税法 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 4
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
  • 税理士法人では会計業務に注意

    2020年10月30日

    今回は、税理士法人向けに、ちょっと注意しておかなければならない点について、解説をします。

    税理士法人の社員税理士には、競業禁止規定があります。

    ====================
    税理士法48条の14 1項

    税理士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその税理士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の税理士法人の社員となつてはならない。

    ====================

    この理由については、

    (1)法人の事業上の秘密を保ち、利益衝突を避ける必要があること

    (2)税理士法人の業務と税理士個人の業務とが混在すると、顧客である納税者等にとって、委嘱の相手方である税理士の立場が法人の社員としての立場なのか、個人の税理士としての立場なのかが暖昧で法律関係が不明確となり、顧客(納税者等)の保護に欠ける面があること

    とされています。

    そして、税理士法人とは別に記帳代行業務を行う法人を別に設立することもあると思います。

    この場合には、社員税理士が、記帳代行会社の役員に就任し、会計業務を行うことが多いでしょう。

    さて、この場合に、税理士法人の定款の目的に、「会計業務」が記載されていると、問題が生じます。

    税理士法基本通達

    ====================

    48の14-1 法第48条の14の規定により、会計業務を行う税理士法人の社員税理士は、自己又は第三者のために会計業務を行うことは禁止されるので、例えば、当該社員税理士が、会計業務を行う他の法人の無限責任社員又は取締役に就任して当該他の法人のために会計業務を行うことはできないことに留意する。

    ====================
    このように競業禁止規定に違反してしまうことになります。

    税理士法人の場合には、会計業務は切り分けなければならない、ということです。

    税理士法人の場合には、ご注意いただきたいと思います。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 法人の高額譲受と課税関係

    2020年10月14日

    今回は、東京地裁令和元年10月18日判決(TAINS Z888-2288)をご紹介します。

    内容としては、高額譲り受けにより取得した土地の購入価額と時価との差額がどう処理されるか、についてです。

    ====================

    (事案)

    ●納税者である会社は不動産の売買等を目的とする株式会社である。

    ●納税者が第三者との間で債権債務が存在していたところ、土地の売買に際して債権債務を相殺することにした。

    ●土地の時価は、7283万9889円であったところ、売買代金額は、1億8421万7112円であった。

    ●納税者は、この売買代金額全額を売上原価として損金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ、税務署長から、購入価額のうち時価との差額は損金に算入できないとして更正等をした。

    (判決)

    ●法人が時価よりも高額の売買代金により不動産等の資産を購入した場合も、売買代金と時価との差額は、買主たる法人から売主に「供与」された「経済的な利益」であり、そのうち「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」については、「経済的な利益の‥‥無償の供与」をした場合における当該「経済的な利益」の時価として、法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することになるから、当該金額は損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないこととなるものと解される。

    ●この場合も、売買契約という当事者の選択した法形式を否認して時価による売買と差額分の金銭の贈与という二つの法律行為があったとみなすものでも、当該法律行為を売買と贈与の混合契約であるとみなすものでもなく、当該法律行為は私法上の性質としては売買契約であることを前提に、その売買代金額の一部を法人税法の適用上「寄附金の額」と評価しているものにすぎず、当該法律行為の私法上の性質を変更するものではないと解される。

    ===================

    以上のとおり、判示して納税者敗訴(土地の購入価額と時価との差額は寄付金)としました。

    ポイントは、「購入価額と時価との差額」は、「経済的な利益の‥‥無償の供与」となる、ということです。

    そして、これは、

    ・「売買契約」を否認するものではない

    ・「売買+金銭贈与」と認定するものではない

    ・「売買契約と贈与契約の混合契約」と認定するものではない

    ということです。

  • 給与所得と事業所得の区別の例示

    2020年09月22日

    今回は、給与所得と事業所得の区別基準です。

    情報公開により取得された国税局の内部文書を整理しました。

    東京国税局 平成15年7月 第28号法人課税課速報(源泉所得税関係)(TAINS H150700-28)です。

    この中に、実務において、給与所得と事業所得を判定する際に参考となる例示が記載されています。

    ある事実関係があると、給与所得と事業所得のどちらに判例が傾くか、という例示です。
    ===================

    ●給与所得の認定に傾く例示

    労働基準法の適用を受ける

    支払者が作成している組織図・配席図に記載がある

    役職(部長、課長等)がある

    服務規程に従うこととされている

    有給休暇制度がある

    他の従集員と同様の福利厚生を受けることができる(社宅の貸与、結婚祝金、レクリェーション、健康診断等)         |
    通勤手当の支給を受けている

    他の従業員と同様の手当を受けることが可能(住居手当、家族手当等)        
    時間外(残業)手当、賞与の制度がある

    退職金の支給の対象とされている

    労働組合に加入できる者である

    支払者からユニフォーム、制服等が支給(貸与)されている

    名刺、名札、名簿等において支払者に帰属しているようになっている

    業務に当たって、支払者側のマニュアルに従うこととされている

    支払者の作ったスケジュールに従うこととされている

    本来の請負業務のほか、支払者の依頼・命令により、他の業務を行うことがある

    勤務時間の指定がある

    勤務場所の指定がある

    旅費、交通費を会社が負担している

    報酬の最低保障がある

    その対価が材料代等の実費とそれ以外に区分して請求される

    ●事業所得の認定に傾く例示

    支払を受ける者の提供する労務が許認可を要する業務の場合、本人は資格を有している(例 運送業) 
                
    その業務に係る材料等の在庫を自己で保管している

    報酬について値引き、値上げ等の判断を行うことができる

    その対価の支払者以外の顧客を有しているか
    以前にも他の支払者のもとで同様な業務を行っていた

    店舗を有し一般客の求めに応じているものである

    その対価の支払者以外の者からの受注を受けることが禁止されている

    同業者団体の加入者である

    使用人を有している者である

    支払を受ける者がその業務について自己の負担で損害保険等に加入している

    業務の遂行の手順、方法などの判断は本人が行う

    遅刻、無断欠勤の場合、それに見合う報酬が支払われないほか罰金(報酬の減額)がある
    その対価に係る請求書等の作成がされている
    その対価が経費分も含めて一括で請求されている

    ==================

    関与先で行われている金員の支払の判定の際に参考にしていただければと思います。

    また、たとえば、事業所得と判定したのであれば、実際の運用を、上記の【事業所得の認定に傾く例示】が多く含まれるように関与先に助言指導をしていくことをおすすめします。

    微妙な判定になる場合には、説明と将来否認される可能性がある旨の証拠化もおすすめしたいと思います。

  • 事業所得と雑所得の判断基準の要素

    2020年09月10日

    今回は、事業所得と雑所得の判定をする際に、どのような要素を検討すべきか、についてご紹介します。

    雑所得と認定されると、以下のようなものが否定されることになります。

    ・給与所得等他の所得との損益通算

    ・純損失の3年の繰越し・繰り戻し

    ・青色申告特別控除

    ・青色事業専従者給与の適用

    ・事業所得に認められる各種優遇税制の適用

    (最高裁昭和56年4月24日判決・弁護士顧問料事件)では、事業所得は、次のような業務から生ずる所得とされています。

    (1)自己の計算と危険

    (2)独立して営まれ

    (3)営利性、有償性を有し

    (4)反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務

    これを更に詳しくしたのが、名古屋地裁昭和60年4月26日判決で、次のような判断基準を挙げています。

    ==================

    ・経済的行為の営利性

    ・有償性の有無

    ・継続性、反覆性の有無

    ・自己の危険と計算による企画遂行性の有無

    ・当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度

    ・人的、物的設備の有無

    ・当該経済的行為をなす資金の調達方法

    ・その者の職業、経歴及び社会的地位

    ・生活状況及び当該経済的行為をなすことにより相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存するか否か

    ⇒等の諸要素を総合的に検討して社会通念に照らしてこれを判断すべきである

    ==================

    では、これらの基準に照らし、実際の事例でどう判断されたかについてですが、これは、別の機会にYouTubeで解説していきたいと思います。

  • 給与所得の事業所得の区別の判断基準(最高裁判決)

    2020年08月31日

    今回は、所得税法上の給与所得と事業所得の区別の判断基準について、有名な最高裁判決を確認しておきたいと思います。

    ある役務の提供が給与所得か事業所得かを判断するについては、消費税基本通達1-1-1を参考にしている先生も多いと思います。

    しかし、同通達は、「出来高払いの給与と請負による報酬」の区分に関する判断基準を示しているもので、総括的に給与所得と事業所得の区分に関する判断基準を示しているものではありません。

    同通達は、次のような表現となっています。

    ===================

    出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。

    ===================

    そして、請負契約を前提とした4要素が示されているわけです。

    したがって、これに当てはまらない場合には、給与所得と事業所得の区別の判断基準を示した最高裁判決の基準に照らして検討することになるかと思います。

    (最高裁昭和56年4月24日判決・弁護士顧問料事件)です。

    弁護士の顧問料が給与所得か事業所得かが争われた事案です。

    何度もお読みになった先生が多いかと思います。

    同判決では、事業所得は次の要素を持っているとされています。

    (1)自己の計算と危険
    (2)独立して営まれ
    (3)営利性、有償性を有し
    (4)反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務

    これに対し、給与所得は次の要素を持っているとされています。

    (1)指揮命令に服して労務提供
    (2)空間的、時間的な拘束
    (3)継続的ないし断続的に労務又は役務の提供

    そして、同判決では、弁護士の顧問料を事業所得としています。

    理由は、以下のとおりです。

    ===================

    (1)各顧問契約には勤務時間、勤務場所についての定めがない(時間的、空間的拘束の否定)

    (2)契約はその頃常時数社との間で締結されており、特定の会社の業務に定時専従する等格別の拘束を受けるものではない(指揮命令、時間的拘束の否定)

    (3)契約の実施状況は、多くの場合電話により、時には右各社の担当者が法律事務所を訪れて随時法律問題等につき相談するため、弁護士が出向くことはない(指揮命令、空間的拘束の否定)

    (4)相談回数は会社によつて異なり、月に二、三回というところや半年に一回、一年に一回というところもある(継続的、断続的労務提供、時間的拘束の否定)

    (5)各社はいずれも本件顧問料を弁護士の業務に関する報酬にあたるものとして支払っており、各種保険料などを控除しておらず賞与等も払っていないので、雇用契約と認識していない。(当事者の認識)

    ===================

    消費税基本通達1-1-1も、この基準を請負契約に当てはめたものと考えられます。

    (1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。(時間的・空間的拘束の有無、独立性の有無))

    (2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。(指揮命令)

    (3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。(自己の計算と危険の有無、継続的役務提供の対価)

    (4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。(自己の計算と危険の有無、独立性の有無)

    したがって、通達で当てはまらない場合には、最高裁判決に立ち戻って判断するのがよいと思います。

  • 給与所得と事業所得の区別(弁護士顧問料事件最高裁判決より)

    2020年08月25日

    今回は、所得税法上の給与所得と事業所得の区別の判断基準について、有名な最高裁判決を確認しておきたいと思います。

    ある役務の提供が給与所得か事業所得かを判断するについては、消費税基本通達1-1-1を参考にしている先生も多いと思います。

    しかし、同通達は、「出来高払いの給与と請負による報酬」の区分に関する判断基準を示しているもので、総括的に給与所得と事業所得の区分に関する判断基準を示しているものではありません。

    同通達は、次のような表現となっています。

    ===================

    出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。

    ===================

    そして、請負契約を前提とした4要素が示されているわけです。

    したがって、これに当てはまらない場合には、給与所得と事業所得の区別の判断基準を示した最高裁判決の基準に照らして検討することになるかと思います。

    (最高裁昭和56年4月24日判決・弁護士顧問料事件)です。

    弁護士の顧問料が給与所得か事業所得かが争われた事案です。

    何度もお読みになった先生が多いかと思います。

    同判決では、事業所得は次の要素を持っているとされています。

    (1)自己の計算と危険
    (2)独立して営まれ
    (3)営利性、有償性を有し
    (4)反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務

    これに対し、給与所得は次の要素を持っているとされています。

    (1)指揮命令に服して労務提供
    (2)空間的、時間的な拘束
    (3)継続的ないし断続的に労務又は役務の提供

    そして、同判決では、弁護士の顧問料を事業所得としています。

    理由は、以下のとおりです。

    ===================

    (1)各顧問契約には勤務時間、勤務場所についての定めがない(時間的、空間的拘束の否定)

    (2)契約はその頃常時数社との間で締結されており、特定の会社の業務に定時専従する等格別の拘束を受けるものではない(指揮命令、時間的拘束の否定)

    (3)契約の実施状況は、多くの場合電話により、時には右各社の担当者が法律事務所を訪れて随時法律問題等につき相談するため、弁護士が出向くことはない(指揮命令、空間的拘束の否定)

    (4)相談回数は会社によつて異なり、月に二、三回というところや半年に一回、一年に一回というところもある(継続的、断続的労務提供、時間的拘束の否定)

    (5)各社はいずれも本件顧問料を弁護士の業務に関する報酬にあたるものとして支払っており、各種保険料などを控除しておらず賞与等も払っていないので、雇用契約と認識していない。(当事者の認識)

    ===================

    消費税基本通達1-1-1も、この基準を請負契約に当てはめたものと考えられます。

    (1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。(時間的・空間的拘束の有無、独立性の有無))

    (2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。(指揮命令)

    (3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。(自己の計算と危険の有無、継続的役務提供の対価)

    (4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。(自己の計算と危険の有無、独立性の有無)

    したがって、通達で当てはまらない場合には、最高裁判決に立ち戻って判断するのがよいと思います。

  • 脱税の量刑ファイル

    2020年08月12日

    以下は、参考までに、過去の実際の事件の量刑です。

    脱税事件:量刑ファイル001

    事件の概要

    舞台となったのは、レース用自動車やバイクの部品開発で知られる会社の社長(75)が元監査役と共謀し、2000(平成12)年10月期までの3年間に会社の所得約28億円を隠し、約10億円を脱税したとして、2011(平成23)年、法人税法違反罪で社長に懲役2年、法人に罰金2億4000万円が最高裁で確定していた。

    2017(平成29)年4月、男性は有罪判決を不服として、東京高裁に再審請求を申し立てた。(会社も同日、さいたま地裁に再審請求)

    男性は再審請求書で、「隠したとされた所得は元監査役が会社から不正に引き出したもので、自分はまったく知らなかった」と主張し、元監査役の資金流用が認められた民事訴訟の資料を新証拠として提出した。(元監査役は二審判決で懲役3年)

    判決

    法人税法違反
    脱税額:約10億円
    社長:懲役2年
    監査役:懲役3年
    会社:罰金2億4000万円

    脱税事件:量刑ファイル002

    事件の概要

    葬儀会社2社の元実質経営者が、2011(平成23)年の各決算期までの3年間に、架空経費の計上などで計約3億8000万円の所得を隠し、法人税計約1億1000万円を免れたとして法人税法違反罪に問われた。東京地裁は2016年6月、被告の男(65)に対し、懲役1年6月、執行猶予4年、罰金1700万円(求刑懲役1年6月、罰金2千万円)、法人としての2社には、罰金計1050万円(求刑同1200万円)を言い渡した。

    被告は、1980年代に流行したキャラクター「なめ猫」の発案者で、裁判長は判決理由の朗読後、「いくら才覚があっても、ルールを守らなければビジネスマンとしては失格です。ルールをなめてはいけません」と説諭した。

    判決

    法人税法違反
    脱税額:約1億1000万円
    社長:懲役1年6月、執行猶予5年、罰金2000万円
    会社(2社):罰金計1050万円

    脱税事件:量刑ファイル003

    事件の概要

    脱税に協力してもらう謝礼として大阪国税局職員に現金を渡したなどとして、贈賄や法人税法違反などの罪に問われた同局OBの元税理士で被告の男(63)の判決公判が大阪地裁で開かれた。

    裁判所は、「税理士としての知識を悪用し、脱税工作を主導した」として懲役6年、罰金7000万円(求刑懲役8年、罰金1億円)を言い渡した。

    事件が起きたのは2011(平成23)年9月。

    顧問先の税務調査の日程を教わるなどした見返りに元国税局職員の被告の男(45歳・加重収賄罪などで1、2審有罪、上告中)に120万円を渡したほか、顧問先の脱税を指南するなどした。

    被告側は公判で、贈賄について「謝礼として金を渡したことはない」と無罪を主張したが、裁判長は捜査段階で収賄を認めた元国税局職員の供述を「具体的で信用できる」と判断し、贈賄罪の成立を認めた。

    裁判長は、顧問先に指南するなどして脱税した額は計約2億7千万円に上るとし、「税務行政の公正、社会の信頼を著しく害した」と非難した。

    量刑

    法人税法違反
    脱税額:約2億7000万円
    税理士:懲役6年、罰金7000万円

    脱税事件:量刑ファイル004

    事件の概要

    「ハンドパワーで病気の痛みを取る」と称して資金を集めていたセミナー企画会社(福岡県)の脱税事件で、福岡地裁は法人税法違反などに問われた元社長の女(66)に対し、懲役2年(求刑・懲役3年6月)の実刑判決を言い渡した。

    共犯に問われた前社長の男(60)には懲役1年8月(求刑・懲役2年6月)、元役員の女(50)には同1年4月(同・懲役2年)、法人としての同社には罰金1億5000万円(同・罰金2億6000万円)を、それぞれ言い渡した。

    被告3人は、2008(平成20)年2月期~2010(平成22)年2月期の3年間で、売り上げの一部を除外し、経費を水増し請求するなどして約27億円の同社の所得を隠し、約8億円の法人税を脱税したなどとして起訴されていた。

    量刑

    法人税法違反
    脱税額:約8億円
    元社長:懲役2年
    前社長:懲役1年8月
    元役員:懲役1年4月
    会社:罰金1億5000万円

    脱税事件:量刑ファイル005

    事件の概要

    2010(平成22)年5月~2012(平成24)年12月にかけて、キャバクラなどの飲食店グループの従業員らの給与から源泉徴収した所得税約3億6900万円を脱税し、2010年と2011年分の消費税と地方消費税計約4千万円も脱税したとして、経営者の妻が所得税法違反や消費税法違反などの罪に問われた。

    福岡地裁は2017年3月、被告(70)に対して懲役3年、執行猶予5年、罰金2千万円(求刑懲役5年、罰金1億3600万円)の判決を言い渡した。

    裁判所は、「被告はグループ全体の金銭管理を統括し、経営者の夫に協力してグループにとって自由になる金を留保し、他の使途に流用する犯行に及んだ。

    脱税額は高額で、厳しい非難に値する」と指摘。 一方、脱税した約4億円を完納し、関与を認めて反省している点を考慮し、懲役刑の執行を猶予した。

    量刑

    所得税法、消費税法違反
    脱税額:所得税約3億6000万円、消費税約4000万円
    経営者の妻:懲役3年、執行猶予5年、罰金2000万円
    (完納済み)

    脱税事件:量刑ファイル006

    事件の概要

    2017年5月、東京地裁は、印税収入を隠すなどして約2600万円を脱税したとして、所得税法違反の罪に問われた著述業の男(59)に、懲役1年、執行猶予4年、罰金600万円(求刑懲役1年、罰金800万円)の判決を言い渡した。

    裁判所は、「個人の脱税として軽視できない規模。長期間、巧妙に秘匿工作をしており悪質だ」と述べ、離婚に備えて資金を残したかったとする被告の動機は「納税しない理由になり得ない」と指摘した。

    判決によると、2011(平成23)年~2013(平成25)年、印税を米国の銀行口座に入金させて隠すなどして、所得税計約2600万円を免れた。

    被告は、NHK教育テレビ(現Eテレ)の英会話番組に講師として出演していたほか、多くの著書がある。

    量刑

    所得税法違反
    脱税額:約2600万円
    個人:懲役1年、執行猶予4年、罰金600万円

    脱税事件:量刑ファイル007

    事件の概要

    元社長は2004(平成16)年に約22億円を脱税したとして逮捕、起訴され、2008(平成20)年に懲役4年の判決が確定していた。

    法人にも罰金6億円が言い渡され、その後、会社は清算した。

    量刑

    元社長:懲役4年
    会社:罰金6億円

    脱税事件:量刑ファイル008

    事件の概要

    2015年7月、東京地裁は、いわゆる霊感商法で得た収入を少なく申告するなどして所得税を免れたとして所得税法違反罪に問われた会社員の男(35)に対し、「納税に対する規範意識の低さは強く非難されるべきだ」として、懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円(求刑懲役1年、罰金1800万円)を言い渡した。

    被告は起訴事実を認めており、裁判官は「本税や延滞税を納付し、加算税についても今後納付していくと述べており、反省もしている」として執行猶予とした。

    判決によると、被告は実際の所得金額の一部しか申告しない「つまみ申告」の手口などで、2011(平成23)年と2012(平成24年)の個人所得計約1億6500万円を隠したとしている。

    量刑

    所得税法違反
    脱税額:不明。所得隠し約1億6500万円
    個人:懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円
    (完納済み)

    脱税事件:量刑ファイル009

    事件の概要

    さいたま地裁は2015年6月、低額宿泊所の入居者から生活保護費を搾取する、いわゆる「貧困ビジネス」で得た所得から約6184万円を脱税したとして、所得税法違反罪に問われた宿泊所運営者で元機械製造会社社長の男(73)に対し、懲役1年6月、執行猶予3年、罰金1500万円(求刑・懲役1年6月、罰金2000万円)を言い渡した。

    裁判長は、「被告の脱税率が99%を上回り、国の課税権を著しく侵害している」と指摘したが、前科がなく事実関係を争わずに反省していることなどを執行猶予の理由とした。

    判決などによると、被告は2009(平成21)年~2010(平成22)年に宿泊所の運営による所得が計約1億6900万円あったにもかかわらず、その大半を知人や親族名義の複数口座に預金するなどして隠し、所得税計約6184万円を免れたとしている。

    量刑

    所得税法違反
    脱税額:約6184万円
    個人:懲役1年6月、執行猶予3年、罰金1500万円

    脱税事件:量刑ファイル010

    事件の概要

    大阪地裁は2017年1月、和歌山県の社会福祉法人への寄付を装い、相続税約4億9000万円を脱税したとして相続税法違反罪などに問われた元税理士の男(64)に対し、「遺言書を偽造するなど犯行は計画的で悪質」として、懲役3年、執行猶予4年、罰金800万円(求刑懲役3年、罰金1000万円)を言い渡した。

    また、大阪地裁は2017年5月、共謀した和歌山県議の男(58)に対し、「立場と人脈を利用して寄付を受け入れさせ、脱税に重要な役割を果たした」として、懲役1年6月、執行猶予3年、罰金500万円(求刑・懲役1年6月、罰金500万円)を言い渡した。

    被告は、「正当な寄付だと考えていた」と無罪を主張したが、裁判長は「相続税対策と知った上で協力した」と指摘し、報酬として計900万円を受け取ったと認定した。

    判決によると、この事件は、元税理士の男や和歌山県議の男が、死亡した兄の遺産を相続した男(73歳・相続税法違反罪などで起訴、控訴中)ら5人と共謀して、2014(平成26)年9月、約10億5000万円の遺産のうち約8億5千万円を和歌山県日高川町の社会福祉法人に寄付したように装い、相続税約4億9千万円を不正に免れたというもの。

    量刑

    相続税法違反
    脱税額:約4億9000万円
    元税理士:懲役3年、執行猶予4年、罰金800万円
    和歌山県議:懲役1年6月、執行猶予3年、罰金500万円

    脱税で告発された時の弁護士へのご相談は、こちらから。⇒脱税の弁護士相談

  • コロナ禍で役員報酬減額⇒増額は許される?

    2020年06月30日

    今回は、コロナの影響で期中で役員報酬を減額したものの、業績が回復したために同期中に増額することは許されるか、という論点を検討したいと思います。

    まずは、減額です。

    この点については、4月13日付で、国税庁から情報が追加されております。

    新型コロナウイルスの影響で期中に役員報酬を減額した場合に業績悪化改定事由に該当する場合が記載されております。

    解釈としては、従前と変わるところはなく、客観的な状況が要求されております。

    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

    法令、通達上の要件としては、以下のとおりです。
    ===================

    法人税法施行令69条1項1号ハ

    ⅲ 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これ
    に類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与
    の額を減額した改定に限り、ⅰ及びⅱに掲げる改定を除きます。)

    ===================

    法人税基本通達

    9-2-13 令第69条第1項第1号ハ《定期同額給与の範囲等》に規定する「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する。

    ===================

    ここの記載にあるように、

    ・一時的な資金繰りの都合

    ・単に業績目標値に達しない

    場合は、業績悪化に該当しない、ということに注意が必要です。

    客観的に業績が悪化していないのに、「コロナの不安から」というだけで、実際にも業績が悪化していないのであれば、「客観的事情」がなく、利益操作との認定がされる恐れがあると思います。

    そして、この問題が問われるのは、後日の税務調査時になりますので、「業績が悪化したことを示す客観的資料」を残しておくことが重要ということになります。

    次に、増額。

    この後、業績が回復した場合に、役員給与を元の金額に増額するのは、どうか、という点ですが、もう一度法令上の要件を確認します。

    https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf

    から抜粋。

    ===================

    (1) その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法法 34(1)一)

    (2) 定期給与で、次に掲げる改定がされた場合において、当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの(法令 69(1)一)

    ⅰ 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定(法令 69(1)一イ)

    ⅱ 当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務
    の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)により
    されたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(ⅰに掲げる改定を除きます。)(法令
    69(1)一ロ)

    ⅲ 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これ
    に類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与
    の額を減額した改定に限り、ⅰ及びⅱに掲げる改定を除きます。)(法令 69(1)一ハ)
    (3) 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法令 69(1)二)

    ===================

    以下は、私見です。

    期中に減額した後、同期中にまた増額して元に戻すことが許されるのは、上記(2)のⅱの属人的事情の場合と解されます。

    つまり、職務内容の重大な変更などの

    ●属人的事情により減額⇒属人的事情により増額

    は、認められる余地があります。

    たとえば、業務担当役員が、

    (1)コロナによる休業により職務がなくな

    って減額

    (2)宣言解除により職務が復活して増額

    というような場合です。

    しかし、業績悪化は、上記(2)のⅲでは、「減額した改定に限り」とされていますので、増額した改定については、除外されております。

    したがって、

    ●業績悪化により減額

    認められますが、

    ●業績悪化により減額⇒業績回復により増額

    は、今後、法令・通達等が改正されない限り、認められないと考えます。

    利益操作の余地を残してしまうためです。

    この場合、減額された役員報酬額が定期同額給与額になり、それを超える部分が損金不算入になります。

    一旦減額してしまったものの、どうしても増額したい場合は、決算期を前倒しする、という方法もありますので、ご検討ください。

  • 「遺言によらない遺産分割」の法的理解と税務的理解

    2020年05月30日

    今回は、「遺言によらない遺産分割」の法的理解と税務上の実務運用の相違点について解説をします。

    まずは、法的理解からです。

    遺言は、被相続人の死亡により、ただちにその効力を生じます。

    たとえば、「土地建物を長男Aに相続させる」と記載があれば、被相続人の死亡によってただちに相続の効力が生ずる、ということです。

    遺贈であれば個別に放棄できますが、上記の遺言の場合、遺言の効力を生じさせないためには、相続放棄をし、はじめから相続人でなかったことにします。

    しかし、実務では、法定相続人全員で協議し、相続放棄をすることなく、「遺言によらない遺産分割」をすることがあります。

    これを法的に理解するとどうなるか、というと、

    ・遺言は被相続人の死亡によりただちに効力を生ずる

    ・効力を生じさせないためには、相続放棄

    ということになりますから、「遺言によらない遺産分割」の場合には、相続放棄をしないわけですから、すでに遺言の効力が生じていることになります。

    上記の例で言えば、被相続人の死亡により、遺言の効力が生じ、土地建物が長男に相続された、ということです。

    そして、その後、法定相続人間の協議により、贈与や交換、売買等がなされた、という理解になります。

    しかし、この理解を税務の実務に適用してしまうと、

    ・遺言どおりに相続税を課税

    ・遺産分割により贈与税、所得税などを課税

    となり、納税者の負担が大きいことになります。

    また、実態として、担税力は1度しか生じていないのに、2度課税をする、ということにもなりかねません。

    そこで、税務上は、この場合に1度の課税になるように解釈運用されています。

    国税庁Q&Aでは、次のようにされています。

    文言としては「遺贈」ですが、「相続させる」旨の特定財産承継遺言でも、実務では同様の扱いだと思います。

    =================

    No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税

    特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。

    なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。

    ===================

    この「遺言によらない遺産分割」と異なるものに、「遺産分割のやり直し」があります。

    いったん遺産分割が成立した後に、その遺産分割協議を合意解除して、再分割をする、という方法です。

    これも法律上は可能ですが、このケースでは、当初の遺産分割に錯誤が認められない限り、当初の遺産分割で相続税が課税され、2回目の遺産分割で贈与税や所得税が課税されるというのが理論的帰結となりますので、注意したいところです。

  • 所得税確定申告期限延長の法的根拠

    2020年03月18日

    現在所得税等の確定申告期限や納期限が延長されています。

    なぜ、国税庁の権限で、申告期限や納付期限の延長などができるのでしょうか?

    この延長の根拠には、もちろん、法律上の根拠があります。

    まず、所得税については、所得税法第120条により、3月15日が申告期限となっております。

    今回の期限延長は、国税通則法第11条に基づく措置と思われます。

    国税通則法第11条

    国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から二月以内に限り、当該期限を延長することができる。

    この規定に基づき、国税通則法施行令に次のような規定があります。

    国税通則法施行令3条2項

    国税庁長官は、災害その他やむを得ない理由により、法第十一条に規定する期限までに同条に規定する行為をすべき者・・・であつて当該期限までに当該行為のうち特定の税目に係る国税に関する法律又は情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律・・第六条第一項(電子情報処理組織による申請等)の規定により電子情報処理組織を使用して行う申告その他の特定の税目に係る特定の行為をすることができないと認める者・・・が多数に上ると認める場合には、対象者の範囲及び期日を指定して当該期限を延長するものとする。

    この規定に基づき、令和2年3月6日付けの官報で、次のように告示されました。

    国税通則法施行令第3条第2項の規定に基づき、次の掲げる法令の規定・・・に基づき税務署長に対して申告、申請、請求、届出その他書類の提出又は納付(その期限が令和2年2月27日から同年4月15日までの間に到来するものに限る。)をすべき個人が行うこれらの行為については、その期限を同月16日とする。

    一 所得税法その他の所得税(復興特別所得税を含むものとし、源泉徴収による所得税及び復興特別所得税を除く。)に関する法令の規定(調書の提出に関する規定を除く。)

    二 相続税法その他の贈与税に関する法令の規定のうち贈与税に係る部分(調書の提出に関する規定を除く。)

    三 消費税法その他の消費税に関する法令の規定

    四 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第5条第1項及び第6条の2第1項の規定

    これに基づき延長されているのが、以下の手続です。

    国税庁ホームページ
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kansensho/tetsuzuki.htm

    法律上の根拠がわかると、公表されていない事項の疑問の答えもわかってきます。

    課税庁からの「更正」の期限は、延長されるでしょうか?

    更正の期限については、上記のような延長規定はありません。

    上記官報での告示でも、「個人が行うこれらの行為」とされています。

    当然のことながら、本日現在、国税庁のホームページにおいても、更正の期限が延長された旨のお知らせはありません。

    したがって、更正の期限は延長されない、と考えます。

    次に、徴収権の消滅時効については、どうでしょうか?

    国税の徴収権の消滅時効は、原則として、「法定納期限から5年」です。(国税通則法73条)

    消滅時効は、「権利を行使することができる時」から起算されます。

    したがって、国税通則法11条により法定納期限が延長され、その間は徴収権を行使できないので、5年後の消滅時効もズレることになります。

    ただし、今から5年前の法定納期限にかかる消滅時効期間は延長されません。