相談 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 認知症ドライバーの交通事故の責任は誰に?高齢者自動車運転問題を考える

    2016年06月28日

    近年、高齢者ドライバーによる交通事故や危険運転が急増しています。
    家族としては当然、心配になります。

    そこで今回は、高齢の父親の自動車運転を止めさせたいという男性からの質問にお答えします。

    Q)今年、父が82歳になりました。もともと頑固オヤジな人でしたが、年を取るにつれ、さらに拍車がかかったような気がします。ところで最近、ニュースなどで高速道路の逆走や、高齢者の起こした交通事故を見ると心配です。先日も、父の隣に乗ったのですが、ヒヤっとすることがありました。父に運転を止めさせるようにできないでしょうか? 法律の話をすれば納得するかもしれないので、高齢者に関する法律や規制などあれば教えてください。

    A)2014年6月、改正道路交通法が施行されています。これは、運転に支障を及ぼす可能性のある病気の人に病状の申告を義務化したもので、てんかんや認知症、アルコール中毒などの場合、運転免許の停止や取り消しができるようになりました。しかし、あくまでも病気に関する申告であり、年齢の制限などはありません。また、高齢者の自動車免許を禁止・制限する法律もありません。

    高速道路での逆走の70%が高齢者ドライバー!?

    東日本・中日本・西日本など高速道路6社の調査によると、2011(平成23)年~2014(平成26)年の高速道路会社管内における交通事故または車両を確保した件数は739件もあったということです。

    実際には、確認されなかったケースも含めれば、さらに件数は多いということでしょう。

    また、特徴としては以下のことが確認されています。

    ・内訳は、平成23年が203件、平成24年が202件、平成25年が136件、平成26年が198件
    ・約半数がインターチェンジやジャンクションで逆走を開始
    ・65歳以上の高齢者によるものが約70%
    ・認知症の疑いのある人は約10%
    ・精神障害や飲酒などの状態を含めた割合は15%
    ・突出して発生件数が多い地域、箇所は認められない

    高速道路各社では、警察や学識経験者とも連携を取りながら逆走原因の分析や対策強化を行っているようですが、数字からは、まだそれほど大きな効果は出ていないようです。

    高齢者の交通事故による死者数は増えている!?

    次に、高齢者の交通事故に関する統計データを見てみます。

    警察庁が公表している「平成26年度年中の交通事故死者数について」の統計によると、平成26年度中の65歳以上の高齢者の死者数は2193人で、全体に占めるは53.3%。
    統計がある昭和42(1967)年以降で最も高くなっています。

    最新のデータとしては、2015年11月に公表された「交通事故統計(平成27年10月末)」(警察庁)によると、高齢者の死者数は1752人で、全体に占めるは割合53.2%になっています。

    全体に占める割合には変化が見られず、相変わらず死者数の半数以上が高齢者となっています

    内訳を見ていくと、自動車乗車中が516人で約30%、歩行中が796人で約45%、自転車乗車中が306人で約18%となっています。

    また、警視庁がまとめた「高齢運転者が関与した交通事故発生状況(平成26年中)」によると、東京都内における交通事故発生件数は3万7184件で、そのうち65歳以上の高齢者の割合は20.4%というデータが出ています。

    なお、高齢者の事故では高速道路での逆走のほか、ブレーキとアクセルの踏み間違い、自動車での鉄道の線路走行なども起きています。

    法律では危険運転をどう処罰しているのか?

    では、法律では危険運転をどのように処罰しているのでしょうか?

    前述したように、2014年6月に道路交通法が改正されています。
    これは、運転に支障を及ぼす可能性のある病気の人に病状の申告を義務化したもので、法改正から1年で運転免許の取り消し・停止などの行政処分を受けたケースは7711件にものぼっています。

    その内訳は、「てんかん」が最多で2313件、次いで「認知症」の1165件、「統合失調症」の1006件、「再発性の失神」の926件の順となっています。

    改正道路交通法では、具体的な病気として、てんかん、統合失調症、睡眠障害、認知症、アルコール・薬物中毒などを規定しています。

    虚偽申告した場合は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
    ここまで見てきたように、確かに高齢者ドライバーの運転には高いリスクがともないます。
    しかし、日本の場合、ご存知のように自動車免許は18歳から取得可能ですが、年齢の上限はありません。

    ただし、70歳以上のドライバーは高齢者講習と教習を受ける必要があります。
    これに通過しないと、免許を返納しなければいけません。

    また通常、自動車免許は5年ごとの更新が義務付けられていますが、70歳以上の場合は3年ごとの更新になっていることにも注意が必要です。

    なお、運転免許を自主返納した場合には「運転経歴証明書」を申請することができます。
    この、運転経歴証明書を高齢者運転免許自主返納サポート協議会の加盟店や美術館などで提示すると、さまざまな特典を受けることができようになっています。

    年による衰えは、認めたくないところかもしれません。

    また、生活に車が必要、ということもあるかもしれません。

    しかし、いい年齢になって、他人に迷惑をかけることは避けなければなりません。

    認知症の高齢者が運転をして交通事故を起こした場合、場合によっては、同居の家族が「監督義務違反だ」として訴えられかねません。

    高齢者は、どうしても運動能力が低下します。家族や他人に迷惑をかけないよう、今一度自分の運転能力を見直した方がよいと思います。

  • 学校の野球部活動での事故で県に賠償命令

    2016年05月18日

    高校の部活動中の事故により後遺症が残ったとして、被害者が損害賠償請求していた訴訟の判決が出たようです。

    「部活中、打撃投手の頭部に打球…県に賠償命令」(2016年5月14日 読売新聞)

    2011年5月、某県立高校の1年生だった男性が、野球部の練習中、グラウンドで打撃投手を務めていた際に右側頭部に打球を受け、頭蓋骨骨折などの重傷を負った。

    日本高野連は打撃練習時に投手にヘッドギアを着用することを義務付けているが、男性は頭部を保護するヘッドギアを装着していなかったという。

    男性は脳挫傷などの後遺症が残ったとして、県に約2400万円の損害賠償を求めて提訴していた。

    静岡地裁の判決では、「職務上の注意義務に違反して事故を生じさせた」として教諭の過失を認定。
    「指導教諭は注意義務に違反し、職務行為の違法性が認められる」として、県に約890万円の支払いを命じた。
    大切な子供の人生が一瞬のうちに暗転してしまう学校での死傷事故。
    一体、誰に責任があるのでしょうか? 損害賠償請求は誰に対して行うべきなのでしょうか?
    【学校での事故によるケガには災害給付金が支払われる】
    通常、学校や保育所の管理下における子供の事故、災害では、学校や保育所が加入している独立行政法人日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われることになります。

    ・災害共済給付金には、医療費の他、障害見舞金または死亡見舞金が含まれます。

    ・学校や保育所の管理下とは、授業中(保育中)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。
    しかし、大きなケガのため重い障害を負った場合など、災害共済給付金だけでは損害賠償金額をすべて賄えないことが多いという問題があります。

    その場合、被害者と親御さんは学校に損害賠償請求することができます。
    【使用者責任とは?】
    学校で起きた事故で子供が死傷した場合、損害賠償請求する相手として、まず担当教員や部活の顧問教員を想定する方もいると思います。

    しかし、その教員を雇用しているのは学校であり、学校には「使用者責任」があるため、教職員の故意または過失によって生じた事故では、使用者である学校も損害賠償義務を負うことになります。

    公立校であれば「国家賠償法」、私立校ならば「民法第715条」が適用されます。
    損害賠償請求に関しては、「民法第709条」が適用されます。

    「国家賠償法」
    第1条
    1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
    「民法」
    第715条(使用者等の責任)
    1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    今回、県に賠償命令が下されたのは、教員が県立高校の公務員だった、ということですね。

    部活動については、「学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭を始め学校側に生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務のあることを否定することはできない」(最高裁昭和58年2月18日判決)とされています。

    したがって、部活動において生徒が怪我をした場合、学校側が生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき注意義務を怠った場合には、教師や学校に損害賠償責任が発生することになります。

    今回については、日本高野連は打撃練習時に投手にヘッドギアを着用することを義務付けているが、男性は頭部を保護するヘッドギアを装着していなかった、ということで、顧問の教師らの指導監督が不十分であった、と認定されたものと思われます。

    【学校で起きた死亡・重度の障害事故の発生件数】
    次に、平成10~21年度における、中学・高校での体育の授業、および運動部活動での死亡・重度の障害事故の発生件数について、日本スポーツ振興センターが公表している災害共済給付のデータから見てみましょう。

    「中学・高校での体育の授業における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・陸上競技/87人
    ・水泳/24人
    ・バスケットボール/17人
    ・サッカー/16人
    ・器械体操等/10人
    ・柔道/9人
    ・バレーボール/8人
    「中学・高校での運動部活動における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・柔道/50人
    ・野球/35人
    ・バスケットボール/33人
    ・ラグビー/31人
    ・サッカー/26人
    ・陸上競技/19人
    ・バレーボール/14人
    ・テニス/14人

    格闘技である柔道や、硬いボールを使用する野球などで事故が多く発生していることが読み取れます。

    もし、授業中、課外活動中などにお子さんが怪我をしたような場合には、加害者である生徒などの他に、教師や学校にも損害賠償できる可能性があることを憶えておきましょう。

    そして、そのような場合には、法律が認めているわけですから、泣き寝入りする必要はありません。

    弁護士などの専門家に相談して、慰謝料など適切な損害賠償金を手にするための対応をされることをお勧めします。

    ご相談はこちらから⇒「弁護士による学校事故SOS」
    http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • ナンパは軽犯罪法違反!?

    2016年02月11日

    男性が街角で好みの女性を見つけ、アプローチしたいとき、どうするでしょうか?

    当然、挨拶をし、話しかけ、会話をしようとします。

    歩きながら話すと、最低でも5.5メートルは必要でしょう。

    ところが、この行為が犯罪になる場合があります。

    「“彼女になってもらえると…”警官装い、女子高生につきまとった60歳無職男を書類送検」(2016年2月9日 産経新聞)

    大阪府警天王寺署は、警察官を装って女子高校生につきまとったとして、大阪市天王寺区の無職の男(60)を軽犯罪法違反(官名詐称、つきまとい)の疑いで書類送検しました。

    事件が起きたのは2015年11月4日。
    男は同区内の地下街で警察官を装い、大阪府内に住む10代の女子高生に接触。
    「はよちゃんと帰りや。おっちゃん少年課の人間やからほっとかれへんねん」などと声をかけ、その場から逃げようとする女子高生に約5・5メートルつきまとったため、女子高校生が同署に相談。
    現場の防犯カメラの映像から男の関与が浮上したということです。

    男は、2015年の夏ごろから女子高生に声をかけるようになったといい、声をかける際、自分の本名と住所が書かれた紙切れを渡していたようです。

    警察の取り調べに対し、「独り身でさみしかった」、「警官だと名乗れば補導の名目で名前や連絡先を知ることができると思った。その後に連絡を取り合い、彼女のような存在になってくれることを期待していた」などと話し、容疑を認めているということです。
    今回の書類送検の容疑は軽犯罪法違反です。
    早速、条文を見ていきましょう。

    「軽犯罪法」
    第1条
    左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

    15.官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者

    28.他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者

    ※拘留…受刑者を1日以上30日未満で刑事施設に収容する刑罰
    科料…1000円以上、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰
    軽犯罪法では軽微な秩序違反行為、たとえば、空き家に忍び込む、仕事をせずにうろつく、人などに害を加える動物を逃がす、騒音で近隣住民に迷惑をかける、うその犯罪や災害を申告した、他人の業務をいたずらで妨害したなど33の行為を罪として規定しています。

    ちなみに、28号のつきまとい行為は、条件が該当すれば「ストーカー規制法」が適用される可能性もあります。

    詳しい解説はこちら⇒「31歳年の差にストーカー規制法違反」
    https://taniharamakoto.com/archives/1944

    同法には「つきまとい行為」として次の8つが規定されています。
    1.待ち伏せ、尾行、および自宅や勤務先を見張り、押しかけること。
    2.行動を監視していると告げる行為。
    3.面会や交際、その他義務のないことを行うことの要求。
    4.著しく粗野、乱暴な言動。
    5.無言電話、連続した電話・FAX・メール。
    6.汚物・動物の死体等の送付。
    7.名誉を害する事項の告知。
    8.性的羞恥心を侵害する事項の告知、わいせつな写真・文章などの送付、公表。

    つきまとい行為は、同一の人に対して反復して行うことでストーカー行為になります。
    なお、上記のようなストーカー行為をした者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されるので注意が必要です。

    反復してつきまとわなくても、軽犯罪法には該当する、ということですね。

    道ばたで「ナンパ」をする人は、注意してください。

    声をかけて即座に笑わせたりすれば、「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた」ことにはならないので、軽犯罪法違反にはなりません。

    しかし、相手が嫌がっているのに声をかけ続けていると、軽犯罪法違反になりうる、ということです。

    逆にナンパされて不安あるいは迷惑な女性は、ナンパ師に対し、「それ、軽犯罪法1条28号違反のつきまといですよ。連絡先交換したらすぐ被害届出しますから、やめた方がいいですよ」と言って、断る方法もアリですね。

    「俺の後ろに立つな」(ゴルゴ13)

  • 生卵を投げて書類送検…軽犯罪と暴行罪の違いとは

    2015年11月20日

    スーパーマーケットの入り口にいた女性の頭上から生卵が落ちてきて、肩に当たったそうです。

    ニワトリが産み落とした…わけではありません。
    人が投げ落としたなら犯罪になる可能性があります。

    一体、犯人は誰だったのでしょうか?

    「高層マンションから生卵30個投げつける 慶大生を書類送検“就活うまくいかず”」(2015年11月19日 産経新聞)

    川崎市中原区の高層マンションから東急東横線の線路内など地上に向けて生卵を投げつけたとして、神奈川県警中原署はマンションの住人である慶応大4年の男子学生(22)を軽犯罪法違反(危険物投注)の疑いで書類送検しました。

    大学生の男は、今年の10月26日~11月11日の間に、計7回30個の生卵を自宅マンションのベランダから東急東横線の線路内や商業施設の敷地内に向けて投げつけたと供述。
    「就職活動がうまくいかず、むしゃくしゃしてやってしまった」と容疑を認めているようです。

    現場は、東急東横線の武蔵小杉駅に近い高層マンションが立ち並ぶ人気のエリア。

    卵が肩に当たった女性にケガはなかったということです。
    では早速、「軽犯罪法」の条文を見てみましょう。

    「軽犯罪法」
    第1条
    左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

    11.相当の注意をしないで、他人の身体又は物件に害を及ぼす虞のある場所に物を投げ、注ぎ、又は発射した者
    拘留とは、受刑者を1日以上30日未満で刑事施設に収容する刑罰で、科料とは、1000円以上、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰です。

    1948(昭和23)年に施行された軽犯罪法は、軽微な秩序違反行為に対する法律で、騒音や迷惑行為、のぞき、露出、虚偽申告など33の行為を罪として規定しています。

    軽犯罪法については以前にも解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「犯罪になるストレス発散法とは!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1309

    これは、女性の顔につばを吐きかけた男が暴行容疑で逮捕された事件を取り上げたものでした。

    ところで、この記事でも解説したのですが、じつは軽犯罪法でも26号で、つばを吐く行為を禁止しています。
    しかし、逮捕容疑は暴行罪でした。

    今回の事件でも、投げた生卵が女性に当たっているわけですから、暴行罪が適用されてもいいのではないか、という疑問が湧いてきます。
    さて、この違いは何なのでしょうか? 条文から考えてみましょう。

    「刑法」
    第208条(暴行)
    暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
    法律上の「暴行」とは、人の身体に向けた「不法な有形力の行使」と定義され、相手が傷害を負わなければ暴行罪、傷害を負えば「傷害罪」となります。

    第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
    次にポイントとなるのは、「故意」であったかどうかです。
    暴行罪の場合、条文に「人の身体に向けた」とあるように、今回の事件で容疑者は「人を狙って」生卵を投げたのかどうかが焦点となってきます。

    容疑者は、線路内や敷地内に向かって投げていた、ということで、「人にぶつけようとして投げた」とは言っていません。

    また、状況から考えても人にぶつけようとして投げているようには見えなかったのでしょう。

    今のところ、人にぶつける意思があったことが認定できないので、暴行の故意が欠け、他人の身体又は物件に害を及ぼすおそれのある場所に生卵を投げた、ということで軽犯罪法となったものと思われます。

    今後、人を狙った旨の供述が出てくれば、幸い女性にケガがなかったことから傷害罪ではなく暴行罪になる可能性もあるということですね。

    ちなみに、今年6月には東京都中央区の自宅マンションから2リットルの水が入ったペットボトルを投げ、通行人にケガをさせた高校生(16)が逮捕されるという事件が起きています。

    こちらは、人がケガをしていることと、高校生が「投げればケガをさせることは想像した」と容疑を認めたことから傷害容疑での逮捕となったのでしょう。

    就職活動がうまくいかなかったとしても、生卵を投げるなどして他人に迷惑をかけてはいけませんね。

    投げるなら、せいぜい就職を諦めてさじを投げるくらいにして欲しいものです。

    お後がよろしいようで。M(_ _)m

  • 全国で初めて“ごみ屋敷”を強制撤去の行政代執行!

    2015年11月17日

    問題になっていた「ごみ屋敷」が、ついに強制撤去になったというニュースがありました。

    今後、全国で「ごみ屋敷」への対応が進んでいくかもしれません。

    「“ごみ屋敷”に行政代執行 京都市、条例に基づき初の強制撤去」(2015年11月13日 京都新聞)
    京都市右京区の民家で50代の男性が物を溜め込んでいる「ごみ屋敷」問題に対し、京都市は11月13日午前、私道など屋外に置かれた物を行政代執行で強制撤去しました。

    近隣住民の通行に支障が出ており、災害時の住民避難に影響が出るとして強制撤去に踏み切ったもので、京都市の「ごみ屋敷対策条例」に基づき執行。
    私有地の強制撤去は全国初ということです。

    問題の経緯は以下の通りです。
    ・2009年12月に近隣住民からの相談で市が問題を把握。
    ・男性は、6年以上前から自宅前に古新聞・雑誌を積み上げ、もともと狭い私道がさらに狭くなり、車いすの使用者が通れなくなる事態に。
    ・男性には再三にわたり撤去を要請し、2014年11月の対策条例施行後は文書指導や命令も行ってきたが、男性は「これは財産だ」、「資料だ」と主張。
    ・市は約1年間に男性宅を124回訪問し、59回面会を実施。健康相談も行ってきた。
    ・この男性宅以外に、市は121世帯の「ごみ屋敷」を確認。うち52世帯では住居人から同意を得て、市職員とともに清掃を行い、「ごみ屋敷」状態を解消した。
    ・しかし、この男性宅では自主的な撤去が進まず、また今年8月に愛知県豊田市の「ごみ屋敷」が火元となって隣家に延焼する火災が起きたことからも、今回の強制撤去となった。

    当日は午前10時頃、市保健福祉局の幹部が行政代執行の開始を宣言。男性が立ち会う中、市職員5人が私道に積まれた古新聞や雑誌、衣類などを持ち出し、崩落の恐れがあった2階のベランダにあった物も撤去。
    約2時間で作業は終了したようです。

    強制撤去した「ごみ」は、7.5立方メートルで45リットルごみ袋に換算して167袋、軽トラック5、6台分にもおよんだということです。
    ごみ屋敷問題については、以前解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒
    「困った隣人トラブル─ごみ屋敷問題はどう解決する?」
    https://taniharamakoto.com/archives/2016

    この時点(2015年7月)では、文書による指導と勧告がなされていたのですが、今回、行政代執行が行われたわけです。
    簡単に復習しましょう。
    【ごみ屋敷を取り締まる法律はない!?】
    じつは、ごみ屋敷を直接的に取り締まる法律はありません。
    そのため、これまでは「廃棄物処理法」や「道路交通法」で対応してきました。

    しかし、廃棄物処理法は個人宅のごみは対象外であること、道路交通法の第76条では個人の敷地内から周囲の公道にごみがあふれ出ている場合に適用されることから、行政の対応は後手に回ってきました。

    そして、さらに「財産権」の問題があります。

    「日本国憲法」
    第29条
    1.財産権は、これを侵してはならない。
    個人の財産権は憲法に規定され、保障されています。
    そのため、第三者が見て明らかに「ごみ」であっても、本人が「財産」と主張すれば私有地である個人宅や敷地から第三者が持ち出すことは「私有財産権の侵害」につながるおそれがあるわけです。
    【各自治体が”ごみ屋敷“対策に乗り出した】
    しかし近年、急増する「ごみ屋敷」に対応するために各自治体が独自に条例を制定して対策に乗り出すケースが増えてきました。

    2013年、東京都足立区は「足立区生活環境の保全に関する条例」(通称・ごみ屋敷条例)を全国に先駆けて施行。
    その後、大阪市や京都市、新宿区などでも条例が制定され、現在では全国の8市区で制定されています。

    例えば、京都市の条例では次のようなことが定められています。
    ・ゴミを放置した人の氏名を書いた標識を現地に設置することができる
    ・私有地のごみは行政代執行で強制撤去することができる
    ・命令に従わなかった場合、5万円以下の過料

    ちなみに、「行政代執行」とは、行政上の強制執行の一種で、義務者が行政上の義務を履行しない場合に、行政庁が自ら義務者のなすべき行為をすることです。(「行政代執行法」第1条・2条)
    【ごみ屋敷条例の今後の課題とは?】
    今回の強制撤去で、全国的に「ごみ屋敷」への対策が進んでいくことが考えられます。

    たとえば、2015年5月に完全施行された「空家対策特別措置法」では、増え続ける「空き家」の中でも特に倒壊の危険のあるものや衛生上有害なもの、周囲の景観を損なうものなどを「特定空き家」として、最終的には各自治体が行政代執行による撤去もできると定めています。

    詳しい解説はこちら⇒
    「特定空き家の基準が決定!空家対策特別措置法が施行」
    https://taniharamakoto.com/archives/1952

    こうした流れからも、周囲の環境悪化や地域住民の安全対策に問題がある「ごみ屋敷」について、今回の強制撤去がきっかけとなり全国的に対策が進んでいくと思われます。

    ただし、住人への心身のケアは今後の課題となりそうです。
    たとえば、精神疾患の人や、ごみの分別をする能力のない高齢者など、ごみを溜めてしまう人への生活支援や周辺の住人との関係改善などです。

    実際、京都市では、ごみ屋敷の対策条例に基づき有識者会議を設置し、条例の適用には福祉の観点からも議論を重ねたうえで執行を決定しているとしています。

    とはいっても、「ごみ屋敷」の周辺住人の方にとっては日常生活に支障をきたすケースがあるわけで、これは切実な問題です。
    また近年、さまざまな隣人トラブルも増え、殺人事件にまで発展するケースもあります。

    隣人トラブルにおいて、個人間での話し合いなどで解決できないようであれば、法的な対応を考える必要もありますので、一度、弁護士などの専門家に相談してみるのもいいでしょう。

  • 「労災隠し」は犯罪です

    2015年08月11日

    労働者の業務中の負傷、疾病、障害、死亡を「労働災害(労災)」といいます。

    また、労災には通勤中でのケガ、病気なども含み、これを「通勤災害」といいます。

    今回は、労災に関する法律違反について解説します。

    「“元請けに迷惑をかけられない”と労災事故報告せず、元事業所長ら書類送検」(2015年8月6日 産経新聞)

    社員が労災事故で休業したにもかかわらず報告書を提出しなかったとして、舞鶴労働基準監督署は堺市の叶電機工業所と、同社舞鶴事業所の元事業所長(71)を、労働安全衛生法(報告義務)違反容疑で地検舞鶴支部に書類送検しました。

    元事業所長は、平成25年11月27日、京都府舞鶴市の工事現場で男性社員(当時44歳)が溶接作業中にやけどを負い4日間休業したにもかかわらず、同労基署に労働者死傷病報告書を提出しなかったようです。

    今年5月初旬、休業した男性社員が同労基署に相談したことで発覚。
    元事業所長らは「元請けに迷惑をかけたくなかった」などと、話しているということです。
    今回のような事例は、「労災隠し」と呼ばれます。

    まずは条文を見てみましょう。

    「労働安全衛生法」
    第100条(報告等)
    1.厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
    3.労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
    これに違反すると、50万円以下の罰金に処されます。(第120条5号)

    さらに、労災の報告について、労働安全衛生法に基づき定められている「労働安全衛生規則」の第97条では、次のように規定されています。

    ・事業者は、労働災害が発生し労働者が死亡、又は4日以上の休業をしたときは、遅滞なく、労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出しなければいけない。
    ・休業がなかった場合、又は通勤災害の場合は報告の必要はない。
    ・休業が4日に満たないときは四半期ごとの報告書の提出。
    つまり労災隠しとは、「故意に労働者死傷病報告を提出しないこと」や「虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出すること」による法律違反ということになります。

    では、なぜ労災隠しが起きるのでしょうか。
    「労働基準監督年報」(2012年)によると、労災隠しで送検された総件数は132件で、そのうち6割以上の83件が建設業で起きています。

    建設業が圧倒的に多い理由としては、以下のことなどが指摘されています。
    ・労働基準監督署の調査が入り、是正勧告を受けたり書類送検されたりすると、元請け会社は自治体から一定期間指名停止され、公共事業に入札できなくなってしまうため。

    ・労災を起こした下請け会社も、元請け会社から出入り禁止や取引停止にされれば死活問題となるため。

    ・労災発生によるイメージの低下。

    ・労災発生による将来の保険料負担の増加。

    労災が起きてしまうと、企業にとっては大きなダメージとなってしまいます。
    しかし労災隠しは、適正な労災保険給付に悪影響を与えることや、被災者に犠牲や負担を強いる行為であることから、労働基準監督署が厳しく対応しています。

    また、労災隠しが発覚するのは労働者からの訴えによるものが多いのも特徴で、それは労働安全衛生法によって労働者の申告が認められていることにも要因があると思われます。

    第97条(労働者の申告)
    1.労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。
    2.事業者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
    2項に違反した事業者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第119条1号)

    みらい総合法律事務所では、労災事故の相談を受けることも多いのですが、労災であるにもかかわらず、労災申請をしていない事例がある程度の割合であります。

    しかし、労災隠しは犯罪であることを十分認識し、適切に申告をしていただきたいと思います。

    そのような法定遵守の姿勢が、社員を守り、ひいては会社の発展にも資するのだと思います。

    労災のご相談はこちらから⇒ http://www.rousai-sos.jp/

  • 社員への損害賠償を給与から天引きすると違法?

    2015年08月05日

    給料日が楽しみ! という人は多いでしょう。
    一方、借金の取り立てに戦々恐々で、うれしくはないという人もいるかもしれません。

    いずれにせよ、働いた分の給料をもらうのは当然、と多くの人は思っているでしょう。

    ところが、給料から客への弁償金などを天引きしていたとして元従業員が会社を訴えるという騒動があったようです。

    果たして、法的にはどちらに分があるのでしょうか?

    「アリさんマークの引越社を元社員ら提訴“天引きは違法”」
    (2015年7月31日 朝日新聞デジタル)

    「アリさんマークの引越社」で知られる運送会社「引越社」と関連会社の元社員とアルバイトの男性12人(20~30代)が、引っ越し作業で生じた弁償金を従業員に負担させるのは違法だとして2社を相手取り、支払った弁償金や不当に減額された賃金など計約7千万円を求める訴訟を
    名古屋地裁に起こしました。

    訴状などによると、引っ越し作業で荷物が破損した場合、2社は担当した社員とアルバイトに連帯責任を負わせ、給与から弁済金として弁償費用などを違法に天引きしていたようです。

    また原告の1人は、運送中の事故でトラックが傷つき、修理代金として40万円を負担させられたと主張しているということです。

    さらには、不透明な評価基準による賃金の減額や、業績不振を理由にした一方的な減額もあり、長時間労働に対する残業代の未払いも横行していると訴えているようです。

    弁護団は今後、東京や大阪でも集団訴訟を起こすとしており、原告の1人(28)は「お金を返してほしい。今働いている人が安心して働ける会社になってほしい」と語ったということです。
    【賃金支払いの5つの原則とは?】
    「労働基準法」の第24条では、賃金の支払いには、次の「5つの原則」が定められています。

    ・通貨払いの原則
    ・直接払いの原則
    ・全額払いの原則
    ・毎月1回以上払いの原則
    ・一定期日払いの原則

    この規定に違反すると30万円以下の罰金に処されます。(第120条)

    このうち、今回の件では「全額払いの原則」が適用されます。

    会社は、勝手に労働者に支払う給与から天引きすることはできないのです。
    ただし、例外があります。

    ・法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合
    所得税の源泉徴収、社会保険料の控除などは認められています。

    ・当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合

    上記の場合は、社宅・寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費などを賃金から控除して支払うことが認められています
    【使用者は労働者に対する損害賠償と賃金を相殺できるのか?】
    以上のことから、今回のケースでは次の問題が争点となります。

    使用者である引越社は、労働者である元社員らに対して有する「損害賠償請求権」と「賃金支払義務」を相殺することができるか?

    過去の判例では、最高裁は次のように判断しています。
    「労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない」
    (日本勧業経済会事件 最大判昭和36年5月31日民集15巻5号1482頁)

    つまり、一般的には、使用者が一方的に労働者に対する損害賠償と賃金を相殺することはできない、と解されています。

    労働協約または労使協定があれば天引きは可能ですが、普通は、不法行為に基づく損害賠償請求権と給与を相殺する内容は締結されていないでしょう。

    また、労働者が自由な意思で天引きを認めた時は天引き可能となる可能性がありますが、今回は訴えているくらいなので、自由な意思で認めているかどうかは疑問です。

    今回のケースでは、原告側は「過失のない労働者が注意を払う中で起きた損害は会社が負うべき事業上のリスクで、社員に支払わせるのは不当」と主張しているようです。

    報道内容からだけでは詳しいことはわかりませんが、これから集団訴訟を提起していくということですから、今後の進展を見守りたいと思います。

    なお、未払い残業代については以前、解説していますので参考にしてください。

    詳しい解説はこちら⇒
    「残業代を支払わない会社には倍返しのツケがくる!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1574
    今回と同じように未払賃金を請求したい労働者は
    こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/zangyou2/

  • 高速道路でやってはいけない12の違反行為

    2015年07月27日

    毎日、暑い日が続きます。
    夏本番、海に山にと遠出をする人も多いでしょう。

    そこで今回は、高速道路と法律に関する質問にお答えします。

    Q)現在、大学4年生です。最後の夏休み、友人と日本全国を旅する計画を進めています。そこで質問なのですが、高速道路でやってはいけない行為にはどんなものがあるのでしょうか? 知らずにやって、それが違反となったら嫌なので高速道路に関する法律を教えてください。

    A)高速道路上での主な交通違反について、以下に解説します。
    ①「速度超過違反」(第22条/第118条1項1号)
    高速道路では、特に指定がない場合の法定最高速度は100キロです。(自動車専用道路は60キロ)
    反則金が科せられる場合、反則金を納めれば刑事処分にはなりませんが、40キロ超過以上から刑事手続きとなり、6ヵ月以下の懲役又は10万円以下の罰金となります。

    違反点数:6点(40キロ以上)/12点(50キロ以上)
    反則金:9,000円~100,000円(普通車)
    刑事手続きの場合: 6ヵ月以下の懲役又は10万円以下の罰金
    ②「最低速度違反」(第75条の4/第120条1項12号)
    速度を落とす場合や危険を防止するためにやむを得ない場合を除いて、道路標識等で指定された最低速度、あるいは法定最低速度の50キロ以下で走行すると違反になります。

    違反点数:1点
    反則金:6,000円(普通車)・7,000円(大型車)
    刑事手続の場合:5万円以下の罰金
    ③「通行帯違反(追い越し車線だけを走行)」(第20条1項/第120条1項3号)

    道路の混み具合にかかわらず、本線車道の一番右側(追越車線)だけを走行し続けると違反になります。
    追い越し後は、もとの車線に戻らなければいけません。
    なお、追い越し車線だけを走行していると速度超過になりやすいので注意が必要です。

    違反点数:1点
    反則金:6,000円(普通車)・7,000円(大型車)
    刑事手続の場合:5万円以下の罰金
    ④「追い越し違反(先行車両の左側からの追い越し)」(第20条3項/第120条1項3号)

    先行車両を追い越すときは、右側を走行して追い越さなければいけません。
    高速道路を走行していると、車線変更して左側から追い越していく自動車がありますが、これは違反となります。

    違反点数:2点
    反則金:9,000円(普通車)・12,000円(大型車)
    刑事手続の場合:5万円以下の罰金
    ⑤「車間距離の不保持違反(あおり運転の禁止)」(第26条/第119条1項1号の4)

    同一の進路を進行している他の自動車の直後を進行するときは、その自動車が急停止したときでも追突を避けることができる車間距離をとらなければいけません。
    100キロ走行の場合、車間距離は100メートル取るのが理想的だといわれています。
    速度の遅い自動車を後ろからあおる運転手がいますが、これは違反行為ですし、重大な事故につながりかねないので十分に注意してください。

    違反点数:2点
    反則金:6,000円(普通車)・12,000円(大型車)
    刑事手続の場合:3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
    ⑥「通行区分違反(路肩走行禁止)」(第17条1項/第119条1項2号の2)

    道路の路側帯(路肩)は車道ではないので、故障や事故などでやむを得ず駐停車するとき以外は走行してはいけません。
    渋滞のときなど、路肩走行をする自動車を見かけることがありますが、これは違反行為です。
    イライラするからといって路肩を走らないようにしてください。

    違反点数:2点
    反則金:9,000円(普通車)・12,000円(大型車)
    刑事手続の場合:3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
    ⑦「車道での横断、転回、後退の禁止」(第75条の5/第119条1項2号の2)

    車道は一方通行なので横断、転回、後退はできません。
    ICの降り口を通り越してしまったために逆走して戻るなどという、とんでもないことをする人や、最近では高齢者ドライバーの逆走のニュースが増えていますが、これも非常に危険ですから絶対にやってはいけません。

    違反点数:2点
    反則金:9,000円(普通車)・12,000円(大型車)
    刑事手続の場合:3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
    ⑧「駐停車違反」(第75条の8第1項/第119条の2第1項2号)

    高速道路では、法令の規定や警察官の命令、または危険を防止するために一時停止するとき以外は駐停車が禁じられています。
    絶景ポイントで景色を見るために路肩に駐車、などということをしている人はいませんか?
    これも禁止行為ですから、やってはいけません。

    違反点数:2点
    反則金:7,000円(普通車)・15,000円(大型車)
    刑事手続の場合:15万円以下の罰金
    ⑨「故障車両表示義務違反」(第75条の11/第119条の2第1項2号)

    故障や、その他の理由でやむを得ず駐停車するときは、停止表示器材などで自動車が停止していることを表示しなければいけません。
    路肩に故障車を移動して表示器材を設置し、後続車に対する安全対策をとったら、運転者や同乗者は速やかに安全な場所に避難して警察が到着するのを待つようにしましょう。
    けっして、駐停車している車内に残ったり、その周囲に立っていたりしてはいけません。
    高速道路で事故を起こしたり、自動車が故障して車外に出たところを後続車にはねられるという死傷事故も起きていますから、十分注意してください。

    違反点数:1点
    反則金:6,000円(普通車)・7,000円(大型車)
    刑事手続の場合:2万円以下の罰金又は科料
    ⑩「高速道路での運転者の遵守事項違反」(第75条の10/第119条第1項12号の3)

    高速道路で自動車を運転するときは、運転者はあらかじめ、燃料、冷却水、原動機のオイルの量、貨物の積載の状態などを点検し、問題があれば防止策を講じなければいけません。

    違反点数:2点
    反則金:9,000円(普通車)・12,000円(大型車)
    刑事手続の場合:2万円以下の罰金又は科料
    その他にも次のような禁止事項があります。

    「合図義務違反」
    高速走行する際、事故なく安全運転するためには自分の意思を他車の運転者に示すことが大切です。

    「座席シートベルト装着違反」
    シートベルトは全座席で装着が義務付けられています。後部座席でシートベルトを装着しないと、運転者に違反点数1点が課されます。
    高速道路での事故は大惨事につながりかねない危険性があります。
    夏の楽しいレジャーを台無しにしないように、また事故を起こして他者を傷つけることのないように、定期的に休憩を取るなどして運転には十分注意して旅を楽しんでいただきたいと思います。

  • 解雇問題の金銭的解決実現なるか?

    2015年06月19日

    地獄の沙汰も金次第、そんなことわざがあります。
    どんな問題でもお金で解決できる、という意味で使われますね。

    ところで先日、解雇などの労働紛争の金銭解決についての調査結果の報道がありました。
    今後、会社と従業員の関係が変わっていきそうな気配です。

    そこで今回は、労働トラブルとお金の関係について解説したいと思います。

    「<解雇など労働紛争>金銭支払いの解決が9割超える」(2015年6月15日 毎日新聞)

    解雇などに関する労働紛争のうち、労働局による「あっせん」、「労働審判」と、「裁判での和解」の計約1500件を調査したところ、金銭の支払いによる解決が9割を超えていたことが厚生労働省の公表でわかりました。

    労働局による「あっせん」は、2012年度に4つの労働局が受理した853件を調査。
    使用者(会社)側と労働者(従業員)側が合意に至ったのは324件で、全体の約38%。
    そのうち313件(96.6%)が金銭の支払いで解決しており、金額の中央値は15万6400円。
    労使間の合意が成立するまでの期間は、中央値で1.4ヵ月でした。

    「労働審判」は、2013年に4つの地裁が結論を出した452事例を調査。
    金銭解決は434事例(96%)で、金額の中央値は110万円。
    申立日から審判の終了までの期間は、中央値で2.1ヵ月。

    「裁判での和解」は、2013年に4つの地裁で成立した193事例を調査。
    金銭による和解は174事例(90.2%)で、金額の中央値は230万円。
    民事訴訟の解決までには平均6ヵ月以上かかっているようです。

    また、正社員は労働審判や裁判を活用する傾向が強く、非正規労働者は、あっせんを使う割合が高かったということです。

    なお、この調査は、2014年に政府が閣議決定した「日本再興戦略改訂2014」で、新たな紛争解決の仕組みとして解雇の金銭解決を制度化するための基礎資料として使われる予定で、厚生労働省は2015年内に制度の骨格をまとめる方針。

    一方、労働組合などからは、「解雇を容易にすることにつながる」との反発が出ているということです。
    【あっせんと労働審判の違いとは?】
    厚生労働省が6月に公表した「平成26年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は103万3047件で、前年比1.6%減ですが、7年連続で100万件を突破しています。

    個別労働紛争の相談内容のトップは「いじめ・嫌がらせ」で6万2191件(21.4%)、2位が「解雇」で3万8966件(13.4%)、3位が「自己都合退職」で3万4626件(11.9%)。
    また、労働者からの相談が全体の81.7%、事業主からの相談は10.4%となっています。

    労働紛争の解決法には、主に①個別労働紛争解決制度(あっせん等)、②労働審判、③民事訴訟による裁判、があります。

    あっせんとは、紛争調整委員会が紛争の当事者間の調整を行い、話し合いを促進することによって、紛争の解決を図る制度です。

    対象となるのは、労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争で、募集・採用に関するものは対象になりません。

    平成26年度の統計では、助言・指導申出件数は23万8806件で、1ヵ月以内に97.3%が解決。
    あっせん申請件数は5010件で、2ヵ月以内での解決は92.0%となっています。

    労働審判とは、労働審判官(裁判官)1名と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2名で構成された労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理を行い、適宜調停を試みながら、調停による解決に至らない場合には紛争の実情に即した解決をするための労働審判を行うという紛争解決手続です。

    労働審判手続によって労働紛争が解決しない場合には、訴訟手続に移行する点に大きな特色があります。
    【金銭解雇の制度化は成立するのか?】
    ところで、今回の報道にある「日本再興戦略改訂2014」とは何かというと、アベノミクスによる経済の成長戦略を一過性のもので終わらせずに持続させるための改革案ということのようです。

    2014年6月に閣議決定され、その後、「労働市場改革」、「農業の生産性拡大」、「医療・介護分野の成長産業化」など規制改革にフォーカスして議論を重ね、1年後の今月に新たな答申をまとめ、これが公表されています。

    保険調剤薬局の営業を病院内でもできるように医薬分業を規制緩和することや、税金が低く抑えられている農地(耕作放棄地)への課税強化などとともに提言されたのが、労働者の解雇の金銭解決です。
    実際、アメリカなどの諸外国では解雇された従業員が裁判で争い、「解雇は無効」という判決が出た後、職場に戻る代わりに金銭を受け取る仕組みがあり、こうした制度も参考にしながら、経済界、産業界が硬直した雇用市場を改善するために解雇の金銭解決の制度化を求めていました。

    実際問題として、私は多くの労働紛争を解決してきましたが、解雇された従業員が「解雇無効だ!」と会社を訴え、1年後に解雇無効の判決を勝ち取ったからといって、もう裁判を争った会社には戻りたくないし、会社の方でも戻って欲しくない、と思っているケースが大半なわけです。

    そうだとすると、解雇の問題を金銭で解決しよう、というのは、それなりの合理性を持っていると言えます。

    報道にもあるように、労働者から見ると、あっせんは短期間で解決しますが、手にする金額は低くなります。
    対して、裁判では時間と費用がかかりますが和解金も高くなるという傾向があります。

    政府は、こうしたバラツキをなくし、解雇問題の金銭解決の方法を知らない労働者の「泣き寝入り」を防ぐためにも、また経営者側に対しては解雇紛争の決着の仕組みを明確にできるメリットがあることからも、新制度を導入して利用しやすくするという目的があるとしています。

    一方で、新制度が導入された場合、解雇数が増大するという懸念もあり、厚生労働省は5月末の段階では一旦、新制度導入については見送るとしていました。
    ところが、今月に入って政府の規制改革会議が2015年内での検討再開を安倍晋三首相に提言したということです。

    確かに、現行の労働関係法では社員は守られているため、会社は簡単に解雇をすることはできません。
    いわゆる問題社員を解雇したくても、なかなかできないという問題を抱えている企業も増加しています。

    また、2013年には解雇を巡る裁判が966件提訴され、そのうち195件で解雇無効が確定していますが、裁判で不当解雇との判決が出ても、結局は職場にいづらくなって会社を辞めてしまう労働者も多くいます。

    私は、個人的には賛成なわけですが、労働者に不当に不利益がおよばないよう、労働者側の意見もよく聞いて、制度化していただきたいと思います。

    そして、もし、トラブルになったら・・・・

    労働トラブルの相談はこちらから⇒ http://roudou-sos.jp/flow/

    不当解雇された時の知識は、こちら。
    不当解雇問題を弁護士に相談すべき7つの理由
    https://roudou-sos.jp/kaikopoint/

  • 安全配慮義務を怠ると会社は損害賠償請求される!?

    2015年06月09日

    中華料理店の料理人が、重い鍋を振りすぎて体を壊したとして会社を訴えた訴訟の判決が出たようです。

    裁判所は、どのような判決を下したのでしょうか?

    「鍋振り続け脚の骨損傷…餃子の王将と男性が和解」(2015年6月5日 読売新聞)

    「重い中華鍋を立ったまま振らされ続け、脚の骨を損傷した」として、中華料理チェーン「餃子の王将」の大阪府内のフランチャイズ店で働いていた男性(40歳代)が運営会社に対し約3600万円の損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁であり、運営会社が男性に400万円を支払う条件で和解が成立したようです。

    報道によると、男性は2009年7月から調理場スタッフとして週6日、1日約12時間勤務。
    1回に15~20人前の食材が入った中華鍋を振っていたところ、股関節に負担がかかり、痛みを訴えたが調理を続けさせられ、2011年1月に退職。
    その後、病院で「脚の付け根の骨の一部が壊死している」と診断され、人工股関節を入れたということです。

    男性は、「鍋の重さは食材を含め5キロ以上あり、過酷な業務で症状が悪化した。店には安全配慮義務違反があった」と主張。
    運営会社は、「業務との因果関係はない」と反論していたようです。

    なお、和解について運営会社は取材に応じず、フランチャイズ契約を結ぶ王将フードサービスは「コメントできない」としているということです。
    5キロ以上の中華鍋を1日に何度も振り続ける仕事を、体感的に想像するのは未経験者にとっては難しいですが、大変な重労働であることはわかります。
    しかし、男性が体を壊す前に会社も本人も、できることはなかったのでしょうか?

    今回の事案でポイントとなったのが「安全配慮義務違反」です。

    労働契約法では、使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならないとされています。

    この安全配慮義務に違反した結果、労働者に傷病が発生した場合には、会社は、債務不履行責任として損害賠償義務を負担します。

    その損害賠償とは、今回の例で言うと、治療費、入院看護費用、入院雑費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料、後遺症に基づく慰謝料、逸失利益、などです。

    その合計が、400万円という和解金となった、ということですね。

    仕事上、労働者が怪我をしたり、病気になった場合には、労災保険給付がされることがありますが、これ以外にも、会社に前記のような安全配慮義務違反があった場合には、別途会社は損害賠償責任を負担する可能性があります。

    したがって、会社は、常に、労働者の安全に配慮しなければならない、ということです。

    餃子の王将も、本件を契機として、再発防止策を社内で策定しているのではないでしょうか。

    問題が起こった時は、その問題に対処すると同時に、再発防止策を検討、策定することがとても重要です。

    労働問題の相談は、こちら。
    http://roudou-sos.jp/