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住居費の必要経費性が否認された裁判例
2019年02月05日
今回は、所得税確定申告における必要経費が争われた事例をご紹介します。
東京地裁平成25年10月17日判決(TAINS Z263-12310)です。
納税者は、女性で、夫と共同で、生命保険代理店をしていました。
納税者が、事業所得の金額の計算上、次の支出を必要経費に算入して申告しました。
①納税者が居住する住宅に係る地代家賃
②水道光熱費
③長男に係る義務教育代行費用(教育費用)
④長男に関する係争に係る弁護士費用
税務署は、これら支出は家事上の経費であるとして更正処分をしたので、提訴。
【裁判所の判断】
●家事関連費のうち必要経費に算入することを認めるためには、当該金額が、
①事業所得等を生ずべき業務の遂行上必要であること
②その必要な部分の金額が明確に区分されていること
の二つの要件を満たすことが必要。
①納税者が居住する住宅に係る地代家賃
●本件住宅において、代理店や顧客を招いて、商品説明やセミナー等を開催していたことが認められる。
●しかし、全体として居住の用に供されるべき3LDKの2階建て住宅であり、その構造上、本件住宅の一部について、居住用部分と事業用部分とを明確に区分することができる状態にない。
●リビング等を各業務の専用スペースとして常時使用し、それ以外の用向きには使用していない。
→必要経費として認めない。
②水道光熱費
●本件住宅のうち各業務の遂行のために使用されるいわば専用スペースとして使用されていた部分はない。
●リビング等が各業務に使用されていた実態も明らかではないから、各業務の遂行のために必要な部分として明確に区分できない。
→必要経費として認めない。
③納税者の長男は、PTSDに罹患していると診断されているが、義務教育代行費用(教育費用)と各業務との関連性が明らかではない。
→必要経費として認めない。
④長男に関する係争に係る弁護士費用
●一般に、事業を行う者が、事業所得による収益の補填を目的として、事業所得の減少分に係る損害賠償請求訴訟を提起することを弁護士に依頼した場合には、その費用は、総収入金額を得るために直接要した費用ということができるから、その金額は必要経費に算入することができるというべきである。
● 本件弁護士費用は、納税者が主張するとおり、市に対し、各業務に係る売上げの減少による損害賠償を求める訴訟を提起すること及びそのための事前交渉を弁護士に委任した際の着手金である旨認めるのが相当であり、納税者と夫は、各業務に関する必要経費を依頼者名義及び夫名義で支払っていることから、本件弁護士費用の2分の1に相当する金額については、納税者の必要経費と認めるのが相当である。
→必要経費として認められる。
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本件で、裁判所は、家事関連費のうち必要経費に算入することを認めるための要件として、
①業務の遂行上の必要性
②明確区分性
を要求し、各支出が、上記①②の要件を満たすかどうかを個別に検討しています。
今年の所得税確定申告業務で参考していただければと思います。
ちなみに、各支出が必要経費に算入することが許されるかどうか、というのは、税務判断です。
税理士が必要な情報を入手した上で税務判断をし、それが誤りだったときには、債務不履行に基づく損害賠償に発展することもあり得ますので、税理士さんは、ご注意ください。
「税理士を守る会」は、こちらから。
https://myhoumu.jp/zeiprotect/税理士損害賠償防御は、こちらから。
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税理士の妻の青色事業専従者としての給与が否認された裁判例
2019年02月04日
今回は、税理士が、妻を青色事業専従者として、給与を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して確定申告としたところ、「労務の対価として相当であると認められる金額を超える」として、更正処分がされた事例をご紹介します。
鳥取地裁平成24年6月22日判決です。
(事案)
税理士は、次のとおり給与を支払いました。
【妻に支払われた給与】
平成16年 1240万円
平成17年 1280万円
平成18年 1280万円【他の使用人の平均給与額】
平成16年 357万9167円
平成17年 384万2250円
平成18年 360万8375円【処分行政庁が抽出した類似業種青色事業者
専従者給与】平成16年 285万4490円~663万円
平成17年 296万4160円~663万円
平成18年 301万7320円~663万円(裁判所の判断)
裁判所は、労務の対価として相当かどうかは、次の基準で判断する、としました。
●その給与の金額でその労務に従事した期間
●労務の性質
●その提供の程度
●その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況
●その事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払いを受ける給与の状況
●その事業の種類及び規模並びにその収益の状況
(あてはめ)
本件では・・・
妻は、長年の経験から専門性を発揮し、他の使用人の指導的立場にあり、長時間労働をするなど、他の使用人の給与とは異なってしかるべきとされました。
しかし、税理士事務所の所得金額とほぼ同額が妻に給与として支払われていた、という特殊事情がありました。
そこで、裁判所は、
「税理士事務所は、税理士法に基づき、税理士の名称および資格において経営するものであり、使用人は、最終的には税理士の監督に服することを前提にしている。」
→専従者給与の金額と税理士の事業所得の金額がほぼ等しいのは不相当
として、必要経費として認めませんでした。
これで終わりではありません。
その後、裁判所は、いくらが適正額か、まで判断します。
●関与先の会計業務の担当件数は、税理士5分の3、妻5分の2
●妻が特に業務が困難な医療法人等の会計業務を一人で行ってきた
以上の理由から、
【税理士の事業所得金額と専従者給与額の割
合は、3対2が合理性を有する。】個人で税理士事務所を開業されている税理士で、配偶者を青色事業専従者として、その給与を必要経費に算入している方がいると思います。
その場合、給与の金額が労務の対価として相当かどうか、検討した上で支払をしないと、税務調査により否認される可能性がありますので、ご注意いただければと思います。
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重加算税の説明義務違反で税理士損害賠償
2019年02月03日
今回は、所得税確定申告において、税理士が説明助言義務違反を理由に損害賠償請求された事例をご紹介します。
前橋地裁平成14年12月6日判決(TAINS Z999-0062)です。
請求額は、合計2381万3700円。
●事案の概要
・依頼者らは、自分で所得税の確定申告をしてきたが、所得が増加してきたため、平成6年度分から税理士に依頼することとした。
・税理士(職員)は、依頼者らに対し、確定申告書を作成するために必要な書類として、現金出納帳、預金通帳、請求書、領収書などの原始記録を提示するよう求めたが、依頼者らは、これを拒んだ。
・依頼者らは、税理士に対し、依頼者らが作成した平成5年度の申告書の控え、生命保険料や損害保険料の控除証明書のみを提示して、同6年度についても同5年度と同様に申告するよう要請した。
・税理士は、提示された上記書類のみでは事業の経費が不明なため確定申告書の経費欄を記載することができないことから、経費を推計で算出して経費の合計額のみを記載し経費欄の具体的項目の金額を記載しない方法による申告をするよう提案したが、依頼者らはこれも拒んだ。
・そこで、税理士は、それ以上原始資料の提示を求めることなどを断念して、依頼者らの指示通り申告した。
・後日、国税庁は、上記申告には脱税があるとして強制調査し、重加算税その他追加納税が発生した。
・そこで、依頼者らは、税理士から重加算税等の説明を受けていなかったとして、説明助言違反を理由と損害賠償を請求した。
●判決
・税理士は、依頼者の希望や要請が適正でないときには、依頼者の希望にそのまま従うのではなく、税務に関する専門家としての立場から、依頼者に対し不適正の理由を説明し、法令に適合した申告となるよう適切な助言や指導をするとともに、重加算税などの賦課決定を招く危険性があることを十分に理解させ、依頼者が法令の不知などによって損害を被ることのないように配慮する義務があるというべきである。
・本件では、税理士において、依頼者らが売上げや経費を実際の金額と大幅に異なる金額として申告し不正に課税を免れようとしている可能性があることを容易に認識することができた。
・依頼者の指示どおりの申告をした場合に、依頼者らが将来脱税を指摘されて重加算税や延滞税などを課せられる危険があることを何ら説明しないまま、依頼者の指示どおりに所得税等確定申告手続を行ったことは、税務に関する専門家である税理士としての立場から、依頼者に対し不適正の理由を説明し、法令に適合した申告となるよう適切な助言や指導をするとともに、重加算税などの賦課決定を招く危険性があることを十分に理解させ、依頼者が法令の不知などによって損害を被ることのないように配慮する義務に違反しており、税理士の債務不履行になる。
・但し、依頼者らの責任は重く、過失相殺として9割を減ずる。
賠償額は、238万1370円。
以上です。
このように、税理士が何度も依頼者に原始資料を提示するよう求め、依頼者がこれを拒んだ場合(つまり、責任が依頼者にある場合)であっても、将来依頼者に生ずる不利益を説明しておかなければ、税理士に説明助言義務違反が発生します。
しかし、このような場合、往々にして「言った、言わない」の議論になりますので、説明した旨を書面、メール等の証拠に残しておくようにしましょう
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https://myhoumu.jp/zeiprotect/税理士損害賠償防御は、こちらから。
https://www.bengoshi-sos.com/zeibai/重加算税について、もっと詳しく知りたい方は、こちら。
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