自転車事故の少年の母親に9500万円の賠償判決 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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自転車事故の少年の母親に9500万円の賠償判決

2013年06月20日


平成20年9月22日午後6時50分ごろ、神戸市の住宅街の坂道で自転車事故が起きました。

当時11歳だった少年は自転車で坂を下っていたが、知人と散歩していた女性に気づかず、衝突し、頭を強打。意識は戻らず、4年以上が過ぎた今も寝たきりの状態が続いているとのことです。

そこで、母親の家族と保険会社が提訴。

先日、神戸地裁は、少年の母親に、被害者の女性側へ約3500万円、女性に保険金を払った保険会社へ約6000万円の合計約9500万円の賠償を命じました。

賠償を命じられた母親は、控訴したそうです。

この判決をめぐって、ネット上では議論が広がっています。

疑問を解消しましょう。

●なぜ、自転車の事故で9500万円もの賠償が命じられるのですか?車とは違うと思いますが・・・

確かに金額だけを見れば、多額の賠償額に驚くかもしれません。
しかし、被害者から見たら、どうでしょうか。

・被害者は、今後働いて得る収入がなくなります。(逸失利益)

・被害者は、寝たきりですので、生涯介護が必要です。その介護費用は、誰が負担すべきでしょうか?

・被害者が寝たきりになったことによる精神的苦痛は、誰が負担すべきでしょうか?

このように考えると、9500万円という金額は、これまでの判例の計算式から考えても特段珍しいことではありません。

金額の調整は、「過失相殺」で行われます。

今回の被害者が気をつければ、この事故を避けられたか、そこに被害者側の過失があれば、金額が少なくなることになります。

今回の事故の詳しい状況がわからないので、過失相殺の妥当性については検証できません。

●なぜ、被害者よりも、保険会社の取り分が多いのですか?

これも事案がわからないので、はっきりとは言えませんが、この保険会社は、被害者側がかけていた保険で、保険金として、被害者側に対して約6000万円を支払ったのだと思います。

その場合、本来被害者が加害者に対して請求できる損害賠償金のうち、6000万円を代わりに支払ったと考えて、保険会社が、被害者が持っている損害賠償請求権を代わりに行使できるような契約になっているのです。

そして、保険会社から支払ってもらった保険金では、全ての損害が填補されなかったので、被害者側も訴えて、その結果、不足分の約3500万円が認められたのだと思います。

●なぜ、少年ではなく、母親に賠償命令がなされたのですか?

法律では、未成年者の場合、自分の行為の是非善悪を判断する能力がなければ、不法行為に基づく賠償責任を負わないとされています。

そして、その場合には、親などの監督義務者が監督義務を果たしたことを立証しない限り、損害賠償義務を負う、ということになっています。

その是非善悪を判断する能力は、何歳から認められるのか、ということですが、決まりはありません。個別事情によって判断されます。

過去の例では、11歳11ヶ月で責任能力を認められた例、12歳2ヶ月で責任能力が否定された例などがあります。

今回の加害者少年は、事故当時11歳ということで微妙な境界線上ですが、おそらく責任能力が否定され、監督義務者である母親に認められた、ということでしょうか。
(この点も判決を読んでいないので定かではありません)

今回、約9500万円の賠償命令が下りましたが、一般的な家庭では、こんなに多額の賠償金を支払うことはできません。

母親が自己破産をしてしまうと、回収不能となってしまいます。

そうすると、被害者の将来介護費などは、どうなるのでしょうか?

そう考えると、自転車についても、強制保険や任意保険を整備してゆく必要があるように思います。