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スカートめくりが「いたずら」から「犯罪」に昇格
2014年11月01日
1980年代初頭、当時の少年たちに『まいっちんぐマチコ先生』という漫画が人気でした。
キュートでスタイル抜群なマチコ先生に、クラスの悪ガキたちがスカートめくりをしたり、胸にタッチしたりいたずらし放題。
するとマチコ先生は、「いやーん、まいっちんぐ!」といって、すべては許されるのでした。
ところが先日、男子と女子の間で、いたずらでは済まされなかった事件が起きました。
一体何が起きたのでしょうか?
「女子高生への強制わいせつ容疑で高2男子を逮捕」(2014年10月30日 福島民友新聞)
福島署は29日、強制わいせつの疑いで福島市に住む高校2年の男子生徒(17)を逮捕しました。
男子生徒は28日午後8時50分頃、同市のアパートの踊り場で高校3年の女子生徒(17)に背後から近づき、スカートをめくり上げるなどした疑いのようです。
2人は別の高校に通い、面識はなかったが、女子生徒は自転車で帰宅途中、男子生徒の自転車に追い越されていたということです。
ただのいたずらだったのか、わいせつ目的だったのか、ストーカー行為の待ち伏せだったのか、現場で他の行為にもおよんでいたのか、報道内容からだけでは詳しいことはわかりませんが、「強制わいせつ」とはどんな罪なのでしょうか?
まずは条文を見てみましょう。「刑法」
第176条(強制わいせつ)
13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
強制わいせつ罪とされるには、13歳以上の男女に対しては、暴行又は脅迫が用いられる必要があり、被害者の承諾がある場合は成立しません。一方、13歳未満の男女に対しては、暴行や脅迫が用いられる必要はなく、たとえ被害者の承諾があったとしても罪が成立します。
ところで、「わいせつ」な行為にはどんなものがあるのでしょうか?
判例では、強制的に行うとわいせつとされる行為には以下のものなどがあります。股間に手を差し入れる、キスをする、自己の陰部を押し当てる、手で陰部に触れる、女性の乳房を弄ぶ、人前で裸にする、裸にして写真を撮る、下着の上から臀部を撫でる、いわゆる痴漢行為など。
何やら青少年が反応してよろこびそうな単語が満載ですが、これらの行為を暴行・脅迫をもって行うと犯罪になるので注意してください。
今回のケースでは、スカートめくりくらいで犯罪にするのはやりすぎではないか、という意見もあるでしょう。
一方で、知らない男にいきなりスカートをめくられて女子生徒は恐怖だったろうし、性犯罪助長にもつながりかねないから犯罪にするのは当然だという考えもあるでしょう。
また、刑法では「責任年齢」について、14歳に満たない者の行為は、罰しないとあります(第41条)。
今回の事件では、男子生徒は17歳ですので、罰せられる年齢です。ただし、少年法がありますので、成人とは異なる手続になるでしょう。
スカートめくりは、ドラマや漫画の世界では、相手の女子に殴られたり、怒られたりするだけで済むかもしれませんが、リアルな現実世界でやったら犯罪になる可能性があることを、成人した大人でも未成年者でも、しっかり認識しておいたほうがいい時代になったのかもしれません。
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会社の経費で飲みに行ったら犯罪!?
2014年09月09日
会社の経費が余ったから、同僚や後輩を誘って、そのお金で飲みに行っった経験のある人、いませんか?
最近、ある警察署で、そんな行為が「事件」として問題になったようです。
「捜査諸雑費で同僚や部下と飲食、警部補書類送検」
(2014年9月4日 読売新聞)捜査諸雑費を私的に流用したとして、山梨県警は韮崎署の男性警部補(56)を業務上横領容疑で甲府地検に書類送検し、同日付で停職6ヵ月の懲戒処分にしたと発表しました。
県警によると、男性警部補は2009年3月~2011年3月にかけて当時勤務していた南甲府署で3回、また、2014年3月に南アルプス署で1回の計4回、捜査諸雑費として支給された現金(計1万868円)を同僚や部下との飲食代に流用して横領した疑い、としています。
今年4月、県警会計課監査室が行った監査で発覚したようで、男性警部補は容疑を認めており、横領した全額を返済、依願退職したとのことです。
以前、「領収書の改ざん」について解説しました。
詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1615会社に提出する領収書を勝手に改ざんして、使った分以上のお金を手に入れた場合、「詐欺罪」(刑法第246条)や「私文書偽造罪」(刑法第159条)になる可能性があり、さらに「民法」では損害賠償請求され、会社からは懲戒処分を受ける可能性もあるというものでした。
さて今回は、警察の経費を業務以外の飲み代に使ってしまった場合のケースですが、これはなにも警察官がやったから書類送検されたわけではありません。
一般の会社の社員がやっても同じ罪に問われる可能性があるのです。
営業経費として認められているからといって、仲間だけで飲みに行って、会社の領収証をもらって、営業経費として申請し、飲食代金を会社から受け取る、というようなことをしていませんか?
ドキッとした人もいるでしょう。
詐欺罪になる可能性があります。
会社としては、社員が営業として取引先などを接待していると思って飲食代金を支払うのですが、仲間だけで飲みに行くことは、会社を騙していることになるためです。
今回は、詐欺罪ではなく、「業務上横領罪」です。
どんな犯罪でしょうか。
では、条文を見てみましょう。
「刑法」
第253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
ちなみに、業務上ではない「横領罪」は第252条にあり、こちらは5年以下の懲役ですから、業務上のほうが罪は重いということになります。いずれにしても、罰金刑がなく懲役刑のみであることから、横領罪は重い罪だと言えますね。
自分が占有しているお金を私的に流用して横領した、ということなので、詐欺罪ではなく、業務上横領罪になったわけです。
ところで、お金だけでなく会社の備品、たとえばボールペンやハサミ、ホチキスなどを家に持って帰るとどうなるでしょうか?
これは、「業務上横領罪」や「窃盗罪」に問われる可能性があります。
さらに、会社のお金やものを横領すると、領収書の改ざんと同様に、「民法」第703条(不当利得の返還義務)、第709条(不法行為による損害賠償)により会社から損害賠償請求され、さらには懲戒処分を受ける可能性があることも覚えておいてください。
ほんの出来心でやってしまったことで、それまでのキャリアも、職も誇りもすべて失ってしまう恐れがあります。
「これくらいはいいだろう」とか「みんなやってるから大丈夫だろう」と安易に行動すると、後で後悔することになります。
小さなことだと感じるかもしれませんが、会社は法律に基づいて動いています。
会社のものと自分個人のものとは、厳格に区別して取り扱うことが大切です。
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会社の領収書の改ざん、どんな罪?
2014年08月28日
気づいてしまったら、もう後戻りできないことが人生にはあります。
たとえば、会社内での不正に気づいたとき、あなたならどうしますか?
告発しますか? 見て見ぬふりをしますか?
それとも良心の呵責に苛まれ、あなた自身が葛藤し苦しみますか?今回は、ある会社の経理担当者からの疑問にお答えします。
Q)会社で経理担当をしているものです。領収書の改ざんについてご相談があります。仮にF部長としておきます。この人、豪快な性格で昔ながらの営業マンという感じ。仕事はできるのですが、経費の使い方も激しいのです。じつは以前から怪しいと思っていたのですが、飲み屋などの領収書を自分で金額を多めに書き変えて会社に申請しているようなのです。私は許せない。告発したいのですが、法的にはどのような段取りを取ればいいのでしょう? また、どんな罪になるのでしょうか?
A)領収書の改ざんは、厳密にいえば「刑法」では「詐欺罪」にあたります。
また、会社はF部長に対して民事訴訟を起こし、損害賠償や返還請求をすることができます。
さらに、会社はF部長を懲戒処分することができます。場合によっては、懲戒解雇もありえます。
【刑法上の罪】
刑法上は詐欺罪が適用される可能性があります。本当に使ったお金より多く会社からお金をもらうことになるので、会社からその差額分のお金をだまし取ったことになるわけですね。
「刑法」
第246条(詐欺)
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
また、会社が領収書の改ざんに気づき経費としてお金が支払われなかった場合は「詐欺未遂罪」(刑法第250条)が、あるいは、架空の領収書を自分で作った場合は「私文書偽造罪」(刑法第159条)が適用される可能性があります。
【民事上の措置】
民法上、会社は領収書を改ざんした従業員に対して損害賠償や返還請求の訴訟を起こすことができます。「民法」
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
【懲戒権の行使】
会社は、領収書の改ざんなどの不法行為を行った従業員を懲戒処分することができます。
ただし、そのためには過去の判例からも一定のルールやポイントがあるので注意が必要です。〇就業規則で懲戒の規定をしている
〇就業規則を従業員にきちんと周知している
〇従業員の勤務態度や会社に対する貢献度合い
〇過去の処分歴
〇改ざんの動機や計画性、常習性(出来心なのか、計画的だったのか)
〇社内体制(周囲でも不正を行っている従業員がいるのか)
〇金額の大小これらを検討しながら懲戒処分を下すことになります。
ちなみに、懲戒処分には軽いものから「戒告(譴責:けんせき)」、「減給」、「出勤停止」、「降格」「諭旨退職」「懲戒解雇」などがあります。
過去の判例では、慰労会での飲食代を仮払いし、領収書を改ざんして差額の10万円を着服した事案である「ダイエー(朝日セキュリティーシステムズ)事件」(大阪地裁判決 平成10年1月28日 労判733号72頁)というものがあります。
判決では、労働契約の基礎である信頼関係を破壊させるに十分なほど背信性が高いこと、原告は次長という要職に就いていたこと、被告(会社)はこれまでも現金の抜き取り・着服に関与した従業員やアルバイトに対しては、たとえ少額でも懲戒解雇などの処分をしてきたことなどから、懲戒解雇を有効としました。
会社員として働いていると、ふと魔が差したりすることがあるかもしれません。
「他の人もやっているからいいか」などと安易に行動すると、他の人もろとも罰を受けることもあります。
その時、同じように「他の人も罰を受けたのだからいいや」などと思えるでしょうか?
決して思えないでしょう。「なぜ、あの時、あんなことをしてしまったのだろう!」と後悔するはずです。
善悪の判断は、自分の良心に従って、自分で決めなければなりません。
そして、自分の行動の結果は、必ず自分で責任を取らなければならないことも心に留めておかなければなりません。
「種を蒔けば刈り取らねばならない。人を殴れば苦しまねばならない。人に善をなせば君も善をなされるであろう」(エマーソン)
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いたずらが犯罪になる場合とは?
2014年04月20日
子供のいたずらに、「ピンポンダッシュ」がありますね。
昔、一度はやったことがある、という人もいるのではないでしょうか。
「ピンポンダッシュ」というのは、用もないのに、他人の家の玄関の呼び鈴を「ピンポーン」と鳴らして、ダッシュで逃げる、というものです。
場合によっては住居侵入罪などが成立するのですが・・・。
ところで、「いたずら」で済ませられる範囲のものであれば、子供のしたことだからと許されもしますが、20歳を過ぎた大人が、いたずらでは済まされない危険な「悪ノリ」「悪ふざけ」をやらかして、こともあろうに、インターネットの生中継で発信していたという事件が起きました。
「コーヒー点に爆竹投入、ネットに生中継 危険行為に怒りの声」(2014年4月8日 FNNフジニュースネットワーク)
報道によると、事件が起きたのは4月4日午後10時半すぎ。名古屋市内にあるコーヒー店に、2人の男が爆竹を投げ込み、その一部始終をインターネットの投稿サイト「ニコニコ動画」で生中継していました。
男たちは、生中継の中で、「そろそろ、ショータイムといきましょうか」、
「入れたら、俺、ダッシュで逃げるから」、などと話しながら、爆竹の導火線に火をつけ、入口から店内に投げ入れると脱兎のごとく逃げ出し、「テロだと思ってるだろうね、たぶん、お客さん」などと話していたということです。動画を観た視聴者から批判が相次ぎ、男たちは5日、愛知県警中署に自首。投稿サイトには、他にも同様の「悪ノリ」動画が掲載されていたようです。
2人の男は、ともに20代。幸いお客さんにケガはなかったようですが、警察は、威力業務妨害罪などで書類送検する方針とのことです。
近年、動画投稿サイト「You Tube」や、「ツイッター」などのSNSの発達にともなって、いたずらというには度が過ぎる、悪ふざけを撮影した動画や画像を投稿する「悪さ自慢」による事件が相次いでいます。
「神大生らUSJで大暴れ ボート転覆、乗り物から飛び降り…学生処分へ」(2013年4月9日 産経ニュースWEST)
神戸大や同志社大の学生が、大阪市にあるテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)で、ボートをわざと転覆させてアトラクションを運休させる、乗り物から飛び降りるなどの迷惑行為をしたり、アトラクションで身を乗り出して柱にぶつかり、手首の骨を骨折したと虚偽の内容を投稿サイト「ツイッター」に投稿するなどを繰り返した。ネットでは批判が相次ぎ、たびたび炎上。問題の学生は、ネットの書き込みや虚偽の投稿に対して、「人と違うことがしたかった」などと説明していたが、USJは大阪府警に被害届を提出。学生らは、威力業務妨害容疑などで書類送検された。
「東京、大阪、博多で殺人予告 動画投稿の17歳逮捕」(2013年6月21日 産経ニュース)
インターネット動画投稿サイト「You Tube」で、東京、大阪、博多での無差別殺人を予告して鉄道会社の業務を妨害したとして、警視庁少年事件課は、東京都練馬区の無職少年(17)を威力業務妨害容疑で逮捕した。
少年は、「殺人予告1」などと題した動画を投稿し、「6月14日に東京、大阪、博多駅のいずれかで無差別で人を殺害する」と予告。西武新宿線新宿駅の職員らに駅構内を巡回させ、業務を妨害した疑い。少年は他にも、大阪などでスマートフォンで撮影した計5本の殺人予告動画を投稿。平成23年2月にも、インターネット掲示板で、新宿駅での無差別殺人を予告して同容疑で逮捕、医療少年院に送致されていた。他にも、昨年の8月、大阪で「ポリゲー」と称してウソの通報などをして、警察に追われることをゲームのように楽しんでいた15~16歳の少年8人が、交番で消火器を噴射し威力業務妨害容疑で逮捕されたという事件も起きています。
ところで、「威力業務妨害罪」とは、どのような犯罪でしょうか。条文を見てみましょう。
「刑法」第234条(威力業務妨害)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。前条とは、第233条(信用毀損及び業務妨害)のことで、これを犯すと、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科せられます。
動画にアップしたら面白い、人気が出たら、さらにアクセスを増やしたいという安易な考えで投稿し、視聴者にもあおられて、「自分はスゴイ」「他人とは違う」という自尊心を満足させるため、どんどん内容が過激になった結果、犯罪行為に走る、というパターンが増えています。
確かに私たちは日々、面白いことを探していますが、人がいやがること、迷惑なことをしているのを見ると、面白いよりも、嫌悪の情を催します。
今回の事件のような行為をする人たちは、一般の感覚とずれているとしか言えません。彼らは、いたずらのつもりで、犯罪とは思っていないのではないでしょうが、楽しむことと、他人に迷惑をかけることは全然違います。悪質なマナー違反は法律で罰せられる、という認識をきちんと持つことが大切です。
コーヒーショップだろうと、スーパーや学校や官公庁だろうと、他人の業務を邪魔したり、妨害したりすると、犯罪になる可能性があります。
「自分はスゴイ」「他人とは違う」「自分は重要な人物である」というような自尊心は、他人の迷惑にならない範囲内で、むしろ他人の役に立つ方向で満足させることが大切ですね。
たとえば、今すぐできる例で言うと、自分の自宅から半径50メートルくらいの範囲の道路を、毎朝ゴミを拾って掃除してまわれば、近所の人は、「あの人はスゴイ」「他人とは違う」と一気に評価が上がるでしょう。
そして、周りの評価が上がると、もう変なイタズラもできなくなります。
自分の人生を方向づけるのは、自分の行動であることを認識したいところです。
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強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪の本当の違いとは?
2014年02月08日
「準強制わいせつ:治療偽り体触る 53歳歯科医逮捕 三重」
(2014年2月5日 毎日新聞)三重県亀山署は、歯科医師の男(53)を準強制わいせつの疑いで逮捕しました。
調べによると、容疑者の男は昨年の10月、当時勤務していた三重県亀山市の歯科医院で20代の女性患者に対して、必要な治療だと偽り体を触るなどしたようです。
男は「かみ合わせが悪い」「大胸筋が張っている」などと理由をつけては治療室とは別の部屋に女性を連れ込み、マッサージと称して、わいせつな行為をしたということです。
女性は、その日のうちに同署に相談。同署は余罪を追及するようです。
「大胸筋が張っている」と言われて喜ぶのは、ボディビルダーくらいでしょう。
「大胸筋張ってますね~!」
(*^▽^*)ゞイヤ~、ソレホドデモ~
ところで、みなさんは今回の事件の容疑である「準強制わいせつ」という罪名を見て疑問に思うことはないでしょうか?
「準」とは何でしょう? 本格的ではない、ささいなわいせつ罪ということでしょうか?
「準優勝」などの、ちょっと惜しいわいせつ罪ということでしょうか?
「準」があるなら、「正式」なわいせつ罪もあるのでしょうか?
じつは、あるのです。それらの違いを法律的に解説してみましょう。
「刑法」第178条(準強制わいせつ及び準強姦)
1.人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。2.女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条の例による。
「心神喪失」と「抗拒不能」という部分がポイントとなります。
13歳以上の者に対して、心神喪失(精神的な障害などによって正常な判断力を失った状態)や、抗拒不能(心理的または物理的に抵抗ができない状態)に乗じてわいせつな行為をした者は、準強制わいせつ罪が、または姦淫行為をすれば準強姦罪が適用されるわけです。
例えば、睡眠や酩酊している人や高度の精神遅滞の人のように被害者がわいせつ行為を認識できない場合は心神喪失、医療行為を装ったときなどは、抗拒不能にあたります。
2004年アテネと2008年北京の両オリンピックで金メダルに輝いた、男子柔道の内柴正人被告の容疑は、準強姦罪でした。
当時、被告が柔道部のコーチを務めていた大学の女子柔道部員が泥酔状態で強姦されたとして起訴された事件は、記憶に新しいところです。
さて、以上が「準」がつく犯罪ですが、次に正式な犯罪を見てみましょう。
心神喪失若しくは抗拒不能に乗じた場合は、「準」でしたが、「暴行」や「脅迫」によって逆らえない状態にして事におよんだ場合、「準」ではない罪となります。
第176条(強制わいせつ)
13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。第177条(強姦)
暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。しかし、刑の重さでいえば「準」だからといって軽くなる、というわけではないということに注意が必要です。
「優勝」と「準優勝」の間には、大きな差がありますが、「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」との間には、刑罰の差はありませんので、よく憶えておきましょう。
あっ、それと、嫡出子(婚内子)と非嫡出子(婚外子)との間には、相続分について大きな差がありましたが、平成25年12月5日に民法が改正され、相続分は平等となりましたので、それも憶えておきましょう。
最後になぞかけです。
バンビとかけまして、
歯医者さんと解きます
その心は?
「しか」とも言います。(+o+)
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犯罪になるストレス発散法とは!?
2014年02月04日
現代社会はストレス社会と言われます。
仕事、家事、勉強、人間関係・・・・、生きているだけでストレスが生じてしまうようです。
ストレスが溜まったら、発散しなければいけませんね。
趣味に没頭したり、スポーツでカラダを動かしたり、カラオケしたり、と、人それぞれにストレス発散方法があります。
ところが、時として、このような健全な方法でストレスを発散するのではなく、犯罪行為でストレスを発散しようという人が出てきます。
さあ、どんな方法でストレスを発散したのでしょうか?
「女性の顔に唾“スッとした” 韓国籍の24歳男を再逮捕」(2014年2月4日 産経デジタル)
報道によると1月9日、大阪市の路上で女児(8)に唾を吐きかけたとして、暴行容疑で逮捕された韓国籍の会社員の男(24)が、「ストレスのはけ口にしていた」と供述を始めたことで、此花署は別の被害者に唾を吐いた暴行容疑で再逮捕しました。
現場付近では平成24年9月~平成25年11月にかけて同様の事件が計17件発生。
被害者は10~40代の女性。時間は午後8~11時ころに多発。
自転車のすれ違いざまに顔や髪に唾を吐く、手で唾をなすりつけるなどの被害が頻発していました。
人命にかかわる事件ではないとしても、大阪府警の捜査幹部は「人間の尊厳を踏みにじる行為だ」として厳しく捜査をしていたようです。
男は、当初は「記憶がない」などと供述していたようですが、女児の服に残っていた唾液のDNAの型が一致。他の事件への関与も認め、「女性に唾を吐き、気持ちがスッとした」と供述しているということです。
さて、「暴行罪」とはどのような罪なのでしょうか。「刑法」をみてみましょう。
「刑法」第208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。暴行罪となる行為にも、さまざまあります。過去の判例から一部を紹介してみましょう。
〇仰向けに倒れた女性の上に馬乗りになる行為(大阪高判昭29・11・30裁特1-12-584)
(評)馬乗りになると、総合格闘技ではマウントポジションと言って、ほぼ勝ちが決まるのですが、私生活でやると、負け(犯罪成立)になるということですね。
〇食塩を他人の顔、胸等に数回振り掛ける行為(福岡高判昭46・10・11判時655-98)
(評)日本では古来より、人を追い払おうとするときに、塩をまくことがありますが、実は、暴行罪を犯していたのですね。
〇狭い4畳半の室内で日本刀の抜き身を振り回す行為(最決昭39・1・28集18-1-31)
(評)四畳半で日本刀を振り回して、怪我をさせないというのも凄い腕前ですね。ちなみに、大根を振り回しても暴行になり得ますので、気をつけてください。せいぜい髪を振り乱すくらいにしておきましょう。
なんとも迷惑なものばかりです。「一体、何がしたかったのか?」というものもあります。
コントのネタならOKですが、実際にこんなことをすると犯罪になります。
ちなみに、「軽犯罪法」にも、つばを吐く行為を禁止したものがあります。
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。26.街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者
※拘留(1日以上30日未満で刑事施設に収容)、
科料(1,000円以上1万円未満を徴収)公衆の面前で大小便をする、またはさせるとは…いやはや、もはや極度の変態、マニアと言わざるを得ません。
マニアも犯罪になりうるということです。
実際、平成21年には大阪府摂津市で、平成23年には大阪市東成区で大便を女性に投げつける、顔になすりつけるという事件が起きていて、後者は未だ未解決のようです。
ゴリラですかっ!?L(゚□゚)」オーマイガッ!
気をつけてください!
街路、公園などで唾やたんを吐くこと、あなたもしていませんか?
その行為、犯罪になるかもしれません。
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放置プレイで相手が死亡したら犯罪になる!?
2014年01月19日
放置プレイというものがあるそうです。
もともとは、少数のマニアの人たちの世界だったものが、最近では、一般の仲間うちでもちょっとしたギャグのように使われているようです。
遊びならいいのですが、実際に人を放置して死亡させてしまうという事件が起きてしまいました。
「82歳の同居女性置き去りで死亡 50歳男を逮捕 奈良」(2014年1月10日 産経新聞)
同居していた、歩行が困難で介助が必要な女性(当時82歳)をアパートの部屋に置き去りにしたとして、奈良県警捜査1課と生駒署は土木作業員の男(50)を「保護責任者遺棄」の疑いで逮捕しました。
報道によると、昨年10月末、部屋から異臭がしたため、アパートの所有者が同署に通報。
室内を確認したところ、女性の遺体が発見されたということです。
男と女性は1994(平成6)年頃から同居していたようで、昨年の8月頃、男は女性を置き去りにしたまま、その後は各地を点々としていたといいます。
容疑者の男は「置き去りにすれば楽になれると思った」と供述し、容疑を認めているということです。
では、保護責任者遺棄罪について見ていきましょう。
「刑法」第218条(保護責任者遺棄等)
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。幼児に対する親、寝たきりの親に対する子などの親族が、必要な食事を与えないような場合が代表的なケースです。
しかし、親族に限りません。看護師やベビーシッター等、仕事上保護の責任がある者も含まれます。
また、そのように本来保護義務を負っていなかったはずの者であっても、たとえば好意で介抱してあげた、車で病院に連れて行ってあげたなど親切心で要保護者の保護を開始すれば、保護義務を負わされることもあります。
つまり、もともと保護の義務があろうと、たまたま保護する関係になった場合であろうと、自分が保護しなければその人が身を守ることが難しいような関係になった場合には、法律で保護する責任を認めている、ということです。
「保護責任者遺棄罪」には、さまざまな例があります。
14歳から2歳までの実子4人を自宅に置き去りにした母親の事案(東京地判昭63・10・26判タ690-245)
病気のため身体の自由を失っている65歳の実母に適切な食事を与えるなどしなかった事案(大判大8・8・7録25-953)
衰弱して凍傷や骨折により日常の動作が不能になった実子に医師の治療を受けさせなかった事案(最決昭38・5・30裁判集147-409)
いわゆるひき逃げの事案において、被害者をいったん自動車に乗せて事故現場を離れ、その後降雪中の薄暗い車道上に放置した事案(最判昭34・7・24集13-8-1163)
今回のケースでは女性が死亡しているため、置き去りとの因果関係が認められれば「保護責任者遺棄致死罪」になるでしょう。
過去の判例としては、被告人らが注射した覚せい剤により錯乱状態に陥った少女を放置して立ち去ったところ、同女が死亡した事案(最決平1・12・15集43-13-879)などがあります。
2009年には、俳優の押尾学氏が六本木ヒルズのマンションの部屋で、合成麻薬MDMAを服用し、その際一緒にMDMAを使用したホステスが意識不明になって保護が必要な状態になったにもかかわらず放置し、死亡したとのことで、保護責任者遺棄致死罪に問われたことがありました。
ところで、季節的には新年会でお酒を飲んで盛り上がっている人もいると思いますが、要注意です!
たとえば、あなたが新年会で会社の同僚とお酒を飲み、泥酔したのでそのまま放置したところ、その同僚が凍死などした場合、保護責任者遺棄致死罪に問われる可能性があります。
実際、過去の判例でも、「泥酔者」も、保護責任者遺棄罪の対象となるとしています。
具体的には、泥酔状態にある被害者を家に連れ帰ろうとしたが動かないので、衣類をはぎ取ったら寒くて起きるだろうと思って、衣服をはぎ取りながら引きずったもののなお動かないため、全裸状態で放置して帰宅したところ、被害者が凍死した事案で、保護責任者遺棄致死罪を適用した例があります。
2012年にも、大阪のガールズバーで、泥酔したアルバイトの女性を放置して死亡させたとして、ガールズバーの経営者が逮捕された事件がありました。この事例は、経営者が女性に上着をかけるなどの行為をしていたことから、保護責任者遺棄致死罪の適用は認めず、業務上過失致死罪の成立を認めました。
しかし、いずれにしても刑罰の対象となる、ということです。
場合によっては、3ヵ月以上15年以下の懲役になるかもしれません。
酒は飲んでも飲まれるな、と言いますが、もし同僚や友人が泥酔したら寒い外に放置などせず、ちゃんと面倒をみてあげてください。
少なくとも、電車で帰れなければ、タクシーに乗せてあげる、というくらいのところまでやったほうがよいでしょう。
犯罪以前の問題かもしれません。
ただし、保護ができないような場合もありますね。
たとえば、男性と女性が2人で飲酒して、男性の方が泥酔して外で寝込んでしまった場合、女性の力では保護ができない可能性があります。
気温や人通り、泥酔の程度など、状況次第ですが、このような場合は保護責任者遺棄罪は成立しにくいですね。
こんな場合は、警察に連絡して保護してもらいましょう。
「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」という法律があります。
この法律の中には、警察官は酩酊者の保護をする義務がある、とあります。
泥酔した人の面倒を看るのは、警察官の仕事だったのです!
私の知人も泥酔して警察署に泊めてもらったそうです。L(゚□゚)」オーマイガッ!
酔っ払いの相手をすることが仕事なのは、ホステスさんかと思ったら、実は、警察官の仕事でもあったのですね。
さて、泥酔した男性ですが、女性が警察に連絡した途端、起き上がってスタスタ歩き出すかもしれませんよ。(笑)
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ジョージ・ワシントンは、器物損壊罪か!?
2014年01月15日
2014年の年明け早々、全国的になにやら物騒な器物損壊事件が立て続けに起きているようです。
「公用車のタイヤ29本がパンク 器物損壊事件として捜査 千葉」(2014年1月6日 産経新聞)
6日午前8時20分ごろ、千葉県佐倉市の県印旛合同庁舎の駐車場に止まっていた15台の公用車のタイヤ計29本がパンクさせられているのを県の女性職員が見つけ、佐倉署に通報した。タイヤは千枚通しのような鋭利なもので刺されていた。
「兵庫県警察の捜査車両10台がパンク 年末年始の休み中に被害か」(2014年1月6日 産経新聞)
兵庫県警は6日、本部本館(神戸市中央区)の地下1~3階にある駐車場で、捜査車両10台のタイヤ計16本が何者かにパンクさせられたり、傷をつけられたりしたと発表した。
「パンク、落書き…駐車場の車40台以上被害 茨城」(2014年1月4日 産経新聞)
茨城県土浦市で3日午後から4日早朝にかけ、40台以上の乗用車がパンクさせられたりスプレーで落書きされたりする被害に遭った。土浦署によると、車は数百メートルの範囲のアパートや住宅敷地内の駐車場に止められており、窓ガラスを割られた車もあった。
これら以外にも、福島県郡山市では昨年10月以降、数十件のタイヤパンク被害が相次いでおり、大阪市では市営地下鉄の車両側面へのスプレーでの落書きが昨年5月以降、6回確認されているようです。
アメリカの初代大統領であるジョージ・ワシントン(1732‐1799)の有名な逸話がありますね。
子供のころ、父が大切にしていた桜の枝を切ってしまったことを、「僕がやりました」と正直に告白。
父は怒るどころか、「お前の正直さは、桜の木1,000本よりも価値がある」と逆にほめられた、という逸話です。
何事も、正直に告白することは大切です。犯人は速やかに罪を申し出てほしいものです。
しかし当然のことながら、他人の車のタイヤをパンクさせたり、電車に落書きをすることは、「器物損壊罪」という犯罪になります。
「刑法」第261条(器物損壊等)
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。と、いうことは、ワシントンも日本で桜の枝を折れば、器物損壊罪の可能性がありました。でも、そうであったとしても、時効ですね。(^_^)
また、器物損壊罪は、親告罪なので、お父さんが告訴しないと、刑罰を科すことができません。
さて、それはそれとして、今回のパンクの件、いたずらであっても、腹いせであっても、アートであっても器物損壊に変わりありません。
犯罪なので、犯人が逮捕されれば刑事罰を受けることになります。同時に、民事で損害賠償の問題も出てきます。
また、仮に子供が、たとえいたずらだったとしても、同様のことをやってしまったら、損害賠償の話になります。
未成年者の損害賠償責任について法的には、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。
ちなみに、子供の責任能力については、11~12歳くらいが境界線とされています。
「民法」第712条(責任能力)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。「民法」第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
1.前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。繰り返される、いじめの問題。最近急増している子供による自転車事故など、あなたの子供もいつ「加害者」になってしまうかもわかりません。
きっかけは、ほんの些細な出来心やいたずら、または怒りの衝動だったとしても、法律の一線を超えれば、犯罪は犯罪です。
起こしてしまった罪は、もうしょうがありません。償っていくだけです。
しかし、犯罪を未然に防ぐことはできます。
子供たちが犯罪の加害者にも被害者にもならないよう、まずは親や大人が見守りながら、犯罪について是非善悪をしっかり教えていくことが大切です。
新年を迎え、心も新たに、法を社会の隅々に伝えていくことが私の役割だと感じています。