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チュートリアル徳井さんの税務申告漏れの法的解説
2019年10月26日
チュートリアル徳井義実氏の税務申告漏れに関し、法的に整理したいと思います。
この点に関する事実の詳細が、吉本興業のホームページに掲載されました。
それによると、以下のようになります。
2009年 徳井氏が株式会社チューリップを設立
(決算期3月) タレント活動に基づく収入は全てチューリップ社へ
徳井氏は、チューリップ社から役員報酬としての収入を得る2010年3月期 不申告
2011年3月期 不申告
2012年3月期 不申告税務署から指摘を受け、
2012年6月25日 3期分を申告2013年3月期 不申告
2014年3月期 不申告
2015年3月期 不申告税務署から指摘を受け、
2015年7月23日 3期分を申告2016年5月 税金未納により銀行預金差押
2016年3月期 不申告
2017年3月期 不申告
2018年3月期 不申告2018年9月 税務調査
2018年11月 3期分を申告
2012年3月期~2015年3月期の4年分修正申告【納税の内訳】
法人税の追徴課税 約3700万円
内、否認された経費約2000万円に対する重加算税 約180万円
申告漏れ金額約1億1800万円に対する無申告加算税約510万円を含む。================================
本件について、以下の点を整理したいと思います。
1 犯罪の成否
2 なぜ、検察庁に告発されていないのか
3 附帯税1 犯罪の成否
インターネット上では、「脱税だ」との声がありますが、租税犯罪は脱税だけではありません。
まず、正当な理由がなくて提出期限までに申告書を提出しない場合には、「単純無申告犯」が成立します(法人税法160条)。
刑罰は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
そして、故意に提出期限までに申告書を提出しない場合は、「申告書不提出犯」となり、刑罰が重くなります(法人税法159条3項、4項)。
刑罰としては、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科です。(罰金につき4項加重あり)
そうすると、チューリップ社は、2010年3月期~2012年3月期、2013年3月期~2015年3月期、2016年3月期~2018年3月期が提出期限までに申告書を提出していないことになり、正当な理由がないでしょうから、少なくとも、単純無申告犯が成立しそうです。
そして、2012年6月25日に税務署から指摘を受け、3期分を申告しているので、2013年3月期以降は、提出期限までに申告書を提出しなければいけないことを知っていたはずです。
そうすると、それ以降は、「故意」に不申告だとして、申告書不提出犯が成立する可能性があります。
ところで、いわゆる「脱税犯」と言われる犯罪は、上記と異なります。
法人税法では、159条1項、2項で規定してあるのですが、脱税は、「偽りその他不正の行為」による法人税を免れた場合に成立します。
刑罰は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科です。(罰金につき2項加重あり)
今回、これに該当する可能性があるのが、否認された経費約2000万円に対する法人税分です。
ざっくり500万円くらいでしょうか。(重加算税の金額から逆算)
単に不申告では、脱税に該当しません。脱税は、「偽りその他不正の行為」により法人税を免れた場合に該当するものですが、今回の不申告については、税務署は、脱税だとは見ていません。
なぜ、それがわかるかというと、今回、不申告部分については、「重加算税」を課していないからです。
重加算税は、「隠ぺい又は仮装」により税を免れた場合に課せられます。
「事実を隠ペい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得.財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいいます(和歌山地裁昭和50年6月23日判決)。
脱税は、「偽りその他不正の行為」という表現ですが、これは、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいう」(最高裁昭和42年11月8日判決)とされています。
したがって、重加算税の対象行為と脱税犯の対象行為はかなり重なり合うことになります。
この点、税務署から指摘があった部分について、特に争わずに修正申告に応じたということなので、脱税の要件を満たしているかどうかは不明です。
2 なぜ、検察庁に告発されていないのか
次に、脱税だとすると、なぜ、検察庁に告発されていないのか、という点ですが、これは単純に金額が少額だからです。
国税庁の統計によると、平成29年度に重加算税を課せられた件数は、約3万件です。
この全てを刑事告発するわけにはいきませんので、重い脱税事件に絞って、処理できる件数だけを刑事告発の対象にしています。
昔は、1億円以上の脱税が刑事告発対象だ、と言われていましたが、最近は、数千万円の脱税でも刑事告発されているようです。
しかし、1000万円未満の脱税で刑事告発されているものは、私は知りません。
徳井氏の場合、仮に脱税していたとしても数百万円なので、少額ということで、刑事告発の対象となっていない、と思われます。
しかし、単純無申告犯、申告書不提出犯については、今後、刑事手続に乗ってくる可能性があるのではないか、と思われます。
3 附帯税
無申告の場合には、本来納付すべき税金の他に附帯税が課せられます。
無申告加算税、延滞税です。そして、今回は、隠ぺい又は仮装があったとして、重加算税も課せられています。
なお、消費税、役員給与の源泉所得税などがどうなっているのか、も気になるところです。
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「純然たる第三者間取引」の誤解を解く
2019年08月26日
中小企業の株の売買において、価額算定を誤ると、時価取引ではないとして、課税の対象になります。
この点について、「純然たる第三者間取引であれば否認されることはない」と言われることがあります。
しかし、これは不正確です。
この見解の根拠は、「法人税基本通達逐条解説」(税務研究会)の「9-1-14」に関する次の一節と思われます。
「なお、本通達は、気配相場の無い株式について評価損を計上する場合の期末時価の算定という形で定められているが、関係会社間等においても気配相場のない株式の売買を行う場合の適正取引価額の判定に当たっても、準用させることになろう。
ただし、純然たる第三者間取引において種々の経済性を考慮して定められた取引価額は、たとえ上記したところと異なる価額であっても、一般に常に合理的なものとして是認されることになろう。」この中の「純然たる第三者間取引」という文言が一人歩きしたものと推測します。
ところで、国税不服審判所平成11年2月8日裁決において、課税庁側の主張として、「法人税法上、売買取引における取引価額については、それが純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた価額であれば、一般には常に合理的なものとして是認されるが、本件譲渡のように、親会社と子会社の代表者との譲渡で純然たる第三者間の取引ではなく、かつ、その合意価額が合理的に算定されていないと認められる場合には、当事者間の合意があったとしてもその合意価額は客観的交換価値を示すものとは認められない。」とされていますので、課税庁は、この見解に依拠しているものと思われます。
そこで、時価を作り出すために、本来意図する株取引の前に、第三者間取引をかませて、「時価」を作りだそう、と考える人が出てきます。
つまり、本当は馴れ合いで価格を決めているにもかかわらず、純然たる第三者同士が交渉した結果、価格が決まったように装う、ということです。
しかし、この方法を採用すると、後日の税務調査で否認され、もし、税理士が助言した場合には、税理士損害賠償に発展する恐れがあります。
なぜなら、ここで注意すべきなのは、上記基準は、「純然たる第三者間取引」であれば、それだけで時価と認定されるわけではない、ということです。
たとえば、純然たる第三者間取引だったとしても、売り手の都合によってどうしても早期に売却したく、買手の言い値で、即座に本来の時価の3分の1で売却したとしたら、どうでしょうか?
この場合には、客観的交換価値で売買されたことにはなりません。
株価によっては、大きな経済的利益が売主から買主に移転したことになります。
つまり、そこに担税力が生じていることになります。
時価と認められるためには、「純然たる第三者間取引」というだけでは足りず、要件がもう一つ加わります。
(1)純然たる第三者間取引であること
(2)取引価格が種々の経済性を考慮して定められたこと
つまり、純然たる第三者間取引であるだけではダメで、(2)の要件を満たして、はじめて合理的なものとして、是認される、ということになります。
簡単に言うと、
・お互いが「自分の方が相手より得をしたい」という関係性において、
・できる限り自分に有利な価格になるよう交渉した
ということになります。
そういう場合には、利害対立間の交渉で決められた価格であるので、「客観的交換価値であると推認できる」ということだと思います。
そして、税務否認するためには、課税庁が時価についての立証責任を負担しますが、上記の要件が満たされる場合には、それを覆して異なる時価を立証するのが困難、と判断しているものと推測します。
この点について、東京地裁平成19年1月31日判決(税務訴訟資料257号順号10622)では、納税義務者が親族関係のない独立第三者間取引であると主張したのに対し、裁判所は、譲渡価格が譲渡人と納税義務者との間でのせめぎ合いにより形成された客観的価値ではないとして、納税者敗訴判決をしています。
したがって、「純然たる第三者間取引」のように見えても、それだけで安心せず、その取引価格が、きちんと売主と買主の経済合理性に根ざしたせめぎ合いによって決定されたかどうか、を確認しておく必要があります。
そして、税理士としては、その交渉過程を証拠化して、保存していく必要があると思います。
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税務調査における争点整理表と納税者主張整理書面
2019年06月29日
今回は、税務署の内部書類である「争点整理表」についてです。
【争点整理表とは?】
争点整理表とは、争訟が見込まれる等の事案において作成するものですが、平成24年6月27日国税庁長官「署課税部門における争点整理表の作成及び調査審理に関する協議・上申等に係る事務処理手続について(事務運営指針)」(TAINSコードH240627課総2-21)によると、争点整理表には、
・事実経過
・争点の概要
・争点に係る法律上の課税要件
・調査担当者の事実認定(又は法令解釈)その事実、証拠書類等
・納税者側の主張、その事実、証拠書類等
・審理担当者等の意見
を記載することとされています。
どういう場合に作成するかですが、形式基準として、次の場合に作成するものとされています。
次の処分等が見込まれる事案
(イ)重加算税賦課決定
(ロ)増額更正・決定
(ハ)青色申告承認の取消し
(ニ)更正の請求に理由がない旨の通知
(ホ)偽りその他不正な行為による6年前・7年前の年分(事業年度)への遡及
(ヘ)調査着手後6ヶ月以上の長期仕掛事案
(ト)以上の事案以外で、署の定める重要事案審議会の署長付議対象に該当することが見込まれる修正申告若しくは期限後申告対象事案又は過怠税賦課決定処分対象事案
したがって、後日、重加算税賦課決定が見込まれる事案においては、必ず「争点整理表」が作成されることがわかります。
【争点整理表に基づく事実認定】
また、事実認定については、「抽出した課税要件に照らして、調査によって抽出した証拠(相手方の主張を含む。)について事実関係時系列表により整理を行い、直接証拠(事実を直接示している証拠)や間接証拠(事実の存在を推認できる証拠)から事実認定を行う。なお、税務当局が認定した事実及び主張する事実については、全てその根拠(証拠)が必要であり、税務当局側が立証責任を負うこととなる」(留意点)とされています。
【争点整理表に納税者主張を記載させる方法】
納税者としては、重加算税賦課決定を回避するためには、この争点整理表における「納税者側の主張」「事実、証拠書類等」に自らの主張を正確に記載させることが重要なポイントなるものと思われます。
そのために有効なのが、「納税者主張整理書面」です。
書面で主張していかないと、調査担当者の側から見た「納税者側の主張」しか争点整理表に記載されず、審理担当者もそれを前提にして意見をします。
しかし、書面で主張及び証拠を提出しておけば、それが争点整理表に記載され、審理担当者も納税者側の正確な主張を検討した上で、重加算税賦課決定をするかどうかの意見を付するものと考えられます。
ぜひ、ご活用いただきたいと思います。
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立証責任で課税庁が敗訴した裁判例
2019年06月23日
課税要件事実に関する立証責任については、「所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもないところである」(最高裁昭和38年3月3日判決、月報9巻5号668頁)とされており、課税庁に立証責任があるのが原則です。
したがって、課税庁は税務調査によって事実を調査し、証拠を収集し、課税処分をする場合には、後日処分取消訴訟などで争われたとしても、立証に成功すると判断することが必要となります。この判断を誤り、後日の処分取消訴訟等で立証に失敗した場合には、課税処分が違法となります。
では、「立証した」とは、どういうことなのか、あるいは、「立証していない」というのはどういうことなのでしょうか。
実際の裁判例で見てみましょう。
東京高裁平成15年1月29日判決のアルゼ事件があります。
事案としては、納税者Xが、A社からパチスロ機のメイン基板合計6万6455枚を1枚当たり1万4000円で購入し、これらをB社に対し1枚当たり8万円で販売する取引をして43億8603万円の売買利益を得ていたにもかかわらず、米国法人C社がこの取引をしていたかのように仮装し、同取引によって得た所得等を申告しなかったとして、消費税及び地方消費税について、それぞれ更正処分及び重加算税賦課決定処分をした事案です。
課税庁は、本件各取引が、売買契約の内心的効果意思のない通謀虚偽の意思表示によるもので無効であるにもかかわらず、取引があるように仮装したものである、と主張しました。
課税町に立証責任がある、ということは、この「通謀虚偽表示」と、「取引の仮想」を立証する責任がある、ということです。
裁判所は、各種証拠を検討した上で、本件各取引が、「いずれも通謀虚偽の意思表示によるものであって、被控訴人が明立から明立基板を購入しこれをECJに販売したものであると認めることはできず、他に、これを認めることができる的確な証拠はない。」として、納税者勝訴判決をしました。
本裁判例では、裁判所が、重加算税の課税要件事実の主張立証責任が国にあることを前提とした上で、重加算税の課税要件事実の立証が成功しなかったとして、立証責任により国敗訴判決をしたものと理解しています。
また、主張立証責任が問題となった事例に、東京高裁平成27年3月25日判決(判例時報2267号24頁)のIBM事件があります。有名な事件です。
上告審は上告不受理決定です。
この事案は、日本IBMの全株式を保有していた納税者Xが、自己の保有する日本IBMの株式を日本IBMに譲渡した上で、Xと日本IBMが連結納税者制度の適用を選択しました。株式譲渡によりXには約4000億円の損失が発生していたことから、当時の法制度によると、日本IBMが国内で事業活動を行うことによる所得何年にもわたり繰越欠損金と相殺されて、課税されない状態が続くことになりました。
そこで、課税庁は、法人税法132条の同族会社の行為計算否認規定を適用して、課税処分を行ったというものです。
法人税法132条は、「税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。」と規定しています。
本件では、一連の行為が、「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となる」に該当するかどうかが争われたものです。
裁判所は、「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となる」かどうかの判断基準として、「法人税法132条1項の趣旨に照らせば、同族会社の行為又は計算が、同項にいう『これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』か否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される〔最高裁昭和53年4月21日第二小法廷判決・訟務月報24巻8号1694頁(最高裁昭和53年判決)、最高裁昭和59年10月25日第一小法廷判決・集民143号75頁参照〕」と規範を定立しました。
その上で、本件一連の行為が、独立当事者間の通常の取引と異なるものであり、経済的合理性を欠くとの国の主張について、「本件各譲渡が、本件税額圧縮・・・の実現のため、被控訴人の中間持株会社化・・・・と一体的に行われたという控訴人の主張は、本件全証拠によっても認めることができないというほかない」と判示し、また、本件一連の行為が、全体として独立当事者間の通常の取引と異なるものであり、経済的合理性を欠くとの国の主張について、「そもそも、控訴人は、本件各譲渡が独立当事者間の通常の取引と異なると主張しているのにもかかわらず、独立当事者間の通常の取引であれば、どのような譲渡価額で各譲渡がされたはずであるのかについて、何ら具体的な主張立証をしていない」として、主張立証責任を理由に納税者勝訴の判決をしました。
したがって、税務調査において、調査担当者から税務処理を否認された場合でも、課税庁の主張する課税要件に該当するかどうかの立証責任は課税庁にあることを明確にし、その上で、課税要件事実が立証しきれているかどうかを吟味する必要があります。
とは、言っても、「立証しきれているかどうか」は、どうやって判断するか、わからない、という疑問があるかもしれません。
これは、「証明度」の問題です。
事実をどの程度、証拠によって「証明」すれば、裁判所に事実を認定してもらえるのか、とうい問題です。
証明度に関しては、有名な判決があります。「ルンバール事件判決」です。
ルンバ-ル事件判決(最高裁昭和50年10月24日判決、民集29巻9号1417頁)は、化膿性髄膜炎に罹患した幼児の治療として、医師が「ルンバール」という治療をした後に幼児にけいれん発作等及び知能障害等の病変が生じたことについて、同病変等がルンバール施術のショックによる脳出血によるものと認定できるかどうかが争われた事案です。
この事案において、最高裁は、証明度について、「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」と判示しています。
そして、経験則を用いて、病変等がルンバール施術のショックによる脳出血によるものと認定しました。
この裁判例から、証明度について次のことが言えることになります。
①立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではない
②経験則に照らして全証拠を総合検討する
③因果関係については高度の蓋然性を証明する
④通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる
したがって、税務調査において、課税庁から納税者の税務処理を否認された場合には、課税等が主張する課税要件事実が、収集された証拠により、この証明度に達しているかを吟味する必要があります。
ご相談は、こちらから。
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課税庁が文理解釈を誤った裁判例
2019年06月16日
憲法30条は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」とし、84条で、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」として、租税法律主義を定めています。
そして、租税法律主義は、課税要件法定主義、課税要件明確主義を要請します。
課税要件は、納税義務ないし租税債務が成立するための要件です。
課税要件法定主義および課税要件明確主義からは、納税義務を成立されるための要件は、法律又はその具体的・個別的委任による政省令等で定められることが必要であり、かつ、その定めは可能な限り一義的で明確である必要があります。さらに、その明確に定められた要件は、その文理に従って解釈されなければなりません。
したがって、租税法規の解釈は、文理解釈が原則となります。
過去には、課税庁が、文理解釈を誤ったことにより、納税者が勝訴した裁判例がいくつかあります。
最高裁平成22年3月2日(百選第6版13事件)のホステス源泉所得税事件は、パブクラブを経営する納税者が、使用しているホステスに対して半月ごとに支払う報酬にかかる源泉所得税を納付するに際し、5000円に半月間の全日数を乗じて各月分の源泉所得税額を算出し、それに基づいて計算した額を納付していたところ、税務署長が、半月間の全日数ではなく、実際の出勤日数を乗ずべきであるとして納税告知および不納付加算税の賦課決定を行った事案です。
この事案では、所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間」が問題となりました。
この「期間」についての法解釈について最高裁は、「一般に、『期間』とは、ある時点から他の時点までの時間的隔たりといった、時的連続性を持った概念であると解されているから、施行令322条にいう『当該支払金額の計算期間』も、当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性をもった概念であると解するのが自然であり、これと異なる解釈を採るべき根拠となる規定は見当たらない」「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく・・・・『当該支払金額の計算期間』は、本件各集計期間の全日数となるものというべきである」として、納税者勝訴判決を出しました。
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税務調査の事実認定は誰が立証責任を負担するか
2019年06月15日
ここでは、税務調査における事実の立証責任を取り上げます。
立証責任は、訴訟において、事実があるかどうか認定できない、という場合に、いずれか一方の当事者が負う不利益又は負担のことです。
最高裁判決は、所得税事案に関し、「所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもないところである」(最高裁昭和38年3月3日判決、月報9巻5号668頁)としており、課税要件事実の主張立証責任は国にあるとしています。
したがって、税務調査において、課税要件事実を課税庁が立証できなければ、課税できない、ということになります。
下級審判例でも、一貫して、課税要件事実は、課税庁側にある、とされています。
●「本件算定方法が租税特別措置法66条の4第2項第2号ロ所定の再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たることは、課税根拠事実ないし租税債権発生の要件事実に該当するから、上記事実については、処分行政庁において主張立証責任を負うものというべきである」(東京高裁平成20年10月30日判決)
●「本件においては、特定外国子会社等に当たるA社が措置法40条の4代4項所定の適用除外要件のうちの実体基準及び管理支配基準を満たすか否かが争点となっているところ、課税庁の属する被告側がA社が上記の各適用除外要件を満たさないことを主張立証する必要がある」(東京地裁平成24年10月11日判決)
●「国外に所在する子会社等の実体の把握についても、もともと、税金訴訟では、納税者側の事情が主張立証の対象となることが多い(国の事情や純然たる第三者の事情が主張立証となることは、通常は、想定されない)のであるから、主張立証責任を決めるに当たって、証拠への近さは、あまり重視すべきではないと考えられる」(東京高裁平成25年5月29日判決)
これに対し、必要経費などについては、納税者の領域内にあり、また、証拠を保全しておくことはそれほど困難ではないことが多いので、その立証は容易なことが多いと思われます。したがって、国側において、経費の不存在について一定の立証をした場合には、納税者が立証可能なはずなのに、合理的な立証ができないときは、国の立証が成功した、と判断される場合もありえます。
したがって、課税要件事実の立証責任が国にあるとしても、納税者としても、積極的に立証活動を展開していくことが必要です。
裁判例においても、以下のようなものがあります。
●「必要経費について、控訴人が行政庁の認定額をこえる多額を主張しながら、具体的にその内容を指摘せず、したがって、行政庁としてその存否・数額についての検証の手段を有しないときは、経験則に徴し相当と認められる範囲でこれを補充しえないかぎり、これを架空のもの(不存在)として取り扱うべきものと考える」(広島高裁岡山支部昭和42年4月26日判決行集18巻4号614頁)
●「被告が右の調査に基づく一応の立証を尽くした以上、被告の認定しえた額を超える多額を主張する原告が具体的にその支払額、相手方等を明らかにしえない限り、本件各土地の売買により発生した譲渡所得が原告に帰属するものと認められてもやむを得ないというべきである」(岡山地裁昭和44年7月10日判決、判例時報590号29頁)
また、一般経費については国に立証責任を課すものの、特別経費については、納税者に立証責任がある、とする裁判例があります。
(利息について)
「一般に必要経費の点も含め課税所得の存在については課税庁に立証責任があると解されるが、必要経費の存在を主張、立証することが納税者にとって有利かつ容易であることに鑑み、通常の経費についてはともかくとして、利息のような特別の経費については、その不存在につき事実上の推定が働くものというべく、その存在を主張する納税者は右推定を破る程度の立証を要するものと解するのが公平である。」(大阪高裁昭和46年12月21日判決、税務訴訟資料63号1233頁)(訴訟費用について)
「所得の存在およびその金額について課税庁が立証責任を負うことはいうまでもないから、必要経費についても課税庁に立証責任があると解されるが、必要経費の存在を主張、立証することは納税者にとって有利かつ容易であるところからすると、公平の観念に照らし、通常の経費についてはともかく、訴訟費用のような特別の経費、すなわち、事実上不存在の推定が働くような特別の経費については、その存在を主張する納税者が石推定を破る程度の立証を要するものと解するのが相当である」(神戸地裁昭和53年9月22日判決、訴訟月報25巻2号501頁)貸倒損失についても、「貸倒損失は、通常の事業活動によって、必然的に発生する必要経費とは異なり、事業者が取引の相手方の資産状況について十分に注意を払う等合理的な経済活動を遂行している限り、必然的に発生するものではなく、取引の相手方の破産等の特別の事情がない限り生ずることのない、いわば特別の経費というべき性質のものである上、貸倒損失の不存在という消極的事実の立証には相当の困難を伴うものである反面、被課税者においては、貸倒損失の内容を熟知し、これに関する証拠も被課税者が保持しているのが一般であるから、被課税者において貸倒損失となる債権の発生原因、内容、帰属及び回収不能の事実等について具体的に特定して主張し、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行わない限り、事実上その不存在が推定されるものと解するのが相当である。」(仙台地裁平成6年8月29日判決、訟月41巻12号3093頁、仙台高裁平成8年4月12日判決、税務訴訟資料216号44頁)とされています。
しかし、この貸倒損失に関する裁判例の判断には疑問です。
法人税基本通達9-6-1は、貸倒損失の要件として、「(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」としていますが、金融機関は別として、法人が通常の商取引をするに際し、相手方の決算書等の交付を受けることはほとんどありません。また、取引の相手方が資産超過か債務超過かを知りうる手段は少ないでしょう。したがって、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続」していることについて、立証は困難と言わざるをえません。反対に、課税庁においては債務者に対して質問検査を行うことによって債務者が債務超過であるかどうかを立証するのは容易であるといえるでしょう。
また、同通達9-6-2は、「法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。」としていますが、「債務者の資産状況、支払能力」などは、課税庁の方が調査を容易にでき、かつ、立証が容易であるように思います。反面、納税者においては、債務者の資産状況や支払能力などを調査し、立証するのは困難な場合が多いように思われます。
したがって、貸倒損失について全て納税者が立証責任を負担するというのは妥当ではなく、貸倒の理由に応じて適切に立証責任を分配していくのが妥当だと考えます。ご相談は、こちらから。
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税務調査でも法的三段論法に当てはめる
2019年06月15日
法的三段論法とは
裁判所が判決を出す時には、法的三段論法にあてはめて結論を出します。また、課税庁が更正をするときにも、法的三段論法を適用することとなります。
三段論法とは、たとえば、「動物は死ぬ」、「ゾウは動物である」、「ゆえに、ゾウは死ぬ」というように大前提、小前提、結論という三段階の推論のことです。
これを法律の適用過程に応用したのが法的三段論法で、法規範を大前提とし、事実を小前提として、法規範に事実を当てはめて判決という結論を出すことになります。
税務調査においても、法的三段論法の考え方に従って行われます。
「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)第2章1の1」では、「調査とは、国税・・・に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいうことに留意する。」とされています。
したがって、税務調査において、調査官から否認指摘があった際には、その指摘が法的三段論法に照らして正しいかどうかを検討することになります。
たとえば、納税者が離婚の際に不動産を財産分与した場合について、財産分与による所有権の移転は、譲渡所得が発生しないとして所得税の確定申告をした時に、税務調査の結果、不動産の財産分与も所得税法上の「資産の譲渡」に該当するとして、更正を行うこととします。
この場合には、法的三段論法にあてはめ、(1)所得税法にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させるいっさいの行為をいう(最高裁昭和50年5月27日判決、百選第6版42)、(2)財産分与は、資産を配偶者に移転するものである、(3)ゆえに、財産分与も「資産の譲渡」に該当する、という結論を出し、資産の増加益に関して更正を行うこととなります。
更正を行う際の法規範、事実、法規範への事実の当てはめ、の三段階のいずれかに誤りがあれば、更正にも誤りがあることになります。したがって、税務調査の際には、法的三段論法の三段階において誤りがないかどうか、検討する必要があります。
法規範とは
法規範というのは、租税法規の条文を意味するのはもちろんですが、条文だけでは、その意味内容を確定することはできません。
たとえば、所得税法33条の「資産の譲渡」といっても、どの範囲のものが「資産」に含まれるのか、「譲渡」は有償に限るのか、無償の譲渡も含まれるのか、については条文からは明らかでないので、それらを解明することが必要です。それが、法解釈となります。法解釈とは、「実定法の規範的意味内容を解明する作業」をいうとされています。
法解釈には、文理解釈・論理解釈・歴史的解釈・目的論的解釈、など複数の技法があります。
ここでは、文理解釈のみ説明します。
文理解釈とは、法規の文字・文章の意味をその言葉の使用法や文法の規則に従って確定することによってなされる解釈です。
憲法30条は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」とし、84条で、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」として、租税法律主義を定めています。
そして、租税法律主義は、課税要件法定主義、課税要件明確主義を要請します。課税要件は、納税義務ないし租税債務が成立するための要件です。課税要件法定主義および課税要件明確主義からは、納税義務を成立されるための要件は、法律又はその具体的・個別的委任による政省令等で定められることが必要であり、かつ、その定めは可能な限り一義的で明確である必要があります。さらに、その明確に定められた要件は、その文理に従って解釈されなければなりません。
したがって、租税法規の解釈は、文理解釈が原則となります。
ホステス報酬に係る源泉徴収について争われた事案において、最高裁平成22年3月2日(百選第6版13事件)は、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく、原審のような解釈を採ることは、・・・文言上困難」と判示し、所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」について、「当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性を持った概念であると解するのが自然」であると判示しています。
事実(小前提)
更正を行う際には、法解釈の各技法によって租税法規の規定の意味内容を解明し、それに事実を当てはめる作業を行います。
したがって、更正にあたっては、必ず事実を認定する作業が行われることになります。
しかし、場合によっては、事実があるかどうか認定できない、という場合もあります。このような場合に、いずれか一方の当事者が負う不利益又は負担のことを「立証責任」といいます。
そして、事実認定においては、立証責任を負担する当事者が、「どの程度まで立証」すれば、証明できたことになるのか、という「証明度」も考える必要があります。立証責任を負担する者の立証が、証明度に達しないときは、その主張する事実が認定できず、不利益又は負担を負うことになります。
課税庁が更正をする際には、後日、処分取消訴訟において勝訴できることを前提としています。そして、課税庁が立証責任を負担する事実について、証明度に達する立証ができない時は、更正処分が取り消されることになりますので、事実認定は重要な作業ということになります。
米国関係会社を経由した迂回取引かどうかが争われたアルゼ事件において、東京高裁平成15年1月29日判決は、提出された証拠によっては、国の主張する事実を「認めることはできず、他に、これを認めることができる的確な証拠はない」として、立証責任により、国側敗訴判決を出しました。
したがって、税務調査において、課税庁が納税者の税務処理を否認する旨の主張をしている際には、課税庁が収集した証拠によって、課税庁の主張する税務処理の課税要件事実の立証が証明度に達しているかどうかを吟味することが必要となってきます。
法適用(当てはめ)
法を適切に解釈し、事実を適切に認定しても、法規範に事実を認定するあてはめが違法となる場合があります。
納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したことにつき国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるかどうかが争われた事案において、法解釈が正しく、事実も国の主張どおりであるとしても、通達を変更した際には、通達を発するなどして変更後の取扱いを納税者に周知させ、これが定着するよう必要な措置を講ずべきものである」として、それを怠っていたことを理由として、国側の主張を認めなかった最高裁平成18年10月24日判決(判例時報1955号37頁)があります。
税務調査における攻防は口頭でやり取りされることが多いと思いますが、課税要件該当性を判断するには、必ず三段論法に当てはめることが必要となります。
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税務調査における質問応答記録書とは
2019年06月15日
税務調査の過程で、質問応答記録書が作成されることがあります。
質問応答記録書は、租税職員が質問し、納税義務者等が回答した際に、その内容を記録し、記録後に回答者に対して署名押印を求めるものです。
従前は、租税職員が質問し、納税義務者等が回答した内容を証拠に残す際には、納税義務者等の回答内容を書面に記載して、申述書、確認書、供述書、嘆願書などの表題の書面を作成して、納税義務者等の署名押印を得ることが多かったと思います。
今でも作成されることはありますが、このような場合に作成する行政文書として、平成25年6月から、質問応答記録書の作成の手引が作成されています。
平成25年6月の国税庁課税総括課作成の「質問応答記録書作成の手引」(以下、「手引」と言います)に、その内容と作成手順の詳細が書かれています。
質問応答記録書の作成趣旨は、
「課税要件の充足性を確認する上で重要と認められる事項について、その事実関係の正確性を期するため、その要旨を調査担当者と納税義務者等の質問応答形式等で作成する行政文書である」(手引)
と説明されています。
そして、「事案によっては、この質問応答記録書は、課税処分のみならず、これに関わる不服申立て等においても証拠資料として用いられる場合があることも踏まえ、第三者(審判官や裁判官)が読んでも分かるように、必要・十分な事項を簡潔明瞭に記載する必要がある」(手引)とされており、更正するかどうかを判断する上での証拠資料となるのはもとより、処分取消訴訟等において証拠として提出されることが前提とされています。
質問応答記録書が作成され、後日、処分取消訴訟において提出された場合、有力な証拠となります。後日の訂正・撤回は容易ではありません。
したがって、質問応答記録書には、事実に合致した内容のみを記載してもらうようにしなければなりません。そのために、質問応答記録書を作成する際には、回答者側は、訂正等を求めることができることとされています。手引の作成例では、最後に「以上で質問を終えますが、何か訂正したい又は付け加えたいことがありますか。」というような質問例が記載されています。
もし、税務調査において、質問応答記録書が作成され、その内容が事実と相違していたり、あるいは、記憶と異なる記載がされた場合には、積極的に訂正を申し立てるようにしましょう。
そうしないと、後日、裁判等になった場合に、質問応答記録書に記載された内容で事実が認定されてしまう可能性があります。
手引によると、質問応答記録書を完成させた後に、回答者から、後日、訂正・変更の申立てあった場合でも、当該質問応答記録書には訂正等を行ってはならない、とされています。
そして、必要に応じ、訂正・変更の主張及び変更後の回答内容を記録するための新しい質問応答記録書を作成するなどの方法により対応する、とされています。
したがって、後日訂正等の申立てを行っても、必ず改めて質問応答記録書が作成されるわけではありません。
質問応答記録書は、「課税要件の充足性を確認する上で重要と認められる事項について、その事実関係の正確性を期するため」(手引)に作成されるものですが、「事案によっては、納税義務者等の回答内容そのものが課税要件の充足のための直接証拠となる事案や、直接証拠の収集が困難であるため、納税義務者等の回答内容を立証の柱として更正決定等をすべきと判断する事案もある。」(手引)とされており、質問応答記録書における納税者の回答内容を柱として更正がされる事案もありうることが示唆されています。
したがって、租税職員から質問応答記録書の作成を開始する、と告げられた際には、慎重に対応し、記憶にないことを供述しないことが大切です。
また、質問応答記録書を作成した場合には、「質問応答記録書の作成後、回答者に対し、同人の拒否などの特段の事情のない限り、質問応答の要旨に記載した内容を読み上げ、内容に誤りがないか確認させなければならない。一層の記載内容の信用性確保のため、併せて、提示し、閲読してもらうことが望ましい」とされていますので、読み上げおよび閲読させてもらうことを求め、内容の正確性を確認することが望ましいでしょう。
最後に署名押印を求められます。署名押印した場合には、その内容を認めたこととなり、後日、覆すことが困難となりますので、必ず内容を確認することが必要です。
署名押印は義務ではありません。この場合には、奥書で、回答者が署名押印を拒否した旨を租税職員が記載し、署名押印することによって書類として完成することになります。したがって回答者が署名押印しなくても、書類としては完成することになります。
間違った内容の質問応答記録書には、署名押印しないよう気をつけましょう。
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税務調査において質問検査拒否で罰則が適用される場合
2019年06月15日
課税庁は、納税者によってされた申告内容が正しいかどうか調査し、誤りがある場合には、更正・決定・賦課決定等の処分を行います。
そのためには、課税要件事実に関する資料を入手検討できる権限が必要となります。そのため、租税職員には、納税者の関係者に質問し、物件を検査する権限が認められています。これを質問検査権といいます。
質問検査権は、従前は各個別法に規定されていましたが、平成23年12月改正により、国税通則法に一本化されました。
国税通則法では、質問検査権は、次のように規定されています。国税通則法74条の2第1項「国税庁、国税局若しくは税務署・・・の当該職員・・・は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件・・・を検査し、又は当該物件・・・の提示若しくは提出を求めることができる。」
つまり、質問検査権とは、
①質問
②物件を検査
③物件の提示を求める
④物件の提出を求める
に関する権限を認めるものです。
質問検査権は、任意の行政調査の権限を認めるものであって、強制調査を認めるものではありません。強制調査というのは、納税者の意に反して事業所等に立ち入り、物件を検査するような調査のことです。強制調査は、国税局査察部が、国税通則法(以前は国税犯則取締法)に基づく犯則調査を行う際に認められているものです。
質問検査権は、任意の行政調査とはいっても、質問・検査の相手方には、質問に答え、又は検査を受忍する義務があります。そして、次の場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑罰が科されることとされています(国税通則法128条2号、3号)。
①質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
②物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者
したがって、任意調査とはいっても刑罰を背景にした間接的な強制力がある、ということになります。だからといって、軽微な不答弁等でただちに刑罰を科されるわけではありません。
質問検査拒否等に対して刑罰を科すべき場合かどうかについて争われた事案に、東京地裁昭和44年6月25日(判決判例時報565号46頁)があります。
裁判所は、所得税法248条8号違反の刑事事件において、
「質問ないし検査(させること)の求めに対する単なる不答弁ないし拒否が同法242条8号の罪を構成するためには、さらに厳重な要件を必要とするものといわなければならない。なぜなら、当該職員が必要と認めて質問し、検査を求めるかぎり、不答弁や検査の拒否がどのような場合にも1年以下の懲役又は20万円以下の罰金にあたることになるものとすれば、事柄が所得税に関する調査というほとんどすべての国民が対象になるような広範囲な一般的事項であり、しかも公共の安全などにかかわる問題でもないだけに、刑罰法規としてあまりにも不合理なものとなり、憲法31条のもとに有効に存立しえないことになるからである。」「所得税法第242条8号の罪は、その質問等についての合理的な必要が認められるばかりでなく、その不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事由が認められる場合にのみ成立する」とした上、「被告人のように、一般のいわゆる白色申告者である場合には、単に帳簿書類を見せてほしい、得意先、仕入先の住所氏名をいってほしい、工場内を見せてほしいといわれただけで、これに応じなかったといって、ただちに不答弁ないし検査拒否として処罰の対象になるものと考えることはできない」
と判示して、無罪を言い渡しました。
したがって、質問検査に対する不答弁等の罪が成立するためには、
①質問等についての合理的な必要が認められること
②不答弁等を処罰の対象とすることが不合理といえないような特段の事由が認められること
が必要となり、単なる不答弁等は処罰の対象とはならない、と考えられます。
ただし、質問検査に対する不答弁とともに帳簿書類の提示を拒否する等した場合には、青色申告に係る帳簿書類の備え付け、記録及び保存が法律の定めるところに従って行われていない、として、青色申告承認の取消処分を受ける可能性があります(最高裁平成17年3月10日判決、百選第6版109事件)。
この点要注意でしょう。
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税務調査で納税者の主張を書面にして提出するための本
2019年06月14日
税務調査において、課税庁と納税者(税理士)との間で法律解釈・事実認定・法適用などで、見解の相違が生じることがあります。
このような場合には、課税庁と納税者とで見解の相違を解消すべく交渉をすることになりますが、多くの場合に口頭で交渉が行われるため、お互いの理解の前提が異なったり、一つの用語を異なる意味に解釈するなどの理由で、平行線に終わり、又は議論がかみ合わないことがあります。その結果、誤った判断に基づく修正申告の勧奨が行われ、または違法な更正・決定等が行われることになります。
誤った更正に対し、不服申立や税務訴訟により、更正処分が取り消されることがありますが、本来であれば、税務調査段階において、課税庁の判断の過誤が是正されるべきであることは言うまでもありません。
税務訴訟にまでなると、解決までに何年かかるかわかりませんし、弁護士費用も多額になりがちです。
そこで、税務調査段階で、なんとか誤った修正申告の勧奨や更正を防ぐことができないか、と考えます。
もちろん、課税庁も正しい課税をすることを目的としていますので、誤った更正などしたくないのは当然です。
そこで、いかなる段階で、いかなる理由により誤った更正等の処分が違法となるのかについて、過去に課税庁が敗訴した税務訴訟判決、つまり、課税庁が誤った更正等の処分を行った事例を分析した結果、七段階において、誤りが発生するという結論になりました。
その七段階とは、次のとおりです。
第一段 法律解釈
第二段 事実認定
第三段 法適用(当てはめ)
第四段 信義則・裁量権の逸脱・濫用
第五段 手続違背
第六段 錯誤
第七段 理由付記
そして、更正の前段階では、課税要件該当性について慎重に判断するため、課税庁では、「争点整理表」を作成します。
争点整理表では、
・事実経過
・争点の概要
・争点に係る法律上の課税要件
・調査担当者の事実認定(又は法令解釈)その事実、証拠書類等
・納税者側の主張、その事実、証拠書類等
・審理担当者等の意見
を記載することとされています。
そうすると、この争点整理表に、納税者の主張を的確に記載してもらうことにより、誤った修正申告の勧奨や更正を防ぐことができるのではないか、ということです。
そこで、税務調査の過程で、課税庁との間で見解の相違が生じ、口頭の議論ではその相違を解消することができない時に、「納税者主張整理書面」及び証拠書類を作成し、提出する、という一手間を加えることを提案するものです。
なぜ、税務調査において、「納税者主張整理書面」が有効か、また、その書き方について解説をした本を出しました。
ぜひ、ご一読ください。
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