【昔話法律講座】金太郎 その3~仲間との別れ、そして旅立ち | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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【昔話法律講座】金太郎 その3~仲間との別れ、そして旅立ち

2018年01月21日

金太郎シリーズも、ついに最終回。

これまで数々の騒動を巻き起こし、さまざまな罪を犯してきた金太郎とゆかいな仲間たちに不穏な魔の手が忍び寄ります。
そして、金太郎は大きな人生のターニングポイントを迎えることになるのです。

彼らに忍び寄る魔の手の正体とは?
新たな犯罪が起きる可能性は?
さてさて、金太郎の運命やいかに!

「金太郎 その1・その2」を読んでいない方はこちらから⇒

金太郎その1~里に下りて大騒動

金太郎その2~山でマニアックな罪を犯す

「金太郎、仲間たちとの別れ、そして旅立ちの巻」

新しく仲間に加わったクマとともに、今日も金太郎とゆかいな仲間たちは山で楽しい時間を過ごしていました。

この日は金太郎がクマにまたがり、お馬のけいこです。

「クマくんの背中は毛がチクチクして嫌だなぁ…」

金太郎の言葉にカチンときたクマが言い返しました。
「だったら降りろや、こら!」

クマは突然立ち上がると、振り落とされた金太郎は、もんどりうって草むらの中に転げ落ちてしまいました。

「イタタタ…おしりをすりむいちゃったよ」
血のにじんだおしりをさすりながら金太郎がつぶやくと、草むらの中で怪しい物音がしました。
ハッとして見てみると、そこには怪しく光る2つの目が金太郎をジーッと見ていたのです。

「み、見えちゃった?」
思わず金太郎は頬を赤らめ、おしりに手を当てて尋ねました。

駆け寄ったウサギが言いました
「のぞきよ! 軽犯罪法違反よ!!勝手に入ってきて、住居侵入罪よ!!」

「い、いや…あのぉ…わしは怪しいものではござらぬ」
そう言いながら草むらから出てきたのは、立派なお侍でした。

「わしは碓井貞光というものだ。これから丹波の国の大江山に棲む酒呑童子という悪い鬼を退治に行くのだが、うちの親分の源頼光さまから仲間となる強い男を探してこいと言われてな、それで日本中を旅しているのだが…ごめん!!」

そういうと、お侍は、突然金太郎に殴りかかりました。

金太郎は、殴られないよう咄嗟に両手を前に出したところ、手がお侍の顔に当たって、お侍は後ろに倒れてしまいました。

お侍は、叫びました。
「何をする!暴行罪だ!」

見ていたウサギは言い返しました。
「違うわ。あなたの方から殴りかかったから、金太郎は『正当防衛』よ」

お侍は、金太郎に話しかけました。
「キミはなかなかの使い手だな。どうだ。うちの軍団に入らないか?」

「いやぁ、ここでの生活は楽しいし、鬼には興味ないし…僕はいいっす、遠慮するっす」
金太郎は、気だるそうに手を振りながら答えました。

しかし、お侍は続けました。
「仕方ない。このきび団子をやろう。犬、猿、雉も仲間にいるぞ」

「それ、『桃太郎』っす」

すると、お侍は、凄みを効かせて言いました。
「どうでもいい。キミが鬼退治に行かないなら、キミの母親がどうなるかわかっているのか!」

「うぐっ!」

ウサギは、つぶやきました。
「これ、強要罪じゃないかしら・・」

ともかく、そんな経緯で金太郎は、鬼退治に行くことになりました。

「金ちゃん、行っちゃうの?」
ウサギは泣きながら言いました。

金太郎は、ウサギの頭をやさしく撫でながら言いました。
「I’ll be back…」

おしまい

【法律メモ】

①のぞき行為は、軽犯罪法違反になる可能性があります。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

23.正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

しかし、今回は、山の中での出来事であり、「通常衣服をつけないでいるような場所」に該当しないので、犯罪不成立です。

詳しい解説はこちら⇒「のぞきと犯罪

②住居侵入罪

刑法
第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

しかし、今回は、山の中での出来事であり、「住居」に侵入したわけではないので、犯罪不成立です。

③金太郎がお侍を倒した行為は、正当防衛でしょうか?

まず、金太郎がお侍の顔に手を当てる行為は、暴行罪です。

しかし、事の発端は、お侍の方が金太郎に殴りかかったためです。

このような場合には、「正当防衛」が問題となります。

刑法第36条
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

今回、お侍が殴りかかった行為は、金太郎にとって「急迫不正の侵害」です。これに対して、金太郎は身を守るため、必要最小限の防衛行為をしたと評価できそうです。

したがって、正当防衛が成立し、無罪となる可能性が高いでしょう。

これに対し、金太郎がお侍の攻撃をよけて、お侍が戦闘意欲を失っているのに殴る蹴るの暴行を加えたりすると、「過剰防衛」となり、金太郎は罪に問われることになります。

④人を脅迫し、義務のないことを行なわせると強要罪になる可能性があります。

「刑法」
第223条(強要)
1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

詳しい解説はこちら⇒「強要罪と脅迫罪の違いとは?

⑤「I’ll be back…」
アーノルド・シュワルツネッガーが映画「ターミネーター」などで言う台詞であるが、一般的な表現のため、著作権は成立しない。