手の甲をなめただけで強制わいせつ罪で逮捕 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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手の甲をなめただけで強制わいせつ罪で逮捕

2015年04月08日

野生動物たちは傷ついたとき、傷口をなめ、ひとり静かに傷の治りと体力の回復を待つといわれます。

専門的には、そうした行為を「ズーファーマコロジー」と呼ぶのだそうです。

人間も子供の頃などは、すり傷や切り傷をすると自分でなめたり、つばをつけたりしますね。
痛みを和らげるためにも、本能的になめるのかもしれません。

実際、だ液には殺菌作用があり、また上皮成長促進因子という成分のおかげで傷の治りが早くなるという研究報告もあるそうです。

なめるという行為には、こころと肉体両面の癒し効果があるのでしょう。

しかし、他人をなめるときは、もちろん注意が必要です。
なめる相手、場所、部分、やり方を誤ると犯罪になる可能性があります。

「女性の腕つかみ手の甲なめた男“覚えていない”」(2015年4月4日読売新聞)

茨城県警鹿嶋署は、自称土木作業員の男(57)を強制わいせつ容疑で逮捕しました。

報道によると、事件が起きたのは4月2日午後3時40分頃。
男は、鹿嶋市内の路上を歩いていた10代の女性の腕をつかみ、手の甲をなめたようです。

「酔っぱらっていて覚えていない」と男は容疑を否認しているということです。
以前、「準強制わいせつ罪」と「強制わいせつ罪」の違いについて解説しました。
詳しい解説はこちら
⇒「強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪の本当の違いとは?」
https://taniharamakoto.com/archives/1312

13歳以上の者に対して、「暴行」や「脅迫」によって被害者を心神喪失や抗拒不能状態にしたうえで事におよんだ場合、強制わいせつ罪となります。

6ヵ月以上、10年以下の懲役が科されます。

刑法上、わいせつな行為とは、「性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」とされています。
どのような行為が「わいせつ」とされるかについても、以前解説しているので参考にしてください。

詳しい解説はこちら
⇒「スカートめくりが「いたずら」から「犯罪」に昇格」
https://taniharamakoto.com/archives/1690

ところで、この事件には報道内容からだけでは見えてこないのですが、警察と容疑者の間の3つの争点があると思います。

1.どのような「なめ方」をしたのか?
通常、こうした事件の場合、まずは暴行罪で逮捕して、途中から容疑を切り替えることが多いものです。
しかし、今回は最初から強制わいせつ容疑で逮捕しています。
よほど「卑猥(ひわい)」で「猥褻(わいせつ)」な「なめ方」をしたのかもしれません。

判例では、強制わいせつでの暴行行為については、殴る、蹴るはもちろん、体を押さえたり、着衣を引っ張ったりすることも含まれるとされていますので、女性の手を引っ張ったという容疑者の行為は暴行の要件を満たしているといえます。
2.酒に酔っていて覚えていない、は通用するか?
容疑者は、酔っ払っていて覚えていないと供述しているようですが、それは通用するでしょうか?

刑法上、刑罰に触れる行為をした者の中で、自分がしたことの善悪が判断できなかったり、善悪の判断に基づいて行動する能力がない者は「心神喪失」状態だったとして処罰されないことになっています。
また、上記のような能力が普通の人よりも著しく劣っている者は「心神耗弱」として、刑が通常より軽くされることになっています。

ただ、心神喪失と認定されるのは稀で、警察庁が公表している「犯罪白書」によれば、たとえば、裁判で無罪認定を受けた人数は、平成25年は3人、平成24年は1人、平成23年は1人、平成22年は2人、平成21年は5人となっています。
(心神耗弱とされる人数は心神喪失の数より多く、たとえば平成7年から10年間の平均では年80.4人となっています)

そもそも、容疑者は「酒に酔っていた」という認識があるわけですから心神喪失や心神耗弱が認められることはまずないと思われます。
3.男は、なぜなめたのか?
容疑者の男は、なぜ女性の手をなめたのでしょうか?

彼なりの挨拶のようなものだったのでしょうか?
映画を観ると、よく男性の紳士が女性の手の甲にキスをして挨拶しているようですが・・・。

それとも……犯行直前までテキーラを飲んでいたのかもしれません!

・ライムを、きゅっとかじる
・テキーラを口に流し込む
・飲んだら親指と人差し指の「股」のところに置いた塩をなめる

あの伝統的な飲み方を繰り返したあげく、酔っ払って路上を歩いたところ、また塩がなめたくなり、自分の手と間違って女性の手をなめてしまった……。
そういう事情かもしれません。

しかし、私が弁護人なら、そういう主張は、恥ずかしくてなかなかできるものではありません。

色々な争点のある本件、警察の捜査を待ちたいところです。

さて、テキーラでも飲みに行くますか!
( ^_^)/▼☆▼\(^_^ ) ノミマスカッ!!