弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 13
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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  • 酒の席での口約束に効力はあるのか?

    2014年12月26日

    年末年始は、何かとお酒を飲む機会が増えるものです。

    酔った勢いで気が大きくなって、ついつい大風呂敷を広げてしまった…、安請け合いをして、あとから後悔するハメに…そんな経験をした人もいるのではないでしょうか。

    今回は、お酒に酔って仕事の契約をしてしまったらしい方からのご相談です。

    Q)食品会社を経営する者です。先日、ある取引先の社長、専務と飲み会をしました。その席に、私は初めてお会いした別会社の社長Aさんと営業部長Bさんがいました。みなさん、お酒が好きで私もついつい飲みすぎました。後日、そのAさんから電話があり、「先日の案件について契約を結びたい」といいます。どうやら、お酒の席で契約の約束をしたようなのですが、私はその場のノリで応えたつもりでした。取引先の社長に確認すると、Aさんは本気らしいといいます。まさか…いや、本気ならば困ったことに…。酒の席での口約束に効力はないですよね? 法律的にどうなのか教えてください。

    A)法律上は口約束でも契約は成立します。契約書がなければ契約の効力はない、というわけではないのです。ただし、訴訟となった場合には、①口約束の内容に契約書に相当するような具体性があるか、②契約内容について双方が合意しているか、③それらを、訴えを起こした側がきちんと証明できるか、が争点となってきます。
    【契約とは】
    法人を含む人と人との間で、何らかの私法上の効果を生じさせる(権利義務を発生させる)合意のことを「契約」といいます。

    たとえば、ある物を「売りたい人」と「買いたい人」との間で意思表示が合致すれば、売主はその物を引き渡す義務と、代金を請求できる権利を取得します。
    一方、買主は代金を支払う義務と、物を請求できる権利を取得するという私法上の効果が生じます。

    また、当事者間で意思表示の合致があれば、契約の内容も当事者間で自由に決めることができるのが原則です。
    これを、「契約自由の原則」といいます。

    契約は、基本的には当事者がお互いに納得していれば(意思表示が合致していれば)、契約書がなくても成立しますし、内容も自由に決定できるのです。

    ただ、事はそう簡単ではありません。

    【裁判における立証責任とは】
    裁判では、原則として訴えを起こした側に立証責任があります。

    ご相談のケースでは、仮に相手の社長Aさんが民事訴訟を起こした場合、飲み会で口約束した契約の内容をAさんが具体的に証明する必要があります。

    「言った」「言わない」の論争になるでしょう。

    また、酒席で、「売ります」「買います」と言ったことを立証できたとしても、それだけで契約が成立した、と認定されることは少ないでしょう。

    当事者の意思解釈としては、「売るつもりがあるので、別途打ち合わせしましょう」「買うつもりがあるので、別途打ち合わせしましょう」という趣旨であるとされるのが一般的でしょう。

    どうしても、酒席で契約を成立させたかったら、その場で、契約書を作成し、契約書の末尾に「酒席での契約ではあるが、双方細部まで確認し、真に契約を成立させる合意をした」旨記載しておくべきでしょう。
    また、その場に第三者がいる場合には、「双方契約の意思を確認しました」と、立会人として署名捺印をもらっておくとよいでしょう。

    法律の建前と現実は、異なる、ということです。

    ですから、「法律ではこうなっているよ」と言っても、現実には役に立たないこともありますので、注意が必要ですね。

    【契約書の重要性】
    契約書の作成は契約の成立要件ではありませんが、口約束ではあとから「そんな契約はしていない」、「契約の内容が違う」などと言われ紛争になる可能性があります。
    そうした紛争を未然に防ぐためにも、やはり契約書を作成するべきです。

    近年は、取引内容が複雑化している傾向があります。
    契約書に、きちんと契約内容を整理して明確化しておくことが、取引関係を良好に維持していく上で非常に重要となってきています。

    また、日本でも紛争解決の手段として裁判を起こすケースが増えてきましたが、裁判で重要な証拠となるのが契約書、覚書、合意書等の書面なのです。

    いずれにせよ、今回のケースでは相談者の方は社長Aさんに対し、酒の席での非礼をお詫びして理解してもらうのがよいでしょう。
    その上で、新たな商談など進めていければ、いい関係が築けるかもしれません。

    それでも、紛争に発展するような場合は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

    相談はこちらから⇒「顧問弁護士相談SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/
    「酒と人間とは、絶えず戦い絶えず和解している
    仲のよい2人の闘士のような感じがする。
    負けたほうが勝ったほうを抱擁する」
    (シャルル・ボードレール/フランスの詩人・評論家)

  • 社労士限定の勉強会を開催します。

    2014年12月22日

    2015年1月16日(金)18時~19時30分に、社労士限定の勉強会を開催します。

    タイトルは、

    「固定残業代を極める~弁護士の解説セミナー」

    です。

    近時、固定残業代制度を採用する企業が急速に増えています。

    企業側としては、見た目の給与を高額にしつつ、時間外手当の増大を抑制できるというメリットがあります。

    労働者としても、能力のある労働者は効率よく仕事をして残業なしに帰っても、能力が低く残業をせざるを得ない労働者と同額の賃金を得ることができる、というメリットがあります。

    しかし、近時、裁判例では、この固定残業代制度が適用される要件を厳しく判断する判例が相次いでおり、

    また、最高裁平成24年3月8日判決のテックジャパン事件で補足意見が出されたこともあり、
    専門家の間でも有効性についての議論が分かれているところです。

    そこで、固定残業代制に関する判例を総ざらいするとともに、これが有効となるような要件について、勉強会をしたいと思います。

    当事務所は、社労士の先生方のリーガルスキルの向上に寄与し、労使トラブルを撲滅することによって、日本経済に貢献したいと考えています!奮ってご参加ください。

    定員20名でしたが、もう26名のお申し込みをいただいたので、定員30名に増員しました。

    お申し込みはお早めに。

    http://myhoumu.jp/seminar/roudou08.html

  • 不倫で訴えられたら?

    2014年12月22日

    ★不倫の損害賠償を請求されたら?

    世の中、不倫の話をよく聞きます。

    不倫をする人は、相手の配偶者から損害賠償請求をされることをご存じなのでしょうか?

    相手の配偶者から内証証明郵便が来た段階で、ご相談にいらっしゃいます。

    言い分は色々あるでしょうが、訴えられた人の戦い方にはパターンがあります。

    不倫による損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。

    要件は、

    ・故意または過失があること
    ・相手に損害があること
    ・違法性があること
    ・行為と損害との間に因果関係があること

    などです。

    そこで、この要件を切り崩してゆけるかどうか、検討することになります。

    【故意または過失がないこと】

    これは、

    「結婚しているとはしらなかった」
    「婚姻関係が完全に破綻していると聞いていた」

    などと言うものです。不倫していた人が騙されたような場合ですね。

    そう信じたことに過失がない場合で、主観面を重視しますが、客観的に立証しなければなりません。
    【相手に損害がないこと】

    これは、不倫相手の夫婦間の婚姻関係が破綻しているため、相手に精神的損害がない、と主張するものです。

    客観面を重視します。

    大きくは、上記2つで対応することになります。

    証拠が命です。

    上記戦略が取れないときは、なんとか和解で解決するよう交渉することになります。

    逆に、不倫をされた配偶者の方が損害賠償する時も、上記2つの主張をされないよう、証拠を固めておく必要があります。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 詐害行為取消訴訟を起こされたら?

    2014年12月21日

    債務超過にある会社または個人が、財産を贈与など流出させた後、突然裁判所から訴状が届く場合があります。

    訴状を見ると、「詐害行為取消」などと見慣れない言葉が書いてあります。

    「詐害行為取消権」(サガイコウイトリケシケン)とは、債務者が、債権者に弁済できないことを知ってした贈与などの法律行為の取消を裁判所に請求できる権利です。民法第424条に定められています。

    たとえば、債務超過にある会社の社長が、銀行に連帯保証していることから、「自宅だけは守りたい」と考えて、自宅の所有権を妻に贈与したような場合です。

    このようなことをすると、会社の債権者である信用保証協会などから、詐害行為取消訴訟を起こされ、自宅の所有権を社長に戻すよう請求されます。

    この時訴えられるのは、社長と妻です。

    そして、訴訟に先立って、自宅の所有権を、また第三者に変えられないように、「処分禁止の仮処分」がなされることが多いでしょう。
    詐害行為取消権の要件は、次のとおり。

    (1)その行為によって、債権者に支払う原資となる債務者の総財産が減少して、その結果、債権者に全額弁済ができなくなってしまうこと。

    (2)その行為が債権者を害することを、債務者も、転得者(上述の例での妻)も知っていたこと。

    したがって、贈与などをしたとしても、残りの財産で、債権者に対して、債務全額の弁済をできるような場合には詐害行為にはなりません。

    また、善意の第三者の譲渡したような場合には詐害行為にはなりません。
    ということは、詐害行為取消訴訟を起こされた時の防御法としては、次の点を検討することになります。

    (1)客観的に債務超過状態と言えるのか
    (2)債務者本人は、その行為によって債権者を害することを知っていたのか
    (3)転得者(上述の例での妻)は、その行為によって債権者を害することを知っていたのか

    このあたりの事情により、徹底的に争うのか、あるいは、和解を狙っていくのか、が決まってきます。

    訴訟の見通しと戦略が重要だと言えるでしょう。

    ご相談は、こちら。
    http://www.sai-sei.biz/consult/

  • テレビ朝日「Qさま」出演

    2014年12月21日

    2014年12月15日放送のテレビ朝日「Qさま」に出演しました。

    内容としては、戦国時代に関する疑問で、現代の弁護士から見て、戦国時代の法制度にどのような疑問があるのか、という点を質問するというものです。

  • 既婚男性との別れ~慰謝料請求するか、されるか!?

    2014年12月21日

    11月に亡くなった俳優の高倉健さんの代表作のひとつ、映画『駅 STATION』(1981年)に、こんなシーンがあります。

    暮れも押し迫った12月30日、帰省のために降り立った北の町のある居酒屋に、健さん演じる英次がふらりと立ち寄ります。
    明るさの中にも、不幸の影を持つ女将を演じるのは倍賞千恵子さん。

    2人で熱燗を飲みながら、倍賞さん演じる桐子がこんなことを言います。
    「水商売やってる子にはね、暮れから正月にかけて自殺する子が多いの。なぜだかわかる? 男が家庭に帰るからよ。どんな遊び人の男でも、正月くらいは自分の家にいる。そんなとき、独り身の寂しさをしみじみ感じるのよ」

    脚本は、ドラマ『北の国から』で有名な倉本聰さん。
    実際のところは分かりませんが、倉本さんが札幌の飲み屋でホステスから聞いた話を元にしたそうです。

    古今東西、男と女の問題は後を絶ちません。

    今回は、別れ話をしてきた男性への慰謝料請求のご相談です。

    Q)妻子のあることをわかっていて、ある男性を好きになり、4年間いっしょに暮らしました。「妻とは離婚するから、結婚しよう」と言われ信じていたのですが、私が妊娠すると手のひらを返したように別れ話を切り出してきました。慰謝料の請求をしたいのですが可能でしょうか?

    A)ただ、つき合っていたというだけでは慰謝料請求は認められません。

    反対に、男性の妻から、不貞行為を理由とする慰謝料請求をされる可能性があります。

    しかし、事実婚(内縁関係)として長期にわたり同棲していた、妊娠したということなので、男性に対して「不法行為」や「貞操侵害」を理由とした慰謝料請求が認められる可能性があります。
    【事実婚とは】
    法が定める婚姻届の手続きをしていないため入籍はしていないが、長期間の同棲など事実上の夫婦と変わりない生活を送っていることを事実婚といいます。
    また、内縁関係ともいいます。

    法律的には、内縁関係は「婚姻に準ずる関係」として保護されています。
    しかし、正式な夫婦に認められるものでも保護されないものもあります。

    たとえば、財産などの相続権は認められませんし、子供を嫡出子として届け出ることもできません。

    ちなみに、同棲は一時的な男女の共同生活に過ぎないとみなされることから、内縁関係のような権利義務は発生しません。

    また、原則、内縁で夫婦関係を結んでいたとしても、男性に妻子があることを女性が知っていた場合は「不倫関係」となり、女性の貞操侵害を理由とした慰謝料請求は認められません。

    ただし、男性の違法性が著しく大きい場合には認められるケースがあります。
    【判例】
    妻子のある上司の男性が、19歳の異性経験のない女性につけこみ、嘘をついて肉体関係を持ち、妻とは離婚して女性と結婚すると言って妊娠させ、出産後に一方的に別れた事案。
    最高裁は、男性側の違法性が著しく大きい場合は、女性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求は認められる、とした。
    (最高裁判決 昭和44年9月26日 判例時報573-60)
    27歳の男性が、妻子がいるにもかかわらず19歳の女性に対し「妻とは別れる」と言い妊娠させ、いっしょに暮らし始めたものの子供が生まれた後、別れた事案。
    女性は男性に対し、2,000万円以上の慰謝料を請求したところ、裁判所は男性が与えた精神的は苦痛大きいとしたものの、女性は男性に妻子があることを交際したのであって、女性にも責任があることは否定できない、として300万円の慰謝料を認めた。
    (京都地裁判決 平成4年10月27日 判例タイムズ804号156頁)

    今回の相談者の場合も、まず相手との示談交渉を行い、合意に至らない場合は、裁判をするという手続きになるでしょう。

    当事者同士の話し合いがまとまらない、または手続きが難しいようであれば弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

    「20歳の顔は自然から授かったもの。
    30歳の顔は自分の生き様。
    だけど50歳の顔には、あなたの価値がにじみ出る」
    (ココ・シャネル/フランスのファッションデザイナー)

  • 遺言書で自分の取り分がなかったら?

    2014年12月21日

    ★遺言書で自分の取り分がなかったら?

    たとえば、親が亡くなって、相続が発生したと思ったら、遺言書が出てきて、自分以外の人に、全ての財産を相続させる、と書いてあったら、どうでしょうか?

    ショックですね。(>_<)

    自分の取り分がゼロになってしまいます。

    しかし、その場合でも、法律は、救済策を作っています。

    「遺留分」という制度です。

    遺留分というのは、遺言書でも取り上げることのできない、相続人の取り分のことなのです。

    たとえば、相続人が妻と長男、次男の3人だったとして、「妻に全ての財産を相続させる」という遺言書があるとします。

    その場合、長男と次男には、財産に対し、4分の1ずつの遺留分がありますので、妻から、その分を分けてもらうことができます。

    この遺留分は、一定の事実を知った後1年以内に請求しないと、権利が消滅してしまいますので、ご注意ください。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 労働セミナー2015年1月21日開催です。

    2014年12月20日

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    【会社経営者の方へ】
    近年、社員が起こした労働トラブルによって、
    会社(経営者)が大きな損害をこうむるケースが増えています。

    残業代の請求、解雇トラブル、機密情報の流出などなど。

    そのなかでも、残業代請求は、近時増加しており、
    賃金体系をどうするか、労働時間管理をどうするか、
    そして、残業代請求に対してどう対処するか、
    などについて企業は頭を悩ましています。

    企業は労働時間を管理する義務があり、
    労働時間の把握を怠ると、裁判上不利に働きます。

    そこで、労働時間管理と残業代問題について、
    裁判例を分析しつつ、適切な制度設計を解説します。

    適切に対処しなければ、経済的な損失だけではなく、
    他の優秀な社員や今まで築き上げた
    社会的な信用まで失ってしまうかもしれません。

    労働時間の把握を怠ったために、
    何千万もの出費を余儀なくされるケースもあります。

    そこで、「労働時間管理と残業代問題」について
    弁護士解説セミナーを行います。

    【1月21日(水)開催 定員20名】

    本セミナーで労働時間管理、残業代問題、
    制度設計の知識を身につけておきましょう。

    労働時間管理と残業代問題 弁護士解説セミナー
    ⇒ http://myhoumu.jp/seminar/roudou07.html

  • 労働審判が申し立てられたら?

    2014年12月20日

    ★労働審判が申し立てられたら?【経営者向け】

    会社に突然、労働審判申立書が届く場合があります。

    多くは解雇・退職した労働者や残業代支払を求める労働者からです。

    その場合、会社は、ただちに対応を迫られることになります。

    裁判は、1年くらいかけてゆっくり進んでいきますが、労働審判はかなりのスピードで進んでいき、準備を周到にしないと不利に展開してしまうためです。

    労働審判制度は原則として3回という限られた期日で審理を終結することとなっており、第1回期日から実質的な審理を行うために、労働審判を申し立てられた者にも、提出期限までに、予想される争点、争点に関する重要な事実、争点ごとの証拠を記載した答弁書、証拠書類の提出が求められます。

    第1回期日で証拠調べを終えてしまい、解決してしまうこともあるくらいです。

    裁判とはスピード感が圧倒的に違うのです。

    ですから、会社としては、労働審判申立書が届いたら、ただちに対処する必要があります。

    そして、労働法は知識がないと、全く戦いになりません。

    営業社員に残業代請求をされた時に、「成績を上げない社員に残業代など払う必要がない。逆に給料泥棒だ」などと言っていると、負けてしまいます。

    すぐに弁護士に依頼し、すぐに会社側の戦略を決め、すぐに証拠を集めていかなければならないのです。

    その点は、くれぐれもご注意ください。

    労働相談は、こちらから。
    http://roudou-sos.jp/

  • 社員の給料を下げられない?

    2014年12月15日

    ★社員の給料を下げられない場合とは?

    社員の給料最初、会社と社員の合意で定められます。

    その後は、会社の給与規定などに基づき変動してゆくのが通常です。

    社員の給料が上がる時にはトラブルは発生しませんが、社員の給料を下げようとした時は、労使トラブルが勃発します。

    会社が、社員の給料を下げたいと考える理由としては、会社の経営状況による場合や、社員自身が原因である場合など様々です。

    今回は、社員の給料を下げる場面として、

    ①経営難を理由として給料を下げる場合
    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合
    ③懲戒処分として減給をする場合

    に分けて説明したいと思います。

    ①経営難を理由として給料を下げる場合

    経営難を理由として社員全体の給料を下げる場合には、社員の同意なしには行えないのが原則です。

    労働条件を社員に不利益に変更するには、原則として社員の同意が必要となるためです。

    もっとも、会社が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、変更後の就業規則を社員に周知させ、かつ、その内容が下記要素から考えて合理的である場合には許されます。

    (1)社員の受ける不利益の程度
    (2)労働条件の変更の必要性
    (3)変更後の就業規則の内容の相当性
    (4)労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

    会社の存続自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況にあるときは、労働条件の変更による人件費抑制の必要性が極度に高い上、労働者の被る不利益という観点からみても、失職したときのことを思えばなお受忍すべきものと判断されます。

    そのような場合には、多数の労働者が反対している場合であっても、就業規則の変更により給料を下げることが許されるといえます。

    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合

    まず、年度ごとの人事考課等の結果として給料の額が減額することについては、あくまで賃金の計算方法に過ぎず、人事考課制度の枠内で行うのであれば、裁量権の濫用に当たらない限りは問題なく行うことができます。

    次に、人事権の行使として、成績不振を理由として、部長が社員に降格する場合や、部長が係長に下がる場合など、人事権に基づく役職や職位の降格の場合には、雇用契約の上で使用者の当然の権限として認められるものであり、人事権の濫用にあたらない限り問題なく行うことができるといえます。
    ③懲戒処分として給料を下げる場合

    まず、懲戒処分として減給をする場合には、懲戒処分の前提として、次の要件が必要です。

    (1)就業規則に懲戒処分の規定があること
    (2)就業規則が社員に周知されていること
    (3)就業規則で定められる懲戒事由に該当する行為があったこと
    (4)当該処分が労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること

    特に、減給は、労働者の生活への影響が大きいことから、十分な理由が必要となると考えるべきでしょう。

    さらに、減給処分が有効であったとしても、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えて減給をすることは法律上禁止されています。

    会社の側としては、もっと下げられるのではないかと考えられている方も多いと思いますので注意をしなければなりません。

    以上、社員の給料を下げる場面として3つに分けて説明をしてきました。

    どちらにしても、給料を下げることは、社員の生活に与える影響が大きく、後に紛争となるケースも少なくありませんので、専門家と相談をしながら慎重にすすめるとよいでしょう。

    労働相談は、こちら
    http://roudou-sos.jp/