ニュース | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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  • 緊急事態宣言の法律要件

    2020年04月03日

    新型コロナウイルスで緊急事態宣言が出るのではないか、という噂が流れています。

    海外の状況を見ると、外出が禁止され、むやみに外出すると、刑罰を科される、という国もあります。

    では、日本で緊急事態宣言が出された場合は、どうなるのでしょうか。

    この点については、法律に基づいて宣言が出されますので、法律を確認してみました。

    法律としては、2020年3月14日改正された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づいて行われます。

    緊急事態宣言は、政府対策本部長(内閣総理大臣)が区域と期間を示して行います(法32条1項)。

    内閣総理大臣の緊急事態宣言を受けて、都道府県知事が次のようなことを行います。(全てではありません)

    (1)住民に対し、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことなどを「要請」(法45条1項)

    違反した場合の罰則はありません。

    (2)学校、劇場、集会場、百貨店、ホテル、遊技場、キャバレーなどの施設管理者や催物開催者に対し、使用制限・使用停止・開催制限・開催停止などを「要請」(法45条2項)

    ⇒正当な理由なく応じない時は「指示」「公表」

    対象となる施設については、「新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令」11条に規定しています。
    http://ow.ly/VlaL50yYIpr

    (3)臨時の医療施設を開設するため、土地、家屋又は物資の所有者及び占有者の同意を得てこれらを使用(法49条1項)

    ⇒正当な理由なく同意しない等の場合で、「特に必要と認めるとき」は、不同意で使用(法49条2項)

    (4)医薬品、食品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品、燃料など(施行令14条)の所有者に対する売渡「要請」(法55条1項)

    ⇒正当な理由なく応じない時で、「特に必要があると認めるとき」は、「収用」(法55条2項)

    (5)(4)の物資を確保するため緊急の必要があると認めるときは、生産などを行う者に対し、保管を「命令」(法55条3項)

    ⇒命令に対して違反し、物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金(法76条)

    さらに緊急性が高くなると、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)も検討されることになります。以下、列記しますが、全てではありません。

    <建物への立ち入り制限、禁止>
    (1)都道府県知事は、一類感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある建物について、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、厚生労働省令で定めるところにより、期間を定めて、当該建物への立入りを制限し、又は禁止することができる。(32条1項)

    <建物封鎖>
    (2)都道府県知事は、前項に規定する措置によっても一類感染症のまん延を防止できない場合であって、緊急の必要があると認められるときに限り、政令で定める基準に従い、当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある建物について封鎖その他当該感染症のまん延の防止のために必要な措置を講ずることができる。(同条2項)

    <交通の制限又は遮断>
    (3)都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。(33条)

    では、緊急事態宣言は、どのような場合に出るのでしょうか。

    まず、今回の新型コロナウイルスが、緊急事態宣言の前提となる「新型インフルエンザ」に該当することが必要ですが、この要件は、「国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるもの(かかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度が、インフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められること)」です。(特措法32条1項、施行令6条1項、感染症法6条6項1号)

    これは、該当するでしょう。

    そして、緊急事態宣言の要件は、特措法32条1項が

    (1)全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼす場合

    又は、

    (2)政令で定める要件に該当した場合

    としています。

    そして特措法施行令6条2項は、次の場合に、要件に該当する、としています。

    ① 調査の結果、感染経路が特定できない場合

    ② 感染者等が、新型インフルエンザ等を公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合

    次に、「いつ出るか」です。

    手続きは、次のように進みます。

    (1)政府対策本部を設置

    (2)有識者等の意見を聴いて、「基本的対処方針」を決定

    (3)有識者等に緊急事態要件に該当するか聴取

    (4)内閣総理大臣による緊急事態宣言

    すでに、(1)、(2)は完了しています。

    そこで、今後、(3)で前述の緊急事態要件に該当する旨の意見があり、その後内閣総理大臣が会見し、その後、都道府県知事が会見する、ということになると、緊急事態宣言が出される可能性大、ということになるかと思います。

    なお、上記は、2020年4月1日時点での情報です。法律や政令がまた変わるかもしれませんので、チェックしていただくようお願いいたします。

  • 転職のために会社の営業秘密を持ち出し、逮捕

    2019年03月21日

    元社員による社外秘データの持ち出し事件が相次いでいるようです。

    「転職でシューズデータ持ち出し疑い、アシックス元社員逮捕」(2019年3月13日 産経新聞)

    兵庫県警生活経済課は、社外秘のシューズデータを退職前に不正に持ち出したとして、スポーツ用品大手「アシックス」(神戸市中央区)の元社員の男(31)を不正競争防止法違反(営業秘密領得)の疑いで逮捕した。

    2018(平成30)年3月から5月にかけて、容疑者の男は会社から与えられたIDとパスワードで社内のサーバーにアクセスし、営業秘密にあたるシューズの品質や性能に関するデータファイル約3万6000件を、私用のメールアドレス宛てに送信し、不正に持ち出した疑い。

    男は、約4年間にわたりシューズのデータ作成や性能分析などを担当していたが、同年5月末頃に同社を退職し、6月には別のスポーツ用品メーカーに再就職していた。

    「退職に際して自分の役に立つと思った」と容疑を認めているということで、兵庫県警は容疑者が不正に得たデータを再就職先に持ち込んだ疑いについても調べるという。

    「社外秘の実験データ持ち出し疑い 臨床検査機器メーカーの元社員を書類送検 京都府警」(2019年3月8日 毎日新聞)

    京都府警上京署は、臨床検査機器・試薬メーカー「アークレイ」(京都市上京区)から遺伝子検査装置のデータなど社外秘の情報を不正に持ち出したとして、元社員の男(38)を書類送検した。
    容疑は、不正競争防止法違反(営業秘密領得)。

    事件が起きたのは、2018(平成30)年5月18日。
    容疑者の男は、同社のサーバーから16件の遺伝子検査装置の実験データをUSBメモリーを介して私有パソコンに複製。
    さらに、同年6月6日にも社有パソコンから1件の会員リストを自分宛てに電子メールで送り、不正に持ち出した。

    調べによると、これまで男は同社サーバーから2万件以上の情報を私有パソコンに複製しており、中には京都大医学部付属病院から提供を受けた遺伝子検査データも含まれていたという。

    退職願提出後、社内調査でサーバーへのアクセスが発覚し、懲戒解雇。
    同社は同年11月に刑事告訴していた。

    男は、「(転職する)今後の参考のため持ち出した」と容疑を認めているという。

    【不正競争防止法とは?】
    「不正競争防止法」は、1993(平成5)年に旧不正競争防止法が全部改正されて成立したものです。

    その目的は次のように規定されています。

    「不正競争防止法」
    第1条(目的)
    この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

    不正行為にはさまざまなものあり、第2条では次のようなものが定義されています。

    「周知表示混同惹起行為」(第1号)
    既に知られているお店の看板に似せたものを使用して営業するなどの行為。

    「著名表示冒用行為」(第2号)
    ブランドとなっている商品名を使って同じ名前のお店を経営するなどの行為。

    「商品形態摸倣行為」(第3号)
    ヒット商品に似せた商品を製造販売するなどの行為。

    「技術的制限手段に対する不正競争行為」(第11・12号)
    CDやDVD、音楽・映像配信などデジタルコンテンツのコピープロテクトを解除したり、アクセス管理技術を無効にする機器やソフトウェア、プログラムなどを提供するなどの行為。

    「原産地等誤認惹起行為」(第14号)
    原産地を誤認させるような表示、紛らわしい表示をして商品にするなどの行為。

    「競争者営業誹謗行為」(第15号)
    ライバル会社の商品を特許侵害品だとウソを流布して、営業誹謗するなどの行為。

    「代理人等商標無断使用行為」(第16号)
    外国製品の輸入代理店が、そのメーカーの許諾を得ずに商標を使用するなどの行為。

    【営業秘密に関する不正行為とは?】
    今回の事件のような営業秘密に関する不正行為は、第2条の第4号~第10号に規定されています。

    ・企業が秘密として管理している製造技術上のノウハウ、顧客リスト、販売マニュアルなどを窃取、詐欺、強迫、その他の不正の手段により取得する行為、また取得した営業秘密を自ら使用したり、開示する行為。(第4号)

    ・不正に取得した情報を第三者が取得、使用、開示する行為。(不正に取得された情報だということを知っていた場合は第5号、あとから知った場合は第6号)

    ・営業秘密の保有者から正当に取得した情報でも、それを不正の利益を得る目的や、損害を与える目的で自ら使用または開示する行為(第7号)

    ・第7号で取得された情報を第三者が使用、開示する行為。(不正に開示された情報だということを知っていた場合は第8号、あとから知った場合は第9号)

    ・第4号~9号に掲げる行為により生じた物を譲渡し、引き出し、また譲渡や引き渡しのために展示し、輸出・輸入し、電気通信回線を通じて提供する行為。(第10号)

    なお、領得とは自分や第三者のものとする目的で他人の財物を不法に取得するという意味なので、今回の事件は第4号の違反に該当することになります。

    【不正競争防止法の罰則は?】
    近年、企業の営業秘密が不正に持ち出され、海外の競合会社に流出するという事件が相次いだため、2016(平成28)年から不正競争防止法の罰則が強化されています。

    個人の場合は、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、またはこれを併科されます。
    なお、海外企業への秘密漏洩の場合の罰金は3000万円以下となっています。(第21条)
    また、法人の場合はさらに厳しく、罰金刑は5億円以下、海外への流出では10億円以下となっていますから、かなり重い罰則が科せられることになります。

    企業側にも危機管理と自己防衛の意識が必要だと思います。

  • 「俺の服の臭いをかげ!」で、逮捕

    2018年12月19日

    今、日本語の「変態」が、主に海外の英語圏の国々では「Hentai」という俗語(スラング)として使われているそうです。

    何を意味するのかは、みなさんで調べてほしいのですが、今回は変態の本家(?)であるここ日本で、ある男が逮捕されたという事件について解説します。

    一体、何をしでかしたのでしょうか?

    「服のにおい女性に嗅がせた51歳男逮捕」(2018年12月12日 毎日新聞)

    群馬県警前橋署は、自分の服のにおいを女性に嗅がせようとしたとして、埼玉県上里町の会社員の男(51)を強要容疑で逮捕したそうです。

    報道によると、逮捕容疑は今年(2018年)3月18日午前0時半頃、埼玉県上里町のショッピングモール駐車場に自動車を止めた容疑者の男が、車内で20代の知人女性を「最後だからいいじゃん」などと脅し、自分が着用した衣服のにおいをかがせたとしていいます。

    男は前橋市にある総合企画会社の部長で、女性とは仕事を通じて2年前に知り合い、その後、贈ったランニングシューズを女性がマラソン大会で使わなかったことからトラブルになっていたそうです。

    同署によると、男は「脅かしてかがせたわけではない」と容疑を一部否認しているといいます。

    強要罪というのは、相手に義務のないことを強要して、やらせた場合に成立する罪です。

    「刑法」
    第223条(強要)
    1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
    2.親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
    3.前2項の罪の未遂は、罰する。

    同じような罪に脅迫罪がありますが、こちらは相手に何らかの危害を加えることを告げるだけで成立します。

    ということは、今回の事件では被害者女性は容疑者の男の服の臭いをかいでしまったということなのでしょう。

    ところで、どのようなことを強要すると犯罪になるのでしょうか?
    近年に起きた強要事件について簡単に振り返っておきましょう。

    「示談書に署名強要容疑、弁護士逮捕 ネットカジノめぐり」(2018年11月24日 朝日新聞)

    大阪弁護士会所属の弁護士が自動車販売業の男らと共謀して20代男性を「署名せえへんかったら、わかっとるやろうな」などと脅し、損害賠償や慰謝料として現金5000万円の支払い義務があると認める示談書に署名させた。
    容疑者らは経営していたインターネットカジノ店をめぐって男性とトラブルになっていたという。

    「女子中学生にみだらな行為 私立大生を再逮捕 群馬県警」(2018年11月21日 産経新聞)

    埼玉県和光市の私立大学4年の男が中学3年の女子生徒にみだらな行為をし、その場面をスマートフォンで撮影・保存したとして、群馬県警館林署などは県青少年健全育成条例違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑いで男を逮捕した。
    男は他にも撮影した画像を第三者に送信すると少女を脅し、メッセージの返信を要求したとして強要の疑いで逮捕され、脅迫の罪で起訴されていた。

    「聴覚障害者を手話で脅す 強要疑い組長ら逮捕 警視庁」(2018年10月12日 産経新聞)

    警視庁組織犯罪対策特別捜査隊は、施設にかくまわれた知人男性を連れ戻すよう脅したとして、指定暴力団住吉会系組長の男(54)と自称会社員の男(44)ら男女3人を強要の疑いで逮捕した。
    2017(平成29)年6月9日、容疑者の男は東京都中央区の飲食店などで女性(65)を手話で脅し、「責任は女性にある」とする内容の文書を書かせたという。

    「山口組最高幹部、風俗情報誌の権利めぐり男性脅す…静岡県警、強要容疑で男女10人逮捕」(2018年1月21日 産経新聞)

    風俗店の無料情報誌や案内所の権利を返還するよう脅したとして、静岡県警は指定暴力団山口組系組長(69)ら男女10人を強要の疑いで逮捕した。
    2016(平成28)年11~12月頃、静岡市の繁華街で無料配布している風俗情報誌の発行権や無料案内所の運営権を、同県の男性(50)から元権利者である容疑者のうち1人に返還させようと共謀し、貸会議室などで男性を脅迫し、権利を譲渡させた疑い。

    「“そのバッタ食べてみろよ”バッタやふんを食べさせた15歳少年を強要の疑いで東京家裁に送致」(2017年6月13日 産経新聞)

    同級生の男子生徒(16)に対し、バッタを口に入れさせたり、犬のふんを食べさせたりしたとして、東京地検は少年(15)を強要の疑いで東京家裁に送致した。
    事件当時、2人は練馬区の区立中学3年生だった。

    「ホースで水かけ“パンツ脱げ”…男性部下を全裸にさせた容疑で上司逮捕」(2017年3月31日 産経新聞)

    滋賀県警近江八幡署は、近江八幡市内のガソリンスタンドで部下の男性アルバイト店員(22)を脅して全裸にさせたとして、ガソリンスタンド運営会社社員の男(35)を強要の疑いで逮捕した。
    2016年7月2日頃、アルバイト店員にホースで水をかけ、「びしょびしょやからパンツもここで脱げ。俺の言うこと聞かんとどうなるかわかるやろ」などと脅して屋外で服を脱がせ、全裸にさせたという。

    何事も無理矢理はダメ、というより犯罪になる可能性があるということを覚えておいてください。

    みなさん、気をつけましょう。

  • 会社受付で騒ぐと業務妨害罪です。

    2018年12月07日

    今回は、会社の受付で暴れた男が逮捕されたという事件について解説します。

    「会社受付で騒ぎ、動画撮影 威力業務妨害容疑で男逮捕 警視庁」(2018年 11月29日 産経ニュース)

    警視庁組織犯罪対策3課は、自動車メーカーの受付で騒ぐなどして業務を妨げたとして、東京都の元医師の男(79)を威力業務妨害の疑いで逮捕しました。

    今年(2018年)9月下旬、容疑者の男は渋谷区の自動車メーカーの受付で同社総務担当の50代の男性社員をタブレット端末で撮影しながら、「全部載るから。お前も親も子もいるだろう」などと怒鳴りつけたうえで、動画を動画投稿サイト「YouTube」に投稿するなどし、同社の業務を妨害したようです。

    組対3課によると、容疑者の男は同社の株主で、事件当時は「株主の権利行使」として会社書類の閲覧を要求していたということです。

    男は株主総会で不規則発言などを繰り返す「特異株主」として知られており、上場企業など950社の株を保有。
    今年は約100社の株主総会に出席し、このうち1社で退場命令を受けていたということです。

    【威力業務妨害とは?】
    刑法には、人の業務を妨害する2つの罪が規定されています。

    「刑法」
    第233条(信用毀損及び業務妨害)
    虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    第234条(威力業務妨害)
    威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

    第233条は「偽計業務妨害罪」と呼ばれるものです。

    ・虚偽の風説の流布=客観的真実に反するウソの情報や噂を不特定多数の人に伝播させること
    ・偽計=人をあざむく計略
    ・毀損=こわすこと、損なうこと

    会社や店舗、公的機関などに嫌がらせ電話をかけたり、ウソの注文をする、あるいは、コンビニや飲食店でのいたずらを撮影して、その動画をSNSなどに投稿することなどは偽計業務妨害罪に該当します。

    一方、「威力業務妨害罪」は威力を用いて人の業務を妨害する罪ですが、法的な定義では威力とは次のようなことをいいます。

    「人の意思を制圧するような勢力をいい、暴行・脅迫はもちろん、それにまで至らないものであっても、社会的、経済的地位・権勢を利用した威迫、多衆・団体の力の誇示、騒音喧騒、物の損壊・隠匿等、およそ人の意思を制圧するに足りる勢力一切を含む」

    今回は、株主総会で騒いだわけではなく、会社の受付で騒いだことが、威力を用いた、と認定された、ということです。

    会社の受付で騒ぐ人は、時々いると思います。

    中には、正当な主張をしている人もいるでしょう。

    しかし、会社の業務を妨害するような態様で行う必要があるでしょうか。

    大声で怒鳴ったり、騒いだりすると、威力業務妨害罪が成立する可能性あがることを憶えておきましょう。

    また、会社の受付で正当な理由なく騒がれて、業務を妨害された場合には、警察に連絡するようにしましょう。

  • 衝突しない自転車事故でひき逃げが適用

    2018年12月06日

    今回は、自転車の走行中に人をひいていないにもかかわらず書類送検されたという珍しい(?)事故について解説します。

    一体、何が起こったのでしょうか?

    「イヤホンしたまま自転車走行 重体事故引き起こし逃走した医師を書類送検 警視庁」(2018年11月27日 産経新聞)

    警視庁蒲田署は、イヤホンをしたまま自転車に乗り、交差点で女性が一時意識不明になる事故を引き起こしたなどとして、東京都大田区在住の医師の男(30)を重過失致傷と道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で書類送検しました。

    事故の概要は次の通りです。

    ・事故が起きたのは、今年(2018年)5月11日午前8時20分頃。

    ・容疑者の男は勤務先の病院への通勤途中、イヤホンをつけたまま自転車を運転し、左右の確認をしないまま信号機のない交差点に進入したところ、右後方から走行してきた乗用車と出合い頭に接触した。

    ・乗用車は急ハンドルを切り、そのまま対向車線に進み、交差点の近くにいた自転車の女性(44)に衝突。
    女性は頭の骨を折り、一時、意識不明の重体に陥った。

    ・男は女性の救護措置をせず現場から立ち去り、途中で自転車を乗り捨ててタクシーで帰宅。
    その姿を周囲の防犯カメラがとらえていた。

    ・男は事故で破れた服を自宅で着替えてから病院に出勤していたが、「女性がケガをしたことに気づかなかった」と容疑を否認。

    ・また、同署は女性をはねた乗用車を運転していた男性会社員(28)についても、自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで書類送検した。

    ・女性は事故から半年以上経った現在も入院している。

    【ひき逃げは重罪】
    ひき逃げは、道路交通法で次のように規定されています。

    第72条(交通事故の場合の措置)
    1.交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者は……(以下省略)

    ここで、対象者は、「車両等の運転者その他の乗務員」とされています。

    自転車は、道路交通法では、「軽車両」とされており、「車両等」に含まれます。

    したがって、自転車で事故を起こし、負傷者が出た時は、自転車の運転者は、負傷者を救護しなければならないことになっています。

    次の措置を怠った場合、ひき逃げになります。

    ①ただちに運転を停止する。
    ②負傷者を救護する。(安全な場所への移動、迅速な治療など)
    ③道路での危険を防止するなど必要な措置を取る。(二次事故発生の予防)
    ④警察官に、事故発生の日時、場所、死傷者の数、負傷の程度等を報告する。
    ⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる。

    「大したことではない」、「バレなければ問題」などと、ひき逃げを軽く考えている人もいるようですが、ひき逃げは軽い罪ではありません。

    また、自転車でもひき逃げが適用されるのです。

    自動車の場合、ひき逃げは、「自動車運転死傷行為処罰法」では自動車運転処罰法違反(過失致死傷罪)と道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪で、最長で懲役15年の刑事罰になります。

    仮に、被害者が軽傷の場合でも、ひき逃げには非常に重い刑罰が科されることを知っておかなければいけません。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)」
    https://taniharamakoto.com/archives/1236/

    なお、ひき逃げに対する刑事罰は自動車と自転車の場合では違います。

    ・自動車の場合:10年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第117条2項)

    ・自転車の場合:1年以下の懲役又は10万円以下の罰金(第117条の5)

    【重過失致傷罪とは?】
    今回の事件では、道路交通法違反のひき逃げの他に重過失致傷が問われています。

    関連する条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第209条(過失傷害)
    1.過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。

    第210条(過失致死)
    過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。

    第211条(業務上過失致死傷等)
    1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

    ある行為をする際に、法律上要求される注意義務を著しく欠いている場合、重過失と判断されます。

    今回は、重大な過失(重過失)によって人にケガをさせたので重過失致傷でも立件されたわけです。

    直接、自転車で人をはねていない交通事故でひき逃げとして立件されるのは珍しいといえますが、近年、危険な自転車の運転の取り締まりが強化されていることと、容疑者の悪質な状況などから、東京地検への書類送検になったのだと思います。

    今後、容疑者には刑事罰だけでなく、さらに民事においては被害者への損害賠償が発生してきます。

    軽い気持ちで自転車に乗り、ながら運転で注意を怠り、事故が起きたら現場から逃走するなどというのは、あってはならないことです。

    くれぐれも注意してほしいと思います。

  • パワハラ防止に向けた法整備が本格化するそうです

    2018年11月22日

    パワーハラスメント(パワハラ)の防止に向けて、国が法整備を進める方針を示したので解説します。

    「パワハラ防止、企業の義務に 厚労省が法整備へ 」(2018年11月19日 日本経済新聞)

    厚生労働省は、厚労相の諮問機関である労働政策審議会の分科会を開き、働きやすい環境を作るには法律による規制が不可欠だと判断し、職場のパワハラの防止措置を企業に義務付けるため法整備する方針を示しました。

    同省は、働きやすい環境を作るには法律による規制が不可欠だと判断し、2019年の国会へ関連法案の提出を目指すとしています。

    【増え続けるパワハラ問題】
    近年、パワハラ問題が深刻化しています。

    今年(2018年)6月、厚生労働省は2017年度の「個別労働紛争解決制度」(労働者と企業間のトラブルを裁判に持ち込まず迅速に解決する制度)の実施状況に関するデータを公表しています。

    それによると、民事上の個別労働紛争相談件数は前年度比1%減の25万3005件でしたが、そのうちパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」については前年比1.6%増の7万2067件で、15年連続で増加しているうえに、内容別では6年連続で最多となっています。

    ちなみに、いじめ・嫌がらせ以外では「自己都合退職」が3万8954件、「解雇」が3万3269件と続き、「雇い止め」に関する相談は同15.7%増の1万4442件で過去最多になっています。

    【パワハラを規制する法律はない!?】
    現在、ハラスメントには50種類以上あるともいわれています。

    その中でも、たとえばセクシュアルハラスメント(セクハラ)は「男女雇用機会均等法」、マタニティーハラスメント(マタハラ)は「育児・介護休業法」などで、企業に相談窓口の設置といった防止措置が義務づけられています。

    しかし、じつはパワハラに関しては特別の法律による規制がなく、民法の損害賠償や刑法の刑事罰の法規などを適用しているのが現状です。

    【パワハラの定義とは?】
    そこで今年3月、厚生労働省は検討会がまとめた報告書を踏まえ、次の3つの要素を満たすものをパワハラの定義としています。

    (1)優越的な関係に基づく
    (2)業務上必要な範囲を超える
    (3)身体的・精神的な苦痛を与える

    たとえば、上司が業務の範囲を超えて、部下の人格を否定するような「死ね」とか「クズ」、「ゴミ」などの発言した場合はパワハラに該当する可能性が高いといえます。

    【企業側の主張は?】
    以前から企業側は、「指導との線引きが難しい」、「業務上の指導との線引きがあやふやでは、上司が部下への指導に尻込みして人材が育たない」、「中小企業には負担が大きい」などと主張し、パワハラの法規制に反対してきたようです。

    11月19日に開かれた労働政策審議会の分科会でも、「義務化するにしても、過去の判例を踏まえた定義の明確化が必要だ」と訴えた企業側の委員もいたということです。

    そこで厚生労働省は、「セクハラなどと同じ規制をパワハラにかけても企業の大きな負担にはならない」、「業務上適正な範囲内の指導はパワハラには当たらない」として、判断基準をわかりやすく示すため、典型的な類型や該当しない具体例も示す、としています。

    【労働者側の主張は?】
    労働側の委員はパワハラが社会問題になっている背景を踏まえて、防止措置だけでなく、ハラスメントの行為自体を禁止する規定を法律に盛り込むべきだと主張したようです。

    しかし、行為禁止は民法など他の法令との関係の整理や違法行為の明確化など課題が多く、厚生労働省は見送る方向としています。

    【法制度の整備で何が変わるのか?】
    厚生労働省は、今回示した対策方針で「パワハラ防止については、喫緊の課題であり、対策を抜本的に強化することが社会的に求められている」としたうえで、「防止措置を講じることを法律で義務づけるべき」と明記しました。

    では、パワハラに関して具体的に何がどう変わるのでしょうか。

    具体的な防止措置はこれから策定する指針で示すとしていますが、次のようなパワハラ防止措置を企業側に義務づけていくと考えられます。

    ・加害者への懲戒規定を作り、社内に周知・啓発する
    ・相談窓口を設置する
    ・社内調査体制を整備する(迅速な調査、被害者保護、加害者への懲戒など)
    ・被害者や加害者のプライバシーを保護する
    ・再発防止のために社員研修などを実施する
    ・被害相談を理由とした解雇など不利益な取り扱いを禁止し、周知する

    その他にも次のような内容が盛り込まれるようです。

    ・対策に取り組まない企業に対しては、厚生労働省が是正指導・勧告などの行政指導をして改善を求める。

    ・行政指導に従わない場合は、企業名を公表することができるとの規定を設ける。

    ・カスタマーハラスメント(顧客や取引先からの過剰なクレームなど)を「職場のパワハラに類するもの」と捉え、その防止策も労政審分科会に提示し、企業が講ずることが望ましい取り組みを指針に盛り込んで周知する。

    ・セクハラ対策を強化するため、男女雇用機会均等法に被害相談をした従業員に対して、解雇などの不利益な取り扱いをすることを禁じる規定を明記する。

    ・取引先などで従業員がセクハラを受けた時の対応や、社外で従業員がセクハラをしないよう配慮に努めることも指針で明確化する。

    ・「女性活躍推進法」を改正して、従業員301人以上の企業に対し女性管理職の比率や採用割合などを公表するよう義務づけているものを、従業員101人以上300人以下の企業に拡大する。

    これらパワハラに関する具体的な法制化の結果、実際にパワハラがなくなるかどうかは、各企業がどのような制度設計をするかに大きく影響されるでしょう。

    また、社内において制度が正しく機能しているかどうかについては、つねに、しっかりとチェックしていく必要があると思います。

  • バドミントンで失明、ペアの相方に1300万円の賠償命令!

    2018年11月20日

    今回は、趣味のスポーツを楽しんでいた際の事故について、チームメート間で被害者と加害者に分かれて訴訟が起きた件について解説します。

    「バドで左目負傷、ペア女性に1300万賠償命令」(2018年10月29日 読売新聞)

    東京都内の40歳代の女性が、バドミントンでダブルスを組んだ相方のラケットが目に当たって大けがをしたとして損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁の判決が出ました。

    東京高裁は、ペアの女性の全責任を認めて約1300万円の支払いを命じたということです。

    事故発生から今回の判決までの経緯は次の通りです。

    2014年12月、趣味のバドミントン教室の仲間ら4人が都内の体育館でプレーしている最中、ペアの女性が相手コートから飛んできたシャトルを打ち返そうとバックハンドでラケットを振ったところ、ネット際にいた原告の左目に当たった。

    原告は、左目の瞳孔が広がって光の調節が難しくなり、日常生活に支障をきたすようになったため、慰謝料やパートの休業補償などを求めて提訴。

    1審・東京地裁は、「原告も一定程度の危険を引き受けて競技していた」と判断し、損害賠償額を約780万円とする判決を出していた。

    今回の2審の控訴審では、被告側は「原告が危険を避けるべきだった」と主張。

    東京高裁は、被告は原告を視界に収める後方の位置でプレーしていたことから、「被告は原告の動きに注意し、ラケットが当たらないように配慮すべきだった」、「バドミントンはボクシングのように身体接触のある競技ではなく、原告は他の競技者によって危険が生じるとは認識していなかった」と判断。

    また、「スポーツであることを理由に加害者の責任が否定されるのであれば、国民が安心してスポーツに親しむことができなくなる」とも指摘。
    そのうえで、被告にすべての責任があると認定した。

    スポーツのプレー中における事故について、チームメートにすべての責任があるとしたということは、過失割合が0対100ですから、異例な司法判断ですね。

    報道からだけでは詳しいところはわかりませんが、法的根拠は不法行為責任ということになると思います。

    「民法」
    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    危険な結果を予見でき、かつ、結果を回避することができるのに、回避しなかった結果、損害が発生したという判断です。

    私はバドミントンの競技経験者ではありませんが、ダブルスの場合、前衛の選手は後ろを向いてはいけない、と指導されることが多いという話も聞きます。

    報道によると、後衛の人がバックハンドで振ったラケットが前衛の人の左目を直撃したということは、前衛の人は後ろを振り向いていたとはいかないまでも、少なくとも顔は前を向かずに横を向いていたということが考えられます。

    1審・東京地裁は、「原告も一定程度の危険を引き受けて競技していた」と判断し、今回の2審・高裁判決では「被告にすべての責任がある」と認定しており判断が分かれたわけですが、今後、被告側が上告するのか、事の行方を見守りたいと思います。

    不法行為の成立自体は認定されそうなので、あとは被害者に過失があったかどうか、また、バドミントンは危険を伴う競技なのか、などが争点と言えそうです。

    ただ、大学時代まで体育会でスポーツをしてきた者からすると、今回の判決がアスリートや子供たちを萎縮させはしないか、また一般のスポーツ愛好家が「これでは怖くてスポーツを楽しめない」と思ってしまうとしたら、それは不幸なことだとも感じます。

    今年は、アメリカのメジャーリーグだけでなく日本のプロ野球でも、打者がヘルメットの耳当て部分にフェイスガードを装着している姿が目立ちました。

    これは、「Cフラップ」と呼ばれるものだそうで、頬骨やあごを守るために装着しているわけですが、これからはバドミントンだけでなく、ラケットを使うテニスや卓球などでもフェイスガードやマスクを装着しなければいけない時代になるのでしょうか。

    スポーツ愛好家は、今後はスポーツ保険への加入なども検討していく必要があるかもしれません。

  • 自転車の飲酒運転で逮捕!

    2018年09月18日

    今回は、飲酒運転は自転車でも法律違反になる、という件について解説します。

    「自転車を“酒酔い運転” 36歳女を逮捕 アルコール基準値6倍 「こいでいない」と容疑否認 福岡県」(2018年9月12日 テレビ西日本)

    福岡県田川市で、36歳の女が自転車の酒酔い運転の疑いで現行犯逮捕されました。

    容疑者の女は酒を飲んで自転車に乗ったことは認めているものの、「地面を蹴って進んだだけでペダルはこいでいない」という趣旨の供述をしており、容疑を否認しているようです。

    事件が起きたのは、9月12日午前3時過ぎ。
    警察官が歩道上を自転車で蛇行しながら走る女を発見。
    職務質問をしたところ、体が前後左右にふらつき、ろれつが回らない状態で、呼気から基準値の6倍のアルコールが検出されたため、逮捕に至ったということです。

    報道によると、自転車の酒酔い運転による容疑者逮捕は過去10年間で3件しかない極めてまれなケース。
    警察は、「公共に及ぶ危険も加味して逮捕に踏み切った」としているということです。

    酒に酔って自転車に乗っただけで逮捕とは大げさな……と思う人もいるかもしれませんが、これは法律に規定されていることです。

    早速、条文を見てみましょう。

    「道路交通法」
    第65条(酒気帯び運転等の禁止)
    1.何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

    第117条の2(罰則)
    次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

    1.第65条第1項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。)にあったもの。

    第2条(定義)
    1.この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

    十一 軽車両 
    自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。

    道路交通法上、自転車は車両の一種である「軽車両」に規定されるため、酒に酔って運転すると法律違反になるということです。

    近年、自転車による悪質な危険運転が問題になっています。
    そこで、2015(平成27)年には道路交通法が改正され、危険運転に対する罰則が強化されています。

    詳しい解説はこちら⇒「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
    https://taniharamakoto.com/archives/1854

    自転車による死亡事故では、加害者に有罪判決が出ています。

    詳しい解説はこちら⇒「自転車死亡事故で禁錮2年、執行猶予4年」
              https://taniharamakoto.com/archives/3128/

    自転車は車両の一部ですから、当然ながら、ひき逃げは犯罪です。

    詳しい解説はこちら⇒「自転車のひき逃げ事故で逮捕!」
              https://taniharamakoto.com/archives/2661/

    また、自転車の飲酒運転で自動車の運転免許が停止になることがあります。

    詳しい解説はこちら⇒「自転車の飲酒運転で車の免許が免停に!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1988/

    自転車だからといって、軽い気持ちで運転してはいけません。
    まずは、次のページで法律とルールをしっかり学ぶことをお勧めします。

    「大人も子供も知っておきたい!自転車法律ルール25」
    https://taniharamakoto.com/archives/1917/

    今回のケースでは負傷者などがなく、よかったと思います。

    とにかく、自動車だけでなく「飲んだら乗るな」は自転車でも守るべきだということですね。

    みなさん、気をつけましょう。

  • FAXでの名誉毀損に注意。

    2018年09月06日

    ネットの発達のおかげで、以前よりは使われなくなってしまったファクス(ファックス、FAX)ですが、その原型は1843年、イギリス人のアレクサンダー・ベインよって発明されたそうです。

    日本の和暦では、なんと江戸時代後期の天保14年です。

    ちなみに、アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明したのが1876年、トーマス・エジソンが真空管を発明したのが1883年ということですから、じつはかなり歴史が古いことに驚きます。

    今回は、そんなFAXが使われた犯罪について解説します。
    男が女に送ったFAXには、一体何が書かれていたのでしょうか……。

    「元交際女性の職場に“中傷ファクス”…ごみ処理施設の係長ら逮捕 京都」(2018年8月29日 産経新聞)

    京都府警上京署は、かつての交際相手だった女性を中傷する文書を勤務先に送りつけたとして、男(52)と、その知人(47)を名誉毀損の疑いで逮捕しました。

    報道によると、今年(2018年)5月9日と14日、容疑者の男が以前交際していた会社員女性(46)の勤務先に、「専務の女になれば祇園で店を持たせてやると言われたと言い回っている」などと女性を中傷する文書をファクスで送信し、名誉を傷つけたというものです。

    2人は、いずれも容疑を認めているということです。

    名誉毀損とはどういう罪なのか、条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第230条(名誉棄損)
    1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    ポイントは、「事実の有無にかかわらず」という部分です。

    つまり、今回のようなケースでは容疑者が被害者女性に送ったFAXの内容が事実かどうかは問われないということです。

    なお、名誉毀損は刑事事件だけでなく民事事件でも問題になる可能性があります。
    被害者女性は、名誉を侵害されたとして損害賠償を請求することができるのです。

    関連する条文は次の通りです。

    「民法」
    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    第710条(財産以外の損害の賠償)
    他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

    第723条(名誉毀損における原状回復)
    他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

    今回の事件はFAXを使ったものでしたが、近年では時代的にもSNSなどを使った名誉棄損被害が起きています。

    この場合、ネット上の投稿が名誉毀損やプライバシーの侵害と認められるなら、被害者は「発信者情報開示請求」をすることができます。

    詳しい解説はこちら⇒
    「中傷投稿やツイートに対抗する法的手段とは?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1299

    男女の仲のもつれは、リベンジポルノやストーカー事件に発展することもあります。

    詳しい解説はこちら⇒
    「リベンジポルノには新たな法律が適用されます!」
    https://taniharamakoto.com/archives/1909/

    「ストーカー規制法が改正!SNSへの書き込みも規制対象に!」
    https://taniharamakoto.com/archives/2494/

    みなさん、気をつけましょう。

  • 自転車死亡事故で禁錮2年、執行猶予4年

    2018年08月28日

    今回は、自転車による死亡事故で有罪判決が出たという報道について解説します。

    「元女子大学生に有罪=スマホ自転車で死亡事故-横浜地裁支部」(2018年8月27日 時事通信)

    スマートフォンを操作しながら自転車を運転し、女性に衝突して死なせたとして重過失致死罪に問われた元女子大学生(20)の判決が横浜地裁川崎支部であり、禁錮2年、執行猶予4年(求刑禁錮2年)が言い渡されました。

    判決によると、事件が起きたのは2017年12月7日。
    元女子大学生は電動アシスト自転車で走行中、川崎市麻生区の歩行者専用道路で、当時77歳の女性に衝突して転倒させ、2日後に脳挫傷などで死亡させました。

    その際、元女子大学生は左耳にイヤホンをした状態で、右手に飲料の容器を持ち、左手でスマホのメッセージを送受信しながら少なくとも約33秒間走行し、スマホをポケットにしまった直後に事故を起こしたとしています。

    裁判長は、「歩行者を死傷させ得るとの自覚を欠いた運転は自己本位で過失は重大」と指摘したものの、時速約9キロと比較的低速であり、被告が反省の弁を述べていることなどから執行猶予付き判決としました。
    なお、元女子大学生は事故後、大学を自主退学したということです。

    判決後、被害者女性の娘(49)は取材に対し、「判決は母の命の重さに比べて軽いと思う。法律が時代に合っていない」と話したということです。

    【統計データから見る自転車事故】
    警察庁交通局が公表している統計データ「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」によると、2017(平成29)年の自転車関連事故件数は9万0407件で、全交通事故に占める割合は19.1%になっています。

    前年(平成28年)は、9万0837件で18.2%ですから、比較すると事故件数は減少傾向にあるもの、割合としては増加していることがわかります。

    また、自転車事故の相手当事者は、自動車が84%でもっとも多く、以下、二輪車(5%)、歩行者(3%)、自転車同士(3%)、自転車単独(2%)となっています。

    なお、自転車側には法令違反も多く、安全不確認、一時不停止、信号無視、交差点安全進行義務違反などがあったということです。

    【交通事故に関連する法律】
    次に、法的な面から考えてみます。

    今回の法定刑は「重過失致死罪」です。
    関連する条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第209条(過失傷害)
    1.過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。

    第210条(過失致死)
    過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。

    第211条(業務上過失致死傷等)
    1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

    過失により人にケガをさせた場合は過失傷害罪、死亡させた場合は過失致死罪になります。

    重過失致死罪は、重大な過失(重過失)によって人を死亡させた罪のことです。
    ある行為をする際に、法律上要求される注意義務を著しく欠いている場合、重過失と判断されることになります。

    ところで、交通事故に関する法律には「自動車運転死傷行為処罰法」や「道路交通法」などがあります。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)」
    https://taniharamakoto.com/archives/1236/
    自動車運転死傷行為処罰法には、「危険運転致死傷罪」や「過失運転致死傷罪」が規定されていますが、今回なぜこれらの刑罰が適用されなかったのかというと、自動車ではなく自転車だったからです。

    しかし、自転車だからといって気軽な気持ちで運転していると、今回の事故のように相手を死傷させてしまうこともあります。

    被害者やご遺族は大きな悲しみと損害を受けることになりますが、一方の当事者である加害者も大きな代償を背負うことになります。

    今回の事件のように、加害者は逮捕や在宅起訴をされて、悪質性が高い場合は実刑を受け、実名を報道されることがあります。

    さらに加害者は、慰謝料などの損害賠償金を被害者に支払うことになります。
    死亡事故や、高次機能障害、脊髄損傷などの重大な後遺障害の場合は億単位の金額になることもあります。

    交通事故では、被害者とご遺族、そして加害者も人生が大きく変わってしまいます。
    関わったすべての人を不幸にしてしまうのが交通事故なのです。

    自動車の運転は気をつけていても、自転車の運転はよそ見をしたり、信号無視をしたり、あるいは見通しが悪くても確認しなかったり、という人も多いように思います。

    しかし、自転車と歩行者がぶつかって、歩行者側の当たり所が悪いときには、本件のような重大事故となり、刑事処罰を受ける可能性がある、ということを憶えておきましょう。