選挙では金品をあげても、もらっても犯罪です【公職選挙法 買収及び利害誘導罪】 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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選挙では金品をあげても、もらっても犯罪です【公職選挙法 買収及び利害誘導罪】

2015年08月18日

民主主義においては、選挙は公正に行われなければいけません。
ところが、そうとは考えていない人たちがいるようです。

今回は、「政治」と「金」と「酒」、おまけに「法律」について解説します。

「村議が日本酒配る 公選法違反容疑で書類送検」(2015年8月11日 産経新聞)

有権者に日本酒を配ったとして、2015年4月の統一地方選で当選した新潟県弥彦村の村議(82)が、公選法違反(買収)容疑で新潟県警に書類送検されていたことがわかりました。

同県警によると、3~4月頃、投票を呼び掛けるために複数の有権者に一升瓶の日本酒を20本以上、配った疑いがあるようです。

村議は現在7期目で、4月の村議選(定数10)に無所属で出馬し、321票で最下位当選。
取材に対し、選挙活動の中で日本酒を配ったことを認め、「進退については捜査の結果が出てから考えたい」と話しているということです。
公職選挙法については以前にも解説しています。
詳しい解説はこちら⇒
「祭りへの寄附が問題に! 公職選挙法が定める規制とは?」
https://taniharamakoto.com/archives/1619

「公職選挙法では候補者等による寄附は禁止」
https://taniharamakoto.com/archives/1675

公職選挙法は、1950年に衆議院議員選挙法と参議院議員選挙法、そして地方自治法の選挙に関する条文を統合して制定されました。
内容は、国会議員や地方公共団体の議会の議員・首長など公職に関する定数や選挙方法などについて規定しています。

今回は買収の容疑です。
以下に、まとめます。

「公職選挙法」
第221条(買収及び利害誘導罪)
1.次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
一 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。
二 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対しその者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をしたとき。
三 投票をし若しくはしないこと、選挙運動をし若しくはやめたこと又はその周旋勧誘をしたことの報酬とする目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し第一号に掲げる行為をしたとき。
四 第一号若しくは前号の供与、供応接待を受け若しくは要求し、第一号若しくは前号の申込みを承諾し又は第二号の誘導に応じ若しくはこれを促したとき。
五 第一号から第三号までに掲げる行為をさせる目的をもつて選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付、交付の申込み若しくは約束をし又は選挙運動者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき。
六 前各号に掲げる行為に関し周旋又は勧誘をしたとき。
買収罪とは、選挙運動期間中かどうかに関係なく、選挙で当選することを目的に有権者や選挙運動員に対して金品を渡したりする行為をしたときに適用されます。

対象となるのは、お金以外にも以下のようなものがあります。
・食事や酒の提供
・金券(商品券等)の提供
・旅行や観劇などへの招待
・選挙運動員への法律に定める額を超えた報酬の支払い
・報酬を支給することができる運動員以外の人への金品等の提供

注意が必要なのは、金品や接待を受けた人や要求した人(被買収)も買収罪の対象となるということです。

公職の候補者や選挙運動の統括責任者、出納責任者が違反した場合は、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処されます。(第221条3項)

多数の選挙人(有権者)や選挙運動員に対して買収を行った場合は、五年以下の懲役又は禁錮に処されます。(第222条1項)

なお、「連座制」というものがあります。
これは、買収罪の刑に処せられた者が、連座裁判等により総括主宰者、出納責任者、地域主宰者、親族、秘書又は組織的選挙運動管理者等に当たることが確定した場合(親族、秘書及び組織的選挙運動管理者等については禁錮刑以上の場合のみ)、公職の候補者本人に連座制が適用され、当選無効や立候補制限が課せられるというものです。(第251条の2、3)
さて、ちょうど同時期に、お金による買収事件の報道もありました。
以下の事件です。

「尾花沢市前議長逮捕、買収などの疑い 県警と尾花沢署」(2015年8月13日 山形新聞)

山形県警捜査2課と尾花沢署は、2015年年7月12日に投開票された尾花沢市議選で有権者に現金を配ったとして、当選した同市議会前議長(70)を公選法違反(買収、事前運動)の疑いで逮捕しました

告示日前の6月ごろ、同市内で容疑者への投票や票の取りまとめなどの選挙運動に対する報酬として、有権者数人に現金計十数万円を渡した疑いで、現金以外にも、ギフトセットなどの物品を多数の有権者に対して配っていたようです。

同県警は受け取った側についても公選法違反(被買収)容疑で、任意で事情を聴いているということです。
公職選挙法は、公明、適正に選挙が行われ、民主政治の健全な発達のために制定されたのですが、残念ながら違反者が後を絶ちません。

酒は飲んでも飲まれるな、という言葉がありますが、飲む前にすでに自分の欲に飲まれて、お金や酒を受取った有権者にも問題があります。

選挙に関係して金品をあげた人だけでなく、もらった人も犯罪となる可能性があることに、十分注意してほしいと思います。