弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 21
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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  • 握手しただけで逮捕されるってマジですか!?

    2014年05月09日

    愛し合う恋人たちは手を握ります。
    商談が成立したビジネスパーソンも、がっちり握手をします。
    手を握るのは人としての親愛の証です。

    ところが、電車の中で握手をしただけで逮捕されてしまうという事件が起きました。

    一体、どういうことでしょうか?

    「女子高生と“握手したかった”塾経営者、電車内で右手つかみ逮捕」(2014年5月7日 スポーツ報知)

    宮崎県警えびの署は、電車内で女子高校生(16)と握手したとして、鹿児島県日置市の学習塾経営の男(34)を県迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕しました。

    報道によると、男はJR吉都線の普通列車内で女子高校生の前に座り、「高校はどこ?」、「かわいいね」、「握手しよう」などと話しかけ、断り切れずに出した女子高校生の右手をガッチリつかんだとのことです。

    驚いた生徒が背面側に座っていた知人の女子高校生に助けを求めると、その生徒も容疑者から握手を求められ、拒否した直後だったようです。

    同署は、「ほかにも同じようなケースが数件あった」としています。ちなみに、男が個人で経営している塾の生徒は数人だったということです。

    早速、今回の事件を法律的に見ていきましょう。

    「公衆に著しい迷惑をかける行為の防止に関する条例」
    (通称:宮崎県迷惑行為防止条例)
    第2条(卑わいな行為の禁止)
    何人も、道路、公園、広場、駅、興行場その他の公共の場所(以下「公共の場所」という。)又は電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において、人に対し、卑わいで不安等又は著しいしゅう恥を覚えさせるような言動をしてはならない。
    これに違反した者は、6ヵ月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。

    今回の場合、手を握ったことが「電車の中で、卑わいで不安や羞恥を覚えさせる行為」と判断されたということでしょう。

    また、他のも同じようなケースが数件あったということで、常習者と判断されたと考えられます。

    胸やお尻をさわれば犯罪だというのは、みなさんも知っているでしょうが、手を握っただけでも逮捕される可能性があることは初めて知った人も多いのではないでしょうか。

    相手が望まない形での身体の接触には注意してほしいと思います。

    ちなみに、「迷惑行為防止条例」は名称の違いはありますが、全国47都道府県すべてで施行されています。

    「法律」と「条例」の違いを訊かれることがありますが、簡単に言うと、「法律」は国が定めるルールで、「条例」は地方自治体が法令に反しない範囲で定めることができるルールということになります。

    ところで、「握手」が仕事のひとつという職業の人もいます。
    アイドルや演歌歌手、それから政治家などですね。

    選挙期間中、候補者が、なかば無理矢理握手してまわるのは犯罪か? という疑問が出てきますが、大抵の場合、「羞恥または不安を覚えさせて」はいないので、無罪ということですね。

    不安なのは、「当選するかどうか」という政治家の方ですね。

    男性は、女性の身体を触りたい衝動にかられることがあるかもしれませんが、必ずしも胸やお尻などを触る場合だけが犯罪になるのではなく、手や背中、頭などを触る場合も犯罪が成立することがある、と憶えておいてください。

    最後になぞかけです。

    恋人の心とかけまして、

    政治家の握手と解きます。

    そのココロは・・・

    どちらもガッチリとつかむことが大切です。

     

  • フジテレビ「とくダネ!」に出演

    2014年04月25日

    4月22日の朝のフジテレビ「とくダネ!」から取材を受け、出演しました。

    フリップでの出演ですが・・・。

    内容としては、いじめの場面を無断で録音することが許されるのかどうか、という点についてです。

    日本の場合、録音機器を使ってその場で録音すること自体を罰する規定はありません。

    ただ、内容や態様によっては、プライバシー権の侵害として、損害賠償の問題になる可能性はありますね。

  • SNSでのストーカー行為は犯罪にならない!?

    2014年03月31日


    近年、無料通信アプリの「LINE(ライン)」が人気です。昨年の11月末には、「世界で利用者数が3億人を突破」という報道がありました。

    確かに、通信キャリアや端末が違う人同士が複数人のグループで通話やチャットができるのは便利だし、パケット通信料の定額サービスなどに加入していれば通話料金もかからず無制限に使えるのも魅力です。

    しかし、気軽にコミュニケーションが取れることからの反動で犯罪に使われる危険性が指摘され、小学生を含めた未成年の使用についても社会的に問題になってきています。

    これは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)全般に言えることですが、法律的な側面から見ていくと、まだまだ抜け穴が多く、さまざまな問題が起こっています。

    「ストーカー行為:“また男か”…規制できぬSNS」(2014年3月25日 毎日新聞)

    新聞報道によると、LINEなどのSNSを使ったメッセージの連続送信などの「ストーカー行為」や「つきまとい行為」は法規制の対象外であるため摘発できず、捜査の現場から「法が社会の実態に追いついていない」との声が上がっていると伝えています。

    今年2月、警視庁田無署は無職の男(26)が携帯電話から元交際相手の女性(23)に計2日間に、それぞれ1,589件と1,660件ものメッセージを送信したということです。

    女性からの110番を受けた同署は、まず女性の携帯電話の履歴から男が、「また男か」「シカト?」などの文言をLINEで繰り返し送信していたことを確認。

    しかし、文言には法で禁じている「つきまとい行為」に明確に該当するものが見当たらなかったことから、最終的には男が女性の頭を携帯電話で殴ったなどとする事案に着目し、暴行容疑で逮捕したということです。

    ところで、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(通称、ストーカー規制法)というものがあるのをご存じでしょうか?

    これは、1999(平成11)年に起きた「桶川ストーカー殺人事件」をきっかけに制定された法律で、「つきまとい行為」と「ストーカー行為」について以下のように定義しています。

    第2条(定義)
    1.この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

    ①待ち伏せ、尾行、および自宅や勤務先を見張り、押しかけること。
    ②行動を監視していると告げる行為
    ③面会や交際、その他義務のないことを行うことの要求
    ④著しく粗野、乱暴な言動
    ⑤無言電話、連続した電話・FAX・電子メール
    ⑥汚物・動物の死体等の送付
    ⑦名誉を害する事項の告知
    ⑧性的羞恥心を侵害する事項の告知、わいせつな写真・文章などの送付、公表

    上記の行為を反復して行う時、ストーカー行為となります。

    どれも、されたら嫌なものばかりですが、①~④に関しては「身体の安全、住居などの平穏、名誉が害され」「行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る」とされています。

    ちなみに、ストーカー行為は親告罪(被害者の告訴があってはじめて起訴できる)で、罰則は6ヵ月以下の懲役、または50万円以下の罰金です。

    ところで、⑤には2013年の法改正により電子メールが追加で規定されることになりましたが、LINEやツイッターなどのSNSは依然として対象外となっていて、ここが問題視され始めているということです。

    つまり、今回の事件のように他の容疑が適用できればいいのですが、そうではない場合、被害者は危険にさらされ続ける可能性があるわけです。

    SNSがこれほど普及した時代には、これは大きな問題でしょう。

    若者世代では、電子メールで連絡と取り合うより、LINEで連絡を取り合うことの方が多いのではないでしょうか。

    「時代の流れに合っていない」「法が社会の実態に追いついていない」という声が上がるのも当然のことです。

    折しも先日、神奈川県では県の「迷惑行為防止条例」において、執拗なメールとSNS上のメッセージを、「つきまといなどの禁止」の対象に加える改正案が全会一致で可決されました。

    「SNSも“つきまとい” 迷惑行為防止の県条例改正案を可決」
    (2014年3月25日 神奈川新聞)
    報道によれば、神奈川県の迷惑行為防止条例には、現行の「待ち伏せや押し掛けなどの直接的な行為」と「連続した電話やファクス」に、今回「メールとSNSのメッセージの複数回にわたる送信」を追加。さらに、「改正ストーカー規制法」では、つきまといを恋愛感情などに基づく行為と規定しているところを、前提を設けず、柔軟に対応できるようにしたということです。
    「逗子ストーカー殺人事件」は神奈川県で起きたわけですから、県として規制の強化にいち早く着手したのは評価できる対応でしょう。

    国も法改正に向けて、早急に動くべきだと思います。

    各省庁が、特にインターネットの技術革新や進歩に合わせて法改正を迅速に検討する専門職員を配置することを検討してもよいのではないでしょうか。

    たとえば、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」や「特定商取引法」などの規制に、SNSを盛り込んだ方が良いかどうか、この機会に検討されてもよいように思います。

    技術の革新や進歩が起これば、同時に問題、弊害が起こるというのは世の常、ともいえます。

    最近、話題になったビットコインの問題などもそうですが、時代の変化に合わせて、法律もまた変化、進化していくものです。

    我われ弁護士も絶えず進化、進歩していくために、日々勉強、努力して、法を社会の隅々にまで浸透させていかなければならないと感じています。

  • 自筆証書遺言の書き方

    2014年03月21日


    最近、年配の方の中には「終活」というものを行う人がいるようです。

    これは「人生の終わりのための活動」の略で、生前に行うべきことをやっておき、終焉を見つめ準備しておくことで、今をよりよく生きようという思いがあるようです。

    葬儀やお墓のこと、財産などの相続のことなど、自分のためだけでなく遺された人たちのためにもやっておくべきことがあります。

    弁護士として、相続問題の相談をよく受けますが、その中に「遺言」があります。(ちなみに、法律用語では通常「いごん」と読みます)

    遺言というと、映画やドラマの世界で資産家の遺言書が原因で殺人事件が起こったりする場面を思い浮かべる人もいるでしょうが、実は、普通の人でも必要となるものです。

    しかし、やはり人間は「自分の死のことなど考えたくない」、「まだいいだろう。もう何年かしたら考えよう」などと、つい後回しにしがちです。

    また、「うちの家族は仲がいいから遺言なんて必要ないよ」と考えている人もいるでしょう。

    ところが、経験上、仲のいい普通の家族でも、いざ相続となったときにもめることが多いのです。

    よく経験するのは、本人は兄弟姉妹間で争いたくないと思っていても、配偶者が「もらえるものはもらうべき。ウチだって苦しい」と言われ、泥沼の紛争に入ってゆくパターンです。

    お金よりも、家や土地が残された場合、その配分でもめるケースが多いですね。

    相続=争族という言葉もあるくらいです。

    そこで今回は、遺言を法的に解説します。

    【遺言の種類】
    遺言には、死期が迫っている、一般社会から隔離されているなど特別な場合の「特別方式」と、通常の場合の「普通方式」があります。

    普通方式には、さらに以下の3種類があります。

    〇「自筆証書遺言」…遺言者が遺言内容の全文、日付、氏名すべてを自分で記載して、捺印をするもの。

    〇「公正証書遺言」…公証人に作成してもらうもの。

    〇「秘密証書遺言」…遺言内容と氏名を自筆し、捺印した書面を封筒に入れ封印したものを公証人に証明してもらうもの。

    私たち弁護士が遺言書の作成を依頼された場合には、「公正証書遺言」の作成を薦めるのが通常です。

    遺言書の作成における弁護士の役割は、遺言者の意思を明確に遺言書に残し、かつ、死亡後の紛争を回避することです。

    公正証書遺言は、公証人が作成するので、証明力が高く、紛争になりにくいからです。

    でも、公正証書遺言では、余計な費用もかかるし、大事だ、ということもあるでしょう。

    あるいは、たびたび書き直したい、ということもあるでしょう。

    そんな時は、取り急ぎ「自筆証書遺言」を作成することになります。

    ここでは、自筆証書遺言について解説していきます。

    【自筆証書遺言の書き方】
    自筆証書遺言として認められるための要件は、「全て自分で書く」ということです。具体的には、①遺言の内容②日付③署名を自筆し、④捺印することです。

    ①「遺言の内容」
    必ず自筆でなければなりません。
    代筆は認められません。ワープロやパソコンのワードで作成した文章は無効となります。

    ②「日付」
    自筆で日付を書かなければなりません。「平成(西暦)〇〇年〇月〇日」と書きます。

    遺言書が複数存在する場合、日付が最終のものが最終意思となり、それより前の遺言書の矛盾する部分は取り消されることになります。

    ③「署名」
    氏名を自筆します。
    必ずしも戸籍上の本名である必要はなく、従来より使用していた雅号、屋号、芸名などの通称でもよいとされています。その場合、他人との混同を避けるため住所を記載するなどして同一性を確認できるようにしておく必要があります。
    万全を期すには、本名の氏と名を自筆で署名すれば安心でしょう。

    ④「捺印」
    使用する印章は実印である必要はありません。認印でもよいとされています。
    病床の人は、たとえば手の震えを抑えるために他人に介添えしてもらったり、他人に命じて押してもらってもよいとされています。

    【遺言書の検認】
    遺言者が亡くなった場合、遺言書の保管者(遺言者から遺言を預っている人)または、これを発見した相続人は、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。(民法第1004条1項 遺言書の検認)

    また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立会いの上、開封しなければならないことになっています。(民法第1004条3項)

    つまり、裁判所以外では開封してはいけないということです。もし開封してしまうと、5万円以下の過料を受けることがあります。(民法第1005 過料)

    遺言書の検認とは、有効か無効かを確定するものではなく、その外形を保全し、偽造や変造を防止し、遺言書の検証と証拠保全をするための手続き、と考えておけばよいでしょう。

  • 職務質問にどう対応するか?

    2014年03月16日

     

    人間の心理は、外面や行動に現れるものです。

    街で警察官の姿を見ると、何も悪いことはしていないのに、不自然に意識したり緊張する、という人がいます。

    誰にでも心に何かしら、やましい部分があったりするので、たとえ罪を犯していなくても、どこか挙動不審になったりするのかもしれません。

    ところで、警察官の仕事のひとつに「職務質問」があります。

    不審な点がある人を呼び止め、質問したり、所持品をチェックしたりするものですが、職務質問に関連した報道が昨年末にあったので、法的に検証してみましょう。

    「刑法犯件数、11年連続減少へ 121万件、詐欺は増加」(朝日新聞デジタル)

    報道によると、警察庁が発表した2013年1~11月の刑法犯の認知件数は、2012年同期より5.1%少ない121万4004件で、年間件数は11年連続で減少しているとのことです。

    窃盗は90万6095件で、5.8%減。住宅などへの侵入盗や車上あらし、自販機あらしの減少が大きく、一方、詐欺は3万4795件で、9.9%増。振り込め詐欺は8285件で49.6%の大幅増となっています。

    また、容疑者を摘発した割合を示す検挙率は全体で30.4%。2012年同期比で1.7%減少しています。

    警察庁は検挙率低下の要因として、地域警察官の職務質問による事件の摘発の減少などを挙げているとのことです。

    この報道からだけでは、検挙率低下の原因が、職務質問の実施件数自体が減ったからなのか、それとも職務質問する警察官の質が低下したからなのかわかりませんが、とにかく警察庁としては、警察官の職務質問のブラッシュアップを望んでいる、ということなのでしょう。

    確かに、薬物事犯などでは、挙動不審な人に職務質問し、所持品検査をしてみたら、薬物が出てきた、というのは、よく聞くところです。

    職務質問が犯罪の減少に結びついていくのであれば、国民としては当然、大歓迎です。

    しかし、何も悪いことをしていないのに、街で警察官に職務質問され、腹立たしい経験をした人もいるでしょう。

    犯罪を見抜く目や感覚が低下しているならば、検挙率が下がるだけでなく、私たち国民が不当な職務質問を受ける可能性が高まるからです。

    では、私たちが自分の身を守るためにも、職務質問を拒否することはできるのでしょうか?

    そもそも、なぜ警察官は職務質問をするのでしょうか?

    法的根拠を見てみましょう。

    「警察官職務執行法」第2条
    1.警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。

    この法律の規定に基づいて、警察官は職務質問をしている、ということです。

    この条文に、誰に職務質問ができるか、が書かれています。

    以下の2つのどちらかに該当する人に対して職務質問ができます。

    ・異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者

    ・既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者

    これは、素人が見てもわかりそうな怪しい人ですね。

    まず、「異常な挙動そのほか周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯したか、犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」です。

    「うへへ~♪」と言いながら、道路をフラフラ歩いていて、如何にも覚せい剤を使用していたり、留守宅を物色しているように見える場合だったり、包丁を持っていたりしている人、などは、該当しそうですが、普通の格好で普通に歩いていたら、とても犯罪を犯すと疑うに足りる相当な理由があるとは思えないので、職務質問できないはずです。

    また、職務質問では、よく車のトランクを開けさせられたり、バッグの中を見せるように言われたりします。

    しかし、条文には所持品の検査に関する規定は明示されていません。

    なので、たとえばカバンを開けて中身を見せるように言われても、拒否することはできます。が……これを拒むのは、なかなか難しいでしょう。

    警察官は、任意でカバンの中身を自らの意思で見せるように促しますが、見せなければ、職務質問は延々と続く可能性があるからです。

    次のような質問が来ます。

    「何か見せられないような違法なモノが入っているのですか?」

    「入っていません」

    「では、見せてください」

    「嫌です」

    「やましいモノが入ってなければ見せられるはずですね。見せてください・・・・」

    こんなやり取りが続くでしょう。

    反論方法はあるのですが、ここでは割愛します。

    過去の判例では、「米子銀行強盗事件」というものがあります。

    1971年7月、鳥取県米子市で、銀行強盗で盗んだ札束を入れていたバッグを持つ男に対して、職務質問したところこれを黙秘。バッグ開けて中身を見せることも拒否したため、警察官が承諾を得ずに開けると大量の紙幣が見つかり逮捕に至った事件で、最高裁は、「所持品の検査については明文で規定していないが、職務質問に付随して行うことができる場合があると解するのが相当であり、捜査に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り許容される場合がある」「銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において必要上されたものであって、またバッグの施錠されていないチャックを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、警職法2条1項の職務質問に附随する行為として許容される」として、所持品検査は違憲、違法はないと判断した。(最高裁判決 昭和53年6月20日 刑集32巻4号670頁)

    微妙で難しい判断ですね。

    これを現場で判断するのは至難の技です。

    ところで、もしあなたが職務質問をされた場合、警察官も職務を遂行するために職務質問をしているわけですから、素直に従い、疑いを晴らすことをおすすめします。

    しかし、前記の要件が全くないにもかかわらず警察官が不当に職務質問をしてきたときは、次のように対応しましょう。

    ①「これは、職務質問ですか?」と聞く。
    ②「違う」と言えば、「では、法的根拠がないので、これで失礼します」と言って立ち去る。
    ③「職務質問だ」と言えば、「私のどこが警職法上の異常な挙動でしょうか?あるいは犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がどこにありますか?もし、それがないのに職務質問したとしたら、違法な職務質問ですよ」と冷静に対応する。ここで暴れたりわめいたりすると、「犯罪を犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」ができてしまう可能性があります。

    警察官は、この後不用意に踏み込んできにくくなるでしょう。

    しかし、この対応は、決して目出し帽やストッキングを頭からかぶっている時にはしないようにしてくださいね。

    では、最後になぞかけです。

    職務質問とかけまして、

    屋根に降った雨水と解きます。

    そのココロは・・・・

    どちらも「とい」(問い、樋)が必要です。

  • 雑誌「タンデムスタイル」に取材記事掲載

    2014年02月24日

    バイク雑誌の「タンデムスタイル」2014年4月号に取材記事が掲載されました。

    バイクにかかわる交通事故や交通法規についての解説です。

    バイクが交通事故で被害者となるときは、自動車と衝突することが多く、スピードも出ていたりするので、危険です。

    交通法規を十分守って、安全運転に心がけて欲しいところです。

    そして、相手が無保険の場合もあります。自分でしっかり保険に入っておく必要がありますね。

  • DVで5,000万円の損害賠償が認められた件

    2014年02月12日


    弁護士をしていると、日々さまざまな相談を受けます。

    中には離婚の相談もあるのですが、じつはその中で多いのがドメスティックバイオレンス(DV)の問題です。

    DVは、なかなか人には言えない問題でもあるため、表面化しないだけで実態は想像以上に多いのかもしれないという印象です。

    愛し合って結ばれたはずの2人なのに、暴力でしかつながれないのは悲しいことです。

    紀元前のローマの劇作家、テレンティウスが言ったそうです。

    「恋人同士のけんかは、恋の更新である」と。

    恋が更新されるのは良いことです。更新される度に2人の関係が深まっていきます。

    しかし、これは対等の立場でのけんかを前提にした言葉でしょう。

    2人の関係が対等でない場合は、どうなるでしょうか?

    体力で言えば、女性より男性の方が圧倒的に強いのが通常です。男性が暴力に訴えたら、女性は太刀打ちできません。

    もはや恋の「更新」はありません。

    「恋人への暴力は、恋の契約解除である。そして、損害賠償である」

    となるでしょう。

    そんなDV事件の判決が北海道で出されました。

    「自殺未遂、DVが原因 交際相手に5千万賠償命令、札幌地裁」(2014年2月6日 北海道新聞)
    札幌市の女性(26)が、交際相手の男性(26)からのDVを苦に自殺を図り、重度の障害を負ったとして、5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、5日に札幌地裁でありました。

    裁判長は、「女性は暴力を受け思い詰めていた。自殺は予見可能だった」と指摘して、請求通り全額の支払いを命じたもようです。

    報道によると、2人の交際は2008年5月ごろからスタート。

    しかし、間もなく男性が女性を怒鳴ったり、殴ったりするなどの暴力をふるうようになったようです。

    そして2009年1月、女性は自宅マンション14階の非常階段から飛び降り、意識不明の重体となり、現在も意思疎通が困難な状態が続いているということです。

    男性側は暴行を否定しているようですが、裁判長は女性の友人の証言から「七ヵ月間にわたる暴行で思い詰め、当日も殴られて自殺を図った」と認定。

    また、女性は男性に「いつか自分で自分の命を終わらせてしまいそうで怖い」というメールを送っていたということで、「男性は自殺を予見できた」と結論づけたようです。

    男性は、2011年7月と2008年8月に女性に対して全治1週間のケガを負わせたとして札幌簡裁から罰金20万円の略式命令を受けているそうです。

    DVは、家庭内の問題というだけではなく、一線を超えれば「暴行罪」や「傷害罪」になります。今回の場合、刑法上は「傷害罪」です。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    犬も食わぬ、という痴話喧嘩で済んでいればいいのですが、暴力によって、あまりに相手を精神的、肉体的に追い詰めすぎると、このような不幸なことになってしまいます。

    ちなみに、DVに関する法律には全30条からなる「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(通称「DV防止法」)があります。

    DVの被害者は女性が多いことから、この法律の前文では「男女平等」「被害者の保護」「女性に対する暴力の根絶」などに触れています。

    たとえ、歪んだ愛の形の果てがDVだとしても、暴力は絶対に許されることではありません。

    「法は家庭に入らず」という法諺があります

    家庭内で窃盗などを行っても、法律では取り締まりをしない(刑が免除される)、ということです。

    しかし、暴力は別です。法がずかずかと家庭に入ってきて取り締まります。

    特に男性諸氏は肝に銘じておきましょう。

    口喧嘩で頑張るのです。

    どうしても口喧嘩で勝てない時は、次の本を読んでみるとよいでしょう。

    「弁護士の論理的な会話術」(あさ出版)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/4860633997/

    もし、口喧嘩が嫌だ、ということであれば、上手に交渉してみましょう。
    次の本が参考になるでしょう。

    「弁護士が教える気弱なあなたの交渉術」(日本実業出版社)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/453404433X/

    それでもダメな場合は、自分の心をコントロールするしかありません。
    そんな時は、この本があなたを導いてくれるでしょう。

    「やっかいな相手がいなくなる上手なモノの言い方」(角川書店)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/404110565X/

  • テレビ朝日「モーニングバード」出演

    2014年02月02日

    2014年1月31日のテレビ朝日「モーニングバード」で取材を受け、放映されました。

    内容としては、先日兵庫県で起こったひき逃げ交通事故で、事故現場が普通の道路ではなかったことから、どのような犯罪が成立するのか、という点について、交通事故の専門家としてコメントを求められたものです。

    具体的には、普通の道路ではない場所での事故に「道路交通法」の適用があるか、という点ですね。

    道路交通法の道路には、道路法の道路だけでなく、「一般交通の用に供するその他の場所」が含まれますので、この要件に該当するかどうか、ということです。

    それにしても、事故を起こした時、ひき逃げをすると、一気に刑罰が重くなりますので、必ず警察や救急車を呼ぶようにしてください。

  • 自動車で人を死亡させて、たった100万円払えば許される!?

    2014年01月07日


    2013年1月、乗用車で男性をはねて死亡させたとして書類送検された、横手(旧姓千野)志麻元フジテレビアナウンサー(36)に昨年12月27日、罰金100万円の略式命令が出されました。

    報道によると、静岡県沼津市のホテル駐車場で看護師の男性(当時38歳)をはねて死亡させた千野アナは、2013年2月に自動車運転過失致死の疑いで沼津署により書類送検。

    同年12月27日、静岡区検は自動車運転過失致死罪で略式起訴。静岡簡裁が罰金100万円の略式命令を出し、千野アナは即日納付したということです。

    自動車で人をはね、死亡させたのに罰金がたったの100万円!? と疑問に感じる人もいると思うので、法律的に解説をしましょう。

    交通事故を起こした場合、①刑事手続き②民事手続き③行政手続き、という3つの手続きが発生します。これらの手続きは、それぞれ別個に進んでいきます。

    「刑事手続き」
    交通事故を起こしたとき、加害者には以下のような刑事処罰が科せられる場合があります。

    1. 自動車運転過失致死傷罪
    2. 危険運転致死傷罪
    3. 道路交通法違反罪

    今回の事故の場合、過失による致死ということで「自動車運転過失致死罪」で略式起訴されたわけです。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)2項
    自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    正式に起訴されず罰金だけ科す場合を略式起訴といいます。
    今回のケースでは、過失がスピード違反や飲酒運転、赤信号無視という大きなものではなかったため略式起訴になったと考えられます。

    以上は、刑事手続についてです。

    しかし、これで終わりではありません。

    100万円だけで終わりになることはないのです。

    なぜなら、被害者の補償、つまり「民事手続き」が別で発生するからです。

    交通事故を起こすと、加害者(運転者)は、被害者に対して不法行為が成立し、被害者が被った損害を賠償しなければならない義務が発生します。

    賠償の対象となる損害は、人身損害と物損害があり、手続としては、示談により解決する場合と調停や訴訟により解決する場合があります。

    加害者が賠償金を支払う場合、加入している自賠責保険や任意保険によって保険会社から支払われます。

    法により加入が義務つけられている自賠責保険では、被害者死亡の場合、最高3,000万円、重度の後遺障害の場合は最高4,000万円が支払われます。

    しかし、それだけでは被害者への賠償が足りないことが多く、損害保険会社による任意の自動車保険に加入している人が多くいます。

    賠償金額は、被害者が将来得られたはずの生涯賃金から算出されます。一般的には数千万円から、年収の多い人の場合は1億円を超えるまでになります。
    「行政手続き」
    運転者が道路交通法規に違反している場合には、違反点数が課せられます。違反点数が一定以上になると、免許取消や免許停止、反則金等の行政処分を受けることになります。

    行政手続も、刑事事件や民事事件とは全く別個に進行します。つまり、行政処分を受けて反則金を支払ったからといって、刑事処分を免れるわけではないということです。

    以上のように、仮に死亡事故を起こしてしまった場合、刑事罰の罰金100万円だけでは済まないのです。

    ちなみに、日本損害保険協会の資料によると、任意の自動車保険への加入率は、対人賠償保険73.1%、対物賠償保険73.1%、搭乗者傷害保険45.1%、車両保険42.1%となっています。(平成24年3月末現在)

    この統計から見えてくるのは、対人賠償保険に加入していない3割弱の人が死亡事故の加害者になった場合、数千万円にもおよぶ賠償金をどうやって支払うのか。また同時に、被害者の3割弱は損害賠償金を得られない事態が発生する可能性があるということです。

    交通事故では、いつ加害者・被害者になるかわかりません。

    転ばぬ先の大きな杖として、運転者は任意保険の無制限に加入しておくべきでしょう。

    また、自分の身は自分で守るためにも、自分の自動車保険に、「無保険者傷害特約」や「人身傷害補償特約」をつけておくことは仮に被害者になった場合、有効な手段だと言えます。

  • 時速40キロで危険運転致死傷罪!?


    今年9月、京都府八幡市で自動車が集団登校中の児童の列に突っ込み、5人が重軽傷を負った事件で、京都地検が「自動車運転過失傷害罪」で起訴した派遣社員の少年(19)について、「危険運転致傷罪」に訴因を変更するよう京都地裁に請求しました。

    なぜ危険運転致死傷罪の適用が可能となったのか? まずは、事件の経緯を見ていきましょう。

    報道によると、9月24日午前7時55分頃、当時18歳だった少年が自動車を運転中、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速してスリップ。

    歩道の柵をなぎ倒し、集団登校中だった小学生13人の列に突っ込み、スポーツカーはそのまま民家に激突。

    少年は昨年、2012年10月に自動車免許を取得したばかりで、すぐに親から車を買い与えられていたようです。

    父親は、「身の丈にあったものにしろといったが、本人は車関係の仕事に就きたいという思いもあり、小さい頃からの夢だった車を購入した。あこがれがあったと思う」と話しているといいます。

    自宅近所や事故現場付近では、少年がスピードを出したり、後輪をすべらせるドリフト走行など危険な運転を繰り返しているのがたびたび目撃され、その無謀運転は近所の人の間では有名だったようです。

    現場は以前にも事故が起こっていて、市に対してガードレールの設置要望をしていた市民もいたようで、事故直後は小学生たちが泣き叫ぶ声が響き、騒然とした空気に包まれていたといいます。

    少年は当初、自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕されましたが、京都地検が危険運転致傷の非行事実で京都家裁に送致。しかし、家裁は自動車運転過失傷害の非行事実に切り替えて逆送し、地検も同罪で起訴していました。

    ところが、起訴後の調査で交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明。

    危険運転致傷罪の規定のひとつである、「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」にあたると判断したとみられます。
    昨年から、京都では暴走車が通行人に死傷を負わせる交通事故が頻発しています。

    「京都祇園軽ワゴン車暴走事故」
    2012(平成24)年4月12日、京都市祇園で起きた暴走車による8名が死亡し、11人が重軽傷を負った事故。事故原因は、運転者男性の持病のてんかん発作によるものであるとされた。

    「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」
    2012(平成24)年4月23日、京都府亀岡市で当時18歳だった少年が運転する軽自動車が、小学校へ登校中の児童と引率の保護者の列に突っ込み、計10人がはねられて3人が死亡、7人が重軽傷を負った事故。事故原因は、少年の遊び疲れと睡眠不足による居眠り運転とされ、2013年9月30日、大阪高等裁判所は一審判決を破棄し、懲役5年以上9年以下の不定期刑を言い渡し、検察・弁護側双方が上告しなかったため、この判決が確定した。

    今回の事故の訴因変更請求は、悪質運転による死傷事故の罰則を強化する新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が参院本会議で全会一致により可決・成立した矢先のことでした。

    さて、この事故について、「自動車運転過失傷害罪」から罰則の重い「危険運転致傷罪」へ変更される可能性はあるでしょうか?

    先にも書いたように、交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明したことが大きなポイントです。

    しかし、時速40キロでの事故は、日常的に起こる事故であって、珍しいことではありません。

    では、どうして時速40キロが重要なポイントとなるのでしょうか?

    危険運転致傷罪の「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自動車を走行させることを言います。

    条文では、具体的に「速度●●キロ以上」と決まっているわけではありません。

    具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってくるし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってきます。

    ということは、高速道路であれば、時速100キロであっても進行を制御することが困難とは言えませんが、曲がりくねった細い道路では、時速40キロであっても「進行を制御することが困難」となりうる、ということです。

    今回の事故では、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速して40キロに至った、ということですので、道路状況を合わせて考えると、40キロであったとしても、「進行を制御することが困難」であると判断したということでしょう。

    さて、検察は勝てるでしょうか。

    弁護側は、

    「40キロも出ていない。当時の速度を測定することは不可能である」

    「T字路を左折する際にアクセルを踏んだのはブレーキと踏み間違えたからである」

    「40キロでも進行制御は十分可能であるが、運転操作を誤っただけである」

    など、いろいろな反論をしてくるはずです。

    裁判の動向を見守りたいと思います