弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 8
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 法的に親子の縁を切ることはできるか?

    2015年05月31日

    歴史書などを読んでいると、父と子の葛藤や反目など争い事の場面が出てくることがあります。

    また、昭和の時代のテレビドラマなどでは、頑固オヤジがドラ息子を勘当する、というシーンがありました
    父と子の問題は、古今東西繰り返されてきた問題のようです。

    というわけで今回は、息子と縁を切りたいという父親からの相談です。
    何やら穏やかではないようですが、一体どうしたというのでしょうか?

    Q)息子と縁を切りたいと思っています…もう疲れました。30歳の息子が数年前から家庭内で暴力をふるったり、仕事もせずに私や妻に金を要求してきます。年々エスタレートしていて、実際に身の危険を感じることもあります。警察にも相談したのですが真剣に取りあってくれません。息子は精神的に落ち着くと、とてもおとなしくなります。子供のころから少し変わったところのある子供だったのですが、やさしい子だったのです。しかし、これからどうすればいいのかわかりません。法的に対処する方法はあるのでしょうか? 教えてください。

    A)養子縁組の場合であれば法的に離縁をすることができます。しかし、実子の場合は残念ながら親子関係を解消する法的な方法はありません。
    親子関係を断ち切ることを「勘当」と呼ぶようになったのは、一説によれば室町時代以降のことだそうです。

    法的には、1890(明治23)年に公布された「旧民法」では勘当の制度がありましたが、現行の「民法」では認められていません。

    よって法律上、血のつながりのある親子の関係を切ることはできませんが、現状抱えている問題を解決する方法はあるかもしれません。

    ①「親族関係調整調停を利用する」
    これは、親族間の感情的な対立や、親などの財産の管理に関する紛争等で円満でなくなった関係を回復するための話し合いをする場として家庭裁判所の調停手続きを利用するものです。

    相談者の場合、息子の暴力や金の無心をするようになったのには、何らかの親子関係や家庭環境が問題になっているかもしれません。その原因を調査し、調整してもらうための調停を家庭裁判所に申立てるわけです。
    ②「措置入院させる」
    措置入院とは強制入院ともいい、精神障害者の入院形態のひとつです。
    自傷したり他人に害を及ぼす可能性がある場合、都道府県知事の権限と責任によって強制的に入院させることができるものです。

    たとえば、過去にあった事件を例に考えてみます。
    「2014年6月、東京都八王子市の会社員(64)が家庭内暴力に悩んだ末、息子を刃物で殺害した。以前から息子は大声を出して暴れたり、両親に暴力をふるうことがあり、その度に父親は警察に通報したり警視庁に相談に訪れていたというが、被害届は出していなかった。事件当日も息子が暴れたため警察に通報。“入院させることはできないか”と相談していたが、息子が落ち着きを取り戻したため警察署員は“強制入院は困難”と判断していた。その数時間後、事件は起きた」
    (2014年6月15日 産経新聞)

    この事件の場合、父親は警察に通報していますが被害届を出していないため、警察としては暴行事件として立件するのは難しかったということでしょう。

    また、措置入院については「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に規定しているように、このケースでは以下の流れで成立します。

    1.警察官による通報
    警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。(第23条)

    2.都道府県知事による措置(医師の診察)
    都道府県知事は通報、届出があった者について、調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない。(第27条1項)

    3.判定の基準
    診察した指定医は、厚生労働大臣の定める基準に従い、当該診察をした者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判定を行わなければならない。(第28条の2)

    4.入院措置
    都道府県知事は、診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。(第29条1項)

    この事件の場合、息子が暴力をふるったため警察に通報したが、警察官が息子の異常な行動や暴力の事実を確認しておらず、措置入院の手続きがとれなかったということでしょう。

    つまり、相談のケースでは、異常な行動や暴力行為の事実が確認され、精神障害と診断されなければ措置入院させることはできないということになります。
    ③「家から追い出す」
    親としては、民事訴訟を起こして息子を家から追い出したり、部屋の明け渡しを請求することはできます。

    しかし、直系血族や兄弟姉妹は互いに扶養する義務があります。(民法第877条)

    仮に、相談者が息子を追い出した場合、息子が「扶養の申立て」をする可能性があります。
    その場合、扶養の義務といっても未成年の子には親と同等の生活をさせる「生活保持義務」がありますが、成年の子には「生活扶助義務」でいいとされています。

    よって、息子を家から追い出しても、当面の生活費や部屋の賃貸料分のお金を渡しておけば扶養義務は果たしているということもできるでしょう。
    ④「遺産を相続させない」
    では、親子の縁は切れなくても自分の遺産を息子には相続させたくない場合は、どのような法的手続きが必要でしょうか?

    1.遺言書に、「息子には相続させないこと」を記載しておく
    しかし、遺言書にそう書いたとしても、息子には「遺留分」があります。
    遺留分とは、法定相続人が最低限の財産を受け取る権利です。
    どんな遺言を書いたとしても法的には相続人には遺留分が発生します。

    たとえば、妻と子供2人が法定相続人の場合、子供1人の相続分は全体の1/4となります。
    これに1/2をかけた1/8が保留分となります。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自筆証書遺言の書き方」

    自筆証書遺言の書き方

    「子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?」

    子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?


    2.遺留分放棄の許可申請をさせる
    どうしても、遺留分も渡したくないなら、息子に「遺留分放棄の許可申請」をさせるという方法もあります。

    しかし、息子が遺留分を放棄するとは思えないので、その場合は遺留分の一部を「生前贈与」することを条件に家庭裁判所に遺留分放棄の許可申請をさせるという交渉になると思います。
    3.推定相続人の排除の申立てをする
    それでも息子が同意しない、聞く耳を持たないというような場合はどうでしょうか?
    その時は、家庭裁判所に「推定相続人の排除」の申立てをすることができます。

    「民法」
    第892条(推定相続人の排除)
    遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
    廃除された推定相続人は相続権を失い、相続人となることができません。

    ただし、推定相続人の排除には条件があります。
    ・侮辱といっても、よくある親子喧嘩のレベルでは認められません。
    ・非行とは、こずかいをせびるようなレベルでは認められず、親の財産を勝手に処分したり売り払ったり、勝手に親を保証人にして借金を作り債権者から訴訟を起こされるようなことをいいます。
    また、殺人などの重大犯罪や実刑判決を受けるような罪を犯した場合なども非行と認められます。
    ・遺言によって行うこともできます。(第893条)。
    ・その直系卑属には代襲相続が発生します。(第887条)
    もし息子の子供、つまり孫がいる場合、相続権は孫に移るため、へたをすると孫の親である息子が自分の好き勝手に遺産を使う可能性もあります。
    これを防ぐには、財産管理権の喪失や親権喪失の申立てをして、息子の「親としての権利」に制限をかける方法があります。
    以上、親がドラ息子に対処する方法について法律的に解説してきました。
    しかし、親子間のトラブルでは、前述のような親が子を殺すという殺人事件も発生しています。

    最悪の事態になる前に、親ができることはあります。
    しかし、法的には複雑で難しい部分も多いので、万が一の場合は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

    ご相談はこちらから⇒http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 特定空き家の基準が決定!空家対策特別措置法が施行

    2015年05月28日

    近年、放置されたままの空き家が問題になっています。
    そこで成立したのが「空家対策特別措置法」ですが、先日、完全施行されたので解説します。

    「建物の傾斜、臭気で判断=“危険空き家”基準公表-国交省」(2015年5月26日 時事通信)

    空き家対策を進める特別措置法が26日に完全施行されたのに合わせ、国土交通省は、周辺環境に悪影響を及ぼし撤去命令などの対象となる「特定空き家」の判断基準を示した市町村向けガイドラインを公表しました。

    著しく傾いているなど建物自体の問題に加え、ごみの放置による臭気など衛生上有害なケースも対象になり得るとしたということです。

    特措法は、危険な放置空き家について、市町村に立ち入り調査の権限を付与。
    特定空き家に認定した場合は、所有者に修繕や撤去などの勧告、命令を行えるほか、最終的に行政代執行による撤去もできると定めています。
    空家対策特別措置法は、「適切な管理がされていない空き家が防災、衛生、景観などで地域住民の生活環境に深刻な影響をおよぼしていることから、その生命、身体、財産を保護するとともに、空き家の活用を促進する」(第1条)ことを目的としています。

    詳しい解説はこちら⇒「増え続ける空き家に空き家対策法が施行」

    増え続ける空き家に空き家対策法が施行

    空家対策特別措置法は、2015年2月26日に一部が施行されたのですが、「特定空き家」に関する部分は施行されていませんでした。

    特定空き家とは、以下のものをいいます。(第2条2項)
    ・倒壊等、著しく保安上危険となるおそれのある状態
    ・著しく衛生上有害となるおそれのある状態
    ・適切な管理が行われないことにより、著しく景観を損なっている状態
    ・その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

    ボロボロに傷んだ廃墟のような空き家は、いつ倒壊するかわからず近隣住人に危険を及ぼしかねません。
    また、不衛生で汚く、見た目も悪いため、市町村が持ち主に修繕や撤去を命令でき、これに従わない場合や持ち主不明の場合は、強制撤去できるわけです。

    ただ、どこまでが普通の空き家で、どこからが特定空き家なのかの基準が必要になるわけですが、この基準が公表されたので以下にまとめます。
    1.「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」
    ①建築物が著しく保安上危険となるおそれがあるもの
    (a)建築物が倒壊等するおそれがあるもの
    ・建築物の著しい傾斜(柱の傾斜など)
    ・建築物の構造耐力上主要な部分の損傷等(基礎・土台や柱・はり等の破損、変形、腐朽など)

    (b)屋根、外壁等が脱落、飛散等するおそれがあるもの
    ・屋根の変形等(ふき材の剥落、軒の腐朽など)
    ・外壁の剥離、破損、脱落等(貫通する穴が生じている、外壁の仕上材料の剥離、破損など)
    ・看板、給湯設備、屋上水槽等の剥離、破損、脱落等
    ・屋外階段、バルコニーの腐食、破損、脱落等
    ・門、塀のひび割れ、破損等

    ②擁壁(ようへき)が老朽化し危険となるおそれがあるもの
    ・擁壁表面の水のしみ出し、流出
    ・水抜き穴の詰まり
    ・ひび割れの発生
    ※擁壁=斜面の土砂がくずれるのを防ぐために設ける土留め構造物
    2.「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態」
    ①建築物又は設備等の破損等が原因で以下の状態にあるもの
    ・吹付け石綿等が飛散し暴露する可能性が高い状況
    ・浄化槽等の放置、破損等による汚物の流出、臭気の発生があり、地域住民の日常 生活に支障を及ぼしている状態
    ・排水等の流出による臭気の発生があり、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態。

    ②ごみ等の放置、不法投棄が原因で以下の状態にあるもの
    ・ごみ等の放置、不法投棄による臭気の発生があり、地域住民の日常生活に支障を 及ぼしている状態。
    ・ごみ等の放置、不法投棄により多数のねずみ、はえ、蚊等が発生し、地域住民の 日常生活に支障を及ぼしている状態。
    3.「適切な管理が行われていないことで著しく景観を損なっている状態」
    ①適切な管理が行われていない結果、既存の景観に関するルールに著しく適合しない状態にあるもの
    ・景観法に基づき景観計画を策定している場合において、当該景観計画に定める建築物又は工作物の形態意匠等の制限に著しく適合しない状態となっている。
    ・景観法に基づき都市計画に景観地区を定めている場合において、当該都市計画に定める建築物の形態意匠等の制限に著しく適合しない、又は条例で定める工作物の形態意匠等の制限等に著しく適合しない状態となっている。
    ・地域で定められた景観保全に係るルールに著しく適合しない状態となっている。

    ②周囲の景観と著しく不調和な状態であるもの
    ・屋根、外壁等が、汚物や落書き等で外見上大きく傷んだり汚れたまま放置されている状態。
    ・多数の窓ガラスが割れたまま放置されている状態。
    ・看板が原型を留めず本来の用をなさない程度まで、破損、汚損したまま放置されている状態。
    ・立木等が建築物の全面を覆う程度まで繁茂している状態。
    ・敷地内にごみ等が散乱、山積したまま放置されている状態。
    4.「その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態」
    ①立木が原因で以下の状態にあるもの
    ・立木の腐朽、倒壊、枝折れ等が生じ、近隣の道路や家屋の敷地等に枝等が大量に散らばっている状態。
    ・立木の枝等が近隣の道路等にはみ出し、歩行者等の通行を妨げている状態。

    ②空家等に住みついた動物等が原因で以下の状態にあるもの
    ・動物の鳴き声その他の音が頻繁に発生し、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態。
    ・動物のふん尿その他の汚物の放置により臭気が発生し、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態。
    ・敷地外に動物の毛又は羽毛が大量に飛散し、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態。
    ・多数のねずみ、はえ、蚊、のみ等が発生し、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態。
    ・住みついた動物が周辺の土地・家屋に侵入し、地域住民の生活環境に悪影響を及ぼすおそれがある状態。
    ・シロアリが大量に発生し、近隣の家屋に飛来し、地域住民の生活環境に悪影響を及ぼすおそれがある状態。

    ③建築物等の不適切な管理等が原因で以下の状態にあるもの
    ・門扉が施錠されていない、窓ガラスが割れている等不特定の者が容易に侵入できる状態で放置されている。
    ・屋根の雪止めの破損など不適切な管理により、空き家からの落雪が発生し、歩行者等の通行を妨げている状態。
    ・周辺の道路、家屋の敷地等に土砂等が大量に流出している状態。

     

    ポイントは、ただ建物が傾いている、屋根がはがれているなどで倒壊しそうな状態だけでなく、ゴミや汚物が放置されていて臭い、排水などがあふれて臭いといった臭気や、壁の落書きや割れた窓ガラス、建物を覆う樹木などの見た目、さらには住み着いた動物の鳴き声や糞尿、ネズミやハエ、蚊などの害獣・害虫なども規制の基準になっているところに注意が必要です。

    なお、税制改正で、倒壊の恐れのある危険な空き家にも今までの6倍の固定資産税がかかるようになります。
    つまり、今まで住宅用地に認めていた固定資産税の軽減措置が空き家は受けられなくなるということですから、気をつけてほしいと思います。

    いずれにせよ、親から受け継いだ土地と建物などが空き家状態になっている人は、一度しっかりと確認、把握をすることをおすすめします。

    空き家は、相続の際にも揉める原因となります。

    不動産であるだけでモメますし、空き家は誰も欲しがりませんし、キャッシュを生み出さないので、相続税の支払いに困難を来す場合さえあります。

    相続対策はお早めに。

    ご相談は、こちらから。
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  • 仕事中の待機時間に賃金は発生するのか?

    2015年05月22日

    「路線バス折り返しの待機中は“労働時間” 福岡地裁判決」(2015年5月20日 朝日新聞デジタル)

    北九州市営バスの嘱託運転手14人が、路線バスの終点到着後、折り返し運転で発車するまでの待機時間の賃金支払いを求めた訴訟の判決が福岡地裁でありました。
    原告側が2012年に提訴していたものです。

    原告側は、「待機中も忘れ物の確認や車内清掃、乗客の案内をしており、労働から解放された休憩時間にはあたらない」と主張し、「待機時間も労働時間にあたる」として2年間の未払い金を請求。

    一方、市側は「バスから離れて自由に過ごすことが許されている。休憩時間中に乗客対応をすることは求めていない」と主張。

    裁判長は、「待機中も乗客に適切に対応することが求められており、労働時間にあたる」と認定。
    市に対し、2010~11年分の未払い賃金として1人あたり約36万~120万円、計約1241万円を支払うように命じました。

    市長は、「大変厳しい判決。内容を早急に検討し、今後の対応を決めたい」とのコメントを発表したということです。
    さて労働時間については、「労働基準法」に定められています。
    条文を見ながら解説していきます。

    【労働基準法とは?】
    労働基準法とは、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的で制定されたもので、会社が守らなければいけない最低限の労働条件などを定めた法律です。
    【労働時間とは?】
    労働時間とは、休憩時間を除いた、現に労働させる時間(実労働時間)のことで、これには規定があります。

    「労働基準法」
    第32条(労働時間)
    1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
    2.使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
    これを、「法定労働時間」といいます。
    仮に、会社が法定労働時間外の勤務を従業員にさせた場合、「割増賃金」として残業代などを払わなければいけません。
    【休憩時間とは?】
    会社が従業員に自由に利用させなければいけないもので、これにも規定があります。

    第34条(休憩時間)
    使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
    【労働時間と休憩時間の違いとは?】
    法令の所轄行政官庁の具体的判断、または取扱基準として発せられるものに「行政解釈」というものがあります。

    たとえば、労働基準法に関するものであれば、厚生労働省から労働局や労働基準監督署に対して通達されるため、一般に「通達」とも呼ばれます。

    過去の行政解釈に以下のものがあります。

    「休憩時間とは、単に作業に従事しない手待時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう」
    (昭和22年9月13日 発基17)

    これは、実際には作業を行っていなくても、使用者からいつ就労の要求があるかわからない状態で待機している場合は、休憩時間に含まれず、労働時間になるということです。

    次に、労働時間に関する判例を見てみましょう。

    「労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」
    (三菱重工業長崎造船所事件 最高裁一小平成12年3月9日民集54巻3号801頁)

    つまり、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間は労働時間になるということです。

    なお、使用者の指揮命令は明示だけではなく、黙示の場合も含みます。
    具体的には、業務の準備、後片付け、事業所の掃除などが義務づけられているならば指揮命令下にある時間となりますし、休憩時間中の電話番や店番なども、労働から解放されているわけではありませんので、使用者の指揮命令下にある時間と評価でき、労働時間にあたると考えられます。
    【労働時間と認められる業務について】
    以上のことからなど、労働時間にあたると考えられる業務についてまとめます。

    ・業務の準備、着替え、後片付け、事業所の掃除が義務づけられている場合。
    ・休憩時間中の電話番や店番など。
    ・所定労働時間外の社内研修等の参加時間(出席が義務づけられている場合や、実質的に出席の強制があると思われる場合)。
    ・仮眠時間(警備の業務に従事している労働者が、仮眠中でも警報が鳴った場合等には直ちに業務に就くことを求められているような場合など)。
    よって、今回の訴訟のケースでは、バスの運転手が待機時間に行っていた業務、たとえば忘れ物の確認や車内清掃、乗客の案内などは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間」=「労働時間」にあたると判断されたということです。

    会社は、従業員の労働時間と休憩時間をきちんと管理しなければいけないことは肝に銘じておきましょう。

    労使双方の行き違いやコミュニケーション不足、または労働法に関する知識の不足など、労働問題の原因はさまざまですが、労働時間については法律でしっかり定められているのですから、会社も従業員も、この機会に労働法をしっかりと覚えて、仕事にも生かしていただきたいと思います。

    労働問題のご相談はこちら⇒ http://roudou-sos.jp/

     

  • 小学生の犯罪はどのように処罰されるのか?

    2015年05月18日

    警察庁公表の「少年非行情勢(平成26年1月~12月)」によると、2014(平成26)年中の刑法犯少年の検挙人数は4万8361人で、11年連続で減少しているということです。

    しかし、少年による凄惨な事件が発生したほか、再犯者率の上昇、少年非行の低年齢化が続いていることなど、少年非行を取り巻く情勢は引き続き厳しい状況にある、としています。

    凶悪事件の例としては、少年2名を自動車で跳ね飛ばし1名を殺害、もう1名に重傷を負わせた事件(愛知)、同級生の後頭部を殴打したうえ、首を絞めて殺害した事件(長崎)、集団で少女に暴行を加えて死亡させた事件(愛媛)などが挙げられています。

    犯罪で一番多かったのは窃盗犯の2万8246人、次いでその他の刑法犯が1万1737人、粗暴犯(傷害・暴行等)が6243人で、知能犯(詐欺等)が(987人)。
    凶悪犯(殺人・強盗・放火・強姦)は703人でした。

    さて今回、なぜ少年犯罪の統計データから始まったかというと、子供の犯罪に悩む親御さんからの相談が届いたからです。
    一体、子供は何をしてしまったのでしょうか?

    Q)12歳の息子がスーパーで万引きをしました。お店の責任者の方から連絡があり迎えに行ったのですが…どうやら今まで何回も万引きしていたようです。警察に通報しないでもらったのですが、親として、これからどうすればいいのでしょうか? 法的には、どのように処罰されるのでしょうか?

    A)大人の場合、窃盗罪は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金(「刑法」第235条)となりますが、子供の場合、今回は12歳なので仮に警察に補導されたならば、その後、児童相談所に通告されることになっています。
    前述の「刑法犯少年」とは、14歳以上20歳未満で刑法犯の罪を犯した少年のことで、14歳未満の場合は「触法少年」といいます。(少年法3条1項2号)。

    「刑法」第41条では、「14歳に満たない者の行為は、罰しない。」と規定しているため、今回の相談のように12歳の子供の万引きは警察に補導されても罰せられることはありませんが、警察は児童相談所に通告することになっています。

    児童相談所とは、「児童福祉法」第12条に基づき、各都道府県に設けられた児童福祉の専門機関で、0歳から17歳の者を対象に以下のような業務を行っています。(児童福祉法11条の2)

    ・児童に関するさまざまな問題について、家庭や学校などからの相談に応じる。
    ・児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行う。
    ・児童及びその保護者につき、上記の調査又は判定に基づいて必要な指導を行う。
    ・児童の一時保護を行う。

    通告を受けた児童相談所は、以下のような措置を取ります。

    ・児童、または保護者に訓戒を加え、または誓約書を提出させる。
    ・児童、または保護者を児童福祉司、または児童委員に指導させる。
    ・児童を、里親もしくは保護受託者に委託し、または児童施設等に入所させる。(保護者のいない児童、または保護者に監護させることが不適当だと認められる児童の場合)
    ・14歳未満でも、家庭裁判所の審判に付することが適当だと認められる児童は、家庭裁判所に送致する。(都道府県知事、または児童相談所長から送致を受けた場合など)
    ところで、前述の統計データによれば、2014(平成26)年中の触法少年の補導人数を見てみると、1万1846人で前年比-746人。
    平成17年と比べると、この約10年で8673人減少しています。

    窃盗犯が最も多く7728人で、そのうち万引きは4797人。
    暴行・傷害などの粗暴犯は1429人、殺人・放火などの凶悪犯は76人が検挙されています。

    犯罪の低年齢化が懸念されます。

    若いころに身についた遵法精神は大人になってからも生き続けます。

    小学校や中学校の段階での法教育が望まれるところです。

  • 31歳年の差にストーカー規制法違反

    2015年05月14日

    今回は、かなり年上の女性を好きになりすぎて、ついには逮捕されてしまった男の話です。

    男が犯した罪とは何だったのでしょうか?

    「“好きで忘れられなかった”54歳女性に23歳男がストーカー行為で逮捕」(2015年5月12日 産経新聞)

    兵庫県警生活安全企画課と県警豊岡南署は、元交際相手の女性(54)につきまとい、メールを連続して送りつけたなどとして、会社員の男(23)をストーカー規制法違反容疑で逮捕しました。

    報道によると、男は3月6日~8日にかけて、女性から拒まれたにもかかわらず、「電話をください」などと36回ものメールを送りつけ、さらには4月17日午後2時半ごろ、被害者宅を監視するなどしたようです。

    同署は被害女性から相談を受け、3月に警告を行いましたが4月になってもストーカー行為が続いたため、今回の逮捕となったとしています。

    2人は、以前勤務していた会社の同僚で、男は「好きで忘れられなかった」と容疑を認めているということです。
    年上の女性に憧れ、恋をする青年…そんな設定の小説や映画がありますが、現実世界ではストーカー行為は犯罪になります。
    では、条文を見てみましょう。

    「ストーカー規制法」
    第2条(定義)
    1.この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
    「つきまとい行為」は、以下の8つが規定されています。
    ①待ち伏せ、尾行、および自宅や勤務先を見張り、押しかけること。
    ②行動を監視していると告げる行為。
    ③面会や交際、その他義務のないことを行うことの要求。
    ④著しく粗野、乱暴な言動。
    ⑤無言電話、連続した電話・FAX・メール。
    ⑥汚物・動物の死体等の送付。
    ⑦名誉を害する事項の告知。
    ⑧性的羞恥心を侵害する事項の告知、わいせつな写真・文章などの送付、公表。
    どれもやられたら迷惑なものばかりで、被害者にとってはたまったものではありませんね。

    以下に、この法律について簡単にまとめておきますので、この機会に「ストーカー規制法」について学んでいただきたいと思います。

    ・ストーカー規制法は、正式名称を「ストーカー行為等の規制等に関する法律」といいます。

    ・1999(平成11)年に起きた「桶川ストーカー殺人事件」をきっかけに、2000(平成12)年11月に制定された法律で、その後、2012(平成24)年に発生した「逗子ストーカー殺人事件」を受けて、2013(平成25)年6月に改正されました。

    ・ストーカー行為とは、つきまとい行為を同一の人に対して反復して行うことです。(第2条2項)

    ・上記①~④に関しては、「身体の安全、住居などの平穏、名誉が害され」、「行動の自由が著しく害され不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る」とされています。(第2条2項)

    ・上記のストーカー行為をした者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第13条)

    ・ストーカー行為は「親告罪」です。
    親告罪とは、被害者が告訴(捜査機関に対し犯罪を申告して処罰を求めること)しなければ公訴できない犯罪のことです。

    ・警察は、行為者に対して警告書によって警告ができます。(第4条)
    警告に従わない場合、都道府県公安委員会は禁止命令を出すことができます。(第5条)
    この命令に従わない場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。(第14条)

    ・女性だけでなく、男性も保護の対象となっています。

    上記にあてはまる行為を受けている方も多いのではないでしょうか。

    せっかくの一度の人生、他人からのつきまとい行為により、ビクビクしながら生きるのはもったいないですね。

    「警察に申告するのがこわい」

    という人もいますが、むしろ、そのまま行動がエスカレートする方が、もっと怖い目にあうと思います。

    勇気を出して、警察に被害を申告するようにしましょう。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 運転中の携帯電話で逮捕ですかっ!?

    2015年05月09日

    世の中、便利になるのはいいことですが、そのうち便利さゆえの問題が生じて、結局は法律で取り締まらなければならなくなる…そんな残念なことが社会のさまざまな場面で見受けられます。

    携帯電話やスマホもそうですね。
    広く普及している現在では、その使い方やシチュエーションで問題が起きることがあります。

    そこで今回は、携帯電話を使いながらやってしまったことで逮捕された、という事件を解説します。
    一体、何をしてしまったのでしょうか?

    「運転中に携帯電話容疑 反則金未納で女逮捕/浦和署」(2015年5月7日 埼玉新聞)

    埼玉県警運転管理課と浦和署は、道交法違反(携帯電話使用等)の疑いで、越谷市の女(40)を逮捕しました。

    そもそもは2012年9月、さいたま市の県道で携帯電話の画面を注視しながら自動車運転をしていたことによる違反なのですが、女は反則金を支払わず、同署が通知書を郵送するなど複数回出頭を要請していたにもかかわらず、応じなかったということで今回の逮捕となったようです。

    容疑者の女は、「収入がなくて納付できなかった」と供述しているということです。

    収入がなくても、3年近くも自動車には乗ることができたということでしょうか?
    ガソリン代は、どうしていたのでしょうか?

    それはさておき、早速、条文を見てみましょう。

    「道路交通法」
    第71条5の5(運転者の遵守事項)
    自動車又は原動機付自転車を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置を通話のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。
    これに違反し、道路における交通の危険を生じさせた者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処されます。(第119条9の3)

    念のため、ここで禁止されているのは手を使って送受信する無線通話装置(携帯電話等)であり、傷病者の救護や公共の安全の維持のため走行中に緊急で、やむを得ずに使う場合は除外されていることは覚えておいてください。

    ところで、「携帯電話を使いながら自動車運転しただけで逮捕とはおおげさじゃないか?」

    と思った人もいるかもしれませんが、通常は、いきなり逮捕とはなりません。

    今回のように出頭要請を無視し続けていると逮捕ということになります。

    また、仮に罰金を支払えない場合は、金額分の労役を日数で科されますから注意が必要です。
    たとえば、5万円の罰金なら拘置所で10日間の労役というのが通常です。

    ともかく、警察から被疑者として出頭要請された場合は、素直に出頭しなければならないということです。

    ちなみに、これは自転車の場合でも同じです。

    道路交通法第71条6号に基づき、各自治体が「道路交通規則」を定めていますが、ちなみに、東京都道路交通規則では、携帯電話・メールをしながらの運転が禁止されています。

    違反した場合は5万円以下の罰金です。

    とにかく、便利だからといって携帯電話やスマホを使いながらの自動車運転は、たとえ交通違反の点数は2点だとしても大変危険ですし、法律で禁止されているわけですから、やってはいけません。

    「注意一秒、ケガ一生」の標語は自分のためだけではありません、周りの人のためでもあります。

    肝に銘じておきましょう。

  • あなたの家が勝手に壊される?空き家の法律

    2015年05月07日

    市が強制的に私人の所有建物を解体する、という事態が発生しました。

    「倒壊恐れの空き家、行政が解体 京都市、代執行で初事例」(2015年4月30日 京都新聞)

    京都市は、上京区にある空き家が倒壊の恐れがあるため4月27日までに解体するよう公告していましたが、所有者と連絡がつかないことから、建築基準法に基づく行政代執行で取り壊す作業に着手しました。

    建物は、延べ床面積67平方メートルの木造平屋建てで、住居兼工場。築年数は不明で、屋根が崩壊して柱も傾き、倒壊すれば周囲の住宅を損壊させる恐れがあり、隣人の男性は、「ヤブ蚊やネズミなどが発生し、崩れそうで困っていた。解体してくれて助かる」と話しているようです。

    京都市は、2014年4月に空き家の活用と適正管理のための条例を施行。

    管理不全の空き家の解体は、本来ならば所有者への「指導」、「勧告」、「命令」を経てから「代執行による解体」という段取りをとるわけですが、今回は、不動産登記簿謄本の確認などで所有者を特定したものの連絡がつかなかったことと、倒壊の危険性が極めて高いことから、即公告、市として初の行政代執行となったということです。
    それでは条文を見てみましょう。

    「建築基準法」
    第10条(保安上危険な建築物等に対する措置)
    3.前項の規定による場合のほか、特定行政庁は、建築物の敷地、構造又は建築設備が著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる。
    第9条(違反建築物に対する措置)
    12.特定行政庁は、第一項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法の定めるところに従い、みずから義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
    「特定行政庁」とは、建築主事(建築確認をする公務員)を置く地方公共団体および、その長のことで、建築の確認申請、違反建築物に対する是正命令等の建築行政全般を司る行政機関です。
    すべての都道府県と人口25万人以上の市には、建築主事の設置が義務付けられています。

    「行政代執行」とは、行政上の強制執行の一種で、義務者が行政上の義務を履行しない場合に、行政庁が自ら義務者のなすべき行為をすることです。(「行政代執行法」第1条・2条)

    つまり簡単に言うと、危険で不衛生な建築物について持ち主が措置を講じない場合は、都道府県や市が持ち主の代わりに撤去などができる、ということです。

    ところで近年、行政上で問題となっているものに「空き家対策」があります。
    空き家問題については以前、解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒「増え続ける空き家に空き家対策法が施行」
    https://taniharamakoto.com/archives/1896

    現在、日本の空き家率は13.5%で、このまま何の対策もとらなければ今後の人口減少により2023年には21.0%まで空き家率が増加すると考えられることから、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称、空家対策特別措置法)が2015年2月26日に施行された、というものでした。

    これまでの建築基準法をさらに強化して、地方自治体が空き家の処分をしやすくしたのが空家対策特別措置法といえます。

    空家対策特別措置法には大きく2つの目的があります。
    1.問題のある空き家に対する除去などの対策強化
    2.空き家の有効活用の促進

    また法律上、空き家には2種類あります。
    いわゆる空き家とは、使用されていない状態が続いている建物や敷地です。
    一方、「特定空き家」というものがあり、これは、①倒壊等、著しく保安上危険となるおそれのある状態、②著しく衛生上有害となるおそれのある状態、③適切な管理が行われないことにより、著しく景観を損なっている状態など、というものです。
    今回の京都の建物も、この要件にあてはまります。

    しかし、ここで疑問がわきます。
    今回の京都市の建築物には、空家対策特別措置法ではなく建築基準法が適用されていますが、それはなぜでしょう?

    じつは、今年2月に施行されたのは空家対策特別措置法の一部のみで、
    特定空き家についての施行は2015年5月26日になっているからです。

    それだけ、今回の建物は危険性、緊急性が高い案件だったということでしょう。

    なお、空き家の固定資産税について政府・与党は、平成27年度与党税制改正大綱に、税金面の優遇措置をなくし増税する方針を盛り込んでいます。

    今まで、住宅が建つ200平方メートル以下の土地の場合、税率は6分の1に軽減されていました。
    そのため、建物を壊して更地にしない所有者も多く、空き家が増える原因にもなっていました。

    ところが今回の税制改正で、倒壊の恐れのある危険な空き家にも今までの6倍の固定資産税がかかるようになります。
    空き家を持っている人や相続した人は要注意です。

    建物が地震などで倒壊して、他人に損害を与えた場合、所有者が多額の損害賠償責任を負うことにもなりかねませんので、空き家を所有する人は、この機会に空き家の有効活用を検討してみてもよいかもしれません。

  • 未成年の子供が行った契約を解除することができる?

    2015年04月28日

    新年度が始まってから少し経ちました。

    希望に燃えて社会人生活をスタートした人もいるでしょう。
    残念ながら、すでに5月病? で会社に行きたくないという人もいるかもしれません。

    何事も、新しく始めるにはエネルギーが必要ですが、それが間違った方向に向かってしまうとトラブルの原因にもなってしまいます。

    今回は、勢い余って問題を起こしてしまった? 息子の親御さんからの相談です。
    一体、何をやらかしてしまったのでしょうか?
    Q)お恥ずかしい話なのですが…18歳の息子が私たち親に無断で、しかも年齢を誤魔化して自動車を買っていました。叱ったところ本人は反省していましたが、問題は自動車です。法的には、ディーラーに対して契約を取り消すことはできるのでしょうか?

    A)子供が親に無断で買った車の契約を解除したいということですが、基本的には取り消すことができます。
    しかし今回の場合、息子さんは年齢を誤魔化して相手方をだましています。
    このような場合、法的には「民法」第21条により、契約を取り消すことはできません。
    【未成年者と売買契約の関係とは?】
    近年、選挙権の18歳への引き下げ問題や民法改正などの報道がありますが、日本の法律上、18歳は未成年です。

    「民法」
    第4条(成年)
    年齢20歳をもって、成年とする。
    また、未成年者は原則として親の同意がなければ、物の売買や貸し借りなどはできません。

    第5条(未成年者の法律行為)
    1.未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
    法定代理人とは、法律により代理権を有することを定められた者のことですが、本人が未成年者の場合は親権者であり、原則は父母になります。(第818条)

    同意の内容は具体的なものでなくてもよく、今回のケースでは「車を買ってもいい」という親の同意で十分とされています。

    なお、旅費や学費などのように使い道が決められているものや、小遣いなどは親の同意はなくても使っていいということになっています。
    【未成年者の売買契約は取り消すことができる?】
    では、親の同意を得ないで行った子供の売買契約を取り消すことはできるでしょうか?

    民法の第5条の2項では次のように規定されています。

    2.前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

     

    全国の親御さんは安心してください、子供が無断で買った物、契約は取り消すことができます。
    仮に代金を支払っているなら返金請求ができます。

    なお、契約の取り消しができるのは本人と親で、その時効は5年です。(第126条)
    5年間、「取消権」を使わないと取り消すことができなくなりますので注意してください。

    ところが…今回のケースでは、すんなりと事が運ばない可能性があります。
    条文を見てみましょう。

    第21条(制限能力者の詐術)
    制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
    何やら1度読んだだけでは、よくわからないかもしれませんが、今回のケースに当てはめてみると以下のようになります。

    未成年の息子(制限行為能力者)が、自分は成年(行為能力者)であるとディーラーにうそをつき、だまして(詐術を用いて)契約したので、今回の自動車を購入した契約は、本人も親も取り消すことができない。

    実際、どのような状況だったのか相談内容からだけではわからないので詳しくは言えませんが、たとえば、偽造した免許証を提示するような行為は詐術になりますし、自分は20歳以上の成年だと言わなくても、言葉巧みに相手に誤信させて信じ込ませる言動をしていれば詐術とみなされる可能性があります。

    この法律には、人をだますような未成年者は法律で保護する必要はないとするのと同時に、相手方が契約を取り消されないための保護という観点もあります。

    人をだますことは、たとえ未成年者でも許されないということは親も子供も肝に銘じておきましょう。

    今回の件、最終的には先方と交渉してみないことにはどうなるかは何とも言えないところですが、法的な部分では弁護士などの専門家に相談することをお薦めします。

    ご相談はこちらから⇒ http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 自転車ひき逃げで書類送検

    2015年04月21日

    自転車でぶつかっただけ、では、済まない時代になりました。

    「“自転車の事故はお互いさまでは…”自転車ひき逃げの19歳女子大生を書類送検」(2015年4月17日 産経新聞)

    大阪府警高石署は、自転車同士の衝突事故で相手にケガを負わせたにも関わらず、そのまま走り去ったとして、府内の女子大生(19)を重過失傷害と道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で書類送検しました。

    事故が起きたのは2015年1月26日午前10時すぎ。
    女子大生が市道交差点を自転車で走行中、パートの女性(57)の自転車と衝突。
    女性を転倒させ、右足首を骨折させたのに救護措置を取らずに逃走したようです。

    女子大生は、テレビで事故のニュースを見た家族に付き添われ、事故当夜に自首。

    「通学で急いでいた」、「自転車の事故なのでお互いさまと思って立ち去ってしまった」と話しているということです。

    怪我をさせれば、損害賠償義務を負います。

    ところで、今回の事故は、刑事事件での書類送検です。
    ポイントは、大きく4点あります。

    1.道路交通法の「救護義務違反」=ひき逃げとは?
    事故を起こした場合、以下の措置等を取らなければいけません。(第72条)
    ①車両の運転者と同乗者は、ただちに運転を停止する。
    ②負傷者を救護する。
    ③道路での危険を防止するなど必要な措置を取る。
    ④警察官に、事故発生の日時、場所、死傷者の数、負傷の程度等を報告する。
    ⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる。

    これらを怠ると、「ひき逃げ」という犯罪になりますので注意してください。

    詳しい解説はこちら⇒「軽傷のひき逃げで懲役15年!?」

    軽傷のひき逃げで懲役15年!?


    2.自転車も「車両」の一種
    道路交通法では、自転車は車両の一種である「軽車両」です。
    当然、自転車の事故も犯罪になるので注意してください。

    ただし、自動車と自転車では刑罰に違いがあります。
    自動車で、ひき逃げをして、被害者を死傷させた場合は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条2項)

    自転車の場合は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処されます。(第117条の5)
    3.重過失傷害罪とは?
    「重過失傷害罪」とは、過失致傷に重過失、つまり重大な過失により人にケガをさせた罪です。
    「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

    自転車の運転で重過失があった場合には、この規定が適用されます。

    法定刑は、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金です。

    4.書類送検とは?
    テレビや新聞などのメディアで「書類送検」という言葉を見かけますが、逮捕と何が違うのでしょうか?

    書類送検とは、刑事事件の手続きにおいて被疑者を逮捕せずに、または逮捕後保釈してから身柄を拘束せずに事件を検察官送致することです。
    被疑者の逮捕や拘留の必要がない場合や、送致以前に被疑者が死亡した場合などで行われます。

    今回の事故の場合、被疑者である女子大生は家族に付き添われて自首したということで、逃亡する可能性も低いために書類送検になったのだと思います。

    近年、自転車による重大事故が増えています。

    警察庁が公表している統計資料「平成26年中の交通事故の発生状況」によると、自転車関連の事故は10万9,269件で、交通事故全体に占める割合は約2割です。
    また、自転車同士の事故は2,865件起きていて、そのうち2件が死亡事故となっています。

    こうした事態を受けて、自転車による交通事故も厳罰化の方向に向かっています。
    詳しい解説はこちら⇒「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
    https://taniharamakoto.com/archives/1854
    報道内容からだけでは詳しい状況がわかりませんが、事故を起こして相手がケガをしたにも関わらず、「お互いさまと思った」という女子大生の感覚は、交通事故の危険性、重大性を理解していない浅はかで軽率なものと言わざるを得ないでしょう。

    自転車は気軽で日常使いだからといって、けっして他人事と軽くとらえずに、細心の注意を払って運転してほしいと思います。

  • 遠隔操作アプリで逮捕!?夫が妻に犯した罪とは?

    2015年04月15日

    先日、妻に内緒であることをした夫が逮捕されるという事件が起きたようです。

    一体、どんなことをしたのでしょうか?

    「妻のスマホに無断で遠隔操作アプリ入れた35歳会社員を逮捕」(2015年4月9日 産経新聞)

    奈良県警は、妻のスマートフォンに遠隔操作アプリを無断でインストールし、遠隔操作ができる状態にしたとして、同県桜井市の会社員の男(35)を不正指令電磁的記録供用容疑で逮捕しました。

    報道によると、2014年7月、容疑者である夫が妻(当時30代)のスマートフォンに無断で遠隔操作アプリをインストール。

    その後、妻は何事もなく使用していたようですが、2015年3月に見覚えのないアプリがインストールされているのに気づき、「夫の仕業ではないか」と県警に相談して発覚。
    男は、「間違いない」と容疑を認めているということです。

    県警は、男がアプリを使ってどのような操作をしていたか調べるとしています。
    何が目的だったのか? 夫婦の関係はどうだったのか?
    報道内容からだけではわかりませんが、たとえ夫婦でも一線を越えれば犯罪となります。

    では、条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第168条の2(不正指令電磁的記録作成等)
    1.正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

    一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
    二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

    2.正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
    「不正指令電磁的記録供用罪」は、2011年の刑法改正で新設された犯罪類型です。

    簡単に言えば、正当な理由なしに、人のコンピュータ(電子計算機)に不正な指令を与えるウイルス(電磁気記録)などを入れる(インストール)と犯罪ですよ、ということです。

    今回の事件では、時代に即した形で、スマホに入れたアプリに適用したわけですが、じつはここ数年、こうした遠隔操作できるアプリを配偶者や恋人のスマホに無断でインストールする事件が増えているようです。

    もともとは合法の盗難防止アプリで、スマホを紛失したり盗難に遭ったときに、遠隔操作でカメラのレンズやスピーカーを使って場所を特定して探し出すというものです。
    それが違法に、しかも相手に無断で使われ、監視・盗撮などされるところに犯罪となる問題があるわけです。

    昨年、広島で起きた事件では、ある女性がスマホの動きが何かおかしい、知らないアプリの表示がついたり消えたりする、居場所を言っていないのに知人に知られていたということがあり警察に相談。

    その結果、元交際相手の男が、女性と会っていたときに席を外したすきに盗難防止アプリをインストールしていたことが判明。
    居場所を確認され、写真を撮られ、会話を録音されていたようです。

    もちろん、今回の事件では妻が同意しているのであれば問題はありませんが、子供ではないのですから同意する人もいないでしょう。
    (えぇ? そうしたプレイを楽しむ夫婦もいるとか、いないとか…)

    たとえ夫婦間でも、合法なアプリでも、悪意をもって無断でこっそりインストールすれば犯罪になるということは、しっかり理解してほしいと思います。

    ちなみに、配偶者や恋人のメールをこっそり見るのはどうでしょうか?
    詳しい解説はこちら⇒「アダムとイブと不正アクセス禁止法」
    https://taniharamakoto.com/archives/1326

    こちらも犯罪になる可能性がありますから注意してください。