給料不払いで社長が逮捕。 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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給料不払いで社長が逮捕。

2017年09月11日

今回は、支払う側にも受け取る側にも大切な賃金に関する法律を解説します。

「給与未払い、出頭拒否で経営者逮捕 彦根労基署」(2017年9月8日 産経新聞)

彦根労働基準監督署は、滋賀県の建築工事会社の代表取締役の男(58)を最低賃金法違反の疑いで逮捕し、法人としての同社を書類送検したと発表しました。

男は、正社員とパート社員2人に対し、2016(平成28)年2~4月分の給与計約80万円を支払わなかったようで、「営業不振で支払えなかった」と容疑を認めているということです。

同労基署は、「同法違反容疑での逮捕は珍しい。出頭要請に応じないなど、逃亡や証拠隠滅の可能性があった」としています。

 

【最低賃金法とは?】
最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定産業に従事する労働者を対象に定められた「特定最低賃金」があり、使用者は、いずれかのうち高いほうの最低額以上を労働者に支払わなければいけません。

「最低賃金法」
第4条(最低賃金の効力)
1.使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

 

これに違反した場合、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

また、最低賃金に関する違反があった場合、労働者は労働基準監督署等に訴えることができます。

第34条(監督機関に対する申告)
1.労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。
2.使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

【労働基準監督官とは?】
労働基準監督署は、「労働基準法」や「最低賃金法」などの労働基準関係法令に基づいて、労働者の最低労働基準や職場の安全衛生を守るために企業を調査・監督します。

法律が守られていなければ使用者を指導することになりますが、企業への立ち入り調査(臨検)などをするのが厚生労働省の専門職員である「労働基準監督官」です。

計画的に対象企業を選定して調査することを「定期監督」といい、労働者からの申告・告発を受けて調査することを「申告監督」といいます。

労働基準監督官は、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法などの法律違反について、「刑事訴訟法」に規定する司法警察員の職務を負っているため、警察と同じような権限を行使することができます。

第32条(労働基準監督官の権限)
1.労働基準監督官は、この法律の目的を達成するため必要な限度において、使用者の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問をすることができる。

 

これに違反した場合も、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金になります。

労働基準監督官の仕事の流れは通常、次のように進められます

①企業を訪問
②立ち入り調査/臨検(使用者や労働者への事情聴取、帳簿の確認など)
③法律違反が認められた場合、「文書指導」、「是正勧告」、「改善指導」、「使用停止命令」などを実施
④企業からの是正・改善報告を受けて、是正・改善が確認できれば指導は終了
⑤是正・改善が認められない場合、再度監督を実施し、重大・悪質な場合は送検

また、労働基準監督官には次のような権限が与えられています。

・事業場への予告なしの立ち入り調査(臨検)
・帳簿書類の提出要求と確認
・使用者や労働者への尋問
・使用者や労働者への報告・出頭命令
・監督指導
・法令違反者の送検・逮捕

労働基準関係法令に違反したにもかかわらず、改善が認められない使用者など(社長のほか、一定の権限を与えられている取締役や部長、課長など)は、通常では送検で済むものですが、今回のように出頭要請に応じなかったり、逃亡や証拠隠滅の可能性があるなど悪質なケースでは逮捕に至る場合もあるわけです。

社長が逮捕されたとなれば、会社の業績全体に大きなダメージを負うことになってしまいます。

労働基準監督署を甘くみてはいけません。
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