弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 12
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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  • お釣りを多くもらったら、詐欺罪!?

    2015年01月09日

    日本経済がバブルで湧いて元気だったころの話……

    お酒を飲みに行ったお店で、またはタクシーから降りるときなど、会計のあとで、「釣りはいらないよ、とっておいて!」などという大人がいたものでした。

    それが粋なのか?
    かっこいいのか?

    については個人の価値観によるところが大きいでしょうが、とにかく当時はそんな時代の空気がありました。

    さて、平成27年の年明け早々、お釣りにまつわるトラブルで逮捕事件が起きたようです。

    逮捕とは穏やかではないですが、一体お釣りの何が問題だったのでしょうか?

    「お釣り多くもらい詐欺容疑 消防士を逮捕、奈良」(2015年1月7日 共同通信)

    橿原署は7日、奈良県橿原市のコンビニで、店員が誤って渡したお釣り約4万6千円を申告せずに受け取ったとして、消防士の男(43)を詐欺の疑いで逮捕しました。

    報道によると、昨年12月、容疑者の男が携帯電話料金やたばこ代など約1万3千円の会計に1万5千円を支払った際、6万円を預かったと思い込んだアルバイト店員(16)が約4万6千円をお釣りとして渡したところ、これを受け取ったということです。

    なお、店員は「忙しくてパニックになり勘違いした」と話し、容疑者の男は「酒に酔って覚えていない」と容疑を否認しているとのことです。

    読者の中には、計算間違いでお釣りを多くもらっただけで逮捕とはおおげさじゃないか?

    店員にも罪があるんじゃないか?

    などと思う人もいるでしょうが、今回の容疑者の行為は法律的には犯罪となってしまいます。

    「刑法」
    第246条(詐欺)
    1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
    2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
    「詐欺罪」については以前、解説しました。
    「宿題代行業は、詐欺罪!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1617

    詐欺罪が成立するには、「騙そうとする意思」が必要です。

    「故意」が必要ということですね。

    したがって、お釣りが多いことに気付かず、家に帰ってから気付いた、というような場合には、「騙そうという意思」がありませんので、詐欺罪は成立しません。

    では、容疑者は初めから、故意に、店員を欺こうとしていたのでしょうか?

    5,000円札が「5万円札」のように見えるマジックを使ったのでしょうか。

    報道内容には、そうした記述はありません。

    ではなぜ、詐欺罪に問われたのでしょうか?

    じつは、行為者が積極的に相手を錯誤に陥らせて欺く場合だけでなく、事実を告知しないことによって相手が既に錯誤に陥っている状態を継続させて利用する場合にも詐欺罪は成立するのです。

    つまり容疑者は、お釣りが多いことに気づいていながら、店員が錯誤していることを利用して真実を伝えず、お金を手に入れたと判断されたということでしょう。

    ちなみに、黙っていることで詐欺が成立した場合について、過去の判例では次のようなものがあります。

    ・保険契約に当たって、被保険者の疾病を告知しなかった場合(大判昭10・3・23集14-294)
    ・生活保護費の不正受給につき、生計の状況等の変動等の届出をしなかった場合(東京高判昭31・12・27高集9-12-1362)
    ・目的物が係争中であることを秘して売却した場合(大判昭11・5・4集15-559)
    ・取引において信用状態の悪化を告知しなかった場合(東京高判昭35・3・9東時11-3-60)

    話は変わりますが、

    自分の最愛の人が、癌になってしまったら・・・・

    本人に言うべきか、言わざるべきか、迷うかもしれません。

    黙っている、という選択肢もあるでしょう。

    他にも、世の中には、本人に言わない方がいいこともあります。

    知らない方が本人のためになる場合があるからです。

    しかし、お釣りを多くもらったら・・・・

    やはり、正直に申告しなければなりません。

    言わないと、「詐欺罪」なのですから。

    「あなたには成功しなければならないという義務はない。ただ、自分自身に対して誠実でなければならないという義務があるだけだ。あなたが最善を尽くしたいと思うことに、全力投入しなさい。そうすれば魂の奥深くで自分が世界一の成功者であることを知るだろう」
    (オグ・マンディーノ/アメリカの作家)

    法律相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 経営者向けの労働セミナー2本開催

    2015年01月06日

    IT労働セミナー

    会社経営者向けの労働セミナー2本のご案内です。

    【セミナーその1】

    最近、退職した社員から、裁判や労働審判などの法的手続を申し立てられることが増えています。

    なぜでしょうか?

    それは、「残業代」の請求です。

    労働基準法では、1日8時間・週40時間を超えて労働させた場合には、残業代が発生することになっています。

    また、そもそも残業をさせるには、「36協定」を締結し、労働基準監督署に提出しておかないと、刑罰を受けることにもなります。

    特に、IT企業や運送業、営業社員、形式上管理職にしている社員などから、訴えられる例が目立っていますね。

    そして、その場合、会社側が敗訴する例が多いのです。

    なぜなら、いくら会社が社員との間で、

    「残業代は発生しない」

    「残業代は放棄する」

    「給料の中に、残業代は全て含まれている」

    と合意しても、無効になってしまうからです。

    したがって、会社としては、社員から残業代請求をされないよう、しっかりと対策を立てておく必要があるのです。

    そのためのセミナーを企画しました。

    残席わずかですので、お早めにお申し込みください。
    労働時間管理と残業代問題
    【1月21日(水)開催 定員20名】

    ⇒ http://myhoumu.jp/seminar/roudou07.html
    【セミナーその2】

    一生懸命働いてくれる社員は、会社の宝です。

    しかし、中には、

    「なるべくサボろう」

    「仕事時間中もばれないようにネットサーフィンや私用メールで時間をつぶそう」

    「会社の備品を少しくらい持って帰ってもいいだろう」

    「採用されるためなら、少しくらい経歴を詐称して履歴書に書いても許されるだろう」

    など、問題行動を起こす社員もいます。

    そのような社員がいると、他の社員の士気が下がり、会社の業務に支障が出てきます。

    給料を払っていることすら無駄に思えてきたりもします。

    では、そのような問題社員を解雇すれば解決するのでしょうか?

    これまで解雇しても、あまり問題にならなかったかもしれませんが、実は、法律では、解雇には厳しい制限が課せられています。

    解雇しても、労働組合に加入されて団体交渉を申し込まれたり、解雇無効の仮処分、裁判などを起こされる例が増えています。

    では、問題社員には、どのように対処すればよいでしょうか?

    その内容をセミナーにしました。

    こちらは、まだまだ残席がありますが、これから告知していきますので、お早めにお申し込みください。
    問題社員対応で間違えやすいポイント
    【2月2日(月)開催 定員20名】

    ⇒ http://myhoumu.jp/seminar/roudou10.html

  • 習慣は、なぜ変えられないか?

    2015年01月04日

    新年といえば、「今年は、●●するぞ~!」と決意を新たにするものです。

    しかし、なかなか長続きしません。

    資格や語学の勉強、あるいは禁煙、ダイエットなど、何かをやり遂げるためには、慣れ親しんだ自分の習慣を変える必要があります。

    しかし、誰しも経験があると思いますが、このような計画は挫折することが非常に多いのが現実です。

    当初はやる気満々で計画通りの行動をしていても、次第にモチベーションが下がり、「今日は特別だから、仕方ない」と決意を曲げてしまいます。

    そうなると後はなし崩し。いつしか、その特別な日が全く特別ではなくなってしまうという、ありがちなパターンになります。

    習慣を変えるための計画は、いわば自分と自分とで行う「約束」のようなものです。しかし、自分との約束は非常にもろいもの。相当意志が強い人でなくては、守ることができません。

    人間、自分には甘いですよね~。

    では、どうすれば、習慣を変えられるのでしょうか?

    ポイントは、

    ・誰と約束をするか
    ・どんな約束をするか
    ・ペナルティは、どうなるか

    という3点です。

    こんな話を、明日発行のメルマガでします。

    よろしければ、ご登録ください。
    http://www.mag2.com/m/0000143169.html

  • 内定取消は、自由にできない!?

    2014年12月28日

    会社が新規学卒者の内定を取り消したというニュースが新聞を賑わすことも少なくありませんが、果たして内定を出した後に、業績悪化を理由としてその内定を取り消すことは可能なのでしょうか。

    そこで、今回は、業績悪化を理由とした内定の取消しが可能か、可能であるとするとどのような場合なのかを考えていきたいと思います。

    まず、会社が採用内定を出すとどのような効力を生じるかについては、一般的には、入社日を始期とし、さらに誓約書に基づいた解約権が留保された労働契約が成立すると考えられています。

    採用内定時に提出を求める誓約書には、学校を入社前に卒業できなかった場合や経歴に重大な誤りがある場合、病気等により就労することができない場合等の記載がされ、このような場合には内定取消しとなっても異議を述べないとされていることが一般的です。

    では、誓約書に「会社の業績が悪化した場合」と記載がされている場合に、誓約書に基づいて解約権を自由に行使することができるのでしょうか。

    この点については、判例(大日本印刷事件・最2小判昭和54年7月20日・労判323号19頁)は、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と言っています。

    したがって、採用内定取消しが有効となるかについては、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由があるか否かがポイントとなり、業績悪化を理由として採用内定を取り消す場合の有効性の判断にあたっては、整理解雇に準じて、

    ①人員削減の必要性、
    ②解雇回避努力を尽くしたこと、
    ③人選に合理性があること、
    ④取消しに至る手続に妥当性があること

    が検討されることになります。

    つまり、採用内定の取消しにあたっては、そもそも採用内定時に業績の悪化についてどの程度予測ができたのかどうかや、社内のリストラ等の内定取消し回避のためにどのような努力が尽くされたのかなども専門的な判断が必要となります。

    また、採用内定の取消しは、内定者のその後の就職活動や生活に与える影響が大きいことから、後に紛争となるケースも少なくありませんので、弁護士と相談をしながら慎重にすすめるべきでしょう。

    みらい総合法律事務所へのご相談は、こちら。
    http://roudou-sos.jp/

  • 会社の1億円の損害より1,000円のネコババの方が重い?

    2014年12月28日

    社員のミスによって会社に損害が生じてしまうことはよくあることです。

    もっとも、その損害が多額である場合、例えば会社に1億円の損害がでてしまったとしましょう。会社は、ミスをした社員を即刻クビ、すなわち、懲戒解雇したいと考えるでしょう。

    しかし、会社に巨額の損失が生じてしまったというだけで直ちに懲戒解雇してしまうと、実は、解雇が無効(つまり、クビにできない)であるとされてしまう可能性が高いのです。

    そうであるにもかかわらず、不用意に懲戒解雇してしまうと、会社は、社員が変わらずに会社に在籍していたものとして解雇がなかったのと同様の給料を支払わなければならず、解雇したことによってかえって会社が損をしてしまうということになりかねないので、注意が必要です。

    有効に懲戒解雇するためには、解雇することが、社員の行為の性質・態様等に照らして社会通念上相当なものである必要があります。

    そして、社員のミスによって会社に損害が生じたことを理由に懲戒解雇することが社会通念上相当なものであるかは、会社の事業の性格、規模、社員の業務の内容、労働条件、勤務態度、ミスの態様、ミスの予防若しくは損害の分散についての会社の配慮の程度といった事情を考慮して総合的に判断されます。

    そもそも、社員のミスは、もともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであって、業務命令自体に内在するものとして会社がリスクを負うべきであると考えられています。

    「その仕事を、その社員ができるものと判断して任せた会社の判断ミスでしょう」

    と言われるのです。

    したがって、会社の損害が巨額であったというだけでは、懲戒解雇することが社会通念上相当であるとされる可能性は低いでしょう。

    懲戒解雇が有効となるには、社員が度重なる注意にもかかわらずミスを繰り返した結果損失が巨額となったなど、社員のミスが悪質な態様の場合に限定されるでしょう。

    これに対して、会社の損害は1,000円だけであるが、社員がスーパーのレジからお金をネコババしたような場合はどうでしょうか。

    横領は、企業秩序を乱すことはもとより、財務面で会社の存立を危うくさせるおそれをはらむものであり、重大な企業秩序違反です。

    会社の損害は1,000円だけですが、スーパーなどの小売業は日銭で回っていますから、たとえ1,000円であっても、会社は社員を懲戒解雇することができると考えられます。

    先ほどのミスが「過失」に基づくものであるのに対し、1,000円のネコババは、窃盗罪という立派な犯罪であることも違いますね。

    裁判例においても、例えば、タクシーのメーターの不倒行為やバス運転手の運賃手取り行為は、会社の収入源を奪う極めて重大な企業秩序違反行為として、解雇が有効と判断されています。

    このように懲戒解雇することができるかどうかは、会社の損害の金額だけでなく、さまざまな事情を考慮して判断しなくてはなりませんので、懲戒解雇するにあたっては慎重な検討が必要です。

    懲戒解雇をする前には、必ず顧問弁護士に相談することをおすすめします。

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  • 営業社員など労働時間を管理できない社員に対する労働時間管理は!?

    2014年12月28日

    社員の労働時間を管理しなければならないことはわかっていても、外回りの営業だったり、直行直帰だったりして、なかなか労働時間の管理ができない場合がありますね。

    しかし、厚生労働省の通達や裁判実務では、社員の労働時間の管理は会社の責任であるとされています。労働時間の管理をいい加減にしていては、社員から突然、残業代を請求されるかもしれません。

    「労働時間を管理しろと言われてもうちは外回り営業の社員が多いから管理なんてできないよ。社員のために直行直帰も許可しているし。営業職としての手当てがついているから問題ないはずだ。」とおっしゃる方がいるかもしれません。

    しかし、営業手当をつけているだけでは、その外回り営業職の社員がたとえば「毎日夜遅くまで営業で歩き回っていた」と主張して残業代を請求してくるリスクを完全に排除することはできません。

    では、このように会社が社員の仕事の実態や労働時間を正確に把握することが困難な場合は、どうすればよいでしょうか?

    「事業場外みなし労働時間制」という制度があります。

    事業場外みなし労働時間制は、次の2つの要件を満たす場合に、その社員は所定の時間分、仕事をしたとみなすことができるという制度です。

    ①社員が労働時間の全部、または一部について、事業場の外で業務に従事していたこと
    ②その労働時間の算定が困難であること

    この制度を活用すれば、会社は、労働時間の算定が難しい営業職の社員などに対して、残業代の支払を回避できることになります。

    もっとも、外回りの営業職社員などであっても、事業場外みなし労働時間制を適用することができないケースもありますので注意が必要です。裁判例上、「随時会社の指示を受けながら労働している場合」などは、社員の労働時間の算定が困難であるとはいえないため、前述②の要件を満たさず、事業場外みなし労働時間制を適用することができないとされているのです。

    過去の裁判例としては、「阪急トラベル・サポート事件」があります。

    事案の概要としては、旅行会社が企画・催行する国内・国外ツアーのために派遣業者から派遣されたツアー添乗員の添乗業務の遂行について、ツアー添乗員から会社に対し、未払時間外割増賃金等が請求された事案でした。

    その中で、会社側は事業場外みなし労働時間制の適用を主張し、時間外割増賃金等の支払義務がないことを主張しました。

    外回り営業職社員などと同じく、ツアー中の添乗員の行動の詳細を把握することは困難ですから、事業場外みなし労働時間制の適用があるようにも思えます。

    しかしながら、裁判所は、事業場外みなし労働時間制の適用はない、と判断しました。

    その理由は、以下のとおりです。

    ①添乗員が旅行会社から各ツアーの出発から帰着までの詳細な行程とその管理の仕方を指示されている
    ②そのできるだけの順守を守らなければならない
    ③実際の行程についても添乗報告書に詳細に記載して提出しなければならない
    ④海外ツアーの場合は国際通話可能な携帯電話を持たされ、行程変更等の場合には会社への連絡・相談を必要とされていた

    以上より、労働時間の算定が困難とはいえないとして、事業場外みなし労働時間制の適用を否定しました。

    外回り営業職の社員であれば、例えば訪問先や営業の方法などについて、会社から逐一指示を受けている場合は、随時会社から指示を受けながら労働していると言えるので、事業場外みなし労働時間制の適用できません。

    これに対し、単に連絡できる環境にいるだけ、あるいは実際に必要なときに事務的な連絡が行われるだけなら、随時会社の指示を受けながら労働しているとはいえませんので、事業場外みなし労働時間制の適用は可能です。

    最近は、社員が携帯電話を所持していることが当たり前になっていますので事業場外みなし労働時間制を適用できるか否かは、慎重に検討する必要があります。

    なお、事業場外みなし労働時間制を導入するには、労働基準法上、過半数労働組合または労働者の過半数の代表者と協定を締結し届け出なければならないとされています。

    安易に制度設計をして、後で社員に訴えられると、多額の支払が生じることになりますので、制度設計前には、必ず弁護士に相談されることをおすすめします。

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  • 業務委託なのに、残業代を支払う!?

    2014年12月28日

    正社員にすると、労働法の色々な規制がかかってきたり、残業代を支払う義務が発生したり大変なので、正社員ではなく、「業務委託」という形にして仕事を委託している会社が少なからずあるようです。

    会社は、社員が残業をした場合には、当然残業代を支払う必要がありますが、業務委託先に対しては、委託先が長時間働いたとしても残業代を支払う必要はありません。

    例えば、個人事業主として、自己所有のトラックを持ち込んで輸送業務に従事する運転手や、建設業における一人親方などに対しては、会社は残業代を支払う必要はありません。

    そのため、会社は、社員を雇用するのではなく、業務委託の形式で作業させることで、残業代の支払いを免れて人件費を削減することができます。

    しかし、当該社員(ないし業務委託先)が、会社が残業代の支払義務を負う「労働者」であることを否定するためには、単に当該社員(ないし業務委託先)と会社との契約の名称を「業務委託契約」や「請負契約」などとしておけば良いというわけではありません。

    この「労働者」性が否定されるためには、当該社員(ないし業務委託先)が、実態として、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」ではないことが必要であります。

    いくら「業務委託契約」を締結していても、実態が「労働者」とみなされると、残業代を支払う義務が発生する、ということです。

    そして、この労働者性の判断基準ですが、

    ・時間・場所の拘束の有無、程度(拘束の程度が強ければ労働者性を肯定する事情と評価されます

    ・契約に対する諾否の事由の有無(自由がなければ労働者性を肯定する事情と評価されます)

    ・契約内容の遂行に当たっての指揮命令の有無(指揮命令に従っている場合には労働者性を肯定する事情として評価されます)

    ・経費の負担の有無(受託者が経費を負担するような場合には労働者性を否定する事情として評価されます)

    等の種々の事情を考慮して判断されます。

    したがって、例えば、自己所有のトラックを持ち込んで業務に従事する運転手であっても、会社の仕事しかすることができず、始業・就業時間が決まっており、経費も会社持ちであるような場合には、会社は運転手からの残業代の請求を拒むことができません。

    また、例えば、独自に飲食業を営む者としての立場でクラブとの間で入店契約を締結したホステスについては、業界の慣習や所得税の申請において個人事業主として扱われているとしても、クラブへの出店が義務付けられていることや、クラブからの報酬が事業者性を認める程高額でないこと、衣装代はホステスの負担であるものの、その他の経費はクラブ側が負担していることなどを理由に、クラブはホステスからの残業代の請求を拒むことはできないとした裁判例もありますので、注意が必要です。

    会社が雇用契約ではなく、業務委託契約の形式をとっている場合、往々にして、当該社員(ないし業務委託先)の残業時間は長時間となってしまっているのが実情です。

    そのため、もし当該社員(ないし業務委託先)が会社が残業代を支払わなければならない「労働者」であるとされてしまうと、会社は、非常に多額の残業代の支払いを余儀なくされてしまう場合が多いです。

    このようにならないよう、会社は、「業務委託契約」を締結する場合には、上述のさまざまな事情を考慮して、就労のさせ方を慎重に検討する必要があるでしょう。

    このあたりは、法律の素人では判断が難しいので、弁護士に相談することをおすすめします。

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  • 会社に労働組合が来たら?

    2014年12月28日

    ある日突然、会社の受付に、労働組合がやってくることがあります。

    手には労働組合と団体交渉をすることを要求する文書を持ち、「社長と話したい」と言ってきます。

    すったもんだの末、彼らは文書を置いて立ち去ります。

    「当社には労働組合はないはずだが、あれは何だったんだろう?」

    経験がない社長さんはそう思うかもしれません。団体交渉の要求書には、団体交渉を希望する日時が書いてありますが、仕事も忙しいし、できれば交渉を拒否したいところです。

    この場合、労働組合からの団体交渉を拒否したら、どうなるでしょうか?

    労働者の団体交渉は、憲法28条に「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と定められているように、労働者の団体交渉の権利は、憲法によって保障された権利です。

    そのため、会社には、団交応諾義務があり、正当な理由なく団体交渉を無視することは「不当労働行為」として法律上禁止されています(労働組合法7条2号)。

    団体交渉の拒否が「不当労働行為」となるのは、会社が正当な理由なく団体交渉を拒否する場合です。

    会社に団体交渉を拒否する正当な理由がある場合には、団体交渉を無視しても不当労働行為ではないので違法ではありません。

    しかし、残念ながら業務が忙しい、は、理由にはなりません。

    会社に組合がなかったとしても、従業員が外部の労働組合に加入した場合には、その労働組合からの団体交渉を受けなければなりません。

    従業員を解雇し、その解雇した元従業員が労働組合に加入し、「解雇撤回」を求めて団体交渉を求めてきている場合、「もう従業員ではないから、団体交渉に応じる義務がないのではないか?」と思うかもしれません。

    しかし、その場合も、「従業員たる地位があるかないか」が交渉事項になるので、やはり団体交渉を拒否することができません。

    では、実際、会社が正当な理由がなく、団体交渉を無視すると、どうなってしまうのでしょう。

    この場合、組合は、

    ①都道府県労働委員会に救済を申し立てるか、
    ②裁判所に救済を求め会社に不法法行為に基づく損害賠償を請求するか、
    ③2つとも行うか、

    ということになるでしょう。

    労働委員会とは、学識経験者などにより形成される公益委員、労働組合の推薦に基づく労働委員、使用者団体の推薦に基づく使用者委員からなる行政機関です。

    会社は委員会の指定する期限までに答弁書を提出しなければなりません。

    申立書を受領後、原則として10日以内に答弁書を提出することが求められています。

    答弁書を提出せず、期日にも出頭しない場合には、会社の不利に判断される恐れがあります。

    答弁書の作成等、不当労働行為の審査手続きには、専門的な知識が必要なので、労使トラブルが発生した場合なるべく早い段階で専門家に相談し、反論のための準備をしっかり整えておくことが必要です。

    労働委員会が不当労働行為ではないと判断すると、申立棄却の命令が出されますが、会社が正当な理由なく団体交渉を拒否したと判断されてしまうと、労働委員会が救済命令として、「団体交渉に応ぜよ」という内容の命令をだします。

    この命令が確定した場合、なおも団体交渉を無視すると、50万円以下の過料に処せられます(労働組合法32条)。

    次に裁判についてですが、組合は、労働委員会への不当労働行為の救済申立てと並行して、あるいは別個に、裁判所に救済を申し立て、不法行為に基づく損害賠償を請求することもできます。

    いずれにしても、団体交渉の要求が来た場合、拒否できるかどうか、人数は何人にするか、誰が参加するか、何回応じればいいのか、内容としてどこまで応ずるべきなのか、交渉が妥結した場合、書面はどうするか、決裂したらどうすればいいか、など、難しい問題があります。

    その際は、ご相談いただければと思います。

    また、団体交渉が来たら、すぐに動かなければいけません。その時のために、顧問弁護士が必要と言えるでしょう。

    みらい総合法律事務所では、そんな経営者のご相談を承ります。

    ご相談は、こちら。
    http://roudou-sos.jp/

  • セクハラで3,000万円の賠償請求!?

    2014年12月28日

    最近、セクハラに対する社会的非難が高まっています。

    セクハラをした役員や社員を処分するのは当然ですが、会社がセクハラに対する対応を間違った場合、大変なことになってしまいます。

    今回ご紹介するのは、会社役員の女性支店長2名に対する「セクハラ」行為により、会社が3,000万円を超える賠償義務を負うことになった事例です。

    事実はこうです。Y会社の専務取締役Yが、女性支店長ミー(仮名)を上司の立場を利用して呼びだした上で異性と付き合っているのかを問いただし、それを否定すると「それならいいんだ。前にも言ったけど、商品みたいで言い方は悪いが、君は僕の芸術なんだよ。」といいま
    した。

    さらにYは、付き合っていることを疑っていた社員に直接電話をして「君とミーが付き合っていると聞いたが本当か。システム室から聞いているぞ。本当ならやめてくれ。」などの行動に出ました。

    また、Yは、別の日にミーを電話で呼びだし、他の社員がいないところで後継者の地位をちらつかせながら、「君は僕のことが好きだろう。後継者になるということイコール男女関係があるのは当たり前だ。」などといって肉体関係を持つように求めました。

    その後、ミーが別の日に専務Yに対して、先日肉体関係を迫ったことの理由を尋ねると、「君は独身だから性的欲求は解消されていないと思ったからだ。」「最後にお願いがあるんだ。もう気持ちを表に現さない。だから最後にキスさせてくれ。」などと言って、接吻を迫りました。

    そこで、ミーが会社に対してYのセクハラ行為を訴えたところ、Yは自己保身のために、セクハラ行為を否定するだけでなく、他の社員に対してミーが淫乱であるなどと繰り返し述べて、職場環境を悪化させ、ミーの職場復帰を不可能なものにしました。

    さらに同時期にYは、Yがミーと肉体関係を持つために、ミーと親しい女性支店長ケイ(仮名)に対しても上司の立場を利用して、車で迎えに来るように命じ、車の中でミーのことを監視することにした旨を述べるともに、ケイがミーに対し、「専務のことが好きなんでしょ。抱かれれば。」などとYがミー肉体関係を持てるように協力するよう要請しました。

    ケイがこれを拒絶し会社に対してセクハラ行為を訴えると、Yは、自己のセクハラを否定するだけでなく、他の社員に対して、ケイが「不倫をして仕事をとっている」「あいつは淫乱だ」などと言ったりして、職場環境を悪化させ、ケイの職場復帰も不可能なものにしました。

    裁判所は、このYのミー及びケイに対する行為を不法行為であると認定し、これらの行為が会社の内部で、会社の専務取締役という立場で行われていたことから、会社にも賠償義務(使用者責任)があると認定されました。

    会社は、ミーとケイがセクハラ行為による被害を訴えたことによって会社を混乱させたとして減給処分としていたことから、それまで支払われていた給与と減給後の給与の差額について支払いを命じられたほか、Yのセクハラ行為がなければあと1年間は働けたとして、1年分の給与についても支払いを命じられました。

    結局、会社は、2人に対し、3,000万円を超える支払いを命じられることになったのです。

    皆さん、いかがだったでしょうか。

    一人の専務取締役の軽率なセクハラ行為により、会社が3,000万円を超える賠償義務を負うこととなったのです。

    このようなセクハラ行為が社内で起こらないようにするには、専門家とともに、普段からの社員教育や相談窓口の設置、セクハラがあったときの懲戒制度(就業規則への明記)などのセクハラ防止の社内体制づくりを早急にしなければいけません。

    また、セクハラが発覚した後の事後対応も重要です。

    今回も対応を間違ってしまったところに、多額の賠償金が科せられた原因があります。

    そうしないと、知らないところで3,000万円を超える賠償義務を突然負って、倒産の危機に陥る可能性があることをご理解いただけたと思います。
    みらい総合法律事務所では、セクハラ防止のための研修・社内制度の確立・社員からの通報窓口などをお受けしております。

    また、労働トラブルでお悩みの経営者様の相談を承ります。

    相談は、こちらから。
    http://roudou-sos.jp/

  • 減給は自由にできません【労働】

    2014年12月28日

    社員の給料最初、会社と社員の合意で定められます。

    その後は、会社の給与規定などに基づき変動してゆくのが通常です。

    社員の給料が上がる時にはトラブルは発生しませんが、社員の給料を下げようとした時は、労使トラブルが勃発します。

    会社が、社員の給料を下げたいと考える理由としては、会社の経営状況による場合や、社員自身が原因である場合など様々です。

    今回は、社員の給料を下げる場面として、

    ①経営難を理由として給料を下げる場合
    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合
    ③懲戒処分として減給をする場合

    に分けて説明したいと思います。

    ①経営難を理由として給料を下げる場合

    経営難を理由として社員全体の給料を下げる場合には、社員の同意なしには行えないのが原則です。

    労働条件を社員に不利益に変更するには、原則として社員の同意が必要となるためです。

    もっとも、会社が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、変更後の就業規則を社員に周知させ、かつ、その内容が下記要素から考えて合理的である場合には許されます。

    (1)社員の受ける不利益の程度
    (2)労働条件の変更の必要性
    (3)変更後の就業規則の内容の相当性
    (4)労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

    会社の存続自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況にあるときは、労働条件の変更による人件費抑制の必要性が極度に高い上、労働者の被る不利益という観点からみても、失職したときのことを思えばなお受忍すべきものと判断されます。

    そのような場合には、多数の労働者が反対している場合であっても、就業規則の変更により給料を下げることが許されるといえます。

    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合

    まず、年度ごとの人事考課等の結果として給料の額が減額することについては、あくまで賃金の計算方法に過ぎず、人事考課制度の枠内で行うのであれば、裁量権の濫用に当たらない限りは問題なく行うことができます。

    次に、人事権の行使として、成績不振を理由として、部長が社員に降格する場合や、部長が係長に下がる場合など、人事権に基づく役職や職位の降格の場合には、雇用契約の上で使用者の当然の権限として認められるものであり、人事権の濫用にあたらない限り問題なく行うことができるといえます。
    ③懲戒処分として給料を下げる場合

    まず、懲戒処分として減給をする場合には、懲戒処分の前提として、次の要件が必要です。

    (1)就業規則に懲戒処分の規定があること
    (2)就業規則が社員に周知されていること
    (3)就業規則で定められる懲戒事由に該当する行為があったこと
    (4)当該処分が労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること

    特に、減給は、労働者の生活への影響が大きいことから、十分な理由が必要となると考えるべきでしょう。

    さらに、減給処分が有効であったとしても、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えて減給をすることは法律上禁止されています。

    会社の側としては、もっと下げられるのではないかと考えられている方も多いと思いますので注意をしなければなりません。

    以上、社員の給料を下げる場面として3つに分けて説明をしてきました。

    どちらにしても、給料を下げることは、社員の生活に与える影響が大きく、後に紛争となるケースも少なくありませんので、専門家と相談をしながら慎重にすすめるとよいでしょう。

    労働相談は、こちらから。
    http://roudou-sos.jp/