税法 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 3
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  • 所得税確定申告期限延長の法的根拠

    2020年03月18日

    現在所得税等の確定申告期限や納期限が延長されています。

    なぜ、国税庁の権限で、申告期限や納付期限の延長などができるのでしょうか?

    この延長の根拠には、もちろん、法律上の根拠があります。

    まず、所得税については、所得税法第120条により、3月15日が申告期限となっております。

    今回の期限延長は、国税通則法第11条に基づく措置と思われます。

    国税通則法第11条

    国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から二月以内に限り、当該期限を延長することができる。

    この規定に基づき、国税通則法施行令に次のような規定があります。

    国税通則法施行令3条2項

    国税庁長官は、災害その他やむを得ない理由により、法第十一条に規定する期限までに同条に規定する行為をすべき者・・・であつて当該期限までに当該行為のうち特定の税目に係る国税に関する法律又は情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律・・第六条第一項(電子情報処理組織による申請等)の規定により電子情報処理組織を使用して行う申告その他の特定の税目に係る特定の行為をすることができないと認める者・・・が多数に上ると認める場合には、対象者の範囲及び期日を指定して当該期限を延長するものとする。

    この規定に基づき、令和2年3月6日付けの官報で、次のように告示されました。

    国税通則法施行令第3条第2項の規定に基づき、次の掲げる法令の規定・・・に基づき税務署長に対して申告、申請、請求、届出その他書類の提出又は納付(その期限が令和2年2月27日から同年4月15日までの間に到来するものに限る。)をすべき個人が行うこれらの行為については、その期限を同月16日とする。

    一 所得税法その他の所得税(復興特別所得税を含むものとし、源泉徴収による所得税及び復興特別所得税を除く。)に関する法令の規定(調書の提出に関する規定を除く。)

    二 相続税法その他の贈与税に関する法令の規定のうち贈与税に係る部分(調書の提出に関する規定を除く。)

    三 消費税法その他の消費税に関する法令の規定

    四 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第5条第1項及び第6条の2第1項の規定

    これに基づき延長されているのが、以下の手続です。

    国税庁ホームページ
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kansensho/tetsuzuki.htm

    法律上の根拠がわかると、公表されていない事項の疑問の答えもわかってきます。

    課税庁からの「更正」の期限は、延長されるでしょうか?

    更正の期限については、上記のような延長規定はありません。

    上記官報での告示でも、「個人が行うこれらの行為」とされています。

    当然のことながら、本日現在、国税庁のホームページにおいても、更正の期限が延長された旨のお知らせはありません。

    したがって、更正の期限は延長されない、と考えます。

    次に、徴収権の消滅時効については、どうでしょうか?

    国税の徴収権の消滅時効は、原則として、「法定納期限から5年」です。(国税通則法73条)

    消滅時効は、「権利を行使することができる時」から起算されます。

    したがって、国税通則法11条により法定納期限が延長され、その間は徴収権を行使できないので、5年後の消滅時効もズレることになります。

    ただし、今から5年前の法定納期限にかかる消滅時効期間は延長されません。

  • チュートリアル徳井さんの税務申告漏れの法的解説

    2019年10月26日

    チュートリアル徳井義実氏の税務申告漏れに関し、法的に整理したいと思います。

    この点に関する事実の詳細が、吉本興業のホームページに掲載されました。

    それによると、以下のようになります。

    2009年   徳井氏が株式会社チューリップを設立
    (決算期3月) タレント活動に基づく収入は全てチューリップ社へ
            徳井氏は、チューリップ社から役員報酬としての収入を得る

    2010年3月期 不申告
    2011年3月期 不申告
    2012年3月期 不申告

    税務署から指摘を受け、
    2012年6月25日 3期分を申告

    2013年3月期 不申告
    2014年3月期 不申告
    2015年3月期 不申告

    税務署から指摘を受け、
    2015年7月23日 3期分を申告

    2016年5月 税金未納により銀行預金差押

    2016年3月期 不申告
    2017年3月期 不申告
    2018年3月期 不申告

    2018年9月  税務調査
    2018年11月 3期分を申告
    2012年3月期~2015年3月期の4年分修正申告

    【納税の内訳】
    法人税の追徴課税 約3700万円
    内、否認された経費約2000万円に対する重加算税 約180万円
    申告漏れ金額約1億1800万円に対する無申告加算税約510万円を含む。

    ================================

    本件について、以下の点を整理したいと思います。

    1 犯罪の成否
    2 なぜ、検察庁に告発されていないのか
    3 附帯税

    1 犯罪の成否

    インターネット上では、「脱税だ」との声がありますが、租税犯罪は脱税だけではありません。

    まず、正当な理由がなくて提出期限までに申告書を提出しない場合には、「単純無申告犯」が成立します(法人税法160条)。

    刑罰は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

    そして、故意に提出期限までに申告書を提出しない場合は、「申告書不提出犯」となり、刑罰が重くなります(法人税法159条3項、4項)。

    刑罰としては、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科です。(罰金につき4項加重あり)

    そうすると、チューリップ社は、2010年3月期~2012年3月期、2013年3月期~2015年3月期、2016年3月期~2018年3月期が提出期限までに申告書を提出していないことになり、正当な理由がないでしょうから、少なくとも、単純無申告犯が成立しそうです。

    そして、2012年6月25日に税務署から指摘を受け、3期分を申告しているので、2013年3月期以降は、提出期限までに申告書を提出しなければいけないことを知っていたはずです。

    そうすると、それ以降は、「故意」に不申告だとして、申告書不提出犯が成立する可能性があります。

    ところで、いわゆる「脱税犯」と言われる犯罪は、上記と異なります。

    法人税法では、159条1項、2項で規定してあるのですが、脱税は、「偽りその他不正の行為」による法人税を免れた場合に成立します。

    刑罰は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科です。(罰金につき2項加重あり)

    今回、これに該当する可能性があるのが、否認された経費約2000万円に対する法人税分です。

    ざっくり500万円くらいでしょうか。(重加算税の金額から逆算)

    単に不申告では、脱税に該当しません。脱税は、「偽りその他不正の行為」により法人税を免れた場合に該当するものですが、今回の不申告については、税務署は、脱税だとは見ていません。

    なぜ、それがわかるかというと、今回、不申告部分については、「重加算税」を課していないからです。

    重加算税は、「隠ぺい又は仮装」により税を免れた場合に課せられます。

    「事実を隠ペい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得.財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいいます(和歌山地裁昭和50年6月23日判決)。

    脱税は、「偽りその他不正の行為」という表現ですが、これは、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいう」(最高裁昭和42年11月8日判決)とされています。

    したがって、重加算税の対象行為と脱税犯の対象行為はかなり重なり合うことになります。

    この点、税務署から指摘があった部分について、特に争わずに修正申告に応じたということなので、脱税の要件を満たしているかどうかは不明です。

    2 なぜ、検察庁に告発されていないのか

    次に、脱税だとすると、なぜ、検察庁に告発されていないのか、という点ですが、これは単純に金額が少額だからです。

    国税庁の統計によると、平成29年度に重加算税を課せられた件数は、約3万件です。

    この全てを刑事告発するわけにはいきませんので、重い脱税事件に絞って、処理できる件数だけを刑事告発の対象にしています。

    昔は、1億円以上の脱税が刑事告発対象だ、と言われていましたが、最近は、数千万円の脱税でも刑事告発されているようです。

    しかし、1000万円未満の脱税で刑事告発されているものは、私は知りません。

    徳井氏の場合、仮に脱税していたとしても数百万円なので、少額ということで、刑事告発の対象となっていない、と思われます。

    しかし、単純無申告犯、申告書不提出犯については、今後、刑事手続に乗ってくる可能性があるのではないか、と思われます。

    3 附帯税

    無申告の場合には、本来納付すべき税金の他に附帯税が課せられます。

    無申告加算税、延滞税です。そして、今回は、隠ぺい又は仮装があったとして、重加算税も課せられています。

    なお、消費税、役員給与の源泉所得税などがどうなっているのか、も気になるところです。

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  • 課税庁が文理解釈を誤った裁判例

    2019年06月16日

    憲法30条は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」とし、84条で、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」として、租税法律主義を定めています。

    そして、租税法律主義は、課税要件法定主義、課税要件明確主義を要請します。

    課税要件は、納税義務ないし租税債務が成立するための要件です。

    課税要件法定主義および課税要件明確主義からは、納税義務を成立されるための要件は、法律又はその具体的・個別的委任による政省令等で定められることが必要であり、かつ、その定めは可能な限り一義的で明確である必要があります。さらに、その明確に定められた要件は、その文理に従って解釈されなければなりません。

    したがって、租税法規の解釈は、文理解釈が原則となります。

    過去には、課税庁が、文理解釈を誤ったことにより、納税者が勝訴した裁判例がいくつかあります。

    最高裁平成22年3月2日(百選第6版13事件)のホステス源泉所得税事件は、パブクラブを経営する納税者が、使用しているホステスに対して半月ごとに支払う報酬にかかる源泉所得税を納付するに際し、5000円に半月間の全日数を乗じて各月分の源泉所得税額を算出し、それに基づいて計算した額を納付していたところ、税務署長が、半月間の全日数ではなく、実際の出勤日数を乗ずべきであるとして納税告知および不納付加算税の賦課決定を行った事案です。

    この事案では、所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間」が問題となりました。

    この「期間」についての法解釈について最高裁は、「一般に、『期間』とは、ある時点から他の時点までの時間的隔たりといった、時的連続性を持った概念であると解されているから、施行令322条にいう『当該支払金額の計算期間』も、当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性をもった概念であると解するのが自然であり、これと異なる解釈を採るべき根拠となる規定は見当たらない」「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく・・・・『当該支払金額の計算期間』は、本件各集計期間の全日数となるものというべきである」として、納税者勝訴判決を出しました。

  • 税務調査でも法的三段論法に当てはめる

    2019年06月15日

    法的三段論法とは

    裁判所が判決を出す時には、法的三段論法にあてはめて結論を出します。また、課税庁が更正をするときにも、法的三段論法を適用することとなります。

    三段論法とは、たとえば、「動物は死ぬ」、「ゾウは動物である」、「ゆえに、ゾウは死ぬ」というように大前提、小前提、結論という三段階の推論のことです。

    これを法律の適用過程に応用したのが法的三段論法で、法規範を大前提とし、事実を小前提として、法規範に事実を当てはめて判決という結論を出すことになります。

    税務調査においても、法的三段論法の考え方に従って行われます。

    「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)第2章1の1」では、「調査とは、国税・・・に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいうことに留意する。」とされています。

    したがって、税務調査において、調査官から否認指摘があった際には、その指摘が法的三段論法に照らして正しいかどうかを検討することになります。

    たとえば、納税者が離婚の際に不動産を財産分与した場合について、財産分与による所有権の移転は、譲渡所得が発生しないとして所得税の確定申告をした時に、税務調査の結果、不動産の財産分与も所得税法上の「資産の譲渡」に該当するとして、更正を行うこととします。

    この場合には、法的三段論法にあてはめ、(1)所得税法にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させるいっさいの行為をいう(最高裁昭和50年5月27日判決、百選第6版42)、(2)財産分与は、資産を配偶者に移転するものである、(3)ゆえに、財産分与も「資産の譲渡」に該当する、という結論を出し、資産の増加益に関して更正を行うこととなります。

    更正を行う際の法規範、事実、法規範への事実の当てはめ、の三段階のいずれかに誤りがあれば、更正にも誤りがあることになります。したがって、税務調査の際には、法的三段論法の三段階において誤りがないかどうか、検討する必要があります。

    法規範とは

    法規範というのは、租税法規の条文を意味するのはもちろんですが、条文だけでは、その意味内容を確定することはできません。

    たとえば、所得税法33条の「資産の譲渡」といっても、どの範囲のものが「資産」に含まれるのか、「譲渡」は有償に限るのか、無償の譲渡も含まれるのか、については条文からは明らかでないので、それらを解明することが必要です。それが、法解釈となります。法解釈とは、「実定法の規範的意味内容を解明する作業」をいうとされています。

    法解釈には、文理解釈・論理解釈・歴史的解釈・目的論的解釈、など複数の技法があります。

    ここでは、文理解釈のみ説明します。

    文理解釈とは、法規の文字・文章の意味をその言葉の使用法や文法の規則に従って確定することによってなされる解釈です。

    憲法30条は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」とし、84条で、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」として、租税法律主義を定めています。

    そして、租税法律主義は、課税要件法定主義、課税要件明確主義を要請します。課税要件は、納税義務ないし租税債務が成立するための要件です。課税要件法定主義および課税要件明確主義からは、納税義務を成立されるための要件は、法律又はその具体的・個別的委任による政省令等で定められることが必要であり、かつ、その定めは可能な限り一義的で明確である必要があります。さらに、その明確に定められた要件は、その文理に従って解釈されなければなりません。

    したがって、租税法規の解釈は、文理解釈が原則となります。

    ホステス報酬に係る源泉徴収について争われた事案において、最高裁平成22年3月2日(百選第6版13事件)は、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく、原審のような解釈を採ることは、・・・文言上困難」と判示し、所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」について、「当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性を持った概念であると解するのが自然」であると判示しています。

    事実(小前提)

    更正を行う際には、法解釈の各技法によって租税法規の規定の意味内容を解明し、それに事実を当てはめる作業を行います。

    したがって、更正にあたっては、必ず事実を認定する作業が行われることになります。

    しかし、場合によっては、事実があるかどうか認定できない、という場合もあります。このような場合に、いずれか一方の当事者が負う不利益又は負担のことを「立証責任」といいます。

    そして、事実認定においては、立証責任を負担する当事者が、「どの程度まで立証」すれば、証明できたことになるのか、という「証明度」も考える必要があります。立証責任を負担する者の立証が、証明度に達しないときは、その主張する事実が認定できず、不利益又は負担を負うことになります。

    課税庁が更正をする際には、後日、処分取消訴訟において勝訴できることを前提としています。そして、課税庁が立証責任を負担する事実について、証明度に達する立証ができない時は、更正処分が取り消されることになりますので、事実認定は重要な作業ということになります。

    米国関係会社を経由した迂回取引かどうかが争われたアルゼ事件において、東京高裁平成15年1月29日判決は、提出された証拠によっては、国の主張する事実を「認めることはできず、他に、これを認めることができる的確な証拠はない」として、立証責任により、国側敗訴判決を出しました。

    したがって、税務調査において、課税庁が納税者の税務処理を否認する旨の主張をしている際には、課税庁が収集した証拠によって、課税庁の主張する税務処理の課税要件事実の立証が証明度に達しているかどうかを吟味することが必要となってきます。

    法適用(当てはめ)

    法を適切に解釈し、事実を適切に認定しても、法規範に事実を認定するあてはめが違法となる場合があります。

    納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したことにつき国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるかどうかが争われた事案において、法解釈が正しく、事実も国の主張どおりであるとしても、通達を変更した際には、通達を発するなどして変更後の取扱いを納税者に周知させ、これが定着するよう必要な措置を講ずべきものである」として、それを怠っていたことを理由として、国側の主張を認めなかった最高裁平成18年10月24日判決(判例時報1955号37頁)があります。

    税務調査における攻防は口頭でやり取りされることが多いと思いますが、課税要件該当性を判断するには、必ず三段論法に当てはめることが必要となります。

    ご相談は、こちらから。
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  • 税務調査における質問応答記録書とは

    2019年06月15日

    税務調査の過程で、質問応答記録書が作成されることがあります。

    質問応答記録書は、租税職員が質問し、納税義務者等が回答した際に、その内容を記録し、記録後に回答者に対して署名押印を求めるものです。

    従前は、租税職員が質問し、納税義務者等が回答した内容を証拠に残す際には、納税義務者等の回答内容を書面に記載して、申述書、確認書、供述書、嘆願書などの表題の書面を作成して、納税義務者等の署名押印を得ることが多かったと思います。

    今でも作成されることはありますが、このような場合に作成する行政文書として、平成25年6月から、質問応答記録書の作成の手引が作成されています。

    平成25年6月の国税庁課税総括課作成の「質問応答記録書作成の手引」(以下、「手引」と言います)に、その内容と作成手順の詳細が書かれています。

    質問応答記録書の作成趣旨は、

    「課税要件の充足性を確認する上で重要と認められる事項について、その事実関係の正確性を期するため、その要旨を調査担当者と納税義務者等の質問応答形式等で作成する行政文書である」(手引)

    と説明されています。

    そして、「事案によっては、この質問応答記録書は、課税処分のみならず、これに関わる不服申立て等においても証拠資料として用いられる場合があることも踏まえ、第三者(審判官や裁判官)が読んでも分かるように、必要・十分な事項を簡潔明瞭に記載する必要がある」(手引)とされており、更正するかどうかを判断する上での証拠資料となるのはもとより、処分取消訴訟等において証拠として提出されることが前提とされています。

    質問応答記録書が作成され、後日、処分取消訴訟において提出された場合、有力な証拠となります。後日の訂正・撤回は容易ではありません。

    したがって、質問応答記録書には、事実に合致した内容のみを記載してもらうようにしなければなりません。そのために、質問応答記録書を作成する際には、回答者側は、訂正等を求めることができることとされています。手引の作成例では、最後に「以上で質問を終えますが、何か訂正したい又は付け加えたいことがありますか。」というような質問例が記載されています。

    もし、税務調査において、質問応答記録書が作成され、その内容が事実と相違していたり、あるいは、記憶と異なる記載がされた場合には、積極的に訂正を申し立てるようにしましょう。

    そうしないと、後日、裁判等になった場合に、質問応答記録書に記載された内容で事実が認定されてしまう可能性があります。

    手引によると、質問応答記録書を完成させた後に、回答者から、後日、訂正・変更の申立てあった場合でも、当該質問応答記録書には訂正等を行ってはならない、とされています。

    そして、必要に応じ、訂正・変更の主張及び変更後の回答内容を記録するための新しい質問応答記録書を作成するなどの方法により対応する、とされています。

    したがって、後日訂正等の申立てを行っても、必ず改めて質問応答記録書が作成されるわけではありません。

    質問応答記録書は、「課税要件の充足性を確認する上で重要と認められる事項について、その事実関係の正確性を期するため」(手引)に作成されるものですが、「事案によっては、納税義務者等の回答内容そのものが課税要件の充足のための直接証拠となる事案や、直接証拠の収集が困難であるため、納税義務者等の回答内容を立証の柱として更正決定等をすべきと判断する事案もある。」(手引)とされており、質問応答記録書における納税者の回答内容を柱として更正がされる事案もありうることが示唆されています。

    したがって、租税職員から質問応答記録書の作成を開始する、と告げられた際には、慎重に対応し、記憶にないことを供述しないことが大切です。

    また、質問応答記録書を作成した場合には、「質問応答記録書の作成後、回答者に対し、同人の拒否などの特段の事情のない限り、質問応答の要旨に記載した内容を読み上げ、内容に誤りがないか確認させなければならない。一層の記載内容の信用性確保のため、併せて、提示し、閲読してもらうことが望ましい」とされていますので、読み上げおよび閲読させてもらうことを求め、内容の正確性を確認することが望ましいでしょう。

    最後に署名押印を求められます。署名押印した場合には、その内容を認めたこととなり、後日、覆すことが困難となりますので、必ず内容を確認することが必要です。

    署名押印は義務ではありません。この場合には、奥書で、回答者が署名押印を拒否した旨を租税職員が記載し、署名押印することによって書類として完成することになります。したがって回答者が署名押印しなくても、書類としては完成することになります。

    間違った内容の質問応答記録書には、署名押印しないよう気をつけましょう。

    ご相談は、こちらから。
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  • 税務調査において質問検査拒否で罰則が適用される場合

    2019年06月15日

    課税庁は、納税者によってされた申告内容が正しいかどうか調査し、誤りがある場合には、更正・決定・賦課決定等の処分を行います。

    そのためには、課税要件事実に関する資料を入手検討できる権限が必要となります。そのため、租税職員には、納税者の関係者に質問し、物件を検査する権限が認められています。これを質問検査権といいます。

    質問検査権は、従前は各個別法に規定されていましたが、平成23年12月改正により、国税通則法に一本化されました。

    国税通則法では、質問検査権は、次のように規定されています。国税通則法74条の2第1項「国税庁、国税局若しくは税務署・・・の当該職員・・・は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件・・・を検査し、又は当該物件・・・の提示若しくは提出を求めることができる。」

    つまり、質問検査権とは、

    ①質問

    ②物件を検査

    ③物件の提示を求める

    ④物件の提出を求める

    に関する権限を認めるものです。

    質問検査権は、任意の行政調査の権限を認めるものであって、強制調査を認めるものではありません。強制調査というのは、納税者の意に反して事業所等に立ち入り、物件を検査するような調査のことです。強制調査は、国税局査察部が、国税通則法(以前は国税犯則取締法)に基づく犯則調査を行う際に認められているものです。

    質問検査権は、任意の行政調査とはいっても、質問・検査の相手方には、質問に答え、又は検査を受忍する義務があります。そして、次の場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑罰が科されることとされています(国税通則法128条2号、3号)。

    ①質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

    ②物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者

    したがって、任意調査とはいっても刑罰を背景にした間接的な強制力がある、ということになります。だからといって、軽微な不答弁等でただちに刑罰を科されるわけではありません。

    質問検査拒否等に対して刑罰を科すべき場合かどうかについて争われた事案に、東京地裁昭和44年6月25日(判決判例時報565号46頁)があります。

    裁判所は、所得税法248条8号違反の刑事事件において、

    「質問ないし検査(させること)の求めに対する単なる不答弁ないし拒否が同法242条8号の罪を構成するためには、さらに厳重な要件を必要とするものといわなければならない。なぜなら、当該職員が必要と認めて質問し、検査を求めるかぎり、不答弁や検査の拒否がどのような場合にも1年以下の懲役又は20万円以下の罰金にあたることになるものとすれば、事柄が所得税に関する調査というほとんどすべての国民が対象になるような広範囲な一般的事項であり、しかも公共の安全などにかかわる問題でもないだけに、刑罰法規としてあまりにも不合理なものとなり、憲法31条のもとに有効に存立しえないことになるからである。」「所得税法第242条8号の罪は、その質問等についての合理的な必要が認められるばかりでなく、その不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事由が認められる場合にのみ成立する」とした上、「被告人のように、一般のいわゆる白色申告者である場合には、単に帳簿書類を見せてほしい、得意先、仕入先の住所氏名をいってほしい、工場内を見せてほしいといわれただけで、これに応じなかったといって、ただちに不答弁ないし検査拒否として処罰の対象になるものと考えることはできない」

    と判示して、無罪を言い渡しました。

    したがって、質問検査に対する不答弁等の罪が成立するためには、

    ①質問等についての合理的な必要が認められること

    ②不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事由が認められること

    が必要となり、単なる不答弁等は処罰の対象とはならない、と考えられます。

    ただし、質問検査に対する不答弁とともに帳簿書類の提示を拒否する等した場合には、青色申告に係る帳簿書類の備え付け、記録及び保存が法律の定めるところに従って行われていない、として、青色申告承認の取消処分を受ける可能性があります(最高裁平成17年3月10日判決、百選第6版109事件)。

    この点要注意でしょう。

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  • 税務調査で納税者の主張を書面にして提出するための本

    2019年06月14日

    税務調査において、課税庁と納税者(税理士)との間で法律解釈・事実認定・法適用などで、見解の相違が生じることがあります。
    このような場合には、課税庁と納税者とで見解の相違を解消すべく交渉をすることになりますが、多くの場合に口頭で交渉が行われるため、お互いの理解の前提が異なったり、一つの用語を異なる意味に解釈するなどの理由で、平行線に終わり、又は議論がかみ合わないことがあります。

    その結果、誤った判断に基づく修正申告の勧奨が行われ、または違法な更正・決定等が行われることになります。

    誤った更正に対し、不服申立や税務訴訟により、更正処分が取り消されることがありますが、本来であれば、税務調査段階において、課税庁の判断の過誤が是正されるべきであることは言うまでもありません。

    税務訴訟にまでなると、解決までに何年かかるかわかりませんし、弁護士費用も多額になりがちです。

    そこで、税務調査段階で、なんとか誤った修正申告の勧奨や更正を防ぐことができないか、と考えます。

    もちろん、課税庁も正しい課税をすることを目的としていますので、誤った更正などしたくないのは当然です。

    そこで、いかなる段階で、いかなる理由により誤った更正等の処分が違法となるのかについて、過去に課税庁が敗訴した税務訴訟判決、つまり、課税庁が誤った更正等の処分を行った事例を分析した結果、七段階において、誤りが発生するという結論になりました。

    その七段階とは、次のとおりです。

    第一段 法律解釈

    第二段 事実認定

    第三段 法適用(当てはめ)

    第四段 信義則・裁量権の逸脱・濫用

    第五段 手続違背

    第六段 錯誤

    第七段 理由付記

    そして、更正の前段階では、課税要件該当性について慎重に判断するため、課税庁では、「争点整理表」を作成します。

    争点整理表では、

    ・事実経過

    ・争点の概要

    ・争点に係る法律上の課税要件

    ・調査担当者の事実認定(又は法令解釈)その事実、証拠書類等

    ・納税者側の主張、その事実、証拠書類等

    ・審理担当者等の意見

    を記載することとされています。

    そうすると、この争点整理表に、納税者の主張を的確に記載してもらうことにより、誤った修正申告の勧奨や更正を防ぐことができるのではないか、ということです。

    そこで、税務調査の過程で、課税庁との間で見解の相違が生じ、口頭の議論ではその相違を解消することができない時に、「納税者主張整理書面」及び証拠書類を作成し、提出する、という一手間を加えることを提案するものです。

    なぜ、税務調査において、「納税者主張整理書面」が有効か、また、その書き方について解説をした本を出しました。

    ぜひ、ご一読ください。

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