「遺言によらない遺産分割」の法的理解と税務的理解 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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「遺言によらない遺産分割」の法的理解と税務的理解

2020年05月30日

今回は、「遺言によらない遺産分割」の法的理解と税務上の実務運用の相違点について解説をします。

まずは、法的理解からです。

遺言は、被相続人の死亡により、ただちにその効力を生じます。

たとえば、「土地建物を長男Aに相続させる」と記載があれば、被相続人の死亡によってただちに相続の効力が生ずる、ということです。

遺贈であれば個別に放棄できますが、上記の遺言の場合、遺言の効力を生じさせないためには、相続放棄をし、はじめから相続人でなかったことにします。

しかし、実務では、法定相続人全員で協議し、相続放棄をすることなく、「遺言によらない遺産分割」をすることがあります。

これを法的に理解するとどうなるか、というと、

・遺言は被相続人の死亡によりただちに効力を生ずる

・効力を生じさせないためには、相続放棄

ということになりますから、「遺言によらない遺産分割」の場合には、相続放棄をしないわけですから、すでに遺言の効力が生じていることになります。

上記の例で言えば、被相続人の死亡により、遺言の効力が生じ、土地建物が長男に相続された、ということです。

そして、その後、法定相続人間の協議により、贈与や交換、売買等がなされた、という理解になります。

しかし、この理解を税務の実務に適用してしまうと、

・遺言どおりに相続税を課税

・遺産分割により贈与税、所得税などを課税

となり、納税者の負担が大きいことになります。

また、実態として、担税力は1度しか生じていないのに、2度課税をする、ということにもなりかねません。

そこで、税務上は、この場合に1度の課税になるように解釈運用されています。

国税庁Q&Aでは、次のようにされています。

文言としては「遺贈」ですが、「相続させる」旨の特定財産承継遺言でも、実務では同様の扱いだと思います。

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No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税

特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。

なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。

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この「遺言によらない遺産分割」と異なるものに、「遺産分割のやり直し」があります。

いったん遺産分割が成立した後に、その遺産分割協議を合意解除して、再分割をする、という方法です。

これも法律上は可能ですが、このケースでは、当初の遺産分割に錯誤が認められない限り、当初の遺産分割で相続税が課税され、2回目の遺産分割で贈与税や所得税が課税されるというのが理論的帰結となりますので、注意したいところです。