Youtube | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 3
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  • ジョージ・ワシントンは、器物損壊罪か!?

    2014年01月15日


    2014年の年明け早々、全国的になにやら物騒な器物損壊事件が立て続けに起きているようです。

    「公用車のタイヤ29本がパンク 器物損壊事件として捜査 千葉」(2014年1月6日 産経新聞)

    6日午前8時20分ごろ、千葉県佐倉市の県印旛合同庁舎の駐車場に止まっていた15台の公用車のタイヤ計29本がパンクさせられているのを県の女性職員が見つけ、佐倉署に通報した。タイヤは千枚通しのような鋭利なもので刺されていた。

    「兵庫県警察の捜査車両10台がパンク 年末年始の休み中に被害か」(2014年1月6日 産経新聞)

    兵庫県警は6日、本部本館(神戸市中央区)の地下1~3階にある駐車場で、捜査車両10台のタイヤ計16本が何者かにパンクさせられたり、傷をつけられたりしたと発表した。

    「パンク、落書き…駐車場の車40台以上被害 茨城」(2014年1月4日 産経新聞)

    茨城県土浦市で3日午後から4日早朝にかけ、40台以上の乗用車がパンクさせられたりスプレーで落書きされたりする被害に遭った。土浦署によると、車は数百メートルの範囲のアパートや住宅敷地内の駐車場に止められており、窓ガラスを割られた車もあった。

    これら以外にも、福島県郡山市では昨年10月以降、数十件のタイヤパンク被害が相次いでおり、大阪市では市営地下鉄の車両側面へのスプレーでの落書きが昨年5月以降、6回確認されているようです。

    アメリカの初代大統領であるジョージ・ワシントン(1732‐1799)の有名な逸話がありますね。

    子供のころ、父が大切にしていた桜の枝を切ってしまったことを、「僕がやりました」と正直に告白。

    父は怒るどころか、「お前の正直さは、桜の木1,000本よりも価値がある」と逆にほめられた、という逸話です。

    何事も、正直に告白することは大切です。犯人は速やかに罪を申し出てほしいものです。

    しかし当然のことながら、他人の車のタイヤをパンクさせたり、電車に落書きをすることは、「器物損壊罪」という犯罪になります。

    「刑法」第261条(器物損壊等)
    前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

    と、いうことは、ワシントンも日本で桜の枝を折れば、器物損壊罪の可能性がありました。でも、そうであったとしても、時効ですね。(^_^)

    また、器物損壊罪は、親告罪なので、お父さんが告訴しないと、刑罰を科すことができません。

    さて、それはそれとして、今回のパンクの件、いたずらであっても、腹いせであっても、アートであっても器物損壊に変わりありません。

    犯罪なので、犯人が逮捕されれば刑事罰を受けることになります。同時に、民事で損害賠償の問題も出てきます。

    また、仮に子供が、たとえいたずらだったとしても、同様のことをやってしまったら、損害賠償の話になります。

    未成年者の損害賠償責任について法的には、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    ちなみに、子供の責任能力については、11~12歳くらいが境界線とされています。

    「民法」第712条(責任能力)
    未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

    「民法」第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
    1.前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

    繰り返される、いじめの問題。最近急増している子供による自転車事故など、あなたの子供もいつ「加害者」になってしまうかもわかりません。

    きっかけは、ほんの些細な出来心やいたずら、または怒りの衝動だったとしても、法律の一線を超えれば、犯罪は犯罪です。

    起こしてしまった罪は、もうしょうがありません。償っていくだけです。

    しかし、犯罪を未然に防ぐことはできます。

    子供たちが犯罪の加害者にも被害者にもならないよう、まずは親や大人が見守りながら、犯罪について是非善悪をしっかり教えていくことが大切です。

    新年を迎え、心も新たに、法を社会の隅々に伝えていくことが私の役割だと感じています。

  • 自動車で人を死亡させて、たった100万円払えば許される!?

    2014年01月07日


    2013年1月、乗用車で男性をはねて死亡させたとして書類送検された、横手(旧姓千野)志麻元フジテレビアナウンサー(36)に昨年12月27日、罰金100万円の略式命令が出されました。

    報道によると、静岡県沼津市のホテル駐車場で看護師の男性(当時38歳)をはねて死亡させた千野アナは、2013年2月に自動車運転過失致死の疑いで沼津署により書類送検。

    同年12月27日、静岡区検は自動車運転過失致死罪で略式起訴。静岡簡裁が罰金100万円の略式命令を出し、千野アナは即日納付したということです。

    自動車で人をはね、死亡させたのに罰金がたったの100万円!? と疑問に感じる人もいると思うので、法律的に解説をしましょう。

    交通事故を起こした場合、①刑事手続き②民事手続き③行政手続き、という3つの手続きが発生します。これらの手続きは、それぞれ別個に進んでいきます。

    「刑事手続き」
    交通事故を起こしたとき、加害者には以下のような刑事処罰が科せられる場合があります。

    1. 自動車運転過失致死傷罪
    2. 危険運転致死傷罪
    3. 道路交通法違反罪

    今回の事故の場合、過失による致死ということで「自動車運転過失致死罪」で略式起訴されたわけです。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)2項
    自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    正式に起訴されず罰金だけ科す場合を略式起訴といいます。
    今回のケースでは、過失がスピード違反や飲酒運転、赤信号無視という大きなものではなかったため略式起訴になったと考えられます。

    以上は、刑事手続についてです。

    しかし、これで終わりではありません。

    100万円だけで終わりになることはないのです。

    なぜなら、被害者の補償、つまり「民事手続き」が別で発生するからです。

    交通事故を起こすと、加害者(運転者)は、被害者に対して不法行為が成立し、被害者が被った損害を賠償しなければならない義務が発生します。

    賠償の対象となる損害は、人身損害と物損害があり、手続としては、示談により解決する場合と調停や訴訟により解決する場合があります。

    加害者が賠償金を支払う場合、加入している自賠責保険や任意保険によって保険会社から支払われます。

    法により加入が義務つけられている自賠責保険では、被害者死亡の場合、最高3,000万円、重度の後遺障害の場合は最高4,000万円が支払われます。

    しかし、それだけでは被害者への賠償が足りないことが多く、損害保険会社による任意の自動車保険に加入している人が多くいます。

    賠償金額は、被害者が将来得られたはずの生涯賃金から算出されます。一般的には数千万円から、年収の多い人の場合は1億円を超えるまでになります。
    「行政手続き」
    運転者が道路交通法規に違反している場合には、違反点数が課せられます。違反点数が一定以上になると、免許取消や免許停止、反則金等の行政処分を受けることになります。

    行政手続も、刑事事件や民事事件とは全く別個に進行します。つまり、行政処分を受けて反則金を支払ったからといって、刑事処分を免れるわけではないということです。

    以上のように、仮に死亡事故を起こしてしまった場合、刑事罰の罰金100万円だけでは済まないのです。

    ちなみに、日本損害保険協会の資料によると、任意の自動車保険への加入率は、対人賠償保険73.1%、対物賠償保険73.1%、搭乗者傷害保険45.1%、車両保険42.1%となっています。(平成24年3月末現在)

    この統計から見えてくるのは、対人賠償保険に加入していない3割弱の人が死亡事故の加害者になった場合、数千万円にもおよぶ賠償金をどうやって支払うのか。また同時に、被害者の3割弱は損害賠償金を得られない事態が発生する可能性があるということです。

    交通事故では、いつ加害者・被害者になるかわかりません。

    転ばぬ先の大きな杖として、運転者は任意保険の無制限に加入しておくべきでしょう。

    また、自分の身は自分で守るためにも、自分の自動車保険に、「無保険者傷害特約」や「人身傷害補償特約」をつけておくことは仮に被害者になった場合、有効な手段だと言えます。

  • 時速40キロで危険運転致死傷罪!?


    今年9月、京都府八幡市で自動車が集団登校中の児童の列に突っ込み、5人が重軽傷を負った事件で、京都地検が「自動車運転過失傷害罪」で起訴した派遣社員の少年(19)について、「危険運転致傷罪」に訴因を変更するよう京都地裁に請求しました。

    なぜ危険運転致死傷罪の適用が可能となったのか? まずは、事件の経緯を見ていきましょう。

    報道によると、9月24日午前7時55分頃、当時18歳だった少年が自動車を運転中、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速してスリップ。

    歩道の柵をなぎ倒し、集団登校中だった小学生13人の列に突っ込み、スポーツカーはそのまま民家に激突。

    少年は昨年、2012年10月に自動車免許を取得したばかりで、すぐに親から車を買い与えられていたようです。

    父親は、「身の丈にあったものにしろといったが、本人は車関係の仕事に就きたいという思いもあり、小さい頃からの夢だった車を購入した。あこがれがあったと思う」と話しているといいます。

    自宅近所や事故現場付近では、少年がスピードを出したり、後輪をすべらせるドリフト走行など危険な運転を繰り返しているのがたびたび目撃され、その無謀運転は近所の人の間では有名だったようです。

    現場は以前にも事故が起こっていて、市に対してガードレールの設置要望をしていた市民もいたようで、事故直後は小学生たちが泣き叫ぶ声が響き、騒然とした空気に包まれていたといいます。

    少年は当初、自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕されましたが、京都地検が危険運転致傷の非行事実で京都家裁に送致。しかし、家裁は自動車運転過失傷害の非行事実に切り替えて逆送し、地検も同罪で起訴していました。

    ところが、起訴後の調査で交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明。

    危険運転致傷罪の規定のひとつである、「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」にあたると判断したとみられます。
    昨年から、京都では暴走車が通行人に死傷を負わせる交通事故が頻発しています。

    「京都祇園軽ワゴン車暴走事故」
    2012(平成24)年4月12日、京都市祇園で起きた暴走車による8名が死亡し、11人が重軽傷を負った事故。事故原因は、運転者男性の持病のてんかん発作によるものであるとされた。

    「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」
    2012(平成24)年4月23日、京都府亀岡市で当時18歳だった少年が運転する軽自動車が、小学校へ登校中の児童と引率の保護者の列に突っ込み、計10人がはねられて3人が死亡、7人が重軽傷を負った事故。事故原因は、少年の遊び疲れと睡眠不足による居眠り運転とされ、2013年9月30日、大阪高等裁判所は一審判決を破棄し、懲役5年以上9年以下の不定期刑を言い渡し、検察・弁護側双方が上告しなかったため、この判決が確定した。

    今回の事故の訴因変更請求は、悪質運転による死傷事故の罰則を強化する新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が参院本会議で全会一致により可決・成立した矢先のことでした。

    さて、この事故について、「自動車運転過失傷害罪」から罰則の重い「危険運転致傷罪」へ変更される可能性はあるでしょうか?

    先にも書いたように、交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明したことが大きなポイントです。

    しかし、時速40キロでの事故は、日常的に起こる事故であって、珍しいことではありません。

    では、どうして時速40キロが重要なポイントとなるのでしょうか?

    危険運転致傷罪の「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自動車を走行させることを言います。

    条文では、具体的に「速度●●キロ以上」と決まっているわけではありません。

    具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってくるし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってきます。

    ということは、高速道路であれば、時速100キロであっても進行を制御することが困難とは言えませんが、曲がりくねった細い道路では、時速40キロであっても「進行を制御することが困難」となりうる、ということです。

    今回の事故では、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速して40キロに至った、ということですので、道路状況を合わせて考えると、40キロであったとしても、「進行を制御することが困難」であると判断したということでしょう。

    さて、検察は勝てるでしょうか。

    弁護側は、

    「40キロも出ていない。当時の速度を測定することは不可能である」

    「T字路を左折する際にアクセルを踏んだのはブレーキと踏み間違えたからである」

    「40キロでも進行制御は十分可能であるが、運転操作を誤っただけである」

    など、いろいろな反論をしてくるはずです。

    裁判の動向を見守りたいと思います

     

  • ひき逃げが殺人罪に!?

    2013年12月26日


    自動車運転に関する事故で、ひとつのケーススタディともいえる事件が発生したので、解説しておきたいと思います。

    「職務質問した警察官をひき逃げ 容疑の男逮捕」(埼玉新聞)

    埼玉県川口市で、職務質問した警察官が車にひかれて重傷を負った事件で、川口署は12月17日、無職の男(31)を公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕しました。

    報道によると、川口市の住宅街のT字路付近で「車が中央寄りに止まっている」との通報があり、署員2名が現場に直行。

    男性巡査(30)が運転手の男に職務質問したところ、男は突然、車を急発進。転倒した巡査の脚をひき、そのまま逃走していたようです。

    男は「ひき殺そうとはしていない」として容疑を否認しているということです。

    まず、この事件の逮捕容疑について確認しましょう。

    公務執行妨害と殺人未遂です。

    「刑法」第95条(公務執行妨害)
    ①公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    巡査の職務質問という公務に対して、男は車を発進させて、巡査の脚をひくという「暴行」を加えて「妨害」したので、これは公務執行妨害になります。

    ちなみに、職務質問を受けて、答えるのを拒否したり、ただ逃げただけでは公務執行妨害にはなりません。

    なぜなら、公務執行妨害罪の要件である「暴行または脅迫」がないためです。

    次に殺人未遂について考えてみましょう。

    「刑法」第199条(殺人罪)
    人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する。

    今回は、ひかれた巡査は死んでないので、未遂罪です。

    車でひき殺そうとしたが、未遂に終わった容疑ということです。

    ところで、ここでひとつ疑問が出てきます。

    自動車運転によって人を死傷させた場合の刑罰には、「自動車運転過失致死傷罪」(刑法211条2項)と「危険運転致死傷罪」(刑法第208条の2)がありますが、今回はなぜこれらの容疑ではなかったのでしょうか?

    報道内容からだけでは詳細はわかりませんが、おそらく「未必の故意」が疑われたのではないかと思われます。

    刑法上の重要な問題のひとつに「故意」と「過失」があります。

    「故意」とは、結果の発生を認識していながら、これを容認して行為をすることで、刑法においては「罪を犯す意思」のことをいいます。

    一方「過失」は、結果が予測できたにもかかわらず、その予測できた結果を回避する注意や義務を怠ったことです。
    では、どのような場合に故意が認められ、または過失が認められるのか?
    その境界線のように存在するのが「未必の故意」です。

    ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでもかまわないと考え、あえてその行為を行う心理状態を「未必の故意」といいます。

    容疑者の男は、100%巡査を殺そうとして車を発進させたのか、たんなる不注意だったのか。

    それとも、死ぬ確率は100%ではないが0%でもなく、死ぬかもしれないが「それでもかまわない」と思ってアクセルを踏んだのか、ということです。

    殺人罪の未必の故意があれば、殺人罪となります。

    ただ、このようなケースで「死んでも構わない」とまで思っているケースはそれほど多くありません。

    そうすると、殺人罪の故意がない、ということになりそうです。

    では、何罪が成立するのでしょうか?

    「死んでも構わない」とは思っていなかったとしても、今回のケース、「怪我をするかもしれないが、それでも構わない」くらいには思っていたかもしれません。

    そうすると、「怪我をさせる故意あるいは未必の故意」があったことになりますので、傷害罪になりそうです。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    ちなみに以前、ある知人で「未必の故意」を「密室の恋」だと思っていた人がいました。

    危険なにおいがします……

    さらには、「未筆の恋」だと思っていた人もいました。

    ラブレターを書く前に終わった恋ということでしょうか……

    「過失の恋」になると、人違いのようになってしまいます・・・。

    それはともかく、素手の場合、殺人も傷害も大変なことですが、自動車の場合には、ちょっとアクセスを踏むだけで実現できてしまいます。

    便利な反面、いつでも凶器になりうる危険なものです。

    事故が予測できるにもかかわらずアクセルを踏むなど、言語道断。

    冷静な判断をもってハンドルを握ることを、いつでも肝に銘じておくことが大切です。

     

  • 8割以上の企業が労働基準法違反!あなたの会社は?

    2013年12月24日


    厚生労働省が、若者の使い捨てなどが疑われる、いわゆる「ブラック企業」についての実態調査の報告を公表しました。

    驚くべきことに、企業全体の8割以上から労働基準関係法令の違反が見つかったということです。

    「若者の使い捨てが疑われる企業等への重点監督の実施状況─重点監督を実施した約8割の事業場に法令違反を指摘─」(厚生労働省 2013年12月17日)

    この監督・調査は今年9月に行われたもので、厚生労働省がブラック企業の監督・調査を実施したのは初めてのことです。

    公表された資料によると、離職率の高さや過去の違反歴、電話相談での苦情の情報などをもとに、若者の「使い捨て」が疑われる企業等5,111事業表に対して監督・調査を集中的に実施した結果、82%にあたる4,189事業場で何らかの労働基準関係法令違反が見つかり、是正勧告書を交付したようです。

    具体的には、以下のようになっています。

    〇違法な時間外労働があったもの:2,241事業場(43.8%)
    〇賃金不払残業があったもの:1,221事業場(23.9%)
    〇過重労働による健康障害防止措置が実施されていなかったもの:71事業場(1.4%)

    また、「健康障害防止措置」と「1か月の時間外・休日労働時間が最長の者の実績」についての結果は以下のとおりです。

    〇過重労働による健康障害防止措置が不十分なもの:1,120事業場(21.9%)
    〇労働時間の把握方法が不適正なもの:1,208事業場(23.6%)
    〇1か月の時間外・休日労働時間が80時間超:1,230事業場(24.1%)
    〇うち100時間超:730事業場(14.3%)

    業種別で見ると「製造業」が最も多く、続いて小売・卸売業などの「商業」、「運輸・交通業」の順となっています。

    具体例としては、
    パート社員が月170時間もの残業をしていた事例、
    約1年間、賃金が支払われていなかった事例、
    正社員のおよそ7割を係長職以上の「管理監督者」扱いにして時間外労働の割増賃金を支払わない、いわゆる「名ばかり管理職」にしていた事例などが報告されています。

    残業代の未払いに関する紛争が増加している

    近年、労働者から残業をしたのに残業代が支払われていないと主張され紛争になるケースが増えてきています。

    使用者は、労働者の労働時間をきちんと把握、管理し、支払わなければいけません。そして、賃金をしっかり支払い、あとで紛争が発生することを防止しなければいけません。

    無用な紛争をなくすためにも、残業代に関する法規制をまとめておきましょう。

    法定労働時間とは

    労働基準法では、使用者が労働者を働かせることができる労働時間は、原則として一週間で40時間、かつ一日8時間(法定労働時間)までと定められています。

    ただし、36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出れば、労働者が法定労働時間を超えて働いても労働基準法には違反しません。

    36協定とは、労働者の過半数が加入する労働組合があればその労働組合と、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表するものと書面で締結した協定のことをいいます。労働基準法36条に基づくためこう呼ばれています。

    なお、労動者が法定労働時間を超えて働かせた場合には、適用除外を除き労働者に割増賃金を支払わなくてはなりません。適用除外となるのは、管理監督者や、農業・畜産・水産業に従事する者、監視継続労働従事者です。

    割増賃金とは

    法定労働時間外の勤務をさせたときに必要となるのが割増賃金です。

    労働基準法における労働時間とは、使用者が労働者を指揮命令下においている時間です。しかし、就業規則や労働協約に定められている、合意で決めているといった理由だけで、労働者が労働したと主張する時間が、労働時間ではないとはいえません。

    たとえば、労働者が作業するに場合、会社から作業服や保護具等の装着を義務づけられているときは、就業規則等で仕事が始まる前にそれらの準備を済ませておくようにとの定めがあっても、特別な事情がない限りこの着替えの時間も社会通念上相当な長さの時間であれば、労働時間となるのです。

    つまり、始業時間が10時の場合でも、作業に必要な服を着るまでに15分かかるとしたら、労働時間の始期は9時45分となり、この着替えの15分間も労働時間になります。

    また、警備などの仕事で、仮眠時間中に警報・呼出しがあって現場に駆けつけたような場合、仮眠時間中に労働からの解放があったとはいえないので仮眠時間も労働時間となります。

    割増賃金の算定方法

    割増賃金は、法定労働時間を超えた時間に1時間あたりの賃金の1.25をかけます。法定労働時間を超えた時間が深夜労働(午後22時から午前5時)に当たる場合には1.5をかけた金額になります。

    基本給と残業代の区分け

    残業代部分が基本給から明確に区別できるのであれば、残業代を支払っていると認められますが、そのような区別ができない場合には、別途残業代を支払わなければなりません。

    たとえば、残業代を残業した時間ごとに支給せずに手当などで一括して支給する場合には、残業代に当たる部分を他の賃金から明確に区別できるようにして、労働者の合意をとっておく必要があります。

    労働者が勝手に残業していた場合

    残業して仕事を終わらせることがどうしても必要であり、そのことを管理者が当然に認めていた場合には、黙示に残業を命じたとして、使用者は残業代を支払わなくてはなりません。

    無用な紛争を避けるためにも、効率よく働ける労働環境を整え、長時間におよぶ余分な労働が発生しないように、使用者が労働時間をきちんと管理することが、労働者と使用者双方のためにも大切になります。

    その他

    割増賃金の支払いを怠った場合には、未払賃金に加え、同額の付加金が義務づけられることがあるので注意が必要です。付加金は裁判所の命令によって生じるので、裁判所が命じる前に未払賃金に相当する金額を労働者に支給し、使用者の義務違反の状況が消滅した後は、付加金を支払う必要はありません。

    なお、賃金請求権の消滅時効は2年なので、2年以上前の賃金を請求されても支払う必要はありません。
    厚生労働省は今後、是正勧告、指導に応じない企業は労働基準法違反の疑いなどで送検し、企業名を公表するとしています。

    あなたの会社は大丈夫ですか?

    労働者と使用者が、ともに豊かに発展していける人間関係や職場環境を作っていきたいものです。

    突然労働者から残業代請求が来たら、会社はこちらにご相談ください。
    「残業代請求から会社を守る弁護士SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/zangyolp/

  • くつを投げただけで犯罪になる!?業務妨害には要注意

    2013年12月14日


    「特定秘密保護法案」の採決をめぐって、国会の内も外も大荒れだったようです。

    「国会審議中に靴を投げ込んだ男を現行犯逮捕」

    特定秘密保護法案の審議中、参議院本会議場に靴を投げ入れたとして、12月7日、警視庁麹町署は派遣社員の男(45)を威力業務妨害容疑で現行犯逮捕しました。

    報道によると、男は6日午後10時50分頃、「強行採決するな!」と叫びながら履いていたスニーカーを傍聴席から本会議場に投げ入れ、議事を妨害したということです。

    この日は、他に3人が大声を上げたとして退場させられ参院から厳重注意を受けたようです。

    また、国会の外では法案に反対するデモ活動に参加していた無職の男(27)が、警備にあたっていた機動隊員につばを吐きかけ公務執行妨害の疑いで逮捕されたほか、道を通ろうとしたところを制止した機動隊員に体当たりをした男(63)も現行犯逮捕されたもようです。

    それだけ国民の関心が高かったとともに、法案成立への危機感もあった、ということでしょう。

    さて、「威力業務妨害」とはどのような罪でしょうか。

    刑法234条では、威力を用いて人の業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する、と規定しています。

    国会審議という国会議員の業務を、靴を投げるという威力で妨害したということです。

    では、大相撲で、土俵に向かってみんな座布団を投げる行為は、どうなのでしょうか?

    土俵上での相撲という業務の妨害行為にならないのか?

    これは、なりませんね。

    これは、座布団の舞と言われており、大相撲の取り組みにおいて、横綱が格下の力士に負けた時に、観客が土俵に向かって自らの座布団を投げる行為で、すでに相撲業界での風習になっているために、違法性がありません。

    もちろん相撲の取組中に座布団を投げて、妨害をしたら、威力業務妨害罪になるでしょう。

     

    ところで、「威力業務妨害」にあたる行為には、どのようなものがあるのでしょうか。過去にさまざまな判例があるので、その一部を紹介しましょう。

    〇進行しようとする自動車の前後に石やドラム缶を置いた(東京高判 昭45.2.19判タ249-241)

    〇演劇開始直前に土足で舞台に上がり、演劇を中止させると怒号した(仙台高判 昭25.2.14判特3-114)

    〇競馬場の本馬場に平くぎ一樽をまいた(大判 昭12.2.27新聞4100-4)

    〇タクシー会社の労働争議に際し、車両の車輪を撤去した(東京高判 昭43.11.28高集21-5-605)

    〇デパートの食堂配膳部にヘビ20匹をまき散らした(大判 昭7.10.10集11-1519)

    〇猫の死がいを被害者の事務机引き出し内に入れておき、同人に発見させた(最決 平4.11.27集46-8-623)

    〇国体の開会式場で防犯ブザーを作動させ、発煙筒を点火して投げつけた(仙台高判 平6.3.31判時1513-175)

    〇弁護士から重要書類の入ったカバンを奪取し隠匿した(最決 昭59.3.23集38-5-2030)

    私的には、最後の弁護士のカバンを隠した事例が気になるところです。

    カバンを奪われて隠されたら、私も大迷惑です。完全な業務妨害ですね。

    すぐに刑事告訴ですね。

    他の事例も、大人げないものからホラー的なものまで、人間というのは、じつにさまざまなことをしでかしてしまうものです。

    しかし、たんなる「いやがらせ」では済まないことになってしまえば、法律的には「犯罪者」ということになります。

    おそらくは、面白半分に行ったものか、感情的になって行ったものでしょう。

    普段の生活でも感情に支配されて冷静に考えることができないこともありますが、そんな時は、次の賢人の言葉を思い出しましょう。

    「怒りを感じたら、十数えよ。ひどく怒りを感じたら、百数えよ。それでも駄目なときは、千数えよ。」 トーマス・ジェファーソン

  • 「リベンジポルノ」は罪になります。

    2013年12月11日


    別れた元恋人のプライベート写真や動画をネットに公開する「リベンジポルノ」が問題化しているようです。

    「元交際女性にリベンジポルノ容疑の男を逮捕“裸の写真ばらまく”」

    元交際相手の女性に「交際を続けなければ裸の写真をばらまく」などと脅した容疑で、警視庁青梅署は強要未遂の疑いで無職の男(30)を逮捕しました。男は容疑を認めているということです。

    女性が別れ話を切り出した直後から、男は6日間に4回に渡って携帯電話から写真や動画を添付したメールを送信し、脅していたようです。

    ネットに流出した写真や動画などの情報は完全に回収するのが難しく、いったん流出すると半永久的に世界中でさらされ続けることになります。

    恋人にふられたからといって、その恨みからプライベートな情報をネット上にばらまくことは、卑劣な行為と言わざるを得ません。

    ネット社会の現代、リベンジ(復讐)ポルノの問題は世界各国で起きています。

    アメリカでは、2013年10月1日に施行された「リベンジポルノ非合法化法」によって、嫌がらせ目的で個人的な写真・映像を流出させたとして有罪になると、最高で禁錮6ヵ月もしくは最高1000ドルの罰金刑の対象となりました。

    この法律では、合意の上で撮影された写真であっても写った人の同意なく投稿されれば違法とみなされるそうです。一緒に撮影した写真を、相手の同意を得ず、別れた後にネットに投稿すると違法になるということです。

    ちなみに、同法では流出者と撮影者が同一人物でない限りこの法律は適用されないという制限があるようです。

    日本でも、このリベンジポルノの問題は国会でも取り上げられ、法規制の議論も起きています。

    今年10月、東京都三鷹市で起きた女子高生ストーカー殺人事件で加害者が被害者のプライベート写真と動画をウェブサイトで拡散させたことで一気に問題化しました。

    谷垣禎一法相は、「名誉棄損罪が適用できる。被害者が18歳未満なら、児童売春・児童ポルノ禁止法の可能性がある。現行法で対処できる」と国会で答弁しました。

    では、仮に今回の事件を現行法で見ていくと、どのような罪に問われるでしょうか。

    まず、交際を続けるように強要したので、強要罪が適用されます。

    刑法第223条(強要)
    1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

    強要は、しなくても、「裸の写真をばらまくぞ!」などと脅すと、脅迫罪になります。

    刑法第222条(強迫)
    1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

    また、写真の内容によっては、社会的評価を低下させるので、名誉毀損罪にもなりえます。

    刑法第230条(名誉棄損)
    1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    さらに、「裸の写真をばらまかれたくなければ、金を払え!」などと、お金を要求すると恐喝罪になってしまいます。

    刑法第249条(恐喝)
    1.人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
    卑劣な行為をした報いは、やはり、罪に問われることになるのです。

    「そんな写真撮らせなければいいのだ」という声もありますが、2人の関係性から断れない場合もあるでしょうし、知らないうちに撮られている場合もあるでしょう。

    やはり、そのような行動自体を罰する方が合理的だと思います。

    少し前に、店の冷蔵庫などに入って写真を撮り、Twitterなどにアップロードする行為が話題になりました。

    インターネットとソーシャルメディアが発達して個人が容易に全世界に意見などを発表することが容易になりました。

    それは良いことですが、その反面として、情報拡散が容易であるがゆえの危険性も高まっています。

    情報が容易かつ無限に拡散するインターネットの危険性を、1人1人が十分認識することが必要です。

    社員教育や学校教育にも取り入れてゆくことも必要ではないでしょうか。

  • 子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?

    2013年12月03日


    過去、こんな相談を受けたことがあります。

    「息子(小3)が通う小学校で、“事件”が起きた。

    それは、社会科見学に出発する前、体育館に3年生が全員集合しているときだった。

    一列に座って並んでいた待機中、A君の後ろにいたB君がちょっかいを出してからかった。

    怒ったA君は、カッとなり持っていた水筒をB君に向けて投げつけた。
    B君は、それをヒョイッとかわした。すると水筒がB君の後ろにいたC君の顔面を直撃。

    それまでC君は、そのまた後ろのD君の方を向いて話していたのが、D君に促されて、ちょうど前を向いた瞬間、自分めがけて水筒が飛んできたのだそうだ。

    C君は前歯4本を折って流血し、病院へ緊急搬送。

    単純には決めつけられないけれど、この問題、一体誰の責任なのだろう?

    A君、B君、教師、学校、親……。あれこれ考えたら、怖くなってきた」

    子供同士のささいなケンカから起こった事故とはいえ、大けがをしていることで親御さんとしては、いろいろと考えるところがあったようです。

    学校(保育所)の管理下における事故、災害では、通常、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    学校の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。

    ただ、この給付金では、損害賠償額を全て賄うには足りないことが多いでしょう。

    そうなると、足りない慰謝料などは、誰に請求すればよいでしょうか?

    考えられるのは、水筒を投げたA君、A君の親、学校、などが考えられるでしょう。

    ただ、A君はまだ小学3年生です。賠償金を支払う資力があるとは思えません。

    そこで、A君の親は、どうでしょうか?

    法的には、未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    そして、その能力は、11~12歳くらいが境界線とされています。

    今回のA君は、小学校3年生ですので、おそらく責任能力が否定されて、親の責任が問われることになるでしょう。

    また、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、代理監督者責任があります。

    教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

     

    親の「監督者責任」が問われれば多額の損害賠償金を支払わなければいけない場合も

     

    じつは近年、子供が起こした事故で、親が多額の損害賠償を求められるケースが増えています。

    多額の損害賠償が求められるということは、被害者に重大な障害が残ったり、死亡したり、というケースです。

    どのような状況か、というと、多いのが、自転車による事故です。

    親の監督責任は別として、未成年者による自転車事故で、多額の賠償金が認められた裁判例を挙げてみましょう。

    ・歩道上で信号待ちしていた女性(当時68歳)に、当時17歳が運転する自転車が右横から衝突。女性は大腿骨頚部骨折を負い、後遺障害8級の障害が残った。賠償金額は約1,800万円。親の監督責任は否定された。
    <平成10年10月16日 大阪地裁判決 交民集31巻5号1536頁)>

    ・白線内を歩行中の女性(当時75歳)が電柱を避けるために車道に出たところ、対向から無灯火で進行してきた14歳の中学生の自転車と衝突。女性は頭部外傷で、後遺障害2級の障害が残った。賠償金額は3,124万円。親の監督責任は否定された。
    <平成14年9月27日 名古屋地裁判決 交民集35巻5号1290頁)>

    ・赤信号で交差点の横断歩道を走行していた男子高校生が、男性(当時62歳)が運転するオートバイと衝突。男性は頭蓋内損傷で13日後に死亡。賠償金額は4,043万円。親の監督責任は求めなかった。
    <平成17年9月14日 東京地方裁判所・自保ジャーナル1627号>

    ・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3,970万円。母親の監督責任は否定された。
    <平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>

    ・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9,266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
    <平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>

    こうした中でも、今年7月に自転車事故を起こした少年(11歳)の母親に約9,500万円の損害賠償命令が出された、神戸市の自転車事故のケースは大きな話題になりました。

    平成20年9月22日、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた女性に正面衝突。
    女性は頭を強打し、意識不明のまま現在も寝たきりの状態が続いているとのことです。

    世間では、この金額に対して賛否両論の意見がありました。

    確かに、金額だけを見れば驚く人も多いでしょうが、被害者の状況と過去の裁判例から見ていけば、高額すぎる金額ではありません。

    この女性は散歩をしていただけです。そして、突然自転車に衝突され、寝たきりになってしまいました。

    人生を狂わされた慰謝料もあるでしょう。今後働いて得られたはずの収入もあるでしょう。寝たきりであれば、介護費用の負担もあるでしょう。

    それを考えると、損害額は1億円を超えてもおかしくはありません。

    それらを、この女性が負担すべきか、というと、それはあまりに酷というものです。

    しかし、これほどの金額になると一般の家庭では簡単に支払えるものではないでしょう。

    加害者である子供の親が自己破産してしまえば、被害者は賠償金を回収できなくなってしまいます。これからも続くであろう介護の費用は、どうすればいいのでしょうか?

    交通事故では、結局、被害者も加害者もお互いが不幸な結果になってしまうことも多いものです。

    自転車については、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がありません。

    また、自転車事故における任意保険制度もとても脆弱です。

    火災保険や自動車保険、傷害保険の特約でつけられる場合がありますが、知らない方も多いのではないでしょうか?

    これ以上、不幸を繰り返さないためにも、自転車の強制保険や任意保険の整備は急務でしょう。

    そして、まずは子供たちに対して、交通事故の怖さや自転車の危険性を教育していく「親としての責任」について、大人がきちんと理解し自覚する必要があると考えています。

  • 迷惑チラシのポスティングを禁止できるか?

    2013年11月29日


    知らぬ間に、部屋中にいらないものがたまっている、気がつくと会社の机の上にも資料やコピーがたまって、いくつもの山脈ができている…。

    そんな人、けっこう多いのではないでしょうか?

    結局、自分でためてしまったものは、自分で片付けるしかありません。「整理術」に関する本も世の中にたくさんあります。

    しかし、自分に関係のないところで、知らないうちにたまっていく厄介なものあります。

    ポストに投函されているチラシも、そのひとつでしょう。

    不動産、飲食店、通信販売、貸金、探偵、宅配サービス、不用品回収からピンクチラシまで、日々さまざまなチラシがポスティングされています。

    整理しなければ、すぐにポストいっぱいにたまってしまって邪魔、他の郵便物も混ざっているから仕分けするのが面倒、そもそも頼んでもいないのに勝手に入れられて不愉快、など鬱陶しく感じている人も多いでしょう。

    「チラシお断り」と張り紙しても、ほとんど効果はなし……では、こうしたチラシのポスティングを法的に拒否する、または取り締まる法律はあるのでしょうか?

    軽犯罪法というものがあります。
    これは、さまざまな軽微な秩序違反行為に対して拘留(1日以上30日未満で刑事施設に収容)、科料(1,000円以上1万円未満)に処する法律です。

    33の行為が罪として定められており、この中の32番目に、ポスティングに適用可能な規定があります。

    軽犯罪法 第1条
    左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

    32.入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者

    つまり、マンションの入り口などに「チラシ投函のための立入お断り」などの張り紙をしておけば、「入ることを禁じた場所」になり、入ってしまうと軽犯罪法1条32号により、軽犯罪法違反となります。

    実際、居住者以外の立入を禁じたマンション等にちらし配布の目的で立ち入った場合にも同様の理由によって本号違反が成立するとされた例があるようです(東京簡裁略式命令平成4年8月18日公刊物未搭載のため未確認・出典「軽犯罪法101問」立花書房)。

    また、さく等に囲まれた建造物の敷地に侵入する行為は「住居侵入罪」に該当します。

    刑法 第130条(住居侵入等)
    正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

    ちなみに、ピンクチラシなどは、各地方自治体の迷惑行為防止条例や青少年保護育成条例で規制されています。

    たとえば、東京都の迷惑防止条例では、違反者は50万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処せられます。

    政治ビラについては、過去の判例で、住民からの再三にわたる投函禁止要請を無視し、思想を強要するビラを投函し続けた男に対し、この状況下においては住居侵入罪に当たるとの判決が下ったものがあります。

    したがって、ポスティングをやめさせたければ、たとえば、マンションのポスト入り口などに「チラシ投函のための立入お断り。発見した場合は住居侵入罪及び軽犯罪法違反で刑事告訴します。監視カメラ作動中」などの掲示をし、監視カメラを設置する、という方法があります。

    ところで、日本のチラシの歴史を調べてみると、1683(天和3)年、三井越後屋(今の三越)が呉服の宣伝で、「現金安売り掛け値なし」というキャッチコピーで出した「引き札」というチラシが最初のものだとされているそうです。

    引き札は、独特な色合いと大胆な図柄が特徴で、今では収集家がいて展覧会も開かれる美術品だということです。

    昔も今も、必要なチラシもあるので、すべてのポスティングが不用なものとはいえません。

    そうなると、先ほどの禁止措置を講じた上で、マンションの管理組合が認めたチラシのみ、ラックなどを設置してチラシを入れておく、などの方法が考えられると思います(管理組合に広告収入も入ります)。

    広告主よし、住人よし、管理組合よし、の三方よしですね。

  • こんなことで逮捕とは…ブレーキなし自転車(ピスト)で全国初逮捕


    ブレーキなしの自転車運転で全国初の逮捕者が出てしまいました。

    警視庁交通執行課は11日、後輪にブレーキがついていない自転車を運転したとして、東京都の男性を道路交通法違反(制御装置不良自転車運転)容疑で逮捕しました。

    男性は、昨年3月に同じ自転車を運転しているところを同容疑で摘発されたにもかかわらず、出頭要請を7回も無視し続けたことで同課は逮捕する必要があると判断したようです。

    男性は、「こんなもので逮捕されるとは思わなかった」と供述しているとのことです。

    参考人ならまだしも、被疑者としての出頭要請ですから、出頭すべきですね。

    ところで、ブレーキのない自転車=ピストバイクとはどういうものなのか簡単に説明しておきましょう。

    ピストバイクは競技用の自転車(トラックレーサー)で、もともとは公道を走るためのものではありません。

    そのためブレーキがついておらず、しかも固定ギアのためペダルを逆回転に回して自転車を止めるのですが、制動力は脚力に依存するため、相当の脚力がないと、急に止まることができないでしょう。

    2000年代半ばに日本にも輸入されるようになり、そのシンプルなスタイリングが美しいということで、ストリートカルチャーやファッションの面で人気になりました。
    壊れにくく、乗り心地が独特ということで愛好家もいます。

    しかし、2年前にはお笑い芸人がブレーキなしのピストバイクを運転していて道路交通法違反(制動装置不良)で交通違反切符を切られたように、このところ摘発者が増えているようです。

    みなさん、ここでもう一度、確認してください!
    ブレーキなしの自転車を運転することは法律で禁じられています。
    もちろん、前輪後輪両方ついていなければいけません。

    道路交通法 第63条の9第1項(自転車の制動装置等)

    自転車の運転者は、内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車を運転してはならない。

    道路交通法施行規則 第9条の3

    1.前輪及び後輪を制動すること。
    2.乾燥した平たんな舗装道路において、制動初速度が10キロメートル毎時のとき、制動装置の操作を開始した場所から3メートル以内の距離で円滑に自転車を停止させる性能を有すること。

    これに違反すると、道路交通法の第120条により5万円以下の罰金となります。

    今年7月に施行された東京都の「自転車安全利用条例」によって、道路交通法に違反する自転車の販売が禁止されたので、ブレーキのない自転車の一般販売も禁止される、ということになります。この動きは全国に広がっています。

    また近年、交通事故は減少しているにもかかわらず、自転車による事故は全体の約2割にも達し増加の一途をたどっています。

    自転車は道路交通法上、「軽車両」です。

    格好いいからという理由だけでブレーキなしの自転車には乗らないこと。
    自分も人も傷つけないよう、安全に十分配慮して自転車を楽しんでほしいと思います。