相談 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 2
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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  • 未成年の子供が行った契約を解除することができる?

    2015年04月28日

    新年度が始まってから少し経ちました。

    希望に燃えて社会人生活をスタートした人もいるでしょう。
    残念ながら、すでに5月病? で会社に行きたくないという人もいるかもしれません。

    何事も、新しく始めるにはエネルギーが必要ですが、それが間違った方向に向かってしまうとトラブルの原因にもなってしまいます。

    今回は、勢い余って問題を起こしてしまった? 息子の親御さんからの相談です。
    一体、何をやらかしてしまったのでしょうか?
    Q)お恥ずかしい話なのですが…18歳の息子が私たち親に無断で、しかも年齢を誤魔化して自動車を買っていました。叱ったところ本人は反省していましたが、問題は自動車です。法的には、ディーラーに対して契約を取り消すことはできるのでしょうか?

    A)子供が親に無断で買った車の契約を解除したいということですが、基本的には取り消すことができます。
    しかし今回の場合、息子さんは年齢を誤魔化して相手方をだましています。
    このような場合、法的には「民法」第21条により、契約を取り消すことはできません。
    【未成年者と売買契約の関係とは?】
    近年、選挙権の18歳への引き下げ問題や民法改正などの報道がありますが、日本の法律上、18歳は未成年です。

    「民法」
    第4条(成年)
    年齢20歳をもって、成年とする。
    また、未成年者は原則として親の同意がなければ、物の売買や貸し借りなどはできません。

    第5条(未成年者の法律行為)
    1.未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
    法定代理人とは、法律により代理権を有することを定められた者のことですが、本人が未成年者の場合は親権者であり、原則は父母になります。(第818条)

    同意の内容は具体的なものでなくてもよく、今回のケースでは「車を買ってもいい」という親の同意で十分とされています。

    なお、旅費や学費などのように使い道が決められているものや、小遣いなどは親の同意はなくても使っていいということになっています。
    【未成年者の売買契約は取り消すことができる?】
    では、親の同意を得ないで行った子供の売買契約を取り消すことはできるでしょうか?

    民法の第5条の2項では次のように規定されています。

    2.前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

     

    全国の親御さんは安心してください、子供が無断で買った物、契約は取り消すことができます。
    仮に代金を支払っているなら返金請求ができます。

    なお、契約の取り消しができるのは本人と親で、その時効は5年です。(第126条)
    5年間、「取消権」を使わないと取り消すことができなくなりますので注意してください。

    ところが…今回のケースでは、すんなりと事が運ばない可能性があります。
    条文を見てみましょう。

    第21条(制限能力者の詐術)
    制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
    何やら1度読んだだけでは、よくわからないかもしれませんが、今回のケースに当てはめてみると以下のようになります。

    未成年の息子(制限行為能力者)が、自分は成年(行為能力者)であるとディーラーにうそをつき、だまして(詐術を用いて)契約したので、今回の自動車を購入した契約は、本人も親も取り消すことができない。

    実際、どのような状況だったのか相談内容からだけではわからないので詳しくは言えませんが、たとえば、偽造した免許証を提示するような行為は詐術になりますし、自分は20歳以上の成年だと言わなくても、言葉巧みに相手に誤信させて信じ込ませる言動をしていれば詐術とみなされる可能性があります。

    この法律には、人をだますような未成年者は法律で保護する必要はないとするのと同時に、相手方が契約を取り消されないための保護という観点もあります。

    人をだますことは、たとえ未成年者でも許されないということは親も子供も肝に銘じておきましょう。

    今回の件、最終的には先方と交渉してみないことにはどうなるかは何とも言えないところですが、法的な部分では弁護士などの専門家に相談することをお薦めします。

    ご相談はこちらから⇒ http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 遠隔操作アプリで逮捕!?夫が妻に犯した罪とは?

    2015年04月15日

    先日、妻に内緒であることをした夫が逮捕されるという事件が起きたようです。

    一体、どんなことをしたのでしょうか?

    「妻のスマホに無断で遠隔操作アプリ入れた35歳会社員を逮捕」(2015年4月9日 産経新聞)

    奈良県警は、妻のスマートフォンに遠隔操作アプリを無断でインストールし、遠隔操作ができる状態にしたとして、同県桜井市の会社員の男(35)を不正指令電磁的記録供用容疑で逮捕しました。

    報道によると、2014年7月、容疑者である夫が妻(当時30代)のスマートフォンに無断で遠隔操作アプリをインストール。

    その後、妻は何事もなく使用していたようですが、2015年3月に見覚えのないアプリがインストールされているのに気づき、「夫の仕業ではないか」と県警に相談して発覚。
    男は、「間違いない」と容疑を認めているということです。

    県警は、男がアプリを使ってどのような操作をしていたか調べるとしています。
    何が目的だったのか? 夫婦の関係はどうだったのか?
    報道内容からだけではわかりませんが、たとえ夫婦でも一線を越えれば犯罪となります。

    では、条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第168条の2(不正指令電磁的記録作成等)
    1.正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

    一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
    二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

    2.正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
    「不正指令電磁的記録供用罪」は、2011年の刑法改正で新設された犯罪類型です。

    簡単に言えば、正当な理由なしに、人のコンピュータ(電子計算機)に不正な指令を与えるウイルス(電磁気記録)などを入れる(インストール)と犯罪ですよ、ということです。

    今回の事件では、時代に即した形で、スマホに入れたアプリに適用したわけですが、じつはここ数年、こうした遠隔操作できるアプリを配偶者や恋人のスマホに無断でインストールする事件が増えているようです。

    もともとは合法の盗難防止アプリで、スマホを紛失したり盗難に遭ったときに、遠隔操作でカメラのレンズやスピーカーを使って場所を特定して探し出すというものです。
    それが違法に、しかも相手に無断で使われ、監視・盗撮などされるところに犯罪となる問題があるわけです。

    昨年、広島で起きた事件では、ある女性がスマホの動きが何かおかしい、知らないアプリの表示がついたり消えたりする、居場所を言っていないのに知人に知られていたということがあり警察に相談。

    その結果、元交際相手の男が、女性と会っていたときに席を外したすきに盗難防止アプリをインストールしていたことが判明。
    居場所を確認され、写真を撮られ、会話を録音されていたようです。

    もちろん、今回の事件では妻が同意しているのであれば問題はありませんが、子供ではないのですから同意する人もいないでしょう。
    (えぇ? そうしたプレイを楽しむ夫婦もいるとか、いないとか…)

    たとえ夫婦間でも、合法なアプリでも、悪意をもって無断でこっそりインストールすれば犯罪になるということは、しっかり理解してほしいと思います。

    ちなみに、配偶者や恋人のメールをこっそり見るのはどうでしょうか?
    詳しい解説はこちら⇒「アダムとイブと不正アクセス禁止法」
    https://taniharamakoto.com/archives/1326

    こちらも犯罪になる可能性がありますから注意してください。

  • リベンジポルノには新たな法律が適用されます!

    2015年03月19日

    今年の2月、福島県で元交際相手の女性の裸の写真をショッピングセンターの駐車場でばらまいたとして、会社員の男(33)がリベンジポルノ被害防止法で初逮捕という事件がありました。

    この数年で問題化してきたリベンジポルノは、元配偶者や元恋人への復讐目的で裸の画像や動画を投稿などする嫌がらせ行為のことですが、収まる気配はなく、また新たな逮捕者が出たようです。

    「ツイッターに裸写真…リベンジポルノ法違反容疑で男を再逮捕 ネットでの適用は全国初」(2015年3月11日 産経新聞)

    神奈川県警は、元交際相手の女性の裸の写真をインターネット上で公開したとして、鳥取県境港市の無職の男(39)をリベンジポルノ被害防止法で再逮捕しました。

    ネット上に画像をアップロードする行為としては、同法では全国初の検挙ということです。

    報道によると、今年1月、男は自らの簡易投稿サイト「ツイッター」に、元交際相手で専門学校生の女性(20)の裸の写真10枚を掲載。
    写真は平成24年7月から25年1月までの交際中などに撮影されたようです。

    2014年12月にも、男は写真1枚を掲載しており、友人に知らされた女性が今年1月に県警に相談したことで発覚。

    男は、「(別れた後に)彼女が返事しなくなり、恨みが募った」などと供述し、容疑を認めているようです。

    なお男は、すでに脅迫などの容疑で逮捕後に処分保留となっており、今回、神奈川県警が再逮捕したということです。
    【リベンジポルノ被害防止法とは?】

    リベンジポルノ被害防止法は、正式名称を「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」といいます。
    (なんと長い、26文字もあります!)

    この法律は2013年10月に発生した、三鷹ストーカー殺人事件をきっかけにリベンジポルノに対処するために、2014年11月、国会で成立しています。

    全部で6条からなるリベンジポルノ被害防止法の目的は、以下の通りです。

    私事性的画像記録の提供等により、私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって、個人の名誉及び私生活の平穏が侵害される被害の発生、又はその拡大を防止することを目的とする。(第1条)

    次に、「私事性的画像記録」とは、以下のような人の姿態が撮影されたものをいいます。
    1.性交又は性交類似行為に係る人の姿態
    2.他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
    3.衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
    (第2条)
    【どのような刑罰が科せられるのか?】
    今回の事件では、ツイッターに女性の裸の写真を投稿したということですから、「私事性的画像記録提供等」の罪に問われたということになります。

    第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、プライベートで撮影した画像を不特定、または多数の者に提供した場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第3条)

    以前の事件のときにはリベンジポルノ被害防止法が成立していなかったので罪に問うことができず、今回の事件では、発生が同法の施行直後だったため、脅迫など別の容疑を適用し、今回、時期を待って再逮捕ということになったのでしょう。

    ちなみに、脅迫罪は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金ですから、リベンジポルノ被害防止法の方が重い罪になるということです。

    新たな法律ができ、初の逮捕者が出たことによって、今後は取り締まりが厳しくなされていくでしょう。

    また、米Twitterは現地時間の3月11日、ユーザーポリシーの「Twitterルール」と「嫌がらせ行為に関するポリシー」を改定したということです。

    「撮影されている人物の同意なく撮影または配布された、私的な画像や動画を投稿することを禁じます。」という一文を追加し、リベンジポルノの禁止を明文化したようです。

    リベンジポルノに関しては、日本だけでなく世界的にも厳罰化に向かっています。

    スポーツや資格試験には、おおいにリベンジしても結構ですが、元交際相手にリベンジはいけません。

    世の男性諸氏は十分気をつけましょう。

    「善とは何か。後味の良いことだ。
    悪とは何か。後味の悪いことだ。」
    (アーネスト・ヘミングウェイ/アメリカのノーベル賞作家)

  • 営業秘密の漏洩で懲役5年+罰金300万円!

    2015年03月16日

    今回は、企業秘密の不正取得、情報漏洩に対する裁判の判決について解説します。

    裁判の流れは、不正を働いた者に対して厳しいものになってきているようです。

    「東芝データ漏洩、元技術者に懲役5年判決 “極めて悪質” 東京地裁」(2015年3月9日 日本経済新聞)

    東芝の半導体メモリーを巡るデータ漏洩事件の判決公判で、被告の男に懲役5年、罰金300万円が言い渡されました。

    被告は、提携先の米半導体メーカーの元技術者(53)。
    容疑は、不正競争防止法違反(営業秘密開示)の罪。

    判決によると、被告の男は2008年1~5月ごろ、東芝の四日市工場(三重県)で、同社の半導体メモリーの研究データを無断でUSBメモリーにコピー。

    韓国半導体大手「ハイニックス半導体(現・SKハイニックス)」に転職した後、2008年7月と2010年4月頃、同社の従業員にスライド映写したり、メールに添付したりして情報を開示したようです。

    被告は公判で、「東芝や米メーカーに多大な迷惑をかけて申し訳ない」などと謝罪し、起訴内容をおおむね認めていましたが、弁護側は「漏洩したのは最高レベルの機密ではなく、公知の情報も含まれていた」と主張し、執行猶予付きの判決を求めていたということです。

    裁判長は、「我が国の産業で重要な半導体分野の営業秘密を他国の競業他社に流出させ、社会に大きな衝撃を与えた」、「極めて悪質な営業秘密の開示。犯行によって東芝の競争力が相当程度低下した」、「転職先での地位を維持するために、自らの意思で情報を開示しており、刑事責任は重い」と非難。

    また、「競合他社が約330億円を支払うという和解が成立している点で、東芝の競争力が相当程度低下したことを裏付けるものだ」と指摘しました。

    なお、データ漏洩事件を巡っては、東芝がハイニックスを相手取り約1100億円の損害賠償を求めて提訴。
    2014年12月、東京地裁でハイニックスが2億7800万ドル(約330億円)を支払う内容で和解が成立しています。

     

    ところで、みなさんは今回の判決、重いと思うでしょうか? それとも軽いと感じるでしょうか?

    「会社の情報を持ち出しただけで、懲役5年+罰金300万円は重すぎる」
    「330億円もの損害賠償命令が出ている情報なのだから、被告の受ける罰は軽すぎるだろう」
    「会社に大きな損害を与えているのだから、もっと刑を重くするべきだ」
    「懲役5年の実感が湧かない…」

    さまざまな意見があると思います。

    今回は、企業の「営業秘密の開示」の罪ですが、過去の判例からみても、私は、懲役5年と罰金300万円は重い判決が下されたと思います。

    その背景には、この数年における企業の秘密漏洩事件の増加があるのだと思います。

    ・日産の企画情報が流出
    2014年5月に発覚。元社員が新型車の企画情報などを不正に取得。

    ・ベネッセで個人情報流出
    2014年7月に発覚。外部業者のSEが関与して、2070万件もの個人情報が流出。

    ・エディオンの営業秘密資料が流出
    ・2015年1月に元課長が逮捕。退職時などに不正に取得した営業秘密情報を転職先の企業に漏洩。

    これらの事件以外にも、2013年には中国のデータ共有サイト「百度文庫」で、トヨタやパナソニック、三菱電機などの内部資料が大量に流出していたことが発覚した例などもあります。

    こうした事態を受けて、政府は法人に対して、国内企業同士の秘密漏洩には罰金を最大5億円に引き上げるなど罰則を強化するほか、企業秘密を海外の企業が不正利用した場合は最大で10億円の罰金を科すなど、不正競争防止法の改正法案を2015年の通常国会で提出するとしています。

    「産業スパイ防止へ改正法案を閣議決定 罰金上限10億円など厳罰化」(2015年3月13日 産経新聞)

    法人だけでなく、企業秘密を不正に入手、流出させた個人には、懲役は現在の10年以下のままにするものの、国内の事件なら最大1000万円だった罰金を2000万円に、海外に漏らした場合には3000万円へ引き上げるとしています。

    その他にも、以下の内容などを盛り込んでいるようです。
    ・営業秘密の流出を、被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪」にする。
    ・未遂でも捜査をできるように取り締まり対象を広げる。
    ・日本企業が海外に持つサーバーの情報を盗む行為も処罰できるようにする。
    ・民事訴訟では、設計図などの物の生産方法をめぐる情報漏えいの場合に、被害企業の立証責任を軽くする。(情報漏洩の被害を受けた企業が盗んだ企業を相手取って起こす場合)
    企業秘密の漏洩に対して、法律は厳罰化の方向に向かっています。

    今、企業の危機管理への体制強化など、厳格で迅速な対応が求められています。

    主に3点の対策が必要です。

    ・物的対策(パソコンのセキュリティなど)
    ・ルールによる対策(書類保管庫への立入制限など)
    ・教育研修など人的対策

    今一度、社内の体制を見直してみてはいかがでしょうか。

    ご相談はこちらから⇒「顧問弁護士SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/about/

  • ネットに書き込むことは名誉を毀損することだ

    2015年03月12日

    恥は若者にとって名誉であり、老人には屈辱である。

    これは、紀元前の古代ギリシャの哲学者、アリストテレスの言葉だそうです。

    若者にとって、自分からかく恥は、確かに偉大な哲学者が言うように名誉といえるかもしれません。
    しかし、他人からかかされた恥は、やはり若者にとっても屈辱でしょう。

    名誉を傷つけられれば、誰だって怒り心頭になるでしょうし、人の名誉を傷つければ、それは犯罪になる可能性があります。
    そんな事件が起きました。

    「“彼女取られて仕返したかった”大学生 ネットに書き込み名誉毀損容疑で逮捕」(2015年3月9日 産経新聞)

    女性を装って、「同じ大学に通う男性にストーカー行為をされている」とウェブサイトに書き込んだとして、札幌東署は札幌市の大学生の男(22)を名誉毀損の疑いで逮捕しました。

    報道によると、男は「彼女を取られて仕返ししてやりたかった」と供述。大学生の男性の名誉を傷つけるためにウェブサイトに書き込み、顔写真を掲載したようです。

    また同署は、男がかつて交際していた女性の裸の写真をインターネット上に投稿していることを確認しており、リベンジポルノに当たるとみて、私事性的画像記録の提供被害防止法違反の疑いでも捜査しているとのことです。

    今回は、リベンジポルノではなく、名誉毀損について解説したいと思います。

    では早速、条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第230条(名誉棄損)
    1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
    公然とは、不特定または多数の人が認識し得る状態をいいます。

    毀損とは、利益や体面などを損なうことですが、法律上では人の社会的評価が害される危険を生じさせることとされ、実際に社会的評価が害されることは要しないとされています。

    また、条文にあるように名誉棄損罪は、事実の有無、真偽を問いません。

    つまり、今回の事件では、事実無根の事実(男性がストーカーをしているかのような事実)をネット上に摘示して、不特定多数に公開し、男性の名誉を毀損したことで罪に問われた、ということになります。

    ところで今回の事件、じつは見逃せないポイントがあります。
    実際には、名誉棄損での逮捕というのは珍しいのですが、今回なぜ逮捕に至ったのでしょうか。

    それは容疑者に、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」違反の疑いがあるからでしょう。

    聞きなれない法律だと思いますが、これは通称「リベンジポルノ防止法」といわれるもので、2014年11月に成立したものです。

    リベンジポルノが社会問題化している現状も踏まえ、この法律については次の機会に詳しく解説したいと思います。
    では今回は、締めの言葉もアリストテレスです。

    「私は敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者を勇者と見る。
    自分に勝つことこそ、もっとも難しいことだからだ」

  • 「今、そこにある秘密漏洩という危機」

    2015年03月11日

    近年、企業の営業秘密が不正取得され、漏えいする事件が多発しています。

    企業にとっては大問題ですが、一体そこにはどんな問題が潜んでいるのでしょうか? 対応策はあるのでしょうか?

    「エディオン情報不正取得で元課長再逮捕、誓約破り別の営業秘密取得」(2015年3月5日 産経新聞)

    大阪府警生活経済課は、家電量販大手「エディオン」をめぐる情報不正取得事件で、誓約書に従わずに営業秘密を不正に得ていたとして、同社元課長の男を不正競争防止法違反容疑で再逮捕しました。

    容疑者の男は、2003年12月、「(退職時に)営業秘密の資料を返還し、保有しない」とする誓約書を提出しながら、私物ハードディスクに保存した営業秘密データ86件を返還せず、不法に取得したようです。

    「そうした行為はしたが、利益を得たり会社に損害を与えたりする目的はなかった」などと供述しているようですが、容疑者の男の逮捕は今回が3回目で、すでに別の不正競争防止法違反で起訴されているということです。
    【不正競争防止法とは?】

    不正競争防止法は、事業者間の公正な競争及び、これに関する国際約束の的確な実施を確保するために、不正競争の防止と損害賠償等について定めています。(第1条)

    さまざまな禁止行為が規定されているのですが、今回はその中の「営業秘密」に関する不正です。

    営業秘密に関する不正行為には、以下のようなものがあります。

    ・企業が秘密として管理している製造技術上のノウハウ、顧客リスト、販売マニュアル等を窃取、詐欺、強迫、その他の不正の手段により取得する行為(第2条4号)
    ・または、不正取得行為により取得した営業秘密を使用したり、開示する行為(第2条4号)
    ・不正に取得された情報だということを知っている、もしくはあとから知って、これを第三者が取得、使用、開示する行為(第2条5号、6号)
    ・保有者から正当に取得した情報でも、それを不正の利益を得る目的や、損害を与える目的で自ら使用または開示する行為(第2条7号)

    これらに違反した場合、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科となります。

    かなり重い罪ですから十分な注意が必要です。
    【今そこにある秘密漏えいという危機】

    ところで、別の報道によれば、容疑者の男は「再就職先で格好をつけたかった」と供述しているとのことですが、その犯行は段階を踏んでいることからも、用意周到に計画されたものだったようです。

    報道内容からだけでは正確には分かりませんが、おおよそ以下のような流れのようです。

    ・在職中に200件のデータを不正に転送。
    ・同じく在職中に遠隔操作ソフトをインストール。
    ・退職時には「営業秘密の資料を返還し、保有しない」との誓約書を提出。
    ・にもかかわらず、私物ハードディスクに保存した営業秘密データ86件を返還せず。
    ・退職の翌月、遠隔操作で4件のデータをエディオン社から転職先の会社のパソコンに不正に転送。
    ・ごていねいにも、転送したデータを転職先の会社のパソコンの共有フォルダに「エディオン」という名をつけて保存。
    ・不正が発覚し3回の逮捕

    一方、エディオン社は、データをUSBメモリーなどで持ち出せないようにしていたり、退職時に誓約書を書かせたり、営業秘密の漏えいに対しては、それなりの対策をとっていたようです。

    ところが、事務手続きの都合上、退職者のIDとパスワードを退職後90日間は利用可能な状態にしていたところ、容疑者は、その隙も狙って犯行に及んだということです。

    企業の秘密漏えいは死活問題にもなりかねませんが、その対策は、一筋縄ではいかないのが現実でしょう。
    【秘密漏えい問題で企業がとるべき対応とは?】

    しかし、ただ手をこまねいていても仕方がありません。
    秘密漏えいに対して、企業はどのような対策をとっておくべきなのでしょうか?

    法的にポイントとなるのは、社員への早期の対応と、社内規定の厳格化です。
    1.まず入社時に、営業秘密の漏えいに関する誓約書を提出させる。
    2.就業規則に秘密保持義務を規定するとともに、懲戒処分の規定に関して厳格に明記し、社員全員に周知させる。
    3.入社後、秘密情報を取得する可能性のあるプロジェクト等に参加するごとに、当該プロジェクトに関する秘密保持誓約書を提出させる。
    4.秘密情報の不正取得が犯罪であることを研修などの社員教育で徹底していく。
    5.退社時にも誓約書を提出させる。
    早い段階での教育と、社内規定の厳格化を徹底していくことで社員の中に、おのずと高い意識と倫理観が醸成されていくことが大切です。

    なお、国も対応を急いでいるようです。
    経済産業省は、相次ぐ企業の秘密漏えい事件に対して新法の成立は見送りましたが、罰金引き上げなど罰則を強化するほか、被害申告を必要としない「非親告罪」にするなど不正競争防止法の改正法案を2015年の通常国会で提出するとのことです。

    どのような内容になるのか、今後の動きを見守っていきたいと思います。

  • パワハラと教育的指導の境界線とは?

    2015年02月28日

    仕事への意欲が湧かないとき。
    何かのトラブルを抱えて落ち込んでいるとき。

    そんなときは、「言葉の魔法」にかかりたいと思うことがあります。
    身近な人からのアドバイスや、先人や偉人の名言に救われたり、元気が出てくることがありますね。

    しかし逆に、会社や職場で「言葉の暴力」を浴びせられたら、どうでしょうか?

    最悪の場合には、心と体に変調をきたして仕事を続けられなくなってしまう人もいます。

    先日、言葉の暴力がパワハラと認定された裁判がありましたので、解説します。

    「“威圧され適応障害”…看護師長のパワハラ認定」(2015年2月26日 読売新聞)

    北九州市の病院に看護師として勤めていた女性(30歳代)が、元上司によるパワーハラスメントで適応障害になったとして、病院の運営元や元上司を相手取り、約315万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が福岡地裁小倉支部でありました。

    判決によると、女性は病院に勤務していた2013年4~5月頃、子供がインフルエンザにかかったり、高熱を出したりしたため、上司だった看護師長に早退を申し出たところ、有給休暇が残っていたにも関わらず、元上司は「もう休めないでしょ」、「子供のことで職場に迷惑をかけないと話したんじゃないの」などと発言。

    女性は、ミスを叱責されたこともあり、食欲不振や不眠から、同年11月に適応障害と診断されて休職。
    その後、2014年3月に退職したようです。

    裁判官は、看護師長の言動について、「部下という弱い立場にある原告を過度に威圧し、違法」と認定。
    被告に約120万円を支払うよう命じたということです。

     

    近年、パワハラに関する報道が増えていますが、そもそも何をするとパワハラになるのか? すべてのビジネスパーソンは正確に認識しておく必要があるでしょう。

    そこで、今回もう一度、パワハラについて復習しておきたいと思います。

    【パワハラとは?】
    厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では、以下のように定義されています。

    「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」

    「上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」

    つまり、パワハラが成立するには次の3つの要件が認められるか検討していくことになります。

    ・それが同じ職場で働く者に対して行われたか
    ・職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に行われたものであるか
    ・業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与え、また職場環境を悪化させるものであるか
    【パワハラにあたる6つの行為】
    具体的には、以下の6つがパワハラとなる行為とされています。

    ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
    ②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
    ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    ⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

    今回の事案は、②の言葉の暴力による「精神的な攻撃」ということになります。
    【パワハラによって発生する会社の損害とは?】
    パワハラが行われた場合、今回の事案のように民事裁判では、被害者は損害賠償を求めて訴訟を起こすことができます。
    それは、会社には社員に対して以下のような義務や責任があるからです。

    「職場環境配慮義務」
    会社は、従業員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務=職場環境配慮義務を負います。
    社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮をきちんとしていていないと、義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。

    「使用者責任」
    ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた不法行為による損害を賠償する責任があります(民法第715条)。

    今回の事案のように、社員(看護師長)が別の社員(看護師)に対して損害を与えたと認められれば、その責任を会社が負い、損害を賠償しなければならなくなる場合があります。
    【パワハラを防ぐための5つの措置】
    パワハラを防ぐための措置として、次の5つが挙げられます。

    ①会社のトップが、職場からパワハラをなくすべきという明確な姿勢を示す。
    ②就業規則をはじめとした職場の服務規律において、パワハラやセクハラを行った者に対して厳格に対処するという方針や、具体的な懲戒処分を定めたガイドラインなどを作成する。
    ③社内アンケートなどを行うことで、職場におけるパワハラの実態・現状を把握する。
    ④社員を対象とした研修などを行うことで、パワハラ防止の知識や意識を浸透させる。
    ⑤これらのことや、その他のパワハラ対策への取り組みを社内報やHPなどに掲載して社員に周知・啓発していく。
    さて、ここまでパワハラについて解説してきましたが、それでも会社の社長や部下を持つ管理職の人たちからは、こんな声が聞こえてきそうです。

    「パワハラについては理解できたけれど、なんでもかんでもパワハラに
    されて訴えられたら、たまらない」

    「ミスをした社員をしかるのは当然でしょう。仕事上の叱責までパワハ
    ラにされたら、どうしていいのか…」
    実際、厚生労働省が公表した、「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」によると、総合労働相談のうち、民事上の個別労働紛争の相談内容では「いじめ・嫌がらせ」が59,197件と、「解雇」や「退職」をおさえ、2年連続で最多となりました。
    いかにパワハラやセクハラの相談が増えているかがわかります。

    しかし、たとえばパワハラとなる行為の中でも、業務への過大な要求や過少な要求などは、業種や企業文化などによっても差異があるため、業務上の適正な指導との線引きや判断が難しいものです。

    法的な基準としては、「平均的な心理的耐性を持った人」が肉体的・精神的に苦痛を感じるかどうかが判断基準とされていますが、以下のポイントにも注意をして対策をとっていただきたいと思います。

    ・行為が行われた状況
    ・行為が継続的であるかどうか
    ・会社が相談や解決の場(相談窓口など)を設置したかどうか
    ・パワハラ行為を行った者への研修・教育を行ったか
    ・懲戒処分の決定とその後の措置は適切だったか

    なお、社員の能力不足や職務怠慢の場合、会社は社員を教育指導してからでないと解雇などはできないことになっているので、通常の仕事上の叱責はパワハラにはならないことは覚えておいてください。

    最近は、仕事上で叱責すると、すぐに「パワハラだ!」と言われることがありますが、仕事上の叱責はパワハラにはなりません。

    それが度を超え、人格に対する攻撃などになると、はじめてパワハラになるのです。

    パワハラ問題が起きてしまうと、被害者の肉体的・精神的苦痛はもちろん、会社にとっても大きな損害となってしまいます。

    判断・対応が難しい場合には、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
    労働トラブルのご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

     

  • ケンカでの正当防衛は成立するのか?

    2015年02月04日

    「目には目を、歯には歯を」という言葉があります。
    「やられたら、やり返せ!」という意味にとられがちですが、本来の意味は違うといわれます。

    紀元前1792年から1750年に、古代メソポタミアのバビロニアを統治したハンムラビ王。
    彼が制定したとされる「ハンムラビ法典」は、世界で2番目に古い法典といわれますが、ここにある「目には目を、歯には歯を」に関連する条文は報復を認めて奨励しているわけではなく、無制限な報復を抑制、制限するために、何が犯罪行為であるかを明らかにして、その行為に対して刑罰を科すという、現在の司法制度と同じ考えに基づいているとされます。

    相手に傷つけられたら、同じように相手を傷つけてもいいわけではなく、現代の日本の刑法のように傷害罪なら15年以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑罰の代わりに、自分も傷つけられるという罰を受けるという考えということですね。

    しかし、古今東西さまざまな法律があっても、やはり人間は感情の生き物なので、やられたら、やり返したい感情が湧いてくるものです。

    「相手が悪い」、「あいつが先に手を出してきた」、「自分は悪くない」、「お前が先に言ったんだろ」、「正当防衛だ!」などという些細なことからトラブルが起きるのも現実です。

    今回は、身近なトラブルから「やられたから、やり返した」が法的に許されるのか検証します。

    Q)飲み屋でたまたま知り合った奴と、初めは意気投合して盛り上がったんですが、そのうち殴り合いのケンカになってしまいました。酔っていたから、あまり覚えていないんですが…後日、相手から内容証明というものが送られてきて、ケガに対する損害賠償をしなければ、警察に訴えるっていうんです。強く殴ってないからケガしてないはずだし、そもそも殴りかかってきたのは相手なんだから、これは正当防衛でしょ? 法的に反撃したいんだけど、どうすればいいんですか?

    A)もちろん、「やられたから、やり返した」、「先に手を出したのは相手だ」という理由だけでは、その正当性は法的には認められません。
    正当防衛が認められるには法的な要件が必要となります。
    正当防衛として要件を満たしていなければ、ケガの治療費や慰謝料などの損害賠償は免れないでしょう。
    【正当防衛とは】

    まず、人の身体を傷つけた場合、傷害罪に問われる可能性があります。
    これは、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。(「刑法」第204条)

    一方、刑法では正当防衛も認められています。
    条文を見てみます。

    「刑法」
    第36条(正当防衛)
    1.急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
    2.防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
    以前、正当防衛について解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「”倍返し”には、犯罪が成立する!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1175

    自分や他人の生命・権利を違法に侵害するもの、またはそうした危機が間近に迫っている緊急状態で、防衛するためにやむを得ずにした行為を正当防衛といいます。

    ただし、正当防衛が成立するには以下の要件が必要になります。
    【正当防衛の要件】
    ①「急迫性の侵害があること」
    急迫とは、物事が差し迫った状態をいいます。
    つまり、生命や権利を脅かすような危機的な侵害が存在しているか、又は間近に差し迫っている状況であることが必要です。

    相手が急に殴りかかってきたら、急迫といえるでしょう。

    ②「その侵害が不正であること」
    その侵害が、法秩序に反する違法なものであることが必要です。

    一緒に飲んでいたのに、急に殴りかかってきたとしたら、それは不正です。

    そこで、やむを得ずした行為が相手を傷つけても正当防衛となる可能性があるわけです。

    ③「自己又は他人の権利の防衛であること」
    権利を守るための防衛が、生命、身体、自由、名誉、信用、財産、肖像権、住居の平穏などの権利を守るためであることが必要です。

    殴りかかられるというのは、身体、場合によっては生命の防衛を必要とします。

    以上は、「状況の要件」です。
    では、次に「行為の要件」について見ていきましょう。

    ④「やむを得ずにした行為であること」
    やむを得ずにした行為であるという必要性、社会通念上の相当性があることが正当防衛が認められる要件になります。
    相当性は、法益の種類や反撃の強度が相手と同程度であること、急迫性の程度、体格差、年齢差などを総合的にみて判断されます。
    たとえば、素手には素手で、武器には武器で対応する、というようなことです。

    ⑤「防衛の意思」
    自己又は他人の権利を守るためという防衛の意思があることも要件です。

    たとえば、以前から嫌っていた相手から攻撃されたことに乗じて、自分から積極的に反撃に打って出たり、防衛を理由に相手に対して積極的に攻撃したという場合は、防衛ではなく攻撃の意思ということになります。
    こうした場合、正当防衛ではなく「過剰防衛」として罪に問われる可能性があります。
    なかなか判断が微妙な部分がありますが、たとえば①の急迫性については、相手が殴ってきた、もしくは殴られそうになった場合は正当防衛が認められますが、殴ってくるかもしれないと考えて自分から先制パンチをお見舞いしたような場合は認められません。

    また、④のやむを得ずした行為では、相手に蹴られたからキックし返したところ相手がケガをした、というような場合は正当防衛が認められますが、殴られたので持っていたナイフで相手を刺したというような場合は認められないということになります。

    【ケンカと正当防衛】
    では、ケンカの場合は正当防衛が認められるでしょうか?

    そもそもケンカは、相手をやっつけるためにお互いに攻撃防御を繰り返すものです。

    はじめに殴りかかられ、ブロックような場合は、「急迫不正の侵害にやむを得ずした行為」と言えるでしょうが、反撃するうちに、「やむを得ずにした行為」とは言えなくなってしまいます。

    また、古くから日本では「喧嘩両成敗」という考えがあるように、ケンカで正当防衛は成立しにくいともいえます。

    しかし、ケンカで正当防衛が認められる可能性はあります。
    たとえば、初めは素手での殴り合いのケンカだったのが、途中で相手がナイフで攻撃してきたようなケースや、ケンカをする意思を放棄して攻撃を止めているにもかかわらず、なおも一方的に相手が攻撃し続けてきたケースなどです。

    こうしたケースでは、途中から「急迫性の侵害」が発生したと考えられることから、ケンカの場合は行為の一部分だけを見ずに全体的に見て判断されます。

    いずれにせよ、法律で解決する云々の前に、やはりケンカはしないに越したことはないですし、報復行為では何も問題は解決しないという事実は、大人も子供も、一般の人でも政治家でも心に留めておくべきことだと思います。

    「自己の向上を心がけている者は、喧嘩などする暇がないはずだ。
    おまけに、喧嘩の結果、不機嫌になったり自制心を失ったりすることを思えば、いよいよ喧嘩はできなくなる」
    (エイブラハム・リンカーン/アメリカ合衆国第16代大統領)

    こんな考え方ができたら、とっくに聖人になってますね。(>_<)

    万が一のときの法律相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 「問題社員対応セミナ-」開催

    2015年02月02日

    問題社員

     

    今日は、経営者向けの労働法セミナーでした。

    タイトルは、「問題社員対応で間違えやすいポイント」です。

    問題社員対応の各種手段、証拠の作り方、などをお話させていただきました。

    まずは、しっかりとした就業規則を作って、そのとおり運用することが大切ですね。

  • なんと、違法残業の会社が半数以上!?

    2015年01月30日

    およそ1年前の2013年12月に、厚生労働省が若者の使い捨てなどが疑われる、いわゆる「ブラック企業」についての実態調査を行ったことについて解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「8割以上の企業が労働基準法違反!あなたの会社は?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1239

    5111の事業所に対して監督・調査を実施した結果、82%にあたる4189事業所で何らかの労働基準関係法令違反が見つかった、というものでした。

    さて、1年経って状況はどう変わったでしょうか?

    「2304事業所で違法残業 厚労省が是正指導」(2015年1月27日 共同通信)

    厚生労働省は、2014年11月に実施した「過重労働解消キャンペーン」における重点監督の実施結果について取りまとめ公表しました。

    これは、長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業所や、若者の「使い捨て」が疑われる事業所など、労働基準関係法令の違反が疑われる事業所に対して集中的に実施したもので、対象は全国の4561の事業所。

    その結果、約半数の2304事業所で、時間外労働に必要な労使協定を結ばないなどの違法な残業をさせており、是正を指導したということです。

    違法な残業をさせていた事業所で、最も長く働いていた従業員の時間外労働が、過労死ラインとなる月100時間超だったのは715事業所におよび、中には月200時間を超えたケースもあったということです。

    厚生労働省は、今後も長時間労働が疑われる事業所への監督を徹底する方針だとしています。
    ちなみに、「過労死ライン」とは、健康障害リスクが高まるとする時間外労働時間を指すもので、厚生労働省によると月80時間。
    1ヵ月の労働日数を20日とした場合、1日に4時間の時間外労働が続く状態をいいます。

    過労死の労災認定基準として、脳血管疾患及び虚血性心疾患等について、「発症前1ヵ月間におおむね100時間又は発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1ヵ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされています。

    さて、1年前に公表された資料では、以下のような結果でした。

    〇違法な時間外労働があったもの:2241事業場(43.8%)
    〇賃金不払残業があったもの:1221事業場(23.9%)
    〇過重労働による健康障害防止措置が実施されていなかったもの:71事業場(1.4%)

    また、「健康障害防止措置」と「1か月の時間外・休日労働時間が最長の者の実績」についての結果は以下のとおりです。

    〇過重労働による健康障害防止措置が不十分なもの:1120事業場(21.9%)
    〇労働時間の把握方法が不適正なもの:1208事業場(23.6%)
    〇1か月の時間外・休日労働時間が80時間超:1230事業場(24.1%)
    〇うち100時間超:730事業場(14.3%)
    次に、今回の調査を具体的に見ていきましょう。

    「主な違反内容」
    ①違法な時間外労働があったもの:2304事業所(50.5%)

    そのうち、時間外労働の実績がもっとも長い労働者の時間数が、
    月100時間を超えるもの/715事業場(31.0%)
    そのうち、月150時間を超えるもの:153事業所(6.6%)
    そのうち、月200時間を超えるもの:35事業所(1.5%)

    ②賃金不払残業があったもの:955事業所(20.9%)

    ③過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:72事業所(1.6%)
    「主な健康障害防止に係る指導の状況」
    何らかの労働基準関係法令違反があった3811事業所のうち、健康障害防止のため指導票を交付した事業所数

    ①過重労働による健康障害防止措置が 不十分なため改善を指導したもの:2535事業所(55.6%)

    そのうち、時間外労働を月80時間以内に削減するよう指導したもの:
    1362事業所(53.7%)

    ②労働時間の把握方法が不適正なため指導したもの:1035事業所(22.7%)

    ※業種別では、製造業がもっとも多く1032人、次いで商業802人、以下、その他の事業、接客娯楽業、保健衛生業の順となっています。
    報道にはありませんでしたが、今回公表された資料によると、何らかの労働基準関係法令違反があったのは、3811事業所で、全体の83.6%にも及ぶということですから、1年前の82%と比較して改善されたどころか、増加していることがわかります。

    ちなみに、厚生労働省によれば、重点監督は、数多く寄せられた情報の中から過重労働の問題があることについて、より深刻で詳細な情報のあった事業所を優先して対象としている、ということです。

    そのため、相対的に違反のあった事業所の割合が高くなっているということだと思いますが、それにしても相変わらず労働問題の「種」を社内に抱えている会社や経営者の方が多いのが実情のようです。

    最近では、未払い残業代請求、長時間労働、不当解雇、パワハラ、セクハラなどの労働トラブル関連の報道がない日はない、というほどマスメディアでも取り上げられています。

    会社としては、未払残業代やそれに付随する付加金などの支払いのために予期せぬ出費を強いられ、最悪の場合は倒産の可能性もあります。
    また、会社名が世間に公表されたり、取引先との信用を失うなど労働問題は、会社にとって大きな損失になりかねないという事実を経営者の方には今一度知っていただきたいと思います。

    あなたの会社が抱える労働問題の「種」は、もしかして、時限爆弾かもしれませんよ……。

    労働問題に関する相談は、こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/

    残業代請求について詳しく知りたい方は、こちら。
    残業代請求を弁護士に相談すべき9つの理由
    https://roudou-sos.jp/zangyoupoint/