コロナ禍で役員報酬減額⇒増額は許される? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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コロナ禍で役員報酬減額⇒増額は許される?

2020年06月30日

今回は、コロナの影響で期中で役員報酬を減額したものの、業績が回復したために同期中に増額することは許されるか、という論点を検討したいと思います。

まずは、減額です。

この点については、4月13日付で、国税庁から情報が追加されております。

新型コロナウイルスの影響で期中に役員報酬を減額した場合に業績悪化改定事由に該当する場合が記載されております。

解釈としては、従前と変わるところはなく、客観的な状況が要求されております。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

法令、通達上の要件としては、以下のとおりです。
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法人税法施行令69条1項1号ハ

ⅲ 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これ
に類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与
の額を減額した改定に限り、ⅰ及びⅱに掲げる改定を除きます。)

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法人税基本通達

9-2-13 令第69条第1項第1号ハ《定期同額給与の範囲等》に規定する「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する。

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ここの記載にあるように、

・一時的な資金繰りの都合

・単に業績目標値に達しない

場合は、業績悪化に該当しない、ということに注意が必要です。

客観的に業績が悪化していないのに、「コロナの不安から」というだけで、実際にも業績が悪化していないのであれば、「客観的事情」がなく、利益操作との認定がされる恐れがあると思います。

そして、この問題が問われるのは、後日の税務調査時になりますので、「業績が悪化したことを示す客観的資料」を残しておくことが重要ということになります。

次に、増額。

この後、業績が回復した場合に、役員給与を元の金額に増額するのは、どうか、という点ですが、もう一度法令上の要件を確認します。

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf

から抜粋。

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(1) その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法法 34(1)一)

(2) 定期給与で、次に掲げる改定がされた場合において、当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの(法令 69(1)一)

ⅰ 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定(法令 69(1)一イ)

ⅱ 当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務
の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)により
されたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(ⅰに掲げる改定を除きます。)(法令
69(1)一ロ)

ⅲ 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これ
に類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与
の額を減額した改定に限り、ⅰ及びⅱに掲げる改定を除きます。)(法令 69(1)一ハ)
(3) 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法令 69(1)二)

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以下は、私見です。

期中に減額した後、同期中にまた増額して元に戻すことが許されるのは、上記(2)のⅱの属人的事情の場合と解されます。

つまり、職務内容の重大な変更などの

●属人的事情により減額⇒属人的事情により増額

は、認められる余地があります。

たとえば、業務担当役員が、

(1)コロナによる休業により職務がなくな

って減額

(2)宣言解除により職務が復活して増額

というような場合です。

しかし、業績悪化は、上記(2)のⅲでは、「減額した改定に限り」とされていますので、増額した改定については、除外されております。

したがって、

●業績悪化により減額

認められますが、

●業績悪化により減額⇒業績回復により増額

は、今後、法令・通達等が改正されない限り、認められないと考えます。

利益操作の余地を残してしまうためです。

この場合、減額された役員報酬額が定期同額給与額になり、それを超える部分が損金不算入になります。

一旦減額してしまったものの、どうしても増額したい場合は、決算期を前倒しする、という方法もありますので、ご検討ください。