交通事故 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 飲酒運転の“追い飲み”や“逃げ得”は発覚免脱罪

    2018年07月20日

    今回は「追い飲み」や「逃げ得」行為に関する罪について解説します。

    「死亡ひき逃げ懲役6年 静岡地裁判決、追い飲み“卑劣で悪質”」(2018年7月18日 静岡新聞)

    飲酒運転による交通事故でミニバイクの男性を死亡させたうえ逃走し、事故後に酒を飲んだとして、自動車運転処罰法違反(過失致死アルコール等影響発覚免脱)と道交法違反(ひき逃げ)の罪に問われた男(20)の判決公判が静岡地裁であり、懲役6年(求刑懲役7年)が言い渡されました。

    判決内容は次の通りです。

    ・多量に飲酒した後、帰宅のため安易に運転をした動機に必要性や緊急性は一切ない。
    ・追い越し禁止区間で対向車線にはみ出し、法定最高速度の時速50キロを大幅に上回る約100キロで走行した点について、過失は甚だ大きい。
    ・飲酒運転の発覚を恐れて現場から逃走し、自宅でさらに酒を飲む「追い飲み」行為に及んだ点については、卑劣で悪質。

    判決によると、事件が起きたのは今年(2018年)4月13日午前0時25分頃。
    男は焼津市の国道150号で乗用車を飲酒運転し、交差点を右折しようとしていた静岡市葵区の会社員の男性(当時27歳)のミニバイクに追突して死亡させ、そのまま逃走。
    同日午前1時頃、飲酒運転の発覚を免れるため、自宅でウイスキーを飲んだということです。

    「自動車運転死傷行為処罰法」は、2014(平成26)年5月20日に施行された比較的新しい法律です。

    本法の施行以前は、たとえば「鹿沼市クレーン車暴走事故」(2011年4月18日発生)や「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」(2012年4月23日発生)などの無免許やてんかん発作などにより重大な被害を起こした交通事故、あるいは飲酒運転やひき逃げなどの悪質な交通事故が起きても、当時の刑法における危険運転致死傷罪を適用する構成要件には該当せず、すべてが罰則の軽い業務上過失致死傷罪やその後できた自動車運転過失致死傷罪で起訴されるということが起きていました。

    そこで、厳罰を望む社会的な運動などの高まりを受けて自動車運転死傷行為処罰法が成立したという背景があります。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(1)」
    https://taniharamakoto.com/archives/1234/

    「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(2)」
    https://taniharamakoto.com/archives/1236/

    「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」(通称:発覚免脱)は、自動車運転死傷行為処罰法で新たに規定された犯罪類型で、第4条に規定されています。

    アルコール又は薬物の影響下で、自動車を運転し事故を起こした場合、事故後にアルコールまたは薬物の影響や程度が発覚するのを免れるために、さらに飲酒したり薬物を摂取したりするか、あるいは逃げてアルコールや薬物の濃度を減少させたりすることで、それらの影響の有無や程度の発覚を免れるような行為をした場合に適用されるものです。
    法定刑は12年以下の懲役です。

    これは、いわゆる「追い飲み」や「逃げ得」を許さないためのものです。

    追い飲みとは、危険運転致死傷罪の適用を免れる目的で、飲酒運転で事故を起こしたにもかかわらず、逃げて、さらに飲酒することで、「運転中は酒を飲んでいない、事故後に家に帰ってから飲んだ」と主張するものです。

    逃げ得とは、飲酒運転で事故を起こし現場から逃げたものの、翌日に逮捕された場合、その時点では体内のアルコール濃度が減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、「過失運転致死傷罪」と「道路交通法違反(ひき逃げ)」しか適用されないため刑が軽くなってしまう、という問題です。

    しかし、発覚免脱罪では罰則が重くなります。

    今回のケースのように、飲酒運転で人身事故を起こし、その場から逃げた場合、発覚免脱罪の最高刑12年の懲役に、ひき逃げの最高刑10年の懲役が併合され、最高で18年の懲役刑を科される可能性があるわけです。

    自動車運転死傷行為処罰法が施行されてから4年が経過しました。

    実際、飲酒運転による交通事故や違反の取り締まり件数は徐々に減少しており、抑止効果は出ているようですが、危険で悪質な事故の撲滅には至っていません。

    今一度、自動車運転死傷行為処罰法が成立した経緯や背景について理解するとともに、逃げ得はないということをドライバーは肝に銘じる必要があると思います。

    交通事故被害者からの相談は、こちらから。
    https://www.jikosos.net/

  • あおり運転に暴行罪が適用

    2017年12月27日

    ここのところ社会問題になっている「あおり運転」について、警察の新たな動きが出てきたようなので解説します。

    「<あおり運転> 暴行容疑で立件検討 警察庁が全国に指示」(2017年12月26日 毎日新聞)

    警察庁は、道路上で車をあおったり、幅寄せをしたりといった危険行為をするドライバーについて、直接の暴力行為がなくても刑法の暴行容疑での立件を検討するよう全国の警察に指示しました。

    報道によると、これまで「あおり運転」に暴行容疑を適用した事例は集計していないものの、道路交通法ではなく暴行容疑を適用したケースは非常に少ないとみられることから、警察庁が積極的な捜査を促した形だとしています。

    根拠となっているのは、東京高裁昭和50年4月15日判決です。

    この判決では、傷害罪の事案ですが、以下のとおり判示して、暴行罪の故意を認めました。

    「本件のように、大型自動車を運転して、傾斜やカーブも少なくなく、多数の車両が二車線上を同一方向に毎時五、六〇キロメートルの速さで、相い続いて走行している高速道路上で、しかも進路変更禁止区間内において、いわゆる幅寄せという目的をもつて、他の車両を追い越しながら、故意に自車をその車両に著しく接近させれば、その結果として、自己の運転方法の確実さを失うことによるとか、相手車両の運転者をしてその運転方法に支障をもたらすことなどにより、それが相手方に対する交通上の危険につながることは明白で、右のような状況下における幅寄せの所為は、刑法上、相手車両の車内にいる者に対する不法な有形力の行使として、暴行罪に当たると解するのが相当である。即ち被告人としては、相手車両との接触・衝突までを意欲・認容していなかつたとしても、前記状況下において意識して幅寄せをなし、相手に対しいやがらせをするということについての意欲・認容があつたと認定できることが前記のとおりである以上、被告人には暴行の故意があつたといわざるを得ないのである。」

    そのため、警視庁は12月12日、各都道府県警に対する文書で、同高裁判決を示すとともに、あおり運転の取り締まりの強化を指示。
    あおり運転をした後に、被害者を殴ったり脅迫したりした悪質なドライバーについては、刑法での立件とともに免許停止処分にすることも求めている、ということです。

     

    【あおり運転を巡るここまでの経緯について】
    あおり運転を巡るここまでの経緯を簡単に解説します。

    こうした動きのきっかけとなったのは、今年(2017年)6月に神奈川県大井町の東名高速道で起きた交通事故です。

    この事故は、容疑者の男があおり運転を繰り返した挙句、家族が乗るワゴン車の進路をふさいで高速道路上で停止させ、そこに後ろから走ってきたトラックが追突、夫婦が死亡したというものでした。

    その後、社会問題に発展したのには、容疑者の悪質で危険極まりない行為だけでなく、法的な問題に対する多くの人の疑問でした。

    当初、容疑者の逮捕容疑は自動車運転処罰法違反の「危険運転致死傷罪」ではなく、「過失運転致死傷罪」でした。
    そこで、SNSなどを含め大きな疑問の声が湧き上がったのです。

    これだけの悲惨な事故を招いておきながら、故意ではなく過失、おまけに最高刑が20年の危険運転致死傷罪ではなく、最高刑が7年に減刑される過失運転致死傷罪というのは、「おかしなことではないか」、「納得がいかない」というものです。
    そして同時に、あおり運転など悪質で危険な運転行為への対策を求める声が高まっていったのです。

     

    【自動車運転処罰法とは?】
    では、なぜ過失運転致死傷罪という判断になったのかというと、刑の定義の問題です。

    自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪と過失運転致死傷については以前にも解説しています。

    詳しい解説はこちら⇒
    自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(1)
    ※成立の経緯などについて解説しています。

    自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)
    ※構成要件などについて解説しています。

    自動車運転処罰法は、2014(平成26)年5月に悪質で危険な運転による死傷事故の罰則を強化する目的で施行されました。

    この中で、もっとも罰則が重いのが危険運転致死傷罪になるのですが、これが成立するには次の要件が必要となります。

    1.アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
    2.進行を制御することが困難高速度で走行
    3.進行を制御する技能を有しないで走行
    4.人又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    5.赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    6.通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

    この6つのいずれかに当てはまる行為をして、その結果、事故で人を死傷させた場合に危険運転致死傷罪が成立するわけです。

    当初、今回の事故で神奈川県警は、より罰則の重い危険運転致死傷容疑の適用も検討したが、容疑者の妨害行為が事故に直結したわけでないと判断し、断念したとしていました。
    つまり、被害者に追突して死亡させたのは後続のトラックであり、容疑者の運転によって死亡事故が起きたわけではない、ということです。

    しかし、その後、地検は停車前の高速での幅寄せ行為などを危険運転と判断し、容疑を危険運転致死傷罪に切り替え、容疑者を起訴しました。
    直接的な運転行為が対象の同罪の適用は異例なことでした。

    【法制度上の課題】
    こうした経緯があり、今回の警察庁の指示が出されたわけですが、あおり運転などの危険で悪質な行為に対する法制度上の課題が指摘されています。

    ・現状、あおり運転などに対して直接的に取り締まる法律がない。
    ・死傷者が出なければ、危険運転致死傷罪と過失運転致死傷は適用されない。

    そのため、暴行罪の適用による今回の取り締まり強化になったわけですが、ではなぜ暴行罪なのか、法的根拠を考えてみます。

    「刑法」
    第208条(暴行)
    暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

     

    本条は、人の身体に対する不法な有形力の行使について定めたものです。つまり法律上は、この不法な有形力による攻撃を「暴行」と定義しているわけです。

    その暴行は、人の身体に向けられたものであれば足り、必ずしもそれが人の身体に直接接触することを要しないが、少なくとも相手の五官(目・鼻・耳・舌・皮膚)に直接、間接に作用して不快ないし苦痛を与える性質のものであることが必要であるとされています。

    なお、相手が傷害を負わなければ暴行罪、傷害を負えば「傷害罪」(刑法第204条)となる点に注意が必要です。

    では、どのような行為が暴行罪になるのか、過去の判例では次のようなものがあります。

    ・他人の服をつかんで引っ張り、または取り囲んで自由を拘束して電車に乗り込むのを妨げる行為(大判昭8・4・15集12-427)

    ・食塩を他人の顔、胸等に数回振りかける行為(福岡高判昭46・10・11判時655-98)

    ・通行人の数歩手前を狙って石を投げつける行為(東京高判昭25・6・10高集3-2-222)

    ・驚かせるつもりでイスを投げつける行為(仙台高判昭30・12・8裁特2-24-1267)

    ・被害者の目前で包丁を胸ないし首のあたりをめがけて突きつける行為(東京高判昭43・12・19判タ235-277)

    ・フォークリフトを被害者に向かって走行させ、衝突させるかのような気勢を示しながら、その身体にフォークリフトを近接させる行為(東京高判昭56・2・18刑月13-1=2-81)

     

    なお、警察庁の指示では、暴行罪の適用ができない場合は、道路交通法の「急ブレーキ禁止違反」や「車間距離不保持」、「進路変更禁止違反」などの規定を活用して厳しく取り締まりを行うようにとしているようですが、あおり運転だけでなく急ブレーキや幅寄せ、急な進路変更などの故意による危険・悪質運転にどう対応していくのか、今後の状況を見守りたいと思います。

  • 自転車保険への加入義務付けの流れが加速

    2016年07月01日

    大阪府で、自転車に関する新たな条例の適用が開始されるようです。

    「自転車保険の義務化次々 背景に相次ぐ高額賠償判決」(2016年6月29日 朝日新聞デジタル)

    7月1日から、大阪府では自転車に乗るすべての人に対して事故の損害賠償をする保険への加入が義務づけられることになったようです。

    これは「自転車利用者は、自転車損害賠償保険等に加入しなければならない」という条例の適用によるもので、府内で自転車を使う場合は府民かどうかを問わず加入を義務づけ、子供の場合は保護者が加入させる義務があるとしています。

    大阪府は条例に合わせて損害保険会社などと協定を結び、本人のみの加入なら月150円、家族タイプだと月270円の保険料で補償は最大1億円という保険を開発。
    保険料の一部は、交通安全活動などに寄付されるとしています。

    なお、2015年の大阪府内で起きた自転車事故件数は1万2222件で全国ワースト1、死者は前年から16人増え50人になったということです。
    今までこのブログでも、自転車による交通事故や法律、損害賠償と保険、法改正などについて解説してきました。

    そこで、今回の大阪府の条例制定の背景について考えてみたいと思います。

    ①相次ぐ自転車事故による高額賠償金支払い判決
    2008年9月、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、散歩をしていた60代の女性に正面衝突。
    頭を強打した女性に意識不明で寝たきりの重い障害を負わせる事故が起きました。
    神戸地裁は2013年、少年の母親(当時40歳)に9521万円の支払いを命じたことで、自転車事故による損害賠償が社会的にも注目され、自転車事故による高額賠償金支払い判決が相次ぐことになりました。

    ②自転車保険の加入者が増加
    そのため、自転車保険の加入者や希望者が増え、損保会社もさまざまな保険商品を打ち出していきました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自転車保険の契約者が急増中!その理由とは?」
    https://taniharamakoto.com/archives/2003

    ③条例を制定する都道府県の増加
    こうした流れを受けて、各自治体も条例制定に動き始めました。
    2015年10月、兵庫県が全国に先駆けて自転車保険加入義務を条例化。
    今年、2016年10月には滋賀県でも義務化の予定で、保険加入を「努力義務」としている東京都や埼玉県も「他県の状況を見て義務化の必要性を考えたい」としているようです。

    また自治体以外でも、立命館大学では学生が起こした自転車死亡事故をきっかけに、2012年度から自転車通学する学生に警察官らの講習を受けたうえで補償額が最高1億円以上の保険加入を義務づけ、これまでに約1万7千人が登録したということです。

    ④自転車の危険運転に対する法律の厳罰化
    さらに、法律も自転車の危険運転に対して厳罰化の方向に進みました。
    信号無視や一時不停止、酒酔い運転、歩道での歩行者妨害、また携帯電話の使用やイヤホンを装着しながらの運転等の安全運転義務違反など14の危険行為に対して道路交通法を改正。
    悪質な危険運転の取り締まりを強化し、3年以内に2回以上の違反で安全講習の義務化、受講しないと5万円以下の罰金を科すことになりました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
    https://taniharamakoto.com/archives/1854

    また、自転車によるひき逃げや飲酒運転を起こした場合、自動車の運転でも事故を起こす恐れがあると判断され30~180日間の範囲で自動車の運転免許の停止処分が出されるという事例も増えています。

    こうした背景から今回の条例制定という流れになったのだと思われます。
    報道によれば、前述の神戸での自転車事故の被害者の方(70)は、今も寝たきり状態が続いており、旦那さん(68)がつきっきりで介護をしているようです。
    加害者少年の母親は事故の損害賠償をカバーする保険に入っておらず、判決の翌年には自己破産。
    そのため、被害者の方は慰謝料などの損害賠償金を受け取ることもできず、二重の苦しみだといいます。

    実際、このような事例は全国で起きています。
    こうした悲劇を繰り返さないように、法律を守り、注意深く自転車運転をしなければいけないのは当然ですが、同時に被害者の方への補償を考えるなら、自転車保険への加入義務化は一定の効果があるでしょう。

    しかし、自転車の利用者全員の保険への加入の有無を調査するのは難しいことから、条例では保険に非加入でも罰則がないため、その効果に疑問の声もあるようです。

    自転車は手軽で身近なものだからと安易に考えてはいけません。

    交通ルールをしっかり守って運転し、条例がない都道府県でも、万が一に備えて、家族で保険の加入を検討することも大切でしょう。
    交通事故の損害賠償請求のご相談はこちらから
    http://www.jiko-sos.jp/

  • 自動運転車が事故を起こしたら?

    2016年03月03日

    21世紀の技術革新の象徴、「夢の技術」のひとつとして近年、自動運転車が世界的に話題になっています。

    実用化に向けて、各社が急ピッチで開発を進めていますが、まだ技術的にクリアすべき問題もあるようです。

    同時に、自動運転車が事故を起こした場合、法律をどのように適用するのか、現行の法律ですべて対応できるのか、という問題もあります。

    そもそも、現在の日本の法律上、自動運転車を公道で走らせることはできるのでしょうか?

    今回は、自動運転車と法律について解説します。

    「米グーグルの自動運転車が事故 過失でバスと接触」(2016年3月1日 日本経済新聞)

    今年2月中旬、アメリカのグーグル社が開発中の自動運転車がカリフォルニア州の公道での走行実験中にバスと軽い接触事故を起こしていたことがわかりました。
    ケガ人はいなかったようです。

    グーグル社は2009年に自動運転車の開発をスタート。
    現在までに累計140万マイル(約225万キロ)以上を自動運転モードで走行し、20件近い軽度の事故を報告していますが、いずれも相手側の過失による「もらい事故」か、人間のテストドライバーが運転中のものでした。
    しかし、今回の自動運転中の事故はグーグル側に過失がある初めてのケースとなったということです。

    グーグル社は、事故の責任の一部を認めるコメントを発表し、再発防止に向けてソフトウエアを改良したとしています。
    では最初に、今回の自動運転車の事故をケーススタディとして、現状の日本の交通に関する法律の中から「道路交通法」と「道路運送車両法」に照らし合わせて考えてみたいと思います。

    「道路交通法」
    道路交通法は、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図ることを目的としていますが、第70条では「安全運転の義務」として次のように規定しています。

    「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」

    運転者にはハンドルやブレーキなどの装置を確実に操作する義務があり、人に危害を与えるような運転をしてはいけない、とありますね。

    ということは、運転者がハンドルやブレーキを操作できる状況にないといけないということであり、完全な自動運転車は、今の法律では許されない、ということになります。

    つまり、自動で運転できるけれども、運転者も常に前後左右に注意して、ハンドルやブレーキを確実に操作しなければならないということであり、あまり、自動運転の意味がないかもしれません。

    したがって、完全な自動運転車を実現するには、道路交通法を改正する必要があるでしょう。
    「道路運送車両法」
    この法律には次のような目的があります。
    ・道路運送車両について所有権の公証等を行う
    ・安全性の確保、公害の防止、その他の環境の保全
    ・自動車整備についての技術の向上を図る
    ・自動車の整備事業の健全な発達に資することで公共の福祉を増進する

    そこで、第41条「自動車の装置」を見てみましょう。

    「自動車は、次に掲げる装置について、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。」として、20項目が規定されています。

    その中に、3.操縦装置と4.制動装置がありますが、これらが国土交通省令で定める基準に合致していなければ運行してはいけない、とあります。

    ということは、道路運送車両法も改正しなければ自動運転車を走らせることはできないということになります。

    次に、「自動車損害賠償保障法」で、自動運転車の事故で人に傷害を負わせた場合の責任について見てみます。

    この法律は文字通り、自動車の運行によって人の生命や身体が害された場合の損害賠償を保障する制度を確立することで、被害者を保護し、自動車運送の健全な発達に資する目的で施行されたものです。

    「自動車損害賠償保障法」
    第3条(自動車損害賠償責任)
    自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
    運行供用者とは、「自動車を運転していた人」、「自動車の運転・走行をコントロールできる立場にある人(自動車の管理と運転者への指導管理を含む)」、「自動車の運行から利益を受けている人」、となるので自動車の所有者も当てはまります。

    この運行供用者が賠償責任を免れるためには、以下のことを証明する必要があります。
    1.故意・過失がなかったこと
    2.被害者または運転者以外の第三者に故意・過失があったこと
    3.自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

    これは、実質的な無過失責任を認めたものといわれています。
    無過失責任とは、不法行為によって損害が生じた場合には加害者が、その行為について「故意・過失」がなくても、損害賠償責任を負うということです。

    ということは、自動運転車が事故を起こした場合でも、やはり車の所有者や運転者が訴えられてしまう可能性が、かなり高いことになります。

    もちろん、自動運転車の構造や機能に欠陥があった場合にはメーカーの責任が問われますが、訴訟実務の現場では被害者が加害者である運転車や所有者を訴えるということが当然に起きてくるでしょう。

    また、自動運転のシステムの違いによって、法律の解釈も変わってきます。

    たとえば、自動運転車といっても危険時の急制動、つまり運転者が急ブレーキをかけることができるような自動運転システムが採用されるのであれば、自動運転車に完全に任せきることはできず、普通の自動車を運転しているときと同様に道路や周囲に注意しておく必要があるわけですから、仮にブレーキが遅れたことで人をケガさせてしまえば、運転者の過失となり、民事事件では損害賠償責任は免れないでしょうし、刑事事件でも罪に問われる、ということになります。

    では、運転席では何もできない、する必要のない完璧な計算と技術で創られた自動運転システムの車の場合はどうでしょうか?

    もし、そうした自動運転車が完成したなら、現行の法律を相当改正しなければ公道を走行させることは難しいでしょう。

    もし、自動運転車で事故が起きた場合、加害者が保険に加入しておらず、資力もなかった場合には、自動運転車のメーカーを訴えていく可能性があります。

    しかし、被害者には、自動運転車の欠陥を証明してゆくことは難しいので、自動運転車の走行を認める時は、新たに「自動運転車による事故に基づく損害賠償法」というような法律を制定して立証責任を転換し、交通事故被害者の負担を軽減して欲しいと思います。

  • 軽井沢ツアーバス事故の運行会社に20近い法令違反が発覚!

    2016年01月21日

    1月15日未明、軽井沢で起きた貸し切りのツアーバスによる事故は、15人が死亡、27人が重軽傷を負うという大惨事になってしまいました。

    調査が進むにつれ、バスの運行会社の法令違反による、ずさんな運行管理の実態が次々と明らかになってきました。

    今回は、ツアーバスの運行と法律について解説します。

    「<スキーバス転落>運行会社ずさん 運転手の点呼漏れ常態化」(2016年1月19日 毎日新聞)

    長野県軽井沢町で起きたスキーツアーバスの転落事故について、バス運行会社「イーエスピー」(東京都羽村町)の日常の運行管理が極めてずさんだったことがわかってきました。

    事故後、特別監査を実施した国土交通省の担当者は、「かなりひどい状態。この業者については徹底的にやるしかない」と漏らしたということです。

    1月15日~17日に行われた国土交通省の特別監査でわかった主な法令等違反は次の通りです。

    「道路運送法」「労働安全衛生法」「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」「旅客自動車運送事業運輸規則」「道路運送車両法」などの法令等に違反した、としています。

    ・運転手に法令上必要な健康診断を受診させていなかった。⇒健康状態把握義務違反
    ・事故車両が運行中にも関わらず、運行終了時に作成する書類に「実施済み」の押印をしていた。
    ・事故を起こした運転手2名に対して、運行前に健康状態や酒気帯びの有無を確認する「運行前点呼」が行われていなかった。(点呼担当の社長が遅刻したため)⇒点呼義務違反
    ・運行管理者が運転手に渡す「運行指示書」に経路などの必要事項を記入していなかった。
    ・ルート変更について、運転手から運行管理者への変更連絡がなかった。(ルート変更後に事故が発生)

    ・運行前の点呼を実施する前に、すでに「実施済み」の押印をしていた。
    ・乗務員台帳や乗務記録に記載漏れやミスがあった。
    ・無理な運転がなかったかを走行後に検証する「運転記録計(タコグラフ)」が装着されていない車両が複数あった。
    ・3ヵ月に1回実施することが義務付けられている「定期点検整備」の実施が確認できない車両が複数あった。
    ・運転手に対して定期的に運転上の注意点などを教育する「安全教育」を全運転手に対して行っていなかった。
    ・過労運転の運転手が複数いた。(就業から始業までに8時間の休息が必要と定められているところ、5時間しか休んでいなかったなど)

    過労運転については以前、解説しました。
    ⇒「過労運転をさせた社長が逮捕!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/2095

    過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはいけません。(道路交通法第66条)

    同時に、自動車の使用者は、自動車の運転者に対し、第66条の規定に違反して自動車を運転することを命じたり、これらの行為をすることを容認してはいけません。(第75条)
    これは、「過労運転の下命」となり、道路交通法違反となります。

    また、この運行会社は2015年2月に受けた、国土交通省による2014年度の業務に対する監査でも複数の法令違反を指摘されていました。
    つまり、法令違反となる、ずさんな運行管理が常態化していたということでしょう。

    「2014年度業務での不備による法令等違反」
    ・所属運転手13名のうち、10名に健康診断を受診させていなかった。
    ・運転手の採用時に「適性診断」を受けさせていなかった。(適性診断は運転手の癖や注意点などを把握して改善指導するためのもの)
    ・運行前点呼で、312回のうち46回が不適切だった。

    さらに、別の報道では次の法令違反も指摘されています。

    ・速度超過での走行
    事故前の乗客の証言や事故現場の状況から、長野県警は速度超過での走行が事故の原因とみて詳しく調査を行うとしています。
    速度超過であれば、当然、道路交通法違反となります。(第22条1項)
    「転落のバス、速度超過か 車体損傷激しく 軽井沢の事故」(2016年1月18日 朝日新聞デジタル)

    ・基準運賃額を下回る料金での運行
    バス会社がツアーを請け負う際、国が定めた基準運賃の範囲内にするように国土交通省は求めています。
    これは、安全コストを軽視した過剰な価格競争を抑止するためのもので、2012年に群馬県藤岡市の関越自動車道で起きたバス事故を契機に設けられたものです。
    しかし、今回事故を起こしたバス運行会社は、ツアーの運賃を国に届け出た金額の下限を8万円も下回る19万円という安値で請け負っていたようです。
    これは、道路運送法違反となります。(第9条の3の2項)
    「基準額割れでバス違法運行“ツアー会社から要請”」(2016年1月17日 朝日新聞デジタル)

    ・労使協定を結ばずに残業をさせていた
    従業員に残業をさせる際には、「労働基準法」の第36条に基づき「労使協定」を締結しなければいけません。
    この協定が結ばれていない場合、1日に8時間以上の労働をさせると違法残業となり、これに違反すると6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。
    今回、事故を起こしたバス運行会社では、この労使協定を結ばずに運転手に残業させていたことが東京労働局などの調査でわかったようです。
    「<スキーバス転落>残業協定結ばず バス会社、従業員と」(2016年1月19日 毎日新聞)

    違法残業の詳しい解説はこちら⇒
    「違法に残業させると刑罰を受けます。」
    https://taniharamakoto.com/archives/2156

    今回明らかになったバス運行会社の法令違反は、報道にあるだけでも前述したように、道路交通法、道路運送法、労働基準法の3つの法律に抵触し、合計で20近くにも及びますが、これは業界内で常態化している問題が今回の事故で顕在化したものといえるでしょう。

    こうした事態を受けて、国土交通省は、全国約4500社のうち開業から日が浅い中小の貸し切りバス事業者を対象に、安全運行の管理体制について、1月内にも一斉監査に着手する方針を固めたようです。
    また観光庁も、旅行業法に基づき「格安バスツアー」などを企画する旅行会社に対し、近く集中的な立ち入り検査を実施するとしています。
    「中小バス会社を一斉監査へ 国交省、月内にも 旅行会社も集中検査」(2016年1月19日 産経新聞)

    貸し切りバス事業者は全国に約4500社あるようで、これは2000年の規制緩和以降、約1.5倍に急増したということです。
    そのため、過当競争、価格競争が激化したことも今回の事故の要因と考えられます。
    また、バス運転手の人手不足と高齢化の問題、訪日外国人の急増によるバス需要の増加への対応、従業員への違法残業など、さまざまな問題をはらんでいます。

    今後、二度と同じような事故が起きないよう、ツアーバス運行における安全を第一に、国と業界が一体となった改善、改革が望まれます。

    今回のツアーバス事故の補償問題については、こちら。
    https://taniharamakoto.com/archives/2167

    そして、被害者ご遺族からのご相談は、こちら。
    http://www.jikosos.net/

     

  • 関越道スキーツアーバス事故の補償・賠償・罰則は?

    2016年01月16日

    ツアーバス(スキーバス)事故がありました。

    死者14名、負傷者27名という大惨事です。

    事件は、2016年1月15日午前2時ごろ、長野県軽井沢町の国道18号の碓氷バイパス入山峠付近で起こりました。

    スキー客を乗せたツアーバスが、対向車線にはみ出して反対車線側にあるガードレールを突き破り、約3メートル下の斜面に転落しました。

    警察は、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷罪)の疑いで捜査しているということです。

    つまり、自動車を運転する際に、過失によって人の死傷という結果を起こしたということです。

    この過失運転致死傷罪が適用された場合の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

    何人死亡しようとも、これが上限となります。

    ここには批判もあるところです。

    ただ、今回は運転手が死亡しているところから、バス運行会社の責任はないのか、という議論が出てくると思います。

    まだ原因は究明されていませんが、仮に、運転手が過労状態であったのに、運転させていた、というような場合には、バスの運行会社にも刑事責任が発生する場合があります。

    道路交通法117条の2第5号は、過労運転で正常な運転ができない状態で運転を命じた場合(過労運転下命)には、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科す、としています。

    過去の事例では、高速道路で仮眠状態のトラックが渋滞で停車中の自動車に追突し、6名の死傷者が出た事件で、この罪の問われ、営業所長に懲役2年執行猶予4年、運行管理者に懲役1年執行猶予3年の刑罰が科せられた事件がありました(大阪地裁平成26年3月19日判決)。

    そして、このとき、運送会社も労働基準法違反(36協定以上の長時間労働)に問われ、罰金50万円が科せられています。

    今回は、まだ捜査中ですが、このような可能性もある、ということです。

    また、国交省も調査をしていると思いますので、バス運行会社には、しかるべき行政処分が発せられる可能性もあります。

    さらに、今回の事故の被害にあった被害者およびご遺族は、今回の事故に責任がある者に対し、民事の損害賠償請求をしてゆく権利があります。

    損害賠償の対象となる可能性があるのは、運転手の遺族、バス運行会社、バス運行会社の役員、ツアー会社等です。

    たとえば20歳の男子大学生の場合には、賠償金は概算8000万円くらいにはなるので、今回の全ての賠償金総額は、相当の金額になるでしょう。

    バス運行会社が無制限の任意保険に入っていればよいのですが、入っていない場合には大変なことになってしまいます。

    徹底した原因究明を望むとともに、バス運行会社の業界全体も、運行管理について改めて見直す契機になって欲しいと思います。

    交通事故の相談は、こちらから。
    http://www.jiko-sos.jp/

  • 自動運転車と法律の関係とは?

    2015年12月21日

    1985年に公開された映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
    ロックとコーラが好きな高校生の主人公が、親友である科学者が開発した「デロリアン」という名の自動車型のタイムマシンで過去や未来にタイムトリップするが…というストーリーで大きな人気を博し、パート3まで製作・公開されました。

    パート2では、30年後の未来、つまり2015年の世界が描かれたことから、今年、ファンの間では現実の2015年との比較などでメディアを中心に盛り上がったようです。

    さて、現実に目を向けてみると、タイムトリップできる自動車はまだ開発されていませんが、自動運転で走行する自動車の開発は現実のところまできています。

    しかし、技術的な部分や事故時の損害賠償責任など、実用化にはまだ問題があるようです。

    そこで今回は、自動運転車と法律の関係について解説します。

    「自動運転実験車、公道で事故=民放リポーター乗車、けがなし―愛知」(2015年11月5日 時事ドットコム)

    名古屋大学が開発を進めている自動運転車が、公道実験中に自損事故を起こしていたことがわかりました。

    事故が起きたのは、10月22日。
    名古屋テレビの女性リポーターが運転し、助手席には実験責任者の准教授が同乗。
    名古屋市守山区の交差点を左折しようとした際、縁石に乗り上げて左前輪がパンク。
    乗っていた4人にケガはなかったようです。

    大学が事前に提出した計画書では研究者が乗ることになっていたようで、事故の報告を受けた愛知県産業振興課は、同大学に厳重注意をするとともに、再発防止のために実証実験に関するガイドラインの作成を求めたということです。

    実験車は市販のトヨタ・プリウスに自動運転機能を搭載したもので、運転席からハンドルやブレーキペダルなどは操作できるようになっていたようです。

    同課では、研究者以外の人間が運転席にいたため、ハンドルやブレーキの操作が遅れた可能性があるとみているということです。
    こうした自動走行する自動車は、現在、日本では「自動運転車」と一般的には呼ばれていますが、世界的にはドライバーレスカー、ロボットカーなどとも呼ばれるようです。

    じつは、自動運転車の歴史は長く、日本では1980年代に車線を自動認識して走行するシステムを試作していたようですが、実用化には否定的で消極的な風潮があったため、開発はあまり進展しなかったようです。

    ところが、2010年になるとアメリカやヨーロッパで公道実験が行われるようになり、アメリカでGoogle(グーグル)社やテスラー社などが積極的な開発に乗り出したことで、2013年、日本でも日産が公道実験を開始。
    トヨタやホンダ、スバルなども相次いで参入しています。

    2014年、グーグル社の自動運転車の総走行距離が100万キロメートルを突破。
    2015年には、テスラー社のシステムは日本以外では高速道路での走行が一部認可され、プログラムの配信を始めています。
    また、トヨタは今年、高速道路での報道陣向けの試乗会を開催し、日産は2020年の実用化に向けて早くも一般公道での報道陣向けの試乗会を開催しています。

    しかし、さまざまな問題も起きているようです。
    テスラー社は、「システムは未完であり、完全な自動運転ができるわけではない。自動運転中に起きた事故については一切責任を負わない」と警告しているにも関わらず、一部ユーザーが一般公道で、ハンドルから手を離して新聞や本を読む、運転席から離れて後部座席でふんぞり返るなどの運転をしている様子を動画に撮影し、投稿サイトに続々とアップ。
    中には、事故を起こしかけるなどの危険なシーンも投稿されているようです。

    今後、こうした事態が日本でも起きる可能性は十分あります。
    万が一事故が起きてしまえば、自分だけでなく他人を傷つけ、命を奪ってしまう危険もあります。

    では、法的に見ると、現状の日本において自動運転車には、どのような問題があるのでしょうか?

    公道における道路交通に関する法律としては、

    「道路交通法」
    「道路法」
    「道路運送車両法」

    があります。

    道路交通法第70条は、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」となっています。

    ということは、運転者がハンドルやブレーキなどを操作する義務があるので、自動運転車が走るためには、この部分を改正する必要がありそうです。

    また、道路運送車両法第41条は、操縦装置などについて、国土交通省令で定める基準に合致した自動車でなければならない、と定めており、この部分も見直す必要が出てきそうです。

    そして、自動運転車で事故があった時に、どうなるか、ということです。

    自動車損害賠償保障法では、自動車事故で他人に傷害を負わせた場合、自動車を運行の用に供している者(運行供用者)が賠償責任を負う、となっています。

    運行供用者が賠償責任を免れるためには、
    ①故意・過失がなかったこと
    ②被害者または運転者以外の第三者に故意・過失があったこと
    ③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと
    を証明しなければなりません。

    実質的な無過失責任を認めたもの、と言われています。

    したがって、自動運転車が事故を起こした時も、車の所有者や運転者が訴えられることになります。

    訴える方としては、その方が立証をしやすいためです。

    自動運転車の構造や機能に欠陥があった場合には、当然メーカー責任、ということになると思いますが、訴訟実務では、車の所有者や運転者が訴えられる、ということが起きてくるでしょう。

    また、自動運転車とは言っても、危険時の急制動などは、運転者が制御できるようにするでしょうから、急制動などの措置をとらなかったことが運転者の過失となると思います。

    となると、自動運転に完全に任せきることはできず、運転しているときと同様に道路や周囲に注意しておく必要がある、ということになります。

    それを怠った時は、過失あり、としては、刑事事件でも民事事件でも責任を問われる、ということになります。

    ただし、運転席では、何もできない、という自動運転車になると、また違った話になってきます。しかし、そうなると、かなり法律を変えないと、道路走行は難しいかもしれません。

  • 未熟運転で危険運転致死罪が初適用!

    2015年10月16日

    無免許で、運転技術が未熟であるにも関わらず、自動車を運転して交通死亡事故を起こした少年に対し、危険運転致死罪(未熟運転容疑)が初適用という報道がありました。

    この記事の詳細はこちら 

  • 交通事故弁護士による被害者のための【無料動画】+【無料小冊子】

    2015年10月10日

    colum01

    交通事故の被害に遭うことは、一生に何度もあるものではありません。

    そんなとき、どうしたら良いでしょうか?

    交通事故の豊富な経験のある弁護士が被害者のための知識をまとめました。

    【無料動画】+【無料小冊子】です。

    【後遺症編】と【死亡事故編】があります。

    ・交通事故にあったら、どうしたら良いのか?

    ・刑事手続きでの注意点は?

    ・治療中の注意事項は何か?

    ・症状固定時に考えるべきポイントは?

    ・後遺障害等級認定は、どうすればうまくいくか?

    ・示談交渉における3つの基準とは?

    ・なぜ、被害者が交渉してもうまくいかないのか?

    ・死亡事故で遺族がすべきこと、してはならないこととは?

    など、盛りだくさんの内容です。

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  • 葉山ひき逃げ交通事故で危険運転致死傷罪が適用か?

    2015年08月27日

    8月23日午後5時10分頃、神奈川県葉山町で発生した3人死傷のひき逃げ事故の続報が入ってきました。

    「危険運転致死傷適用へ 葉山ひき逃げ死傷事件」(2015年8月26日 神奈川新聞)

    神奈川県警は、葉山町の県道で男女12人の歩行者の列に突っ込み、3人を死傷させた事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失致死傷)と道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で送検した会社員の男(20)を、より量刑の重い危険運転致死傷容疑で立件する方針を固めたようです。

    県警によると、事故直前、男が運転する車が追い越しをしたり、高速度で走行していたことを複数の目撃者が証言。
    同時に、現場の道路形状やタイヤ痕、周辺の監視カメラの映像などを分析してスピードの特定を進めているということです。

    先日、解説したように、飲酒による人身事故に危険運転致死傷罪を適用するには、「酒に酔って正常な運転ができない状態」で運転したことを検察側が立証しなければいけないのですが、今回これは難しいと思われます。

    そこで検察は、危険運転致死傷罪の成立要件である、「進行を制御することが困難な高速度での走行」もしくは、「人又は車の進行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入・接近し、重大な危険を生じさせる速度で運転」の容疑に切り替えて立件するということだと考えられます。

    今回の事故現場のことはよくわかりませんが、スピードオーバーについては、自動車を「制御するのが困難なほどの高速度」が要件ですから、直線道路だと、なかなか適用が難しいことになります。

    追い越しのうえでの故意による「割り込み」という危険運転行為については、

    急な割り込みに対して相手が自車との衝突を避けるために急ハンドルを切るなどの回避行為をするときに、重大な事故が発生しやすいことに着目したものです。

    なお、「重大な危険を生じさせる速度」とは、自車と相手が衝突すると重大な事故になる可能性の高い速度のことで、立法時の答弁では、20~30キロ程度出ていれば、状況によってはこの要件が適用されると解釈されています。

    実際、男はどのくらいのスピードを出していたのか。
    警察の分析結果が待たれます。

    交通事故を弁護士に相談すべき理由