弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 9
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  • 子供が起こした事故は誰の責任? 最高裁判決

    2015年04月12日

    子供が起こしてしまった問題については、当然、親が責任を取るべきという認識が一般的でしょう。

    同級生をいじめた、お店の商品を万引きした、他の子供にケガをさせてしまった…そんな場合では、親が相手方や関係者に謝罪をするということが行われます。

    では、子供が故意ではなく行った行為によって死者が出てしまった場合はどうでしょうか。
    その責任は誰が取るべきなのか? どこまで親が負うべきなのか? 被害者や遺族の補償は誰がするべきなのか? という問題が出てきます。

    そうした裁判で、最高裁が初めてとなる判断をしました。

    「小6蹴ったボールよけ死亡、両親の監督責任なし」(2015年4月9日 読売新聞)

    子供が起こした事故が原因で男性が死亡したとして、その遺族が子供の両親に損害賠償を求めた訴訟の上告審が2015年4月9日、最高裁でありました。

    最高裁は、「通常は危険がない行為で偶然損害を生じさせた場合、具体的に予見可能だったなどの特別な事情が認められない限り、原則として親の監督責任は問われない」との初判断を示しました。

    そのうえで、1、2審の賠償命令を破棄し、遺族側の請求を棄却する判決を言い渡したことで両親側の逆転勝訴が確定しました。

    事故が起きたのは2004年2月。
    場所は、愛媛県今治市の市立小学校の校庭と隣接する道路。

    放課後に子供たちがサッカーで遊んでいた際、小6男児(当時11歳)がフリーキックの練習で蹴ったボールが、ゴールを越え、さらに高さ1・3メートルの門扉を越えて道路に転がり出たところ、これを避けようとしたオートバイの男性(当時85歳)が転倒し、足の骨折などで入院。
    その直後から痴呆の症状を発症し、約1年4ヵ月後に肺炎で死亡したというものです。

    1審・大阪地裁、2審・大阪高裁はともに、男児に過失があったと認める一方、11歳だったことから責任能力はないと判断。

    2審判決では、親の監督責任について、「校庭ならどう遊んでもいいわけではなく、それを男児に理解させなかった点で両親は義務を尽くしていない」として、両親に約1180万円の賠償を命じていました。

    今回の裁判では、これを前提に、親の監督責任の有無が争点となっていました。

    判決での指摘、内容は次のとおりです。

    「男児の行為について」
    ・開放された校庭で、設置されたゴールに向けてボールを蹴ったのは、校庭の日常的な使用方法だ。
    ・門とフェンス、側溝があり、ボールが道路に出るのが常態だったとも言えない。

    「親の責任について」
    ・人身に危険が及ばないように注意して行動するよう、親は子供に日頃
    ら指導監督する義務がある。
    ・しかし、今回の男児の行為については、「通常は人身に危険を及ぼす行為ではなかった」としたうえで、「両親は日頃から通常のしつけをしており、今回のような事故を具体的に予想できるような特別な事情もなかった」と監督責任を否定。

    なお、男性の遺族側は、今治市には賠償を請求していないため、訴訟では学校側の安全管理の当否は争点にならなかったようです。

    子供の両親は、「親として、少なくとも世間様と同じ程度に厳しくしつけ、教育をしてきたつもりでした…(中略)…(1、2審で)違法行為だと断じられたことは、我々親子にとって大変ショックで、自暴自棄になりかけたこともありました」と、これまでの裁判を振り返ったものの、一方、「被害者の方のことを考えると、我々の苦悩が終わることはありません」とコメントを発表したということです。
    今回の判決では、子供の行為と男性の死亡の因果関係に争いはなく、両親が監督義務を尽くしていたかが争点となっていたわけです。

    親の監督責任については以前、解説しました。
    詳しい解説はこちら
    ⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1217

    未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    関連する条文を見ていきましょう。

    「民法」
    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
    第712条(責任能力)
    未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
    第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
    1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    今までの司法判断では、多くの事故で親の監督責任を認めてきたわけですが、今回の判決で今後の流れが変わるかもしれません。

    判決に対する意見も、さまざまあります。
    各紙報道からコメントを抜粋してみましょう。

    「放課後の学校の校庭でゴールに向かってボールを蹴ることが、法的に責められるくらい悪いことなのか、疑問がずっとぬぐえなかった。主張が認められ、ひとまず安堵しています」(少年の両親)

    「これまでの判決は、子どもの行為に対して親に過大な責任を負わせてきた。子どもの加害行為にも、いろいろな性質のものがある。それに応じて親の責任を限定する考え方を最高裁が示してくれた」(両親側の代理人弁護士)

    「予測もできない形で子供が相手にケガをさせてしまう場合がある。そこも親の責任といわれたら、子供を閉じ込めておくしかない」(東京都・主婦)

    「子供の行動はやっぱり親の責任。でも彼らは親の想像も及ばないことをする」(東京都・2児の母)

    「しばしば、サッカーボールが飛んできて壁にあたる。公園の柵には“駐車中の車が破損する被害がありました。ボールをぶつけた人は連絡を”という区の呼びかけがあった。被害にあったら誰かに責任を取ってほしいと思いますよね」(東京都・71歳男性)

    「子供は自由な発想の遊びを通じて育つ。大人の知恵と工夫で、子供の育ちをどう保障するか考えていくべきだ」(「こども学」の大学教授)
    今回の判決を受けて、子供が起こした事故については、これまでより少し判断がしやすくなったといえるでしょう。
    しかし、依然として難しい問題です。

    たとえば、けんかで相手にケガをさせた、危険な行為で自転車運転をして人に衝突したという行為と、今回のような校庭でサッカーをしていたということは同列に扱う問題ではないとも言えます

    さらに、子供の行為で両親が全責任を問われるのは酷ではあるが、その責任を否定すると、死亡した被害者と遺族は何の補償も得られない、という問題も出てきます。

    この部分のバランスをどうとっていくかは、今後の動向を見守っていく必要があるでしょう。

    また、子供を持つ親御さんは、個人賠償責任保険や自転車保険、傷害保険や自動車保険の特約などの加入も検討した方がよいでしょう。

    予防は治療に勝る、ということわざもあります。
    不測の事態に備えて、できることをしておくことは何においても重要なことだといえますね。

  • 手の甲をなめただけで強制わいせつ罪で逮捕

    2015年04月08日

    野生動物たちは傷ついたとき、傷口をなめ、ひとり静かに傷の治りと体力の回復を待つといわれます。

    専門的には、そうした行為を「ズーファーマコロジー」と呼ぶのだそうです。

    人間も子供の頃などは、すり傷や切り傷をすると自分でなめたり、つばをつけたりしますね。
    痛みを和らげるためにも、本能的になめるのかもしれません。

    実際、だ液には殺菌作用があり、また上皮成長促進因子という成分のおかげで傷の治りが早くなるという研究報告もあるそうです。

    なめるという行為には、こころと肉体両面の癒し効果があるのでしょう。

    しかし、他人をなめるときは、もちろん注意が必要です。
    なめる相手、場所、部分、やり方を誤ると犯罪になる可能性があります。

    「女性の腕つかみ手の甲なめた男“覚えていない”」(2015年4月4日読売新聞)

    茨城県警鹿嶋署は、自称土木作業員の男(57)を強制わいせつ容疑で逮捕しました。

    報道によると、事件が起きたのは4月2日午後3時40分頃。
    男は、鹿嶋市内の路上を歩いていた10代の女性の腕をつかみ、手の甲をなめたようです。

    「酔っぱらっていて覚えていない」と男は容疑を否認しているということです。
    以前、「準強制わいせつ罪」と「強制わいせつ罪」の違いについて解説しました。
    詳しい解説はこちら
    ⇒「強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪の本当の違いとは?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1312

    13歳以上の者に対して、「暴行」や「脅迫」によって被害者を心神喪失や抗拒不能状態にしたうえで事におよんだ場合、強制わいせつ罪となります。

    6ヵ月以上、10年以下の懲役が科されます。

    刑法上、わいせつな行為とは、「性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」とされています。
    どのような行為が「わいせつ」とされるかについても、以前解説しているので参考にしてください。

    詳しい解説はこちら
    ⇒「スカートめくりが「いたずら」から「犯罪」に昇格」
    https://taniharamakoto.com/archives/1690

    ところで、この事件には報道内容からだけでは見えてこないのですが、警察と容疑者の間の3つの争点があると思います。

    1.どのような「なめ方」をしたのか?
    通常、こうした事件の場合、まずは暴行罪で逮捕して、途中から容疑を切り替えることが多いものです。
    しかし、今回は最初から強制わいせつ容疑で逮捕しています。
    よほど「卑猥(ひわい)」で「猥褻(わいせつ)」な「なめ方」をしたのかもしれません。

    判例では、強制わいせつでの暴行行為については、殴る、蹴るはもちろん、体を押さえたり、着衣を引っ張ったりすることも含まれるとされていますので、女性の手を引っ張ったという容疑者の行為は暴行の要件を満たしているといえます。
    2.酒に酔っていて覚えていない、は通用するか?
    容疑者は、酔っ払っていて覚えていないと供述しているようですが、それは通用するでしょうか?

    刑法上、刑罰に触れる行為をした者の中で、自分がしたことの善悪が判断できなかったり、善悪の判断に基づいて行動する能力がない者は「心神喪失」状態だったとして処罰されないことになっています。
    また、上記のような能力が普通の人よりも著しく劣っている者は「心神耗弱」として、刑が通常より軽くされることになっています。

    ただ、心神喪失と認定されるのは稀で、警察庁が公表している「犯罪白書」によれば、たとえば、裁判で無罪認定を受けた人数は、平成25年は3人、平成24年は1人、平成23年は1人、平成22年は2人、平成21年は5人となっています。
    (心神耗弱とされる人数は心神喪失の数より多く、たとえば平成7年から10年間の平均では年80.4人となっています)

    そもそも、容疑者は「酒に酔っていた」という認識があるわけですから心神喪失や心神耗弱が認められることはまずないと思われます。
    3.男は、なぜなめたのか?
    容疑者の男は、なぜ女性の手をなめたのでしょうか?

    彼なりの挨拶のようなものだったのでしょうか?
    映画を観ると、よく男性の紳士が女性の手の甲にキスをして挨拶しているようですが・・・。

    それとも……犯行直前までテキーラを飲んでいたのかもしれません!

    ・ライムを、きゅっとかじる
    ・テキーラを口に流し込む
    ・飲んだら親指と人差し指の「股」のところに置いた塩をなめる

    あの伝統的な飲み方を繰り返したあげく、酔っ払って路上を歩いたところ、また塩がなめたくなり、自分の手と間違って女性の手をなめてしまった……。
    そういう事情かもしれません。

    しかし、私が弁護人なら、そういう主張は、恥ずかしくてなかなかできるものではありません。

    色々な争点のある本件、警察の捜査を待ちたいところです。

    さて、テキーラでも飲みに行くますか!
    ( ^_^)/▼☆▼\(^_^ ) ノミマスカッ!!

  • パワハラで和解金6,000万円!?

    2015年04月05日

    パワハラ自殺による損害賠償訴訟が後を絶ちません。
    今回は、大阪での事例です。

    「積水ハウス、パワハラ自殺和解金6千万円支払い」(2015年4月2日 読売新聞)

    「積水ハウス」の社員だった男性(当時35歳)が自殺したのは、上司のパワハラが原因だったとして、両親が慰謝料など約9280万円の損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁でありました。

    男性は2010年8月以降、兵庫県西宮市内の事務所で客からの苦情対応などを担当。
    上司から、部下の指導が不十分との理由で「死んでしまえ」、「クビにするぞ」などと日常的に罵倒されるようになり、2011年9月1日に行方不明に。
    6日後、大阪市内の淀川で溺死しているのが見つかったということです。

    神戸西労働基準監督署は、心理的負荷で適応障害を発症したことが自殺につながったと認定。
    そこで、両親は2013年2月に提訴。

    同社側は「指導のための叱責はあったが、罵倒はしていなかった」などとして請求棄却を求めていたようですが、和解金6000万円を支払う条件で和解しました。

    同社は、「円満に解決するために和解したが、コメントは控えたい」としているということです。
    パワハラについては以前にも解説しています。
    詳しい解説はこちら⇒「これは、酷い!パワハラ自殺で5790万円」
     https://taniharamakoto.com/archives/1743

    パワハラが起きると、会社は多額の損害賠償金を支払わなければいけなくなる可能性があります。

    なぜなら、会社には「職場環境配慮義務」や「使用者責任」があるからです。

    職場環境配慮義務とは、会社には従業員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務があるということです。
    社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。(民法第415条)

    使用者責任とは、会社には社員が第三者に対して加えた損害を賠償する責任があるということです。(民法第715条)
    また、パワハラは、損害賠償金支払いだけでなく、対外的な信用棄損や社員の士気低下など、さまざまなダメージを会社に与えます。
    【パワハラ防止のための事前対策】
    では、会社がパワハラを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
    まずは、事前対策が重要です。

    「パワハラを防ぐための5つの措置」
    ①会社のトップが、職場からパワハラをなくすべきという明確な姿勢を示す。
    ②就業規則をはじめとした職場の服務規律において、パワハラやセクハラを行った者に対して厳格に対処するという方針や、具体的な懲戒処分を定めたガイドラインなどを作成する。
    ③社内アンケートなどを行うことで、職場におけるパワハラの実態・現状を把握する。
    ④社員を対象とした研修などを行うことで、パワハラ防止の知識や意識を浸透させる。
    ⑤これらのことや、その他のパワハラ対策への取り組みを社内報やHPなどに掲載して社員に周知・啓発していく。

    また、被害者などからの相談窓口や関係部署の設置、問題解決の体制の整備、社員への研修や講習なども事前に行っておくべきです。
    【パワハラ発生後の事後対応】
    しかし、事前対策をしていたにも関わらずパワハラが起きてしまったら、どう対応したらいいでしょうか?

    会社が取るべき事後対応の流れをまとめておきます。
    問題の発生から解決までには、次の6つのプロセスがあります。

    ①事実の発覚
    相談窓口などに本人や同僚などの第三者から相談が持ち込まれます。

    ②関係者からのヒアリング
    担当者が事実関係の把握のためにヒアリングをします。
    これは相談者と、パワハラ行為をしたとされる者の双方に対して行い、場合によっては周囲の第三者にも行います。
    行為が行われた状況や、行為が継続的だったかなどについても聴き取りを行います。
    このとき、プライバシーの保護、および協力者への不利益がないようにしなければいけません。

    ③事実確認の有無に関する判断
    ヒアリング後、パワハラ行為があったかどうかについて判断します。

    ④担当機関などによる協議
    パワハラの事実があったと判断された場合、人事部などの担当部署等で加害者に何らかの処分を下すかどうかの協議をします。

    ⑤処分の決定とその後の措置
    担当部署での協議の結果、懲戒処分なしとなった場合は、その旨を被害者に説明したうえで関係改善に向けた援助、配置転換、被害者が被った不利益の回復などの措置をとります。
    同時に、パワハラ行為を行った者への研修・教育を行います。

    加害者に懲戒処分を下すことが決まった場合は、就業規則の規定に従い、けん責、出勤停止、論旨解雇、懲戒解雇などの懲戒処分を下します。
    この場合も、被害者に対して上記のように必要な措置をとるのは言うまでもありません。

    ⑥再発防止措置
    今後の再発防止に向けた措置をとらなければいけません。
    社内報やウェブサイトなどに、パワハラやセクハラ行為があってはならないこと、万が一発生した場合は厳正な処分を下すことなどを記載して全社員に周知します。
    また、研修や講習を実施して社員への啓発にも努めます。
    ところで、今回の事例では、会社側は「上司からの教育や指導による叱責だ」、「罵倒はしていない」と主張しているようです。

    実際、社員の能力不足や職務怠慢の場合、会社は社員を教育指導して、注意などは段階を踏んで対応してからでないと解雇などはできないことになっています。
    また、通常の仕事上の叱責はパワハラにはなりません。

    それが度を超え、人格に対する攻撃などになるとパワハラと認定されます。
    しかし、その判断はなかなか難しいため、訴訟に発展するケースが増えています。

    万が一、パワハラによるトラブルが起きた場合は、被害者側も会社側も専門家などに相談することをお薦めします。
    労働トラブルのご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

  • 妻の借金、夫にも返済義務はある?

    2015年03月31日

    「一蓮托生」という言葉があります。

    もともとは仏教思想が由来のようで、善い行いをした者は死後、極楽浄土で同じ蓮の花の上に身を託して生まれ変わることができる、という意味だそうです。

    そこから転じて、物事の善悪や、結果の良し悪しにかかわらず、仲間として行動や運命をともにする、という意味で使います。

    会社の社長と社員も、スポーツなどのチームの監督と選手も一蓮托生でしょう。
    さらには、何らかの犯罪組織や反社会的活動をする団体も一蓮托生ということになります。

    ところで、夫婦というのも運命共同体、もしくは修行のようなものだという人もいますが、配偶者がしたことに関して法的に責任を負う義務があるのか? というのが今回のテーマです。

    相談内容は……すばり、お金絡みです。

    Q)どうやら妻が借金をしているようなのです。私の会社に、消費者金融の会社から催促の電話が入るようになりました。これから妻とも話さなければいけませんが、その前に法的には、妻が借りたお金の返済について、夫にも責任があるのか知りたいのです。よろしくお願いします。

    A)妻が借りたお金の返済に関して、夫にも支払い義務はあるのか? ということですが、「民法」第761条により、「夫婦の日常家事における債務」については、夫もその債務について連帯責任があると規定しています。
    よって、妻が返済できない借金については、夫であるあなたにも返済義務が生じる可能性があります。
    夫婦が結婚生活を続けていくには、生活必需品、例えば衣食住にかかるお金や、電気・ガス・水道などの光熱費、医療費、自動車の費用、交際費、子供の教育費など、さまざまなお金が必要です。
    家計は妻任せ、毎月の収入から生活費を渡して、やりくりしてもらう男性も多いでしょう。

    こうした日常の家事に関して、仮に妻が第三者に対して行った法律行為の債務については、夫も連帯責任を免れません。
    「妻が勝手にやったことだから、私は知らない、関係ない」というのは通用しないということです。

    では、条文を見てみましょう。

    「民法」
    第761条(日常家事に関する債務の連帯責任)
    夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
    実際、今回の相談内容からは借金がいくらあって、妻は何に使ったのかがわからないので正確に回答はできませんが、「日常家事に関する債務」かどうかがポイントになります。

    しかし、日常の家事の債務について明確に規定するのは難しく、裁判で争われる場合は、その夫婦の収入額やライフスタイルなどによってケースバイケースで判断されます。

    ちなみに、過去の判例では、次のものなどが日常家事債務として認められています。
    ・月収が手取り30万円の家庭が購入した約60万円の子供向け学習教材
    ・夫婦が共同生活を営むための家屋の家賃
    ・妻が買った子供の洋服代
    ・テレビの受信料 など。

    一方、日常家事債務として認められなかったものには以下のようなものなどがあります。
    ・月収が約8万円の家庭が購入した約41万円の太陽熱温水器
    ・妻が知人の借金債務を保証する目的で負担した連帯債務
    ・ギャンブル代 など。

    たとえば妻が、ホストクラブに使った借金の場合は、通常は妻個人の債務ということになるでしょう。

    いずれにせよ、「夫婦の事情」があることですが、相談者の方はまず妻と話し合いの機会を作って、事の次第について訊いてみることが必要でしょう。

    隣人トラブルでもそうですが、未然に問題を防ぐためにも、起こってしまった問題の解決にも、やはり人間同士のコミュニケーションが大切なことは言うまでもありません。

    もし、話し合いがまとまらなかったり、法的な対応の必要がある場合は弁護士などの専門家に相談することをお薦めします。
    ご相談はこちらから⇒
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 大人も子供も知っておきたい!自転車法律ルール25

    2015年03月27日

    あとから振り返ってみると、どうやってできるようになったのか?
    思い出せないことがあります。

    自転車の乗り方も、そのひとつかもしれません。
    親や兄弟、友人から教えてもらった人もいるでしょうし、誰からも教えてもらうことなく、ある日突然乗れるようになったという人もいるでしょう。

    私も子供の頃のことなのでよく覚えていませんが、乗れるようになったときはうれしくて、夢中でペダルを漕いだことは今でも覚えています。

    ところで、自転車の乗り方を教えてもらったことのある人はいても、道路を走るときの自転車のルールについて教えてもらったことのある人は、あまりいないのではないでしょうか?

    自動車の免許を取得するために、教習所に行ったときに初めて道路交通法の規則を知ったという人も多いかもしれません。

    今回は、そんな状況にふと疑問を感じた、小学生のお子さんのいる読者の方からの質問にお答えします。

    Q:9歳の息子がいます。だんだん、やんちゃになって危ないことに面白味を感じることも多くなってきたようです。ところで今、親として心配なのは交通事故についてです。息子は自転車が好きで、よく外出するのですが、見ていると危なっかしいのです。事故が起きる前に交通ルールを教えることは大切だと思っています。でも、交通ルールを教える授業などありませんから親が教えるしかありません。子供に教えるべき自転車のルールを教えてください。

    A:まずは、「道路交通法」について学ぶ必要があります。しかし、1~132条まであるので、ここでは自転車に関する部分を中心に解説していきます。
    【道路交通法とは?】
    道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的としたものです。(第1条)

    1960(昭和35)年に、それまであった「道路交通取締法」が廃止されて道路交通法が施行されました。

    その後、1978年に自動二輪者のヘルメット着用義務化、1992年に運転席と助手席のシートベルト義務化(一般自動車道)、1999年に運転中の携帯電話の使用禁止、2000年に6歳未満の幼児に対するチャイルドシート義務化などが行われ、その他、飲酒運転やひき逃げなどの罰則強化等を経て、現在に至ります。
    【自転車とは】
    ・道路交通法上、自転車は車両の一種である「軽車両」です。
    ・ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車であって、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものです。
    ・車体の長さは190センチ以内、幅は60センチ以内。(内閣府令)
    ・ブレーキが、走行中容易に操作できる位置にあること、など。
    ・一般の自転車の乗車人員は、16歳以上の運転者の場合、幼児用座席を設けた自転車に6歳未満の幼児を1人に限り乗車させることができます。
    【自転車で禁止されている行為とは】
    先月、2015年6月施行に向けた新たな「改正道路交通法」の施行令が閣議決定されました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
    https://taniharamakoto.com/archives/1854

    この施行令は、自転車運転による違反の取り締まり強化と事故抑制を目指して、悪質な自転車運転者に対して安全講習の義務化を盛り込んだものですが、この中で自転車の悪質運転・危険行為について14項目を規定しています。

    では、この14項目を中心に、大人から子供まで自転車に関する「してはいけないこと」を罰則が重い順に解説していきます。
    <5年以下の懲役又は100万円以下の罰金>(第117条の2第1号)
    〇酒酔い運転(第65条)
    ※もちろん子供はお酒を飲んではいけませんが、大人も自動車と同様に飲酒運転は違反行為です。
    <1年以上の懲役又は30万円以下の罰金>
    〇徹夜や過労などで自転車に乗ってフラフラと走行する(第66条)
    <3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金>
    〇信号無視(第7条)

    〇通行禁止道路の走行(第8条)
    ※道路標識等によって禁止されている道路や場所は通行してはいけません。

    〇右側通行(第17条の2)
    ※自転車は、道路の左側に設けられた路側帯を通行しなければいけません。

    〇遮断機が下りた踏切への立ち入り(第33条2項)

    〇交差点での優先道路通行車の妨害(第38条2項)

    ※交差道路が優先道路の場合、通行する車の妨害をしてはいけません。

    〇横断歩道での歩行者優先(第38条1項)
    ※横断歩道で歩行者がいる時は、その直前で一時停止して、歩行を妨げてはいけません。

    〇歩道での歩行者妨害(第63条の4の2項)

    〇一時停止違反(第43条)
    ※道路標識のある場所では一時停止しなければいけません。

    〇整備不良車の運転(第62条)
    ※壊れているなどの整備不良自転車を運転してはいけません。

    〇環状交差点での安全進行義務違反(第37条の2)
    <5万円以下の罰金>
    〇無灯火運転(第52条)
    ※夜間(日没から日出まで)は灯火して運転しなければいけません。

    〇ブレーキなし、もしくは故障したままでの自転車運転(第63条の9)

    詳しい解説はこちら⇒
    「こんなことで逮捕とは…ブレーキなし自転車(ピスト)で全国初逮捕」
    https://taniharamakoto.com/archives/1208
    <2万円以下の罰金又は科料>
    〇路側帯の歩行者妨害(第17条2項)
    ※路側帯では歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければいけません。

    〇並走の禁止(第19条)(第68条)

    〇歩道での徐行違反(第63条の4の2項)

    〇2人乗り運転(第55条)
    ※ただし、16歳以上の運転者が安全基準を満たした幼児2人同乗用自転車を運転する場合は、その幼児用座席に幼児2人を乗車させることができます。

    〇ベルを鳴らしながら走って歩行者を退かせようとする行為(第54条2項)
    ※むやみに警報器を鳴らしてはいけません。
    なお、道路交通法第71条6号に基づく各自治体の「道路交通規則」では、次の行為が禁止されています。(ここでは東京都道路交通規則から抜粋)
    違反した場合は5万円以下の罰金です。

    〇傘をさしての片手運転
    〇携帯電話・メールをしながらの運転
    〇ペットを連れての運転
    〇イヤホンをつけたままでの運転
    〇警音器の整備されていない自転車の運転
    いかがだったでしょうか?
    今回は、25個を紹介したので一度に覚えるのは大変かもしれませんね。

    しかし、自転車に関する交通規則や法律は、自分の身を守るためにも、人を傷つけないためにも大切です。

    この機会にぜひ、大人も子供もしっかり交通規則と法律を覚えて、自転車ライフを楽しんでほしいと思います。

  • テレビ朝日「ワイドスクランブル」生出演

    2015年03月24日

    2015年3月24日放送のテレビ朝日「ワイドスクランブル」に生出演しました。

    内容としては、近隣トラブルに関する事件が後を断たないことから、原因は対策について、法律専門家としてコメントを求められたものです。

    ご近所のトラブルは、当初我慢していても、ずっと続くことから我慢の限界に達し、暴力等の行動に出てしまうものです。

    やはり、普段からの近所づきあい、挨拶等が大切ですね。

    そして、1回目のクレームは、感情を落ち着けて、冷静に、やわらかく言うことも大切です。

    近隣トラブルの場合、相手は悪いことをしている意識がないことが多いように思います。

    そこに、いきなり怒鳴り込むと、相手も「普通に言ってくれればいいのに、何だその態度は!」と感情的になり、トラブルになりやすい傾向にあります。

    トラブルに関しては、どんな場合もそうですが、自分の感情コントロールが重要、ということになるでしょう。

  • 兵庫県条例で自転車保険の加入が義務化!

    2015年03月23日

    交通事故において、加害者と被害者双方の「その後」に大きく関わってくるもののひとつに「保険」があります。

    じつは、保険の歴史は古く、古代ローマ時代にまでさかのぼるといわれています。

    日本では、明治維新の頃に欧米の保険制度を導入して、現在の保険の仕組みができたようです。
    かの福澤諭吉が、著書の中で「生涯請合」(生命保険)や「火災請合」(火災保険)、「海上請合」(海上保険)の仕組みを紹介しているそうです。

    ところで先日、ある県が条例で、ある保険への県民の加入の義務化を決定したようです。

    全国初の試みです。

    「自転車にも賠償保険義務づけ、全国初の条例化」(2015年3月18日 読売新聞)

    兵庫県議会で18日、自転車の利用者に対し、歩行者らを死傷させた場合に備える損害賠償保険への加入を義務づける全国初の条例が可決・成立しました。

    自転車が加害者となる事故が増加傾向にあるため、利用者の意識向上と被害者救済を目的にしているとのことです。

    施行は2015年4月1日で、周知期間を設けるため義務化は10月1日から。
    なお、県交通安全協会では4月1日から、年間1000~3000円の保険料で5000万~1億円が補償される保険への加入を受け付けるということです。
    このブログでも以前から、自転車事故に関して解説をしてきました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1648

    ⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1217

    今回の兵庫県の条例成立には、2013年のある裁判の判決がきっかけのひとつになっていると思われます。

    2008年9月、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた60代の女性に正面衝突。
    女性は頭を強打し、意識不明のまま寝たきりの状態が続いていることから、家族が損害賠償を求めて提訴。
    2013年、神戸地裁は少年の母親(当時40歳)に約9500万円の支払いを命じました。

    判決では、少年の前方不注視が事故の原因と認定。
    さらに、子供がヘルメットをかぶっていなかったことなどからも、「指導や注意が功を奏しておらず、親は監督義務を果たしていない」としました。

    損害賠償金の内訳は以下の通りです。
    ・将来の介護費用:3940万円
    ・事故で得ることができなくなった逸失利益:2190万円
    ・ケガの後遺症に対する慰謝料:2800万円
    ・その他、治療費など。

    この報道を知って、多くの人が驚かれたと思います。
    同時に、さまざまな意見や思いを持つ人がいたでしょう。

    「子供が起こした自転車の事故で9500万円とは高すぎないか?」
    「被害者は意識不明の状態が続いているのだから高額賠償金は当然だ」
    「なぜ親が支払わなければいけないのか?」
    「うちはとても、そんな金額は払えない。自己破産だ」
    「怖くなったので自転車の保険に加入しようと思う」

    実は、9500万円という金額は、法律家の立場からすると、けっして高額ではない、ということは言えます。

    車に轢かれようと、自転車に轢かれようと、生涯にわたって治らない後遺症が残った場合には、その補償をしてもらうのが当然です。金額に差異はありません。

    事故が起きたことは不幸なことですが、この事故と裁判は示唆に富み、我々に多くの教訓を与えてくれました。

    ・ヘルメットをかぶらせるなど、親には子供の「監督責任」があること。
    ・坂道を高速で下るなど、交通規則に反する行為が重大な事故を引き起こす可能性があること。
    ・自転車でも、ケガを負わせたり死亡させたりすれば高額な損害賠償金を支払わなければいけないこと。
    ・保険に加入していなければ、万が一の事故のときに加害者側は自己破産する可能性があること。
    ・加害者が自己破産してしまえば、被害者は補償を得られず金銭面でも救われないこと。
    ところで、今回の兵庫県の条例では、次のことが定められたようです。
    ・通勤・通学やレジャー、観光など、県内で自転車を運転するすべての人を対象とする。
    ・未成年者の場合は保護者に加入を義務化。
    ・営業など従業員が仕事で使用する場合は企業に加入を義務化。
    ・自転車の販売業には客に販売する際に保険加入の確認を義務化し、未加入の場合は加入を促進させる。
    ・レンタルサイクル業も販売業と同様。

    ただし、無保険を取り締まるのは困難なことから、①自動車のような登録制度はない、②違反者への刑罰は設けない、としています。

    実際、違反者への刑罰がないことからも、どの程度の効果があるのかは今後の状況を見守っていく必要があるでしょう。

    しかし、被害者救済は重要なことですし、自転車利用者1人ひとりの意識も変わっていくだろうと思います。

    自転車が歩行者を負傷させた事故は、2014年には全国で2551件あり、2001年の1・4倍に増えたという統計データもあります。

    また、自転車保険の加入については、京都府や愛媛県など4都府県が条例で努力義務を定めています。

    私としては、自転車にも自賠責保険を「法律で」義務づけて欲しいと思っています。

    自転車事故は他人事ではありません。

    各保険会社などが提供する自転車保険は以前よりも増え、補償内容も充実してきています。
    また、火災保険や自動車保険、傷害保険の特約で自転車保険をつけられる場合もあります。

    備えあれば患いなし。
    ご自身のためにも、また子供のためにも、これからは自転車保険の検討をする必要があるでしょう。

    万が一の自転車事故のご相談はこちらから
    ⇒「弁護士による交通事故SOS」
    http://samuraiz.net/

     

  • リベンジポルノには新たな法律が適用されます!

    2015年03月19日

    今年の2月、福島県で元交際相手の女性の裸の写真をショッピングセンターの駐車場でばらまいたとして、会社員の男(33)がリベンジポルノ被害防止法で初逮捕という事件がありました。

    この数年で問題化してきたリベンジポルノは、元配偶者や元恋人への復讐目的で裸の画像や動画を投稿などする嫌がらせ行為のことですが、収まる気配はなく、また新たな逮捕者が出たようです。

    「ツイッターに裸写真…リベンジポルノ法違反容疑で男を再逮捕 ネットでの適用は全国初」(2015年3月11日 産経新聞)

    神奈川県警は、元交際相手の女性の裸の写真をインターネット上で公開したとして、鳥取県境港市の無職の男(39)をリベンジポルノ被害防止法で再逮捕しました。

    ネット上に画像をアップロードする行為としては、同法では全国初の検挙ということです。

    報道によると、今年1月、男は自らの簡易投稿サイト「ツイッター」に、元交際相手で専門学校生の女性(20)の裸の写真10枚を掲載。
    写真は平成24年7月から25年1月までの交際中などに撮影されたようです。

    2014年12月にも、男は写真1枚を掲載しており、友人に知らされた女性が今年1月に県警に相談したことで発覚。

    男は、「(別れた後に)彼女が返事しなくなり、恨みが募った」などと供述し、容疑を認めているようです。

    なお男は、すでに脅迫などの容疑で逮捕後に処分保留となっており、今回、神奈川県警が再逮捕したということです。
    【リベンジポルノ被害防止法とは?】

    リベンジポルノ被害防止法は、正式名称を「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」といいます。
    (なんと長い、26文字もあります!)

    この法律は2013年10月に発生した、三鷹ストーカー殺人事件をきっかけにリベンジポルノに対処するために、2014年11月、国会で成立しています。

    全部で6条からなるリベンジポルノ被害防止法の目的は、以下の通りです。

    私事性的画像記録の提供等により、私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって、個人の名誉及び私生活の平穏が侵害される被害の発生、又はその拡大を防止することを目的とする。(第1条)

    次に、「私事性的画像記録」とは、以下のような人の姿態が撮影されたものをいいます。
    1.性交又は性交類似行為に係る人の姿態
    2.他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
    3.衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
    (第2条)
    【どのような刑罰が科せられるのか?】
    今回の事件では、ツイッターに女性の裸の写真を投稿したということですから、「私事性的画像記録提供等」の罪に問われたということになります。

    第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、プライベートで撮影した画像を不特定、または多数の者に提供した場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第3条)

    以前の事件のときにはリベンジポルノ被害防止法が成立していなかったので罪に問うことができず、今回の事件では、発生が同法の施行直後だったため、脅迫など別の容疑を適用し、今回、時期を待って再逮捕ということになったのでしょう。

    ちなみに、脅迫罪は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金ですから、リベンジポルノ被害防止法の方が重い罪になるということです。

    新たな法律ができ、初の逮捕者が出たことによって、今後は取り締まりが厳しくなされていくでしょう。

    また、米Twitterは現地時間の3月11日、ユーザーポリシーの「Twitterルール」と「嫌がらせ行為に関するポリシー」を改定したということです。

    「撮影されている人物の同意なく撮影または配布された、私的な画像や動画を投稿することを禁じます。」という一文を追加し、リベンジポルノの禁止を明文化したようです。

    リベンジポルノに関しては、日本だけでなく世界的にも厳罰化に向かっています。

    スポーツや資格試験には、おおいにリベンジしても結構ですが、元交際相手にリベンジはいけません。

    世の男性諸氏は十分気をつけましょう。

    「善とは何か。後味の良いことだ。
    悪とは何か。後味の悪いことだ。」
    (アーネスト・ヘミングウェイ/アメリカのノーベル賞作家)

  • 営業秘密の漏洩で懲役5年+罰金300万円!

    2015年03月16日

    今回は、企業秘密の不正取得、情報漏洩に対する裁判の判決について解説します。

    裁判の流れは、不正を働いた者に対して厳しいものになってきているようです。

    「東芝データ漏洩、元技術者に懲役5年判決 “極めて悪質” 東京地裁」(2015年3月9日 日本経済新聞)

    東芝の半導体メモリーを巡るデータ漏洩事件の判決公判で、被告の男に懲役5年、罰金300万円が言い渡されました。

    被告は、提携先の米半導体メーカーの元技術者(53)。
    容疑は、不正競争防止法違反(営業秘密開示)の罪。

    判決によると、被告の男は2008年1~5月ごろ、東芝の四日市工場(三重県)で、同社の半導体メモリーの研究データを無断でUSBメモリーにコピー。

    韓国半導体大手「ハイニックス半導体(現・SKハイニックス)」に転職した後、2008年7月と2010年4月頃、同社の従業員にスライド映写したり、メールに添付したりして情報を開示したようです。

    被告は公判で、「東芝や米メーカーに多大な迷惑をかけて申し訳ない」などと謝罪し、起訴内容をおおむね認めていましたが、弁護側は「漏洩したのは最高レベルの機密ではなく、公知の情報も含まれていた」と主張し、執行猶予付きの判決を求めていたということです。

    裁判長は、「我が国の産業で重要な半導体分野の営業秘密を他国の競業他社に流出させ、社会に大きな衝撃を与えた」、「極めて悪質な営業秘密の開示。犯行によって東芝の競争力が相当程度低下した」、「転職先での地位を維持するために、自らの意思で情報を開示しており、刑事責任は重い」と非難。

    また、「競合他社が約330億円を支払うという和解が成立している点で、東芝の競争力が相当程度低下したことを裏付けるものだ」と指摘しました。

    なお、データ漏洩事件を巡っては、東芝がハイニックスを相手取り約1100億円の損害賠償を求めて提訴。
    2014年12月、東京地裁でハイニックスが2億7800万ドル(約330億円)を支払う内容で和解が成立しています。

     

    ところで、みなさんは今回の判決、重いと思うでしょうか? それとも軽いと感じるでしょうか?

    「会社の情報を持ち出しただけで、懲役5年+罰金300万円は重すぎる」
    「330億円もの損害賠償命令が出ている情報なのだから、被告の受ける罰は軽すぎるだろう」
    「会社に大きな損害を与えているのだから、もっと刑を重くするべきだ」
    「懲役5年の実感が湧かない…」

    さまざまな意見があると思います。

    今回は、企業の「営業秘密の開示」の罪ですが、過去の判例からみても、私は、懲役5年と罰金300万円は重い判決が下されたと思います。

    その背景には、この数年における企業の秘密漏洩事件の増加があるのだと思います。

    ・日産の企画情報が流出
    2014年5月に発覚。元社員が新型車の企画情報などを不正に取得。

    ・ベネッセで個人情報流出
    2014年7月に発覚。外部業者のSEが関与して、2070万件もの個人情報が流出。

    ・エディオンの営業秘密資料が流出
    ・2015年1月に元課長が逮捕。退職時などに不正に取得した営業秘密情報を転職先の企業に漏洩。

    これらの事件以外にも、2013年には中国のデータ共有サイト「百度文庫」で、トヨタやパナソニック、三菱電機などの内部資料が大量に流出していたことが発覚した例などもあります。

    こうした事態を受けて、政府は法人に対して、国内企業同士の秘密漏洩には罰金を最大5億円に引き上げるなど罰則を強化するほか、企業秘密を海外の企業が不正利用した場合は最大で10億円の罰金を科すなど、不正競争防止法の改正法案を2015年の通常国会で提出するとしています。

    「産業スパイ防止へ改正法案を閣議決定 罰金上限10億円など厳罰化」(2015年3月13日 産経新聞)

    法人だけでなく、企業秘密を不正に入手、流出させた個人には、懲役は現在の10年以下のままにするものの、国内の事件なら最大1000万円だった罰金を2000万円に、海外に漏らした場合には3000万円へ引き上げるとしています。

    その他にも、以下の内容などを盛り込んでいるようです。
    ・営業秘密の流出を、被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪」にする。
    ・未遂でも捜査をできるように取り締まり対象を広げる。
    ・日本企業が海外に持つサーバーの情報を盗む行為も処罰できるようにする。
    ・民事訴訟では、設計図などの物の生産方法をめぐる情報漏えいの場合に、被害企業の立証責任を軽くする。(情報漏洩の被害を受けた企業が盗んだ企業を相手取って起こす場合)
    企業秘密の漏洩に対して、法律は厳罰化の方向に向かっています。

    今、企業の危機管理への体制強化など、厳格で迅速な対応が求められています。

    主に3点の対策が必要です。

    ・物的対策(パソコンのセキュリティなど)
    ・ルールによる対策(書類保管庫への立入制限など)
    ・教育研修など人的対策

    今一度、社内の体制を見直してみてはいかがでしょうか。

    ご相談はこちらから⇒「顧問弁護士SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/about/

  • ネットに書き込むことは名誉を毀損することだ

    2015年03月12日

    恥は若者にとって名誉であり、老人には屈辱である。

    これは、紀元前の古代ギリシャの哲学者、アリストテレスの言葉だそうです。

    若者にとって、自分からかく恥は、確かに偉大な哲学者が言うように名誉といえるかもしれません。
    しかし、他人からかかされた恥は、やはり若者にとっても屈辱でしょう。

    名誉を傷つけられれば、誰だって怒り心頭になるでしょうし、人の名誉を傷つければ、それは犯罪になる可能性があります。
    そんな事件が起きました。

    「“彼女取られて仕返したかった”大学生 ネットに書き込み名誉毀損容疑で逮捕」(2015年3月9日 産経新聞)

    女性を装って、「同じ大学に通う男性にストーカー行為をされている」とウェブサイトに書き込んだとして、札幌東署は札幌市の大学生の男(22)を名誉毀損の疑いで逮捕しました。

    報道によると、男は「彼女を取られて仕返ししてやりたかった」と供述。大学生の男性の名誉を傷つけるためにウェブサイトに書き込み、顔写真を掲載したようです。

    また同署は、男がかつて交際していた女性の裸の写真をインターネット上に投稿していることを確認しており、リベンジポルノに当たるとみて、私事性的画像記録の提供被害防止法違反の疑いでも捜査しているとのことです。

    今回は、リベンジポルノではなく、名誉毀損について解説したいと思います。

    では早速、条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第230条(名誉棄損)
    1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
    公然とは、不特定または多数の人が認識し得る状態をいいます。

    毀損とは、利益や体面などを損なうことですが、法律上では人の社会的評価が害される危険を生じさせることとされ、実際に社会的評価が害されることは要しないとされています。

    また、条文にあるように名誉棄損罪は、事実の有無、真偽を問いません。

    つまり、今回の事件では、事実無根の事実(男性がストーカーをしているかのような事実)をネット上に摘示して、不特定多数に公開し、男性の名誉を毀損したことで罪に問われた、ということになります。

    ところで今回の事件、じつは見逃せないポイントがあります。
    実際には、名誉棄損での逮捕というのは珍しいのですが、今回なぜ逮捕に至ったのでしょうか。

    それは容疑者に、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」違反の疑いがあるからでしょう。

    聞きなれない法律だと思いますが、これは通称「リベンジポルノ防止法」といわれるもので、2014年11月に成立したものです。

    リベンジポルノが社会問題化している現状も踏まえ、この法律については次の機会に詳しく解説したいと思います。
    では今回は、締めの言葉もアリストテレスです。

    「私は敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者を勇者と見る。
    自分に勝つことこそ、もっとも難しいことだからだ」