自転車ひき逃げで書類送検 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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自転車ひき逃げで書類送検

2015年04月21日

自転車でぶつかっただけ、では、済まない時代になりました。

「“自転車の事故はお互いさまでは…”自転車ひき逃げの19歳女子大生を書類送検」(2015年4月17日 産経新聞)

大阪府警高石署は、自転車同士の衝突事故で相手にケガを負わせたにも関わらず、そのまま走り去ったとして、府内の女子大生(19)を重過失傷害と道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で書類送検しました。

事故が起きたのは2015年1月26日午前10時すぎ。
女子大生が市道交差点を自転車で走行中、パートの女性(57)の自転車と衝突。
女性を転倒させ、右足首を骨折させたのに救護措置を取らずに逃走したようです。

女子大生は、テレビで事故のニュースを見た家族に付き添われ、事故当夜に自首。

「通学で急いでいた」、「自転車の事故なのでお互いさまと思って立ち去ってしまった」と話しているということです。

怪我をさせれば、損害賠償義務を負います。

ところで、今回の事故は、刑事事件での書類送検です。
ポイントは、大きく4点あります。

1.道路交通法の「救護義務違反」=ひき逃げとは?
事故を起こした場合、以下の措置等を取らなければいけません。(第72条)
①車両の運転者と同乗者は、ただちに運転を停止する。
②負傷者を救護する。
③道路での危険を防止するなど必要な措置を取る。
④警察官に、事故発生の日時、場所、死傷者の数、負傷の程度等を報告する。
⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる。

これらを怠ると、「ひき逃げ」という犯罪になりますので注意してください。

詳しい解説はこちら⇒「軽傷のひき逃げで懲役15年!?」

軽傷のひき逃げで懲役15年!?


2.自転車も「車両」の一種
道路交通法では、自転車は車両の一種である「軽車両」です。
当然、自転車の事故も犯罪になるので注意してください。

ただし、自動車と自転車では刑罰に違いがあります。
自動車で、ひき逃げをして、被害者を死傷させた場合は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条2項)

自転車の場合は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処されます。(第117条の5)
3.重過失傷害罪とは?
「重過失傷害罪」とは、過失致傷に重過失、つまり重大な過失により人にケガをさせた罪です。
「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

自転車の運転で重過失があった場合には、この規定が適用されます。

法定刑は、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金です。

4.書類送検とは?
テレビや新聞などのメディアで「書類送検」という言葉を見かけますが、逮捕と何が違うのでしょうか?

書類送検とは、刑事事件の手続きにおいて被疑者を逮捕せずに、または逮捕後保釈してから身柄を拘束せずに事件を検察官送致することです。
被疑者の逮捕や拘留の必要がない場合や、送致以前に被疑者が死亡した場合などで行われます。

今回の事故の場合、被疑者である女子大生は家族に付き添われて自首したということで、逃亡する可能性も低いために書類送検になったのだと思います。

近年、自転車による重大事故が増えています。

警察庁が公表している統計資料「平成26年中の交通事故の発生状況」によると、自転車関連の事故は10万9,269件で、交通事故全体に占める割合は約2割です。
また、自転車同士の事故は2,865件起きていて、そのうち2件が死亡事故となっています。

こうした事態を受けて、自転車による交通事故も厳罰化の方向に向かっています。
詳しい解説はこちら⇒「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
https://taniharamakoto.com/archives/1854
報道内容からだけでは詳しい状況がわかりませんが、事故を起こして相手がケガをしたにも関わらず、「お互いさまと思った」という女子大生の感覚は、交通事故の危険性、重大性を理解していない浅はかで軽率なものと言わざるを得ないでしょう。

自転車は気軽で日常使いだからといって、けっして他人事と軽くとらえずに、細心の注意を払って運転してほしいと思います。