ニュース | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 8
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
  • こんなことで逮捕とは…ブレーキなし自転車(ピスト)で全国初逮捕


    ブレーキなしの自転車運転で全国初の逮捕者が出てしまいました。

    警視庁交通執行課は11日、後輪にブレーキがついていない自転車を運転したとして、東京都の男性を道路交通法違反(制御装置不良自転車運転)容疑で逮捕しました。

    男性は、昨年3月に同じ自転車を運転しているところを同容疑で摘発されたにもかかわらず、出頭要請を7回も無視し続けたことで同課は逮捕する必要があると判断したようです。

    男性は、「こんなもので逮捕されるとは思わなかった」と供述しているとのことです。

    参考人ならまだしも、被疑者としての出頭要請ですから、出頭すべきですね。

    ところで、ブレーキのない自転車=ピストバイクとはどういうものなのか簡単に説明しておきましょう。

    ピストバイクは競技用の自転車(トラックレーサー)で、もともとは公道を走るためのものではありません。

    そのためブレーキがついておらず、しかも固定ギアのためペダルを逆回転に回して自転車を止めるのですが、制動力は脚力に依存するため、相当の脚力がないと、急に止まることができないでしょう。

    2000年代半ばに日本にも輸入されるようになり、そのシンプルなスタイリングが美しいということで、ストリートカルチャーやファッションの面で人気になりました。
    壊れにくく、乗り心地が独特ということで愛好家もいます。

    しかし、2年前にはお笑い芸人がブレーキなしのピストバイクを運転していて道路交通法違反(制動装置不良)で交通違反切符を切られたように、このところ摘発者が増えているようです。

    みなさん、ここでもう一度、確認してください!
    ブレーキなしの自転車を運転することは法律で禁じられています。
    もちろん、前輪後輪両方ついていなければいけません。

    道路交通法 第63条の9第1項(自転車の制動装置等)

    自転車の運転者は、内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車を運転してはならない。

    道路交通法施行規則 第9条の3

    1.前輪及び後輪を制動すること。
    2.乾燥した平たんな舗装道路において、制動初速度が10キロメートル毎時のとき、制動装置の操作を開始した場所から3メートル以内の距離で円滑に自転車を停止させる性能を有すること。

    これに違反すると、道路交通法の第120条により5万円以下の罰金となります。

    今年7月に施行された東京都の「自転車安全利用条例」によって、道路交通法に違反する自転車の販売が禁止されたので、ブレーキのない自転車の一般販売も禁止される、ということになります。この動きは全国に広がっています。

    また近年、交通事故は減少しているにもかかわらず、自転車による事故は全体の約2割にも達し増加の一途をたどっています。

    自転車は道路交通法上、「軽車両」です。

    格好いいからという理由だけでブレーキなしの自転車には乗らないこと。
    自分も人も傷つけないよう、安全に十分配慮して自転車を楽しんでほしいと思います。

  • うっかり話してしまった“個人情報”の暴露は犯罪になる!?

    2013年11月14日


    誰にでも口がすべって、余計なことを言ってしまったり、ついうっかり他人に秘密を話しちゃうこと、ありますよね。

    でも、ちょっと待ってください!
    あなたの不用意な一言が犯罪になるかもしれないのです。

    「苦情電話装い威圧、巧みに個人情報を奪った探偵の男が逮捕」

    千葉県のガス会社の顧客情報が流出した事件で、東京都目黒区の調査会社の男が不正競争防止法違反(営業秘密侵害)の疑いで逮捕されました。

    男は契約者になりすましてコールセンターへ苦情電話をかけ、3~4分の1回の電話で契約名義など個人情報を聞き出していたということです。

    ニュースによると、

    その手口は単純にして巧妙で、「料金を払っているのに請求書がきた」と言いがかりをつけ、「名前? さっき言ったでしょ」「漢字は間違ってないか」などと相手を追い詰める。
    電話口で女性職員がひるむと、さらに「画面、ちゃんと見ろよ」「こっちは料金払ってんだ」とたたみかけ、相手が情報を口にするように仕向けていたといいます。

    その後の調べによると、男らは逮捕前に50ほどの自治体に電話をかけていたとみられ、昨年11月に神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件の被害者の住所の割り出しにも関わった疑いもあるということです。

    さて、この不正競争防止法とはどういうものなのでしょうか。条文を見てみましょう。

    不正競争防止法 
    第1条
    この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

    「不正競争」は多岐にわたりますが、たとえば以下のようなものが挙げられます。

    〇既に知られているお店の看板に似せたものを使用して営業する(周知表示混同惹起行為)

    〇ブランドとなっている商品名を使って同じ名前のお店を経営する(著名表示冒用行為)

    〇ヒット商品に似せた商品を製造販売する(商品形態摸倣行為)

    〇企業が秘密管理している製造技術や販売マニュアル、顧客名簿などを持ち出して独立・転職・転売したり、不正に取得する(営業秘密)

    〇CDやDVD、音楽・映像配信などのコピープロテクトを解除する機器やソフトウェアなどを提供する(技術的制限手段に対する不正競争行為)

    〇原産地を誤認させるような表示、紛らわしい表示をして商品にする(原産地等誤認惹起行為)

    〇ライバル会社の商品を特許侵害品だとウソを流布して、営業誹謗する(競争者営業誹謗行為)

    〇外国製品の輸入代理店が、そのメーカーの許諾を得ずに商標を使用する(代理人等商標無断使用行為)

    今回のケースは、不正競争防止法違反の中の「営業秘密侵害」にあたります。

    法律では窃取(せっしゅ)、詐欺(さぎ)、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為や、その営業秘密を使用、開示する行為、不正取得された営業秘密を使用、開示する行為、事業者から開示された営業秘密を、不正に利益を得る目的あるいは事業者に損害を被らせる目的で使用、開示する行為、などを禁止しています。

    探偵の男は不正に顧客情報という「営業秘密」を入手して利益を得ていたので当然、犯罪になります。

    では、顧客情報を漏らしてしまった職員、つまり個人情報を扱う会社の社員が情報を漏らしてしまうと犯罪になるのでしょうか? 

    この職員は威圧的に責められ、心理的には動揺していたでしょうが情報を漏らすつもりなどなかったはずです。
    しかし、自分で気づかぬうちに個人情報を流出させてしまいました。

    この犯罪は、故意犯ですので、故意か、故意ではなかったのか? がポイントとなります。

    よって女性職員は、故意に情報を流出させたわけではないので犯罪にはなりません。

    ところが問題なのは、故意の場合です。

    たとえば昨年、ソフトバンクの代理店の元店長が携帯電話契約者の個人情報を会社外の探偵業者に渡し、報酬を受け取っていたとして逮捕された事件がありました。

    不正競争防止法違反の罰則は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科です。重い罰則です。

    さらには、損害賠償請求の対象になる可能性もあります。

    ほんの出来心や、軽い小遣い稼ぎのつもりでも、個人情報の取り扱いには犯罪にもなりうる危険が潜んでいます。

    うっかりでは済まされない、個人情報を扱う人は十分に注意してください。

  • 暴力団は、自動車保険に入れない!では、被害者は!?

    2013年11月04日

     

    本日付の日経新聞によると、大手損害保険会社は、暴力団関係者が保険を契約できないようにするそうだ。

    暴力団関係者と判明する時期は、①契約時、②契約中、の2段階がある。

    契約時に暴力団関係者と判明した場合は、これまでも保険契約を断ってきた。しかし、契約中に暴力団関係者と判明した場合には、中途解約が難しく、更新時まで待って、更新を拒絶したという。

    そこで、保険約款を変更して、契約途中で暴力団関係者と判明した場合もすぐに保険契約を解除できるようにする、ということだ。

    日本では、すでに47都道府県全てに暴力団排除条例が施行されており、企業は、暴力団に経済的利益を与えることが禁止されている。

    損保会社が暴力団関係者と保険契約を締結し、保険事故があると、暴力団に保険金が支払われる。これは、暴力団に経済的利益を与えることになるため、今回の動きは、条例や今回のみずほ銀行の騒動を踏まえた当然の行動といえる。

    しかし、私は、このような措置によって、自動車事故の被害者に生ずる不利益について心配せざるを得ない。

    つまり、損保会社が、暴力団との自動車保険契約を拒絶し、または解除することによって、暴力団関係者は、自動車に関し、任意保険が無保険状態となる。

    もちろん、自賠責保険の加入は義務づけられているが、同法の保護は、被害者救済のための最低限の保障を定めるにすぎない。

    自賠責保険の金額を超える損害賠償金については、事実上被害者が泣き寝入りする結果となるのではないか、ということである。

    自賠責保険の金額は、たとえば、死亡の場合は、最高3,000万円である。

    そこで、仮に、40歳男性で年収800万円、家族が妻と子供1人、という例で、死亡事故の損害賠償金を算出してみたい。

    この場合、概算で、1億1150万円が、損害賠償額となる。

    この損害賠償額は、被害者が今後働いて得られるお金や慰謝料など、被害者の遺族が当然もらえてしかるべき賠償金である。

    自賠責保険で、3,000万円をもらったとしても、残りの8,150万円が回収不能となってしまうおそれがあるのである。

    損保各社は、契約途中で暴力団関係者と判明した場合は、その後の事故でも保険金を支払う、というが、そのうち暴力団関係者の全ては自動車保険に加入できなくなってしまう。

    その場合の保護はない。

    そのあたりも考えて、政策的保護も検討すべきである。

    なお、暴力関係者の自動車が任意保険未加入であることを想定して、被害者が取り得る手段がある。

    それは、自分に保険をかけておくことである。

    自分の自動車保険に、「無保険者傷害特約」がついていれば、相手が任意保険未加入であっても損害賠償額に相当する保険金が被害者に支払われる。

    「人身傷害補償特約」も有効だ。

    自動車事故は、私たちの想定外の時に被害に遭う。

    想定外の事故の際に身を守るために、自分の保険を見直してみるのもいいだろう。

     

    「交通事故の被害者が知らないと損する知識」の小冊子無料ダウンロードできます。

    http://www.jiko-sos.jp/report/

  • 都市伝説の真相に迫る─自殺部屋の家主に告知義務はあるのか?

    2013年10月31日


    よくある都市伝説や怪談のひとつに、こんな話がありますね。

    引っ越した部屋に住み始めたら、なぜか体調が悪くなってきて、
    病院に行ったけれど、どこも悪くないと言われた。

    そのうち、部屋に誰か人がいる気配がしたり、物音がしたり、夜中に金縛りにあったり。
    しまいには、仕事で大失敗したり、車にはねられてケガをしたり、
    悪いことばかりが立て続けに起きるようになった。

    友人に話してみると、真顔でこんなことを言うのです。
    「その部屋で何かあったんじゃない? 殺人とか、自殺とか……」

    怖くなってきた住人の女性はしかし、好奇心も湧いてきて部屋中を調べてみた。すると、そこにあったのは……

    最近、こんな判決がありました。

    「自殺があったことを告げずに部屋を賃貸。家主の弁護士に賠償命令」

    自殺があったことを告げずにマンションの部屋を賃貸したのは不法行為だとして、部屋を借りた男性が家主の弁護士の男性に対して約144万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10月28日、神戸地裁尼崎支部でありました。

    弁護士の男性は2011年5月に競売で兵庫県尼崎市内のマンションを取得。ところが、それまで住んでいた女性が3日後に部屋で自殺。
    そうした事実を説明せずに2012年8月、男性とこの部屋の賃貸借契約を結んでいたようです。

    男性は引っ越しした後に近所の住人から自殺の話を聞き、翌日には退去。同年9月20日に契約解除を通告したということです。

    裁判で弁護士の男性は、「競売後の手続きは他人に任せており、自殺の報告を受けないまま部屋の明け渡し手続きを終えた」と主張したが、女性の死後に弁護士が部屋のリフォームを指示したことから、
    「およそありえない不自然な経緯」「部屋の心理的な瑕疵(かし)の存在を知らないことはありえない」と裁判官は指摘。
    「一般の人でもこの部屋は住居に適さないと考える。部屋には嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的な欠陥という瑕疵がある」として、賃料や慰謝料など約104万円の支払いを命じました。

    ところで、こんな都市伝説? というか噂がネットにあるようです。

    殺人や自殺があった賃貸物件は、その後に誰か(1人目)が入居したら、
    その次の入居者(2人目)には事実を伝えなくてもいい。
    しかし、1人目は最低1カ月は住まなければいけないので、大家さんはそのためにバイトを雇って住んでもらう。
    バイトは大抵、殺人や自殺や幽霊を気にしない人がやるが、中にはそんな人でも1カ月も住めずに逃げ出してしまう部屋がある。
    だから、その部屋は今でもずっと空室のまま……

    では、バイトの件は置いておいて、そうした“いわくつきの部屋”について法律で解説してみましょう。

    貸室の入居者の自殺は、その後に賃借する人にとっては一般的に嫌悪感を生じる原因となるので、自殺の事実はその部屋を借りるかどうかの重要な要素になります。
    したがって民法95条により、賃借人は事実を知らなかったことを理由に賃貸借契約の無効を主張することができます。

    民法第95条(錯誤)
    意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

    また、賃貸人は自殺後間もない時期に新たに部屋を賃貸する場合には、契約締結の際に事実を告知する義務があります。
    これを怠ると、賃借人は賃貸人に対して告知義務違反を理由として、民法96条により詐欺として契約を取り消したり、解除することができます。
    さらには、賃借人は引っ越し費用や慰謝料などの損害賠償請求もできます。

    民法第96条1項(詐欺又は強迫)
    詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

    ちなみに、宅地建物取引業者、つまり仲介の不動産屋さんも自殺の事実を知っている場合には、告知義務があります。

    したがって、仲介業者がいた場合には、賃借人は、賃貸人と仲介業者を同時に訴えることになります。

    ただし、仲介業者は、事前に自殺があったことを調査する義務まではないと考えられます。

    ところで、賃借人が、部屋を善良な管理者の注意に基づいて使用しなければなりません。

    部屋の中で自殺をすれば、その部屋は心理的瑕疵となり、一般の人に貸すことができなくなるわけですから、部屋の中での自殺は、善管注意義務違反、ということになります。

    そうすると賃借人が善管注意義務に違反して、物件に損害を与えた場合には、賃貸人には賃貸借契約に基づき、連帯保証人や賃借人の相続人への損害賠償請求が認められることになります。

    さまざまな理由があっての自殺なのでしょうが、残された人には精神的ダメージに加えて、金銭的な負担ものしかかってきます。

    自殺を自分の命を絶つだけだと考えている人がいるかもしれませんが、とんでもないことです。

    周りの人に迷惑をかけてしまうことを憶えておかなければなりません。

    それにしても、今回のニュース、たまたま賃貸人の職業が弁護士だったということでニュースになってしまったのでしょう。

    弁護士が犯罪を起こした場合も、すぐにニュースになります。

    それだけ高い規範意識が求められている、ということだと思います。

    弁護士には高い職業倫理が求められますので、いっそう身を引き締めて日々生活していきたいと思います。

  • 亀岡市登校中児童ら交通事故死事件の刑が確定

    2013年10月24日


    ある日突然、愛する人が交通事故で亡くなったら、あなたはどうしますか?
    もし、大切な人が交通事故で誰かを傷つけてしまったら?

    昨年4月、京都府亀岡市で集団登校中の小学生と引率の保護者ら10人が暴走車に次々とはねられ、3人が死亡、7人が重軽傷を負った事故を記憶している人も多いでしょう。

    無免許運転で10人を死傷させた事故が、なぜ危険運転ではないのか? そもそも、危険運転とはどういうものなのか? 事故後、マスコミや世論で、かなり議論が高まりました。

    ところで、無免許で車を運転して、自動車運転過失致死傷罪と道交法違反(無免許運転)の罪に問われていた無職少年(19)の刑が今月の16日、確定しました。
    懲役5~9年の不定期刑、というものでした。

    この事故では、少年が「危険運転致死傷罪」にあたるかが争点になりました。

    危険運転致死傷罪(『刑法』第208条2項)の中に、進行を制御する技能を有しないで自動車を運転して事故を起こし、他人に怪我をさせたり、死亡させたりした場合、最長懲役20年に処する、というものがあります。

    車を発進させたものの、ハンドル操作ができずにまっすぐ走れない。あちこちぶつけたり、フラフラと蛇行運転する。ブレーキ操作がわからず、つねに急ブレーキになるなどの状態を危険運転としています。

    事故の前夜から、入れ替わり友人らを乗せながら、少年は京都市内と亀岡市内で30時間以上ドライブを続け、翌朝、居眠り運転で児童たちの列に突っ込みました。

    当初、京都地検や京都府警は「自動車運転過失致死傷罪」(『刑法』第211条2項)よりも罰則の重い、危険運転致死傷罪の適用を視野に入れていました。
    被害者側も重い罰則を求めていました。

    しかし京都地検は、少年は以前から無免許運転を繰り返しており、事故の直前も無事故で長時間運転していたことから、運転技術はあると判断し、自動車運転過失致死傷罪で起訴。

    一審判決では、懲役5年以上8年以下の不定期刑が言い渡されました。

    そして今回、二審の判決の後、検察側と弁護側双方が上告しなかったため、刑の確定となったわけです。

    ではなぜ、無免許運転にも関わらず、この事故は危険運転と認められなかったのでしょうか。

    2001(平成13)年の刑法改正まで、自動車事故はすべて「業務上過失致死傷罪」(『刑法』第211条)で処罰されていました。最長5年の懲役です。

    しかし当時、危険な運転による事故が多発していたことで、危険運転致死傷罪という重罰を作りましょうということになりました。

    ここでは、特に危険な5つの運転行為を危険運転致死傷罪として定めたために、免許の有無ではなく、運転技術の有無が重視されることになったのです。
    つまり運転技術があれば、たとえ無免許でも危険運転にはならないということです。

    ただ近年、無免許による重大事故が頻発しているように思います。
    無免許を危険運転としなくてもいいのか、という議論もだんだんと盛りあがってきています。

    日本には運転免許制度があり、免許がなければ自動車の運転はできない国なのです。
    そうであるにも関わらず、自分が無免許であることを知りながら運転して事故を起こす。

    これが危険運転ではなくていいのかという議論は、当然なされていい。危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪をさらに重罰にするような改正論議がなされていいのではないかと私は考えます。

    平成25年6月7日の衆議院本会議で、改正道路交通法が可決しました。

    その内容の一つに無免許運転の罰則強化があります。

    旧法では、無免許運転の法定刑は、「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」でしたが、改正道路交通法では、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

    しかし、それでも無免許による重大事故を起こした者を罰するには刑が軽すぎるのではないか、という議論がなされていました。

    そこで、第183回国会に、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案」が提出されましたが、まだ成立していません。

    この法律では、無免許運転で自動車事故を起こした場合の刑を重くする内容が含まれていますので、議論の動向を見守りたいと思います。

    詳しくは、また機会があるときに解説したいと思います。

    交通事故被害者が知って得する無料小冊子は、こちら。
    http://www.jiko-sos.jp/report/?blog

  • 有名人の飲酒暴行事件が多発中。お酒にはご用心!

    2013年10月18日


    酔って狂乱、醒めて後悔。

    ドイツのことわざにあるそうです。

    日本のことわざにもありますね、酒は飲んでも飲まれるな……
    身につまされる経験をした人も多いのではないでしょうか。

    さて最近、酔ったいきおいでタクシー運転手に暴行する事件が立て続けに起きています。

    タクシー運転手を殴るなどしたとして、サッカー元日本代表の前園真聖氏(39)が暴行容疑で現行犯逮捕(10月13日)

    また、タクシー運転手を蹴るなどしたとして、女優の松雪泰子さんの弟でミュージシャンの男(34)が傷害容疑などで現行犯逮捕(10月11日)

    タクシー運転手に暴行し、料金を踏み倒したとしては集英社社員で『週刊ヤングジャンプ』の編集長の男(46)が強盗容疑で逮捕(10月16日)

    楽しいお酒の酔いのはずが他人を傷つけ、自分自身も傷つけてしまった残念なケースです。

    お酒は楽しく、美味しくいただきたいものですが、
    じつは、「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」(通称、酔っ払い防止法)
    というものがあるのを、ご存じでしょうか?

    これはお酒の飲み過ぎによって、個人や社会に与える悪影響を防止しようというのが趣旨です。

    たとえばこの法律の中には、警察官は酩酊者の保護をする義務がある、とあります。
    つまり、ベロンベロンに酔っぱらって、その辺で寝ていると警察に連れて行かれるということです。

    さらには、酩酊者が、公共の場所や乗り物で、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をした時は、拘留又は科料に処する、とあります。

    これは要注意です。酔って人に迷惑をかけるのは犯罪だということです。
    場合によっては、殴るなどの暴力をふるわなくても逮捕されてしまうわけですね。

    今回の3件のケースでは、酒に酔ったうえで殴る、蹴るなどの暴行をタクシー運転手に加えているため、『刑法』の傷害の罪が適用されます。

    第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    ところで、前園氏は、酒に酔って暴行をした、とういことになっています。

    当初、「酒に酔って憶えていない」と供述していたそうです。

    弁護士をしていると、酒に酔って暴行をしてしまった人の弁護をすることがありますが、「酔って憶えていない」と弁解する人が多いです。

    確かに、酔っ払った時の言動を全然憶えていない人は、私の周りにもいます。

    ここでひとつ難しく、デリケートな問題があります。
    心神喪失状態での暴行ではないか、ということです。

    『刑法』では、こう定めています。

    第39条(心神喪失及び心身耗弱)1項
    心神喪失者の行為は、罰しない。

    心神喪失とは、罪を犯した者が物事の是非や善悪を判断できない状態のことで、責任能力がないと判断されれば、無罪となることがあるのです。

    実際の裁判では、専門家による精神鑑定などが行われ、その結果をもとに判断されます。

    多くの場合には、被告人が「酔って憶えていない」と主張し、弁護人が「心神喪失」の主張をしても、「判断能力あり」として、有罪判決が下されます。

    今回も、「心身喪失」の主張は難しいのではないでしょうか。

    酒癖が悪い人は、周りから、酒に酔った時にどのような状態になっているか、聞いているはずです。

    酒を飲み始める時は、判断能力があるのですから、その時に、節制する強さを持ちたいものです。

  • ”倍返し”には、犯罪が成立する!?

    2013年10月12日


    ちょっと昔の、なつかしい話ですが、
    昭和の時代、『あしたのジョー』という漫画がありました。

    ボクシング漫画の金字塔ともいわれる名作で、
    『週刊少年マガジン』に連載当時(1967年‐1973年)から人気を博し、テレビアニメも大人気でした。

    私は、テレビアニメから観始めたのですが、すぐにとりこになり、欠かさず観ていました。

    主人公の矢吹 丈(やぶきじょー)の必殺技は、クロスカウンターパンチでした。

    クロスカウンターというのは、たとえば相手が右ストレートを打ってきたとき、それに合わせて、こちらはその外側から左フックをクロスするように繰り出し、相手の顔面に逆襲のパンチをお見舞いするもので、漫画の中では、『半沢直樹』の“倍返し”のさらに倍、“4倍返し”の威力があるパンチだと描かれていました。

    相手の虚をつく逆襲の攻撃は威力があるわけです。

    最近、こんな事件が起きました。

    10月3日午後10時過ぎ、東京都足立区の路上で、10代の女性が、「知らない男に襲われ、ナイフで刺して逃げてきた」と助けを求めました。
    その後、付近で太ももから大量の血を流して、意識を失っている男を発見。
    男は搬送先の病院で死亡が確認されたようです。

    女性は荒川沿いの土手をジョギング中に男に襲われ、ナイフを突きつけられ、キスされたり体を触られたが、男が持っていたナイフを地面に置いた隙に奪い、太ももを刺して逃げたそうです。

    50代前後とみられる男の身元は不明で、容疑者死亡のまま強姦未遂容疑で書類送検されるようです。

    法的に見てみると、男の方は、「強姦未遂」の容疑者。

    女性の方は、「傷害致死罪」の容疑者、ということになるでしょう。

    しかし、女性は、自分の身を守るために男を刺した可能性がありますので、正当防衛が成立する可能性があるとみて、警察が調査中とのことです。

    では、「正当防衛」について、『刑法』の条文を見てみましょう。

    第36条(正当防衛)
    ①急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

    ②防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

    自分に対して、違法な侵害行為が実際にある、または、間近に押し迫っているという緊急状態において、自分を守るための防御として、侵害者に対し、やむを得ず反撃する行為を正当防衛といいます。

    報道だけでは、本件の詳しい状況はわかりませんが、暗闇でナイフを持った男に襲われるという、女性にとっては圧倒的に不利で危険な状況に於いて、男のナイフを奪い、とっさに急所ではない太ももを刺したわけですから、正当防衛が認められる可能性があります。

    しかし、当たり所ならぬ、刺し所が悪かったのでしょう。
    太ももの動脈を切断したことによる出血多量死だったのかもしれません。

    状況的には、正当防衛が成立する可能性が高いと思われますが、今後の警察の捜査を待ちたいと思います。

    ところで、「喧嘩は先に手を出させれば正当防衛が成立する」ともいわれますが、じつは法律の世界では、そうともいえません。
    “過剰防衛”が適用される場合があるからです。
    条文の②がそれに当たります。

    相手が殴りかかってきて、それを振り払って難を逃れたのに、さらに追撃してボコボコにしてしまった、という場合には、過剰防衛となり、罪に問われる可能性があります。

    ドラマの半沢直樹は、“倍返し”が魅力でしたが、その復讐心による反撃が、現実世界では程度を超えた過剰防衛とみなされれば、犯罪になりうるのです。

    民事でも同じです。

    アパートの一室を貸しているときに、賃借人が賃料を滞納したことに対し、対抗手段として、アパートのドアの鍵を取り替えて入れなくしたりすると、逆に賃借人から「慰謝料請求」という“倍返し”をされます。

    相手が法に違反したときに、実力行使によって自分の権利を回復することは違法なのです。

    全てが法で解決できるほど司法制度は整っていませんが、現代の日本社会は、“法治国家”という建前で動いていることに注意しなければなりません。

  • 半沢直樹による大和田常務への強要罪は成立するか?

    2013年10月09日


    TVドラマ『半沢直樹』が大ヒットしたおかげなのか、
    今、日本では“土下座”がブームらしい!?
    そこで本日の話題は、土下座をさせると罪に問われるのか? です。

    札幌東署は10月7日、札幌市内の衣料品チェーン「ファッションセンターしまむら 苗穂店」で、購入した商品が不良品だと訴えて従業員に土下座をさせたうえ、自宅に来て謝罪するよう約束させたとして、“強要”の疑いで女(43)を逮捕しました。

    女は、土下座をする従業員2人を携帯電話で撮影。画像を投稿サイト「ツイッター」に投稿したことで、ネット上で大きな騒ぎになっていました。

    ニュースによると・・・

    事件が起きたのは9月3日午後6時ころ。
    「しまむら」で「(前日の2日に)購入したタオルケットに穴が開いていた。返品のために店に来るのに使った交通費と時間を返せ」などとクレームをつけ、容疑者の女はパート従業員の女性(32)ら2人に土下座を強要。さらには、自宅に来て謝罪するとの念書を書かせたといいます。
    調べに対して女は、「強要はしていない」と容疑を否認しているようです。

    一方、2人の女性従業員は、「タオルケットの代金980円は返却。交通費は払えない」と説明すると、土下座を強要されたといいます。
    その後、従業員らは容疑者宅へは訪れず、同店が札幌東署に相談。
    従業員が9月下旬に同署に被害届を出していたようです。

    ネット上では投稿者の容疑者に対して、「不愉快」「非常識だ」などの批判が集中。
    「半沢直樹の見過ぎだ」「しまむらが“倍返し”だ」などの書き込みもありました。

    さて、その『半沢直樹』。
    9月22日に放送された最終回の視聴率は、平成のドラマでは史上1位の42.2%(関東地区平均)。大きな話題になりました。

    最終回のクライマックスは、半沢直樹が大和田常務に土下座を迫る衝撃のシーン。
    過去、半沢の父に土下座をさせて、自殺に追いやった大和田常務に対する半沢の「倍返し」でした。
    (結局、最後は倍返しにもならなかったわけですが……)

    それでは、ここで問題です。
    法律上、はたして半沢直樹に強要罪は成立するのでしょうか?

    関連記事 
    強要罪と脅迫罪の違い

    『刑法』には、こうあります。

    第223条(強要)1項
    生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

    条文に当てはめて考えてみると、ヒントは第10話の最終回にありました。
    東京中央銀行の取締役会でのこと。
    大和田常務に土下座することを求める半沢が言います。

    半沢「大和田常務、私との約束、覚えていらっしゃいますね?」
    大和田「や、約束?」
    半沢「私に以前、もし伊勢島ホテルの120億損失の隠蔽を指示した人物が大和田常務、あなただったら、私に土下座してくださると約束してくださいましたね」

    そうです、大和田常務は半沢に土下座の約束をしていたのです。
    つまり、大和田常務は半沢に対して土下座をする義務がないとはいえないのです。そして、半沢は、大和田常務に対し、暴行もしていないし、脅迫もしていません。

    よって、最終的には半沢への強要罪は成立しないということになります。

    感情に任せて、相手に土下座を強要することも、または簡単に土下座の約束をすることも、ドラマの世界ではアリだとしても、現実には御法度ということです。

  • 自転車事故の少年の母親に9500万円の賠償判決

    2013年06月20日


    平成20年9月22日午後6時50分ごろ、神戸市の住宅街の坂道で自転車事故が起きました。

    当時11歳だった少年は自転車で坂を下っていたが、知人と散歩していた女性に気づかず、衝突し、頭を強打。意識は戻らず、4年以上が過ぎた今も寝たきりの状態が続いているとのことです。

    そこで、母親の家族と保険会社が提訴。

    先日、神戸地裁は、少年の母親に、被害者の女性側へ約3500万円、女性に保険金を払った保険会社へ約6000万円の合計約9500万円の賠償を命じました。

    賠償を命じられた母親は、控訴したそうです。

    この判決をめぐって、ネット上では議論が広がっています。

    疑問を解消しましょう。

    ●なぜ、自転車の事故で9500万円もの賠償が命じられるのですか?車とは違うと思いますが・・・

    確かに金額だけを見れば、多額の賠償額に驚くかもしれません。
    しかし、被害者から見たら、どうでしょうか。

    ・被害者は、今後働いて得る収入がなくなります。(逸失利益)

    ・被害者は、寝たきりですので、生涯介護が必要です。その介護費用は、誰が負担すべきでしょうか?

    ・被害者が寝たきりになったことによる精神的苦痛は、誰が負担すべきでしょうか?

    このように考えると、9500万円という金額は、これまでの判例の計算式から考えても特段珍しいことではありません。

    金額の調整は、「過失相殺」で行われます。

    今回の被害者が気をつければ、この事故を避けられたか、そこに被害者側の過失があれば、金額が少なくなることになります。

    今回の事故の詳しい状況がわからないので、過失相殺の妥当性については検証できません。

    ●なぜ、被害者よりも、保険会社の取り分が多いのですか?

    これも事案がわからないので、はっきりとは言えませんが、この保険会社は、被害者側がかけていた保険で、保険金として、被害者側に対して約6000万円を支払ったのだと思います。

    その場合、本来被害者が加害者に対して請求できる損害賠償金のうち、6000万円を代わりに支払ったと考えて、保険会社が、被害者が持っている損害賠償請求権を代わりに行使できるような契約になっているのです。

    そして、保険会社から支払ってもらった保険金では、全ての損害が填補されなかったので、被害者側も訴えて、その結果、不足分の約3500万円が認められたのだと思います。

    ●なぜ、少年ではなく、母親に賠償命令がなされたのですか?

    法律では、未成年者の場合、自分の行為の是非善悪を判断する能力がなければ、不法行為に基づく賠償責任を負わないとされています。

    そして、その場合には、親などの監督義務者が監督義務を果たしたことを立証しない限り、損害賠償義務を負う、ということになっています。

    その是非善悪を判断する能力は、何歳から認められるのか、ということですが、決まりはありません。個別事情によって判断されます。

    過去の例では、11歳11ヶ月で責任能力を認められた例、12歳2ヶ月で責任能力が否定された例などがあります。

    今回の加害者少年は、事故当時11歳ということで微妙な境界線上ですが、おそらく責任能力が否定され、監督義務者である母親に認められた、ということでしょうか。
    (この点も判決を読んでいないので定かではありません)

    今回、約9500万円の賠償命令が下りましたが、一般的な家庭では、こんなに多額の賠償金を支払うことはできません。

    母親が自己破産をしてしまうと、回収不能となってしまいます。

    そうすると、被害者の将来介護費などは、どうなるのでしょうか?

    そう考えると、自転車についても、強制保険や任意保険を整備してゆく必要があるように思います。

  • 万引きが無期懲役になる可能性が?

    2013年04月07日


    埼玉県のパート従業員(56)が、スーパーで日本酒などを万引きし、店の外に出たところで女性警備員に声をかけられたことから、その女性警備員の左手を爪でひっかいて軽傷を負わせる、という事件が起きました。

    この万引き犯人は逮捕されました。

    ニュース
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130407-00000518-san-soci

    容疑は、何だと思いますか?

    万引きというのは、他人の物を盗む行為なので、窃盗罪ですね。

    でも、それでは足りません。

    犯人は、女性警備員に軽傷を負わせています。

    傷害罪でしょうか?

    いえいえ、今回の容疑は、強盗致傷の容疑です。

    え?
    万引きが強盗致傷?

    強盗は、暴行や脅迫を加えて、金目の物を要求する場合に成立します。

    今回は、万引きですから、暴行・脅迫を加えていませんね。

    では、なぜ強盗なのでしょうか?

    実は、刑法には、「事後強盗罪」というものがあります。

    それは、窃盗犯人が、盗んだ物を取り戻すのを防いだり、逮捕を免れたりするために暴行・脅迫を加えた場合にも、強盗と同じに処罰する、というものです。

    今回は、「万引き=窃盗犯人」が、女性警備員から物を取り戻すのを防いだり、逮捕を免れたりするために「ひっかいた=暴行」ことから、強盗致傷の容疑がかかってしまったのです。

    強盗致傷罪の法定刑を、ご存じですか?

    無期懲役又は6年以上20年以下の懲役です。

    とても重いのです。

    窃盗罪自体は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金なのですが、ちょっとしたことで、このように罰則が跳ね上がってしまいますので、注意しなければなりません。

    こうなると、魔が差した、では済まされません。

    人生を誤らないため、よく憶えておいていただきたいと思います。