過労運転をさせた社長が逮捕!?
ある運送会社の社長が、自らは運転していないのに道路交通法違反で逮捕されたようです。
一体、どんな罪を犯したというのでしょうか?
「過労運転黙認容疑で運送会社社長を逮捕 月400時間拘束続く」(2015年10月15日 産経新聞)
兵庫県警交通捜査課などは、トラック運転手に長時間にわたる運転をさせたとして、同県加古川市の運送会社社長(67)を、道路交通法違反(過労運転の下命)容疑で逮捕しました。
2014年11月、過労運転の恐れがあることを知りながら、トラック運転手の男性社員(60)に大阪市から広島県福山市までの運送を命じた容疑としています。
事の発端は、県警が高速道路の路側帯に停車していた同社の運転手に事情を聞いたところ、「仮眠中だった」と話したことから、同社の運行業務の実態を捜査。
そこで、過労運転が常態化していた疑いが強まったため、会社側の管理責任を問えると判断したようです。
社長の男は、「過労とわかっていたが、会社の利益のために運転させた」と容疑を認めているということです。
過去には、事故発生後に同容疑で立件したケースはありますが、事故が発生する前に適用する例は全国的にも珍しいとしています。
【道路交通法違反“過労運転の下命”とは?】
「道路交通法」は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的としています。(第1条)
では、「過労運転の下命」とはどういうものでしょうか?
関連する条文を見てみましょう。
第66条(過労運転等の禁止)
何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。
※これに違反した場合は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条の2の2第7号)
※前条(第65条)第1項とは、酒気帯び運転の禁止です。
※薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転した場合は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。(第117条の2第3号)
第75条(自動車の使用者の義務等)
1.自動車の使用者(安全運転管理者等その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む。)は、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認してはならない。
四 第66条の規定に違反して自動車を運転すること。
運転者に十分な休養を与えずに、正常な運転ができない状態にも関わらず運転をさせたり、運転することを容認した場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条の2の2第10号)
つまり、第66条は運転者、第75条は使用者(事業者)に対する規定ということになります。
ちなみに、使用者(事業者)は運転者に対して、制限速度を超えるスピードで運転させたり、飲酒運転を容認してもこの罪に問われることになるので注意が必要です。
【過労運転の定義とは?】
では、過労運転には一定の基準や定義があるのでしょうか?
トラック運転者の労働条件の改善を図るために策定された、労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)では、次のように規定しています。
・1ヵ月の拘束時間は、原則として293時間が限度
・ただし、労使協定を締結した場合は、320時間まで延長できる
・1日の拘束時間は13時間以内を基本とし、延長する場合は16時間が限度
・1日の休息時間は、継続8時間以上を与えなければならない
・1日の拘束時間が15時間を超える回数は、1週間に2回まで。
・1日の運転時間は、2日平均で1日あたり9時間が限度
・1週間の運転時間は、2週間ごとの平均で44時間が限度
・連続運転時間は、4時間が限度
これらの「限度」を超えると過労運転になる可能性があります。
過去の判例では、上記の基準も参考に過労運転にあたるかどうかが争われているので、ドライバーを管理する立場の人や会社の社長などは注意が必要です。
ところで、警視庁が公表している「平成26年中の交通事故の発生状況」によると、交通事故の総件数から見れば少ないものの、過労運転が原因の交通事故は378件起きています。
過労状態で自動車を運転して、集中力の低下や居眠り運転などによる交通事故を起こしてしまえば、大惨事になりかねません。
使用者や管理者は法律を守って、ドライバーに十分な休息を与えなければいけません。
また、ドライバー自身も無理をせず安全運転に努めて、事故や交通違反がないようにしてほしいと思います。
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