蒔いた種だけが、いつか実る
カズサの祖父は、小さな畑を耕す農家でした。
子どもの頃、カズサはその畑が好きではありませんでした。石ころだらけで、いつも半分が枯れているように見えたからです。
ある春の朝、祖父が両手いっぱいの種を、惜しげもなく土にまいていました。
「おじいちゃん、全部芽が出るの?」
祖父は笑い、土のついた手でカズサの頭をなでました。
「いや、十のうち九つは枯れる。どの種が実るかは、まいてみるまでわからん。だからたくさんまくんだ。枯れる九つがあるから、残った一つが実るんだよ」
幼いカズサには、その意味はわかりませんでした。ただ「もったいないなあ」と思っただけでした。
やがてカズサは大人になり、小さなパン屋を開きたいという夢を抱きました。
けれど、一歩を踏み出せませんでした。「失敗したらどうしよう」「うまくいく保証があるなら、やるのに」。そう考えては先延ばしにし、本を読み、計画を書き直しました。
準備をしている間は、安心していられたのです。
そうして一年が過ぎ、三年が過ぎ、気がつけば十年が経っていました。カズサのパン屋は、まだ一度も開いていませんでした。
祖父が亡くなり、久しぶりに帰ったカズサは、あの畑に立って驚きました。石ころだらけだった畑が、見渡すかぎり豊かな緑に覆われていたのです。
近所の人が教えてくれました。「あんたのおじいさんは、毎年飽きもせず種をまいておった。枯らしても、また次をまいてな。何十年もかけて、この土を変えたんだ」
カズサは立ち尽くしました。無駄に見えたあの種の一つひとつが、土を育て、次を生かしていたのです。祖父は、芽が出る保証など、一度も求めていませんでした。
カズサは十年のあいだ、一粒もまいていませんでした。保証を探しているあいだ、カズサの畑は、ずっと空っぽのままだったのです。
翌月、カズサはパン屋を開きました。
最初のパンは、ひどい出来でした。
次のパンも、その次のパンも、思うようにはいきませんでした。けれど焼くたびに、少しずつわかってきました。失敗した九つのパンが、たった一つのおいしいパンの焼き方を、教えてくれたのです。
今、カズサの店には毎朝お客さんが並んでくれます。店の棚には土を入れた鉢を置き、祖父の畑の種をまいてあります。芽が出るかはわかりません。それでもカズサは、今日も水をやります。
まいた種だけが、いつか実るのだと、もう知っているからです。
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成功する人とそうでない人を分けるのは、才能ではないようです。
「成功する保証があるなら動く」のではなく、「保証がなくても、まず種をまく」かどうかがポイントです。
ユニクロを一代で築いた柳井正氏は、「十回新しいことを始めれば九回は失敗する」と語っています。九回の失敗は無駄ではなく、たった一つの成功を育てる土になるということでしょう。
見返りを求めず、今日、最初の一粒をまきましょう。
まいた種だけが、いつか実ると信じて。













