相談 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 4
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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  • 酒の席での口約束に効力はあるのか?

    2014年12月26日

    年末年始は、何かとお酒を飲む機会が増えるものです。

    酔った勢いで気が大きくなって、ついつい大風呂敷を広げてしまった…、安請け合いをして、あとから後悔するハメに…そんな経験をした人もいるのではないでしょうか。

    今回は、お酒に酔って仕事の契約をしてしまったらしい方からのご相談です。

    Q)食品会社を経営する者です。先日、ある取引先の社長、専務と飲み会をしました。その席に、私は初めてお会いした別会社の社長Aさんと営業部長Bさんがいました。みなさん、お酒が好きで私もついつい飲みすぎました。後日、そのAさんから電話があり、「先日の案件について契約を結びたい」といいます。どうやら、お酒の席で契約の約束をしたようなのですが、私はその場のノリで応えたつもりでした。取引先の社長に確認すると、Aさんは本気らしいといいます。まさか…いや、本気ならば困ったことに…。酒の席での口約束に効力はないですよね? 法律的にどうなのか教えてください。

    A)法律上は口約束でも契約は成立します。契約書がなければ契約の効力はない、というわけではないのです。ただし、訴訟となった場合には、①口約束の内容に契約書に相当するような具体性があるか、②契約内容について双方が合意しているか、③それらを、訴えを起こした側がきちんと証明できるか、が争点となってきます。
    【契約とは】
    法人を含む人と人との間で、何らかの私法上の効果を生じさせる(権利義務を発生させる)合意のことを「契約」といいます。

    たとえば、ある物を「売りたい人」と「買いたい人」との間で意思表示が合致すれば、売主はその物を引き渡す義務と、代金を請求できる権利を取得します。
    一方、買主は代金を支払う義務と、物を請求できる権利を取得するという私法上の効果が生じます。

    また、当事者間で意思表示の合致があれば、契約の内容も当事者間で自由に決めることができるのが原則です。
    これを、「契約自由の原則」といいます。

    契約は、基本的には当事者がお互いに納得していれば(意思表示が合致していれば)、契約書がなくても成立しますし、内容も自由に決定できるのです。

    ただ、事はそう簡単ではありません。

    【裁判における立証責任とは】
    裁判では、原則として訴えを起こした側に立証責任があります。

    ご相談のケースでは、仮に相手の社長Aさんが民事訴訟を起こした場合、飲み会で口約束した契約の内容をAさんが具体的に証明する必要があります。

    「言った」「言わない」の論争になるでしょう。

    また、酒席で、「売ります」「買います」と言ったことを立証できたとしても、それだけで契約が成立した、と認定されることは少ないでしょう。

    当事者の意思解釈としては、「売るつもりがあるので、別途打ち合わせしましょう」「買うつもりがあるので、別途打ち合わせしましょう」という趣旨であるとされるのが一般的でしょう。

    どうしても、酒席で契約を成立させたかったら、その場で、契約書を作成し、契約書の末尾に「酒席での契約ではあるが、双方細部まで確認し、真に契約を成立させる合意をした」旨記載しておくべきでしょう。
    また、その場に第三者がいる場合には、「双方契約の意思を確認しました」と、立会人として署名捺印をもらっておくとよいでしょう。

    法律の建前と現実は、異なる、ということです。

    ですから、「法律ではこうなっているよ」と言っても、現実には役に立たないこともありますので、注意が必要ですね。

    【契約書の重要性】
    契約書の作成は契約の成立要件ではありませんが、口約束ではあとから「そんな契約はしていない」、「契約の内容が違う」などと言われ紛争になる可能性があります。
    そうした紛争を未然に防ぐためにも、やはり契約書を作成するべきです。

    近年は、取引内容が複雑化している傾向があります。
    契約書に、きちんと契約内容を整理して明確化しておくことが、取引関係を良好に維持していく上で非常に重要となってきています。

    また、日本でも紛争解決の手段として裁判を起こすケースが増えてきましたが、裁判で重要な証拠となるのが契約書、覚書、合意書等の書面なのです。

    いずれにせよ、今回のケースでは相談者の方は社長Aさんに対し、酒の席での非礼をお詫びして理解してもらうのがよいでしょう。
    その上で、新たな商談など進めていければ、いい関係が築けるかもしれません。

    それでも、紛争に発展するような場合は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

    相談はこちらから⇒「顧問弁護士相談SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/
    「酒と人間とは、絶えず戦い絶えず和解している
    仲のよい2人の闘士のような感じがする。
    負けたほうが勝ったほうを抱擁する」
    (シャルル・ボードレール/フランスの詩人・評論家)

  • 不倫で訴えられたら?

    2014年12月22日

    ★不倫の損害賠償を請求されたら?

    世の中、不倫の話をよく聞きます。

    不倫をする人は、相手の配偶者から損害賠償請求をされることをご存じなのでしょうか?

    相手の配偶者から内証証明郵便が来た段階で、ご相談にいらっしゃいます。

    言い分は色々あるでしょうが、訴えられた人の戦い方にはパターンがあります。

    不倫による損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。

    要件は、

    ・故意または過失があること
    ・相手に損害があること
    ・違法性があること
    ・行為と損害との間に因果関係があること

    などです。

    そこで、この要件を切り崩してゆけるかどうか、検討することになります。

    【故意または過失がないこと】

    これは、

    「結婚しているとはしらなかった」
    「婚姻関係が完全に破綻していると聞いていた」

    などと言うものです。不倫していた人が騙されたような場合ですね。

    そう信じたことに過失がない場合で、主観面を重視しますが、客観的に立証しなければなりません。
    【相手に損害がないこと】

    これは、不倫相手の夫婦間の婚姻関係が破綻しているため、相手に精神的損害がない、と主張するものです。

    客観面を重視します。

    大きくは、上記2つで対応することになります。

    証拠が命です。

    上記戦略が取れないときは、なんとか和解で解決するよう交渉することになります。

    逆に、不倫をされた配偶者の方が損害賠償する時も、上記2つの主張をされないよう、証拠を固めておく必要があります。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 詐害行為取消訴訟を起こされたら?

    2014年12月21日

    債務超過にある会社または個人が、財産を贈与など流出させた後、突然裁判所から訴状が届く場合があります。

    訴状を見ると、「詐害行為取消」などと見慣れない言葉が書いてあります。

    「詐害行為取消権」(サガイコウイトリケシケン)とは、債務者が、債権者に弁済できないことを知ってした贈与などの法律行為の取消を裁判所に請求できる権利です。民法第424条に定められています。

    たとえば、債務超過にある会社の社長が、銀行に連帯保証していることから、「自宅だけは守りたい」と考えて、自宅の所有権を妻に贈与したような場合です。

    このようなことをすると、会社の債権者である信用保証協会などから、詐害行為取消訴訟を起こされ、自宅の所有権を社長に戻すよう請求されます。

    この時訴えられるのは、社長と妻です。

    そして、訴訟に先立って、自宅の所有権を、また第三者に変えられないように、「処分禁止の仮処分」がなされることが多いでしょう。
    詐害行為取消権の要件は、次のとおり。

    (1)その行為によって、債権者に支払う原資となる債務者の総財産が減少して、その結果、債権者に全額弁済ができなくなってしまうこと。

    (2)その行為が債権者を害することを、債務者も、転得者(上述の例での妻)も知っていたこと。

    したがって、贈与などをしたとしても、残りの財産で、債権者に対して、債務全額の弁済をできるような場合には詐害行為にはなりません。

    また、善意の第三者の譲渡したような場合には詐害行為にはなりません。
    ということは、詐害行為取消訴訟を起こされた時の防御法としては、次の点を検討することになります。

    (1)客観的に債務超過状態と言えるのか
    (2)債務者本人は、その行為によって債権者を害することを知っていたのか
    (3)転得者(上述の例での妻)は、その行為によって債権者を害することを知っていたのか

    このあたりの事情により、徹底的に争うのか、あるいは、和解を狙っていくのか、が決まってきます。

    訴訟の見通しと戦略が重要だと言えるでしょう。

    ご相談は、こちら。
    http://www.sai-sei.biz/consult/

  • 既婚男性との別れ~慰謝料請求するか、されるか!?

    2014年12月21日

    11月に亡くなった俳優の高倉健さんの代表作のひとつ、映画『駅 STATION』(1981年)に、こんなシーンがあります。

    暮れも押し迫った12月30日、帰省のために降り立った北の町のある居酒屋に、健さん演じる英次がふらりと立ち寄ります。
    明るさの中にも、不幸の影を持つ女将を演じるのは倍賞千恵子さん。

    2人で熱燗を飲みながら、倍賞さん演じる桐子がこんなことを言います。
    「水商売やってる子にはね、暮れから正月にかけて自殺する子が多いの。なぜだかわかる? 男が家庭に帰るからよ。どんな遊び人の男でも、正月くらいは自分の家にいる。そんなとき、独り身の寂しさをしみじみ感じるのよ」

    脚本は、ドラマ『北の国から』で有名な倉本聰さん。
    実際のところは分かりませんが、倉本さんが札幌の飲み屋でホステスから聞いた話を元にしたそうです。

    古今東西、男と女の問題は後を絶ちません。

    今回は、別れ話をしてきた男性への慰謝料請求のご相談です。

    Q)妻子のあることをわかっていて、ある男性を好きになり、4年間いっしょに暮らしました。「妻とは離婚するから、結婚しよう」と言われ信じていたのですが、私が妊娠すると手のひらを返したように別れ話を切り出してきました。慰謝料の請求をしたいのですが可能でしょうか?

    A)ただ、つき合っていたというだけでは慰謝料請求は認められません。

    反対に、男性の妻から、不貞行為を理由とする慰謝料請求をされる可能性があります。

    しかし、事実婚(内縁関係)として長期にわたり同棲していた、妊娠したということなので、男性に対して「不法行為」や「貞操侵害」を理由とした慰謝料請求が認められる可能性があります。
    【事実婚とは】
    法が定める婚姻届の手続きをしていないため入籍はしていないが、長期間の同棲など事実上の夫婦と変わりない生活を送っていることを事実婚といいます。
    また、内縁関係ともいいます。

    法律的には、内縁関係は「婚姻に準ずる関係」として保護されています。
    しかし、正式な夫婦に認められるものでも保護されないものもあります。

    たとえば、財産などの相続権は認められませんし、子供を嫡出子として届け出ることもできません。

    ちなみに、同棲は一時的な男女の共同生活に過ぎないとみなされることから、内縁関係のような権利義務は発生しません。

    また、原則、内縁で夫婦関係を結んでいたとしても、男性に妻子があることを女性が知っていた場合は「不倫関係」となり、女性の貞操侵害を理由とした慰謝料請求は認められません。

    ただし、男性の違法性が著しく大きい場合には認められるケースがあります。
    【判例】
    妻子のある上司の男性が、19歳の異性経験のない女性につけこみ、嘘をついて肉体関係を持ち、妻とは離婚して女性と結婚すると言って妊娠させ、出産後に一方的に別れた事案。
    最高裁は、男性側の違法性が著しく大きい場合は、女性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求は認められる、とした。
    (最高裁判決 昭和44年9月26日 判例時報573-60)
    27歳の男性が、妻子がいるにもかかわらず19歳の女性に対し「妻とは別れる」と言い妊娠させ、いっしょに暮らし始めたものの子供が生まれた後、別れた事案。
    女性は男性に対し、2,000万円以上の慰謝料を請求したところ、裁判所は男性が与えた精神的は苦痛大きいとしたものの、女性は男性に妻子があることを交際したのであって、女性にも責任があることは否定できない、として300万円の慰謝料を認めた。
    (京都地裁判決 平成4年10月27日 判例タイムズ804号156頁)

    今回の相談者の場合も、まず相手との示談交渉を行い、合意に至らない場合は、裁判をするという手続きになるでしょう。

    当事者同士の話し合いがまとまらない、または手続きが難しいようであれば弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

    「20歳の顔は自然から授かったもの。
    30歳の顔は自分の生き様。
    だけど50歳の顔には、あなたの価値がにじみ出る」
    (ココ・シャネル/フランスのファッションデザイナー)

  • 遺言書で自分の取り分がなかったら?

    2014年12月21日

    ★遺言書で自分の取り分がなかったら?

    たとえば、親が亡くなって、相続が発生したと思ったら、遺言書が出てきて、自分以外の人に、全ての財産を相続させる、と書いてあったら、どうでしょうか?

    ショックですね。(>_<)

    自分の取り分がゼロになってしまいます。

    しかし、その場合でも、法律は、救済策を作っています。

    「遺留分」という制度です。

    遺留分というのは、遺言書でも取り上げることのできない、相続人の取り分のことなのです。

    たとえば、相続人が妻と長男、次男の3人だったとして、「妻に全ての財産を相続させる」という遺言書があるとします。

    その場合、長男と次男には、財産に対し、4分の1ずつの遺留分がありますので、妻から、その分を分けてもらうことができます。

    この遺留分は、一定の事実を知った後1年以内に請求しないと、権利が消滅してしまいますので、ご注意ください。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 社員の給料を下げられない?

    2014年12月15日

    ★社員の給料を下げられない場合とは?

    社員の給料最初、会社と社員の合意で定められます。

    その後は、会社の給与規定などに基づき変動してゆくのが通常です。

    社員の給料が上がる時にはトラブルは発生しませんが、社員の給料を下げようとした時は、労使トラブルが勃発します。

    会社が、社員の給料を下げたいと考える理由としては、会社の経営状況による場合や、社員自身が原因である場合など様々です。

    今回は、社員の給料を下げる場面として、

    ①経営難を理由として給料を下げる場合
    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合
    ③懲戒処分として減給をする場合

    に分けて説明したいと思います。

    ①経営難を理由として給料を下げる場合

    経営難を理由として社員全体の給料を下げる場合には、社員の同意なしには行えないのが原則です。

    労働条件を社員に不利益に変更するには、原則として社員の同意が必要となるためです。

    もっとも、会社が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、変更後の就業規則を社員に周知させ、かつ、その内容が下記要素から考えて合理的である場合には許されます。

    (1)社員の受ける不利益の程度
    (2)労働条件の変更の必要性
    (3)変更後の就業規則の内容の相当性
    (4)労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

    会社の存続自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況にあるときは、労働条件の変更による人件費抑制の必要性が極度に高い上、労働者の被る不利益という観点からみても、失職したときのことを思えばなお受忍すべきものと判断されます。

    そのような場合には、多数の労働者が反対している場合であっても、就業規則の変更により給料を下げることが許されるといえます。

    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合

    まず、年度ごとの人事考課等の結果として給料の額が減額することについては、あくまで賃金の計算方法に過ぎず、人事考課制度の枠内で行うのであれば、裁量権の濫用に当たらない限りは問題なく行うことができます。

    次に、人事権の行使として、成績不振を理由として、部長が社員に降格する場合や、部長が係長に下がる場合など、人事権に基づく役職や職位の降格の場合には、雇用契約の上で使用者の当然の権限として認められるものであり、人事権の濫用にあたらない限り問題なく行うことができるといえます。
    ③懲戒処分として給料を下げる場合

    まず、懲戒処分として減給をする場合には、懲戒処分の前提として、次の要件が必要です。

    (1)就業規則に懲戒処分の規定があること
    (2)就業規則が社員に周知されていること
    (3)就業規則で定められる懲戒事由に該当する行為があったこと
    (4)当該処分が労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること

    特に、減給は、労働者の生活への影響が大きいことから、十分な理由が必要となると考えるべきでしょう。

    さらに、減給処分が有効であったとしても、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えて減給をすることは法律上禁止されています。

    会社の側としては、もっと下げられるのではないかと考えられている方も多いと思いますので注意をしなければなりません。

    以上、社員の給料を下げる場面として3つに分けて説明をしてきました。

    どちらにしても、給料を下げることは、社員の生活に与える影響が大きく、後に紛争となるケースも少なくありませんので、専門家と相談をしながら慎重にすすめるとよいでしょう。

    労働相談は、こちら
    http://roudou-sos.jp/

  • 離婚と親権 その解決法は?

    2014年11月16日

    ダビデ王の息子で、古代イスラエル第3代目の王・ソロモンは、多くの知恵を持った賢者だったといわれています。

    旧約聖書には、古代イスラエルの最盛期を築き、神から知恵を授かったというソロモン王の逸話で、2人の母が子供を巡って争う裁判の話があります。

    これは後に、名奉行「大岡越前」として有名な江戸時代中期の幕臣・大名だった大岡忠相の逸話「子争い」にも影響を与えたという説があるようです。

    ある時、2人の女が1人の子供を連れてきて、互いが「自分が本当の母親だ」と主張します。
    そこで大岡越前は、「それぞれが子供の右腕と左腕を持って引っ張り、勝った方を実母とする」といいました。
    すると、子供が痛がって泣くので、1人の女が思わず手を放します。
    大岡越前は、手を離した女を実母とします。
    それは、「本当の親なら子供を思うものである。子供が痛がるのにそれでも腕を引っ張るのは本物の母親ではない」という理由でした。

    しかし、古今東西、子供を巡る親同士の争いは繰り返されているようです。
    今回は子供の親権をめぐる、ある主婦の方からの相談です。

    Q)43歳の主婦です。夫が不倫をしていることがわかったので、離婚したいと考えています。でも、子供とは絶対に離れたくないんです。今まで何度か言い争いになり、その度に夫は自分が子供の面倒をみると言います。子供を手放さずに離婚するには、どうしたらいいのでしょうか? 子供は15歳の女の子と11歳の男の子です。

    A)夫婦が協議のうえで離婚する時、未成年の子供がいる場合には夫と妻のどちらかが必ず「親権者」にならなければいけません。
    つまり、親権者を決めなければ離婚できないのです。

    しかし、夫婦間の協議で親権者を決められない場合があります。
    そのような場合には、家庭裁判所に離婚調停の申立てをし、その中で親権者についても話し合いをします。

    親権問題と離婚は切り離せないため、双方の協議で合意が得られない場合は、離婚調停から離婚訴訟へ移行し裁判所の判決を待つことになります。

    「離婚審判」という制度もありますが、ほとんど使われていません。

    【親権とは】
    未成年の子を教育、監護(保護や世話)して、子の財産管理をする親の権利と義務を親権といいます。

    親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行います。(民法第818条第1項)

    しかし、父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければなりません。(民法第819条第1項)

    裁判上の離婚の場合には、裁判所は父母の一方を親権者と定める判決をします。(民法第819条第2項)
    【監護権とは】
    原則として、親権者が未成年の子を引き取り養育します。
    しかし、父母が合意すれば親権者とは別に、未成年の子を引き取り養育する「監護者」を決めることもできます。(民法第766条第1項)

    法的にいうと、監護権には以下のものがあります。
    〇居所指定権(民法第821条)・・・子の住所の指定をする
    〇懲戒権(民法第822条)・・・子に対して懲戒、しつけをする
    〇職業許可権(民法第823条)・・・子の職業を親が許可する

    親権者を父、監護者を母というように分けて、父が財産の管理をして、母が監護者となって子供と同居するという選択もあるわけです。

    場合によっては、離婚協議で合意できないなら、親権を放棄して監護者となって子供との同居を優先したほうがいいケースもあります。

    しかし、親権者が別居したまま親権を行使できるのか、という問題や、就学などで意見が分かれた場合にどうするか、などトラブルが予想されますので、親権と監護権を分離するのはおすすめしません。
    【養育費とは】
    未成年の子供が社会人として自立するまでに必要な費用を「養育費」といいます。

    養育費は、父母が協議の上で分担しますが(民法第766条第1項)、基本的には子供を養育しない方の親が支払います。
    民法では、子の利益を最も優先して考慮しなければならない、としています。

    なお、協議により決定できない場合は、家庭裁判所が決定することになります。
    金額の決定には、裁判所で使われる「算定表」を基準にします。
    算定表は、裁判所のHPに掲載されています。
    【面会交流とは】
    別居している親が未成年の子供と会うことを「面会交流」といいます。

    以前、「面会交流」について解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「面会交流は成立しない!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1610

    いつ、どこで、どうように、どのくらいの回数・時間で会うのか、付き添いやお泊りはあるのかなど父母が話し合いで決めます。

    こちらも、民法では、子の利益を最も優先して考慮しなければならない、としています。
    しかし、子供を養育している方の親が一方の親に子供を会わせたがらない傾向が強く、問題にもなっています。

    子供に合わせてもらえない場合、面会交流を求めて家庭裁判所に調停の申立てをすることができます。
    調停では、子供の意向を尊重した取決めができるように話合いが進められていきますが、調停が成立しないケースが約4割あるのが現実です。
    【親権が認められる条件とは】
    親権を争う裁判になった場合、実際に子供と同居している親の方が親権者として認められる傾向はありますが、具体的には以下のような条件などを総合的に見ながら判断されます。

    〇子供の年齢・性別・発育状況
    〇親の経済力
    〇親の年齢・心身の健康状態による監護能力
    〇住居や学校などの環境
    〇子供自身の意思
    そもそも、子供をめぐる争いを話し合いで解決できるくらいなら、夫婦の仲も冷えて憎しみ合い、離婚することもなかったのかもしれません。

    しかし、親権者を決めることとは、親同士の感情的しこりやエゴを押しつけることではなく、子供の健全な成長や、これからの未来のために最善の道を選択することです。

    本当に子供のことを愛するなら、お互いが歩み寄ることも大切です。

    それでも、話し合いが上手くいかないようであれば弁護士などの専門家に相談するのもいいでしょう。
    「愛することとは、ほとんど信じることである」
    (ビクトル・ユーゴー/フランスの詩人・小説家)

    「母ほど自分を認め、信じてくれた人はいない。それなくしては、決して発明家としてやっていけなかった気がする」(エジソン)

  • 不倫相手にいくら慰謝料請求できるか?

    2014年10月16日

    弁護士をしていると、離婚や男女問題の相談を受けることがよくあります。
    そうした相談の中でも多いもののひとつに「慰謝料請求」があります。

    今回は、旦那さんの不倫に静かな怒りの炎を燃やすアラフォーの奥様からの相談です。

    Q)旦那が不倫をしています。相手は私より15歳若い会社の部下です。私は絶対に離婚しませんし、絶対に許しません。知人の離婚経験者から聞いたのですが、旦那の不倫相手から慰謝料を取ることができるんですか? そのためには裁判をしなければダメですか? もし裁判になったら、何が必要ですか? 現在、私は38歳、夫は43歳で結婚生活10年目、8歳と5歳の娘がいます。

    A)配偶者(相談者)がいることを知りながら、上司(相談者の夫)と不倫関係を持った相手の女性は、配偶者に対して不法行為責任を負います。
    よって、相談者は夫の不倫相手の女性に対して慰謝料請求することができます。
    【慰謝料とは】
    夫婦のどちらか一方が、他人と不貞行為(浮気や不倫など)を行った場合、貞操義務に違反する行為=不法行為となります。

    そうした不貞行為は、「民法」第770条(裁判上の離婚)の1により離婚の原因として認められます。

    そのため、不貞を働いた夫や妻に対して一方の配偶者は離婚を請求することができますし、「精神的苦痛」に対する損害賠償請求(慰謝料請求)をすることもできます。

    また、夫婦の一方と情交関係を結んだ者は、その残った方に対して共同で不法行為をしたことになり、不法行為責任を負うことになるため損害賠償の義務が生じます。(判例:最高裁判決 昭和34年11月26日 民集第13巻12号1562頁)

    これらの場合の損害賠償とは、不貞行為による「精神的苦痛」に対するものなので「慰謝料」となります。
    【慰謝料の算定】
    慰謝料を算定する際、以下のような事情を考慮して決定されます。
    ・被害者の社会的地位
    ・被害者の職業
    ・被害者の年齢
    ・婚姻期間
    ・子供の有無
    ・浮気の原因
    ・浮気の状況
    ・浮気の期間
    ・その結果、離婚したかどうか
    【裁判例の紹介】
    (その1)
    原告である妻X(55)は、夫である医師A(60)と結婚して35年。子供3人は全員が成人して独立していた。Aは自分の病院の看護師Yと不倫関係を始めたが、妻Xに見つかり、Yに手切れ金を渡して解雇して別れた。しかし、しばらくしてAとYの不倫関係が復活。Yが自殺未遂するなどした挙句、AとYは同棲を始めた。そのため、妻XはYに対して慰謝料約500万円を請求して裁判を起こした。裁判所は、XにもAとの夫婦生活を正常に戻す努力が足りなかったとして、Yに対しXへ慰謝料300万円の支払いを命じた。
    (高知地裁判決 昭和50年11月14日)
    (その2)
    妻である原告Xは、勤務していたデパートの同僚だった夫Aと結婚。2人の子供がいた。結婚4年目で、夫Aは会社の部下であるYと不倫関係を結んだ。期間は約半年間続いていた。そこで、XはYに対して慰謝料500万円の損害請求をした。裁判所は(1)夫Aが部下Yとの不倫関係を主導したこと、(2)不倫関係は清算済みで、関係解消という目的は達せられていたこと、(3)離婚には至らず、結婚生活を続けていること、(4)Yは勤務先を退職。一定の社会的制裁を受けていること、などから慰謝料は50万円に減額された。
    (東京地裁判決 平成4年12月10日)
    前述の事情などから慰謝料は決められますが、判例からもわかるように、その金額は一概には言えずケース・バイ・ケースです。

    現実的には、まず相談者は夫の不倫相手に損害賠償の内容証明郵便を送ることになります。

    その後、金額面で双方合意に至らなければ訴訟を起こし裁判となりますが、手続きなど煩雑で難しいため、弁護士に相談されるのがよいと思います。

    不倫は、つねに損害賠償の危険にさらされているものです。
    そうしたリスクを考えて行動することも大切ですね。

    今回は、結婚に関する次の言葉を紹介してお別れです。

    「三週間互いに研究しあい、三ヵ月間愛し合い、三年間喧嘩をし、三十年間我慢しあう。そして子供達が同じことをまた始める」
    (イポリット・テーヌ/フランスの哲学者)

    「結婚式の行進曲の音楽は、いつも私には戦闘に向かう兵隊の行進曲を思わせる」(ハイネ)