詐害行為で訴えられた時の救済策(弁護士解説) | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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詐害行為で訴えられた時の救済策(弁護士解説)

2016年08月12日

突然、詐害行為取消訴訟の訴状が届く時があります。

「詐害行為」とは、「さがいこうい」と読みます。

典型的には、自分の財産より借金の方が多くなってしまった状態(債務超過)で、唯一の財産である自宅を妻に贈与してしまうような場合です。

このような行為は、「詐害行為」として、贈与を取り消されてしまうのです。取り消される、ということは、自宅を元に戻さなければならない、ということです。

この詐害行為取消権は、民法に規定されています。

【民法】
第424条  債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2  前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

第425条  前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。

第426条  第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

以上です。

要件としては、
・債権者を害する客観的要件
・債務者が債権者を害することを知っていたこと(主観的要件)
・受益者または転得者が債権者を害することを知っていたこと
・財産権を目的とする法律行為であること
・詐害行為取消権行使が、債権者が取消しの原因を知った時から2年あるいは行為の時から20年を経過していないこと

「債権者を害する」というのは、自分の資産を減少する行為をして債権者が十分の弁済を受けることができなくすることです。

詐害行為で訴えられた時は、上記の要件を欠いている点を見つけ、主張立証してゆくことが必要となります。

つまり、

・「本件は、債権者を害していない」
・「行為の当時、債務者は債権者を害する認識がなかった」
・「受益者または転得者は利益または転得した時点で債権者を害する認識がなかった」
・「本件は、財産を目的とする行為ではない」
・「債権者は、本件行為を知ってから2年以上経過してから取消権を行使した」

などです。

詐害行為取消権を法的に理解しようとすると、結構難しいです。

なお、民法改正があり、この詐害行為取消権についても改正されています。

経過措置により、次のとおりとなっています。

「施行日前に旧法第四百二十四条第一項に規定する債務者が債権者を害することを知ってした法律行為がされた場合におけるその行為に係る詐害行為取消権については、なお従前の例による。」

つまり、2020年4月1日より前の詐害行為については旧民法が適用され、2020年4月1日以降の詐害行為については、改正民法が適用される、ということです。

改正民法を列挙します。

(詐害行為取消請求)
第424条  
1 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2  前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3  債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4  債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
第424条の2
  債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一  その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二  債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三  受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
第424条の3  債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
一  その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
二  その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
2 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一  その行為が、債務者が支払不能になる前三十日以内に行われたものであること。
二  その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

(過大な代物弁済等の特則)
第424条の4  債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第四百二十四条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。

(転得者に対する詐害行為取消請求)
第424条の5  債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
一  その転得者が受益者から転得した者である場合その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
二  その転得者が他の転得者から転得した者である場合その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

(財産の返還又は価額の償還の請求)
第424条の6 
1 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
2 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。

(被告及び訴訟告知)
第424条の7
1  詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一  受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え受益者
二  転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴えその詐害行為取消請求の相手方である転得者
2  債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

(詐害行為の取消しの範囲)
第424条の8
1  債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
2 債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

(債権者への支払又は引渡し)
第424条の9
1  債権者は、第四百二十四条の六第一項前段又は第二項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
2  債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
第425条  詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)
第425条の2  債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。

(受益者の債権の回復)
第425条の3  債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。

(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
第425条の4  債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
一  第四百二十五条の二に規定する行為が取り消された場合その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
二  前条に規定する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。) その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

第426  詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは、提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。

旧民法時代のものですが、以下に、詐害行為を理解するのに必須の最高裁判例を紹介します。

(大審院明治39年2月5日判決)「相当の価格による売却であっても債務者の財産が消費しやすい金銭に変わるから詐害行為となる」

(大審院大正13年4月25日判決)「債務者がある債権者に対する債務を弁済するため相当の価格で不動産を売却したときは、特に他の債権者を害する意思がない限り、これをもって詐害行為ということはできない」

(東京高裁昭和31年5月31日判決)(要旨)Yは未成年であるから、詐害行為についての善意悪意は親権者であるAによって検討すべきであるが、Aは別居後Sの資産状態を知らないので、善意というべきである。

(最高裁昭和32年11月1日判決)
「債務者が或債権者のために根抵当権を設定するときは、当該債権者は、担保の目的物につき他の債権者に優先して、被担保債権の弁済を受け得られることになるので、それだけ他の債権者の共同担保は減少する。その結果債務者の残余の財産では、他の債権者に対し十分な弁済を為し得ないことになるときは、他の債権者は従前より不利益な地位に立つこととなり即ちその利益を害せられることになるので、債務者がこれを知りながら敢えて根抵当権を設定した場合は、他の債権者は民法四二四条の取消権を有するものと解するを相当とする。」

(最高裁昭和33年9月26日判決)「債務超過の状態にある債務者が一債権者に対してなした弁済は、それが債権者から強く要求せられた結果、当然弁済すべき債務をやむなく弁済したものであるだけでは、これを詐害行為と解することはできない」
(最高裁昭和33年9月26日判決)「債権者が、弁済金の到来した債務の弁済を求めることは、債権者の当然の権利行使であって、他に債権者あるの故でその権利行使を阻害されるいわれはない。また債務者も債務の本旨に従い履行を為すべき義務を負うものであるから、他に債権者あるの故で、弁済を拒絶することのできないのも、いうをまたないところである。そして、債権者平等分配の原則は、破産宣告をまって初めて生ずるものであるから、債務超過の状況にあって一債権者に弁済することが他の債権者の共同担保を減少する場合においても、右弁済は、原則として詐害行為とならず、唯、債務者が一債権者と通謀し、他の債権者を害する意思をもって弁済したような場合のみ詐害行為となるにすぎない」

(最高裁昭和39年11月17日判決)「債務超過の債務者が、特にある債権者と通謀して右債権者のみに優先的に債権の満足を得させる意図で自己の有する重要な財産を右債権者に売却して、右売買代金債権と右債権者の債権とを相殺する旨の約定をした場合には、たとえ右売買価格が適正価格であるとしても、右売却行為は詐害行為になる」

(最高裁昭和41年5月27日判決)
「債務者が既存の抵当権付債務の弁済をするために、右被担保債権額以下の実価を有する抵当物件たる所有不動産を相当な価格で売却し、その代金を右債務の支払に充てて当該抵当権の消滅をはかる場合にあつては、その結果右債務者の無資力を招いたとしても、右不動産売却行為は、一般債権者の共同担保を減少することにはならないから、民法四二四条所定の詐害行為にあたらないと解するのを相当とする。」

(最高裁昭和42年6月29日判決)
「本件債権譲渡が相当な対価をもつてなされたものではないのみならず、むしろ、訴外Dにおいて子供の養育費や他の借財の支払に必要とするとの理由のもとに、右譲渡債権については、上告人から右訴外人に一〇〇万円を交付し、右同額は右訴外人の上告人に対して負担する原判示債務の一部に充当しない約であつた趣旨の認定判断をしているのであり、したがつて、本件債権譲渡を債務の本旨に従つてなされた弁済と同視しえないことはいうをまたないところである。そして、原判決によれば、訴外Dは、上告人および被上告人らその他の債権者に対して多額の債務を負担しながら、資産としては本件債権のほかに見るべきものがなく、右債権が総債権者のための唯一の共同担保になつていたところ、右訴外人は他の債権者を害することを知りながら右債権を上告人に譲渡したものであり、しかも、上告人において本件債権譲渡が債権者を害することを知らなかつたことを認めえないというのである。しからば、本件債権譲渡は詐害行為として取消を免れないものというべく、これと同趣旨に出た原判決は相当」

(最高裁昭和42年11月9日判決)
「事実関係に徴すれば、前記各譲渡担保による所有権移転行為は、当時A夫妻は他に資産を有していなかつたから、債権者の一般担保を減少せしめる行為であるけれども、前記のような原審の確定した事実の限度では、他に資力のない債務者が、生計費及び子女の教育費にあてるため、その所有の家財衣料等を売却処分し或は新たに金借のためにれを担保に供する等生活を営むためになした財産処分行為は、たとい共同担保が減少したとしても、その売買価格が不当に廉価であつたり、供与した担保物の価格が借入額を超過したり、または担保供与による借財が生活を営む以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のない限り、詐害行為は成立しないと解するのが相当であり、右と同旨の見解に立つて本件詐害行為の成立を否定した原判決の判断は、正当として是認できる。」

(最高裁昭和44年12月19日判決)
「右事実関係に徴すれば、本件建物その他の資産を被上告会社に対して譲渡担保に供した行為は、被上告会社に対する牛乳類の買掛代金二四四万円の支払遅滞を生じた訴外有限会社上田乳業食品およびその代表取締役Aが、被上告会社からの取引の打切りや、本件建物の上の根抵当権の実行ないし代物弁済予約の完結を免れて、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続して更生の道を見出すために、示談の結果、支払の猶予を得た既存の債務および将来の取引によつて生ずべき債務の担保手段として、やむなくしたところであり、当時の諸般の事情のもとにおいては、前記の目的のための担保提供行為として合理的な限度を超えたものでもなく、かつ、かかる担保提供行為をしてでも被上告会社との間の取引の打切りを避け営業の継続をはかること以外には、右訴外会社の更生策として適切な方策は存しなかつたものであるとするに難くない。債務者の右のような行為は、それによつて債権者の一般担保を減少せしめる結果を生ずるにしても、詐害行為にはあたらないとして、これに対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当であり、これと同旨の見解に立つて本件につき詐害行為の成立を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の認定しない事実関係および叙上と異なる見解を前提として原判決の違法をいうものであり、採用することができない。」

(最高裁昭和45年11月19日判決)
「右代物弁済は、被上告会社の代表者らが訴外会社に倒産の気配があることを察知し、他に債権者のあることを知つていたが、自己の債権の回収を図るべく、訴外会社の代表者らに対し、債務の支払かこれに代わる商品の交付を要求し、訴外会社の代表者らは、これを拒絶していたものの、被上告会社から引き続いて強硬な要求を受け午前三時頃に及んだため、ついに疲れあきらめて、本件物件を収納してある倉庫の錠を開け、被上告会社において右物件を運び出し持ち去るに任せたというのである。原審の右認定は、原判決挙示の証拠関係(ただし、原判決の理由中に第九号証の二、第一〇、一一号証とあるのは、それぞれ甲第一号証の九の二、同号証の一〇、一一の誤記と認める。)に照らして首肯するに足りる。そうとすれば、被上告会社がその債権回収のためとつた方法は、常軌を逸したものというべきであるが、原審が、右認定事実に基づいて、訴外会社としては、右のとおり被上告会社に本件物件を譲渡すれば他の債権者を害するであろうことを認識していたといえるが、これを害することの積極的な意思のもとになしたものとは認めがたい旨説示し、右代物弁済行為とならないとした判断は、正当として是認することができる。」

(最高裁昭和46年1月26日)
「本件建物を譲渡した当時右建物にはその価額をこえる金額の債権を現実の被担保債権とする根抵当権が設定されていたから、その当時、右建物には日原治子の一般債権者の共同担保となるべき余地がなかつたものであり、したがつて、日原治子の右建物の譲渡行為は詐害行為にはならない、とした原審の判断は、正当として是認することができる。」

(最高裁昭和47年10月26日判決)
「訴外沢正久は、被上告人から新たに営業資金を借り受けるに際し、被上告人の経営する田中酒造株式会社から引き続き商品の供給を受けて営業を継続することを目的として、被上告人に対する全債務を担保するため、被上告人との間に本件各不動産につき売買予約を締結し、借受金の一部をもつて第三者に対する抵当債務を弁済して抵当権設定登記の抹消を受けたのち、右売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、沢正久は、その後約四年間営業を継続したのち、被上告人との間で、右担保の目的である本件不動産の所有権を債務全額の弁済に代え被上告人に譲渡する旨の合意をし、売買名義による右仮登記に基づく所有権移転登記を経由したことなど原審の確定した事実関係のもとにおいては、右売買予約および代物弁済契約はいずれも債権者を害する行為にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

(最高裁昭和49年9月20日判決)
「相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。」

(最高裁昭和49年12月12日判決)
「民法四二四条所定の詐害行為の受益者又は転得者の善意、悪意は、その者の認識したところによって決すべきであって、その前者の善意、悪意を承継するものではないと解すべきであり、また、受益者又は転得者から転得した者が悪意であるときは、たとえその前者が悪意であっても同条に基づく債権者の追及を免れることができないというべきである。」

(最高裁昭和52年7月12日判決)(要旨)倒産会社の支店長が、暴行を受けるなど債権者から強く要求された結果やむなく弁済したと認められる判事の事情のもとにおいては、弁済が債務者において債権者と通謀し他の債権者を害する意思でされた詐害行為にあたるとはいえない。

(最高裁昭和55年1月24日判決)
「債務者の行為が詐害行為として債権者による取消の対象となるためには、その行為が右債権者の債権の発生後にされたものであることを必要とするから、詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされたものである場合には、たといその登記が右債権成立後にされたときであつても、債権者において取消権を行使するに由はない(大審院大正六年(オ)第五三八号同年一〇月三〇日判決・民録二三輯一六二四頁参照)。」

(最高裁昭和58年12月19日判決)「離婚に伴い財産分与をした者が、すでに債務超過の状態にあったとしても、その分与が民法768条3項(財産分与)の趣旨に反して過大でない限り、詐害行為として取消しの対象とはならない」

(最高裁昭和63年7月19日)
「抵当権の設定されている不動産について、当該抵当権者以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであって、当該詐害行為の後に弁済等によって右抵当権設定登記等が抹消されたようなときは、その取消は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格による賠償を請求する方法によるべきである。」

(最高裁平成4年2月27日判決)
「共同抵当の目的とされた数個の不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行為に該当する場合において、当該詐害行為の後に弁済によつて右抵当権が消滅したときは、売買の目的とされた不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価格による賠償を命ずるべきであり、一部の不動産自体の回復を認めるべきものではない(最高裁昭和三〇年(オ)第二六〇号同三六年七月一九日大法廷判決・民集一五巻七号一八七五頁、同六一年(オ)第四九五号同六三年七月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五四号三六三頁参照)。
そして、この場合において、詐害行為の目的不動産の価額から控除すべき右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額は、民法三九二条の趣旨に照らし、共同抵当の目的とされた各不動産の価額に応じて抵当権の被担保債権額を案分した額(以下「割り付け額」という。)によると解するのが相当である。」

(最高裁平成元年4月13日判決)(要旨)株式会社甲は取引先の倒産等により経営状態が悪化し、商品の仕入先である乙株式会社から資金援助を受け、同時に乙は、その従業員を甲に派遣して債権管理をし、甲に対し債権を有する者が多数存することおよび甲には後記在庫商品と売掛代金債権のほかにみるべき資産がないことを知りながら、甲をして甲の乙に対する債務の弁済に代えて、在庫商品を仕入価格で乙に譲渡させ、かつ201口の売掛代金債権を乙に譲渡させ、預かっていた代表者印を使用して債権譲渡通知をする等、判示の事情のあるときは、右債権譲渡は、甲・乙が通謀してした詐害行為に当たる。

(最高裁平成10年6月12日判決)
「債務者が自己の第三者に対する債権を譲渡した場合において、債務者がこれについてした確定日付のある債権譲渡の通知は、詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。けだし、詐害行為取消権の対象となるのは、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものであるところ、債権の譲渡行為とこれについての譲渡通知とはもとより別個の行為であって、後者は単にその時から初めて債権の移転を債務者その他の第三者に対抗し得る効果を生じさせるにすぎず、譲渡通知の時に右債権移転行為がされたこととなったり、債権移転の効果が生じたりするわけではなく、債権譲渡行為自体が詐害行為を構成しない場合には、これについてされた譲渡通知のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることは相当とはいい難いからである」

(最高裁平成11年6月11日)共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。
(最高裁平成12年3月9日)「離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は詐害行為とならないが、当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分は慰謝料支払いの名を借りた金銭の贈与ないし対価を欠いた新たな債務負担行為であるから、詐害行為の対象となりうる」

(最高裁平成24年10月12日)「株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」
以上です。

よく判例を読み込んで、自分に該当する部分がないかどうか、検討してみましょう。

といっても、実際には、弁護士に相談しないと対応は難しいでしょう。

さらに、詐害行為は、犯罪(強制執行妨害罪)にも該当する可能性があります。

強制執行妨害目的財産損壊罪(刑法96条の2)
「強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第3号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。

1 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為
2 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為
3 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為

ご相談は、こちらから。
http://www.sai-sei.biz/consult/