弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 18
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 暴力団が自動車保険加入OKにっ!?

    2014年09月01日

    2014年9月1日本日付のニュースによると、損害保険各社は、暴力団関係者が自動車保険に加入できるようにする、と発表した。

    どういうことか?

    昨年2014年11月4日のニュースでは、損害保険各社は、暴力団排除条例を受けて、暴力団関係者には、一切自動車保険に加入できないようする、と発表していた。

    その方針を180度転換する、ということである。

    なぜ、そのようなことになるのか説明したい。
    日本では、すでに47都道府県全てに暴力団排除条例が施行されており、損害保険会社を含め、企業は、暴力団に経済的利益を与えることが禁止されている。

    損保会社が暴力団関係者と保険契約を締結することを認めると、保険事故があると、暴力団に保険金が支払われる可能性がある。

    これは、暴力団に経済的利益を与えることになるため、自動車保険への加入を認めない、と判断したものだった。

    しかし、その時、ブログに書いたように、暴力団に自動車保険加入を認めないと、暴力団保有、あるいは暴力団の運転する自動車にはねられた交通事故被害者が悲惨な目にあってしまう、ということだ。

    https://taniharamakoto.com/archives/1203

    改めて説明するが、損保会社が、暴力団との自動車保険契約を拒絶すると、暴力団関係者保有の自動車は無保険状態(自賠責だけ)となる。

    自賠責保険の金額は、たとえば、死亡の場合は、最高3,000万円である。

    そこで、仮に、40歳男性で家族が妻と子供1人、年収が800万円という例で、死亡事故の損害賠償金を算出してみたい。

    この場合、概算で計算すると、1億1150万円が、損害賠償額となる。

    この損害賠償額は、被害者が今後働いて得られるお金や慰謝料など、被害者の遺族が当然もらえてしかるべき賠償金である。

    しかし、任意保険がないとなると、自賠責保険で、3,000万円しかもらえない。

    残りの8,150万円を暴力団に請求し、払ってもらえるだろうか?

    これでは交通事故被害者は浮かばれないだろう。

    そこで、今回、損保各社は、被害者救済を重視して、暴力団の自動車保険加入を認めることにした、ということだ。

    大変評価できる対応である。金融庁も認めている、ということである。

    では、この対応は、暴力団排除条例に違反しているのであろうか?

    私はそうは思わない。

    暴力団排除条例では、暴力団の活動を助長する目的で利益を提供してはならない旨規定している。

    暴力団関係者が事故を起こした場合、損保会社から賠償金が支払われるが、それは、対人賠償の場合には被害者に直接支払われることになる。

    暴力団関係者に支払われるわけではないし、賠償金支払によって暴力団関係者に利益を供与しているわけではない。また、これによって暴力団の活動を助長することもない。

    したがって、対人賠償によって損保会社が被害者に賠償金が支払われたからといって、暴力団排除条例の趣旨を没却することはないと考えられる。

    ただし、自動車保険の中には、被保険者などに支払われる保険金もある。

    この点については、被害者救済の理念は働かず、かつ暴力団関係者に直接保険金が支払われる可能性があるので、取り扱いには注意が必要であろう。

    もちろん、損保会社がこのような取り扱いを始めたからといって、暴力団関係者が任意保険に加入するかどうかはわからない。

    暴力関係者の自動車が任意保険未加入であることを想定して、被害者が取り得る手段がある。

    それは、相手が無保険でも保険金が支払われるようにしておくことである。

    自分(同居の親族も)の自動車保険を確認しよう。「無保険者傷害特約」がついていれば、相手が任意保険未加入であっても損害賠償額に相当する保険金が被害者に支払われる。

    「人身傷害補償特約」も有効だ。

    「弁護士費用特約」も必須であると考える。

    誰も予想していないところで交通事故は発生する。

    自分が交通事故に遭うことを予想できる人などいないのである。

    その時のため、今一度、自分の自動車保険を見直してみることをおすすめする。

  • 祭りへの寄附が問題に! 公職選挙法が定める規制とは?

    2014年08月31日

    今年も日本全国で、さまざまな夏祭りが開かれたことと思います。

    神輿に祭囃子、盆踊りに花火大会、サンバカーニバルなどもありますね。
    「祭り」と聞くと、血が騒ぐという人もいるでしょう。

    さて、そんな夏祭りが静岡県富士市で問題になっているようです。
    楽しいはずのお祭りに、一体何があったのでしょうか?

    「市議複数が夏祭りに“会費”出す 1人5千円、寄付行為に抵触か」
    (2014年8月28日 静岡新聞)

    静岡県富士市の複数の保守系市議が、毎年9月に開かれる夏祭りで、少なくとも過去5年間に「会費」として、1人5000円を主催者に渡していたことがわかりました。

    内部資料の協賛者一覧に、地元企業や事業所の代表者、市内各種団体の代表者らとともに、市議や前市議、衆院議員の名前と金額が記してあったようです。

    毎年、お金を渡していた市議がいるほか1回のみの市議もいて、取材に対し、いずれも認めているということです。

    また、別の祭りでも「会費」を渡している市議がほかにも複数いて、市議会でも問題視する声が出始めているようです。

    市選挙管理委員会は「公選法は一切の寄付行為を禁じている」との認識を示しているとのことですが、報道では、祝儀や会費などを暗に求める有権者や地域の姿勢も問題だとしています。
    一般の人や地元の人は、政治家でも誰でも寄付をしてくれるのだから、ありがたいことだと思う人もいるでしょう。

    しかし、「寄附」ということになると、これは、れっきとした法律違反なのです。

    日本には、「公職選挙法」という法律があります。
    これは、国会議員や地方公共団体の議会の議員・首長など公職に関する定数と選挙方法などを規定するもので、1950年、衆議院議員選挙法・参議院議員選挙法の各条文や、地方自治法における選挙に関する条文を統合する形で新法として制定されたものです。

    「公職選挙法」
    第1条(この法律の目的)
    この法律は、日本国憲法の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。
    選挙の立候補者は「自由」に、かつ「公明」、「適正」に選挙活動しなければいけないのですが、そのために「選挙運動期間に関する規制」(選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までしかできない)や、「未成年者の選挙運動の禁止」、「文書図画の頒布の規制」などの規制が定められています。

    また「公職選挙法」では、選挙の有無に関わらず、公職の候補者等が選挙区内の人に対して、どのような名義であっても一切の寄附を禁止しています。(第199条の2)。

    ちなみに、総務省のホームページでは、禁止されている寄附の例として、以下のようなものを挙げています。

    〇病気見舞い
    〇祭りへの寄附や差入れ
    〇地域の運動会やスポーツ大会への飲食物の差入れ
    〇結婚祝い・香典
    〇葬式の花輪・供花
    〇落成式・開店祝の花輪
    〇入学祝・卒業祝
    〇お中元・お歳暮

    これは、公職選挙法の基本中の基本ですから、知らずに政治家をしている人がいるとすれば、言語道断ですね。

    法律遵守の自覚が乏しいと言わざるを得ません。

    ところで、公職選挙法は、「寄付」について、次のように規定しています。

    197条 2項
    「この法律において「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいう。」

    ここでは、「会費」は「寄附」にならないとしており、今回の方々も「祭りの会費だから寄附にはあたらない」と判断したのかもしれません。

    しかし、「寄附」になるかどうかは、お金を交付するときの名称にかかわらず、その実質により判断されます。

    そして、法律では、「会費その他債務の履行としてなされるもの」は寄附ではないとされています。

    ポイントは、「債務の履行」かどうか、ということです。

    たとえば、私たち弁護士が支払う「弁護士会費」は、登録した弁護士が当然に支払わなければならない性質のものであり、「債務の履行」として支払うものですから寄附ではありません。

    では、今回の祭りの会費はどうでしょう。

    町内全員の義務になっていれば別ですが、寄附の意思を持つ人が任意に行うものであれば、「債務の履行」とは言えず、「寄附」にあたり、公職選挙法違反になる、ということになります。

    迷った時は選挙管理委員会や弁護士に確認することが大切ですね。

    公職に就いている人も、これから公職に就こうと大志を抱いている人も、公職選挙法は熟知していなければいけません。

    自信がないという人は早速、勉強してください。
    それが政治家の責務です!

    同時に、有権者や地域全体の問題でもありますから、この機会に公職選挙法を勉強してみてもいいかもしれません。

    ただし、とてもわかりにくい法律になっています。(;´Д`)アウ…

  • 宿題代行業は、詐欺罪!?

    2014年08月29日

    今年の夏も、もうすぐ終わりますね。

    仕事に遊びに、みなさんはどんな夏を過ごしたでしょうか。

    地域によって、期間には多少の違いがあるようですが、学生たちの夏休みも、もうすぐ終わります。

    子供の頃、怠けていたばっかりに夏休みの終了直前になって、バタバタと宿題をやったり、親に怒られながらも手伝ってもらったという経験のある人も多いのではないでしょうか。

    ところで、親が手伝ってあげるのはまだしも、親がお金を払って宿題代行業者に依頼するケースもあるようで、教育評論家のあの方が、そんな現状に激怒しているようです。

    「尾木ママ“宿題代行業は詐欺罪だ”」(2014年8月27日 デイリースポーツ)

    宿題代行業が大繁盛している現状に対して、「尾木ママ」こと、教育評論家の尾木直樹さんが自身のブログで激怒。
    「子どもたちに対しては教育犯罪そのもの」「れっきとした詐欺罪です」と厳しく指摘したということです。

    小中学生の宿題を代行する宿題代行業は、読書感想文や絵画、工作などを代行して制作。
    ネット上では、読書感想文1枚3000円、絵画1枚4000円などの代金も表示されているようです。

    尾木さんは、「お金でなんでもできるという歪んだ価値観教えることになります」、「こういう闇悪徳業者は追放するべきですね」などと訴えているということです。
    他の報道では、「依頼主は病気で手がつけられない場合や、受験で忙しくて宿題に手が回らない人」という業者もいるようですが、やはり許される商売ではないでしょう。私も尾木さんには同感です。

    ところで、ここで疑問が湧いてきます。
    尾木さんは「詐欺罪だ」と書いていますが、実際法的には業者は詐欺罪になるのでしょうか?
    まずは条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第246条(詐欺)
    1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
    2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
    「詐欺罪」が認められ成立するには、その構成要件を満たしているかがポイントになります。

    〇相手方を錯誤に陥らせ、財物や財産上の利益を処分させるような行為をすること((欺罔行為や詐欺行為)
    〇相手方が錯誤に陥ること(錯誤)
    〇錯誤に陥った相手方が財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)
    〇財物の占有または財産上の利益が行為者や第三者に移転すること(占有移転、利益の移転)
    〇これら4つの間に因果関係が認められ、行為者に故意または不法領得の意思が認められること

    なんだか、ややこしくて難しいですね。
    簡単に言うと、次のような場合、詐欺罪が成立するわけです。

    〇お金などを奪う目的で、Aが詐欺的な行為で故意にBをあざむく
    〇BはAにあざむかれ、勘違いしてしまう
    〇そこで、Bはお金などをAに渡す
    〇Aはお金などを手に入れる

    では、宿題代行業者の一件にこの要件を当てはめてみましょう。

    業者が、初めからお金を奪う目的で「宿題を代行します」とウソを言って親からの依頼を受け、代金を受け取ったのに宿題を代行しなかったなら詐欺罪が成立します。

    しかし、親は子どもの宿題が間に合わないので、ネットで見つけた業者にお金を払って宿題代行を依頼。
    業者も商売として親から依頼を受け宿題を完成し報酬を得たわけですから、業者は親を騙しておらず、詐欺罪にはあたらないということになります。

    ただ、宿題代行業は子ども本人の「宿題をやり遂げる力」や「正直に生きる機会」を奪い、「人生に損害を与える行為」をしたと考えれば、法律は別として国語辞典の定義である「詐欺」にはあたるかもしれませんね。

    このように、刑法の「詐欺罪」と、国語辞典にある「詐欺」では概念が違うということは知っておいてもいいと思います。

    さて、今回のような宿題代行業者は、犯罪になる可能性はないのでしょうか?

    じつはあるのです。

    「刑法」
    第233条(信用毀損及び業務妨害)
    虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
    学校や塾は、教育業務を行っているのであり、そのために宿題を課します。その宿題をあたかも本人がやったように偽って他人が行っていたとすれば、適正な教育業務は遂行できません。

    したがって、偽計(人を欺く計略)によって、学校や塾の教育業務を妨害した、と言えなくもないのです。

    さて、世の中には、さまざざまな「詐欺的行為」がありますが、法的な解釈では、その扱いが違ってきます。

    たとえば、結婚詐欺があります。
    既婚の男性が、「結婚していない」といって女性をあざむいて交際した場合、ウソが発覚すれば女性は、「だまされた」「詐欺だ」と思うでしょうが、つきあっていただけなら刑法上の詐欺罪にはなりません。

    ところが、「俺に賭けてくれ」「俺を信じてくれ」などと言って、女性からお金をだまし取ったら詐欺罪になります。

    ただし、刑法には問えなくても女性が民事で男性を訴えることはできます。

    「詐欺だ」というのと、刑罰を科される「詐欺罪」というのは、違う概念である、ということを憶えておきましょう。

  • 会社の領収書の改ざん、どんな罪?

    2014年08月28日

    気づいてしまったら、もう後戻りできないことが人生にはあります。

    たとえば、会社内での不正に気づいたとき、あなたならどうしますか?
    告発しますか? 見て見ぬふりをしますか?
    それとも良心の呵責に苛まれ、あなた自身が葛藤し苦しみますか?

    今回は、ある会社の経理担当者からの疑問にお答えします。

    Q)会社で経理担当をしているものです。領収書の改ざんについてご相談があります。仮にF部長としておきます。この人、豪快な性格で昔ながらの営業マンという感じ。仕事はできるのですが、経費の使い方も激しいのです。じつは以前から怪しいと思っていたのですが、飲み屋などの領収書を自分で金額を多めに書き変えて会社に申請しているようなのです。私は許せない。告発したいのですが、法的にはどのような段取りを取ればいいのでしょう? また、どんな罪になるのでしょうか?
    A)領収書の改ざんは、厳密にいえば「刑法」では「詐欺罪」にあたります。
    また、会社はF部長に対して民事訴訟を起こし、損害賠償や返還請求をすることができます。
    さらに、会社はF部長を懲戒処分することができます。場合によっては、懲戒解雇もありえます。
    【刑法上の罪】
    刑法上は詐欺罪が適用される可能性があります。

    本当に使ったお金より多く会社からお金をもらうことになるので、会社からその差額分のお金をだまし取ったことになるわけですね。
    「刑法」
    第246条(詐欺)
    1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
    2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
    また、会社が領収書の改ざんに気づき経費としてお金が支払われなかった場合は「詐欺未遂罪」(刑法第250条)が、あるいは、架空の領収書を自分で作った場合は「私文書偽造罪」(刑法第159条)が適用される可能性があります。
    【民事上の措置】
    民法上、会社は領収書を改ざんした従業員に対して損害賠償や返還請求の訴訟を起こすことができます。

    「民法」
    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
    第703条(不当利得の返還義務)
    法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
    【懲戒権の行使】
    会社は、領収書の改ざんなどの不法行為を行った従業員を懲戒処分することができます。
    ただし、そのためには過去の判例からも一定のルールやポイントがあるので注意が必要です。

    〇就業規則で懲戒の規定をしている
    〇就業規則を従業員にきちんと周知している
    〇従業員の勤務態度や会社に対する貢献度合い
    〇過去の処分歴
    〇改ざんの動機や計画性、常習性(出来心なのか、計画的だったのか)
    〇社内体制(周囲でも不正を行っている従業員がいるのか)
    〇金額の大小

    これらを検討しながら懲戒処分を下すことになります。

    ちなみに、懲戒処分には軽いものから「戒告(譴責:けんせき)」、「減給」、「出勤停止」、「降格」「諭旨退職」「懲戒解雇」などがあります。

    過去の判例では、慰労会での飲食代を仮払いし、領収書を改ざんして差額の10万円を着服した事案である「ダイエー(朝日セキュリティーシステムズ)事件」(大阪地裁判決 平成10年1月28日 労判733号72頁)というものがあります。

    判決では、労働契約の基礎である信頼関係を破壊させるに十分なほど背信性が高いこと、原告は次長という要職に就いていたこと、被告(会社)はこれまでも現金の抜き取り・着服に関与した従業員やアルバイトに対しては、たとえ少額でも懲戒解雇などの処分をしてきたことなどから、懲戒解雇を有効としました。

    会社員として働いていると、ふと魔が差したりすることがあるかもしれません。

    「他の人もやっているからいいか」などと安易に行動すると、他の人もろとも罰を受けることもあります。

    その時、同じように「他の人も罰を受けたのだからいいや」などと思えるでしょうか?

    決して思えないでしょう。「なぜ、あの時、あんなことをしてしまったのだろう!」と後悔するはずです。

    善悪の判断は、自分の良心に従って、自分で決めなければなりません。

    そして、自分の行動の結果は、必ず自分で責任を取らなければならないことも心に留めておかなければなりません。

    「種を蒔けば刈り取らねばならない。人を殴れば苦しまねばならない。人に善をなせば君も善をなされるであろう」(エマーソン)

  • 落とし物に関する法律~遺失物法

    2014年08月25日

    道端で10円や100円の硬貨を拾うことがあります。

    子供の頃、それを交番に届けて警察官から「偉いな」、などとほめられたことがある人もいるでしょう。
    何か、いいことをした気分になったものです。

    ところが、それが高額なお金だった場合、さぁどうするでしょう?
    ・まずは、びっくりして驚く
    ・「どっきり」じゃないかと疑う
    ・手にとってニセ札じゃないか確認してみる
    ・怖くなって、その場から立ち去る
    ・とりあえず、警察に届ける
    ・あたりを見回して、そっとポケットに入れる

    あなたなら、どうしますか?

    そんな事件が起きました。

    「電話ボックスに100万円 茨城・小美玉市のスーパー」(2014年8月19日 産経新聞)

    茨城県小美玉市内のスーパー敷地内にある電話ボックスから、現金100万円が見つかり、石岡署は拾得物として持ち主を捜しているということです。

    報道によると、11日午前8:30頃、開店前の清掃作業をしていた従業員が発見。
    翌日、報告を受けた店長が110番通報をしたようです。

    落とした人が取りに来ることを想定して1日待って翌日届けたのだと思いますが、できれば当日届けたいところです。
    ところで、子供の頃、親や教師からこんなことを言われた記憶はないでしょうか?
    「お金や物を拾ったら交番に届けましょう」
    「拾ったお金の1割は拾った人がもらえる」
    「持ち主が現れない場合は、拾った人のものになる」

    それでは、これらの話の法的根拠を解説していきます。

    日本には、「遺失物法」という法律があります。
    これは、1899(明治32)年に公布され、その後、2006(平成18)年に表記を現代用語化する目的で全部改正されました。

    【拾得者の義務とは】
    「遺失物法」
    第4条(拾得者の義務)
    1.拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
    落としものを拾った人は、「速やかに」持ち主に返却するか、警察に届けなければいけないということです。
    これに違反すると犯罪になります。

    「刑法」
    第254条(遺失物等横領)
    遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

    【報労金とは】
    「遺失物法」
    第28条(報労金)
    1.物件(誤って占有した他人の物を除く。)の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格(第九条第一項若しくは第二項又は第二十条第一項若しくは第二項の規定に より売却された物件にあっては、当該売却による代金の額)の百分の五以上百分の二十以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
    つまり、100万円を拾って警察に届け出て、その後に落とし主が見つかった場合、落とし主は拾った人に対して報労金として5%(5万円)以上、20%(20万円)以下を支払わなければいけないわけです。

    これは、落とし主がどの程度支払うかを決めるわけですが、争いになった場合には、裁判所が決めることになります。

    なお、報労金は遺失者(落とし主)に返還された後、1ヵ月を過ぎると請求できなくなります。(「遺失物法」第29条)

    【遺失物の所有権とは】
    「民法」
    第240条(遺失物の拾得)
    遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後3ヵ月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
    「遺失物法」の改正前は保管期間が6ヵ月でしたが、現在は3ヵ月経ても落とし主が現れなければ、拾った人のものになります。

    ちなみに、拾い主による落とし物の引取り期間は権利が発生してから2ヵ月間となっています。
    古い話ですが、バブルの頃の1989(平成1)年、川崎市の竹やぶでカバンに入った1億4500万円が見つかった事件がありました。

    その後さらに、9000万円が発見され、後に某通販会社社長が名乗り出て返還されましたが、脱税したお金の処理に困った末に捨てたものだとわかったというものでした。

    お金をわざと捨てる人がいるのか、と、ニュースで知った時は驚きました。L(゚□゚)」オーマイガッ!

    このケースはわざと捨てたものでしたが、今回の100万円のケースは、落としてしまったものと推測されます。

    ニュースを観て、早く取り戻せるといいですね!

    大切な物を落とさない秘訣は、第一に身につけてしまうこと、第二にいつも持ち歩くカバンと別なもの(紙袋など)に入れないこと、です。

    落とし物をすると、精神的なショックが大きいので、くれぐれも気をつけたいものです。

  • 面会交流は成立しない!?

    2014年08月22日

    ことわざに、「子はかすがい」というものがあります。

    子供が夫婦の仲をつなぎとめ、縁を保ってくれるという意味です。
    「かすがい」とは材木と材木をつなぎとめるために打ち込む、コの字形の大きな釘のことです。

    最近では、あまり使われないので若い人には馴染みがないかもしれませんが、落語好きな人ならば、古典落語の人情噺「子は鎹(かすがい)」として有名なので知っている人もいるでしょう。

    ところで先日、離婚などで子供に会えない親に関するこんな報道がありました。

    「離婚・別居の親:子と面会申請10年で倍 調停4割不成立」(2014年8月18日 毎日新聞)

    離婚や長期間の別居で子供に会えない親が、面会を求めて家庭裁判所に調停を求める「面会交流」の申し立てが、昨年初めて1万件を超え、この10年間で倍増。
    そのうち調停が成立しない例が約4割あったことが最高裁判所のまとめで分かりました。

    厚生労働省の統計では、離婚件数は2004年の27万804件から、2013年には23万1384件まで減少。

    一方で、面会交流事件の申立件数は2004年の4556件から、2013年には1万762件にまで増加。

    2013年中の申し立てで、調停が成立したのは5632件、不成立は1309件で、申し立ての取り下げなども含めた全終結事件(1万37件)に対する成立率は56%にとどまったということです。

    当事者である元夫と元妻の間で面会交流のルールを決められず、家裁に調停を求めるケースは以前からありましたが、2012年4月に施行された改正民法は、夫婦が裁判を経ずに「協議離婚」をした場合は、面会交流と養育費の分担を取り決めると規定し(第766条)、法律で明文化されたことも申し立て増加に拍車をかけているとされています。

    一般の人が民法改正をチェックしているとは思えないので、この仮説が正しいかどうかはわかりません。
    ではここで、面会交流について簡単に法的に解説しておきましょう。

    【面会交流とは】
    面会交流とは、離婚後または別居中に子供を養育・監護していない方の親が子供と面会などを行うことです。

    まず、父母が面会交流の具体的な内容や方法について話し合いで決めます。
    たとえば、その回数、日時、場所などです。
    【面会交流での調停・審判】

    しかし、話合いがまとまらない場合や話合いができないケースがあります。

    その場合は、家庭裁判所に調停または審判の申し立てをして面会交流に関する取り決めを求めることができます。

    子供との面会交流は、子供の健全な成長を助けるようなものである必要があります。

    そのため、調停手続では子供の年齢、性別、性格、就学の有無、生活のリズム、生活環境などを考えて精神的な負担をかけることのないように十分配慮されます。

    そうして、子供の意向を尊重した取決めができるように話合いが進められていきます。
    調停は離婚前でも両親が別居中で子供との面会交流についての話合いがまとまらない場合にも利用することができます。

    調停でも話合いがまとまらず不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始されます。

    裁判官が、独自に面会交流の可否や頻度を判断するなどして必要な審理が行われたうえで、結論が示されます。

    ところが、話し合いや調停・審判で面会交流の頻度や方法が決められたとしても、実際には、そのとおり面会交流させない、という事態も発生しています。

    調停で、なかなか合意に至らないケースが4割以上もあることから、親同士、男と女の感情的対立が大きな原因であることがわかります。

    相手への不信の根深かさが、子供との面会交流を妨げている要因になっているということでしょう。

    実際、離婚調停などでは、相手に対する感情的しこりから、条件面での冷静な話し合いよりも、相手に対する誹謗中傷合戦になってしまうこともよく見るところです。

    それでは、なかなか合意には至らないですね。

    ところで、離婚と親権について親子のドラマを描いた映画といえば、第52回の米アカデミー賞で5部門に輝いた名作『クレイマー、クレイマー』が有名ですね。

    ダスティン・ホフマン演じる夫と、メリル・ストリープ演じる妻が離婚によって、一時は元夫に渡した5歳の息子の養育権を奪還するために裁判を起こし争う姿は、当時話題になりました。

    今回の報道でもわかるように、映画のテーマのような争いが、この日本でも毎日どこかで起きているということですね。

    そもそも、夫婦間で話し合いがうまくいくのであれば、離婚にまで至らないのかもしれません。

    その意味では、離婚協議や面会交流の協議がうまくいかないのは必然といえば必然です。

    「上手に別れられるなどということは、まったく稀なのだ。
    そういうのは、ちゃんとうまくいっていたら、別れたりはしやしない」
    (マルセル・プルースト/代表作『失われた時を求めて』など。フランスの作家)

  • 愛犬を散歩させたら、懲役2年6月!?

    2014年08月03日

    以前、愛犬が起こした事件について解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「愛犬が隣人をかんで、損害賠償金が1,725万円!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1181

    「犬も歩けば賠償金を払う」
    https://taniharamakoto.com/archives/1343

    家族同然の愛犬が人をかむなどして死傷させるようなことがあると、飼い主の責任になります。

    民事訴訟では、高額な損害賠償金を飼い主が支払わなければいけない可能性があります。

    また、飼い主が刑事事件として罪に問われる可能性もあります。

    ところで、今年2月、飼い犬が散歩中の主婦を襲い死亡させてしまったという事件がありましたが、その飼い主が、重過失致死傷罪という犯罪にとわれています。先日、その飼い主に対する刑事事件の判決が出されたという報道がありました。

    「土佐犬に襲われ死亡 飼い主に懲役2年6月判決」(2014年7月31日 毎日新聞)

    今年2月、北海道白老町で、近くに住む主婦(当時59歳)が土佐犬に襲われて死亡した事件で、札幌地裁苫小牧支部は、重過失致死罪などに問われた飼い主の男(65)に対し、懲役2年6月、罰金20万円(求刑・懲役4年、罰金20万円)の判決を言い渡しました。

    判決によると、被告の男は飼育する2頭の土佐犬を連れて海岸に散歩に出かけ、周囲を十分に確認せずに1頭の引き綱を放したところ、犬は浜辺を散歩中の主婦を襲って波打ち際に転倒させて水死させた、としています。

    裁判官は判決理由で、「犬が重大な危害を及ぼす恐れがあるのを知りながら綱を放した。被害者の恐怖や苦痛は察するに余りある」と指摘したということです。
    「重過失致死罪」とは、「過失致死罪」に重過失、つまり重大な過失により人を死亡させることで、「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)
    1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

    つまり、この飼い主は2年6ヵ月の間、刑務所に入らなければならないということになります。

    飼い主は、愛犬を散歩に連れて行き、愛犬が走り回りたいだろうから、手綱を放したのでしょう。

    愛犬を思ってのことです。

    しかし、その愛犬が他人に危害を加えたことで、飼い主が懲役刑に問われてしまったのです。

    さらに、今後は民事で損害賠償の訴えも起きてくることが予想されます。

    過去の判例では、犬に襲われ転倒し、脳挫傷で女性が死亡した事件で、飼い主の男性に対し、慰謝料など約5,433万円の賠償命令が下されたものもあります。
    犬を飼っている人にとっては衝撃の結果かもしれません。

    しかし、被害者側は、どうでしょうか?

    今回の事件では、被害者の夫の方のコメントが報道されていました。
    「被告から謝罪されたとは思っていないし、懲役2年6月というのは短く、納得できない。重過失致死の罪はもっと重くしてほしい」

    そう。何の落ち度もない被害者が、突然犬に襲われて命を落としてしまったのです。

    遺族の悲しみ、苦しみは大きいでしょう。

    亡くなった人はもう帰って来ません。
    重傷を負ってしまったら、治療費がかかり、後遺症も残る可能性が高いでしょう。

    悲劇を繰り返さないためにも、犬の飼い主には生き物を飼うことの責任と、飼い犬が他人を傷つけてしまう可能性があることを、今一度自覚してほしいと思います。

     

  • 会社の飲み会への強制参加はセクハラになる!?

    2014年08月01日

    職場でのコミュニケーションの手段のひとつにも「食」と「酒」がありますね。
    定期的に飲み会が開かれる職場もあるでしょう。

    ところが、職場の飲み会が苦手だという人もいます。

    今年、ある情報会社が実施した調査結果によると、「職場で苦痛と感じること」のアンケートで、20代の第3位が「職場の飲み会への参加」(14%)、30代では同率1位(15%)、40代では第2位(14%)だったということです。

    そこで今回は、ある会社で働く女性社員の飲み会についてのお悩みについて解説します。

    Q)会社で何が苦痛かといえば、飲み会への強制参加です。私の職場では定期的に「飲み会」があります。これがつらいのです。私は、あまりお酒は飲めないし、ひとりでいるのも好きなんです。でも飲み会では、おじさん社員たちに「まだ結婚しないのか?」「彼氏とは仲よくやってる?」などと言われます。酔いも回ってくると、さらにエスカレート。太ももを触られたり、肩を抱かれたりして正直気持ち悪いし、頭にきます。上司だったりすると批判もしにくいし……。それが嫌で最近仕事に身が入りません。問題解決にいい方法はないでしょうか? そもそも、会社の飲み会への強制参加はセクハラじゃないんですか?

    A)1986(昭和61)年に施行された、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」、いわゆる「男女雇用機会均等法」にはセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)に対する事業主の講ずるべき措置等が定められています。

    「男女雇用機会均等法」
    第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
    1.事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
    ここでいう「性的な言動」とは、性的な内容の発言や行動のことで、以下のようなことが含まれるとされています。

    〇性的な事実関係を尋ねること
    〇性的な内容の情報を意図的に流布すること
    〇性的な冗談やからかい
    〇食事・デートなどへの執拗な誘い
    〇個人的な性的体験談を話すこと
    〇性的な関係を強要すること
    〇必要なく身体に触ること
    〇わいせつな図画(ヌードポスターなど)を配布、掲示すること
    〇強制わいせつ行為、強姦等
    ところで、「セクハラ」の定義とはどのようなものなのでしょうか。

    厚生労働省の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」によると、セクハラには「対価型」と「環境型」があるとされています。

    【対価型セクシャルハラスメント】
    職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること。

    典型的な例として、以下のようなものが挙げられます。

    ①事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求した
    が、拒否されたため、当該労働者を解雇すること。

    ②出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗さ
    れたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。

    ③営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄につい
    て公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格するこ
    と。

    【環境型セクシャルハラスメント】
    性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること。

    典型的な例として、以下のようなものが挙げられます。

    ①事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該
    労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。

    ②同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ
    継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかな
    いこと。

    ③労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスタ
    ーを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できな
    いこと。
    どこまでをセクハラというのか?
    男女間、世代間、または個人的価値観の相違などで一概に言えない部分もあり、具体的な線引きが難しいことが多いのですが、以上のことから、質問者の女性の場合、上司などからの結婚や彼氏についての質問や太ももを触られる、肩を抱かれるという事実があり、それによって業務に支障が生じているわけですから、セクハラということになります。

    次に、会社の飲み会を「職場」といえるかという問題に関してはどうでしょうか。

    職場についての定義としては、「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、職場に含まれる」としています。

    たとえば、取引先の会社、取引先との打ち合わせのための飲食店、顧客の自宅なども「職場」に該当するとしています。

    また、「勤務時間外の宴会等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当するが、その判断にあたっては、職務との関連性、参加者、参加が強制的か任意か等を考慮して個別に行う」としています。

    これらから考えると、上記のような強制参加が行われている場合には実質的に職場の延長と判断されると思います。

    セクハラをされた場合に泣き寝入りすると、さらにエスカレートします。そして、精神的な苦痛も増大するのが通常です。

    早いうちに上司や社長、弁護士などに相談することをおすすめします。

    会社側の場合、セクハラがあったことを知った時はただちに対処し、再発防止措置を講じなければ、使用者責任で会社も損害賠償責任を負担します。

    会社と従業員を守るため、日頃からセクハラに関するトップのメッセージや注意喚起、アンケートの実施、セクハラ防止に関する社内教育などを通じてセクハラが起こらないように努力することが大切です。

  • 老後の不安を解消する任意後見制度とは?

    2014年07月26日

    先日のブログで、相続問題について「成年後見制度」のうちの「法定後見」について解説しました。

    「認知症の父の相続問題にどう対処する?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1572

    これは、認知症や精神障害、知的障害、頭部外傷による高次脳機能障害などで本人の判断能力が低下して十分な判断ができなくなってしまった人に代って、財産管理や法律行為を行う「後見人」を選ぶものです。

    一方、本人はまだ元気で判断能力も十分にあるけれど、病気やケガなどで、将来的に自分で判断できなくなってしまったら困るし、不安だという人もいます。

    そうした人が、転ばぬ先の杖として利用できる法的制度はあるのでしょうか?

    今回は、ある1人暮らしのご婦人の悩みから、老後の不安を解決する方法を探ってみます。
    Q)数年前、夫に先立たれ、また私たち夫婦には子供がいなかったため、現在は年金生活で1人暮らしをしています。やはり心配なのは、今後のことです。今はまだ体は元気ですが、この先、病気になったり認知症にでもなったとき、お金の管理などはどうすればいいのか? 兄はいますが、すでに高齢ですし、他の親族とはもう何十年も会っていなく疎遠なため、頼るのには抵抗があります。何かいい方法はないでしょうか?

    A)将来的なリスクに備え、本人がまだ元気で判断能力が十分にあるうちに後見人を決めておく「任意後見」を利用するとよいでしょう。
    【任意後見とは】
    自分であらかじめ選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活や療養看護、財産管理などに関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書によって結んでおくというものです。
    【任意後見契約の手続き】
    ①後見人になってくれる信頼できる人を探す。
    ②契約内容を決める。生活や財産管理について、自分の希望を盛り込んでおく。
    ③公証役場で、公証人に「公正証書」を作成してもらう。

    後見人の契約者を「任意後見受任者」といいます。
    これは、家族や親族である必要はありません。
    なお、周囲に適切な人がいない場合、弁護士会や司法書士会などに相談すれば、候補者を紹介する団体等を紹介してくれます。
    【任意後見契約の費用】
    〇公正証書作成の基本手数料:11,000円
    〇登記嘱託手数料:1,400円
    〇法務局に納付する印紙代:2,600円
    〇その他
    ※2014年7月現在
    【任意後見の開始】
    本人の判断能力が低下した場合、後見人を監督する「任意後見監督人」を選任するよう家庭裁判所に申立てをします。
    監督人の選任をもって、任意後見が開始されます。

    任意後見監督人は、後見人が役割を果たしているか、不正などがないかをチェックします。

    手続きの申立てができるのは、本人、配偶者、任意後見受任者、四親等以内の親族などとなっています。
    【その他の注意点など】
    任意後見契約の内容や後見人への報酬などは、関係者同士の話し合いで自由に決めることができます。

    本人が結んでしまった不利な契約などは、法定後見の場合は後見人が取り消すことができますが、任意後見の場合、後見人は取り消すことができません。
    報道によりますと、日本公証人連合会の調べでは、2013年の任意後見契約の締結数は9,032件で、年々増加傾向にあるようです。

    仏教では、生、老、病、死を「四苦」とされています。

    生まれること、老いること、病気になること、死ぬことは人が免れない苦しみである、ということですね。

    人間は誰でも、いずれは老いて最期を迎えるときが来ます。

    その時のために、前もって準備をしておくことは大切ですし、それが安心となって、今を充実して生きることができるなら、こうした制度を利用することを検討してみるのもいいかもしれません。

  • 残業代を支払わない会社には倍返しのツケがくる!?

    2014年07月24日

    以前、「労働基準法」について解説しました。

    詳しくはこちら⇒「8割以上の企業が労働基準法違反!あなたの会社は?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1239

    昨年行われた厚生労働省の調査により、8割以上の企業に法令違反が見つかったというものでした。

    しかし、こうした取り組みの後も労働基準関係法令違反の企業がなくなることは、なかなかありませんね。

    先日も、こんな報道がありました。

    「王将フード、賃金2億5500万円未払い 労基署が是正勧告」(2014年7月14日 京都新聞)

    中華料理店チェーン「餃子の王将」を展開する王将フードサービスは、社員とパート従業員の計923人に対し、2億5500万円分の賃金の未払いがあったと発表しました。

    同社は、2013年7月から2014年2月までの間に、全国の直営店で残業時間を適正に管理せず、残業代の一部を払っていなかったということで、京都下労働基準監督署から実際の労働時間に見合った残業代を支払うよう是正勧告を受けたということです。

    未払い分は7月中に支払う予定で、費用を2014年4~6月期に計上。業績への影響は軽微としているようです。

    厚生労働省は、是正勧告、指導に応じない企業は労働基準法違反の疑いなどで送検し、企業名を公表するとしていましたから、是正勧告後の同社の対応については適切だったということでしょう。
    ところで近年、労働者が使用者を訴える「労働紛争」が増加しています。
    その中でも多いのが残業代未払い問題です。

    ここで、もう一度、残業代について簡単に解説しておきたいと思います。

    「法定労働時間とは」
    労働基準法では、使用者が労働者を働かせることができる労働時間は、原則として一週間で40時間、かつ1日8時間(法定労働時間)までと定められています。

    ただし、36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出れば、労働者が法定労働時間を超えて働いても労働基準法には違反しません。

    36協定とは、労働者の過半数が加入する労働組合があればその労働組合と、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表するものと書面で締結した協定のことをいいます。
    労働基準法36条に基づくためこう呼ばれています。

    なお、労動者が法定労働時間を超えて働かせた場合には、適用除外を除き労働者に割増賃金を支払わなくてはなりません。
    「割増賃金とは」
    法定労働時間外の勤務をさせたときに必要となるのが割増賃金です。

    割増賃金とは、使用者が労働者に時間外労働(残業)、休日労働、深夜業を行わせた場合に支払わなければいけない賃金のことです。

    ちなみに、労働基準法における労働時間とは、使用者が労働者を指揮命令下においている時間です。

    しかし、就業規則や労働協約に定められている、合意で決めているといった理由だけで、労働者が労働したと主張する時間が労働時間ではないとはいえないことに注意が必要です。
    「割増賃金の算定方法」
    割増賃金は、法定労働時間を超えた時間に1時間あたりの賃金の1.25をかけます。
    法定労働時間を超えた時間が深夜労働(午後22時から午前5時)に当たる場合には1.5をかけた金額になります。
    「基本給と残業代の区分け」
    残業代部分が基本給から明確に区別できるのであれば、残業代を支払っていると認められますが、そのような区別ができない場合には、別途残業代を支払わなければなりません。
    「労働者が勝手に残業していた場合」
    残業して仕事を終わらせることがどうしても必要であり、そのことを管理者が当然に認めていた場合には、黙示に残業を命じたとして、使用者は残業代を支払わなくてはなりません。
    「付加金とは」
    割増賃金の支払いを怠った場合には、未払賃金に加え、同額の付加金が義務づけられることがあるので注意が必要です。

    付加金は裁判所の命令によって生じるので、裁判所が命じる前に未払賃金に相当する金額を労働者に支給し、使用者の義務違反の状況が消滅した後は、付加金を支払う必要はありません。
    「賃金請求権の期限」
    賃金請求権の消滅時効は2年です。
    つまり、労働者から2年以上前の賃金を請求されても、使用者は支払う必要はないということになります。
    企業が残業代を支払わず、労働基準監督署の監督・調査が入ると、今回のようなことになります。

    ここで企業側が注意しなければいけないのは、裁判を起こされた場合には、裁判所が未払い残業代と同額の「付加金」の支払を命じることがあるということです。
    つまり、2倍の金額を支払わなければいけないということです。

    「餃子の王将」のような規模の企業なら経営悪化には至らないのでしょうが、中小企業などでは、複数社員の訴えがあった場合など、大変なことになってしまいます。

    (未払い残業代+付加金)×人数分の支払いになるわけですから、いっきに多額の金銭がキャッシュアウトして、企業の存立が危うくなる可能性もあるわけです。

    ちなみに、今年の3月には社員に給料を払わなかった社長が書類送検された事件もありました。
    詳しくはこちら⇒「給料の不払いが犯罪になる!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1395

    無用な紛争を避けるためにも、①効率よく働ける労働環境を整えること、②長時間におよぶ余分な労働が発生しないように使用者が労働時間をきちんと管理することで、労働者と使用者がともに発展していくことが大切です。

    未払い残業代の問題でお困りの方は、こちらにご相談ください。
    「残業代請求から会社を守る弁護士SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/labor/04/