仮処分手続(ニッポン放送株事件に関連して) | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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仮処分手続(ニッポン放送株事件に関連して)

2005年02月27日

昨日の補足です。手続面の補足です。
 
今回、ライブドアは、法的手続として、新株予約権発行差止「仮処分」という手続を選択しています。なぜ「訴訟」ではないのでしょうか。
それは、手続に要する期間の問題です。訴訟というのは、権利関係を確定する手続で、立証に「証明」を要求します。判決までには多くの手続があり、1年程度はかかってしまいます。今回の新株予約権の行使の際の払込金の払い込み期日は、平成17年3月24日であり、訴訟を行っている間にこの期日が経過してしまい、訴訟を行う意味がなくなってしまいます。
 
そこで、訴訟を行っていては遅すぎるような場合に、仮に暫定的な地位や権利を与えるための仮の裁判手続が必要となってきます。これが「仮差押」であり「仮処分」です。
 
したがって、仮処分の権利の証明程度は、「証明」までは必要なく、「疎明」で足りることになっています。「証明」とは、認定すべき事実について裁判官が確信を抱く状態まで立証することです。「疎明」とは、裁判官に一応確からしいとの心証を得させれば足ります。その意味でも訴訟よりも仮処分の方がライブドアに有利です。
 
手続の実際としては、裁判所が、当事者双方を呼び出して、疎明資料を提出させ、審尋することになります。平成17年3月24日までには決定が出されます。たとえ充分に審理が尽くされた状態ではなかったとしても決定が出されるはずです。そうでなければ仮処分の意味がないからです。
 
ところで、仮処分は、権利を「証明」させずに暫定的に地位や権利を与えてしまう点で、仮処分が出されてしまった場合には、現状を固定されてしまうフジテレビ側に損害が発生する可能性があります。つまり、差止の仮処分ではライブドアが勝って後の訴訟でフジテレビが勝った場合には、フジテレビは、本来現状を固定されるはずがなかったのに、不当に固定されてしまったわけです。したがって、その場合、フジテレビは、ライブドアに損害賠償請求をすることができる場合があります。その時のために、裁判所は、ライブドアの仮処分を認める場合には、一定金額の「保証金」を立てさせる場合があります。
 
この保証金の金額ですが、平成16年6月1日の宮入バルブ新株発行差止請求事件では、1,000万円でした。平成元年7月25日のいなげや・忠実屋事件では、0円でした。0円だった理由は、新株発行を差し止めても、相手方には重大な不利益を被る疎明がない、というものでした。
 
今回は、0円ということはないでしょう。もし新株予約権の発行が差し止められてしまうと、その間にライブドアがニッポン放送株を買い進め、50%を超過してしまう可能性があります。そうなると、ニッポン放送には回復しがたい重大な損害が発生してしまうことになるからです。そういう疎明はできるでしょう。
 
さて、昨日も書きましたが、ニッポン放送は、新株予約権の発行理由から「資金調達の必要性」をはずしてしまいました。入れておいた方が良かったのではないか、と思うのですが