衝突しない自転車事故でひき逃げが適用 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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衝突しない自転車事故でひき逃げが適用

2018年12月06日

今回は、自転車の走行中に人をひいていないにもかかわらず書類送検されたという珍しい(?)事故について解説します。

一体、何が起こったのでしょうか?

「イヤホンしたまま自転車走行 重体事故引き起こし逃走した医師を書類送検 警視庁」(2018年11月27日 産経新聞)

警視庁蒲田署は、イヤホンをしたまま自転車に乗り、交差点で女性が一時意識不明になる事故を引き起こしたなどとして、東京都大田区在住の医師の男(30)を重過失致傷と道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で書類送検しました。

事故の概要は次の通りです。

・事故が起きたのは、今年(2018年)5月11日午前8時20分頃。

・容疑者の男は勤務先の病院への通勤途中、イヤホンをつけたまま自転車を運転し、左右の確認をしないまま信号機のない交差点に進入したところ、右後方から走行してきた乗用車と出合い頭に接触した。

・乗用車は急ハンドルを切り、そのまま対向車線に進み、交差点の近くにいた自転車の女性(44)に衝突。
女性は頭の骨を折り、一時、意識不明の重体に陥った。

・男は女性の救護措置をせず現場から立ち去り、途中で自転車を乗り捨ててタクシーで帰宅。
その姿を周囲の防犯カメラがとらえていた。

・男は事故で破れた服を自宅で着替えてから病院に出勤していたが、「女性がケガをしたことに気づかなかった」と容疑を否認。

・また、同署は女性をはねた乗用車を運転していた男性会社員(28)についても、自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで書類送検した。

・女性は事故から半年以上経った現在も入院している。

【ひき逃げは重罪】
ひき逃げは、道路交通法で次のように規定されています。

第72条(交通事故の場合の措置)
1.交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者は……(以下省略)

ここで、対象者は、「車両等の運転者その他の乗務員」とされています。

自転車は、道路交通法では、「軽車両」とされており、「車両等」に含まれます。

したがって、自転車で事故を起こし、負傷者が出た時は、自転車の運転者は、負傷者を救護しなければならないことになっています。

次の措置を怠った場合、ひき逃げになります。

①ただちに運転を停止する。
②負傷者を救護する。(安全な場所への移動、迅速な治療など)
③道路での危険を防止するなど必要な措置を取る。(二次事故発生の予防)
④警察官に、事故発生の日時、場所、死傷者の数、負傷の程度等を報告する。
⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる。

「大したことではない」、「バレなければ問題」などと、ひき逃げを軽く考えている人もいるようですが、ひき逃げは軽い罪ではありません。

また、自転車でもひき逃げが適用されるのです。

自動車の場合、ひき逃げは、「自動車運転死傷行為処罰法」では自動車運転処罰法違反(過失致死傷罪)と道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪で、最長で懲役15年の刑事罰になります。

仮に、被害者が軽傷の場合でも、ひき逃げには非常に重い刑罰が科されることを知っておかなければいけません。

詳しい解説はこちら⇒
「自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)」
https://taniharamakoto.com/archives/1236/

なお、ひき逃げに対する刑事罰は自動車と自転車の場合では違います。

・自動車の場合:10年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第117条2項)

・自転車の場合:1年以下の懲役又は10万円以下の罰金(第117条の5)

【重過失致傷罪とは?】
今回の事件では、道路交通法違反のひき逃げの他に重過失致傷が問われています。

関連する条文を見てみましょう。

「刑法」
第209条(過失傷害)
1.過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。

第210条(過失致死)
過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。

第211条(業務上過失致死傷等)
1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

ある行為をする際に、法律上要求される注意義務を著しく欠いている場合、重過失と判断されます。

今回は、重大な過失(重過失)によって人にケガをさせたので重過失致傷でも立件されたわけです。

直接、自転車で人をはねていない交通事故でひき逃げとして立件されるのは珍しいといえますが、近年、危険な自転車の運転の取り締まりが強化されていることと、容疑者の悪質な状況などから、東京地検への書類送検になったのだと思います。

今後、容疑者には刑事罰だけでなく、さらに民事においては被害者への損害賠償が発生してきます。

軽い気持ちで自転車に乗り、ながら運転で注意を怠り、事故が起きたら現場から逃走するなどというのは、あってはならないことです。

くれぐれも注意してほしいと思います。