弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 22
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  • ひき逃げが殺人罪に!?

    2013年12月26日


    自動車運転に関する事故で、ひとつのケーススタディともいえる事件が発生したので、解説しておきたいと思います。

    「職務質問した警察官をひき逃げ 容疑の男逮捕」(埼玉新聞)

    埼玉県川口市で、職務質問した警察官が車にひかれて重傷を負った事件で、川口署は12月17日、無職の男(31)を公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕しました。

    報道によると、川口市の住宅街のT字路付近で「車が中央寄りに止まっている」との通報があり、署員2名が現場に直行。

    男性巡査(30)が運転手の男に職務質問したところ、男は突然、車を急発進。転倒した巡査の脚をひき、そのまま逃走していたようです。

    男は「ひき殺そうとはしていない」として容疑を否認しているということです。

    まず、この事件の逮捕容疑について確認しましょう。

    公務執行妨害と殺人未遂です。

    「刑法」第95条(公務執行妨害)
    ①公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    巡査の職務質問という公務に対して、男は車を発進させて、巡査の脚をひくという「暴行」を加えて「妨害」したので、これは公務執行妨害になります。

    ちなみに、職務質問を受けて、答えるのを拒否したり、ただ逃げただけでは公務執行妨害にはなりません。

    なぜなら、公務執行妨害罪の要件である「暴行または脅迫」がないためです。

    次に殺人未遂について考えてみましょう。

    「刑法」第199条(殺人罪)
    人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する。

    今回は、ひかれた巡査は死んでないので、未遂罪です。

    車でひき殺そうとしたが、未遂に終わった容疑ということです。

    ところで、ここでひとつ疑問が出てきます。

    自動車運転によって人を死傷させた場合の刑罰には、「自動車運転過失致死傷罪」(刑法211条2項)と「危険運転致死傷罪」(刑法第208条の2)がありますが、今回はなぜこれらの容疑ではなかったのでしょうか?

    報道内容からだけでは詳細はわかりませんが、おそらく「未必の故意」が疑われたのではないかと思われます。

    刑法上の重要な問題のひとつに「故意」と「過失」があります。

    「故意」とは、結果の発生を認識していながら、これを容認して行為をすることで、刑法においては「罪を犯す意思」のことをいいます。

    一方「過失」は、結果が予測できたにもかかわらず、その予測できた結果を回避する注意や義務を怠ったことです。
    では、どのような場合に故意が認められ、または過失が認められるのか?
    その境界線のように存在するのが「未必の故意」です。

    ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでもかまわないと考え、あえてその行為を行う心理状態を「未必の故意」といいます。

    容疑者の男は、100%巡査を殺そうとして車を発進させたのか、たんなる不注意だったのか。

    それとも、死ぬ確率は100%ではないが0%でもなく、死ぬかもしれないが「それでもかまわない」と思ってアクセルを踏んだのか、ということです。

    殺人罪の未必の故意があれば、殺人罪となります。

    ただ、このようなケースで「死んでも構わない」とまで思っているケースはそれほど多くありません。

    そうすると、殺人罪の故意がない、ということになりそうです。

    では、何罪が成立するのでしょうか?

    「死んでも構わない」とは思っていなかったとしても、今回のケース、「怪我をするかもしれないが、それでも構わない」くらいには思っていたかもしれません。

    そうすると、「怪我をさせる故意あるいは未必の故意」があったことになりますので、傷害罪になりそうです。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    ちなみに以前、ある知人で「未必の故意」を「密室の恋」だと思っていた人がいました。

    危険なにおいがします……

    さらには、「未筆の恋」だと思っていた人もいました。

    ラブレターを書く前に終わった恋ということでしょうか……

    「過失の恋」になると、人違いのようになってしまいます・・・。

    それはともかく、素手の場合、殺人も傷害も大変なことですが、自動車の場合には、ちょっとアクセスを踏むだけで実現できてしまいます。

    便利な反面、いつでも凶器になりうる危険なものです。

    事故が予測できるにもかかわらずアクセルを踏むなど、言語道断。

    冷静な判断をもってハンドルを握ることを、いつでも肝に銘じておくことが大切です。

     

  • 8割以上の企業が労働基準法違反!あなたの会社は?

    2013年12月24日


    厚生労働省が、若者の使い捨てなどが疑われる、いわゆる「ブラック企業」についての実態調査の報告を公表しました。

    驚くべきことに、企業全体の8割以上から労働基準関係法令の違反が見つかったということです。

    「若者の使い捨てが疑われる企業等への重点監督の実施状況─重点監督を実施した約8割の事業場に法令違反を指摘─」(厚生労働省 2013年12月17日)

    この監督・調査は今年9月に行われたもので、厚生労働省がブラック企業の監督・調査を実施したのは初めてのことです。

    公表された資料によると、離職率の高さや過去の違反歴、電話相談での苦情の情報などをもとに、若者の「使い捨て」が疑われる企業等5,111事業表に対して監督・調査を集中的に実施した結果、82%にあたる4,189事業場で何らかの労働基準関係法令違反が見つかり、是正勧告書を交付したようです。

    具体的には、以下のようになっています。

    〇違法な時間外労働があったもの:2,241事業場(43.8%)
    〇賃金不払残業があったもの:1,221事業場(23.9%)
    〇過重労働による健康障害防止措置が実施されていなかったもの:71事業場(1.4%)

    また、「健康障害防止措置」と「1か月の時間外・休日労働時間が最長の者の実績」についての結果は以下のとおりです。

    〇過重労働による健康障害防止措置が不十分なもの:1,120事業場(21.9%)
    〇労働時間の把握方法が不適正なもの:1,208事業場(23.6%)
    〇1か月の時間外・休日労働時間が80時間超:1,230事業場(24.1%)
    〇うち100時間超:730事業場(14.3%)

    業種別で見ると「製造業」が最も多く、続いて小売・卸売業などの「商業」、「運輸・交通業」の順となっています。

    具体例としては、
    パート社員が月170時間もの残業をしていた事例、
    約1年間、賃金が支払われていなかった事例、
    正社員のおよそ7割を係長職以上の「管理監督者」扱いにして時間外労働の割増賃金を支払わない、いわゆる「名ばかり管理職」にしていた事例などが報告されています。

    残業代の未払いに関する紛争が増加している

    近年、労働者から残業をしたのに残業代が支払われていないと主張され紛争になるケースが増えてきています。

    使用者は、労働者の労働時間をきちんと把握、管理し、支払わなければいけません。そして、賃金をしっかり支払い、あとで紛争が発生することを防止しなければいけません。

    無用な紛争をなくすためにも、残業代に関する法規制をまとめておきましょう。

    法定労働時間とは

    労働基準法では、使用者が労働者を働かせることができる労働時間は、原則として一週間で40時間、かつ一日8時間(法定労働時間)までと定められています。

    ただし、36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出れば、労働者が法定労働時間を超えて働いても労働基準法には違反しません。

    36協定とは、労働者の過半数が加入する労働組合があればその労働組合と、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表するものと書面で締結した協定のことをいいます。労働基準法36条に基づくためこう呼ばれています。

    なお、労動者が法定労働時間を超えて働かせた場合には、適用除外を除き労働者に割増賃金を支払わなくてはなりません。適用除外となるのは、管理監督者や、農業・畜産・水産業に従事する者、監視継続労働従事者です。

    割増賃金とは

    法定労働時間外の勤務をさせたときに必要となるのが割増賃金です。

    労働基準法における労働時間とは、使用者が労働者を指揮命令下においている時間です。しかし、就業規則や労働協約に定められている、合意で決めているといった理由だけで、労働者が労働したと主張する時間が、労働時間ではないとはいえません。

    たとえば、労働者が作業するに場合、会社から作業服や保護具等の装着を義務づけられているときは、就業規則等で仕事が始まる前にそれらの準備を済ませておくようにとの定めがあっても、特別な事情がない限りこの着替えの時間も社会通念上相当な長さの時間であれば、労働時間となるのです。

    つまり、始業時間が10時の場合でも、作業に必要な服を着るまでに15分かかるとしたら、労働時間の始期は9時45分となり、この着替えの15分間も労働時間になります。

    また、警備などの仕事で、仮眠時間中に警報・呼出しがあって現場に駆けつけたような場合、仮眠時間中に労働からの解放があったとはいえないので仮眠時間も労働時間となります。

    割増賃金の算定方法

    割増賃金は、法定労働時間を超えた時間に1時間あたりの賃金の1.25をかけます。法定労働時間を超えた時間が深夜労働(午後22時から午前5時)に当たる場合には1.5をかけた金額になります。

    基本給と残業代の区分け

    残業代部分が基本給から明確に区別できるのであれば、残業代を支払っていると認められますが、そのような区別ができない場合には、別途残業代を支払わなければなりません。

    たとえば、残業代を残業した時間ごとに支給せずに手当などで一括して支給する場合には、残業代に当たる部分を他の賃金から明確に区別できるようにして、労働者の合意をとっておく必要があります。

    労働者が勝手に残業していた場合

    残業して仕事を終わらせることがどうしても必要であり、そのことを管理者が当然に認めていた場合には、黙示に残業を命じたとして、使用者は残業代を支払わなくてはなりません。

    無用な紛争を避けるためにも、効率よく働ける労働環境を整え、長時間におよぶ余分な労働が発生しないように、使用者が労働時間をきちんと管理することが、労働者と使用者双方のためにも大切になります。

    その他

    割増賃金の支払いを怠った場合には、未払賃金に加え、同額の付加金が義務づけられることがあるので注意が必要です。付加金は裁判所の命令によって生じるので、裁判所が命じる前に未払賃金に相当する金額を労働者に支給し、使用者の義務違反の状況が消滅した後は、付加金を支払う必要はありません。

    なお、賃金請求権の消滅時効は2年なので、2年以上前の賃金を請求されても支払う必要はありません。
    厚生労働省は今後、是正勧告、指導に応じない企業は労働基準法違反の疑いなどで送検し、企業名を公表するとしています。

    あなたの会社は大丈夫ですか?

    労働者と使用者が、ともに豊かに発展していける人間関係や職場環境を作っていきたいものです。

    突然労働者から残業代請求が来たら、会社はこちらにご相談ください。
    「残業代請求から会社を守る弁護士SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/zangyolp/

  • 「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(2)

    「自動車運転死傷行為処罰法」の内容解説

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)が、平成25年11月20日、参院本会議で全会一致により可決・成立し、平成26年5月までに施行され、自動二輪車や原動機付自転車の事故にも適用される。

    自動車運転死傷行為処罰法は、従前刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加えるとともに、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くする、という新しい法律である。

    そこで、本稿では、この「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)が、どのような場合に適用されるのか、について解説する。

    この法律は、わずか6条からなる。6つの条文に全ての犯罪と刑罰が記載されているのであるが、その刑罰は、最高懲役20年。決して軽くはない。

    では、自動車運転死傷行為等処罰法に規定されている犯罪を順番に解説する。

    危険運転致死傷罪

    危険運転致死傷罪は、致傷の場合には懲役15年以下、死亡の場合には20年以下の懲役とされており、過失運転致死傷罪の法廷刑よりも格段に重い処罰となっている。

    その理由は、危険運転致死傷罪が成立するためには、運転者が過失ではなく、故意に危険運転行為を行ったことにある。

    つまり、通常の過失運転致死傷罪は、前方不注視や脇見運転など、過失犯であるが、危険運転致死傷罪では、次の6つの、特に危険な運転行為を故意に行ったことが必要になる。

    1. アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
    2. 進行を制御することが困難高速度で走行
    3. 進行を制御する技能を有しないで走行
    4. 人又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    5. 赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    6. 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

    上記の6つのいずれかに当てはまる行為をし、その結果、事故で人を死傷した場合には、危険運転致死傷罪が成立する。

    構成要件の解説

    「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行」

    「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況に応じた運転操作を行うことが困難な状態のことである。

    ただ酒を飲んで良い気分になっている程度では、運転に支障はあるかもしれないが、危険運転致死傷罪は成立しない。

    「正常な運転が困難な状態」とは、飲酒や薬物などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態のことを言う。
    「アルコールの影響で正常な運転が困難」かどうかの認定方法としては、呼気検査により、呼気の中にどれだけのアルコールが検出されるか、直立検査・歩行検査でフラフラしていないかどうか、事故直後の言動でろれつが回らないようなことはないか、目が充血している等の兆候があったか、蛇行運転をしているなどの事実があったか、本人や関係者の証言により、どの程度の飲酒をしていたか、事故前後の言動はどうだったか、などを総合して認定される。

    この立証は検察側の責任なので、危険運転致死傷罪で起訴できるかどうかは、事故直後の初動捜査にかかっている。

    しっかりマニュアル化して、証拠化を進めて欲しいところである。

    「進行を制御することが困難な高速度で走行」

    「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自動車を走行させることである。

    千葉地裁平成28年1月21日判決は、「自動車の性能や道路状況等の客観的な事実に照らし、ハンドルやブレーキの操作をわずかにミスしただけでも自動車を道路から逸脱して走行させてしまうように、自動車を的確に走行させることが一般ドライバーの感覚からみて困難と思われる速度をいい、ここでいう道路状況とは、道路の物理的な状況等をいうのであって、他の自動車や歩行者の存在を含まない」と定義している。

    条文では、具体的に「速度●●キロ以上」と決まっているわけではない。

    具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってくるし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってくる。

    つまり、高速道路であれば100キロ以上の速度で走行しても危険運転とされることは考えにくいが、曲がりくねった細い道路で、ゆっくり走らないと危ないような道路を100キロ以上の速度で走行する場合は、進行を制御することが困難な高速度、と認定されやすくなるだろう。

    進行を制御することが困難なほどの高速度かどうかは刑事裁判において机上のみの資料で判断することは難しいであろうから、事案によっては刑事裁判においても現場の検証や再現ビデオなどでの立証が必要となると思われる。

    「進行を制御する技能を有しないで走行」

    「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドルやブレーキ等を捜査する初歩的な技能すら有しない場合が想定されている。

    この要件は、「無免許」を意味するか、というと、そういう意味ではない。

    免許の有無にかかわらず、事故当時の運転技術に着目するものである。

    その結果、無免許運転による悪質な事故に対してこの類型が適用されず、社会的な非難が高まった結果、本法律では、この類型に該当しなくても、無免許運転により事故を起こした場合には刑を重くすることとなっている。後に解説する。

    したがって、この類型の場合、たとえ、無免許であっても、普段無免許運転を繰り返しており、運転技術がある場合には、この要件には当てはまらない。

    「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」

    「通行を妨害する目的」というのは、「相手を停止させたり、走行させない」という意味ではない。

    逆に、相手に自車との衝突を避けるための回避行為をとらせるなど、相手の「安全運転を妨害」する目的を言う。

    急な割り込みに対し、相手が自車との衝突を避けるために急にハンドルをきったり、という回避行為をするときは、重大な事故が発生しやすいことに着目したものである。

    「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、自車が相手方と衝突すると、重大な事故になりそうな速度、あるいはそのような重大な事故を回避することが困難な速度を言い、立法時の答弁では、20~30キロ程度出ていれば、状況によってはこの要件に当たると解釈されている。

    「赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」

    道路では、信号機などにより交通整理が行われ、円滑かつ安全な交通が確保される仕組みになっている。

    もし、赤信号を無視して交差点などに進入すると、青信号に従って交差点に進入した他車や歩行者などに重大な交通の危険を生じさせる可能性があるため、規定されたものである。

    「赤信号又はこれに相当する信号」の「これに相当する信号」とは、赤信号と同様の効力を持つ信号のことで、警察官の手信号のようなものを指す。

    「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、やはり20~30キロ程度出ていれば、要件に当たると解釈されている。

    その程度の速度でも、赤信号を無視して交差点に侵入されば、重大な事故が発生しやすいためである。

    通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

    今回の立法で新たに追加された類型である。

    平成23年10月、愛知県名古屋市において、無免許でかつ酒気を帯び、無車検、無保険の自動車を運転していたブラジル人が、一方通行を逆走し、交差点の横断歩道上を自転車で進行していた被害者に自動車を衝突させて死亡させ、ひき逃げしたという悪質な事故が発生し、社会の注目を集めた。

    この事故で、一方通行の逆走が、交通に重大な危険を生じさせる行為であり、危険運転致死傷罪に取り込むべきだ、という認識が浸透し、今回の追加に至ったものと思われる。

    実際、道路を自動車で進行し、あるいは歩行中に、自動車が走行してくるはずがないところから自動車が走行してくる場合には、衝突を回避するための措置をとりにくいであろう。

    「通行禁止道路」とは、道路標識もしくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものを言う。

    具体的には政令で定められるが、現段階(2013年12月)としては、自転車及び歩行者の専用道路、一方通行道路の逆走、高速道路の逆走、などが想定されている。

    通行禁止道路を走行する認識は必要はあるから、一方通行道路だと知らずに逆走した場合は、この罪は成立しない。少なくとも、事故時までには、通行禁止道路であることの認識が必要となる。

    なお、速度については、やはり20~30キロ程度出ていれば、この犯罪の成立は可能と思われる。

    準危険運転致死傷罪

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    アルコール又は薬物あるいは政令で指定する病気の影響により、その走行中に正常な運転に「支障が生じるおそれ」がある状態で、自動車を運転し、その結果、アルコール又は薬物あるいは病気の影響で「正常な運転が困難」な状態に陥り、事故で人を死傷させた場合に成立する。

    ここで、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、危険運転致死傷罪が適用されるような、「飲酒や薬物などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態」とまではいかないが、飲酒などの影響で、自動車を運転するのに必要な注意力・判断能力・操作能力が、相当程度低下して、危険な状態にあることをいいます。

    たとえば、飲酒の場合には、道路交通法で、酒気帯び運転罪になる程度の血中アルコール濃度があれば、正常な運転に支障がある、ということになる。

    病気の場合には、意識を喪失するような発作の前兆症状が出ている場合や、意識を喪失するような発作が予想されるのに、医師から指示された薬を飲んでいない場合などに、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあたる。

    ここで注意すべきは、政令で定める病気にかかっている人が自動車事故を起こしたときに、全てこの罪が成立するわけではない、ということである。

    たとえ政令で定める病気にかかっていたとしても、その自覚症状がなかったり、運転するのに支障が生じるおそれがないと思っているような場合(従前意識を喪失したことがなく、医師からも特に薬を処方されてなく、問題なく自動車を運転できていたような場合)には、この罪の対象にはならないだろう。

    逆に、政令で定める病気の診断を受けていなかったとしても、自分が何らかの病気のためにたびたび意識を喪失することを自覚しているなど、自らの症状がどのようなものであるかを知っていて、そのために正常な運転に支障が生じるおそれがあることを知っていれば、事故後に、事故時において政令で定める病気であったことがわかった場合、この罪が成立すると考える。
    この罪の法定刑は、怪我をさせた場合は、12年以下の懲役、死亡させた場合は15年以下の懲役である。

    政令で定める病気は、以下のとおりである。

    1. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症
    2. 意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがある「てんかん」(発作が睡眠中に限り再発するものを除く)
    3. 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるもの)
    4. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症
    5. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む)
    6. 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

    過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    アルコール又は薬物の影響で、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であることを認識しながら自動車を運転し、自動車事故を起こした場合に、

    事故後、アルコールまたは薬物の影響や程度が発覚するのを免れるために、

    さらに飲酒したり、薬物を摂取したりするか、

    あるいは、逃げてアルコールや薬物の濃度を減少させたりして、それらの影響の有無や程度の発覚を免れるような行為をした場合である。

    これは、いわゆる「逃げ得」問題を撲滅しよう、というために規定されたものである。

    逃げ得とは、どのような問題かというと、たとえば、酒で泥酔状態になって人身事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪が適用されますが、ひき逃げしてしまい、翌日逮捕されたとしても、その時には体内のアルコール濃度は減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、過失運転致死傷罪と道路交通法違反(ひき逃げ)しか適用されず、刑が軽くなってしまう、という問題である。

    この犯罪類型を新設したことにより、その場から逃げた場合にはこの罪による最高刑12年にひき逃げの最高刑10年が併合され、最高18年の懲役刑を科すことが可能になる。
    なお、この罪の法定刑は、12年以下の懲役である。

    過失運転致死傷罪

    この罪は、従前刑法211条2項で規定されていた「自動車運転過失致死傷罪」をこの法律に移動させたものである。

    前方不注視や後方確認義務違反などの過失によって自動車事故で人に怪我をさせたり死亡させたりした場合に成立する。

    法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金である。

    無免許運転による加重

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    次の罪を犯した者が、事故の時に無免許だった場合に成立する。

    • 危険運転致傷罪(死亡を除く。また、「進行を制御する技能を有しない」犯罪類型を除く。死亡を除くのは、すでに最高刑が規定されているためである)
    • 準危険運転致死傷罪
    • 過失運転致死傷アルコール等発覚免脱罪
    • 過失運転致死傷罪

    無免許のよる重大事故が発生したにもかかわらず、従前は自動車運転過失致死傷罪と道路交通法違反という軽い罰則でしか、社会的批判が高まったことから規定されたものである。

    というのは、無免許で自動車を運転することは、基本的な交通ルールの無視という規範意識の低さととともにそれ自体危険な行為であるためである。

    次のように刑が重くなる。

    1. 危険運転致傷罪 懲役15年→懲役20年(無免許)
    2. アルコール等で不覚にも困難に至って事故した罪(上記3)
      懲役15年→懲役20年(無免許)
    3. アルコール等影響発覚免脱罪(上記4)
      懲役12年→懲役15年(無免許)
    4. 過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)
      懲役7年→懲役10年(無免許)

    以上、自動車運転死傷行為処罰法の各構成要件を解説しました。

    もし、自動車運転死傷行為処罰法の成立経緯を知りたい人は、以下も参考にしてください。

    自動車運転死傷行為等処罰法(1)についての記事は、こちら
    https://taniharamakoto.com/archives/1234

  • 「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(1)

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」制定までの経緯

    悪質運転による死傷事故の罰則を強化する新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が、平成25年11月20日、参院本会議で全会一致により可決・成立した。

    平成26年5月までに施行され、オートバイや原付きバイクの事故にも適用される。

    この法律は、これまで刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加えるとともに、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くする、という新しい法律である。

    つまり、一言で言うと、悪質な運転による事故には、これまでよりも重い刑罰で臨む、という新法である。

    今回は、この法律のできた背景と概要について説明したい。

    危険運転致死傷罪ができるまでは、自動車による死傷事故については、業務上過失致死傷罪で一律に処罰されてきた。

    刑法211条

    業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    ところが、平成11年11月28日、東京都世田谷区の東名高速道路で、飲酒運転のトラックが、両親と3歳・1歳の2女児の3名の幼児が同乗する普通乗用自動車に追突し、3人の幼児を死亡させる事故が発生。

    また、平成12年4月に神奈川県座間市で、無免許、無車検、無保険、かつ飲酒運転で、検問から猛スピードで逃走していた建設作業員の男性が運転する自動車が歩道に突っ込み、歩道を歩いていた大学生2名を死亡させた事件が発生。

    その後、危険な運転による自動車事故に、最高5年の懲役しか科せないとは不合理であるとのことで、署名運動が行われ、平成13年10月には合計で37万4,339名の署名が集まった。

    その結果、平成13年に危険運転致死傷罪が新設され、平成17年に罰則が引き上げられるとともに、平成19年には、原動機付自転車や自動二輪車にも適用が拡大された。

    しかし、危険運転致死傷罪は、特に危険な運転行為に限って重く処罰しようという刑罰なので、その要件に該当しない悲惨な事故について不適用となり、社会の批判が高まり、自動車事故に対する重罰化の要請が高まった。

    その結果、平成19年に、新たに「自動車運転過失致死傷罪」が創設され、最高7年以下の懲役が定められた。

    刑法第211条2項

    自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    ところが、その後、次のような悲惨な事故が頻発した。

    平成23年4月、栃木県鹿沼市において、てんかんの症状を有して投薬治療を受けていた加害者が、医師から運転をしないよう指導を受けていたにもかかわらず、クレーン車を運転し、運転中にてんかん発作が起きて意識を失い、歩道上の小学生らに衝突させて、6人を死亡させた事故。

    平成23年10月、愛知県名古屋市において、無免許でかつ酒気を帯び、無車検、無保険の自動車を運転していたブラジル人が、一方通行を逆走し、交差点の横断歩道上を自転車で進行していた被害者に自動車を衝突させて死亡させ、ひき逃げした事故。

    平成24年4月、京都府亀岡市において、無免許で自動車を運転し、連日の夜遊びなどによる寝不足などにより、仮睡状態に陥り、小学校に登校中の小学生らに衝突させ、3人を死亡させ、7人を負傷させた事故。

    これらの事故は、社会的に話題になり、その刑事裁判の動向が注視されたが、いずれも、当時の危険運転致死傷罪の構成要件には該当せず、全て自動車運転過失致死傷罪で起訴されることとなった。

    そこで、自動車による死傷事故に対する罰則見直しの世論が高まり、このたびの改正となった。

    この新法のポイントは、以下の4点である。

    危険運転致死傷罪の犯罪類型を1つ追加したこと

    これまで、危険運転致死傷罪の適用がなかった「通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為により人を死傷」させた場合に、危険運転致死傷罪の適用を認めることとした。

    危険運転致死傷罪の最高刑は、懲役20年である。

    準危険運転致死傷罪の新設

    危険運転致死傷罪には該当しないが、アルコール又は薬物あるいは一定の病気の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態(危険運転致死傷罪は「正常な運転が困難な状態」にまでなる必要がある)で、自動車を運転し、その結果、正常な運転が困難な状態に陥って事故を起こした場合を新しい犯罪類型としたこと。

    この犯罪の最高刑は、懲役15年である。

    過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の新設

    アルコール等の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して事故を起こし、飲酒等の発覚を恐れて逃げたり、さらに飲酒したり、等の行為をした場合に、「自動車運転過失致死傷罪」よりも重く処罰することとしたこと。

    この犯罪の最高刑は懲役12年である。

    無免許運転の場合の刑の加重

    危険運転致傷罪や準危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪、アルコール等影響発覚免脱罪等を犯した加害者が、事故当時無免許だった時は、その刑罰を重くしたこと。

    この無免許により加重される罪の最高刑は、

    (1)危険運転致傷罪 懲役15年→懲役20年(無免許)

    (2)アルコール等で不覚にも困難に至って事故した罪(上記3)
       懲役15年→懲役20年(無免許)

    (3)アルコール等影響発覚免脱罪(上記4)
       懲役12年→懲役15年(無免許)

    (4)過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)
       懲役7年→懲役10年(無免許)

    である。

    具体的な構成要件の内容については、細部にわたるために、本稿では省略するが、この法律の成立自体は、現実に発生した悪質かつ悲惨な事故に刑罰法規が適切に対処できなかった、という国民の批判を受けて成立したものであって、評価できる。

    問題は、実際の適用場面にあたっての運用である。

    法律は作ったものの、必要な時に適用されないのでは絵に描いた餅となるし、不明確な規定のままむやみに拡大適用されることとなれば、不意打ち的な処罰が発生することになる。

    この点については、交通事故の被害者弁護を多く扱う私としても、注視したいところである。

    続きは、こちらから
    https://taniharamakoto.com/archives/1236

     

  • くつを投げただけで犯罪になる!?業務妨害には要注意

    2013年12月14日


    「特定秘密保護法案」の採決をめぐって、国会の内も外も大荒れだったようです。

    「国会審議中に靴を投げ込んだ男を現行犯逮捕」

    特定秘密保護法案の審議中、参議院本会議場に靴を投げ入れたとして、12月7日、警視庁麹町署は派遣社員の男(45)を威力業務妨害容疑で現行犯逮捕しました。

    報道によると、男は6日午後10時50分頃、「強行採決するな!」と叫びながら履いていたスニーカーを傍聴席から本会議場に投げ入れ、議事を妨害したということです。

    この日は、他に3人が大声を上げたとして退場させられ参院から厳重注意を受けたようです。

    また、国会の外では法案に反対するデモ活動に参加していた無職の男(27)が、警備にあたっていた機動隊員につばを吐きかけ公務執行妨害の疑いで逮捕されたほか、道を通ろうとしたところを制止した機動隊員に体当たりをした男(63)も現行犯逮捕されたもようです。

    それだけ国民の関心が高かったとともに、法案成立への危機感もあった、ということでしょう。

    さて、「威力業務妨害」とはどのような罪でしょうか。

    刑法234条では、威力を用いて人の業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する、と規定しています。

    国会審議という国会議員の業務を、靴を投げるという威力で妨害したということです。

    では、大相撲で、土俵に向かってみんな座布団を投げる行為は、どうなのでしょうか?

    土俵上での相撲という業務の妨害行為にならないのか?

    これは、なりませんね。

    これは、座布団の舞と言われており、大相撲の取り組みにおいて、横綱が格下の力士に負けた時に、観客が土俵に向かって自らの座布団を投げる行為で、すでに相撲業界での風習になっているために、違法性がありません。

    もちろん相撲の取組中に座布団を投げて、妨害をしたら、威力業務妨害罪になるでしょう。

     

    ところで、「威力業務妨害」にあたる行為には、どのようなものがあるのでしょうか。過去にさまざまな判例があるので、その一部を紹介しましょう。

    〇進行しようとする自動車の前後に石やドラム缶を置いた(東京高判 昭45.2.19判タ249-241)

    〇演劇開始直前に土足で舞台に上がり、演劇を中止させると怒号した(仙台高判 昭25.2.14判特3-114)

    〇競馬場の本馬場に平くぎ一樽をまいた(大判 昭12.2.27新聞4100-4)

    〇タクシー会社の労働争議に際し、車両の車輪を撤去した(東京高判 昭43.11.28高集21-5-605)

    〇デパートの食堂配膳部にヘビ20匹をまき散らした(大判 昭7.10.10集11-1519)

    〇猫の死がいを被害者の事務机引き出し内に入れておき、同人に発見させた(最決 平4.11.27集46-8-623)

    〇国体の開会式場で防犯ブザーを作動させ、発煙筒を点火して投げつけた(仙台高判 平6.3.31判時1513-175)

    〇弁護士から重要書類の入ったカバンを奪取し隠匿した(最決 昭59.3.23集38-5-2030)

    私的には、最後の弁護士のカバンを隠した事例が気になるところです。

    カバンを奪われて隠されたら、私も大迷惑です。完全な業務妨害ですね。

    すぐに刑事告訴ですね。

    他の事例も、大人げないものからホラー的なものまで、人間というのは、じつにさまざまなことをしでかしてしまうものです。

    しかし、たんなる「いやがらせ」では済まないことになってしまえば、法律的には「犯罪者」ということになります。

    おそらくは、面白半分に行ったものか、感情的になって行ったものでしょう。

    普段の生活でも感情に支配されて冷静に考えることができないこともありますが、そんな時は、次の賢人の言葉を思い出しましょう。

    「怒りを感じたら、十数えよ。ひどく怒りを感じたら、百数えよ。それでも駄目なときは、千数えよ。」 トーマス・ジェファーソン

  • 「リベンジポルノ」は罪になります。

    2013年12月11日


    別れた元恋人のプライベート写真や動画をネットに公開する「リベンジポルノ」が問題化しているようです。

    「元交際女性にリベンジポルノ容疑の男を逮捕“裸の写真ばらまく”」

    元交際相手の女性に「交際を続けなければ裸の写真をばらまく」などと脅した容疑で、警視庁青梅署は強要未遂の疑いで無職の男(30)を逮捕しました。男は容疑を認めているということです。

    女性が別れ話を切り出した直後から、男は6日間に4回に渡って携帯電話から写真や動画を添付したメールを送信し、脅していたようです。

    ネットに流出した写真や動画などの情報は完全に回収するのが難しく、いったん流出すると半永久的に世界中でさらされ続けることになります。

    恋人にふられたからといって、その恨みからプライベートな情報をネット上にばらまくことは、卑劣な行為と言わざるを得ません。

    ネット社会の現代、リベンジ(復讐)ポルノの問題は世界各国で起きています。

    アメリカでは、2013年10月1日に施行された「リベンジポルノ非合法化法」によって、嫌がらせ目的で個人的な写真・映像を流出させたとして有罪になると、最高で禁錮6ヵ月もしくは最高1000ドルの罰金刑の対象となりました。

    この法律では、合意の上で撮影された写真であっても写った人の同意なく投稿されれば違法とみなされるそうです。一緒に撮影した写真を、相手の同意を得ず、別れた後にネットに投稿すると違法になるということです。

    ちなみに、同法では流出者と撮影者が同一人物でない限りこの法律は適用されないという制限があるようです。

    日本でも、このリベンジポルノの問題は国会でも取り上げられ、法規制の議論も起きています。

    今年10月、東京都三鷹市で起きた女子高生ストーカー殺人事件で加害者が被害者のプライベート写真と動画をウェブサイトで拡散させたことで一気に問題化しました。

    谷垣禎一法相は、「名誉棄損罪が適用できる。被害者が18歳未満なら、児童売春・児童ポルノ禁止法の可能性がある。現行法で対処できる」と国会で答弁しました。

    では、仮に今回の事件を現行法で見ていくと、どのような罪に問われるでしょうか。

    まず、交際を続けるように強要したので、強要罪が適用されます。

    刑法第223条(強要)
    1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

    強要は、しなくても、「裸の写真をばらまくぞ!」などと脅すと、脅迫罪になります。

    刑法第222条(強迫)
    1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

    また、写真の内容によっては、社会的評価を低下させるので、名誉毀損罪にもなりえます。

    刑法第230条(名誉棄損)
    1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    さらに、「裸の写真をばらまかれたくなければ、金を払え!」などと、お金を要求すると恐喝罪になってしまいます。

    刑法第249条(恐喝)
    1.人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
    卑劣な行為をした報いは、やはり、罪に問われることになるのです。

    「そんな写真撮らせなければいいのだ」という声もありますが、2人の関係性から断れない場合もあるでしょうし、知らないうちに撮られている場合もあるでしょう。

    やはり、そのような行動自体を罰する方が合理的だと思います。

    少し前に、店の冷蔵庫などに入って写真を撮り、Twitterなどにアップロードする行為が話題になりました。

    インターネットとソーシャルメディアが発達して個人が容易に全世界に意見などを発表することが容易になりました。

    それは良いことですが、その反面として、情報拡散が容易であるがゆえの危険性も高まっています。

    情報が容易かつ無限に拡散するインターネットの危険性を、1人1人が十分認識することが必要です。

    社員教育や学校教育にも取り入れてゆくことも必要ではないでしょうか。

  • 「週刊現代」に取材記事掲載

    2013年12月03日

    今発売中の「週刊現代」2013年12月14日号で、私の取材記事が掲載されました。

    内容は、暴力団が自動車保険に加入できず、加入中の場合には契約解除される、ということになったので、「もしマル暴のクルマにはねられたらどうなるの!?」というものです。

    暴力団排除が必要なことですが、その反射的効果として、事故の加害者が暴力団で任意保険未加入だった場合に、被害者保護がどうなるのか、という深刻な問題が出てきます。

  • 子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?

    2013年12月03日


    過去、こんな相談を受けたことがあります。

    「息子(小3)が通う小学校で、“事件”が起きた。

    それは、社会科見学に出発する前、体育館に3年生が全員集合しているときだった。

    一列に座って並んでいた待機中、A君の後ろにいたB君がちょっかいを出してからかった。

    怒ったA君は、カッとなり持っていた水筒をB君に向けて投げつけた。
    B君は、それをヒョイッとかわした。すると水筒がB君の後ろにいたC君の顔面を直撃。

    それまでC君は、そのまた後ろのD君の方を向いて話していたのが、D君に促されて、ちょうど前を向いた瞬間、自分めがけて水筒が飛んできたのだそうだ。

    C君は前歯4本を折って流血し、病院へ緊急搬送。

    単純には決めつけられないけれど、この問題、一体誰の責任なのだろう?

    A君、B君、教師、学校、親……。あれこれ考えたら、怖くなってきた」

    子供同士のささいなケンカから起こった事故とはいえ、大けがをしていることで親御さんとしては、いろいろと考えるところがあったようです。

    学校(保育所)の管理下における事故、災害では、通常、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    学校の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。

    ただ、この給付金では、損害賠償額を全て賄うには足りないことが多いでしょう。

    そうなると、足りない慰謝料などは、誰に請求すればよいでしょうか?

    考えられるのは、水筒を投げたA君、A君の親、学校、などが考えられるでしょう。

    ただ、A君はまだ小学3年生です。賠償金を支払う資力があるとは思えません。

    そこで、A君の親は、どうでしょうか?

    法的には、未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    そして、その能力は、11~12歳くらいが境界線とされています。

    今回のA君は、小学校3年生ですので、おそらく責任能力が否定されて、親の責任が問われることになるでしょう。

    また、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、代理監督者責任があります。

    教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

     

    親の「監督者責任」が問われれば多額の損害賠償金を支払わなければいけない場合も

     

    じつは近年、子供が起こした事故で、親が多額の損害賠償を求められるケースが増えています。

    多額の損害賠償が求められるということは、被害者に重大な障害が残ったり、死亡したり、というケースです。

    どのような状況か、というと、多いのが、自転車による事故です。

    親の監督責任は別として、未成年者による自転車事故で、多額の賠償金が認められた裁判例を挙げてみましょう。

    ・歩道上で信号待ちしていた女性(当時68歳)に、当時17歳が運転する自転車が右横から衝突。女性は大腿骨頚部骨折を負い、後遺障害8級の障害が残った。賠償金額は約1,800万円。親の監督責任は否定された。
    <平成10年10月16日 大阪地裁判決 交民集31巻5号1536頁)>

    ・白線内を歩行中の女性(当時75歳)が電柱を避けるために車道に出たところ、対向から無灯火で進行してきた14歳の中学生の自転車と衝突。女性は頭部外傷で、後遺障害2級の障害が残った。賠償金額は3,124万円。親の監督責任は否定された。
    <平成14年9月27日 名古屋地裁判決 交民集35巻5号1290頁)>

    ・赤信号で交差点の横断歩道を走行していた男子高校生が、男性(当時62歳)が運転するオートバイと衝突。男性は頭蓋内損傷で13日後に死亡。賠償金額は4,043万円。親の監督責任は求めなかった。
    <平成17年9月14日 東京地方裁判所・自保ジャーナル1627号>

    ・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3,970万円。母親の監督責任は否定された。
    <平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>

    ・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9,266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
    <平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>

    こうした中でも、今年7月に自転車事故を起こした少年(11歳)の母親に約9,500万円の損害賠償命令が出された、神戸市の自転車事故のケースは大きな話題になりました。

    平成20年9月22日、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた女性に正面衝突。
    女性は頭を強打し、意識不明のまま現在も寝たきりの状態が続いているとのことです。

    世間では、この金額に対して賛否両論の意見がありました。

    確かに、金額だけを見れば驚く人も多いでしょうが、被害者の状況と過去の裁判例から見ていけば、高額すぎる金額ではありません。

    この女性は散歩をしていただけです。そして、突然自転車に衝突され、寝たきりになってしまいました。

    人生を狂わされた慰謝料もあるでしょう。今後働いて得られたはずの収入もあるでしょう。寝たきりであれば、介護費用の負担もあるでしょう。

    それを考えると、損害額は1億円を超えてもおかしくはありません。

    それらを、この女性が負担すべきか、というと、それはあまりに酷というものです。

    しかし、これほどの金額になると一般の家庭では簡単に支払えるものではないでしょう。

    加害者である子供の親が自己破産してしまえば、被害者は賠償金を回収できなくなってしまいます。これからも続くであろう介護の費用は、どうすればいいのでしょうか?

    交通事故では、結局、被害者も加害者もお互いが不幸な結果になってしまうことも多いものです。

    自転車については、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がありません。

    また、自転車事故における任意保険制度もとても脆弱です。

    火災保険や自動車保険、傷害保険の特約でつけられる場合がありますが、知らない方も多いのではないでしょうか?

    これ以上、不幸を繰り返さないためにも、自転車の強制保険や任意保険の整備は急務でしょう。

    そして、まずは子供たちに対して、交通事故の怖さや自転車の危険性を教育していく「親としての責任」について、大人がきちんと理解し自覚する必要があると考えています。

  • 迷惑チラシのポスティングを禁止できるか?

    2013年11月29日


    知らぬ間に、部屋中にいらないものがたまっている、気がつくと会社の机の上にも資料やコピーがたまって、いくつもの山脈ができている…。

    そんな人、けっこう多いのではないでしょうか?

    結局、自分でためてしまったものは、自分で片付けるしかありません。「整理術」に関する本も世の中にたくさんあります。

    しかし、自分に関係のないところで、知らないうちにたまっていく厄介なものあります。

    ポストに投函されているチラシも、そのひとつでしょう。

    不動産、飲食店、通信販売、貸金、探偵、宅配サービス、不用品回収からピンクチラシまで、日々さまざまなチラシがポスティングされています。

    整理しなければ、すぐにポストいっぱいにたまってしまって邪魔、他の郵便物も混ざっているから仕分けするのが面倒、そもそも頼んでもいないのに勝手に入れられて不愉快、など鬱陶しく感じている人も多いでしょう。

    「チラシお断り」と張り紙しても、ほとんど効果はなし……では、こうしたチラシのポスティングを法的に拒否する、または取り締まる法律はあるのでしょうか?

    軽犯罪法というものがあります。
    これは、さまざまな軽微な秩序違反行為に対して拘留(1日以上30日未満で刑事施設に収容)、科料(1,000円以上1万円未満)に処する法律です。

    33の行為が罪として定められており、この中の32番目に、ポスティングに適用可能な規定があります。

    軽犯罪法 第1条
    左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

    32.入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者

    つまり、マンションの入り口などに「チラシ投函のための立入お断り」などの張り紙をしておけば、「入ることを禁じた場所」になり、入ってしまうと軽犯罪法1条32号により、軽犯罪法違反となります。

    実際、居住者以外の立入を禁じたマンション等にちらし配布の目的で立ち入った場合にも同様の理由によって本号違反が成立するとされた例があるようです(東京簡裁略式命令平成4年8月18日公刊物未搭載のため未確認・出典「軽犯罪法101問」立花書房)。

    また、さく等に囲まれた建造物の敷地に侵入する行為は「住居侵入罪」に該当します。

    刑法 第130条(住居侵入等)
    正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

    ちなみに、ピンクチラシなどは、各地方自治体の迷惑行為防止条例や青少年保護育成条例で規制されています。

    たとえば、東京都の迷惑防止条例では、違反者は50万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処せられます。

    政治ビラについては、過去の判例で、住民からの再三にわたる投函禁止要請を無視し、思想を強要するビラを投函し続けた男に対し、この状況下においては住居侵入罪に当たるとの判決が下ったものがあります。

    したがって、ポスティングをやめさせたければ、たとえば、マンションのポスト入り口などに「チラシ投函のための立入お断り。発見した場合は住居侵入罪及び軽犯罪法違反で刑事告訴します。監視カメラ作動中」などの掲示をし、監視カメラを設置する、という方法があります。

    ところで、日本のチラシの歴史を調べてみると、1683(天和3)年、三井越後屋(今の三越)が呉服の宣伝で、「現金安売り掛け値なし」というキャッチコピーで出した「引き札」というチラシが最初のものだとされているそうです。

    引き札は、独特な色合いと大胆な図柄が特徴で、今では収集家がいて展覧会も開かれる美術品だということです。

    昔も今も、必要なチラシもあるので、すべてのポスティングが不用なものとはいえません。

    そうなると、先ほどの禁止措置を講じた上で、マンションの管理組合が認めたチラシのみ、ラックなどを設置してチラシを入れておく、などの方法が考えられると思います(管理組合に広告収入も入ります)。

    広告主よし、住人よし、管理組合よし、の三方よしですね。

  • こんなことで逮捕とは…ブレーキなし自転車(ピスト)で全国初逮捕


    ブレーキなしの自転車運転で全国初の逮捕者が出てしまいました。

    警視庁交通執行課は11日、後輪にブレーキがついていない自転車を運転したとして、東京都の男性を道路交通法違反(制御装置不良自転車運転)容疑で逮捕しました。

    男性は、昨年3月に同じ自転車を運転しているところを同容疑で摘発されたにもかかわらず、出頭要請を7回も無視し続けたことで同課は逮捕する必要があると判断したようです。

    男性は、「こんなもので逮捕されるとは思わなかった」と供述しているとのことです。

    参考人ならまだしも、被疑者としての出頭要請ですから、出頭すべきですね。

    ところで、ブレーキのない自転車=ピストバイクとはどういうものなのか簡単に説明しておきましょう。

    ピストバイクは競技用の自転車(トラックレーサー)で、もともとは公道を走るためのものではありません。

    そのためブレーキがついておらず、しかも固定ギアのためペダルを逆回転に回して自転車を止めるのですが、制動力は脚力に依存するため、相当の脚力がないと、急に止まることができないでしょう。

    2000年代半ばに日本にも輸入されるようになり、そのシンプルなスタイリングが美しいということで、ストリートカルチャーやファッションの面で人気になりました。
    壊れにくく、乗り心地が独特ということで愛好家もいます。

    しかし、2年前にはお笑い芸人がブレーキなしのピストバイクを運転していて道路交通法違反(制動装置不良)で交通違反切符を切られたように、このところ摘発者が増えているようです。

    みなさん、ここでもう一度、確認してください!
    ブレーキなしの自転車を運転することは法律で禁じられています。
    もちろん、前輪後輪両方ついていなければいけません。

    道路交通法 第63条の9第1項(自転車の制動装置等)

    自転車の運転者は、内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車を運転してはならない。

    道路交通法施行規則 第9条の3

    1.前輪及び後輪を制動すること。
    2.乾燥した平たんな舗装道路において、制動初速度が10キロメートル毎時のとき、制動装置の操作を開始した場所から3メートル以内の距離で円滑に自転車を停止させる性能を有すること。

    これに違反すると、道路交通法の第120条により5万円以下の罰金となります。

    今年7月に施行された東京都の「自転車安全利用条例」によって、道路交通法に違反する自転車の販売が禁止されたので、ブレーキのない自転車の一般販売も禁止される、ということになります。この動きは全国に広がっています。

    また近年、交通事故は減少しているにもかかわらず、自転車による事故は全体の約2割にも達し増加の一途をたどっています。

    自転車は道路交通法上、「軽車両」です。

    格好いいからという理由だけでブレーキなしの自転車には乗らないこと。
    自分も人も傷つけないよう、安全に十分配慮して自転車を楽しんでほしいと思います。