弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 19
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 認知症の父の相続問題にどう対処する?

    2014年07月21日

    高齢者の方が、よく言われるのが「ボケたくない」、「家族に迷惑をかけたくない」ということです。

     

    しかし、実際には日本の超高齢化は進行し、認知症になってしまう人が増え続けています。

     

    厚生労働省の発表では、認知症の人の数は推計で約460万人。発症の可能性のある400万人も含めると、65歳以上の高齢者のうち、4人に1人が認知症とその予備軍だということです。

     

    認知症の問題は本人だけでなく、現実的に家族にも大きくのしかかってきます。

     

    親が認知症になってしまったら、どうしたらいいのでしょうか?

    今回は、親の認知症と相続問題を法的に解説します。

     

     

    Q)75歳の父が認知症になってしまいました。実家は、地方で代々続く地主の家系で、父も数件の土地を先祖から相続して所有しています。そこで心配なのは、今後の財産の管理と相続についてです。いつか悪徳業者にだまされてしまうのではないかと不安でしょうがありません。母は今まですべて父に任せきりで何もわかっていません。おまけに長男である私と弟、妹も全員が実家を出ていて、別生計で家庭を持っています。私が実家に帰ることも考えていますが、仕事の関係もあり、すぐに行動できない状態です。早急に対応したいのですが、何をどのようにすればよいのでしょうか?

     

     

    A)高齢者や障害者などの財産管理や、生活支援をするための制度として、「成年後見制度」というものがあります。

     

    成年後見制度には、認知症や精神障害、知的障害、頭部外傷による高次脳機能障害などで本人の判断能力が低下してしまったときのための「法定後見」と、本人が元気で判断能力があるうちに将来のリスクに備えて自分で後見人を選ぶ「任意後見」があります。

     

    質問のように、親が認知症の場合は、法定後見制度を利用するのがいいでしょう。

     

     

    【法定後見】

    判断能力が不十分な人がいる場合、家族などが家庭裁判所に審判を申し立て、後見人が決定されます。

     

    後見人は、本人に代って財産の管理や法律行為などを行います。

     

    後見人制度は、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれていて、本人の事情に応じて選択できるようになっています。

     

    「後見」

    〇判断能力がまったくない人が対象

    〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など

    〇後見人には、財産管理に関する全般的な代理権と取消権(日常生活に関する行為を除く)が与えられる

    〇制度を利用した場合、医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う

     

    「保佐」

    〇判断能力が著しく不十分な人が対象

    〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など

    〇民法13条1項の掲げられている借金・訴訟行為・相続の承認や放棄・新築や増改築などについて、本人に不利益でないかを検討して、問題がない場合の同意権が与えられる

    〇取消権(日常生活に関する行為を除く)が与えられる

    〇制度を利用した場合、医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う

     

    「補助」

    〇判断能力が不十分な人が対象

    〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など

    〇申立てにより、民法13条1項の掲げられている借金・訴訟行為・相続の承認や放棄・新築や増改築などの一部の同意権と、取消権(日常生活に関する行為を除く)などが与えられる

     

     

    たとえば、後見人は本人に代わって、所有している不動産の売却手続きをすることができます。

     

    また、悪徳業者によるリフォーム契約の取り消しをすることができます。

     

     

    【手続きなどでの注意点】

    〇申立てには、申立書などの書類や本人の戸籍謄本、申立て手数料や登記手数料などが必要です。

     

    〇法定後見を申立てる際、医師の診断書の添付を求められます。この診断書が、「後見」「保佐」「補助」の決定において重要視されます。

     

    〇審判では、医師による鑑定を必要とする場合もあるため、選任までに数ヵ月もかかることがあります。

     

    〇後見人の選任は家庭裁判所が決定するため、申立て人の希望に沿うとは限りません。候補者として家族や親族を挙げていても、本人が必要とする支援などの内容によっては、たとえば候補者以外の人で弁護士や司法書士、社会福祉士、税理士などの専門職や、法律又は福祉に関わる法人などが選ばれる場合があります。

     

     

    【後見人の役割や注意点】

    〇成年後見人制度は、あくまでも本人のための制度であるため、たとえば、相続税対策のための贈与や借入、投機的な運用等はできません。

     

    〇成年後見人から請求があった場合は、家庭裁判所の判断により、本人の財産から報酬が支払われることになります。

     

    〇成年後見人の仕事は、本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られています。そのため、食事の世話や介護などは一般には成年後見人の仕事ではありません。

     

    〇成年後見人は、行った仕事の報告を家庭裁判所に報告し、必要な指示等を受けます。これを、「後見監督」といいます。

     

    〇原則として、後見人は本人が死亡するまで任務が続くことになります。

     

     

    平均寿命の長さ、高齢者の数、高齢化のスピードなどから見ていくと、日本はすでに「超高齢化社会」に突入しているといいます。

     

    それにともない、さまざまな事故や問題も起きています。

    認知症の高齢者の徘徊による鉄道事故に関しては、以前、解説しました。

     

    「鉄道事故の賠償金は、いくら?」

    https://taniharamakoto.com/archives/1421

     

    また、2013年には親族に代って成年後見を申し立てた市区町村長の数が、本人の子供についで2番目の多さになったという報道がありました。この5年で2.7倍に増加しているということです。

     

    家族のいない、身寄りのない高齢者がいかに増加しているかが見てとれます。

     

    時代の変化に合わせて、法律と上手につきあっていくための知識が今後ますます求められているのかもしれません。

  • TBSテレビ「いっぷく」出演

    2014年07月17日

    2014年7月16日のTBSテレビ「いっぷく」に出演しました。

    内容は、最近の飲酒運転による悲惨な事故に関し、法律改正(自動車運転死傷行為処罰法など)は効果を発揮しているのか、どうすれば飲酒運転をなくすことができるのか、という点について、交通事故の専門家としてコメントを求められたものです。

    飲酒運転による悲惨な事故がなくなることを祈ります。

  • TBSテレビ「ひるおび」生出演

    2014年07月17日

    2014年7月15日のTBSテレビ「ひるおび」に生出演しましした。

    最近、頻発する脱法ハーブによる事故やひき逃げ事故について、これまでの事故に関する法律改正状況(道路交通法、刑法、自動車運転死傷行為処罰法)を解説するとともに、どうすれば同様の事故が防げるか、などについて解説をしました。

  • 遺産相続における特別受益とは何?

    2014年07月09日

    松下幸之助さんが生前、こんなことを言ったそうです。

    「嫉妬は狐色に焼くのがよろしい」

    焼きが足りなくてもいけないし、焼き過ぎてもいけない。
    嫉妬は、こんがり狐色くらいが程よく香りも立って、人間味も出て、さらには本人の向上心にもつながる。
    そんなことをユーモアで表現したのでしょう。

    とかく、人間が集まると嫉妬が芽生え始めるものです。
    それは会社の人間関係でも友人同士でも、家族の間でもあるものです。

    「お姉ちゃんばかり、ずるい!」
    「父も母も弟であるお前ばかり可愛がって、うらやましかった」

    子供の頃、兄弟姉妹でこんな不公平を感じていた人も大人になり何事もなく、それぞれの家庭を持って暮らしていたのに、ある問題がきっかけで、兄弟の仲が険悪になってしまうこともあります。

    今回は、不公平を感じてきた兄弟姉妹間の遺産相続問題を解説します。

    Q)父が亡くなり、兄弟間で遺産問題が起きてしまいました。問題は弟です。私たち兄弟は長女である私、次女、長男である弟の3人です。父も母も後継ぎとして、小さい頃から弟を可愛がってきました。それは姉である私たちも同じですが、やはり少し甘やかしすぎたようです。弟は大学進学資金、結婚費用を親から出してもらい、おまけに実家から飛び出し、マイホーム資金まで出してもらったにも関わらず、父の死後、「自分が後継ぎなんだから遺産を多くもらって当然だ」と主張します。今まで親からの援助を多く受けてきた弟が、さらに遺産相続も多くもらう権利があるなんて、おかしくないですか? もう、我慢できず法的に対応しようと考えています。どのように進めていけばよいのでしょうか? ちなみに、母は健在で父の遺言書はありません。

    A)被相続人から特別に財産をもらった相続人がいる場合、その財産も遺産の一部とみなして法定相続分から差し引いてから遺産分割することを「特別受益」といいます。

    つまり、特別受益とは、質問のように被相続人である父の生前に法定相続人の1人である弟が特別に利益を受けていた場合、遺産分割の際に弟が同じ相続分を受けられるとすれば、それは不公平になってしまいます。そのため、受けるべき財産額の「前倒し」を受けていたとして扱うことで、不公平を是正する制度ということです。(「民法」第903条)

    質問からは実際の金額がどのくらいかはわかりませんが、仮に、遺産が5,000万円、弟が受けていた利益を1,000万円とすると、具体的な法定相続分は以下のようになります。

    「みなし財産」
    5,000万円+1,000万円=6,000万円

    「各相続人の相続分」
    妻:6,000万円×2分の1=3,000万円
    長女:6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円
    次女:6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円
    長男:6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円

    ここで、長男である弟はすでに贈与として1,000万円を受けているので、差し引いた残額は0円。
    よって、単純に計算すると、今回の法定相続分は弟にはないということになります。

    ただし、注意点があります。

    ①みなし財産から控除する特別受益は、贈与時ではなく相続開始時で評価するため、住居などは現実の遺産分割時の不動産評価額を参考にして修正し算定することが多くあります。

    ②生活費の援助や結婚式費用など、社会通念上、遺産の前渡しとまではいいがたい範囲の金額は特別受益とはいえないとされる場合があります。

    ③法定相続人全員が合意すれば、遺産は法定相続分のとおりにきっちり分割する必要はありません。こうした話し合いを、「遺産分割協議」といいます。

    つまり、弟の「自分が後継ぎだから遺産を多くもらって当然」という考えは違法ではありませんが、法定相続人間で話がまとまらず合意が得られないため法的な対応を考えているなら、今後は家庭裁判所の調停の手続に入ることになります。

    家庭裁判所の調停は、場合によっては何年もかかることがあり、さらに親族間でもめて関係が悪化することも考えられますから、今後の対応については慎重に判断していただきたいと思います。

    ご相談は、こちらから⇒ http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 空飛ぶガメラを飼って、芸人が書類送検?

    2014年07月05日

    いじめられているカメを助けて竜宮城に行ったのは浦島太郎ですが、禁止されているカメを飼って書類送検されたのは、人気のお笑い芸人だったようです。

    「空からカミツキガメ…飼育のお笑い芸人書類送検」(2014年7月4日 読売新聞)

    性質が凶暴なことで知られるカミツキガメを無許可で飼っていたとして、警視庁は4日、お笑いコンビのメンバー(36)を特定外来生物被害防止法違反(無許可飼養)の疑いで東京地検に書類送検しました。

    報道によりますと、マンション9階の自宅から逃げたカメが歩道に落下し、通行人の女性が「カメが空から降ってきた」と交番に届け出たことで発覚。

    カミツキガメは2005年に同法で特定外来生物に指定され、飼育や輸入が規制されているが、江口容疑者は「2001年頃に通信販売で買った。許可はいらないと思った」と供述しているということです。

    空を飛ぶカメの怪獣といえば「ガメラ」ですが、目撃者の女性もまさか空からカメが降ってくるとは思いもしなかったでしょう。
    直撃しなかったのは不幸中の幸いでした。
    ちなみに、カメは甲羅が割れて瀕死の状態だったようです。

    ところで、「特定外来生物被害防止法」とはどんな法律でしょうか。条文を見てみましょう。

    「特定外来生物被害防止法」
    第4条(飼養等の禁止)
    特定外来生物は、飼養等をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

    (1)次条第一項の許可を受けてその許可に係る飼養等をする場合
    (2)第三章の規定による防除に係る捕獲等その他主務省令で定めるやむを得ない事由がある場合

    第5条(飼養等の許可)
    1.学術研究の目的その他主務省令で定める目的で特定外来生物の飼養等をしようとする者は、主務大臣の許可を受けなければならない。

    特定外来生物について販売・頒布以外の目的で飼養した場合、個人には1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、法人には5,000万円以下の罰金が科せられます。

    そもそも、特定外来生物被害防止法は、日本在来の生物を捕食したり、生態系を損ねたり、人の生命・身体、農林水産業に被害を与えたりする、あるいはそうするおそれのある外来生物による被害を防止するために、飼養、栽培、保管、運搬、輸入等について規制するとともに、必要に応じて国や自治体が指定された外来生物の防除を行うことを定めた法律です。

    特定外来生物に指定されているのは、計111種類(2014年6月11日現在)。内訳は以下のようになっています。

    哺乳類25種類/オポッサム・クスクス・ハリネズミ・オナガザルなど
    爬虫類16種類/カミツキガメ・タテガミトカゲ・ナミヘビなど
    魚類14種類/イクタルルス・パイク・パーチ・サンフィッシュなど
    両生類11種類/ヒキガエル・アマガエル・アカガエルなど
    クモ・サソリ類10種類/キョクトウサソリ・ジョウゴグモなど
    その他、昆虫類8種類/植物13種類/軟体動物等5種類/鳥類4種類/甲殻類5種類など

    近年、外来生物によって日本の生態系が破壊されているという報道も目につくようになってきました。

    東京の多摩川などは、「タマゾン川」とも呼ばれるくらいアマゾン川原産の淡水魚などが増えているようです。

    秀逸なネーミングですが、ちょっとコワイです。
    (((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル

    また、昨年9月には、子供に人気のミドリガメを環境省が特定外来生物に指定することを検討しているとの報道もありました。

    安易に飼って、世話をしきれなくなった動物を遺棄するケースが増えているようです。

    「捨てる神あれば、拾う神あり」、ということわざもありますが、

    「捨てるカメあれば、拾うカメあり」

    ということになると、犯罪が成立することもありますので、お気をつけを~。

  • 子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?

    2014年07月03日

    遺産の相続問題で、こんな話を聞くことがあります。
    「うちの夫婦には子どもがいないから相続が簡単。ラクでいい」

    確かに一見すると、簡単そうに思えますが、果たして法律的にはどうなのでしょうか?

    今回は、子供のいない夫婦の相続問題を法的に解説します。

    Q)夫を病気で亡くしました。59歳でした。突然のことだったので、遺言書は見つかっていません。私は相続のことなど考えてもいなくて、勉強もしていませんでした。私たち夫婦には子供がいなかったので、夫の遺産は私が相続するものだと、勝手に漠然と思っていたのです。しかし、49日が過ぎたころ、義理の姉とその息子がやってきて、「遺産を相続する権利が自分たちにもある」というのです。本当でしょうか? 私は義姉とは特に仲が良かったわけでもないので、心情的には納得がいきません。ちなみに夫の遺産は2人で住んでいたマンションとわずかな預金のみ。夫の父母は数年前に亡くなっています。(茨城県在住 S・Tさん 56歳 主婦)

    A)個人が亡くなった場合、その人は「被相続人」となり、権利義務
    を「相続人」が承継します。

    民法では、相続人の順位が決められています。

    〇第1順位:子(直系卑族)
    ※養子・非嫡出子・胎児を含みます
    ※子が死亡している場合は、孫や曾孫に代襲相続されます

    〇第2順位:父母(直系尊属)
    ※父母が死亡している場合は、祖父母が相続人になります
    ※第1順位の人がいない場合のみ、相続人になります

    〇第3順位:兄弟姉妹
    ※第1・第2順位の人がいない場合のみ相続人になります
    ※兄弟姉妹が死亡している場合は、甥・姪が相続人になります

    〇配偶者:夫または妻
    ※配偶者は、つねに相続人になります
    ※法律上の婚姻関係にある者で。内縁関係では相続人にはなりません

    S・Tさんのように子供のいない夫婦で旦那さんが亡くなった場合、まず配偶者であるS・Tさんは相続人になります。

    次に、子供はいないため、夫の父母に相続人である権利がありますが、どちらも亡くなっているため、第3順位の夫の姉に相続権が発生することになります。

    父母が健在なら、S・Tさんの法定相続分は3分の2、親が3分の1となりますが、今回のケースでは、義理の姉にも相続権があります。
    法定相続分は、S・Tさん4分の3、姉が4分の1となります

    ここでは仮に、マンションの評価額1,800万円、預金200万円として、義理の姉とお金で解決する前提で考えてみると、S・Tさんが義理の姉に支払わなければいけない金額は、法的には500万円になってしまいます。

    もし、S・Tさんに十分な預貯金がない場合は、マンションを売却するしかなくなってしまいます。
    すると、生活基盤である住まいを失い、S・Tさんの生活は一気に不安定な状況になってしまいます。

    さぁ、困ったことになってきました。
    果たして、こうした事態を回避する方法はあるのでしょうか?

    いくつかありますので、順に説明していきます。

    ①「法定相続人に相続放棄してもらう」
    被相続人が死亡すると自動的に相続が開始されますが、相続人は、自分が望まないのに無理矢理相続する義務があるわけではありません。また、被相続人に多額の借金がある場合、借金も相続されますので、なんとか相続を逃れない、という場合もあるでしょう。

    そんな時、相続人は「相続放棄」をすることができます。

    相続放棄をすれば、始めから相続人ではなかったことになります。今回の場合、義理の姉が始めから相続人でなかったことになり、S・Tさんが全ての財産を相続することができます。

    ただ、「遺産を相続する権利が自分たちにもある」という登場の仕方から考えると、相続放棄してもらえる可能性は低いでしょう。

    ②遺産分割協議をする。

    法定相続人全員が合意すれば、遺産は法定相続分のとおりにきっちり分割する必要はありません。
    こうした話し合いを「遺産分割協議」といいます。

    S・Tさんの場合は、法定相続人の1人である義理のお姉さんと話し合って、S・Tさんが支払える限度のお金の相続で我慢してもらうか、マンションの持分の一部を相続してもらって、そのマンションの分割を求めない旨の合意をすることも考えられます(但し、5年が上限です)。

    ②「遺言書を遺しておいてもらう」
    遺言を遺しておけば、財産の分け方を本人の意思で決めることができます。

    「自筆証書遺言の書き方」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1372

    ただし、法定相続人には最低限の財産を受け取る権利である「遺留分」が認められているので注意が必要です。

    たとえば、子供が2人いる場合、夫が「自分の全財産を妻に相続させる」という遺言を遺しても、子供は「遺留分」を受け取ることができます。
    この場合、遺産等の全体の2分の1が遺留分となり、そこに子供の法定相続分である4分の1を掛けた8分の1ずつが子供たちの遺留分となります。

    ところが、兄弟姉妹や甥・姪が法定相続人になる場合は遺留分が認められないので、S・Tさんの場合、「全ての財産を妻に相続させる」という遺言書を遺しておいてもらっていれば遺産の全額を相続できるということになります。

    S・Tさんの場合、誠意をもって義姉と話し合いをして理解してもらうか、もしくは旦那さんが遺言書を遺している可能性もあるので、公証役場で探しもらったり、遺品の整理をしてみることをおすすめします。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 写真撮ったら逮捕しちゃうぞ!?

    2014年07月01日

    デジタル技術の進化によって、写真撮影は以前より格段に身近なものになりました。
    今ではスマホで誰もが気軽に撮影して、写真を楽しんでいますね。

    しかし、その気軽さゆえに見知らぬ人を撮影したら犯罪になってしまった!? そんな事件が起きました。

    「女性の上半身を撮影、逮捕された町職員の供述」(2014年6月30日 読売新聞)

    神奈川県警大礒署は、大礒市内のスーパーで買い物中の40代女性の上半身をスマートフォンで撮影したとして、神奈川県中井町の職員の男(36)を現行犯逮捕しました。
    容疑は、県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)とのことです。

    報道によりますと、撮影されたことに気づいた女性が店の外に待っていた知人男性とスーパーの店長に連絡。
    容疑者の男が店外に出てきたところを知人男性が取り押さえたようです。

    男は、「女性の胸元に興味があった。撮影したことは間違いありません」と供述、容疑を認めているということです。

    以前、盗撮について解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「法がダメなら条例で!京都府が盗撮を禁止へ」
    https://taniharamakoto.com/archives/1307

    盗撮を直接取り締まる法律が「刑法」にはないため、全国の各都道府県は「迷惑行為防止条例」を適用している、というものでした。
    しかし、今回の事件は、盗撮ではないようです。
    報道内容からだけでは詳しい状況が分かりませんが、女性が胸の写真を撮られていることに気づいたということですから、容疑者の男は堂々と正面から写真を撮っていたのでしょうか?
    それとも、気づかれていないと思いながら横から狙ったのでしょうか?
    何はともあれ、「神奈川県迷惑行為防止条例」の条文を見てみましょう。

    第3条(卑わい行為の禁止)
    1.何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

    具体的な禁止行為は、以下のようになっています。
    〇服の上から、もしくは直接人の身体に触れること
    〇人の身体や下着を見たり、映像を記録するためにカメラを設置したり人に向けること
    〇その他の卑わいな言動

    違反をすると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。

    容疑者の男は、さすがにカメラを向けることまではしなかったけれど、スマホの気軽さで女性の胸を撮影するという「卑わいな言動」をしてしまった、ということなのでしょう。

    注意してください!
    相手が羞恥や不安を感じるような状況で、スマホで安易に他人を撮影すると、それは犯罪になるかもしれませんよ。

    「相手の本心を知りたければ、相手の顔をじっと見つめることだ。」(チェスター・フィールド)

    しかし、自分の本心に忠実に、相手の胸をじっと見つめていると、逮捕されるかもしれないので、十分気をつけたいところです。

  • 危険運転はなくならない!?-自動車運転死傷行為処罰法施行1ヶ月

    2014年06月29日

    危険・悪質な運転による死傷事故を厳罰化するために新設された「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されて1ヵ月が経ちました。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    この度、警視庁がまとめた1ヵ月の摘発状況が公表されたのですが、果たして、どのような結果だったのでしょうか?

    「新規定で18件摘発=悪質事故厳罰化1カ月―警察庁」(2014年6月26日 時事通信)

    警察庁の発表によると、自動車運転死傷行為処罰法の施行から1ヵ月間の摘発状況をまとめたところ、18件に適用されたということです。

    内訳は、「アルコール、薬物、病状の影響で運転に支障が生じる恐れを認識していた危険運転致死傷罪」が最多の8件、「通行禁止道路を進行した危険運転」が1件、「アルコールや薬物の影響の発覚を免れようとする免脱罪」は6件、さらに、これらの違反者が「無免許運転だった場合の罰則の加重」は3件あったとしています。

    そもそも、自動車運転死傷行為処罰法は、栃木県鹿沼市で起きた、てんかん患者の運転手の発作により小学生6人をはねて死亡させた「鹿沼市クレーン車暴走事件」(2011年4月)や「京都祇園軽ワゴン車暴走事故」(2012年4月)、無免許・居眠り運転が原因で起きた「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」などの重大事故の遺族の方などが危険運転の罰則の見直しを望んだことから世論の後押しもあって新設されたものです。

    しかし、単純計算すると、この1ヵ月では40時間に1件の割合で、危険・悪質事故が起きたことになります。

    先日、発生した脱法ハーブに絡んだ池袋の死傷事故など、依然として危険・悪質事故は絶えません。
    詳しい解説はこちら⇒「脱法ハーブで危険運転致死傷罪か!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1530

    新しい法律を作っても、それを国民に広く知らしめなければ、抑止効果は薄いと思います。

    今回の自動車運転死傷行為処罰法の施行については、国民に対する告知が足りないように感じています。

    危険な運転をすると、いかに重い処罰を受けることになるのか、広く国民に知ってもらい、少しでも悲惨な事故が減少するよう祈ります。

  • 脱法ハーブで危険運転致死傷罪か!?

    2014年06月25日

    6月24日の夜、池袋の路上で脱法ハーブを吸った男が自動車を運転し、8人が死傷するという事故を起こしたようです。

    「“全く記憶がない”池袋脱法ハーブ事故、逮捕の男 危険運転致死傷適用検討」(2014年6月25日 産経新聞)

    24日午後8時前、池袋駅近くの路上で自動車が歩道に突っ込み、歩行者を次々にはねながら約40メートルにわたって走行。20代の女性が死亡、男女3人が重傷、4人が軽傷を負いました。

    運転していた埼玉県の飲食店経営の男(37)は調べに対し、「池袋で脱法ハーブを買い、運転前に車の中で吸った。途中からまったく記憶がない」と供述。

    目撃者によると、男は事故後、酒に酔ったような状態で運転席からなかなか出ようとせず、よだれを垂らして口の周りには泡があふれた状態だったということです。

    警視庁交通捜査課は当初、男を自動車運転処罰法違反の「過失運転致傷」の容疑で現行犯逮捕。

    その後、死亡者が出たことから「過失運転致死傷」容疑に切り替えて調査していましたが、薬物の影響で正常な運転ができない状態だったとみて、さらに罰則の重い「危険運転致死傷」容疑の適用を検討しているようです。

    自動車運転処罰法違反で危険運転致死傷罪となると、死亡の場合、最長で懲役20年です。

    ところで、「過失運転致死傷」と「危険運転致死傷」の違いは何でしょうか?

    大きく、2つのポイントがあります。

    〇アルコールや薬物(脱法ハーブも含む)などの影響により、正常に運転ができない状態だった。
    〇過失ではなく、故意に危険運転をした。

    今回の事故で容疑者の男は、「脱法ハーブを吸った」「人をはねたのは間違いない」「脱法ハーブを車の中に置いてある」「過去にも吸ったことがある」「途中からまったく記憶がない」などと供述していることから、危険運転致死傷罪が成立する可能性は高いでしょう。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    近年、脱法ハーブによる事件が多発しています。
    また、こうした薬物の吸引が原因とみられる交通事故も増加しています。

    「後絶たぬ脱法薬物交通事故 昨年の摘発は前年比2倍超」(2014年6月25日 産経新聞)

    報道によりますと、平成25年の脱法ハーブを含む薬物の吸引が原因とみられる事故は前年比で2倍以上に増加。

    今年4月施行の「改正薬事法」では、販売だけでなく所持にも罰則が科せられ厳罰化が進められていますが、乱用に歯止めがかからないとしています。

    今後、脱法ハーブにも、新たな法整備が必要とされる事態も考えられます。

    まずは脱法ハーブの危険性と違法性を十分に理解すること、そして安易な考えで車の運転をしないことの徹底が大切だと思います。

  • 相続した不動産を兄弟間で争わずに分割する方法とは?

    2014年06月24日

    一定の年齢になると、多くの人はあの問題に直面します。

    お金も絡んでややこしく、時に争いにまで発展することもあるものといえば……相続問題です。

    父親も母親もまだ生きているから、後で考えよう。
    親の死なんて、縁起でもないことは考えたくない。

    そんなことを言っているうちに、いざという時がきて、あわてたり、親族間の争いが起こったりすることがあります。

    そこで今回は、相続に関する相談を法的に解説してみたいと思います。

    Q)いっしょに暮していた父(68)が亡くなり、財産を相続することになりました。しかし、父には現金の財産はほとんどなく、大きな遺産は実家の家と土地です。私には弟が一人いて、母はすでに亡くなっています。この家と土地を私と弟で相続するわけですが、争わずに分割するいい方法はありますか? (神奈川県在住 T・Hさん 40歳 会社員)

    A)相続問題で、よく相談されるもののひとつに相続した財産の分割問題があります。

    相続の問題というと、資産家や経営者一家の問題と考えている人もいるでしょうが、じつは一般的な家族にこそトラブルが起こりがちです。

    相談者であるT・Hさんの抱えている問題はその典型ともいえます。

    多くの一般家庭では、現金の財産は少なく、大きな財産といえば実家の土地と家ということがよくあります。
    この不動産を分割して相続するときにトラブルが起こりがちなのです。

    では、この土地と家を、どのように弟と分ければいいのでしょうか?

    遺産分割には、大きく分けると以下の3つの方法があります。

    ①現物分割
    ②代償分割
    ③換価分割

    【現物分割】
    相続した不動産(現物)を共同相続人と分割する方法。
    遺産が土地の場合は、区画に分けて(分筆して)相続しますが、狭い土地の場合は分割するのが難しい。
    また、建物は分割できないという問題があります。

    【代償分割】
    債務負担による分割方法。
    簡単にいうと、不動産を相続した人が他の相続人に対して、自分の預貯金から代償金を渡すわけです。
    ある程度、平等に財産を分割することができます。
    しかし、不動産を相続した人にまとまった現金がない場合は、他の相続人に代償金を渡すことができないという問題が発生します。また、不動産の価値で意見が分かれ、紛争に発展することもあります。

    【換価分割】
    不動産を売却して、その代金を相続人間で分割する方法。
    平等に分割することができるが、家と土地を売却するため、そこに住んでいる人がいる場合、問題が生じるケースがあります。

    遺産相続は、原則的には「現物分割」で行われますが、建物は分割できないという物理的問題や、分割することで著しく価値が損なわれるような場合には「代償分割」を考えます。

    「代償分割」の場合、T・Hさんが弟に渡すお金は厳密に法定相続分きっちりである必要はありません。
    兄弟で話し合って、お互いが納得できる金額にすれば問題はありません。

    しかし、小さな土地と一軒家でも都心に近ければ数千万円にはなるでしょうから、T・Hさんが弟に不動産の代償金を渡せるだけの現金をもっていなければ、事態は難しくなります。
    いずれにせよ、兄弟間での話し合いが必要となるでしょう。

    「換価分割」を選ぶなら、T・Hさんがこの家に住んでいるという部分をどうするか、検討する必要があります。

    相続人の間で話し合いがうまくいかなければ家庭裁判所の調停の手続に入ることになります。

    家庭裁判所の調停は、場合によっては何年もかかることがあり、親族間の関係もぎくしゃくしたものになってしまいます。

    お互いが譲り合い、尊重しあって兄弟仲良く生きて行きたいものです。