宿題代行業は、詐欺罪!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
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宿題代行業は、詐欺罪!?

2014年08月29日

今年の夏も、もうすぐ終わりますね。

仕事に遊びに、みなさんはどんな夏を過ごしたでしょうか。

地域によって、期間には多少の違いがあるようですが、学生たちの夏休みも、もうすぐ終わります。

子供の頃、怠けていたばっかりに夏休みの終了直前になって、バタバタと宿題をやったり、親に怒られながらも手伝ってもらったという経験のある人も多いのではないでしょうか。

ところで、親が手伝ってあげるのはまだしも、親がお金を払って宿題代行業者に依頼するケースもあるようで、教育評論家のあの方が、そんな現状に激怒しているようです。

「尾木ママ“宿題代行業は詐欺罪だ”」(2014年8月27日 デイリースポーツ)

宿題代行業が大繁盛している現状に対して、「尾木ママ」こと、教育評論家の尾木直樹さんが自身のブログで激怒。
「子どもたちに対しては教育犯罪そのもの」「れっきとした詐欺罪です」と厳しく指摘したということです。

小中学生の宿題を代行する宿題代行業は、読書感想文や絵画、工作などを代行して制作。
ネット上では、読書感想文1枚3000円、絵画1枚4000円などの代金も表示されているようです。

尾木さんは、「お金でなんでもできるという歪んだ価値観教えることになります」、「こういう闇悪徳業者は追放するべきですね」などと訴えているということです。
他の報道では、「依頼主は病気で手がつけられない場合や、受験で忙しくて宿題に手が回らない人」という業者もいるようですが、やはり許される商売ではないでしょう。私も尾木さんには同感です。

ところで、ここで疑問が湧いてきます。
尾木さんは「詐欺罪だ」と書いていますが、実際法的には業者は詐欺罪になるのでしょうか?
まずは条文を見てみましょう。

「刑法」
第246条(詐欺)
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
「詐欺罪」が認められ成立するには、その構成要件を満たしているかがポイントになります。

〇相手方を錯誤に陥らせ、財物や財産上の利益を処分させるような行為をすること((欺罔行為や詐欺行為)
〇相手方が錯誤に陥ること(錯誤)
〇錯誤に陥った相手方が財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)
〇財物の占有または財産上の利益が行為者や第三者に移転すること(占有移転、利益の移転)
〇これら4つの間に因果関係が認められ、行為者に故意または不法領得の意思が認められること

なんだか、ややこしくて難しいですね。
簡単に言うと、次のような場合、詐欺罪が成立するわけです。

〇お金などを奪う目的で、Aが詐欺的な行為で故意にBをあざむく
〇BはAにあざむかれ、勘違いしてしまう
〇そこで、Bはお金などをAに渡す
〇Aはお金などを手に入れる

では、宿題代行業者の一件にこの要件を当てはめてみましょう。

業者が、初めからお金を奪う目的で「宿題を代行します」とウソを言って親からの依頼を受け、代金を受け取ったのに宿題を代行しなかったなら詐欺罪が成立します。

しかし、親は子どもの宿題が間に合わないので、ネットで見つけた業者にお金を払って宿題代行を依頼。
業者も商売として親から依頼を受け宿題を完成し報酬を得たわけですから、業者は親を騙しておらず、詐欺罪にはあたらないということになります。

ただ、宿題代行業は子ども本人の「宿題をやり遂げる力」や「正直に生きる機会」を奪い、「人生に損害を与える行為」をしたと考えれば、法律は別として国語辞典の定義である「詐欺」にはあたるかもしれませんね。

このように、刑法の「詐欺罪」と、国語辞典にある「詐欺」では概念が違うということは知っておいてもいいと思います。

さて、今回のような宿題代行業者は、犯罪になる可能性はないのでしょうか?

じつはあるのです。

「刑法」
第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
学校や塾は、教育業務を行っているのであり、そのために宿題を課します。その宿題をあたかも本人がやったように偽って他人が行っていたとすれば、適正な教育業務は遂行できません。

したがって、偽計(人を欺く計略)によって、学校や塾の教育業務を妨害した、と言えなくもないのです。

さて、世の中には、さまざざまな「詐欺的行為」がありますが、法的な解釈では、その扱いが違ってきます。

たとえば、結婚詐欺があります。
既婚の男性が、「結婚していない」といって女性をあざむいて交際した場合、ウソが発覚すれば女性は、「だまされた」「詐欺だ」と思うでしょうが、つきあっていただけなら刑法上の詐欺罪にはなりません。

ところが、「俺に賭けてくれ」「俺を信じてくれ」などと言って、女性からお金をだまし取ったら詐欺罪になります。

ただし、刑法には問えなくても女性が民事で男性を訴えることはできます。

「詐欺だ」というのと、刑罰を科される「詐欺罪」というのは、違う概念である、ということを憶えておきましょう。