ブログ | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 59
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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  • 脱線事故の補償問題(個別賠償方式)

    2005年04月08日

    尼崎市の脱線事故後のJR西日本の対応は裏目裏目に出ているようです。合同慰霊祭の開催場所に関して、遺体安置所となった尼崎市記念公園総合体育館を指定し、遺族らの猛反発があい、結局中止になりそうです。遺族らは、事故後、初めて損傷した遺体と対面した場所です。最も行きたくない場所でしょう。
     
    事故当日および事故後の懇親会や飲み会の話も次々に出てきており、意識レヴェルの点で叩かれているようです。
     
    生存者や遺族に対する心理面でのケアの必要性については、その必要性はこのブログで5月1日にも書きましたが、JR西日本では、5月4日から電話によるカウンセリングを実施しているようです。
    精神的ショックを受けた方は、どんどん利用した方が良いと思います。
    JR西日本は、電話相談ももちろんですが、面談カウンセリングも行う必要があると思います。また、心理面でのケアは、自分ではなかなか難しいもの。告知ももっと行わないと、カウンセリングを利用しようとしないのではないでしょうか。
     
    JR西日本は、これ以上対応でミスをすることは許されないでしょう。補償問題について、原因究明後は、遺族に対し、全死亡者に平等の定額賠償などを提案したら、評価は地に落ちます。全ての人には、異なる事情があります。一家の大黒柱だった人もいれば、親をなくした子供もいるのではないでしょうか。全ての遺族、負傷者、賠償必要者について、個別に賠償額を算定し、適正な金額を提案しなければなりません。
     
    金額算定については、交通事故で集積されている賠償額算定方法を参考に行われることになるでしょう。
     
    かなり大変な作業になりますので、多数の弁護士が必要になるでしょう。

     

  • 任意売却における買主側注意(詐害行為)

    2005年04月05日

    不動産の任意売却において、買主側が注意すべきものについて、詐害行為取消権という問題があります。これは、不動産の所有者兼債務者が、一般債権者に支払ができなくなることを知りながら、一般債権者が換価支払を受けられるべき財産を不当に減少させた場合に、それを取り消すことができるという制度です。
     
    たとえば、無担保不動産を所有している人が、その不動産を誰かに贈与してしまい、財産がなくなった結果、その人の債権者が債権を回収できなくなるような場合に、債権者は、その贈与を取り消すことができます。
     
    これが、任意売却の場面で、どのように作用するか。取り消されるということは、買主からすれば、代金を払ったにもかかわらず、不動産を取り戻され、または認定された価額を更に支払わなければならなくなるということです。
     
    まず、判例では、不動産を売却して金銭にかえることは、消費または隠匿しやすい財産にかえることであり、詐害行為にあたると言います。
     
    ただし、ご安心ください。担保物件を相当な価額で売却し、その売却代金を抵当権者等の優先債権に弁済した場合には詐害行為にあたらないと言います。したがって、相当な価額でなければ、詐害行為として取り消される場合があります。
     
    オーバーローンでなく、剰余価値がある場合もご注意ください。剰余部分については、不動産を金銭にかえたことになり、詐害行為になる可能性があります。
     
    また、担保不動産と同時に無担保不動産を売却した場合、建物内の機械造作等の売買も行った場合は、抵当権の及ばない範囲では、動産を金銭にかえたことになり、詐害行為になるかどうか判断しなければなりません。
     
    一般の任意売却の場合には、大丈夫な場合が多いように思われますが、上記のようなこともあり、任意売却の買主も、念のため弁護士に相談するのがよいでしょう。
     
     

  • 脱線事故と心のケア

    2005年04月01日

    兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、お亡くなりになった107人の方々のご冥福をお祈り申し上げます。
     
    事故から6日が経過しましたが、JR西日本が適切な対応をしていることを願います。
     
    事故が起こった場合に行うべきことは、被害者の救出、被害の拡大防止、原因追及、原状回復、責任の追及、再発防止策の策定実施、被害者への補償その他のフォロー、安全宣言と報告、等です。
     
    このようなことと同時並行で、常に行っていかなければならないことが、遺族や被害者への精神的フォローです。
     
    今回の事故では、107名の尊い命が奪われました。一部遺族、被害者への謝罪はテレビで見ましたが、社長以下役員は、会社の責任者として、全ての通夜・葬儀に参列したのでしょうか。全ての遺族、被害者に直接謝罪してまわったでしょうか。
     
    どのような原因があるにしろ、死傷者が出た場合には、遺族や被害者には怒りの感情が生じます。怒りにはぶつける対象が必要です。責任者は、積極的にそのような怒りの矛先になり、受け止めなければならないと考えます。
     
    また、被害者は、強い精神的ショックを受けています。事故直後である今から、臨床心理士ほか専門家の力を借りて各自の心のケアをしていかないと、精神障害が発生する等、被害の拡大につながりかねません。

  • 個人情報保護法施行

    2005年03月03日

    明日から個人情報の保護に関する法律が施行されます。
     
    各社バタバタと準備しているようですが、まだ準備仕切れていない会社もあるようです。
     
    明日以降個人情報を取得する予定である会社が最低限行っておくことは、「利用目的の公表」です。他のことは後回しにしても、利用目的の公表だけは行っておかないと、全員に個別に利用目的の通知をする義務が発生します。
     
    利用目的は具体的にしなければなりません。そして、「公表」とは、自社ウェブサイトでの掲載、店舗でのポスター掲示等をすることです。
     
    個人情報を第三者と共同利用したり、第三者に個人情報を提供することを予定している会社は、利用目的の公表とともに、必要事項の公表をしておかなければなりません。
     
    以上を本日中に行い、後は大急ぎで他の準備を行うことになります。

  • 任意売却における買主側注意(事後設立)

    2005年03月02日

    不動産の任意売却において、買主側が注意すべきものについて、事後設立という問題があります。
     
    事後設立が問題となるのは、株式会社ないし有限会社が成立後2年内にその成立前から存在する財産で、営業のために継続して使用するものを、資本の20分の1以上に当たる対価をもって取得しようとする場合には、株主総会ないし社員総会の特別決議を必要とするとともに、原則として裁判所に検査役の選任を請求しなければなりません。
     
    具体的には、任意売却のために新会社を設立して、収益物件を譲り受け、以後不動産賃貸業を営む場合、パチンコ店を譲り受けてパチンコ店を営む場合、ホテルを譲り受けてホテルを営む場合等です。多くの場合が該当してしまうのではないでしょうか。
     
    ただし、弁護士等の証明を受けることによって検査役の検査が不要になる場合もあります。
     
    近時、新会社を設立して債務超過に陥った旧会社の不動産を購入して再生するというスキームが増えてきていますが、法律違反の落とし穴もありますので、弁護士等に相談した方が良いでしょう。

  • ニッポン放送株問題でのコメント掲載

    2005年03月01日

    ニッポン放送の新株予約権発行差止仮処分事件について、本ブログである程度詳しく書いてきました。
     
    東京地裁の仮処分決定が出た翌日である平成17年3月12日付の毎日新聞朝刊と、東京高裁決定が出た日の翌日である平成17年3月24日付の産経新聞朝刊で、コメントを求められ、私のコメントを掲載していただきました。
     
    今は貸株の問題に移っているようですが、法廷闘争はひとまず落ち着いたようです。法律問題として、大変興味深い事件でした。

  • 仮処分手続(ニッポン放送株事件に関連して)

    2005年02月27日

    昨日の補足です。手続面の補足です。
     
    今回、ライブドアは、法的手続として、新株予約権発行差止「仮処分」という手続を選択しています。なぜ「訴訟」ではないのでしょうか。
    それは、手続に要する期間の問題です。訴訟というのは、権利関係を確定する手続で、立証に「証明」を要求します。判決までには多くの手続があり、1年程度はかかってしまいます。今回の新株予約権の行使の際の払込金の払い込み期日は、平成17年3月24日であり、訴訟を行っている間にこの期日が経過してしまい、訴訟を行う意味がなくなってしまいます。
     
    そこで、訴訟を行っていては遅すぎるような場合に、仮に暫定的な地位や権利を与えるための仮の裁判手続が必要となってきます。これが「仮差押」であり「仮処分」です。
     
    したがって、仮処分の権利の証明程度は、「証明」までは必要なく、「疎明」で足りることになっています。「証明」とは、認定すべき事実について裁判官が確信を抱く状態まで立証することです。「疎明」とは、裁判官に一応確からしいとの心証を得させれば足ります。その意味でも訴訟よりも仮処分の方がライブドアに有利です。
     
    手続の実際としては、裁判所が、当事者双方を呼び出して、疎明資料を提出させ、審尋することになります。平成17年3月24日までには決定が出されます。たとえ充分に審理が尽くされた状態ではなかったとしても決定が出されるはずです。そうでなければ仮処分の意味がないからです。
     
    ところで、仮処分は、権利を「証明」させずに暫定的に地位や権利を与えてしまう点で、仮処分が出されてしまった場合には、現状を固定されてしまうフジテレビ側に損害が発生する可能性があります。つまり、差止の仮処分ではライブドアが勝って後の訴訟でフジテレビが勝った場合には、フジテレビは、本来現状を固定されるはずがなかったのに、不当に固定されてしまったわけです。したがって、その場合、フジテレビは、ライブドアに損害賠償請求をすることができる場合があります。その時のために、裁判所は、ライブドアの仮処分を認める場合には、一定金額の「保証金」を立てさせる場合があります。
     
    この保証金の金額ですが、平成16年6月1日の宮入バルブ新株発行差止請求事件では、1,000万円でした。平成元年7月25日のいなげや・忠実屋事件では、0円でした。0円だった理由は、新株発行を差し止めても、相手方には重大な不利益を被る疎明がない、というものでした。
     
    今回は、0円ということはないでしょう。もし新株予約権の発行が差し止められてしまうと、その間にライブドアがニッポン放送株を買い進め、50%を超過してしまう可能性があります。そうなると、ニッポン放送には回復しがたい重大な損害が発生してしまうことになるからです。そういう疎明はできるでしょう。
     
    さて、昨日も書きましたが、ニッポン放送は、新株予約権の発行理由から「資金調達の必要性」をはずしてしまいました。入れておいた方が良かったのではないか、と思うのですが

  • ニッポン放送新株予約権発行差止仮処分

    2005年02月26日

    ニッポン放送は、平成17年2月23日の取締役会において、フジテレビジョンに対する第三者割当による新株予約権の発行を決議しました。ライブドアは、翌24日、これに対し、新株予約権の発行差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請しました。
     
    ニッポン放送は、新株予約権発行理由を、「企業価値の維持」と「マスコミとして担う高い公共性の確保」の2点と公表しています。(記事)そして、その説明として、ライブドアの支配下に入ることからの防衛目的だということを明確に断言しています。
     
    新株予約権と混同しやすいものに、「新株発行」というものがあります。「新株発行」というのは、実際にお金を払い込んで新株を発行するものですが、今回の「新株予約権」の発行というのは、予約権を発行された者(フジテレビ)が、決められた期間内(平成17年3月25日から同年6月24日まで)に、予約権を行使することにより、あらかじめ決められた価格(5,950円)で新株ないしニッポン放送の自己株式を取得できる権利のことです。
     
    まず、なぜ今回、「新株発行」ではなく、「新株予約権」の発行なのでしょうか。まだフジテレビによるTOB期間中であり、最終的にフジテレビの持株数が読めないということも1つの理由ですが、実はもう1つ理由があります。
    「新株発行」では、ライブドアの新株発行差し止め仮処分が容易に認められてしまうからです。なぜなら、「新株発行」というのは、企業の資金調達を目的として行われるものであり、過去の判例からすると、主要な目的が、資金調達ではなく、会社の支配権の維持である場合には、不公正な発行方法ということで、発行差し止め仮処分が認められることになってしまうからです(主要目的ルール)。その間にもライブドアはニッポン放送の株を買い進めますから、差し止め仮処分が認められた時点で、ライブドアに次の一手を打たれ、負けてしまう可能性が高いと認識したものと思われます。
     
    これに対し、「新株予約権」は、平成13年改正により広く認められるようになった制度で、まだ主要目的ルール等判例法理が確立していないこと、もともと取締役や従業員へのストックオプション等で使われており、資金調達の目的性が「新株発行」よりは低いこと、企業買収防衛としてのポイズンピルとしての使用も念頭に置かれていたこと(今回はポイズンピルではありません)、等の理由から、企業防衛目的に正当性がある場合には、資金調達目的が主要目的ではない場合でも差し止め仮処分が認められない可能性があると判断したためであると推測しています。そうでなければ、新株予約権発行目的を「資金調達」として説明しているはずです。
     
    そして、ニッポン放送は、新株予約権の払込金額を5,950円としていますが、これは、株主総会決議が必要な「特に有利な発行価格」に該当しないようにするためです。現在、ニッポン放送の株価は、6,400円ほどで、それよりは低い価格となっていますが、東京証券取引所市場第二部における平成17年1月14日までの3ヶ月間の終値平均(4,937円)よりは高額です。現在の高値は、ライブドアによる株買い占めが発表された後の一時的高騰であり、一時的現象と評価されます。したがって、公正な発行価額の算定からは排除され、それほどの争点にはならないものと考えます。
     
    したがって、主要な争点は、不公正発行かどうかです。
     
    今回の新株予約権の発行目的は、「企業価値の維持」と「マスコミとして担う高い公共性の確保」です。この目的が、ライブドアの持株比率を大幅に低下させてもなお合理性があると認めらるかどうか、ということになります。自社の40.5%もの株を持つ株主の子会社となることを防ぐことが、その株主を含めた全株主の利益になるのか、判断されることになります。
     
    ニッポン放送は、ライブドアの子会社となる場合よりも、フジテレビの子会社となる方が、企業価値を維持できるのでしょうか。
    また、ライブドアの子会社となることにより、マスコミとしての公共性が確保されなくなるのでしょうか。
     
     
    東京地裁の判断に注目したいと思います

  • ニッポン放送株事件高裁決定

    2005年02月24日

    ニッポン放送の新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件に関し、東京高裁は、3月23日、抗告を棄却し、ライブドアに軍配をあげました。
     
    主要な争点は、ご存じのとおり、ニッポン放送の新株予約権発行が、「著しく不公正な方法」と言えるかどうかです。東京高裁は、東京地裁決定と同じく、本件新株予約権の発行が「著しく不公正」と判断したものです。
     
    今回も「主要目的ルール」を使用していますが、その適用の前提条件は「会社の経営支配権に現に争いが生じている場面」であることが必要です。今回は、ニッポン放送に関して、ライブドアとフジテレビとの間で経営支配権に現に争いが生じていました。
     
    次に、「主要目的」の内容は、次のとおりです。
    (1)敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、
    (2)現経営者又はこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保する。
    今回の新株予約権の発行目的は、ライブドアの持株比率を低下させ、フジテレビの経営支配権を維持・確保することが目的でしたから、この要件を満たします。
     
    裁判所は、上記の要件を満たした場合には、「原則として」著しく不公正な方法による新株予約権の発行であると断じます。
     
    ただし、例外があります。それは、敵対的買収者が、株式の高価売り抜け等を目的とし、会社を食い物にするような「濫用目的」である場合です。このような場合には、主要目的ルールの例外として、許される場合があるというのです。そして、この事実は、ニッポン放送側が疎明、立証してゆく必要があります。
     
    ライブドアが過去に企業を食い物にして企業価値を著しく低下させた例があれば別ですが、今回、ライブドアは買収後自ら経営してゆくことを明言しておりましたので、この点が疎明できなかったのは当然といえます。
     
    この疎明ができない結果、ニッポン放送は敗れる結果となりました。
     
    なお、東京高裁は、ニッポン放送側が主張した「ライブドアの支配下に入った場合には、企業価値が著しく毀損する」という点については、「経営判断の法理」を持ち出して裁判所が判断すべき事項ではない旨判示しました。
     
    買収者が株式の高価売り抜けや企業の切り売り等の「濫用目的」を公言しながら買収をしかけてくることは通常では考えられないので、今回の高裁の基準からすれば、今回のような経営支配権の維持を主要目的とする新株予約権の発行による防衛の道は事実上閉ざされたと言えそうです。
     
    平時の敵対的買収対策がより需要になったといえます。
     
     
     

  • 慰謝料増額事由

    2005年02月22日

    最近特に書きたいニュースがないので、交通事故損害賠償において、一般的な基準とされる慰謝料額が裁判で増額される場合について書いてみたいと思います。
     
    交通事故の損害賠償の対象となる損害には、財産的損害と精神的損害があります。このうち、精神的損害が慰謝料のことです。慰謝料とは、精神的に被った苦痛のことですから、本来事案ごと、人毎に異なるはずですが、心の中は見ることができないため、概ね統一的な慰謝料基準を定めて運用されています。

    しかし、時と場合により、相場的な慰謝料基準を上回る判決がなされることがあります。これには、3つのパターンがあります。

    ①通常の場合に比べ、精神的苦痛の程度が大きいと見られる場合。

    ②他の損害項目に入らないものを慰謝料で斟酌しようとする場合。

    ③被害者に特別の事情がある場合。

    ①通常の場合に比べ、精神的苦痛の程度が大きい場合

     これは、主に加害者側の過失の大きさや、事故後の態度の悪さ等により、事故に対する被害者の精神的苦痛が増大したと認められ、慰謝料が増額される場合です。
     加害者の過失の大きさでは、次のような事情が斟酌されています。
     (1)飲酒運転
     (2)スピードオーバー
     (3)居眠り
     (4)無免許
     (5)信号無視
     (6)未必的故意
     (7)脇見運転

     次に、加害者の事故後の態度の悪さでは、次のような事情が斟酌されています。

     (1)不自然、不合理な供述(否認)
     (2)謝罪なし
     (3)証拠隠滅(同乗者に虚偽証言強要、事故後に飲酒等)
     (4)救護せず
     (5)逃走、ひき逃げ、逃走しようとする。
     (6)加害者側からの訴訟提起
     (7)被害者に責任を転嫁するような言動

    上記のような慰謝料増額事由があるときは、迷わず慰謝料増額事由を主張して、増額賠償を勝ち取らなければなりません。当事者が主張しない以上、裁判所は取り上げてくれません。

    ②他の損害項目に入らないものを慰謝料で斟酌しようとする場合。

     これは、「慰謝料の補完的作用」と呼ばれるものです。たとえば、ホステスの外貌醜状事案や歯牙傷害事案、生殖機能障害、嗅覚障害等で後遺障害が認定されても、後遺症逸失利益が算定しにくいような場合に、後遺症逸失利益を認めず、慰謝料を増額することにより、結果としての賠償額のバランスを取ろうとする手法です。
     
    また、将来手術を行うことは確実であるが、どの程度の時期・費用になるのか不明であり、手術により失われる労働能力も判然としない場合にも、それら損害は認めず、慰謝料を増額することにより、結果としての賠償額のバランスを取ろうとします。

     したがって、損害算定において、上記のような事情が認められるならば、念のため、慰謝料請求において、予備的にでも上乗せして請求しておかなければなりません。

     但し、裁判所による損害費目間の流用(上記の例でいえば、逸失利益を認めず、その代わり原告の主張する以上の慰謝料を認める等)は認めるられる扱いですので(最高裁昭和48年4月5日・民集27・3・419)、それを期待してもいいのですが、注意が必要です。

    ③被害者に特別の事情がある場合。

     被害者に特別の事情があり、通常の場合に比べ、被害者の無念さがより大きいものと認められ、慰謝料が増額された事案です。次のようなものがあります。
     (1)人工妊娠中絶
     (2)将来音楽教師になる夢を持ち努力したことが水の泡となっ。
     (3)被害者の子が重度の肢体不自由児であったが、事故により子の訓練介護ができなくなり、子の身体機能に後退が見られた。
     (4)婚約破棄
     (5)離婚

     上記事案は類型化できませんが、被害者側に何らかの特別事情があった場合には、裁判所は、杓子定規ではなく、事案に応じた慰謝料を認定してくれることを示しています。もちろん、金額的には、精神的苦痛を満足させるほどの金額は到底でませんが、それでも主張すべきところは主張した方が良いでしょう。

    日本の裁判所が認める慰謝料は低すぎます。慰謝料を増額させる努力をしましょう。