東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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自転車保険への加入義務付けの流れが加速


2016年7月1日

大阪府で、自転車に関する新たな条例の適用が開始されるようです。

「自転車保険の義務化次々 背景に相次ぐ高額賠償判決」(2016年6月29日 朝日新聞デジタル)

7月1日から、大阪府では自転車に乗るすべての人に対して事故の損害賠償をする保険への加入が義務づけられることになったようです。

これは「自転車利用者は、自転車損害賠償保険等に加入しなければならない」という条例の適用によるもので、府内で自転車を使う場合は府民かどうかを問わず加入を義務づけ、子供の場合は保護者が加入させる義務があるとしています。

大阪府は条例に合わせて損害保険会社などと協定を結び、本人のみの加入なら月150円、家族タイプだと月270円の保険料で補償は最大1億円という保険を開発。
保険料の一部は、交通安全活動などに寄付されるとしています。

なお、2015年の大阪府内で起きた自転車事故件数は1万2222件で全国ワースト1、死者は前年から16人増え50人になったということです。
今までこのブログでも、自転車による交通事故や法律、損害賠償と保険、法改正などについて解説してきました。

そこで、今回の大阪府の条例制定の背景について考えてみたいと思います。

①相次ぐ自転車事故による高額賠償金支払い判決
2008年9月、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、散歩をしていた60代の女性に正面衝突。
頭を強打した女性に意識不明で寝たきりの重い障害を負わせる事故が起きました。
神戸地裁は2013年、少年の母親(当時40歳)に9521万円の支払いを命じたことで、自転車事故による損害賠償が社会的にも注目され、自転車事故による高額賠償金支払い判決が相次ぐことになりました。

②自転車保険の加入者が増加
そのため、自転車保険の加入者や希望者が増え、損保会社もさまざまな保険商品を打ち出していきました。

詳しい解説はこちら⇒
「自転車保険の契約者が急増中!その理由とは?」
http://taniharamakoto.com/archives/2003

③条例を制定する都道府県の増加
こうした流れを受けて、各自治体も条例制定に動き始めました。
2015年10月、兵庫県が全国に先駆けて自転車保険加入義務を条例化。
今年、2016年10月には滋賀県でも義務化の予定で、保険加入を「努力義務」としている東京都や埼玉県も「他県の状況を見て義務化の必要性を考えたい」としているようです。

また自治体以外でも、立命館大学では学生が起こした自転車死亡事故をきっかけに、2012年度から自転車通学する学生に警察官らの講習を受けたうえで補償額が最高1億円以上の保険加入を義務づけ、これまでに約1万7千人が登録したということです。

④自転車の危険運転に対する法律の厳罰化
さらに、法律も自転車の危険運転に対して厳罰化の方向に進みました。
信号無視や一時不停止、酒酔い運転、歩道での歩行者妨害、また携帯電話の使用やイヤホンを装着しながらの運転等の安全運転義務違反など14の危険行為に対して道路交通法を改正。
悪質な危険運転の取り締まりを強化し、3年以内に2回以上の違反で安全講習の義務化、受講しないと5万円以下の罰金を科すことになりました。

詳しい解説はこちら⇒
「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
http://taniharamakoto.com/archives/1854

また、自転車によるひき逃げや飲酒運転を起こした場合、自動車の運転でも事故を起こす恐れがあると判断され30~180日間の範囲で自動車の運転免許の停止処分が出されるという事例も増えています。

こうした背景から今回の条例制定という流れになったのだと思われます。
報道によれば、前述の神戸での自転車事故の被害者の方(70)は、今も寝たきり状態が続いており、旦那さん(68)がつきっきりで介護をしているようです。
加害者少年の母親は事故の損害賠償をカバーする保険に入っておらず、判決の翌年には自己破産。
そのため、被害者の方は慰謝料などの損害賠償金を受け取ることもできず、二重の苦しみだといいます。

実際、このような事例は全国で起きています。
こうした悲劇を繰り返さないように、法律を守り、注意深く自転車運転をしなければいけないのは当然ですが、同時に被害者の方への補償を考えるなら、自転車保険への加入義務化は一定の効果があるでしょう。

しかし、自転車の利用者全員の保険への加入の有無を調査するのは難しいことから、条例では保険に非加入でも罰則がないため、その効果に疑問の声もあるようです。

自転車は手軽で身近なものだからと安易に考えてはいけません。

交通ルールをしっかり守って運転し、条例がない都道府県でも、万が一に備えて、家族で保険の加入を検討することも大切でしょう。
交通事故の損害賠償請求のご相談はこちらから
http://www.jiko-sos.jp/

自動運転車が事故を起こしたら?


2016年3月3日

21世紀の技術革新の象徴、「夢の技術」のひとつとして近年、自動運転車が世界的に話題になっています。

実用化に向けて、各社が急ピッチで開発を進めていますが、まだ技術的にクリアすべき問題もあるようです。

同時に、自動運転車が事故を起こした場合、法律をどのように適用するのか、現行の法律ですべて対応できるのか、という問題もあります。

そもそも、現在の日本の法律上、自動運転車を公道で走らせることはできるのでしょうか?

今回は、自動運転車と法律について解説します。

「米グーグルの自動運転車が事故 過失でバスと接触」(2016年3月1日 日本経済新聞)

今年2月中旬、アメリカのグーグル社が開発中の自動運転車がカリフォルニア州の公道での走行実験中にバスと軽い接触事故を起こしていたことがわかりました。
ケガ人はいなかったようです。

グーグル社は2009年に自動運転車の開発をスタート。
現在までに累計140万マイル(約225万キロ)以上を自動運転モードで走行し、20件近い軽度の事故を報告していますが、いずれも相手側の過失による「もらい事故」か、人間のテストドライバーが運転中のものでした。
しかし、今回の自動運転中の事故はグーグル側に過失がある初めてのケースとなったということです。

グーグル社は、事故の責任の一部を認めるコメントを発表し、再発防止に向けてソフトウエアを改良したとしています。
では最初に、今回の自動運転車の事故をケーススタディとして、現状の日本の交通に関する法律の中から「道路交通法」と「道路運送車両法」に照らし合わせて考えてみたいと思います。

「道路交通法」
道路交通法は、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図ることを目的としていますが、第70条では「安全運転の義務」として次のように規定しています。

「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」

運転者にはハンドルやブレーキなどの装置を確実に操作する義務があり、人に危害を与えるような運転をしてはいけない、とありますね。

ということは、運転者がハンドルやブレーキを操作できる状況にないといけないということであり、完全な自動運転車は、今の法律では許されない、ということになります。

つまり、自動で運転できるけれども、運転者も常に前後左右に注意して、ハンドルやブレーキを確実に操作しなければならないということであり、あまり、自動運転の意味がないかもしれません。

したがって、完全な自動運転車を実現するには、道路交通法を改正する必要があるでしょう。
「道路運送車両法」
この法律には次のような目的があります。
・道路運送車両について所有権の公証等を行う
・安全性の確保、公害の防止、その他の環境の保全
・自動車整備についての技術の向上を図る
・自動車の整備事業の健全な発達に資することで公共の福祉を増進する

そこで、第41条「自動車の装置」を見てみましょう。

「自動車は、次に掲げる装置について、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。」として、20項目が規定されています。

その中に、3.操縦装置と4.制動装置がありますが、これらが国土交通省令で定める基準に合致していなければ運行してはいけない、とあります。

ということは、道路運送車両法も改正しなければ自動運転車を走らせることはできないということになります。

次に、「自動車損害賠償保障法」で、自動運転車の事故で人に傷害を負わせた場合の責任について見てみます。

この法律は文字通り、自動車の運行によって人の生命や身体が害された場合の損害賠償を保障する制度を確立することで、被害者を保護し、自動車運送の健全な発達に資する目的で施行されたものです。

「自動車損害賠償保障法」
第3条(自動車損害賠償責任)
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
運行供用者とは、「自動車を運転していた人」、「自動車の運転・走行をコントロールできる立場にある人(自動車の管理と運転者への指導管理を含む)」、「自動車の運行から利益を受けている人」、となるので自動車の所有者も当てはまります。

この運行供用者が賠償責任を免れるためには、以下のことを証明する必要があります。
1.故意・過失がなかったこと
2.被害者または運転者以外の第三者に故意・過失があったこと
3.自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

これは、実質的な無過失責任を認めたものといわれています。
無過失責任とは、不法行為によって損害が生じた場合には加害者が、その行為について「故意・過失」がなくても、損害賠償責任を負うということです。

ということは、自動運転車が事故を起こした場合でも、やはり車の所有者や運転者が訴えられてしまう可能性が、かなり高いことになります。

もちろん、自動運転車の構造や機能に欠陥があった場合にはメーカーの責任が問われますが、訴訟実務の現場では被害者が加害者である運転車や所有者を訴えるということが当然に起きてくるでしょう。

また、自動運転のシステムの違いによって、法律の解釈も変わってきます。

たとえば、自動運転車といっても危険時の急制動、つまり運転者が急ブレーキをかけることができるような自動運転システムが採用されるのであれば、自動運転車に完全に任せきることはできず、普通の自動車を運転しているときと同様に道路や周囲に注意しておく必要があるわけですから、仮にブレーキが遅れたことで人をケガさせてしまえば、運転者の過失となり、民事事件では損害賠償責任は免れないでしょうし、刑事事件でも罪に問われる、ということになります。

では、運転席では何もできない、する必要のない完璧な計算と技術で創られた自動運転システムの車の場合はどうでしょうか?

もし、そうした自動運転車が完成したなら、現行の法律を相当改正しなければ公道を走行させることは難しいでしょう。

もし、自動運転車で事故が起きた場合、加害者が保険に加入しておらず、資力もなかった場合には、自動運転車のメーカーを訴えていく可能性があります。

しかし、被害者には、自動運転車の欠陥を証明してゆくことは難しいので、自動運転車の走行を認める時は、新たに「自動運転車による事故に基づく損害賠償法」というような法律を制定して立証責任を転換し、交通事故被害者の負担を軽減して欲しいと思います。

軽井沢ツアーバス事故の運行会社に20近い法令違反が発覚!


2016年1月21日

1月15日未明、軽井沢で起きた貸し切りのツアーバスによる事故は、15人が死亡、27人が重軽傷を負うという大惨事になってしまいました。

調査が進むにつれ、バスの運行会社の法令違反による、ずさんな運行管理の実態が次々と明らかになってきました。

今回は、ツアーバスの運行と法律について解説します。

「<スキーバス転落>運行会社ずさん 運転手の点呼漏れ常態化」(2016年1月19日 毎日新聞)

長野県軽井沢町で起きたスキーツアーバスの転落事故について、バス運行会社「イーエスピー」(東京都羽村町)の日常の運行管理が極めてずさんだったことがわかってきました。

事故後、特別監査を実施した国土交通省の担当者は、「かなりひどい状態。この業者については徹底的にやるしかない」と漏らしたということです。

1月15日~17日に行われた国土交通省の特別監査でわかった主な法令等違反は次の通りです。

「道路運送法」「労働安全衛生法」「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」「旅客自動車運送事業運輸規則」「道路運送車両法」などの法令等に違反した、としています。

・運転手に法令上必要な健康診断を受診させていなかった。⇒健康状態把握義務違反
・事故車両が運行中にも関わらず、運行終了時に作成する書類に「実施済み」の押印をしていた。
・事故を起こした運転手2名に対して、運行前に健康状態や酒気帯びの有無を確認する「運行前点呼」が行われていなかった。(点呼担当の社長が遅刻したため)⇒点呼義務違反
・運行管理者が運転手に渡す「運行指示書」に経路などの必要事項を記入していなかった。
・ルート変更について、運転手から運行管理者への変更連絡がなかった。(ルート変更後に事故が発生)

・運行前の点呼を実施する前に、すでに「実施済み」の押印をしていた。
・乗務員台帳や乗務記録に記載漏れやミスがあった。
・無理な運転がなかったかを走行後に検証する「運転記録計(タコグラフ)」が装着されていない車両が複数あった。
・3ヵ月に1回実施することが義務付けられている「定期点検整備」の実施が確認できない車両が複数あった。
・運転手に対して定期的に運転上の注意点などを教育する「安全教育」を全運転手に対して行っていなかった。
・過労運転の運転手が複数いた。(就業から始業までに8時間の休息が必要と定められているところ、5時間しか休んでいなかったなど)

過労運転については以前、解説しました。
⇒「過労運転をさせた社長が逮捕!?」
http://taniharamakoto.com/archives/2095

過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはいけません。(道路交通法第66条)

同時に、自動車の使用者は、自動車の運転者に対し、第66条の規定に違反して自動車を運転することを命じたり、これらの行為をすることを容認してはいけません。(第75条)
これは、「過労運転の下命」となり、道路交通法違反となります。

また、この運行会社は2015年2月に受けた、国土交通省による2014年度の業務に対する監査でも複数の法令違反を指摘されていました。
つまり、法令違反となる、ずさんな運行管理が常態化していたということでしょう。

「2014年度業務での不備による法令等違反」
・所属運転手13名のうち、10名に健康診断を受診させていなかった。
・運転手の採用時に「適性診断」を受けさせていなかった。(適性診断は運転手の癖や注意点などを把握して改善指導するためのもの)
・運行前点呼で、312回のうち46回が不適切だった。

さらに、別の報道では次の法令違反も指摘されています。

・速度超過での走行
事故前の乗客の証言や事故現場の状況から、長野県警は速度超過での走行が事故の原因とみて詳しく調査を行うとしています。
速度超過であれば、当然、道路交通法違反となります。(第22条1項)
「転落のバス、速度超過か 車体損傷激しく 軽井沢の事故」(2016年1月18日 朝日新聞デジタル)

・基準運賃額を下回る料金での運行
バス会社がツアーを請け負う際、国が定めた基準運賃の範囲内にするように国土交通省は求めています。
これは、安全コストを軽視した過剰な価格競争を抑止するためのもので、2012年に群馬県藤岡市の関越自動車道で起きたバス事故を契機に設けられたものです。
しかし、今回事故を起こしたバス運行会社は、ツアーの運賃を国に届け出た金額の下限を8万円も下回る19万円という安値で請け負っていたようです。
これは、道路運送法違反となります。(第9条の3の2項)
「基準額割れでバス違法運行“ツアー会社から要請”」(2016年1月17日 朝日新聞デジタル)

・労使協定を結ばずに残業をさせていた
従業員に残業をさせる際には、「労働基準法」の第36条に基づき「労使協定」を締結しなければいけません。
この協定が結ばれていない場合、1日に8時間以上の労働をさせると違法残業となり、これに違反すると6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。
今回、事故を起こしたバス運行会社では、この労使協定を結ばずに運転手に残業させていたことが東京労働局などの調査でわかったようです。
「<スキーバス転落>残業協定結ばず バス会社、従業員と」(2016年1月19日 毎日新聞)

違法残業の詳しい解説はこちら⇒
「違法に残業させると刑罰を受けます。」
http://taniharamakoto.com/archives/2156

今回明らかになったバス運行会社の法令違反は、報道にあるだけでも前述したように、道路交通法、道路運送法、労働基準法の3つの法律に抵触し、合計で20近くにも及びますが、これは業界内で常態化している問題が今回の事故で顕在化したものといえるでしょう。

こうした事態を受けて、国土交通省は、全国約4500社のうち開業から日が浅い中小の貸し切りバス事業者を対象に、安全運行の管理体制について、1月内にも一斉監査に着手する方針を固めたようです。
また観光庁も、旅行業法に基づき「格安バスツアー」などを企画する旅行会社に対し、近く集中的な立ち入り検査を実施するとしています。
「中小バス会社を一斉監査へ 国交省、月内にも 旅行会社も集中検査」(2016年1月19日 産経新聞)

貸し切りバス事業者は全国に約4500社あるようで、これは2000年の規制緩和以降、約1.5倍に急増したということです。
そのため、過当競争、価格競争が激化したことも今回の事故の要因と考えられます。
また、バス運転手の人手不足と高齢化の問題、訪日外国人の急増によるバス需要の増加への対応、従業員への違法残業など、さまざまな問題をはらんでいます。

今後、二度と同じような事故が起きないよう、ツアーバス運行における安全を第一に、国と業界が一体となった改善、改革が望まれます。

今回のツアーバス事故の補償問題については、こちら。
http://taniharamakoto.com/archives/2167

そして、被害者ご遺族からのご相談は、こちら。
http://www.jikosos.net/

 

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