交通事故 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 3
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
  • 自動車運転死傷行為処罰法:病気の影響による「危険運転致傷」が初適用!

    2014年06月15日

    2014年5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」。
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    今回は、新たに規定された「病気の影響による危険運転致傷」が初適用された自動車事故について解説します。

    病気の影響とは、どういうことでしょうか?
    持病がある人は、自動車を運転すると罪になるということでしょうか?

    「てんかんで事故の男逮捕、札幌 処罰法初適用」(2014年6月10日 共同通信)

    無免許で自動車を運転し、持病のてんかんの発作を発症して軽傷事故を起こしたとして、札幌東署は10日、札幌市のアルバイトの男(26)を、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷、無免許)の疑いで逮捕しました。

    男は札幌市内の道路で、無免許でワゴン車を運転中、てんかんの発作を起こした影響で対向車線にはみ出し、無職男性(79)の乗用車と衝突。男性に軽傷を負わせた疑いです。

    事故当時、男は意識がなく全身がけいれんしていたということで、
    調べに対し、「免許は取れないとあきらめていた」と語っているようです。

    じつは容疑者の男は、2009年8月にも無免許運転でひき逃げ事件を起こしていたということです。

    「自動車運転死傷行為処罰法」では、「危険運転致死傷」の適用範囲を広げています。

    適用する要件には、アルコールや薬物の他に、特定の病気による影響も含めて、正常な運転が困難な状態で走行することを対象としています。

    これには、2011年4月、栃木県鹿沼市で起きた、てんかん患者の運転手の発作により小学生6人をはねて死亡させた「鹿沼市クレーン車暴走事件」や、2012年4月に起きた「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」などを受けての新法成立という背景があります。

    今回の事件で容疑者の男は、てんかんの持病があるために運転に困難な状況が起こることを自覚していながら、免許を取得することをあきらめ、故意に無免許運転を繰り返していたことで、危険運転致傷に無免許運転が加重されたということです。

    刑罰は、最長で懲役20年になります。
    今回は不幸中の幸いで、相手の被害者のケガが軽傷でしたが、非常に重い罪です。

    ところで、政令で定める「特定の病気」には以下のものがあります。
    1.統合失調症
    2.てんかん
    3.再発性の失神
    4.低血糖症
    5.そう鬱病
    6.重度の睡眠障害

    ただ、これらの病気の人が自動車事故を起こしたからといって、すべてで罪が成立するわけではありません。

    自覚症状がなかったり、運転するのに支障が生じるおそれがないと思っているような場合で、たとえば今まで意識を喪失したことがない、医師から特に薬を処方されていなくて普通に自動車を運転できていたような場合は、罪の対象にはならないと考えられます。

    しかし、これら政令で定める病気の診断を受けていなかったとしても、自分が何らかの病気のためにたびたび意識を喪失することを自覚していて、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを知っていれば、事故後に、事故時において政令で定める病気であったことがわかった場合、この罪が成立すると考えられます。

    つまり、「過失」なのか「故意」なのかが重要になってくるということです。

    ちなみに、自動車の運転に支障を及ぼす可能性のあるてんかんや統合失調症などの病気の患者が、運転免許の取得や更新時に病状を虚偽申告した場合、罰則を科すことを新設した「改正道路交通法」が6月1日に施行されました。
    罰則は「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。

    これらの病気の人、または自覚症状がある人は、まずは医師の診断をきちんと受けてから、自分が自動車運転できる状態なのか、そうでないのかの判断をしなければいけません。

    自覚があるにも関わらず、免許を取得もせずに自動車運転をするなどということは言語道断です。

    十分すぎるくらいに考慮して、強い自覚を持ってハンドルを握ってほしいと思います。

    これくらいなら大丈夫、などという自分勝手な判断は命取りになるかもしれません。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 軽い交通事故でも逃げると重罰が!?

    2014年06月12日

    「ちょっとくらいならいいだろう」、「これくらいならバレないだろう」、
    人生のさまざまな場面で、人はそんなふうに思ってしまうことがあります。

    しかし、こと交通事故に関してはそんな考えは通用しません。

    加害者には、「刑事責任」「民事責任」「行政責任」の3つの責任が科せられます。
    そして、被害者は亡くなったり、重大な後遺症を背負ったりします。
    誰も幸せにならないのが交通事故です。

    ところで最近、ひき逃げで検挙された人への調査から、逃げた動機や理由がわかってきたという報道がありました。

    心の甘えや油断が命取りになっているようです。

    「ひき逃げ犯3割超が過小評価“大したことない”“半信半疑だった”」(2014年6月6日 産経新聞)

    大阪府警の発表によると、ひき逃げ犯の30%以上が、「事故を起こしたかどうか半信半疑だった」「大したことないと思った」と事故を過小評価していたことがわかりました。

    昨年1年間で、府内で起きたひき逃げ事故は1,351件。このうち摘発されたドライバー636人に動機を尋ねたところ、「半信半疑だった」102人(16・0%)、「飲酒・無免許が発覚するのがいやだった」107人(16・8%)、「大したことないと思った」101人(15・9%)、「恐ろしくなった」71人(11・2%)、「逃げたら分からないと思った」54人(8・5%)という割合だったということです。

    また、死亡・重傷のひき逃げ事故にかぎると、摘発された76人のうち、「半信半疑だった」(17.1%)、「大したことないと思った」(7.9%)という割合から、4人に1人は交通事故を軽く考えていたために重大な結果につながった可能性もあるとしています。

    以前、ひき逃げについて解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1403

    ここでいう「自動車運転過失致死傷罪」は、今年5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」では「過失運転致死傷罪」になっています。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    ひき逃げの場合、自動車運転処罰法違反(過失致死傷罪)と道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪で、最長で懲役15年になります。

    仮にアルコールを飲んでいて逃げた場合は、「アルコール等影響発覚免脱罪」が併合され、最長で懲役18年です。

    たとえ被害者が軽傷でも、ひき逃げには大変重い刑罰が科されます。
    現場から逃げてしまったばかりに、罪の上にさらに罪を重ねてしまう…それが、ひき逃げという行為です。

    ちなみに、法務省が公表している「平成25年版 犯罪白書」によると、平成24年度のひき逃げ犯の検挙率は、死亡事故98.8%、重傷事故69.6%になっています。
    死亡事故のひき逃げ犯は、ほぼ100%近くが検挙されているということです。

    検挙率のデータや罰則の厳罰化を考えれば、ひき逃げは、けっして「逃げ得」にはならないということがわかるでしょう。

    自動車を運転中、何かに当たったら、「人と接触したかもしれない」と確認する習慣を徹底しましょう。

    さもないと、長い懲役刑があなたを待っているかもしれません。

  • 自動車運転死傷行為処罰法:「無免許過失運転致傷」が初適用!

    2014年06月10日

    5月20日に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」関連の事故で、今度は「無免許過失運転致傷罪」(無免許運転による加重)が適用された事故が起きてしまいました。

    早速、解説していきます。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    「無免許で車運転の16歳少年、軽傷ひき逃げで逮捕」(2014年6月8日 産経新聞)

    滋賀県警守山署などは7日、無免許運転で相手車両の男性にケガを負わせたまま逃げたとして、建設作業員の少年(16)を自動車運転死傷処罰法違反(無免許過失運転致傷)の疑いなどで逮捕しました。

    報道によると、少年は滋賀県野洲市の県道で軽乗用車を運転中、信号が赤色点滅だった交差点に進入し、トラックと出合い頭に衝突。

    トラックを運転していた男性(46)の両足に軽傷を負わせながら、救護措置を取らず現場から車で逃げ去ったということです。

    「無免許運転による加重」は、今回新たに加えられた犯罪類型で、以下の罪を犯した者が、事故の時に無免許だった場合に成立するものです。

    〇危険運転致傷罪(死亡の場合や、「進行を制御する技能を有しない」犯罪類型を除く。死亡の場合を除くのは、すでに最高刑が規定されているため)

    〇準危険運転致死傷罪

    〇過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

    〇過失運転致死傷罪

    過去、無免許のよる重大事故が発生したにもかかわらず、「自動車運転過失致死傷罪」と「道路交通法違反」という軽い罰則しか科せられず社会的批判が高まったことから、世論の後押しもあって今回新たに規定されたのが、この「無免許運転による加重」です。

    従前は、たとえ無免許でも運転する技術があれば危険運転致死傷罪が適用されず、刑罰は軽すぎる、と批判がありました。

    しかし、無免許運転は、基本的な交通ルールの無視という規範意識の低さとともに、それ自体が危険な行為であるため厳罰化となったわけです。

    無免許運転による罪が加重されると、最高刑は次のようになります。

    〇危険運転致傷罪(懲役15年)+無免許→懲役20年

    〇アルコール等で不覚にも運転困難に至って事故を起こした罪(懲役15年)+無免許→懲役20年

    〇アルコール等影響発覚免脱罪(懲役12年)+無免許→懲役15年

    〇過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)(懲役7年)+無免許→懲役10年

    今回の事故の場合、加害者は、
    過失運転致傷罪+無免許+道交法違反(救護義務違反)となり、最高で懲役15年の可能性があります。

    ただ、今回は、16歳の未成年者が加害者ですので、少年法が適用され、将来の更正を期待した処分になると思います。

    とにかく、成年でも未成年でも、当然のことながら無免許運転は以前よりも格段に重い罪が科せられるということです。

    ドライバーの人には、肝に銘じてほしいと思います。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 自動車運転死傷行為処罰法:「通行禁止道路での危険運転致傷」が初適用!

    2014年06月08日

    5月20日に新たに施行された「自動車運転死傷行為処罰法」が適用された事故が、また起きてしまいました。

    今回は、「通行禁止道路での危険運転致傷」です。

    「通行禁止路でひき逃げ、規定初適用し危険運転容疑で男逮捕 警視庁」(2014年6月4日 産経新聞)

    警視庁交通捜査課は、通行禁止道路をバイクで走行してひき逃げ事故を起こしたとして、東京都板橋区の建設作業員の男(28)を自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)と道交法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕しました。

    男は5月30日午前8:30頃、北区の区道を時速30キロ超で走行し、同区在住の男性(38)が運転していた自転車に衝突。男性は頭を打つ軽傷を負ったにもかかわらず、救護しないで逃げたということです。

    男は、「仕事に遅れるため逃げたが、相手に『行っていい』といわれていた」などと容疑を一部否認

    ケガをした男性は、「『行っていい』とは言っていない」と話しており、事故直後に110番通報していることから、同課は容疑者の男が虚偽の説明をしているとみて調べを進めているとのことです。

    現場は、児童生徒の登下校時に車両などの通行を禁止する「スクールゾーン」だったということです。

    「自動車運転死傷行為処罰法」については以前、解説していますが、
    詳しい解説はこちら⇒https://taniharamakoto.com/archives/1236

    今回、適用されたのは今までにはなかった新しい犯罪類型です。
    条文を見てみましょう。

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
    第2条(危険運転致傷)
    次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。

    6.通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

    「通行禁止道路」とは、道路標識もしくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいいます。

    具体的には、以下のようなものです。
    〇自転車及び歩行者の専用道路
    〇一方通行道路(の逆走)
    〇高速道路(の逆走)
    〇スクールゾーンなどで通行を禁止されている場合

    この罪が成立するには、通行禁止道路を走行するという認識が必要なため、たとえば、一方通行道路だと知らずに逆走した場合は、この罪は成立しないということになります。

    新法の施行後、全国でこの法律が適用される事故が相次いでいます。

    ドライバーのみなさんには、今一度「自動車運転死傷行為処罰法」についてしっかり学んでもらってからハンドルを握ってほしいと思います。

    詳しい解説はこちら⇒https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 飲酒運転で自動車運転死傷行為処罰法が初適用!

    2014年05月24日

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(通称、「自動車運転死傷行為処罰法」)が、5月20日に施行されました。

    これは、悪質運転による死傷事故の罰則を強化した全6条から成る新しい法律です。

    「自動車運転死傷行為処罰法」は、これまで刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加え、さらには、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くするというもので、以下のように構成されています。

    ・「危険運転致死傷罪」
    ・「過失運転致死傷罪」
    ・「準危険運転致死傷罪」
    ・「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」
    ・「無免許運転による加重」

    詳しくは、以下のページで解説しています。ぜひ、参考にしてください。

    〇「自動車運転死傷行為処罰法」の成立までの経緯(1)
    https://taniharamakoto.com/archives/1234

    〇「自動車運転死傷行為処罰法」のポイント解説(2)
    https://taniharamakoto.com/archives/1236

    さて、この「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されたその日に早速、全国初の適用となってしまった不名誉な事故が起きてしまいました。

    「酒酔い重傷事故で現行犯逮捕 自動車運転処罰法を初適用 埼玉」(2014年5月20日 産経新聞)

    埼玉県警は5月20日、酒に酔って重傷事故を起こしたとして、同日施行された自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで、自営業の男(41)を現行犯逮捕しました。

    報道によりますと、午前3時40分頃、男は同県蕨市の市道で酒に酔ったままワゴン車を運転して、対向車線にはみ出しタクシーと衝突。タクシー運転手に左手骨折などの重傷を負わせたようです。

    男は、「1人で飲みに行った。酔っぱらって運転した」と容疑を認めているとのことです。

    今回のような事故に対して、今後は「自動車運転死傷行為処罰法」が適用されます。

    アルコールや薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で走行した場合、「危険運転致死傷罪」の最高刑は懲役20年です。

    なお、危険運転致死傷罪には該当しないが、アルコールまたは薬物、あるいは一定の病気の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こした場合、「準危険運転致死傷罪」が適用されます。

    「準危険運転致死傷罪」の最高刑は懲役15年です。

    施行されたばかりのこの新法、今後どのように運用されていくのか、現時点ではまだわかりません。

    せっかく、世論の高まりによってできた法律で、より重い刑罰を科すわけですから、罰するところはきちんと罰するよう厳格に適用していってほしいと思います。

    今後の状況を注意深く見守っていきたいと思います。

  • 軽傷のひき逃げで懲役15年!?

    2014年04月16日

    「後悔先に立たず」、「後の祭り」、「死んだ子の年を数える」「臍(ほぞ)を噛む」……同じような意味で使われることわざですが、なんだか文字を見ているだけで、つらい気分になってきます。

    人間、誰しも失敗や過ちを犯すことがあります。

    しかし、失敗や過ちをそのままにしておく、または隠蔽したり、そこから逃げてしまっては、傷口がさらに広がってしまったり、最終的には取り返しのつかないことになりかねません。

    まさに、ことわざ通り「後の祭り」にならないためには、冷静な判断と対応が大切です。

    ところが、気が動転していたのでしょうか? それとも単に怖くなって逃げたのでしょうか? その場しのぎでやった行為が、後で大きな代償を払うことになってしまった事件が起きてしまいました。

    <「保険に入ってなかった…」女児ひき逃げで男を逮捕>(2014年4月1日 テレビ朝日ニュース)

    千葉県我孫子市の交差点で、近くに住む小学生の女の子(10)が横断歩道を渡っていたところ、軽自動車にひき逃げされました。

    警察は、現場に残された車の破片などを分析。犯人の行方を追っていたところ、車を運転していた自称・会社員の男(32)が警察署に出頭し、逮捕されたということです。

    男は、「任意保険に入ってなかったので逃げた」「女の子が動いていたので、大したことはないと思った」と話しているようです。なお、女の子は救急搬送されましたが、あごを打つなどで軽傷とのことです。

    報道からは、逮捕容疑が何なのか分かりませんが、おそらくこの男は、「自動車運転過失致死傷罪」と、「ひき逃げ」による道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪となるでしょう。

    自動車運転過失致死傷罪は、以下の条文に規定されます。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)
    2.自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。(以下省略)

    「ひき逃げ」とは、車両を運転中に人身事故を起こした際、必要な措置を講じずに事故現場から逃走する犯罪行為をいいます。

    ちなみに、人の死傷をともなわない事故の場合は「当て逃げ」となります。これには、物損事故、建造物損壊、他人のペットなども含みます。

    「道路交通法」第72条
    1.交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。(以下省略)

    人身事故を起こしてしまったら、運転者や同乗者は次のことを「義務」として行わなければ、罰せられます。

    ①直ちに運転を停止する義務
    ②負傷者の救護義務(安全な場所への移動、迅速な治療など)
    ③道路上の危険防止の措置義務(二次事故発生の予防)
    ④警察官への報告義務(事故の発生日時、死傷者、物損状況など)
    ⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる義務

    これらの義務違反をした場合、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条1項)

    さらに、人身事故での被害者の死傷が運転者の運転に原因がある場合に義務違反をしたときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。(第117条2項)

    実際、今回の事故の場合、被害者の女の子は軽傷なので、民事での賠償金は、おそらく最高でも数十万円というところでしょう。また、事故後に、しっかり対応していれば自動車運転過失致死傷罪で立件されない可能性が高いと思います。

    しかし、現場から逃げてしまったばかりに、自動車運転過失致死傷罪と、ひき逃げによる救護義務違反の併合罪となり、場合によっては最高刑で懲役15年にもなってしまう可能性があるということです。

    おまけに、テレビや新聞、ネットで全国ニュースにもなってしまうのですから、人生において大きなダメージを受けることにもなりかねません。

    やってしまったこと、起こってしまったことは消すことができません。しかし、その後の判断と対応で人生が大きく変わってしまう可能性があります。

    まずは、車を運転する際は細心の注意を払いましょう。
    仮に被害者が軽傷で、略式起訴の罰金刑になったとしても、前科一犯に変わりはありません。

    万が一、事故を起こしてしまった場合には、逃げない、うそをつかない。けが人がいれば、救護や連絡などの義務を果たす。

    そうでないと、罪の上にさらに罪を重ねてしまうことになります。

    ハンドルを握るときは、つねにこれらのことを肝に銘じておいてほしいと思います。

    後悔は、先には立ちません。

    先立つものは、カネ・・・、間違えました!

    先に立てるのは、「己を律する心」ということですね。

  • 自動車で人を死亡させて、たった100万円払えば許される!?

    2014年01月07日


    2013年1月、乗用車で男性をはねて死亡させたとして書類送検された、横手(旧姓千野)志麻元フジテレビアナウンサー(36)に昨年12月27日、罰金100万円の略式命令が出されました。

    報道によると、静岡県沼津市のホテル駐車場で看護師の男性(当時38歳)をはねて死亡させた千野アナは、2013年2月に自動車運転過失致死の疑いで沼津署により書類送検。

    同年12月27日、静岡区検は自動車運転過失致死罪で略式起訴。静岡簡裁が罰金100万円の略式命令を出し、千野アナは即日納付したということです。

    自動車で人をはね、死亡させたのに罰金がたったの100万円!? と疑問に感じる人もいると思うので、法律的に解説をしましょう。

    交通事故を起こした場合、①刑事手続き②民事手続き③行政手続き、という3つの手続きが発生します。これらの手続きは、それぞれ別個に進んでいきます。

    「刑事手続き」
    交通事故を起こしたとき、加害者には以下のような刑事処罰が科せられる場合があります。

    1. 自動車運転過失致死傷罪
    2. 危険運転致死傷罪
    3. 道路交通法違反罪

    今回の事故の場合、過失による致死ということで「自動車運転過失致死罪」で略式起訴されたわけです。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)2項
    自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    正式に起訴されず罰金だけ科す場合を略式起訴といいます。
    今回のケースでは、過失がスピード違反や飲酒運転、赤信号無視という大きなものではなかったため略式起訴になったと考えられます。

    以上は、刑事手続についてです。

    しかし、これで終わりではありません。

    100万円だけで終わりになることはないのです。

    なぜなら、被害者の補償、つまり「民事手続き」が別で発生するからです。

    交通事故を起こすと、加害者(運転者)は、被害者に対して不法行為が成立し、被害者が被った損害を賠償しなければならない義務が発生します。

    賠償の対象となる損害は、人身損害と物損害があり、手続としては、示談により解決する場合と調停や訴訟により解決する場合があります。

    加害者が賠償金を支払う場合、加入している自賠責保険や任意保険によって保険会社から支払われます。

    法により加入が義務つけられている自賠責保険では、被害者死亡の場合、最高3,000万円、重度の後遺障害の場合は最高4,000万円が支払われます。

    しかし、それだけでは被害者への賠償が足りないことが多く、損害保険会社による任意の自動車保険に加入している人が多くいます。

    賠償金額は、被害者が将来得られたはずの生涯賃金から算出されます。一般的には数千万円から、年収の多い人の場合は1億円を超えるまでになります。
    「行政手続き」
    運転者が道路交通法規に違反している場合には、違反点数が課せられます。違反点数が一定以上になると、免許取消や免許停止、反則金等の行政処分を受けることになります。

    行政手続も、刑事事件や民事事件とは全く別個に進行します。つまり、行政処分を受けて反則金を支払ったからといって、刑事処分を免れるわけではないということです。

    以上のように、仮に死亡事故を起こしてしまった場合、刑事罰の罰金100万円だけでは済まないのです。

    ちなみに、日本損害保険協会の資料によると、任意の自動車保険への加入率は、対人賠償保険73.1%、対物賠償保険73.1%、搭乗者傷害保険45.1%、車両保険42.1%となっています。(平成24年3月末現在)

    この統計から見えてくるのは、対人賠償保険に加入していない3割弱の人が死亡事故の加害者になった場合、数千万円にもおよぶ賠償金をどうやって支払うのか。また同時に、被害者の3割弱は損害賠償金を得られない事態が発生する可能性があるということです。

    交通事故では、いつ加害者・被害者になるかわかりません。

    転ばぬ先の大きな杖として、運転者は任意保険の無制限に加入しておくべきでしょう。

    また、自分の身は自分で守るためにも、自分の自動車保険に、「無保険者傷害特約」や「人身傷害補償特約」をつけておくことは仮に被害者になった場合、有効な手段だと言えます。

  • 時速40キロで危険運転致死傷罪!?


    今年9月、京都府八幡市で自動車が集団登校中の児童の列に突っ込み、5人が重軽傷を負った事件で、京都地検が「自動車運転過失傷害罪」で起訴した派遣社員の少年(19)について、「危険運転致傷罪」に訴因を変更するよう京都地裁に請求しました。

    なぜ危険運転致死傷罪の適用が可能となったのか? まずは、事件の経緯を見ていきましょう。

    報道によると、9月24日午前7時55分頃、当時18歳だった少年が自動車を運転中、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速してスリップ。

    歩道の柵をなぎ倒し、集団登校中だった小学生13人の列に突っ込み、スポーツカーはそのまま民家に激突。

    少年は昨年、2012年10月に自動車免許を取得したばかりで、すぐに親から車を買い与えられていたようです。

    父親は、「身の丈にあったものにしろといったが、本人は車関係の仕事に就きたいという思いもあり、小さい頃からの夢だった車を購入した。あこがれがあったと思う」と話しているといいます。

    自宅近所や事故現場付近では、少年がスピードを出したり、後輪をすべらせるドリフト走行など危険な運転を繰り返しているのがたびたび目撃され、その無謀運転は近所の人の間では有名だったようです。

    現場は以前にも事故が起こっていて、市に対してガードレールの設置要望をしていた市民もいたようで、事故直後は小学生たちが泣き叫ぶ声が響き、騒然とした空気に包まれていたといいます。

    少年は当初、自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕されましたが、京都地検が危険運転致傷の非行事実で京都家裁に送致。しかし、家裁は自動車運転過失傷害の非行事実に切り替えて逆送し、地検も同罪で起訴していました。

    ところが、起訴後の調査で交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明。

    危険運転致傷罪の規定のひとつである、「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」にあたると判断したとみられます。
    昨年から、京都では暴走車が通行人に死傷を負わせる交通事故が頻発しています。

    「京都祇園軽ワゴン車暴走事故」
    2012(平成24)年4月12日、京都市祇園で起きた暴走車による8名が死亡し、11人が重軽傷を負った事故。事故原因は、運転者男性の持病のてんかん発作によるものであるとされた。

    「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」
    2012(平成24)年4月23日、京都府亀岡市で当時18歳だった少年が運転する軽自動車が、小学校へ登校中の児童と引率の保護者の列に突っ込み、計10人がはねられて3人が死亡、7人が重軽傷を負った事故。事故原因は、少年の遊び疲れと睡眠不足による居眠り運転とされ、2013年9月30日、大阪高等裁判所は一審判決を破棄し、懲役5年以上9年以下の不定期刑を言い渡し、検察・弁護側双方が上告しなかったため、この判決が確定した。

    今回の事故の訴因変更請求は、悪質運転による死傷事故の罰則を強化する新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が参院本会議で全会一致により可決・成立した矢先のことでした。

    さて、この事故について、「自動車運転過失傷害罪」から罰則の重い「危険運転致傷罪」へ変更される可能性はあるでしょうか?

    先にも書いたように、交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明したことが大きなポイントです。

    しかし、時速40キロでの事故は、日常的に起こる事故であって、珍しいことではありません。

    では、どうして時速40キロが重要なポイントとなるのでしょうか?

    危険運転致傷罪の「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自動車を走行させることを言います。

    条文では、具体的に「速度●●キロ以上」と決まっているわけではありません。

    具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってくるし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってきます。

    ということは、高速道路であれば、時速100キロであっても進行を制御することが困難とは言えませんが、曲がりくねった細い道路では、時速40キロであっても「進行を制御することが困難」となりうる、ということです。

    今回の事故では、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速して40キロに至った、ということですので、道路状況を合わせて考えると、40キロであったとしても、「進行を制御することが困難」であると判断したということでしょう。

    さて、検察は勝てるでしょうか。

    弁護側は、

    「40キロも出ていない。当時の速度を測定することは不可能である」

    「T字路を左折する際にアクセルを踏んだのはブレーキと踏み間違えたからである」

    「40キロでも進行制御は十分可能であるが、運転操作を誤っただけである」

    など、いろいろな反論をしてくるはずです。

    裁判の動向を見守りたいと思います

     

  • ひき逃げが殺人罪に!?

    2013年12月26日


    自動車運転に関する事故で、ひとつのケーススタディともいえる事件が発生したので、解説しておきたいと思います。

    「職務質問した警察官をひき逃げ 容疑の男逮捕」(埼玉新聞)

    埼玉県川口市で、職務質問した警察官が車にひかれて重傷を負った事件で、川口署は12月17日、無職の男(31)を公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕しました。

    報道によると、川口市の住宅街のT字路付近で「車が中央寄りに止まっている」との通報があり、署員2名が現場に直行。

    男性巡査(30)が運転手の男に職務質問したところ、男は突然、車を急発進。転倒した巡査の脚をひき、そのまま逃走していたようです。

    男は「ひき殺そうとはしていない」として容疑を否認しているということです。

    まず、この事件の逮捕容疑について確認しましょう。

    公務執行妨害と殺人未遂です。

    「刑法」第95条(公務執行妨害)
    ①公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    巡査の職務質問という公務に対して、男は車を発進させて、巡査の脚をひくという「暴行」を加えて「妨害」したので、これは公務執行妨害になります。

    ちなみに、職務質問を受けて、答えるのを拒否したり、ただ逃げただけでは公務執行妨害にはなりません。

    なぜなら、公務執行妨害罪の要件である「暴行または脅迫」がないためです。

    次に殺人未遂について考えてみましょう。

    「刑法」第199条(殺人罪)
    人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する。

    今回は、ひかれた巡査は死んでないので、未遂罪です。

    車でひき殺そうとしたが、未遂に終わった容疑ということです。

    ところで、ここでひとつ疑問が出てきます。

    自動車運転によって人を死傷させた場合の刑罰には、「自動車運転過失致死傷罪」(刑法211条2項)と「危険運転致死傷罪」(刑法第208条の2)がありますが、今回はなぜこれらの容疑ではなかったのでしょうか?

    報道内容からだけでは詳細はわかりませんが、おそらく「未必の故意」が疑われたのではないかと思われます。

    刑法上の重要な問題のひとつに「故意」と「過失」があります。

    「故意」とは、結果の発生を認識していながら、これを容認して行為をすることで、刑法においては「罪を犯す意思」のことをいいます。

    一方「過失」は、結果が予測できたにもかかわらず、その予測できた結果を回避する注意や義務を怠ったことです。
    では、どのような場合に故意が認められ、または過失が認められるのか?
    その境界線のように存在するのが「未必の故意」です。

    ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでもかまわないと考え、あえてその行為を行う心理状態を「未必の故意」といいます。

    容疑者の男は、100%巡査を殺そうとして車を発進させたのか、たんなる不注意だったのか。

    それとも、死ぬ確率は100%ではないが0%でもなく、死ぬかもしれないが「それでもかまわない」と思ってアクセルを踏んだのか、ということです。

    殺人罪の未必の故意があれば、殺人罪となります。

    ただ、このようなケースで「死んでも構わない」とまで思っているケースはそれほど多くありません。

    そうすると、殺人罪の故意がない、ということになりそうです。

    では、何罪が成立するのでしょうか?

    「死んでも構わない」とは思っていなかったとしても、今回のケース、「怪我をするかもしれないが、それでも構わない」くらいには思っていたかもしれません。

    そうすると、「怪我をさせる故意あるいは未必の故意」があったことになりますので、傷害罪になりそうです。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    ちなみに以前、ある知人で「未必の故意」を「密室の恋」だと思っていた人がいました。

    危険なにおいがします……

    さらには、「未筆の恋」だと思っていた人もいました。

    ラブレターを書く前に終わった恋ということでしょうか……

    「過失の恋」になると、人違いのようになってしまいます・・・。

    それはともかく、素手の場合、殺人も傷害も大変なことですが、自動車の場合には、ちょっとアクセスを踏むだけで実現できてしまいます。

    便利な反面、いつでも凶器になりうる危険なものです。

    事故が予測できるにもかかわらずアクセルを踏むなど、言語道断。

    冷静な判断をもってハンドルを握ることを、いつでも肝に銘じておくことが大切です。

     

  • 子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?

    2013年12月03日


    過去、こんな相談を受けたことがあります。

    「息子(小3)が通う小学校で、“事件”が起きた。

    それは、社会科見学に出発する前、体育館に3年生が全員集合しているときだった。

    一列に座って並んでいた待機中、A君の後ろにいたB君がちょっかいを出してからかった。

    怒ったA君は、カッとなり持っていた水筒をB君に向けて投げつけた。
    B君は、それをヒョイッとかわした。すると水筒がB君の後ろにいたC君の顔面を直撃。

    それまでC君は、そのまた後ろのD君の方を向いて話していたのが、D君に促されて、ちょうど前を向いた瞬間、自分めがけて水筒が飛んできたのだそうだ。

    C君は前歯4本を折って流血し、病院へ緊急搬送。

    単純には決めつけられないけれど、この問題、一体誰の責任なのだろう?

    A君、B君、教師、学校、親……。あれこれ考えたら、怖くなってきた」

    子供同士のささいなケンカから起こった事故とはいえ、大けがをしていることで親御さんとしては、いろいろと考えるところがあったようです。

    学校(保育所)の管理下における事故、災害では、通常、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    学校の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。

    ただ、この給付金では、損害賠償額を全て賄うには足りないことが多いでしょう。

    そうなると、足りない慰謝料などは、誰に請求すればよいでしょうか?

    考えられるのは、水筒を投げたA君、A君の親、学校、などが考えられるでしょう。

    ただ、A君はまだ小学3年生です。賠償金を支払う資力があるとは思えません。

    そこで、A君の親は、どうでしょうか?

    法的には、未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    そして、その能力は、11~12歳くらいが境界線とされています。

    今回のA君は、小学校3年生ですので、おそらく責任能力が否定されて、親の責任が問われることになるでしょう。

    また、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、代理監督者責任があります。

    教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

     

    親の「監督者責任」が問われれば多額の損害賠償金を支払わなければいけない場合も

     

    じつは近年、子供が起こした事故で、親が多額の損害賠償を求められるケースが増えています。

    多額の損害賠償が求められるということは、被害者に重大な障害が残ったり、死亡したり、というケースです。

    どのような状況か、というと、多いのが、自転車による事故です。

    親の監督責任は別として、未成年者による自転車事故で、多額の賠償金が認められた裁判例を挙げてみましょう。

    ・歩道上で信号待ちしていた女性(当時68歳)に、当時17歳が運転する自転車が右横から衝突。女性は大腿骨頚部骨折を負い、後遺障害8級の障害が残った。賠償金額は約1,800万円。親の監督責任は否定された。
    <平成10年10月16日 大阪地裁判決 交民集31巻5号1536頁)>

    ・白線内を歩行中の女性(当時75歳)が電柱を避けるために車道に出たところ、対向から無灯火で進行してきた14歳の中学生の自転車と衝突。女性は頭部外傷で、後遺障害2級の障害が残った。賠償金額は3,124万円。親の監督責任は否定された。
    <平成14年9月27日 名古屋地裁判決 交民集35巻5号1290頁)>

    ・赤信号で交差点の横断歩道を走行していた男子高校生が、男性(当時62歳)が運転するオートバイと衝突。男性は頭蓋内損傷で13日後に死亡。賠償金額は4,043万円。親の監督責任は求めなかった。
    <平成17年9月14日 東京地方裁判所・自保ジャーナル1627号>

    ・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3,970万円。母親の監督責任は否定された。
    <平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>

    ・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9,266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
    <平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>

    こうした中でも、今年7月に自転車事故を起こした少年(11歳)の母親に約9,500万円の損害賠償命令が出された、神戸市の自転車事故のケースは大きな話題になりました。

    平成20年9月22日、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた女性に正面衝突。
    女性は頭を強打し、意識不明のまま現在も寝たきりの状態が続いているとのことです。

    世間では、この金額に対して賛否両論の意見がありました。

    確かに、金額だけを見れば驚く人も多いでしょうが、被害者の状況と過去の裁判例から見ていけば、高額すぎる金額ではありません。

    この女性は散歩をしていただけです。そして、突然自転車に衝突され、寝たきりになってしまいました。

    人生を狂わされた慰謝料もあるでしょう。今後働いて得られたはずの収入もあるでしょう。寝たきりであれば、介護費用の負担もあるでしょう。

    それを考えると、損害額は1億円を超えてもおかしくはありません。

    それらを、この女性が負担すべきか、というと、それはあまりに酷というものです。

    しかし、これほどの金額になると一般の家庭では簡単に支払えるものではないでしょう。

    加害者である子供の親が自己破産してしまえば、被害者は賠償金を回収できなくなってしまいます。これからも続くであろう介護の費用は、どうすればいいのでしょうか?

    交通事故では、結局、被害者も加害者もお互いが不幸な結果になってしまうことも多いものです。

    自転車については、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がありません。

    また、自転車事故における任意保険制度もとても脆弱です。

    火災保険や自動車保険、傷害保険の特約でつけられる場合がありますが、知らない方も多いのではないでしょうか?

    これ以上、不幸を繰り返さないためにも、自転車の強制保険や任意保険の整備は急務でしょう。

    そして、まずは子供たちに対して、交通事故の怖さや自転車の危険性を教育していく「親としての責任」について、大人がきちんと理解し自覚する必要があると考えています。