武井咲さん(オスカー)は違約金を支払うのか?
女優の武井咲さんとEXILEのボーカル、TAKAHIROさんが結婚したとの報道がありました。
武井さんは妊娠3カ月で、2018年春に出産予定ということです。
おめでたいことですね。
と、思っていたら、マスコミでは、武井さんの所属事務所オスカープロモーションが違約金を支払う可能性があり、その額は10億円もありうる、などと言われています。
「違約金」というのは、約束に違反した場合に支払われる金員ですが、法的には「損害賠償金」の一種です。
損害賠償金には、約束に違反した場合である債務不履行に基づく損害賠償金と、違法な行為を行った場合である不法行為に基づく損害賠償金があります。
では、今回の場合は、どうなるのでしょうか?
登場するのは、
・武井さん
・TAKAHIROさん
・オスカープロモーション
・広告代理店等出演契約先
です。
このうち、TAKAHIROさんは、オスカーとも出演契約先とも何の契約もないので、違約金の話からは除外されます。
そして、契約関係は、
●武井さん - オスカー
●オスカー - 広告代理店等
となっており、
×武井さん - 広告代理店等
ではありません。
したがって、広告代理店等は、武井さん個人に対しては、契約責任を問えません。
違約金請求はできない、ということです。
では、不法行為責任はどうか?
武井さんが、広告代理店等に損害を与える目的で、妊娠していないのに嘘の情報を流してCMをキャンセルさせた、などの場合には、「不法行為」に基づく損害賠償ということもあり得ますが、今回は可能性が低そうですね。
ということは、損害賠償の問題としては、
●広告代理店等 → オスカー
ということになります。
そして、もし、オスカーが広告代理店等に対して損害賠償金を支払った時は、
●武井さん - オスカー
との専属契約書に基づき、オスカーが武井さんに損害賠償を請求する、という可能性もなくはありません。
さて、オスカーと広告代理店との契約関係としては、たとえばCM出演の場合には、「CM出演契約書」などが締結されているはずです。
そこには、出演者を武井さんとし、武井さんのタレントとしての良好なイメージを保持する義務が記載されているのが通常です。
契約によっては、CMの商品を特定し、その商品とのイメージを損なわないようイメージを保持する義務が謳われることもあるでしょう。
商品やサービスのCMで、結婚や出産によりイメージダウンするものがあるとは想定しがたい(離婚情報サービスなどなら別ですが、聞いたことがないですね)ので、イメージダウンを理由として損害賠償、というのは難しいと思います。
たとえば、日弁連も武井さんを起用したCMを作っています。⇒
イメージアップ広報CM/「突然の崖」篇 15秒|日弁連|
武井さんが結婚や出産することで、日弁連のイメージが損なわれるか、というと、それはないですね。
もう1つの論点は、オスカーが損害賠償責任を負担するには、契約内容にもよりますが、通常は、オスカーに「故意」や「過失」があることが必要とされます。
オスカーが、武井さんの結婚や妊娠がCMのイメージを損なうことを認識し、かつ、それ故に結婚や妊娠を防止する措置を講じることができることが必要なわけですね。
防止措置を講じることができたのに防止措置をとらなかったというようなことが過失と認定されるわけです。
確かに、プロダクションの専属契約書では、「恋愛禁止」などが盛り込まれることがあります。
そして、アイドルに関し、この恋愛禁止条項に違反した、として、プロダクションがアイドルに対して損害賠償請求をした、という事案があります。
これについては、平成27年9月18日東京地裁判決は、アイドルに対し、65万円の損害賠償を命じ、平成28年1月18日東京地裁判決は、アイドルは損害賠償責任はない、としています。
アイドルやタレントが恋愛や結婚をすると、人気が落ちてしまうのは、仕方のないことかもしれません。
しかし、人間として恋愛、結婚、出産をしたり、しなかったり、というのは、個人の尊厳に基づく幸福追求の権利の一つです。
したがって、これを専属契約期間の全てにわたって契約で禁止するのは、私個人としては、公序良俗に反し、無効だと考えています。
したがって、オスカーには故意も過失もなく、損害賠償責任は発生しないと考えたいと思います。
ただし、出演作品が、体型を強調するCMであったりする場合には、少なくともその間は仕事に支障がないように気をつける義務はあると思いますので、もし、妊娠による体型変化とCM撮影時期が重なるようなことがあると、損害賠償責任の発生の可能性もありえるかもしれません。しかし、そうであれば、事前協議により撮影前倒しなどで対応可能なので、問題は回避できるように思います。