土下座強要がパワハラと認定された事例
今回は、土下座の強要がパワーハラスメント(パワハラ)に認定されたという報道について解説します。
この問題、じつはさまざまな争点をはらんでいる可能性があります。
「同僚への土下座強要はパワハラ 日本郵便に賠償命令」(2016年10月26日 西日本新聞)
2011年に福岡県内の郵便局員の男性(当時41歳)が突然死したことについて、原因は当時の郵便局長から受けたパワハラだとして、遺族が日本郵便に1億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が福岡高裁でありました。
判決によると、男性局員はうつ病で休職中の2011年12月に致死性不整脈で死亡。
同年の5月と10月には、局長から「いつ辞めてもらってもいいくらいだ」、「あんたが出てきたら皆に迷惑」などと言われたとしています。
これについては、2016年3月にあった1審の福岡地裁小倉支部判決と同様に、今回の福岡高裁もパワハラと認定。
1審判決では220万円の支払いを命じていましたが、今回の判決では330万円の支払いを命じました。
また、2011年6月に男性局員を含む複数の局員が参加した朝礼で、局長が別の局員を土下座させた行為についても、「その場にいたすべての職員に対する安全配慮義務に違反する」としてパワハラと認定しました。
一方、パワハラと死亡の因果関係については、一審判決と同様に今回も認めなかったということです。
【パワハラとは?】
パワハラについては、次のように定義されています。
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」
「上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」
(厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」より)
パワハラが成立するための要件としては次の3つがあげられます。
①それが同じ職場で働く者に対して行われたか
②職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に行われたものであるか
③業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与え、また職場環境を悪化させるものであるか
さらに、パワハラとなる行為としては次の6つがあります。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
パワハラが行われた場合、今回の事案のように民事裁判では、被害者は損害賠償を求めて訴訟を起こすことができます。
それは、会社には社員に対して「職場環境配慮義務」と「使用者責任」
があるからです。
職場環境配慮義務とは、従業員との間で交わした雇用契約に付随して、会社には職場環境を整える義務があるというものです。
社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。
使用者責任とは、ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた損害を賠償する責任があるというものです。
(民法第715条)
【パワハラと過労死の関係とは?】
労働者の業務中の負傷、疾病、障害、死亡を「労働災害」(労災)といいます。
また、通勤中でのケガ、病気などを「通勤災害」、業務中のものを「業務災害」ともいいます。
業務災害では、業務と労働者の負傷、疾病、障害、死亡との間に因果関係がある場合に労災と認められます。
その際には、2つの基準を中心に判断されます。
・業務遂行性=労働者が使用者の支配下にある状態
・業務起因性=業務に内在する危険性が現実化し、業務と死傷病の間に一定の因果関係があること。
業務災害のうち、病気によるものを「疾病災害」といい、近年増えている過労死は、長時間の過重労働等が起因となって、脳血管疾患や虚血性心疾患を発症して死に至るものとされています。
今回の事案では、パワハラはあったが、そのパワハラと突然死の因果関係について証明があったとまでは言えなかったということだと思われます。
【パワハラは刑事事件になる可能性もある?】
ところで、相手に土下座をさせると「強要罪」に問われる可能性もあります。
「刑法」
第223条(強要)
1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
相手に義務のない土下座などを行わせると民事だけでなく、刑事事件として強要罪で逮捕される可能性があるので、十分注意してほしいと思います。
職場でのパワハラでは、しばしば教育的指導と境界線が問題になることがありますが、今回の事案のように相手の自由を奪い、脅迫し、土下座を強要するなど、とても指導とはいえないでしょう。
人の上に立つリーダーや指導者の立場にある人は、相手に義務のない強要をしていないか、今一度、自分の言動を見つめ直してみるのもいいかもしれません。
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