不倫相手にいくら慰謝料請求できるか?
弁護士をしていると、離婚や男女問題の相談を受けることがよくあります。
そうした相談の中でも多いもののひとつに「慰謝料請求」があります。
今回は、旦那さんの不倫に静かな怒りの炎を燃やすアラフォーの奥様からの相談です。
Q)旦那が不倫をしています。相手は私より15歳若い会社の部下です。私は絶対に離婚しませんし、絶対に許しません。知人の離婚経験者から聞いたのですが、旦那の不倫相手から慰謝料を取ることができるんですか? そのためには裁判をしなければダメですか? もし裁判になったら、何が必要ですか? 現在、私は38歳、夫は43歳で結婚生活10年目、8歳と5歳の娘がいます。
A)配偶者(相談者)がいることを知りながら、上司(相談者の夫)と不倫関係を持った相手の女性は、配偶者に対して不法行為責任を負います。
よって、相談者は夫の不倫相手の女性に対して慰謝料請求することができます。
【慰謝料とは】
夫婦のどちらか一方が、他人と不貞行為(浮気や不倫など)を行った場合、貞操義務に違反する行為=不法行為となります。
そうした不貞行為は、「民法」第770条(裁判上の離婚)の1により離婚の原因として認められます。
そのため、不貞を働いた夫や妻に対して一方の配偶者は離婚を請求することができますし、「精神的苦痛」に対する損害賠償請求(慰謝料請求)をすることもできます。
また、夫婦の一方と情交関係を結んだ者は、その残った方に対して共同で不法行為をしたことになり、不法行為責任を負うことになるため損害賠償の義務が生じます。(判例:最高裁判決 昭和34年11月26日 民集第13巻12号1562頁)
これらの場合の損害賠償とは、不貞行為による「精神的苦痛」に対するものなので「慰謝料」となります。
【慰謝料の算定】
慰謝料を算定する際、以下のような事情を考慮して決定されます。
・被害者の社会的地位
・被害者の職業
・被害者の年齢
・婚姻期間
・子供の有無
・浮気の原因
・浮気の状況
・浮気の期間
・その結果、離婚したかどうか
【裁判例の紹介】
(その1)
原告である妻X(55)は、夫である医師A(60)と結婚して35年。子供3人は全員が成人して独立していた。Aは自分の病院の看護師Yと不倫関係を始めたが、妻Xに見つかり、Yに手切れ金を渡して解雇して別れた。しかし、しばらくしてAとYの不倫関係が復活。Yが自殺未遂するなどした挙句、AとYは同棲を始めた。そのため、妻XはYに対して慰謝料約500万円を請求して裁判を起こした。裁判所は、XにもAとの夫婦生活を正常に戻す努力が足りなかったとして、Yに対しXへ慰謝料300万円の支払いを命じた。
(高知地裁判決 昭和50年11月14日)
(その2)
妻である原告Xは、勤務していたデパートの同僚だった夫Aと結婚。2人の子供がいた。結婚4年目で、夫Aは会社の部下であるYと不倫関係を結んだ。期間は約半年間続いていた。そこで、XはYに対して慰謝料500万円の損害請求をした。裁判所は(1)夫Aが部下Yとの不倫関係を主導したこと、(2)不倫関係は清算済みで、関係解消という目的は達せられていたこと、(3)離婚には至らず、結婚生活を続けていること、(4)Yは勤務先を退職。一定の社会的制裁を受けていること、などから慰謝料は50万円に減額された。
(東京地裁判決 平成4年12月10日)
前述の事情などから慰謝料は決められますが、判例からもわかるように、その金額は一概には言えずケース・バイ・ケースです。
現実的には、まず相談者は夫の不倫相手に損害賠償の内容証明郵便を送ることになります。
その後、金額面で双方合意に至らなければ訴訟を起こし裁判となりますが、手続きなど煩雑で難しいため、弁護士に相談されるのがよいと思います。
不倫は、つねに損害賠償の危険にさらされているものです。
そうしたリスクを考えて行動することも大切ですね。
今回は、結婚に関する次の言葉を紹介してお別れです。
「三週間互いに研究しあい、三ヵ月間愛し合い、三年間喧嘩をし、三十年間我慢しあう。そして子供達が同じことをまた始める」
(イポリット・テーヌ/フランスの哲学者)
「結婚式の行進曲の音楽は、いつも私には戦闘に向かう兵隊の行進曲を思わせる」(ハイネ)