慰謝料 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
  • 幼稚園児の死亡事故で園長に有罪判決:業務上過失致死傷罪

    2016年05月31日

    幼稚園での事故により園児が死亡した事件で、園長に有罪判決が出たようです。

    今回は、学校事故と刑事事件について解説します。

    「元幼稚園長のみ有罪、愛媛 川遊び事故死判決、2人無罪」(2016年5月30日 共同通信)

    2012年、愛媛県西条市で宿泊保育中に川遊びをしていた私立幼稚園の園児らが流され、当時5歳の男の子が死亡、2人がケガをした事故について、業務上過失致死傷の罪に問われた当時の園長や教諭ら3人の判決がありました。

    松山地裁は、当時の園長(75歳)にのみ罰金50万円(求刑罰金100万円)の判決を言い渡し、共に起訴された教諭ら2人は無罪(いずれも求刑罰金50万円)としたとのことです。

    裁判長は判決理由の中で、「上流の天候を確認せず、遊泳場所の増水の危険性がないと判断したのは園長として安易な態度だった」と指摘したということです。

    では、条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第211条(業務上過失致死傷等)
    1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

    今回は、宿泊保育中だということですので、園長は業務中という認定をされています。

    そして、園児に川遊びをさせる際には、川に流されてしまう可能性があるわけですから、自らあるいは教諭をして、常時看視し、監督しなければならないことになります。

    この注意義務を怠った場合には、業務上必要な注意を怠った、ということで、業務上過失致死傷罪が成立する可能性があります。

    教諭2人は無罪が言い渡されていますが、この理由は明らかにはなっていません。
    学校における子供の事故については以前にも解説しています。

    詳しい解説はこちら⇒
    「学校での柔道事故で8150万賠償命令【国家賠償法】」
    https://taniharamakoto.com/archives/2031

    「学校での人間ピラミッドや組み体操事故の法的責任は?」
    https://taniharamakoto.com/archives/2062

    学校(保育所)の管理下における子供の事故、災害では、被害者や親は学校に損害賠償請求することができます。

    この場合、公立校であれば国家賠償法、私立校ならば民法715条が適用されます。

    ちなみに、学校(保育所)の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中などが該当します。

    今回も、幼稚園、園長、教諭などに対しては、刑罰の他、民事の損害賠償請求ができる可能性があります。
    子供たちが傷つかず、安全に学校(保育所)生活が送れるよう、運営者を含めた関係者には今一度、注意義務の徹底を図ってほしいと思います。

    学校事故のご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • ベッキーさん事件は、不正アクセス禁止法違反か?

    2016年01月29日

    タレントのベッキーさんの不倫騒動、まだまだ止む気配がありませんね。

    【情報漏洩した人が問われる罪とは?】
    今回の騒動、巷やネットでは

    LINEでのやり取りが、どうして流出したのか?
    誰が情報を漏らしたのか?
    その流出方法は?

    ということも話題になっているようです。

    情報提供者は、週刊誌では「音楽関係者」、ネット上ではベッキーさんの不倫相手のミュージシャンの妻など、さまざまな噂が飛び交っていますが、誰であるにせよ、個人情報を流出させた人は

    「不倫アクセス禁止法」

    ではなくて、

    「不正アクセス禁止法」

    違反に問われる可能性があります。

    不正アクセス禁止法は、正式名称を「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」といい、2000(平成12)年2月13日に施行されました。

    同法は、インターネットなどのネットワーク上での通信における不正アクセス行為を禁止し、高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的としています。

    ところで、「不正アクセス行為」とは、どのような行為をいうのでしょうか?

    許可なく他人のIDとパスワードを使ってインターネットを通じて、LINEやFacebook、Twitterなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やメールシステムなどにアクセスすると…

    これは、明らかに不正アクセス行為であり、犯罪になります。

    「不正アクセス禁止法」

    第3条(不正アクセス行為の禁止)
    何人も、不正アクセス行為をしてはならない。

    これに違反した場合は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。(第11条)

    また、不正アクセスするために他人のIDやパスワードを取得すると…

    これも、不正アクセス禁止法に抵触します。

    第4条(他人の識別符号を不正に取得する行為の禁止)
    何人も、不正アクセス行為の用に供する目的で、アクセス制御機能に係る他人の識別符号を取得してはならない。

    これに違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金、となります。(第12条1号)

    では、配偶者や恋人、友人などのパソコンやスマホなどを操作して、すでにダウンロードされているメールやプライベートな画像などを「盗み見」すると…

    これは不正アクセス行為とはなりません。

    また、iTunesなどを使ってスマホの情報を直接スマホからパソコンにバックアップするだけでは、不正アクセス行為にはなりません。

    しかし、クローンiPhoneを作って、改めてlineにアクセスし、トークをダウンロードすると、不正アクセス行為となります。

    どこが違うのでしょうか?

    この違いを知るには、「不正アクセス行為」とは何か、を知らなければなりません。

    条文を見てみましょう。

    第2条(定義)
    4.この法律において「不正アクセス行為」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

    一 アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為

     

    つまり、パソコンやスマホなどの「機械」を操作することを禁じているのではなく、インターネットなどの「電気通信回線」を通じて情報を送信するような行為を禁じているわけです。

    条文に、「識別符号(ID、パスワード)を入力して」とありますが、ここでいう「入力」とは物理的入力ではなく、電気通信回線を通じて対象となる特定電子計算機(パソコンやスマホ等)に識別符号を「送信」してアクセスすることを意味します。

    したがって、必ずしも自分の手でパスワードを入力する必要はなく、外部端末から相手のパソコンに接続したり、スマホのLINEを起動させてやり取りをダウンロードしたり、という行為も「送信」に当たり得るため、不正アクセス行為になる可能性があるのです。

    浮気を疑って、相手のメールをチェックする人がいるようですが、メールを盗み見るだけでは不正アクセス禁止法違反にはなりませんが、「メーラー」の「送受信」を押して新しいメールをダウンロードする行為は、不正アクセス禁止法違反になるのです。

    今回の騒動では、どのように情報が流出したのか、その手口も話題になっていますが、法的な観点から見ると、インターネットなど通信回線を通じて他人のコンピュータに不正に接続する行為が罰せられるわけです。

     

    【民事裁判では損害賠償請求が飛び交う事態に発展!?】
    また、民事裁判では、ベッキーさんと相手のミュージシャンは、個人情報を流出させた人に対して「プライバシーの侵害」で慰謝料など損害賠償請求することができる可能性があります。
    さらに、2人の関係が不倫であった場合、ミュージシャンの妻はベッキーさんに対して慰謝料請求することができます。

    さらに、ミュージシャンの妻は、夫に対して離婚請求や慰謝料請求などをすることができるでしょう。

    そうした不貞行為は、「民法」第770条(裁判上の離婚)の1により離婚の原因として認められます。

    第770条(裁判上の離婚)
    1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
    一 配偶者に不貞な行為があったとき。

    詳しい解説はこちら⇒「不倫相手にいくら慰謝料請求できるか?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1666
    まだ真実は明らかになっておりませんが、ベッキーさんの芸能活動にはかなりの打撃になることは間違いありません。

    自分の行動には、全ての場合に、その行動の結果としての責任がつきまといます。

    常に、自分の行動がどのような結果を招くのかを予想しておくことが必要ですね。

  • 関越道スキーツアーバス事故の補償・賠償・罰則は?

    2016年01月16日

    ツアーバス(スキーバス)事故がありました。

    死者14名、負傷者27名という大惨事です。

    事件は、2016年1月15日午前2時ごろ、長野県軽井沢町の国道18号の碓氷バイパス入山峠付近で起こりました。

    スキー客を乗せたツアーバスが、対向車線にはみ出して反対車線側にあるガードレールを突き破り、約3メートル下の斜面に転落しました。

    警察は、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷罪)の疑いで捜査しているということです。

    つまり、自動車を運転する際に、過失によって人の死傷という結果を起こしたということです。

    この過失運転致死傷罪が適用された場合の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

    何人死亡しようとも、これが上限となります。

    ここには批判もあるところです。

    ただ、今回は運転手が死亡しているところから、バス運行会社の責任はないのか、という議論が出てくると思います。

    まだ原因は究明されていませんが、仮に、運転手が過労状態であったのに、運転させていた、というような場合には、バスの運行会社にも刑事責任が発生する場合があります。

    道路交通法117条の2第5号は、過労運転で正常な運転ができない状態で運転を命じた場合(過労運転下命)には、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科す、としています。

    過去の事例では、高速道路で仮眠状態のトラックが渋滞で停車中の自動車に追突し、6名の死傷者が出た事件で、この罪の問われ、営業所長に懲役2年執行猶予4年、運行管理者に懲役1年執行猶予3年の刑罰が科せられた事件がありました(大阪地裁平成26年3月19日判決)。

    そして、このとき、運送会社も労働基準法違反(36協定以上の長時間労働)に問われ、罰金50万円が科せられています。

    今回は、まだ捜査中ですが、このような可能性もある、ということです。

    また、国交省も調査をしていると思いますので、バス運行会社には、しかるべき行政処分が発せられる可能性もあります。

    さらに、今回の事故の被害にあった被害者およびご遺族は、今回の事故に責任がある者に対し、民事の損害賠償請求をしてゆく権利があります。

    損害賠償の対象となる可能性があるのは、運転手の遺族、バス運行会社、バス運行会社の役員、ツアー会社等です。

    たとえば20歳の男子大学生の場合には、賠償金は概算8000万円くらいにはなるので、今回の全ての賠償金総額は、相当の金額になるでしょう。

    バス運行会社が無制限の任意保険に入っていればよいのですが、入っていない場合には大変なことになってしまいます。

    徹底した原因究明を望むとともに、バス運行会社の業界全体も、運行管理について改めて見直す契機になって欲しいと思います。

    交通事故の相談は、こちらから。
    http://www.jiko-sos.jp/

  • 学校での柔道事故で8150万賠償命令【国家賠償法】

    2015年10月01日

    オリンピックの競技にもなっている柔道は日本で生まれた武道であることは、みなさんもご存知でしょう。

    歴史を紐解けば、そもそもは12世紀以降に武士たちの合戦で用いられた武芸の中から江戸時代に「柔術」として発展。
    時は下り、明治期に学習院の講師だった嘉納治五郎が各技を整理、体系化して「柔道」と名付け、1882(明治15)年に講道館を創設。
    その後、競技としての柔道が普及していったようです。

    学校教育に導入されたのは、1950(昭和25)年からで、現在では全国の中学校で必修、高校の多くでも必修科目となっており、部活動も盛んに行われています。
    しかし、柔道による生徒の事故が後を絶たないという問題も指摘されています。

    今回は、子供を持つ親が心配な学校での事故に関する損害賠償問題について解説します。

    「柔道練習で後遺症、学校側に8150万賠償命令」(2015年8月20日 読売新聞)

    2009年、広島県尾道市の私立尾道高校で、柔道部の練習中に頭を打ち、高次脳機能障害などの重い後遺症が残ったとして当時1年の男性(21)と両親が同校を運営する尾道学園に計約1億4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決がありました。

    裁判官は、「事故を防ぐための適切な措置を講じる義務に違反した」として、同学園に計約8150万円の支払いを命じたようです。

    判決によると、男性は2009年4月に入部。
    翌年5月の練習中に乱取りをしていて、頭を畳に強打。
    急性硬膜下血腫などで、記憶障害や言語障害などの高次脳機能障害や視野狭窄が残ったということです。
    【学校での子供の死傷事故では給付金が支払われる】
    学校(保育所)の管理下における子供の事故、災害では、通常の場合、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    ここで重要なのは、「学校(保育所)の管理下」ということです。
    授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中は、学校の管理下になります。

    しかし、この災害共済給付金だけでは損害賠償金額をすべて賄えないことが多いものです。
    その場合、被害者や親は誰に請求すればいいのでしょうか?
    【学校には代理監督者責任と使用者責任がある】
    被害者や親は、学校に損害賠償請求することができます。

    なぜなら、法律的には、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、「代理監督者責任の義務」があるからです。

    また、教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

    その場合、公立校であれば国家賠償法、私立校ならば民法715条が適用されます。

    「国家賠償法」
    第1条
    1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
    「民法」
    第715条(使用者等の責任)
    1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    なお、損害賠償請求に関しては第709条が適用されます。

    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
    【柔道では脳への重度の障害が残る事故が多いという事実】
    日本スポーツ振興センターにおける災害共済給付のデータによると、平成10~21年度の集計では、中学・高校での体育の授業、および運動部活動における死亡・重度の障害事故の発生件数は以下のようになっています。

    「中学・高校での体育の授業における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・陸上競技/87人
    ・水泳/24人
    ・バスケットボール/17人
    ・サッカー/16人
    ・器械体操等/10人
    ・柔道/9人
    ・バレーボール/8人
    「中学・高校での運動部活動における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・柔道/50人
    ・野球/35人
    ・バスケットボール/33人
    ・ラグビー/31人
    ・サッカー/26人
    ・陸上競技/19人
    ・バレーボール/14人
    ・テニス/14人
    柔道の体育の授業での安全管理については一定の成果が出ているようですが、部活動での死傷事故の件数はもっとも多くなっています。

    特に柔道の場合、受け身が上手くできなかったことによる頭部や頸部へのケガが多く、一生涯介護を要するような重度の後遺症を負うこともあります。

    交通事故の被害者の場合でもそうですが、頭部の場合、外傷はなくても激しく揺さぶられることで内部の脳自体への損傷や出血が起きることがあります。
    そうした場合、重篤な障害が残るというケースが多いのです。

    もちろん、柔道を悪者にするわけではありませんが、やはり武術ですから相応の危険性があるのは当然でしょう。
    今後、国には、学校でのスポーツによる子供の事故例の分析、原因の究明、予防対策等をしっかりお願いしたいと思います。

    また、運動会や体育祭の組み体操でピラミッドが崩れ、生徒が重軽傷を負う事故も起こっています。
    学校側は十分な注意が必要です。

    関連記事 http://news.yahoo.co.jp/pickup/6176079

    なお、あってはならないことですが、万が一の事故の場合の損害賠償請求では専門的な知識が必要となりますので、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    ご相談はこちらから⇒http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • セクハラで3,000万円の賠償請求!?

    2014年12月28日

    最近、セクハラに対する社会的非難が高まっています。

    セクハラをした役員や社員を処分するのは当然ですが、会社がセクハラに対する対応を間違った場合、大変なことになってしまいます。

    今回ご紹介するのは、会社役員の女性支店長2名に対する「セクハラ」行為により、会社が3,000万円を超える賠償義務を負うことになった事例です。

    事実はこうです。Y会社の専務取締役Yが、女性支店長ミー(仮名)を上司の立場を利用して呼びだした上で異性と付き合っているのかを問いただし、それを否定すると「それならいいんだ。前にも言ったけど、商品みたいで言い方は悪いが、君は僕の芸術なんだよ。」といいま
    した。

    さらにYは、付き合っていることを疑っていた社員に直接電話をして「君とミーが付き合っていると聞いたが本当か。システム室から聞いているぞ。本当ならやめてくれ。」などの行動に出ました。

    また、Yは、別の日にミーを電話で呼びだし、他の社員がいないところで後継者の地位をちらつかせながら、「君は僕のことが好きだろう。後継者になるということイコール男女関係があるのは当たり前だ。」などといって肉体関係を持つように求めました。

    その後、ミーが別の日に専務Yに対して、先日肉体関係を迫ったことの理由を尋ねると、「君は独身だから性的欲求は解消されていないと思ったからだ。」「最後にお願いがあるんだ。もう気持ちを表に現さない。だから最後にキスさせてくれ。」などと言って、接吻を迫りました。

    そこで、ミーが会社に対してYのセクハラ行為を訴えたところ、Yは自己保身のために、セクハラ行為を否定するだけでなく、他の社員に対してミーが淫乱であるなどと繰り返し述べて、職場環境を悪化させ、ミーの職場復帰を不可能なものにしました。

    さらに同時期にYは、Yがミーと肉体関係を持つために、ミーと親しい女性支店長ケイ(仮名)に対しても上司の立場を利用して、車で迎えに来るように命じ、車の中でミーのことを監視することにした旨を述べるともに、ケイがミーに対し、「専務のことが好きなんでしょ。抱かれれば。」などとYがミー肉体関係を持てるように協力するよう要請しました。

    ケイがこれを拒絶し会社に対してセクハラ行為を訴えると、Yは、自己のセクハラを否定するだけでなく、他の社員に対して、ケイが「不倫をして仕事をとっている」「あいつは淫乱だ」などと言ったりして、職場環境を悪化させ、ケイの職場復帰も不可能なものにしました。

    裁判所は、このYのミー及びケイに対する行為を不法行為であると認定し、これらの行為が会社の内部で、会社の専務取締役という立場で行われていたことから、会社にも賠償義務(使用者責任)があると認定されました。

    会社は、ミーとケイがセクハラ行為による被害を訴えたことによって会社を混乱させたとして減給処分としていたことから、それまで支払われていた給与と減給後の給与の差額について支払いを命じられたほか、Yのセクハラ行為がなければあと1年間は働けたとして、1年分の給与についても支払いを命じられました。

    結局、会社は、2人に対し、3,000万円を超える支払いを命じられることになったのです。

    皆さん、いかがだったでしょうか。

    一人の専務取締役の軽率なセクハラ行為により、会社が3,000万円を超える賠償義務を負うこととなったのです。

    このようなセクハラ行為が社内で起こらないようにするには、専門家とともに、普段からの社員教育や相談窓口の設置、セクハラがあったときの懲戒制度(就業規則への明記)などのセクハラ防止の社内体制づくりを早急にしなければいけません。

    また、セクハラが発覚した後の事後対応も重要です。

    今回も対応を間違ってしまったところに、多額の賠償金が科せられた原因があります。

    そうしないと、知らないところで3,000万円を超える賠償義務を突然負って、倒産の危機に陥る可能性があることをご理解いただけたと思います。
    みらい総合法律事務所では、セクハラ防止のための研修・社内制度の確立・社員からの通報窓口などをお受けしております。

    また、労働トラブルでお悩みの経営者様の相談を承ります。

    相談は、こちらから。
    http://roudou-sos.jp/

  • 不倫で訴えられたら?

    2014年12月22日

    ★不倫の損害賠償を請求されたら?

    世の中、不倫の話をよく聞きます。

    不倫をする人は、相手の配偶者から損害賠償請求をされることをご存じなのでしょうか?

    相手の配偶者から内証証明郵便が来た段階で、ご相談にいらっしゃいます。

    言い分は色々あるでしょうが、訴えられた人の戦い方にはパターンがあります。

    不倫による損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。

    要件は、

    ・故意または過失があること
    ・相手に損害があること
    ・違法性があること
    ・行為と損害との間に因果関係があること

    などです。

    そこで、この要件を切り崩してゆけるかどうか、検討することになります。

    【故意または過失がないこと】

    これは、

    「結婚しているとはしらなかった」
    「婚姻関係が完全に破綻していると聞いていた」

    などと言うものです。不倫していた人が騙されたような場合ですね。

    そう信じたことに過失がない場合で、主観面を重視しますが、客観的に立証しなければなりません。
    【相手に損害がないこと】

    これは、不倫相手の夫婦間の婚姻関係が破綻しているため、相手に精神的損害がない、と主張するものです。

    客観面を重視します。

    大きくは、上記2つで対応することになります。

    証拠が命です。

    上記戦略が取れないときは、なんとか和解で解決するよう交渉することになります。

    逆に、不倫をされた配偶者の方が損害賠償する時も、上記2つの主張をされないよう、証拠を固めておく必要があります。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 既婚男性との別れ~慰謝料請求するか、されるか!?

    2014年12月21日

    11月に亡くなった俳優の高倉健さんの代表作のひとつ、映画『駅 STATION』(1981年)に、こんなシーンがあります。

    暮れも押し迫った12月30日、帰省のために降り立った北の町のある居酒屋に、健さん演じる英次がふらりと立ち寄ります。
    明るさの中にも、不幸の影を持つ女将を演じるのは倍賞千恵子さん。

    2人で熱燗を飲みながら、倍賞さん演じる桐子がこんなことを言います。
    「水商売やってる子にはね、暮れから正月にかけて自殺する子が多いの。なぜだかわかる? 男が家庭に帰るからよ。どんな遊び人の男でも、正月くらいは自分の家にいる。そんなとき、独り身の寂しさをしみじみ感じるのよ」

    脚本は、ドラマ『北の国から』で有名な倉本聰さん。
    実際のところは分かりませんが、倉本さんが札幌の飲み屋でホステスから聞いた話を元にしたそうです。

    古今東西、男と女の問題は後を絶ちません。

    今回は、別れ話をしてきた男性への慰謝料請求のご相談です。

    Q)妻子のあることをわかっていて、ある男性を好きになり、4年間いっしょに暮らしました。「妻とは離婚するから、結婚しよう」と言われ信じていたのですが、私が妊娠すると手のひらを返したように別れ話を切り出してきました。慰謝料の請求をしたいのですが可能でしょうか?

    A)ただ、つき合っていたというだけでは慰謝料請求は認められません。

    反対に、男性の妻から、不貞行為を理由とする慰謝料請求をされる可能性があります。

    しかし、事実婚(内縁関係)として長期にわたり同棲していた、妊娠したということなので、男性に対して「不法行為」や「貞操侵害」を理由とした慰謝料請求が認められる可能性があります。
    【事実婚とは】
    法が定める婚姻届の手続きをしていないため入籍はしていないが、長期間の同棲など事実上の夫婦と変わりない生活を送っていることを事実婚といいます。
    また、内縁関係ともいいます。

    法律的には、内縁関係は「婚姻に準ずる関係」として保護されています。
    しかし、正式な夫婦に認められるものでも保護されないものもあります。

    たとえば、財産などの相続権は認められませんし、子供を嫡出子として届け出ることもできません。

    ちなみに、同棲は一時的な男女の共同生活に過ぎないとみなされることから、内縁関係のような権利義務は発生しません。

    また、原則、内縁で夫婦関係を結んでいたとしても、男性に妻子があることを女性が知っていた場合は「不倫関係」となり、女性の貞操侵害を理由とした慰謝料請求は認められません。

    ただし、男性の違法性が著しく大きい場合には認められるケースがあります。
    【判例】
    妻子のある上司の男性が、19歳の異性経験のない女性につけこみ、嘘をついて肉体関係を持ち、妻とは離婚して女性と結婚すると言って妊娠させ、出産後に一方的に別れた事案。
    最高裁は、男性側の違法性が著しく大きい場合は、女性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求は認められる、とした。
    (最高裁判決 昭和44年9月26日 判例時報573-60)
    27歳の男性が、妻子がいるにもかかわらず19歳の女性に対し「妻とは別れる」と言い妊娠させ、いっしょに暮らし始めたものの子供が生まれた後、別れた事案。
    女性は男性に対し、2,000万円以上の慰謝料を請求したところ、裁判所は男性が与えた精神的は苦痛大きいとしたものの、女性は男性に妻子があることを交際したのであって、女性にも責任があることは否定できない、として300万円の慰謝料を認めた。
    (京都地裁判決 平成4年10月27日 判例タイムズ804号156頁)

    今回の相談者の場合も、まず相手との示談交渉を行い、合意に至らない場合は、裁判をするという手続きになるでしょう。

    当事者同士の話し合いがまとまらない、または手続きが難しいようであれば弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

    「20歳の顔は自然から授かったもの。
    30歳の顔は自分の生き様。
    だけど50歳の顔には、あなたの価値がにじみ出る」
    (ココ・シャネル/フランスのファッションデザイナー)

  • 妻が離婚でもらえる財産分与とは?

    2014年11月19日

    厚生労働省が発表している、「平成25年(2013)人口動態統計の年間推計」によると、平成25年の離婚件数は約23万1000件で平成24年の約23万5000件から減少しています。

    それでも、単純計算で1日に約633件も離婚していることになります。
    なんと、2分17秒に1件の割合です!

    この瞬間にも、日本のどこかで誰かが離婚しているようですね……。

    離婚に至るプロセスは人それぞれでしょうが、女性が決断を躊躇する理由のひとつに金銭面の不安があるでしょう。

    今回は、離婚したいけれど将来が不安だという、ある女性からの相談です。

    質問

    夫との離婚を真剣に考えています。といっても最近のことではないのです。もう、ずいぶん前から夫への愛情はなく、離婚したかったのですが私は専業主婦で働いた経験もほとんどなく、一人で生きていくことは、やはり大きな不安があったからです。ところが先日、古い知り合いと再会した折に彼女が離婚したことを知りました。彼女の話では、財産分与でまとまったお金をもらえたから決断したというのですが、財産分与とはどういうものなのでしょうか? 今後のために、ぜひ教えていただきたいのです。

    回答

    夫婦が離婚した場合、妻が夫から受け取ることができるものには「財産分与」「慰謝料」「年金分割」などがあります。

    財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して得た財産を離婚する際、または離婚後に分けることです。

    重要なポイントは、共有財産がどのくらいあり、それをどのような割合で分けるのかになります。
    これらは、一般的には2分の1ずつの割合で分けられることが多く、夫婦協議の上で決定されますが、合意に至らない場合は家庭裁判所に調停を申立てることができます。
    ただし、申立てできるのは離婚後2年以内です。

    通常は、離婚調停の中で財産分与額の話し合いも行われます。

    財産分与だけの調停の場合、調停でも話し合いがまとまらない場合は、自動的に審判手続が開始され、裁判官が必要な審理を行った上で審判をすることになります。

    財産分与

    協議上の離婚をした夫婦の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができます。(「民法」第768条1項)

    財産分与できるのは、夫婦の共有名義の財産のほか、婚姻中に夫婦協力のもとで取得した財産で夫婦どちらかの名義になっているものも対象になります。
    主なものに、預貯金、株、土地や住宅などの不動産、保険解約返戻金、退職金、自動車、家財などが挙げられます。

    一方、婚姻前からの財産(預金など)や、相続などで婚姻後に得た財産は財産分与の対象にはなりません。
    また、住宅ローンなどの負債も共有財産となりますが、プラス財産よりマイナス財産が大きい場合は財産分与の対象にはならないようになっています。

    なお、財産分与は相手に離婚の原因がない場合でも請求できますし、離婚の原因を作ってしまった側からも請求できます。

    ちなみに、2006年の「司法統計年報3家事編」(最高裁判所事務局編)によると、財産分与額は400万円以下が54.8%、総額決まらず算定不能が18.0%、支払者は夫が86.8%、妻が13.2%となっています。

    慰謝料

    相手の不貞行為や暴力が原因で「精神的苦痛」を受けた場合、慰謝料請求することができます。

    慰謝料については以前、解説しました。

    「不倫相手にいくら慰謝料請求できるか?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1666

    離婚の原因が、性格の不一致や価値観の違いでは慰謝料は認められないと考えておいたほうがいいでしょう。
    また、慰謝料というと大きな金額を想像する方もいると思いますが、現実的には離婚裁判で認められる金額は、150~300万円くらいがほとんどです。

    野球選手とか芸能人は、箔をつけるために慰謝料額を高額にしている、と言えなくもありません。

    年金分割

    年金分割制度は、婚姻期間中に払い込んだ保険料の総額を、多いほうの夫から少ないほうの妻へ分割するものです。
    ただし、注意点があります。

    〇分割できるのは、会社員の厚生年金と公務員共済年金のみで、国民年金や厚生年金基金、国民年金基金の部分は分割できません。
    そのため、夫が自営業者や農業従事者の場合は、この制度は適用されません。
    〇婚姻前の期間は含まれません。
    〇将来、夫が受け取る予定の年金金額の半分を受け取れるわけではなく、納付実績の期間の分割を受けるというものです。
    〇請求期限は2年以内です。

    年金分割は、夫婦協議の上で決定しますが、合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停を申立てることができます。
    調停でも合意に達しない場合は、審判に移行します。

    婚姻費用分担請求

    別居中、または離婚の話し合い中はまだ夫婦であるため、この期間の生活費を「婚姻費用分担請求」して支払ってもらうことができます。
    これは、夫婦には生活費など「婚姻費用」の分担義務があるからです。

    婚姻費用には、生活費や居住費、子供の生活費、学費などが含まれます。

    金額は夫婦協議の上で決定しますが、合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停を申立てることができます。
    裁判所は、「婚姻費用算定表」から金額を算定します。
    特に熟年世代や専業主婦の方の場合、離婚後の生活費の問題は重要ですから、まずは、共有財産がどのくらいあるのか事前に調べてまとめておくことをおすすめします。

    また、夫婦の話し合いは当事者同士の場合、上手くまとまらないことも多いので、難しいようであれば弁護士などの専門家に依頼するのもいいでしょう。

    「ずいぶん敵を持ったけど、妻よ、お前のようなやつははじめてだ」
    (ジョージ・ゴードン・バイロン/イギリスの詩人)

     

  • 不倫相手にいくら慰謝料請求できるか?

    2014年10月16日

    弁護士をしていると、離婚や男女問題の相談を受けることがよくあります。
    そうした相談の中でも多いもののひとつに「慰謝料請求」があります。

    今回は、旦那さんの不倫に静かな怒りの炎を燃やすアラフォーの奥様からの相談です。

    Q)旦那が不倫をしています。相手は私より15歳若い会社の部下です。私は絶対に離婚しませんし、絶対に許しません。知人の離婚経験者から聞いたのですが、旦那の不倫相手から慰謝料を取ることができるんですか? そのためには裁判をしなければダメですか? もし裁判になったら、何が必要ですか? 現在、私は38歳、夫は43歳で結婚生活10年目、8歳と5歳の娘がいます。

    A)配偶者(相談者)がいることを知りながら、上司(相談者の夫)と不倫関係を持った相手の女性は、配偶者に対して不法行為責任を負います。
    よって、相談者は夫の不倫相手の女性に対して慰謝料請求することができます。
    【慰謝料とは】
    夫婦のどちらか一方が、他人と不貞行為(浮気や不倫など)を行った場合、貞操義務に違反する行為=不法行為となります。

    そうした不貞行為は、「民法」第770条(裁判上の離婚)の1により離婚の原因として認められます。

    そのため、不貞を働いた夫や妻に対して一方の配偶者は離婚を請求することができますし、「精神的苦痛」に対する損害賠償請求(慰謝料請求)をすることもできます。

    また、夫婦の一方と情交関係を結んだ者は、その残った方に対して共同で不法行為をしたことになり、不法行為責任を負うことになるため損害賠償の義務が生じます。(判例:最高裁判決 昭和34年11月26日 民集第13巻12号1562頁)

    これらの場合の損害賠償とは、不貞行為による「精神的苦痛」に対するものなので「慰謝料」となります。
    【慰謝料の算定】
    慰謝料を算定する際、以下のような事情を考慮して決定されます。
    ・被害者の社会的地位
    ・被害者の職業
    ・被害者の年齢
    ・婚姻期間
    ・子供の有無
    ・浮気の原因
    ・浮気の状況
    ・浮気の期間
    ・その結果、離婚したかどうか
    【裁判例の紹介】
    (その1)
    原告である妻X(55)は、夫である医師A(60)と結婚して35年。子供3人は全員が成人して独立していた。Aは自分の病院の看護師Yと不倫関係を始めたが、妻Xに見つかり、Yに手切れ金を渡して解雇して別れた。しかし、しばらくしてAとYの不倫関係が復活。Yが自殺未遂するなどした挙句、AとYは同棲を始めた。そのため、妻XはYに対して慰謝料約500万円を請求して裁判を起こした。裁判所は、XにもAとの夫婦生活を正常に戻す努力が足りなかったとして、Yに対しXへ慰謝料300万円の支払いを命じた。
    (高知地裁判決 昭和50年11月14日)
    (その2)
    妻である原告Xは、勤務していたデパートの同僚だった夫Aと結婚。2人の子供がいた。結婚4年目で、夫Aは会社の部下であるYと不倫関係を結んだ。期間は約半年間続いていた。そこで、XはYに対して慰謝料500万円の損害請求をした。裁判所は(1)夫Aが部下Yとの不倫関係を主導したこと、(2)不倫関係は清算済みで、関係解消という目的は達せられていたこと、(3)離婚には至らず、結婚生活を続けていること、(4)Yは勤務先を退職。一定の社会的制裁を受けていること、などから慰謝料は50万円に減額された。
    (東京地裁判決 平成4年12月10日)
    前述の事情などから慰謝料は決められますが、判例からもわかるように、その金額は一概には言えずケース・バイ・ケースです。

    現実的には、まず相談者は夫の不倫相手に損害賠償の内容証明郵便を送ることになります。

    その後、金額面で双方合意に至らなければ訴訟を起こし裁判となりますが、手続きなど煩雑で難しいため、弁護士に相談されるのがよいと思います。

    不倫は、つねに損害賠償の危険にさらされているものです。
    そうしたリスクを考えて行動することも大切ですね。

    今回は、結婚に関する次の言葉を紹介してお別れです。

    「三週間互いに研究しあい、三ヵ月間愛し合い、三年間喧嘩をし、三十年間我慢しあう。そして子供達が同じことをまた始める」
    (イポリット・テーヌ/フランスの哲学者)

    「結婚式の行進曲の音楽は、いつも私には戦闘に向かう兵隊の行進曲を思わせる」(ハイネ)

     

  • 離婚の手続はどうする!?

    2014年10月10日

    アメリカの人気芸人で、アーサー・ゴッドフリー(1903-1983)という人がいました。

    彼の鉄板ネタに、こんなものがありました。

    「結婚するとき、私は女房を食べてしまいたいほど可愛いと思った。
    今考えると、あのとき食べておけばよかった」

    そして、ショーペンハウワーは、次のように言っています。

    「結婚するとは、彼の権利を半分にして、義務を2倍にすることである。」

    さて、

    今回は離婚に関するご相談です。

    Q) まったく、お恥ずかしい話なのですが、妻との離婚を考えています。
    3ヵ月ほど前、妻が突然「好きな人ができたから離婚したい」と言い出しました。初めは冗談かと思ったのですが、後から考えれば思い当たるふしもあり、彼女の気持ちは変わらないようです。私は、会社のこともあり、できれば離婚したくはないのですが……もう、昔に戻ることは難しいようです。何から、どのように進めていけばいいのか、離婚の手続きに関して教えてください。ちなみに子供はいません。

    A)①離婚することを夫と妻の双方が合意していていること。
    ②離婚届を役所に提出して受理されること。

    これで法的な離婚の手続きは完了です。

    ただし、男と女の問題はすんなりいかないことも多いものです。
    以下、法的に解説していきます。
    【離婚に関する規定】
    離婚については、「民法」第763条~第771条に規定されています。
    第763条(協議上の離婚)
    第764条(婚姻の規定の準用)
    第765条(離婚の届出の受理)
    第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
    第767条(離婚による復氏等)
    第768条(財産分与)
    第769条(離婚による復氏の際の権利の承継)
    第770条(裁判上の離婚)
    第771条(協議上の離婚の規定の準用)

    つまり、子供の親権や養育問題、夫婦の財産分与など離婚の際には問題になることが多いので、これらの規定があるともいえます。
    【離婚の種類】
    離婚の形態には次のようなものがあります。

    「協議離婚」
    夫婦の協議によって、お互いの意思の合意により成立する離婚。
    日本では、離婚の約90%が協議離婚だといわれます。

    「調停離婚」
    協議離婚がまとまらない場合、家庭裁判所に調停の申し立てをします。
    調停により離婚の合意が得られた場合を調停離婚といいます。
    全体の約9%が調停離婚だといわれます。

    「裁判離婚」
    調停でも双方の合意が得られない場合、最終手段として家庭裁判所に訴えを提起することができます。
    全体の約1%が裁判離婚とされます。
    【離婚の事由】
    ところで、裁判で離婚が成立するには「離婚事由」が必要です。

    「民法」
    第770条(裁判上の離婚)
    1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

    1 配偶者に不貞な行為があったとき。
    2 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
    3 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
    4 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

    不貞行為とは、浮気や不倫です。
    これらの事由がある場合、裁判による離婚が成立すると考えられます。
    【お金の問題】
    さて、相談者の場合、もしご本人も離婚を望むなら、双方合意の上で離婚届けを役所に提出すれば協議離婚が成立します。

    その際、子供がいないので親権やの問題は発生しませんが、お金の問題が発生することが考えられます。

    お金の問題には次のようなものがあります。
    〇財産分与
    〇慰謝料
    ○養育費
    〇年金分割
    〇婚姻費用
    「財産分与」
    結婚後に形成された夫婦の共有財産を、どのように分けるかということです。

    共有財産には、共有名義の財産だけでなく、夫婦が協力して取得した財産で夫婦どちらか一方の名義になっているものも含まれます。
    たとえば、預貯金、株、住宅などの不動産、自動車、家財などがあげられます。
    「慰謝料」
    相手の不貞行為や暴力などで「精神的苦痛」を受けた場合、その損害賠償として慰謝料を請求することができます。
    このように離婚することが双方の合意であっても、協議をして決めなければいけないことがたくさんあります。
    俗に、離婚は結婚の何倍もの労力がかかるといわれる所以です。

    夫と妻の双方で解決できない場合は、弁護士などのプロに相談することを選択肢に入れておくのもいいでしょう。

    「養育費」
    子供がいる場合には、親権者を定めることになりますが、子供を養育するにはお金がかかります。
    これを他方の元配偶者から補ってもらうのが養育費です。
    養育費の金額は、双方の収入や子供の人数などによって決定されることになります。

    「婚姻費用」
    離婚の話し合いを続ける中で、別居をすることが多いのですが、その期間、特に専業主婦だった妻などは収入がなく生活ができません。
    夫婦は相手の生活を自分と同じ程度で維持する義務があります。そこで、収入のある夫が妻の生活を維持するために支払われるのが婚姻費用です。

    「年金分割」
    離婚後に夫婦の年金を分割できるようになる制度のことです。

    離婚事件を扱っていると、当事者はものすごいエネルギーを要するようです。経験者によると、結婚の3倍はエネルギーを使う、ということでした。

    そんなことにならないようにしたいものですね。