のベランダにあった物も撤去。
約2時間で作業は終了したようです。

強制撤去した「ごみ」は、7.5立方メートルで45リットルごみ袋に換算して167袋、軽トラック5、6台分にもおよんだということです。
ごみ屋敷問題については、以前解説しました。
詳しい解説はこちら⇒
「困った隣人トラブル─ごみ屋敷問題はどう解決する?」
https://taniharamakoto.com/archives/2016

この時点(2015年7月)では、文書による指導と勧告がなされていたのですが、今回、行政代執行が行われたわけです。
簡単に復習しましょう。
【ごみ屋敷を取り締まる法律はない!?】
じつは、ごみ屋敷を直接的に取り締まる法律はありません。
そのため、これまでは「廃棄物処理法」や「道路交通法」で対応してきました。

しかし、廃棄物処理法は個人宅のごみは対象外であること、道路交通法の第76条では個人の敷地内から周囲の公道にごみがあふれ出ている場合に適用されることから、行政の対応は後手に回ってきました。

そして、さらに「財産権」の問題があります。

「日本国憲法」
第29条
1.財産権は、これを侵してはならない。
個人の財産権は憲法に規定され、保障されています。
そのため、第三者が見て明らかに「ごみ」であっても、本人が「財産」と主張すれば私有地である個人宅や敷地から第三者が持ち出すことは「私有財産権の侵害」につながるおそれがあるわけです。
【各自治体が”ごみ屋敷“対策に乗り出した】
しかし近年、急増する「ごみ屋敷」に対応するために各自治体が独自に条例を制定して対策に乗り出すケースが増えてきました。

2013年、東京都足立区は「足立区生活環境の保全に関する条例」(通称・ごみ屋敷条例)を全国に先駆けて施行。
その後、大阪市や京都市、新宿区などでも条例が制定され、現在では全国の8市区で制定されています。

例えば、京都市の条例では次のようなことが定められています。
・ゴミを放置した人の氏名を書いた標識を現地に設置することができる
・私有地のごみは行政代執行で強制撤去することができる
・命令に従わなかった場合、5万円以下の過料

ちなみに、「行政代執行」とは、行政上の強制執行の一種で、義務者が行政上の義務を履行しない場合に、行政庁が自ら義務者のなすべき行為をすることです。(「行政代執行法」第1条・2条)
【ごみ屋敷条例の今後の課題とは?】
今回の強制撤去で、全国的に「ごみ屋敷」への対策が進んでいくことが考えられます。

たとえば、2015年5月に完全施行された「空家対策特別措置法」では、増え続ける「空き家」の中でも特に倒壊の危険のあるものや衛生上有害なもの、周囲の景観を損なうものなどを「特定空き家」として、最終的には各自治体が行政代執行による撤去もできると定めています。

詳しい解説はこちら⇒
「特定空き家の基準が決定!空家対策特別措置法が施行」
https://taniharamakoto.com/archives/1952

こうした流れからも、周囲の環境悪化や地域住民の安全対策に問題がある「ごみ屋敷」について、今回の強制撤去がきっかけとなり全国的に対策が進んでいくと思われます。

ただし、住人への心身のケアは今後の課題となりそうです。
たとえば、精神疾患の人や、ごみの分別をする能力のない高齢者など、ごみを溜めてしまう人への生活支援や周辺の住人との関係改善などです。

実際、京都市では、ごみ屋敷の対策条例に基づき有識者会議を設置し、条例の適用には福祉の観点からも議論を重ねたうえで執行を決定しているとしています。

とはいっても、「ごみ屋敷」の周辺住人の方にとっては日常生活に支障をきたすケースがあるわけで、これは切実な問題です。
また近年、さまざまな隣人トラブルも増え、殺人事件にまで発展するケースもあります。

隣人トラブルにおいて、個人間での話し合いなどで解決できないようであれば、法的な対応を考える必要もありますので、一度、弁護士などの専門家に相談してみるのもいいでしょう。