認知症ドライバーの交通事故の責任は誰に?高齢者自動車運転問題を考える | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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認知症ドライバーの交通事故の責任は誰に?高齢者自動車運転問題を考える

2016年06月28日

近年、高齢者ドライバーによる交通事故や危険運転が急増しています。
家族としては当然、心配になります。

そこで今回は、高齢の父親の自動車運転を止めさせたいという男性からの質問にお答えします。

Q)今年、父が82歳になりました。もともと頑固オヤジな人でしたが、年を取るにつれ、さらに拍車がかかったような気がします。ところで最近、ニュースなどで高速道路の逆走や、高齢者の起こした交通事故を見ると心配です。先日も、父の隣に乗ったのですが、ヒヤっとすることがありました。父に運転を止めさせるようにできないでしょうか? 法律の話をすれば納得するかもしれないので、高齢者に関する法律や規制などあれば教えてください。

A)2014年6月、改正道路交通法が施行されています。これは、運転に支障を及ぼす可能性のある病気の人に病状の申告を義務化したもので、てんかんや認知症、アルコール中毒などの場合、運転免許の停止や取り消しができるようになりました。しかし、あくまでも病気に関する申告であり、年齢の制限などはありません。また、高齢者の自動車免許を禁止・制限する法律もありません。

高速道路での逆走の70%が高齢者ドライバー!?

東日本・中日本・西日本など高速道路6社の調査によると、2011(平成23)年~2014(平成26)年の高速道路会社管内における交通事故または車両を確保した件数は739件もあったということです。

実際には、確認されなかったケースも含めれば、さらに件数は多いということでしょう。

また、特徴としては以下のことが確認されています。

・内訳は、平成23年が203件、平成24年が202件、平成25年が136件、平成26年が198件
・約半数がインターチェンジやジャンクションで逆走を開始
・65歳以上の高齢者によるものが約70%
・認知症の疑いのある人は約10%
・精神障害や飲酒などの状態を含めた割合は15%
・突出して発生件数が多い地域、箇所は認められない

高速道路各社では、警察や学識経験者とも連携を取りながら逆走原因の分析や対策強化を行っているようですが、数字からは、まだそれほど大きな効果は出ていないようです。

高齢者の交通事故による死者数は増えている!?

次に、高齢者の交通事故に関する統計データを見てみます。

警察庁が公表している「平成26年度年中の交通事故死者数について」の統計によると、平成26年度中の65歳以上の高齢者の死者数は2193人で、全体に占めるは53.3%。
統計がある昭和42(1967)年以降で最も高くなっています。

最新のデータとしては、2015年11月に公表された「交通事故統計(平成27年10月末)」(警察庁)によると、高齢者の死者数は1752人で、全体に占めるは割合53.2%になっています。

全体に占める割合には変化が見られず、相変わらず死者数の半数以上が高齢者となっています

内訳を見ていくと、自動車乗車中が516人で約30%、歩行中が796人で約45%、自転車乗車中が306人で約18%となっています。

また、警視庁がまとめた「高齢運転者が関与した交通事故発生状況(平成26年中)」によると、東京都内における交通事故発生件数は3万7184件で、そのうち65歳以上の高齢者の割合は20.4%というデータが出ています。

なお、高齢者の事故では高速道路での逆走のほか、ブレーキとアクセルの踏み間違い、自動車での鉄道の線路走行なども起きています。

法律では危険運転をどう処罰しているのか?

では、法律では危険運転をどのように処罰しているのでしょうか?

前述したように、2014年6月に道路交通法が改正されています。
これは、運転に支障を及ぼす可能性のある病気の人に病状の申告を義務化したもので、法改正から1年で運転免許の取り消し・停止などの行政処分を受けたケースは7711件にものぼっています。

その内訳は、「てんかん」が最多で2313件、次いで「認知症」の1165件、「統合失調症」の1006件、「再発性の失神」の926件の順となっています。

改正道路交通法では、具体的な病気として、てんかん、統合失調症、睡眠障害、認知症、アルコール・薬物中毒などを規定しています。

虚偽申告した場合は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
ここまで見てきたように、確かに高齢者ドライバーの運転には高いリスクがともないます。
しかし、日本の場合、ご存知のように自動車免許は18歳から取得可能ですが、年齢の上限はありません。

ただし、70歳以上のドライバーは高齢者講習と教習を受ける必要があります。
これに通過しないと、免許を返納しなければいけません。

また通常、自動車免許は5年ごとの更新が義務付けられていますが、70歳以上の場合は3年ごとの更新になっていることにも注意が必要です。

なお、運転免許を自主返納した場合には「運転経歴証明書」を申請することができます。
この、運転経歴証明書を高齢者運転免許自主返納サポート協議会の加盟店や美術館などで提示すると、さまざまな特典を受けることができようになっています。

年による衰えは、認めたくないところかもしれません。

また、生活に車が必要、ということもあるかもしれません。

しかし、いい年齢になって、他人に迷惑をかけることは避けなければなりません。

認知症の高齢者が運転をして交通事故を起こした場合、場合によっては、同居の家族が「監督義務違反だ」として訴えられかねません。

高齢者は、どうしても運動能力が低下します。家族や他人に迷惑をかけないよう、今一度自分の運転能力を見直した方がよいと思います。