お釣りを多くもらったら、詐欺罪!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
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お釣りを多くもらったら、詐欺罪!?

2015年01月09日

日本経済がバブルで湧いて元気だったころの話……

お酒を飲みに行ったお店で、またはタクシーから降りるときなど、会計のあとで、「釣りはいらないよ、とっておいて!」などという大人がいたものでした。

それが粋なのか?
かっこいいのか?

については個人の価値観によるところが大きいでしょうが、とにかく当時はそんな時代の空気がありました。

さて、平成27年の年明け早々、お釣りにまつわるトラブルで逮捕事件が起きたようです。

逮捕とは穏やかではないですが、一体お釣りの何が問題だったのでしょうか?

「お釣り多くもらい詐欺容疑 消防士を逮捕、奈良」(2015年1月7日 共同通信)

橿原署は7日、奈良県橿原市のコンビニで、店員が誤って渡したお釣り約4万6千円を申告せずに受け取ったとして、消防士の男(43)を詐欺の疑いで逮捕しました。

報道によると、昨年12月、容疑者の男が携帯電話料金やたばこ代など約1万3千円の会計に1万5千円を支払った際、6万円を預かったと思い込んだアルバイト店員(16)が約4万6千円をお釣りとして渡したところ、これを受け取ったということです。

なお、店員は「忙しくてパニックになり勘違いした」と話し、容疑者の男は「酒に酔って覚えていない」と容疑を否認しているとのことです。

読者の中には、計算間違いでお釣りを多くもらっただけで逮捕とはおおげさじゃないか?

店員にも罪があるんじゃないか?

などと思う人もいるでしょうが、今回の容疑者の行為は法律的には犯罪となってしまいます。

「刑法」
第246条(詐欺)
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
「詐欺罪」については以前、解説しました。
「宿題代行業は、詐欺罪!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1617

詐欺罪が成立するには、「騙そうとする意思」が必要です。

「故意」が必要ということですね。

したがって、お釣りが多いことに気付かず、家に帰ってから気付いた、というような場合には、「騙そうという意思」がありませんので、詐欺罪は成立しません。

では、容疑者は初めから、故意に、店員を欺こうとしていたのでしょうか?

5,000円札が「5万円札」のように見えるマジックを使ったのでしょうか。

報道内容には、そうした記述はありません。

ではなぜ、詐欺罪に問われたのでしょうか?

じつは、行為者が積極的に相手を錯誤に陥らせて欺く場合だけでなく、事実を告知しないことによって相手が既に錯誤に陥っている状態を継続させて利用する場合にも詐欺罪は成立するのです。

つまり容疑者は、お釣りが多いことに気づいていながら、店員が錯誤していることを利用して真実を伝えず、お金を手に入れたと判断されたということでしょう。

ちなみに、黙っていることで詐欺が成立した場合について、過去の判例では次のようなものがあります。

・保険契約に当たって、被保険者の疾病を告知しなかった場合(大判昭10・3・23集14-294)
・生活保護費の不正受給につき、生計の状況等の変動等の届出をしなかった場合(東京高判昭31・12・27高集9-12-1362)
・目的物が係争中であることを秘して売却した場合(大判昭11・5・4集15-559)
・取引において信用状態の悪化を告知しなかった場合(東京高判昭35・3・9東時11-3-60)

話は変わりますが、

自分の最愛の人が、癌になってしまったら・・・・

本人に言うべきか、言わざるべきか、迷うかもしれません。

黙っている、という選択肢もあるでしょう。

他にも、世の中には、本人に言わない方がいいこともあります。

知らない方が本人のためになる場合があるからです。

しかし、お釣りを多くもらったら・・・・

やはり、正直に申告しなければなりません。

言わないと、「詐欺罪」なのですから。

「あなたには成功しなければならないという義務はない。ただ、自分自身に対して誠実でなければならないという義務があるだけだ。あなたが最善を尽くしたいと思うことに、全力投入しなさい。そうすれば魂の奥深くで自分が世界一の成功者であることを知るだろう」
(オグ・マンディーノ/アメリカの作家)

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