パワハラ防止に向けた法整備が本格化するそうです | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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パワハラ防止に向けた法整備が本格化するそうです

2018年11月22日

パワーハラスメント(パワハラ)の防止に向けて、国が法整備を進める方針を示したので解説します。

「パワハラ防止、企業の義務に 厚労省が法整備へ 」(2018年11月19日 日本経済新聞)

厚生労働省は、厚労相の諮問機関である労働政策審議会の分科会を開き、働きやすい環境を作るには法律による規制が不可欠だと判断し、職場のパワハラの防止措置を企業に義務付けるため法整備する方針を示しました。

同省は、働きやすい環境を作るには法律による規制が不可欠だと判断し、2019年の国会へ関連法案の提出を目指すとしています。

【増え続けるパワハラ問題】
近年、パワハラ問題が深刻化しています。

今年(2018年)6月、厚生労働省は2017年度の「個別労働紛争解決制度」(労働者と企業間のトラブルを裁判に持ち込まず迅速に解決する制度)の実施状況に関するデータを公表しています。

それによると、民事上の個別労働紛争相談件数は前年度比1%減の25万3005件でしたが、そのうちパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」については前年比1.6%増の7万2067件で、15年連続で増加しているうえに、内容別では6年連続で最多となっています。

ちなみに、いじめ・嫌がらせ以外では「自己都合退職」が3万8954件、「解雇」が3万3269件と続き、「雇い止め」に関する相談は同15.7%増の1万4442件で過去最多になっています。

【パワハラを規制する法律はない!?】
現在、ハラスメントには50種類以上あるともいわれています。

その中でも、たとえばセクシュアルハラスメント(セクハラ)は「男女雇用機会均等法」、マタニティーハラスメント(マタハラ)は「育児・介護休業法」などで、企業に相談窓口の設置といった防止措置が義務づけられています。

しかし、じつはパワハラに関しては特別の法律による規制がなく、民法の損害賠償や刑法の刑事罰の法規などを適用しているのが現状です。

【パワハラの定義とは?】
そこで今年3月、厚生労働省は検討会がまとめた報告書を踏まえ、次の3つの要素を満たすものをパワハラの定義としています。

(1)優越的な関係に基づく
(2)業務上必要な範囲を超える
(3)身体的・精神的な苦痛を与える

たとえば、上司が業務の範囲を超えて、部下の人格を否定するような「死ね」とか「クズ」、「ゴミ」などの発言した場合はパワハラに該当する可能性が高いといえます。

【企業側の主張は?】
以前から企業側は、「指導との線引きが難しい」、「業務上の指導との線引きがあやふやでは、上司が部下への指導に尻込みして人材が育たない」、「中小企業には負担が大きい」などと主張し、パワハラの法規制に反対してきたようです。

11月19日に開かれた労働政策審議会の分科会でも、「義務化するにしても、過去の判例を踏まえた定義の明確化が必要だ」と訴えた企業側の委員もいたということです。

そこで厚生労働省は、「セクハラなどと同じ規制をパワハラにかけても企業の大きな負担にはならない」、「業務上適正な範囲内の指導はパワハラには当たらない」として、判断基準をわかりやすく示すため、典型的な類型や該当しない具体例も示す、としています。

【労働者側の主張は?】
労働側の委員はパワハラが社会問題になっている背景を踏まえて、防止措置だけでなく、ハラスメントの行為自体を禁止する規定を法律に盛り込むべきだと主張したようです。

しかし、行為禁止は民法など他の法令との関係の整理や違法行為の明確化など課題が多く、厚生労働省は見送る方向としています。

【法制度の整備で何が変わるのか?】
厚生労働省は、今回示した対策方針で「パワハラ防止については、喫緊の課題であり、対策を抜本的に強化することが社会的に求められている」としたうえで、「防止措置を講じることを法律で義務づけるべき」と明記しました。

では、パワハラに関して具体的に何がどう変わるのでしょうか。

具体的な防止措置はこれから策定する指針で示すとしていますが、次のようなパワハラ防止措置を企業側に義務づけていくと考えられます。

・加害者への懲戒規定を作り、社内に周知・啓発する
・相談窓口を設置する
・社内調査体制を整備する(迅速な調査、被害者保護、加害者への懲戒など)
・被害者や加害者のプライバシーを保護する
・再発防止のために社員研修などを実施する
・被害相談を理由とした解雇など不利益な取り扱いを禁止し、周知する

その他にも次のような内容が盛り込まれるようです。

・対策に取り組まない企業に対しては、厚生労働省が是正指導・勧告などの行政指導をして改善を求める。

・行政指導に従わない場合は、企業名を公表することができるとの規定を設ける。

・カスタマーハラスメント(顧客や取引先からの過剰なクレームなど)を「職場のパワハラに類するもの」と捉え、その防止策も労政審分科会に提示し、企業が講ずることが望ましい取り組みを指針に盛り込んで周知する。

・セクハラ対策を強化するため、男女雇用機会均等法に被害相談をした従業員に対して、解雇などの不利益な取り扱いをすることを禁じる規定を明記する。

・取引先などで従業員がセクハラを受けた時の対応や、社外で従業員がセクハラをしないよう配慮に努めることも指針で明確化する。

・「女性活躍推進法」を改正して、従業員301人以上の企業に対し女性管理職の比率や採用割合などを公表するよう義務づけているものを、従業員101人以上300人以下の企業に拡大する。

これらパワハラに関する具体的な法制化の結果、実際にパワハラがなくなるかどうかは、各企業がどのような制度設計をするかに大きく影響されるでしょう。

また、社内において制度が正しく機能しているかどうかについては、つねに、しっかりとチェックしていく必要があると思います。