学校での人間ピラミッドや組み体操事故の法的責任は? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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学校での人間ピラミッドや組み体操事故の法的責任は?

2015年10月02日

秋たけなわ。
全国各地の学校では運動会や体育祭が行われているでしょう。

そんな中、大阪の中学校の体育祭で、生徒が重軽傷を負うという事故が起きたようです。

学校での子供の重傷事故は、一体、誰の責任になるのでしょうか?
法的に解説します。

「体育祭“10段ピラミッド”崩れ6人重軽傷」(2015年10月1日日テレNEWS24)

大阪府八尾市の市立中学校で行われた体育祭で、組体操のピラミッドが崩れ、生徒6人が重軽傷を負いました。

事故が起きたのは9月27日。
1年生から3年生の男子生徒157人が参加した10段のピラミッドが崩れ、下から6段目の右端にいた1年生の男子生徒が右腕を骨折する重傷、5人が打撲するなどの軽傷とのことです。

生徒の1人の証言では、練習でも1度も成功したことがなかったようで、八尾市教育委員会は今後検証を行い、対策を検討するとしています。
「人間ピラミッド」は体育祭の大トリとして、成功すれば観客も生徒たちも大いに盛り上がるものです。
しかし、2012(平成24)年には全国の小・中学校で合わせて約6500件の組体操での事故が起きており、2013(平成25)年にはさらに増えて約8500件もの事故が起きているとことから、近年、その危険性が指摘され、問題となっていました。

ちなみに、10段の場合、高さは約7メートル、一番下にいる子供1人の背中には約200キロの重さがのしかかるそうですから、相当に危険な競技だと言わざるを得ないでしょう。

ところで、学校で起こった子供の重傷事故は誰の責任になるのかというと、それは当然、学校の責任となります。

以前にも解説しました。

詳しい解説はこちら⇒ 「学校での柔道事故で8150万賠償命令【国家賠償法】」
https://taniharamakoto.com/archives/2031

学校(保育所)の管理下における子供の事故、災害では、通常の場合、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

「学校(保育所)の管理下」とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中などです。

しかし、この災害共済給付金だけでは損害賠償金額をすべて賄えないことが多いため、さらに被害者や親は学校に損害賠償請求することができます。

その場合、公立校であれば国家賠償法、私立校ならば民法715条が適用されます。

「国家賠償法」
第1条
1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
「民法」
第715条(使用者等の責任)
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
法律上、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、「代理監督者責任の義務」があります。
そのため、教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになるのです。

過去にあった組体操による事故の訴訟では、ほとんどの場合で教員の責任が認められ学校側が敗訴しています。
「教員と学校は危険性に十分留意すべき」で、「事故を防ぐための適切な措置を講じる義務に違反した」と判断されるわけです。

十段もの人間ピラミッドをやれば、ピラミッドが崩れ、下にいる生徒の身体に危険が及ぶのは当然予想できます。

したがって、ピラミッドに参加させる生徒各自の体力、精神力、体調などを正確に把握し、その配置にも細心の注意を払う必要があります。

さらには、途中で事故が起こっても対処できるよう適切に教員を配置しておく必要もあります。

今回は、それらの義務を怠ったといえるでしょうから、学校の損害賠償責任が認められるのではないでしょうか。

ちなみに、1993(平成5)年、福岡地裁では学校の設置者に対して1億円超の損害賠償支払いの命令が出されています。
ある高校の授業で、8段の人間ピラミッドの練習中にピラミッドが崩れ、一番下にいた生徒が脊髄損傷などの障害を負った事故でした。

人間ピラミッドの中学校の最高記録は10段だそうですが、これだけ危険性が指摘され、実際に事故も起きているのですから、教育委員会や学校、教員、保護者は考えを変えて早急に対応するべきでしょう。

なお今回、事故が起きた八尾市の隣の大阪市では、9月1日に事故防止のため、ピラミッドの段数は5段まで、タワーの段数は3段までに制限することなどを正式に発表していました。
また、愛知県長久手市では3月、人間ピラミッドの段数を4段までに制限したようです。

スポーツの秋。
今年も全国で、組み体操を体育祭の種目として予定している学校があるでしょう。

しかし、事故が起きて痛く苦しい思いをするのは教員ではなく、子供たちであること、そして、生命の危険を冒してまで高さを競う必要はないということを、大人には今一度考えてほしいと思います。

学校事故の相談は、こちらから。

http://www.bengoshi-sos.com/school/