弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 20
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  • 自転車の検査を拒否すると犯罪になる!?

    2014年06月23日

    平成25年12月1日に、「改正道路交通法」が施行されたのを、みなさんご存じだったでしょうか?

    今回の改正で、新たに規定されたものに「自転車の検査拒否」があります。

    一見、地味な印象もありますが、一体、どんな法律なのでしょうか?

    先日、全国で初摘発された事件が起きたので、これを例にして解説したいと思います。

    「自転車検査拒否疑い初摘発 23歳男を書類送検」(2014年6月19日 産経新聞)

    埼玉県警蕨署は19日、ブレーキのない自転車を運転し、警察官が検査のため停止を命じたのに従わなかったとして、道交法違反(検査拒否と制動装置不良)の疑いで、同県川口市のアルバイトの男(23)を書類送検しました。

    事件が起きたのは、3月17日午後4時半ごろ。
    男は同県戸田市の公道をブレーキのない自転車で走行していたところ、検査のため警察官がパトカーのマイクで停止を命じたにも関わらず、これに従わずに逃走。

    近くのマンションの駐車場に入り込んだところを、追跡したパトカーの署員に取り押さえられたということです。

    同署によると、自転車は男が組み立てた曲芸などでも使われる小型の競技用のもので、ブレーキは前輪、後輪ともになかったようです。

    男は、「捕まるのが嫌で逃げました」と容疑を認めているということです。

    以前、ブレーキのついていない自転車を運転して逮捕された事件を解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「こんなことで逮捕とは…ブレーキなし自転車(ピスト)で全国初逮捕」
    https://taniharamakoto.com/archives/1208

    この事件では、道路交通法違反(制御装置不良自転車運転)容疑でした。

    今回はさらに、「自転車の検査拒否」の容疑です。

    「道路交通法」第63条の10(自転車の検査等)
    1.警察官は、前条第一項の内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車と認められる自転車が運転されているときは、当該自転車を停止させ、及び当該自転車の制動装置について検査をすることができる。

    2.前項の場合において、警察官は、当該自転車の運転者に対し、道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要な応急の措置をとることを命じ、また、応急の措置によつては必要な整備をすることができないと認められる自転車については、当該自転車の運転を継続してはならない旨を命ずることができる。

    ブレーキのない自転車で通行しているときは、警察官がこれを停止させて検査し、応急措置では必要な整備ができない場合は、その自転車を運転しないよう命ずることができるようになったわけです。

    罰則は、5万円以下の罰金です。

    もちろん、「ブレーキがついていないから止まれなかった」という言い訳は通用しませんよ。

    ちなみに、昨年12月の施行では、以下についても刑罰が追加されています。

    「悪質・危険運転への対策」
    無免許運転や、無免許運転の幇助行為、免許証の不正取得について、これまでの罰則は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金だったものが、改正後は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に引上げられています。

    「自転車の路側帯通行を左側に限定」
    自転車等の軽車両が通行できる路側帯は、道路の左側部分に設けられた路側帯に限ることとされました。
    路側帯の右側通行をした場合は、通行区分違反として、3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金です。

    ブレーキなしの競技用の自転車はかっこいい、乗り心地がいいという理由で公道を走ってはいけません。

    自転車愛好者は、法律に違反した自転車に乗りたいという気持ちにもブレーキをかけなければいけませんね。

  • 自動車運転死傷行為処罰法:病気の影響による「危険運転致傷」が初適用!

    2014年06月15日

    2014年5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」。
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    今回は、新たに規定された「病気の影響による危険運転致傷」が初適用された自動車事故について解説します。

    病気の影響とは、どういうことでしょうか?
    持病がある人は、自動車を運転すると罪になるということでしょうか?

    「てんかんで事故の男逮捕、札幌 処罰法初適用」(2014年6月10日 共同通信)

    無免許で自動車を運転し、持病のてんかんの発作を発症して軽傷事故を起こしたとして、札幌東署は10日、札幌市のアルバイトの男(26)を、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷、無免許)の疑いで逮捕しました。

    男は札幌市内の道路で、無免許でワゴン車を運転中、てんかんの発作を起こした影響で対向車線にはみ出し、無職男性(79)の乗用車と衝突。男性に軽傷を負わせた疑いです。

    事故当時、男は意識がなく全身がけいれんしていたということで、
    調べに対し、「免許は取れないとあきらめていた」と語っているようです。

    じつは容疑者の男は、2009年8月にも無免許運転でひき逃げ事件を起こしていたということです。

    「自動車運転死傷行為処罰法」では、「危険運転致死傷」の適用範囲を広げています。

    適用する要件には、アルコールや薬物の他に、特定の病気による影響も含めて、正常な運転が困難な状態で走行することを対象としています。

    これには、2011年4月、栃木県鹿沼市で起きた、てんかん患者の運転手の発作により小学生6人をはねて死亡させた「鹿沼市クレーン車暴走事件」や、2012年4月に起きた「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」などを受けての新法成立という背景があります。

    今回の事件で容疑者の男は、てんかんの持病があるために運転に困難な状況が起こることを自覚していながら、免許を取得することをあきらめ、故意に無免許運転を繰り返していたことで、危険運転致傷に無免許運転が加重されたということです。

    刑罰は、最長で懲役20年になります。
    今回は不幸中の幸いで、相手の被害者のケガが軽傷でしたが、非常に重い罪です。

    ところで、政令で定める「特定の病気」には以下のものがあります。
    1.統合失調症
    2.てんかん
    3.再発性の失神
    4.低血糖症
    5.そう鬱病
    6.重度の睡眠障害

    ただ、これらの病気の人が自動車事故を起こしたからといって、すべてで罪が成立するわけではありません。

    自覚症状がなかったり、運転するのに支障が生じるおそれがないと思っているような場合で、たとえば今まで意識を喪失したことがない、医師から特に薬を処方されていなくて普通に自動車を運転できていたような場合は、罪の対象にはならないと考えられます。

    しかし、これら政令で定める病気の診断を受けていなかったとしても、自分が何らかの病気のためにたびたび意識を喪失することを自覚していて、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを知っていれば、事故後に、事故時において政令で定める病気であったことがわかった場合、この罪が成立すると考えられます。

    つまり、「過失」なのか「故意」なのかが重要になってくるということです。

    ちなみに、自動車の運転に支障を及ぼす可能性のあるてんかんや統合失調症などの病気の患者が、運転免許の取得や更新時に病状を虚偽申告した場合、罰則を科すことを新設した「改正道路交通法」が6月1日に施行されました。
    罰則は「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。

    これらの病気の人、または自覚症状がある人は、まずは医師の診断をきちんと受けてから、自分が自動車運転できる状態なのか、そうでないのかの判断をしなければいけません。

    自覚があるにも関わらず、免許を取得もせずに自動車運転をするなどということは言語道断です。

    十分すぎるくらいに考慮して、強い自覚を持ってハンドルを握ってほしいと思います。

    これくらいなら大丈夫、などという自分勝手な判断は命取りになるかもしれません。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 軽い交通事故でも逃げると重罰が!?

    2014年06月12日

    「ちょっとくらいならいいだろう」、「これくらいならバレないだろう」、
    人生のさまざまな場面で、人はそんなふうに思ってしまうことがあります。

    しかし、こと交通事故に関してはそんな考えは通用しません。

    加害者には、「刑事責任」「民事責任」「行政責任」の3つの責任が科せられます。
    そして、被害者は亡くなったり、重大な後遺症を背負ったりします。
    誰も幸せにならないのが交通事故です。

    ところで最近、ひき逃げで検挙された人への調査から、逃げた動機や理由がわかってきたという報道がありました。

    心の甘えや油断が命取りになっているようです。

    「ひき逃げ犯3割超が過小評価“大したことない”“半信半疑だった”」(2014年6月6日 産経新聞)

    大阪府警の発表によると、ひき逃げ犯の30%以上が、「事故を起こしたかどうか半信半疑だった」「大したことないと思った」と事故を過小評価していたことがわかりました。

    昨年1年間で、府内で起きたひき逃げ事故は1,351件。このうち摘発されたドライバー636人に動機を尋ねたところ、「半信半疑だった」102人(16・0%)、「飲酒・無免許が発覚するのがいやだった」107人(16・8%)、「大したことないと思った」101人(15・9%)、「恐ろしくなった」71人(11・2%)、「逃げたら分からないと思った」54人(8・5%)という割合だったということです。

    また、死亡・重傷のひき逃げ事故にかぎると、摘発された76人のうち、「半信半疑だった」(17.1%)、「大したことないと思った」(7.9%)という割合から、4人に1人は交通事故を軽く考えていたために重大な結果につながった可能性もあるとしています。

    以前、ひき逃げについて解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1403

    ここでいう「自動車運転過失致死傷罪」は、今年5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」では「過失運転致死傷罪」になっています。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    ひき逃げの場合、自動車運転処罰法違反(過失致死傷罪)と道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪で、最長で懲役15年になります。

    仮にアルコールを飲んでいて逃げた場合は、「アルコール等影響発覚免脱罪」が併合され、最長で懲役18年です。

    たとえ被害者が軽傷でも、ひき逃げには大変重い刑罰が科されます。
    現場から逃げてしまったばかりに、罪の上にさらに罪を重ねてしまう…それが、ひき逃げという行為です。

    ちなみに、法務省が公表している「平成25年版 犯罪白書」によると、平成24年度のひき逃げ犯の検挙率は、死亡事故98.8%、重傷事故69.6%になっています。
    死亡事故のひき逃げ犯は、ほぼ100%近くが検挙されているということです。

    検挙率のデータや罰則の厳罰化を考えれば、ひき逃げは、けっして「逃げ得」にはならないということがわかるでしょう。

    自動車を運転中、何かに当たったら、「人と接触したかもしれない」と確認する習慣を徹底しましょう。

    さもないと、長い懲役刑があなたを待っているかもしれません。

  • 自動車運転死傷行為処罰法:「無免許過失運転致傷」が初適用!

    2014年06月10日

    5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」関連の事故で、今度は「無免許過失運転致傷罪」(無免許運転による加重)が適用された事故が起きてしまいました。

    早速、解説していきます。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    「無免許で車運転の16歳少年、軽傷ひき逃げで逮捕」(2014年6月8日 産経新聞)

    滋賀県警守山署などは7日、無免許運転で相手車両の男性にケガを負わせたまま逃げたとして、建設作業員の少年(16)を自動車運転死傷処罰法違反(無免許過失運転致傷)の疑いなどで逮捕しました。

    報道によると、少年は滋賀県野洲市の県道で軽乗用車を運転中、信号が赤色点滅だった交差点に進入し、トラックと出合い頭に衝突。

    トラックを運転していた男性(46)の両足に軽傷を負わせながら、救護措置を取らず現場から車で逃げ去ったということです。

    「無免許運転による加重」は、今回新たに加えられた犯罪類型で、以下の罪を犯した者が、事故の時に無免許だった場合に成立するものです。

    〇危険運転致傷罪(死亡の場合や、「進行を制御する技能を有しない」犯罪類型を除く。死亡の場合を除くのは、すでに最高刑が規定されているため)

    〇準危険運転致死傷罪

    〇過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

    〇過失運転致死傷罪

    過去、無免許のよる重大事故が発生したにもかかわらず、「自動車運転過失致死傷罪」と「道路交通法違反」という軽い罰則しか科せられず社会的批判が高まったことから、世論の後押しもあって今回新たに規定されたのが、この「無免許運転による加重」です。

    従前は、たとえ無免許でも運転する技術があれば危険運転致死傷罪が適用されず、刑罰は軽すぎる、と批判がありました。

    しかし、無免許運転は、基本的な交通ルールの無視という規範意識の低さとともに、それ自体が危険な行為であるため厳罰化となったわけです。

    無免許運転による罪が加重されると、最高刑は次のようになります。

    〇危険運転致傷罪(懲役15年)+無免許→懲役20年

    〇アルコール等で不覚にも運転困難に至って事故を起こした罪(懲役15年)+無免許→懲役20年

    〇アルコール等影響発覚免脱罪(懲役12年)+無免許→懲役15年

    〇過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)(懲役7年)+無免許→懲役10年

    今回の事故の場合、加害者は、
    過失運転致傷罪+無免許+道交法違反(救護義務違反)となり、最高で懲役15年の可能性があります。

    ただ、今回は、16歳の未成年者が加害者ですので、少年法が適用され、将来の更正を期待した処分になると思います。

    とにかく、成年でも未成年でも、当然のことながら無免許運転は以前よりも格段に重い罪が科せられるということです。

    ドライバーの人には、肝に銘じてほしいと思います。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 自動車運転死傷行為処罰法:「通行禁止道路での危険運転致傷」が初適用!

    2014年06月08日

    5月20日に新たに施行された「自動車運転死傷行為処罰法」が適用された事故が、また起きてしまいました。

    今回は、「通行禁止道路での危険運転致傷」です。

    「通行禁止路でひき逃げ、規定初適用し危険運転容疑で男逮捕 警視庁」(2014年6月4日 産経新聞)

    警視庁交通捜査課は、通行禁止道路をバイクで走行してひき逃げ事故を起こしたとして、東京都板橋区の建設作業員の男(28)を自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)と道交法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕しました。

    男は5月30日午前8:30頃、北区の区道を時速30キロ超で走行し、同区在住の男性(38)が運転していた自転車に衝突。男性は頭を打つ軽傷を負ったにもかかわらず、救護しないで逃げたということです。

    男は、「仕事に遅れるため逃げたが、相手に『行っていい』といわれていた」などと容疑を一部否認

    ケガをした男性は、「『行っていい』とは言っていない」と話しており、事故直後に110番通報していることから、同課は容疑者の男が虚偽の説明をしているとみて調べを進めているとのことです。

    現場は、児童生徒の登下校時に車両などの通行を禁止する「スクールゾーン」だったということです。

    「自動車運転死傷行為処罰法」については以前、解説していますが、
    詳しい解説はこちら⇒https://taniharamakoto.com/archives/1236

    今回、適用されたのは今までにはなかった新しい犯罪類型です。
    条文を見てみましょう。

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
    第2条(危険運転致傷)
    次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。

    6.通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

    「通行禁止道路」とは、道路標識もしくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいいます。

    具体的には、以下のようなものです。
    〇自転車及び歩行者の専用道路
    〇一方通行道路(の逆走)
    〇高速道路(の逆走)
    〇スクールゾーンなどで通行を禁止されている場合

    この罪が成立するには、通行禁止道路を走行するという認識が必要なため、たとえば、一方通行道路だと知らずに逆走した場合は、この罪は成立しないということになります。

    新法の施行後、全国でこの法律が適用される事故が相次いでいます。

    ドライバーのみなさんには、今一度「自動車運転死傷行為処罰法」についてしっかり学んでもらってからハンドルを握ってほしいと思います。

    詳しい解説はこちら⇒https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 一度書いた遺言書を変更したくなったら!?

    2014年06月07日

    自分が死んだ後の財産の処分について、遺言書を書くことは大切なことです。

    しかし、一度遺言書を書いたものの、その後で遺言書の内容を変更したくなったらどうしたら良いでしょうか?

    以前、「遺言書の書き方」について解説しました。

    解説記事はこちら→ https://taniharamakoto.com/archives/1372

    今回は、「遺言書の加筆・訂正・変更の仕方」について解説したいと思います。

    【自筆証書遺言の加筆・訂正・変更】
    遺言者が自分で書いた「自筆証書遺言」の内容を訂正・変更するには、厳格な方式が定められています。なぜなら、偽造や変造を防止するためです。
    「民法」第968条では、遺言者が行うべき以下の要件が定められています。

    ①変更した場所を指示する。
    ②変更した旨を付記する。
    ③これに署名をする。
    ④変更した場所に印を押す。

    この4つの条件を正しく守ることで、加筆・訂正した遺言状に効力が生じます。

    【遺言の撤回】
    加筆・訂正する箇所が広範で詳細な内容におよぶ場合は、既存の遺言をいったん撤回して新たに書き直すほうがいい場合があります。
    その際、民法では以下のように規定されています。

    「民法」第1022条(遺言の撤回)
    遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

    「民法」第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
    1.前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
    2.前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

    「民法」第1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
    遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

    わかりやすくまとめると、以下のようになります。

    ①前の遺言の方式いかんを問わず、すべての方式の遺言で、いつでも撤回することができる。

    ②どの方式・種類の遺言に変更してもよい。

    ③遺言は、その一部でも全部でも撤回できる。

    ④前の遺言で定めた内容について、同一の対象を後の遺言で異なった定めをした場合、その部分に関しては前の遺言は撤回されたことになる。

    ※たとえば、前の遺言書に「不動産Aを長男に相続させる」とあったものが、後の遺言書では「不動産Aを次男に相続させる」となっている場合、長男への相続の遺言は撤回されたことになります。

    ⑤遺言者の死後に相続する予定だったものを生前処分(売却や贈与など)した場合、遺言は撤回したものとみなされる。

    ⑥遺言者が故意に、遺言書の全部または一部を破棄した場合、その部分の遺言は撤回したものとみなされる。

    ※たとえば、遺言書を焼き捨てたり、判別できないほど黒く塗りつぶした場合などが当てはまります。

    ⑦遺言者が故意に、遺贈の目的対象物を破棄した場合、その部分についての遺言は撤回されたとみなされる。
    ※たとえば、父親が家にわざと火をつけたり、土地に劇薬を撒いたり…

    人は誰しも間違いがあったり、後から変更したいことが出てくるものです。

    サクサクっと消しゴムで消して書き直せばOK! ならば簡単でいいのですが、遺言書はそうはいきません。
    法律をしっかり守って変更してください。

    間違っても「消せるボールペン」で書いてはいけませんよ。

    この機会に正しい遺言書の訂正・変更の仕方を覚えて、万が一の事態に備えておくのも大切なことだと思います。

  • “隠れ倒産”が急増中! 経営者が取るべき選択とは?

    2014年05月31日

    マスメディアでは、アベノミクスによる景気回復が盛んに伝えられています。

    実際、そうした流れを背景に、企業の倒産件数は減少傾向にあり、東京商工リサーチが発表したデータによれば、2013(平成25)年の全国の企業倒産件数は1万855件で、前年比10.46%のマイナス。5年連続で前年を下回っています。

    また、負債総額も約2兆7800億円で前年比27.44%のマイナスとなっていて、数字上では景気回復が見てとれます。

    一方、企業に関係する数字で、この10年で急激に増えているものがあります。

    企業の休廃業数です。

    「企業の休廃業:中小の“隠れ倒産”10年で倍増」(2014年5月26日 毎日新聞)

    報道によりますと、2013年の企業の休廃業(解散も含む)は2万8943件で、この10年で2倍に急増しているとのことです(東京商工リサーチ調べ)。

    「隠れ倒産」とは、企業が債務超過などで倒産に至る前に余力を残しながら事業を断念し、自主的に会社を整理することです。

    ではなぜ、隠れ倒産と呼ばれる企業の休廃業が急増しているのでしょうか?

    主な原因には、①後継者不在問題 ②経営の先行き不安、があります。

    ①後継者不在問題
    近年、特に中小企業の後継者難は大きな問題となっています。国内のおよそ2/3、65%以上の会社が後継者不在問題に直面しているというデータがあります。

    後継者不在の原因はさまざまあります。後継者となるご子息がいないケース、ご子息はいても既にほかの仕事に就いている、もしくは起業しているケース、時代が変わり斜陽産業を子供に引き継がせることを断念しているケースなどです。

    ②経営の先行き不安
    業界再編の波にさらされている、人口減少などにより成長が見込めないなど経営の先行き不安を感じている経営者が増えています。

    また、中小企業の資金繰りを支援するための中小企業金融円滑化法が2013年3月で終了したことにより、今後、金融機関が融資姿勢を厳格化していけば、債務返済と資金繰りが一気に苦しくなってしまうという問題を抱える経営者もいます。

    そうした不安を背景に、事業の先行きを見通せない中小企業の経営者が、従業員の将来を考え、また取引先や金融機関に迷惑を掛けないうちに事業を整理しようという意識が働き会社を休廃業していると考えられます。

    好景気だといっても、当然すべての企業に恩恵があるわけではありません。

    実際、業績や財務面が依然として改善されないままの企業は今後、休廃業を含め何らかの処置を必要とするタイミングが訪れると考えられます。

    経営者、とくに創業者の中には「人生=会社」という方もいます。自分が創業し、苦労してここまで育てた会社を手放す、廃業することは、我が子を手放すような、自分の人生が終わりのような、それほどに思いつめている方もいます。

    しかし、資金繰りの苦しみは、体験した人でなければわかりません。大きなストレスから夜眠れないのは当たり前で、体を壊してしまう方もいます。

    以前、私の依頼者だったある会社の社長さんが破産手続きの準備中、自殺をしてしまったことがありました。

    私は大変なショックを受け、助けられなかったことを後悔しました。

    私のところには、会社の再生や廃業の相談に来られる経営者の方が多くいらっしゃいます。

    そこで、まずお話しするのは、「目的」は何かということです。

    会社は本来、手段であって目的ではないはずです。

    経営を通して、自己実現したい、家族や社員を幸せにしたい、社会に貢献したい、お金儲けがしたいなど、目的は人それぞれですが、まずはその目的をご自身で見つめ直していただき、それに合わせた最適な方策をいっしょに考えていきます。

    もし会社の廃業という道を選ばれる場合、次のような手順で進めていきます。

    1.資産と負債の洗い出し
    簿価ではなく清算価値として、自社が今どういう状況にあるのかをしっかりと把握する必要があります。
    債務超過になっていないか? 超過金額はどれくらいか? 債務の保証人の状況はどうなっているか? 担保に入っている不動産や在庫などの状況は? など、棚卸しによる現状の再確認がスタートになります。
    その上で、お金の流れやビジネスモデルを見極め、どのタイミングで事業をストップするのがベストかなど、スケジュールを立てていきます。

    2.従業員の理解を得る
    気をつけなければならないのが「人」の部分です。経営者が、きちんと従業員に説明を行い、理解を得ながら進めていくことが重要です。
    従業員の整理などは下手をすると労働問題に発展しかねません。ここをおろそかにしてしまったために従業員が離反し、態度を硬化させたことで円滑に廃業を進められなかったケースもあります。

    3.経営者保証を外す交渉を試みる
    債務超過の問題は大きなネックになります。現実問題、多くの中小企業は債務が重いために廃業したくてもできない状況にあります。
    中小企業の債務には多くの場合、経営者の連帯保証がついているからです。
    しかし、2013年12月に公表された「経営者保証に関するガイドライン」が、2014年2月から適用開始となりました。
    これを受けて、金融機関も徐々に態度を変えてきており、業績が好調な企業に対しては経営者保証を抜く、という対応をし始めています。
    経営者として長期的に廃業の可能性を考えているなら、自社の状況を見極めながら、ベストのタイミングで金融機関との経営者保証を外す交渉を試みる必要があるでしょう。

    無理なく円満に廃業するためには、時間をかけて、しっかりと準備をしていくことが大切です。

    会社が傾き始めてからでは遅いのです。業績が堅調なときこそ、将来についてしっかりと考え、準備を進めていくべきです。

    経営者の方の相談に乗っていて、いつも感じるのは、「もっと早く相談してくれていれば…」という思いです。

    これは、廃業の場合だけでなく、事業承継や事業売却の場合にも同じことが言えます。

    決して積極的に廃業を勧めるわけではありませんが、次世代に負債を背負わせてしまうくらいなら、必要に応じて自分の代で終わりにするという決断をするのも必要なことだと思います。

    新たな人生を始めるためにも、経営者の方は、ひとりで悩まず、手遅れになる前に勇気を持って、早めの一歩を踏み出して相談していただきたいと思います。

    詳しくはこちら→「弁護士による会社再生・廃業・破産SOS」
             http://www.sai-sei.biz/

  • 自動車運転死傷行為処罰法:「逃げ得」を許さない「発覚免脱罪」が初適用!

    2014年05月28日

    5月20日に施行された新法、「自動車運転死傷行為処罰法」。
    (正式名称:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)

    悪質運転による死傷事故の罰則を強化した、全6条から成る新しい法律です。
    詳しい解説はこちら→ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    先日のブログでは、この新法が初適用された事故について紹介しました。
    解説記事はこちら→ https://taniharamakoto.com/archives/1489

    この事故では、自動車運転死傷行為処罰法の中の「危険運転致傷」容疑での逮捕でしたが、その後、全国で新法が適用される事故が相次いで起きています。

    「無免許で飲酒運転事故=“発覚免脱”初適用、男を逮捕-福岡県警」(2014年5月27日 時事ドットコム)

    福岡県警飯塚署は27日、無免許で飲酒運転をして事故を起こした後、飲酒運転を隠すために逃走したとして、土木作業員の男(40)を自動車運転死傷行為処罰法違反(発覚免脱など)と道交法違反の疑いで逮捕した。「発覚免脱」を適用し逮捕したのは全国初。

    「飲酒運転隠す“発覚免脱”容疑を北海道内で初適用 事故で逃走の男送検 釧路署」(2014年5月27日北海道新聞)
    釧路署は26日、軽乗用車にワゴン車を追突して逃走していた会社員の男(42)を自動車運転死傷行為処罰法違反(過失致傷)などの疑いで逮捕された事件で、容疑を同法違反(発覚免脱)と、道交法違反(ひき逃げ)に切り替えて送検した。道内での適用は初めて。

    2件の事故に共通する罰則は、「発覚免脱」(正式名称:過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪)です。
    アルコール又は薬物の影響下で、自動車を運転し事故を起こした場合に、事故後、アルコールまたは薬物の影響や程度が発覚するのを免れるために、さらに飲酒したり薬物を摂取したりするか、あるいは、逃げてアルコールや薬物の濃度を減少させたりして、それらの影響の有無や程度の発覚を免れるような行為をした場合に適用されます。

    これは、いわゆる「逃げ得」を許さないために規定された新しい犯罪類型です。

    逃げ得とは、たとえば、酒に酔って人身事故を起こした場合には「危険運転致死傷罪」が適用される可能性がありますが、現場から逃げて翌日逮捕されたとしても、その時には体内のアルコール濃度が減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、「過失運転致死傷罪」と「道路交通法違反(ひき逃げ)」しか適用されないため刑が軽くなってしまう、という問題です。

    しかし、今回の新法適用により、その場から逃げた場合にはこの罪による最高刑12年に、ひき逃げの最高刑10年が併合され、最高18年の懲役刑を科すことが可能になったわけです。

    交通事故は、被害者とその家族、そして加害者とその家族をも不幸にしてしまいます。

    今回の「自動車運転死傷行為処罰法」の新設は、悪質な危険運転の抑止効果も期待したものですが、現実には施行後も事故が起きています。

    どのような効果が現れるかを検証するには、時間を要するものでもあります。

    今後の経過を注意深く見守っていきたいと思っています。

  • RKBラジオ「どんどこサタデー」出演

    2014年05月24日

    2014年5月24日、RKBラジオの「どんどこサタデー」という番組に出演しました。

    5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」の解説です。

    この法律は、わずか6条からなる法律ですが、その罰則は、最高刑懲役20年と重いものになっています。

    自動車を運転する方は、気をつけていただきたいと思います。

    なお、この「自動車運転死傷行為処罰法」の動画解説をしていますので、よろしければ、ご覧ください。

    〇「自動車運転死傷行為処罰法」のポイント解説
    https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 飲酒運転で自動車運転死傷行為処罰法が初適用!

    2014年05月24日

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(通称、「自動車運転死傷行為処罰法」)が、5月20日に施行されました。

    これは、悪質運転による死傷事故の罰則を強化した全6条から成る新しい法律です。

    「自動車運転死傷行為処罰法」は、これまで刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加え、さらには、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くするというもので、以下のように構成されています。

    ・「危険運転致死傷罪」
    ・「過失運転致死傷罪」
    ・「準危険運転致死傷罪」
    ・「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」
    ・「無免許運転による加重」

    詳しくは、以下のページで解説しています。ぜひ、参考にしてください。

    〇「自動車運転死傷行為処罰法」の成立までの経緯(1)
    https://taniharamakoto.com/archives/1234

    〇「自動車運転死傷行為処罰法」のポイント解説(2)
    https://taniharamakoto.com/archives/1236

    さて、この「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されたその日に早速、全国初の適用となってしまった不名誉な事故が起きてしまいました。

    「酒酔い重傷事故で現行犯逮捕 自動車運転処罰法を初適用 埼玉」(2014年5月20日 産経新聞)

    埼玉県警は5月20日、酒に酔って重傷事故を起こしたとして、同日施行された自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで、自営業の男(41)を現行犯逮捕しました。

    報道によりますと、午前3時40分頃、男は同県蕨市の市道で酒に酔ったままワゴン車を運転して、対向車線にはみ出しタクシーと衝突。タクシー運転手に左手骨折などの重傷を負わせたようです。

    男は、「1人で飲みに行った。酔っぱらって運転した」と容疑を認めているとのことです。

    今回のような事故に対して、今後は「自動車運転死傷行為処罰法」が適用されます。

    アルコールや薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で走行した場合、「危険運転致死傷罪」の最高刑は懲役20年です。

    なお、危険運転致死傷罪には該当しないが、アルコールまたは薬物、あるいは一定の病気の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こした場合、「準危険運転致死傷罪」が適用されます。

    「準危険運転致死傷罪」の最高刑は懲役15年です。

    施行されたばかりのこの新法、今後どのように運用されていくのか、現時点ではまだわかりません。

    せっかく、世論の高まりによってできた法律で、より重い刑罰を科すわけですから、罰するところはきちんと罰するよう厳格に適用していってほしいと思います。

    今後の状況を注意深く見守っていきたいと思います。